ダンジョンで英雄を目指すのは間違っている!?   作:カピバランサー

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遅くなってしまいました。
少し短いかもしれません。


願いと新たな冒険へ

「ここは……」

 

目を覚ますとそこはヘルメス・ファミリアの本拠地の自分の部屋だった。

この部屋に住だしたのもほんの二、三週間前なので物もほとんどなくがらがらの寂しい部屋だ。

 

「たしか《勇者》との戦いで気絶したんだっけか……」

 

昨晩の模擬戦、当たり前のように俺は負けた。俺のスキルも身に付き始めた駆け引きも全て出しきって負けた。

相手はLv. 6、かたや俺はLv. 1、それでも悔しい気持ちが込み上げてくる。

 

「遠いな~」

 

俺の脳裏に映るのは最後の一撃。

俺のに全力の一撃を超え、槍を切り落とし迫ってくる槍。《勇者》にはまだまだ余力があったのだろう。

あれが一級冒険者、はるか高みを行く一部の実力者たち。

思わず拳を強く握りしめる。俺もきっと、いや、絶対に辿り着いてみせる‼

テオは心の中で強く決意する、その時だった。

 

「テオ、起きてますか?」

 

「あっはい」

 

青い髪に眼鏡をかけた女性、アスフィさんだ。

 

「起きましたか、体の方は無事ですか?」

 

「大丈夫っす、ご迷惑おかけしました。もしかしてアスフィさんが運んでくれたんすか?」

 

俺は体を起こしながら尋ねる。

 

「ええ、そうですよ。あの場に出くわした私とヘルメス様が運んだんです。本当に大変でした、あの後クソ神はどっかにいなくなるし、やらなきゃいけない仕事は増えるし‼」

 

アスフィさんはギリギリと歯軋りをしながら青い顔でお腹を押さえる。

申し訳なさすぎる……。また胃薬をプレゼントしておこう。

 

「そういえば、ついさっき《勇者》が来ましたよ」 

 

フィン・ディムナが訪ねてきた。それを聞いて今度は俺の腹が痛くなってくる。

もう、暫くはロキ・ファミリアに関わりたくない。

 

「な、なんか言ってたっすか?」

 

「ええ、『いい模擬戦だった、またやろう』と言ってましたね」

 

グュルルルル~

腹が大きな音を立てる。お腹がキリキリしてきた。

 

「はぁ、そんなに会いたく無いなら模擬戦なんてしないで下さいよ、全く……。あと『槍をダメにしてすまない』ってこれを渡されましたよ」

 

そう言って、アスフィさんはいつもの白いマントから取り出す。

まるで、どこかの青い便利なロボットを想像させる。あれ?青いロボットってなんの事だ?まぁいい、アスフィさんに渡されたのは深紅の長槍だった。

 

「おおっ‼かっこいい」

 

それは、いわゆる基本的な直槍だ、穂先の部分が少し長めで何かのモンスターのドロップアイテムを使っているのか金属まで真っ赤に染まっている。

手に持ってみてもちょうど良いくらいの重さだ。

 

「いい感じだな、これならまたすぐにダンジョンに潜れそうだ」

 

「また潜るつもりですか?止めたりはしませんがこれ以上私の仕事を増やさないでくださいね」

 

あきれた顔で強く念押ししてくる、そんなに多いのか仕事。

しかし俺も立ち止まっている場合じゃない、英雄になるためにも速く追い付かなければならないのだ。

俺はベッドから立ち上がるとすぐに手足の装備を着けると出口に向かう。

 

「じゃあ行ってくるっす‼」

 

「テオ、1つ言っておくことがあります」

 

アスフィさんは俺を呼び止めると真剣な顔つきになる。

疲れたようすなどを一切感じさせない表情だ。

 

「……なんすか?」

 

「次に買ってくるなら胃薬じゃなくて頭痛薬にしてください」

 

「……わかりました。とびっきりのを買ってきますね」

 

俺は青い顔のアスフィに見送られ再びダンジョンへと走り出すのであった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

薄暗い、無骨な石の壁が続く平面な迷宮。

どこからともなくモンスターの唸り声が反響する。

まるで立ち入るものを飲み込まんとするダンジョン、そのなかをひたすら駆け抜ける。

 

「っらぁ‼」

 

ギラギラとした目をむけるゴブリンの心臓を穿つ、平面な黒いモンスターのウォーシャドーの鋭い爪をかわしながら額の十字をえぐり裂く。

するとモンスターたちはなんの抵抗もなく塵となってドロップアイテムだけ残して四散する。

弱い……弱すぎる。

ここはすでに六階層、俺がすでに踏み入れたことのない階層。

それなのに相手にならない、【未来視】を使うまでもない、駆け引きなんて持っての他。ステータスだけで凌駕する。

 

「槍の性能のせいか?手応えが無いな」

 

床に散らばったドロップアイテムを袋に詰め込みながら思わず愚痴る。

 

 

テオは気がつかないが、しかしそれは当たり前の事だった。

昨日のミノタウロスとの戦闘ですでに彼のステータスはLv. 1ではトップクラスまで上昇している、敏捷だけで言うならLv. 2にも届きうる。

本来なら十二層が適正なのだ。それに加えて高いレベルの駆け引きと【未来視】をもつテオなら中層でも十分戦えるだけの力をもっていた。

 

「もっと到達階層を伸ばしてみるか」

 

テオはその事に気がつかずに進み続ける。

最も強い相手を。

最も大群で。

心沸き立つ戦闘を。

 

テオの心を昨晩の《勇者》との模擬戦が熱く燃やす。

 

ポーションも最低限、手甲だってまだ壊れたままだ。

それでも迷わず足を進める。

そして気がつく頃には彼は十二層で戦っていた。

 

周りの景色が洞窟から草原のようになったことにも気がつかないほどに熱中していた。

 

「ゴアァァァ‼」

 

新たに産まれたオークの群れがテオを叩き潰そうと押し寄せるがかまわない。

口を吊り上げ長槍を構える。すでに槍はモンスターの血を浴びて深紅をこえて赤黒くなり始めている。

 

オークが振るう天然武器を力を使わず技でいなし逸らす。間髪いれずにオークの足を切り裂き拳を叩き込む。

 

「ふっ‼」

 

オークに囲まれ降り注ぐ攻撃、それでも【未来視】は使わない。自前の観察眼で先読みし塵に還していく。

 

数分後そこには積もった塵とドロップアイテムだけが残っていた。

まだ足りない、《勇者》に、英雄に届くためにはもっと強くならなくては。

 

「……いや、今日はここで終わりにしよう」

 

しかし熱く燃えたぎる心とは反対に、頭が冷静になっていく。

昨晩からどうも熱くなりすぎているらしい、戦闘に固執し過ぎている。

まだまだ、昨日の傷も完治していない。このまま進んでも痛い目に遭うだけだ。

 

心に言い聞かせながらドロップアイテムを拾って行く。

すでに袋もパンパンに膨らみ破けそうだ、これ以上は無理だろう。

 

「帰るかぁ」

 

ため息をつきながら階段に向かって歩きだす、その時だった。

 

「オオォォォォォォォォォ‼」

 

「う、うわぁー‼」

 

「逃げろ‼インファントドラゴンだ‼」

 

俺の後ろにいたはずの冒険者が必死になって、階段にむかい走り去っていく。 

 

ーーインファントドラゴン、聞いたことがある。

たしか十一、十二層の希少モンスター。

この上層においての実質的な階層主。

 

ニヤリ、頬が上がるのを感じる。

そして、気がついたら袋を放り出すと同時にインファインドラゴンに向かって走り出していた。

 

長い尾が周りを蹴散らしその足で踏み抜かんと走り出すインファントドラゴンに接近する。

 

足を切り裂き、胴体をつき穿つ。

 

悲鳴をあげながら反撃を繰り出されるが受け止めようとは思わない。ひたすら避けて切り裂いていく。

避けて突き、避けては斬る。

 

ーー勝てる‼

 

その時だった、気がついてしまう。自分の後ろで倒れるパルゥムに。

茶髪の髪に茶色い目の女性、背には大きなバックパックを担いでいる。

周りに冒険者がいないので見棄てられてしまったのかも知れない。

 

「っマジか‼」

 

同時に迫る尻尾の凪ぎ払い。

ーー避けなくては

だか後ろにはまだパルゥムが気を失って倒れている。このまま避けたらパルゥムは死んでしまうだろう。

 

「くっそぉぉ‼」

 

【未来視】も全て使って迎え撃つ。すでに避けるなんて選択肢は消えている。

しかしあの大きな尾を受け止めるのは不可能だ、だから

 

「ここ‼」

 

俺と尾がぶつかる瞬間、槍で尻尾の軌道を上に逸らす。

これでパルゥムには当たらないだろう。

 

「ぅぐ‼」

 

同時に勢いを殺しきれず壁に打ち付けられた。

それはそうだ俺のステータスはまだ低い、Lv. 2にカテゴライズされているインファントドラゴンの攻撃は流しきれない。

意識が朦朧とする、さっきの衝撃で少なかったポーションも全部割れた。

 

「ーーっつ、なんかこの頃俺、こういうこと多い気がするな」

 

体は痛むが止まってはいられない。インファントドラゴンがパルゥムに迫っているのだから。

 

必死に足を動かす、しかしかなり遠くに飛ばされたのだろう。

 

ーー間に合わない。

 

俺は悟る。

だから、……槍を投げた。

投擲、唯一の武器を投げるなんて自殺行為だかこれしか方法はない。

 

【未来視】を用いた投擲。

 

「いっけぇぇ‼」

 

ドスン‼

その深紅の長槍は真っ直ぐ突き進みインファントドラゴンの首をえぐりとったのだった。

 

「ハァハァ、勝ったな……」

 

俺は塵に突き刺さった長槍とインファントドラゴンのドロップアイテムを拾い上げる。

 

「えっと、大丈夫っすか?」

 

視線を横に移すがそこにはパルゥムの姿はない。

いつのまにか消えてしまったようだ。

いくらなんでも失礼だがこのダンジョンではそもそも他の冒険者との接触は厳禁。これも仕方がないことなのだろうと納得する。

肩を落としながら階段へ向かう。

 

「……ってあれ?袋がない?」

 

無い、無いのだ‼ドロップアイテムや魔石をいれていた袋が。

おいてのあった場所から忽然と姿を消している。

 

「う、嘘だろーー‼」

 

そして十二層に男の叫び声が響きますわたるのだった。




この頃忙しくなってきました、恐らく来週も一話しか更新出来ません。 
すいません(;ω;`*)

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