目的地の商店街はえらく薄暗かった。両側の店はほとんどシャッターが閉まっていて初めて来客した人は今日は定休日なのではと錯覚してしまうだろう。だがガランとした廃墟のような現状がいつも通りのサンタワー商店街なのだ。
蓮はミミズのような文字で描かれた地図で商店街の右端を歩いた。昨日ブースから蓮に向けて渡された。地図は威が書いたのだとブースは言った。
蓮はもうサンタワー商店街は何年も来ていないような気がするほど懐かしく感じた、いつ以来だろうか、そんな考えをしてる間に牛丼屋と焼肉屋のコッテリとした定食屋の間に存在する、電化製品を取り扱うムザンデンキという個人経営店に辿り着いた。
ムザン……経営するには少々縁起が悪いと思う。
蓮な大きく息を吸って吐いて呼吸を整えた。よし、と元気付けて店内に入った。
「いやぁーよく来てくれたね蓮さん、粗茶をどうぞ」
と威は笑顔で接するが目の下に隈があり着ている白衣は恐らく昨日と同じで髪もぴょんぴょんそこら中に跳ねていた。一体何があったのだろうか。
「あ、ありがとうございます……」
紙コップに入れられた粗茶をおどおどしながら飲み干した。
蓮はムザンデンキ店内の奥の昨日眠っていた時と同じ部屋のソファーに座っていた。
さっき店内に入るとアルが細い身体でまるでカカシのように立ち尽くしていた。あの少女は幽霊のように無口なオーラを放っておりどうやって声をかけるか悩んでいたが、向こうはこちらに気づきこの部屋に連れてこられたのが一連の流れなのだ。
「嬢ちゃん、こいつメッチャシワくちゃやろ。服だけじゃろなく身体までシワくちゃなってるわ、わしも人の事言えへんけどなーアイロンしないとあかんわー」
ブースの言ってるアイロンはその着ぐるみの上からするのかとふと言い出しそうになった。
「まぁそれもしゃーないわ、嬢ちゃん喜び。やっと嬢ちゃんのエナを抑制できる装置を開発したんや。徹夜した甲斐あるわ」
「え…………? それってもしかして……」
「そのもしかしてだよ!」
死んだ魚のような目に生気が戻ったようにウキウキしながら白衣の懐からあるものを取り出した。
てけててってれ~
親指サイズの銀色のゴリラのキーホルダーだった。
「ゴリラ…………」
なんでゴリラなんだろうか、その疑問にブースは答えてくれた。
「昨日こいつな、気分展開にテレビつけたらメスゴリラ特集やっててな。それを見ながらやったせいかこんな形になってもーてん、まぁ性能に変わりはないからええ……ちょ押すな! おさんといて!」
そうブースが説明している横から威はぐいぐい押しだす感じでゴリラについて話を始めた。
「このキーホルダーは名付けてGORILLA! フゥーハハハ! ヴァハハハ! 蓮さんの今の状態は僕の推測だとエナによって強化されているも同然なんだ。だからそのエナをなんとか減らせないかって思いついたのがこのGORILLA! これは例えるなら掃除機で身につけるだけでエナを吸収してくれる優れもの!」
徹夜明けのせいなのか昨日よりテンションが高い威が少し怖かった。目も先走っているように見える。
「ほらお前さん……ちょっと静かにしーや。怖がらさせてどうすんねん、昨日から徹夜やろちょっとだけ寝ときなさい」
ぐぎぃ、と嫌な音を鳴らしながら威は眠った。いやブースの手により無理矢理眠らされた。
「まぁワイも一睡もしてないんやけどな、ハハハ」
「そ、そうなんですか……」
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「酷い目にあった……どうして果物が爆発したんだ……」
ライオニックとKはアパートが爆発した後、誰にも気づかれないようエナで修復した、のは流石に無理があって一人一人の部屋に頭を下げながらもアパートから逃げ出したのだ。
そしてライオニックは今は近くの河川敷の土手にぺたりと倒れ込んだ、流石にエナを一気に消費し過ぎたのだ。身体中が酷く気だるいし鼻も気配を察知する力もほとんど残ってない。これ以上エナを使えば死んでしまいそうだ。
「もしかしてこっちの住民はアレが挨拶のつもりか? いや流石にない、馬鹿な俺でもわかる」
隣にカカシのようにピンと立つKは焦げたサングラスを外し黒い宝石のような目を見せ質問に答えた。
「恐らく過激派だ……隠密に行動したつもりだが……やはり隠しきれるものではなかったようだ」
ライオニックは立ち上がり焦げた包帯を外した、背筋を伸ばして全身に力を行き渡せた。
「一つ聞きたい事があるんだが、一体何体のサグーがこの星にやって来たんだ? 俺が行方不明になった後のスグに繁栄……判明したらしいが、流石に多過ぎじゃないか?」
「その事はまだ調査中だ……本当にすまない……お前にも苦労をかけて、本当ならすぐにカイザへと帰還させているのだが」
Kの話し方はいつものような堅物ではなく少し申し訳なさそうな感情がこもっていて、少し心が気まずくなった。まだ調査中なのにうるさく言い過ぎた、反省反省。
「ま、まぁ後にわかるだろうし、今はこの問題を考えよう。過激派の犯人を突き止めないといけないだろうし」
「ああ」
Kは少し頬を緩ませ笑みを浮かべた。
その誰もがやる普通の動作が、Kにとっては一生に一度レベルだろう、Kとは一週間程度しか過ごさなかったが野生の勘がそう言っている。
「お、お前本当にど、どうしたん………………」
Kの笑みが微笑みから不気味なものへと変わった。まるでそれは相手を嘲笑うかのように。
嫌な予感がした、野生の勘が叫んでいるのはそっちの意味ではない。本当は……
グサッ
自分の胸に何かが突き刺さっていた。
小さなナイフの刃ほどはある爪だった。
Kの腕が獰猛で青い毛の獣のようだった。
Kの顔の額には十字傷、青いパンチパーマなヤクザのような男へ変わっていた。
「やっぱり……お、お前…………は……Kじゃ……」
「この程度で死なないでくれよぉ? 久しぶりのサンドバックさんよぉ!」
揺らめく視界の中、世界の色が夜へと変わったのを見た。