----ある日のこと、一人の男が世界に降り立った。
照りつける日差しに目を細めながら、眼前にに見えるとある国に視線を向けた。
優しく吹く、暖かい風が男の真っ黒な髪をさらう。
「よし、予定通りか…….。」
眼前の国に目を向けながら、満足そうにうなずくとその場にゆっくりと腰を下ろした。
コキリ、コキリと首を鳴らしながら天を見上げた。
「まぁ、多少の誤差はあると言われたけど、この様子じゃ問題ないようだな」
男は眼前の活気のある様子にほっとした様子だ。
そして、よっこらせと重い腰を持ち上げ、歩き出す。この結末を変えるために。
……俺は、そのために来たんだ。
-------眼前に広がる、まだ活気の良い国。その国の名は『
古代に滅びた、とある国である。
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『少年、ねぇそこの君』
『君の名前は?』
『奴隷23号では、そっ気がない』
『私が名前をつけてあげよう』
『ヴァン。ヴァン・ホーエンハイムでどうだろう』
『自由と権利が欲しくないか?』
------知識を与えてあげよう、ヴァン・ホーエンハイムよ。
「あれから、結構時間が過ぎたな」
「そうだねぇ」
金髪の青年が、沈みゆく夕陽を眺めながら、感慨深くつぶやいた。それに応えたのは、フラスコの中に浮かぶ黒い塊だった。黒い塊はゆらゆらと揺れながら、楽しそうにニヤついている。
そのいつもの様子を見て、金髪の青年--ヴァン・ホーエンハイムは苦笑しながらも、そのには親しみがあった。
「お前には感謝しているよ。知識を与えてくれて」
「どうしたんだい、急にそんなこと言うなんて」
「いや、そういったことをちゃんと伝えてなかったと思ってな」
その言葉に、黒い塊---
「お前が知識をくれたおかげで、こうして良い暮らしが出来ている。この調子なら、結婚して家庭を持つことも夢じゃない」
「家庭、ねぇ」
『家庭』。その言葉に、ホムンクルスはまるで小馬鹿にしたような調子でくるくるとフラスコの中を回った。
「人間は不便だな。そうやってコミュニティを形成して繁殖しないと種を存続出来ないだなんて」
「繁殖って、お前なぁ」
ある意味いつも通りの様子に、ホーエンハイムは呆れるしかない。
「家族とか、仲間。そういうものに幸せってもんがあるんだよ。俺たち人間は」
「幸せ、ねぇ……」
珍しく憂いたような表情を浮かべたホムンクルスに、ホーエンハイムは驚きつつもふと疑問に思った。
(こいつの幸せって、なんだ?)
こいつはいつも不敵な表情で嗤い、様々な知識を与えてくれたが、その過程でそんなことを聞いたこともなかった。
実際は、そんなことを聞いている暇なんてなかっただけだが。
「なぁ、ホムンクルス。お前にとっての幸せって….なんだ?」
その言葉に、ホムンクルスは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、ふといつものように口角を上げた。
「そうだなぁ….。まぁ、贅沢は言わないが、この狭いフラスコの中から出られれば、幸せかなぁ」
「-----その言葉、待っていたよ」
「なっ!!」
「ほぉ……」
その男は、いつの間にか部屋の中に侵入し、二人の後ろに悠然と立っていた。
気配も、音も、風も感じさせずに。
その様子に、ホムンクルスはただ恐怖しか感じなかった。ひやりと、冷たい嫌な汗が背中をつたり、生唾を飲みん込んだ。その隣で興味深そうに男を見つめる黒い塊に、怒りも湧いたが、すぐにかき消された。
「いやいや、そんなに警戒しないでくれよ。俺が用事があるのはそいつなんだ」
そういって、男は苦笑しながらゆっくりと、窓際に置いてあるフラスコを指差した。
To Be Continued…….