建築物や屋根を踏み台に忍者のようにシュタタと走り蓮はサグーの元へ向い現場へ辿り着いた。
蓮は薄暗い路地裏に直立した熊のような大きさのライオンを見つめた。
(あれがサグー!)
心が踊り笑みが唇から溢れた。
蓮はマンションの屋上で足をバネみたいに屈伸させ空高く飛んだ。
風で服がバタバタ靡ながらライオン男を上から踏み潰そうと落下した時の位置に合わせた。
「ははは! こんなトコロにいたの! ラーイオーンさーん!」
不意打ちで終わるのはつまらないと感じ、蓮は甲高い声で自分の存在をアピールさせた。
そしてドーン、と力強い音がなりながら地に落ちた。
ヒビ割れたアスファルトの上に尻餅をついてしまい、危ない危ないと笑った。
筋骨隆々としたライオン男は目が点になるほど驚いていた。
如何にも強そうなサグーに蓮は少し楽しそうに舌舐めずりをした。
さっきの衝撃でライオン男がお姫様抱っこされていた少年が目を覚ましたが、ライオン男の異形さにまた気絶したようだ。
「へぇ~本当にサグーっていたんだぁ……」
蓮は獲物を捕らえた蛇にまさる目つきでライオン男に視線を向けた。
ライオン男からはいかにも強そうな雰囲気が漂い、より一層蓮の心が強く踊った。
その後、ライオン男を滅茶苦茶ぶん殴った。
右腕を殺戮兵器(バット)でへし折り、もう一度振り下ろしたが、ライオン男は間一髪で避けた。
(全然本気で相手してくれないなー)
「ライオンさんもっとアタシを楽しませてよ!」
殺戮兵器を後ろに放り捨て、今も「やめろ」と言わんばかりにこちらを攻撃しないように抵抗するライオン男に、蓮は少しイライラを感じ始めた。
顔では笑っているがそろそろ本気を出し全力で相手をして欲しかった。だが蓮の要望とは逆の行動とかせず、ちゃんと自分の事を観ていないのだと悟った。
頭から血を流し、息を切らし、既に狩られる寸前の獣状態だった。蓮はつまんないのでもうトドメを刺そうと考え、次の兵器を取り出そうとした瞬間にライオン男は横たわる少年を抱えて蓮に背を向ける状態で逃げ出してしまった。
(次は鬼ごっこ! 楽しそう!)
やはり簡単に終わらせてくれないのだと口元がニヤけたまま、体内時計で時間を数え始めた。十秒間だけ待つ。
(じゃあいーち! にー! さーん! よーん! じゅう!)
全部数えるのは面倒だった。
そうしてライオン男の跡を追いかけようとして足を動かしたが、
「うっぅ…………!」
突如頭がズキズキ痛み出し、蓮はその場にひれ伏せた。頭に釘を打たれる痛みがずっと続き、しまいには意識を失ってしまった。
(うう……身体中が痛い……)
蓮は身体が駄目なので眼を半開きで開けるとアスファルトの上に前から倒れ込んでいるのが分かった。
どうしてこんな所にいるのか、その態勢から身を起こそうとするがやはり無理だった。
もしかしたら今までのは夢なんだと一瞬思ったが腕のブレスレットが論破してしまった。アルにブレスレットをつけられてからは一切覚えがない。
その時、こちらに向かってくる足音がして身体が硬直した。この足音は誰なんだろうか、優しい人なら良いけど、変な人だったら……
だがそんな不安な気持ちも、近づいてくる者の声のお陰で消えてしまった。
「いたいた! ここにおったわ!」
少し老けた声な関西弁だった。