ダンジョンで英雄を目指すのは間違っている!? 作:カピバランサー
今回は戦闘無しのほのぼの?回です。
「おぉ、思ったより高く換金してもらえたなぁ」
俺は手にお金が入った袋を握りしめ嬉しそうに笑う。
テオはインファントドラゴンを討伐後、無理することなくギルドまで帰って来ていた。
と言ってももとより回復ポーションも使いきりインファントドラゴンの一撃を受け止めている、無茶などできるはずもない。
今日の儲けはインファントドラゴンと帰りに狩った少いモンスターのドロップアイテムだけだ。
しかし流石に十二層の希少モンスターの素材だ、これだけでも今までと同じぐらいの儲けがでている。
ーーこれなら直ぐに新しい手甲を買えそうだな。
あと、三日ほど頑張ればそれなりにいい防具が買える。
アスフィさんの頭痛薬を買っても全然問題なさそうだ。
「おーい、テオくーん」
帰ろうと出口に向かう俺を呼び止める。
俺の名前を呼ぶのは受付に座る一人のヒューマンの女性だ。
「なんすか、ミィシャさん?」
ミィシャさん、俺の担当をしてくれている受付嬢だ。
今日は余り人が居ないので俺を呼び止めたようだ。
「いやー、この頃の活動の様子を聞きぞびれてたからね。暇な時に聞いておこうと思って。
って言うかテオくん血だらけだけど大丈夫なの⁉」
「大丈夫っす。そこまで重傷ではないんで問題ないっす」
元気なことをアピールするように俺は肩を大きく回す。流石に戦闘は出来ないが普通に生活する程度の動作は問題ない。
「そっか、安心したよ。テオくんはまだダンジョンに潜り初めての二週間ほどだから無理はしちゃダメだよ。
友達の言葉を借りるなら『冒険者は冒険しちゃいけない』ってね」
ミィシャさんは安心したように息を吐く。
それにしても『冒険者は冒険者しちゃいけない』か……
ーーもう何度も冒険しちゃったんだけどな……。
俺はこの二日内にあったイレギュラーの数々を思いだしため息を吐く。
本当に俺は悪運が強い気がする。
「それでテオくんはどこまで到達階層を伸ばしたのかな?」
ミィシャさんは興味津々といった目で俺を見る。
もし本当の事を言ったら確実に怒られる、潜り初めて二週間の新人が十二層なんて命知らずにも程があるしな。
しかし俺は今でも物足りなく感じてしまっている。暫くは十二層でお金を稼ぐだろうが直ぐに到達階層を伸ばすだろう。
となれば直ぐにばれる。ここは正直に言っておくのが今後のためかもしれない。
「今日、十二層まで到達したっす」
「なっ‼ 十二っ⁉」
案の定だ。
ミィシャさんは大声で叫ぶ。
ギルド内に叫び声が響く。
ミィシャさんは目を見開いてカウンターに体を乗り出してきた。
「テオくん‼ 何考えてんの、Lv. 1の新人冒険者が、ましてや一人で十二層なんて死にに行くものだよ‼
て言うか、死ぬの? テオくん死にたいの⁉」
「いや、死なないっす。とりあえず俺の話を聞いて欲しいんっすけど」
「とりあえずって‼……そ、そうだね。みっちり聞かせて貰うよ、じゃあ奥の部屋に行こう」
ミィシャさんもギルド内の視線が集まっているのに気がついたのか慌てて俺を奥の部屋に案内する。
奥の部屋は所謂ギルド職員と冒険者の相談実のようなものだ。ステータスなど人に知られてはならないような話をする人は使う機会も多いようだ。
俺はミィシャに言われるままに椅子に座る。
「さて、じゃあテオくんの言い訳とやらを聞かせて貰うよ」
なんだか少し起こっている、完全に八つ当たりだな。
「実は俺はこの一週間で一気にステータスが上がって十分十二層でも戦えるようになったんす。
今日も一人でインファントドラゴンを倒せたんで大丈夫っす」
手に持つお金を見せるように机の上にだす。
これでは証拠にはならないかもしれないがいざとなれば換金所で聞けば裏をとれるので問題ないはずだ。
「……ちょっと待って、1つ1ついこう。
まず、なんで一人でインファントドラゴンに挑んでるの? あのモンスターは一人で倒すようなものじゃないんだよ、分かってる⁉」
「分かってるっす」
「なら、なんで挑どむかなぁ⁉」
ミィシャさんが切れた。キレッキレだ。
「や、ほら。そ、そう、誰か倒れてたんすよ、だから助けるために仕方がなくっす」
ほんとは順序が逆だが嘘ではない。
俺は切れているミィシャさんをなだめるように必死に説明する。
「……嘘じゃ無さそうだね。ならこれ以上は何も言わないけどほんとに次はやっちゃダメだからね」
「うっす‼」
どうやら納得してくれたようだ、ひと安心ある。
「で、さっきのステータスの方はインファントドラゴンをソロで倒せるんだしもうつっこまないよ。
でも念のため証拠を見せてもらえる?」
「証拠って何を見せればいいんすか?」
「そうだね……じゃあステータスのアビリティを見せてくれる?」
「はぁ……、でもミィシャさんは神聖文字を読めるすか?」
俺は上半身の服を脱ぎながら尋ねる。
「簡単なものならね。
……と言うか何の迷いもなく服を脱ぐよね。
私から言っといて言うのもなんだけど他の人にはステータスを見せては駄目だよ、ステータスは冒険者の命とも言えるものなんだから」
ミィシャさんは呆れたような目で俺を見る。
しかし、俺はオラリオに来たのもほんの二、三週間前だ。
そういった暗黙のルールのようなものはまだよく知らない。
「うっす、気をつけるっす」
俺は服を脱ぐとミィシャさんは背中を見せるように後ろを向く。
ミィシャさんは俺の背中を見透かすように目を細めてステータスを見る。
他の受付嬢と比べるとけっこう天然な雰囲気を持っているがやはり多彩な人だ。
「……ほんとに嘘じゃないんだね。殆どアビリティがA近くまで上がってるよ」
驚いたように固まっている、この前のヘルメス様と似たような状態だ。
「しかも見たこと無い評価まであるし……ほんとにテオくんはおかしいよね」
「なんか申し訳ないっすね」
「いや、別に成長は喜ぶべきものだからいいんだよ。
それと十二層までなら潜ることを認めるよ。だけど十三層以降に潜るときは必ず私に相談してね」
ミィシャさんは諦めたような口調で俺に告げる。暫くは金を稼ぐためにも下には潜らない予定なので十分だ。
俺とミィシャさんはその後もこれからの潜る予定などを確認して相談部屋を出た。
俺は早めにダンジョンから戻ったが他の冒険者はこれからたくさんギルドに戻ってくる、また受付に列ができはじめている。
ミィシャさんも慌てて仕事に戻っていった。
「今度こそ帰るかな」
俺はギルドを出て沢山の店が並ぶ大通りを歩く。
様々な人種の人々が歩くこの街はまだまだ目新しく感じることが多い、最初に食べたジャガ丸くんなど衝撃を受けたものだ。
ひたすら歩くとある店にたどり着く。
「いらっしゃい」
声をかけて来たのは犬人の女性、しかし普通の冒険者などとは違う点が一つ。
「こんにちはっす、ナァーザさん」
彼女の右腕は銀色の光沢をしている。そう、義手である。
ここはナァーザさんと主神のミアハ様が経営するミアハ・ファミリアの道具屋だ。
「回復ポーション五つとよく効く頭痛薬が欲しいっす」
「少し待ってて」
彼女は直ぐに尻尾を揺らして店の奥に商品を取りに行く。
「はい」
渡されたのは濃い青い液体が入った試験管と粒上の薬だ。どれも問題なさそうだ、俺はポーチにし舞い込むとお金を払う。
「ねぇ、なんで私たちの店に来てくれるの?貴方を騙そうとしたのに」
ナァーザさんはじっと俺の目を見ながら尋ねてくる。
その目には困惑の光が渦巻いていた。
俺は彼女に騙されそうになったことがあった。新米だと見られ、薄められた回復ポーションを渡されたのだ。
俺はアスフィさんから貰ったポーションを使ったことがあったので偶然気が付けたが普通なら騙されてしまうところだ。
しかし、俺は気にせずここに通っている。ナァーザさんもそこが気になったのだろう。
特に大した理由もないので俺は答える。
「他の店は入るのが気まずいからっす」
ただそれだけ。
大きな店に入って、ポーションだけを少し買って帰るのが何だか気まずくて嫌なのだ。
ファミリアや、パーティー単位で購入しているなかただのポーションを買うのは正直気まずい。
「それに一度に騙そうとしたなら、次は騙そうとしないから安心して買えるっす」
付け加えて言う。
「そっか、ありがと」
ナァーザさんは申し訳なさそうに耳を垂らし答える、しかし声は嬉しそうだ。
「テオ、一つお願いしたいことがある」
そう言って、真剣な目で俺を見る。
なにげに初めての名前を呼ばれたが気にせずに続きの言葉を待つ。
「もし、これからポーションの材料になる素材をてにいれたら優先的にミアハ・ファミリアに売って欲しい。報酬はテオに売るポーションの割引」
専属契約みたいなものだろうか? まぁ余り考えて過ぎないでもいいだろう、ポーションの材料になる素材をここに売るようにするだけだ。
「わかったっす」
俺は了解の意を答える。
ナァーザさんは嬉しそうに尻尾を振っている。
正直いまいちどこがメリットになるかもわからず承諾してしまったが問題ないだろう。
「じゃあ、これを覚えて」
「え?」
「ポーションに必要な素材。あと一つ一つの取り方も覚え欲しい、素材の質でも違いは大きい」
「……わかったっす」
やっぱり何か失敗してしまったが気がする。
俺は何も言えずにナァーザさんに言われるままにそれぞれの取り方などを教え込まれるのだった。
ゆっくり進めて行きますー