ダンジョンで英雄を目指すのは間違っている!?   作:カピバランサー

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短め


模擬戦

「そこの君、待ってくれるかい」

後ろから声を掛けられる。

 

「何すか?《勇者》に声を掛けられる事なんてした覚えはないと思うんすけど」

俺は冷や汗をかきながら《勇者》フィン・ディムナに尋ねる。

今、一番関わりたくないファミリアのリーダーに話しかけられ一気に酔いが覚めていく。

 

「そんなに警戒しないでくれ、ちょっと聞きたい事があってね」

彼はそう言いながらあるものを取り出した。

 

「これは君のじゃないかと思ってね」

取り出したのは見覚えのある緑色の長槍、俺がミノタウロスとの戦闘で泣く泣く置き去りにした武器だ。

 

「おお‼マジか‼俺の、俺のだよ‼ほんとにありがとう、これで新しい武器を買わずにすむ」

思わずテンションが上がりため口で話す。

 

嬉しすぎて、テオはロキ・ファミリアの視線が厳しいものになっているのに気がつかない。

 

そして興味を持ったような目で見てくる《剣姫》、そして同時に敵意を持って睨み付ける《凶狼》の視線にも。

 

「それはよかったよ。しかし良くこの槍でミノタウロスを貫けたね?」

一瞬にして場の空気が凍りつく。

それに気が付かないテオは嬉しそうに槍を受けとり答えてしまう。

 

「そりゃ、死にかけたからね。マジで火事場の馬鹿力ってやつかな」

 

そして気づく、酒場にいた全員の視線が此方を向いていることに。

 

 

これはヤバイ、マジでヤバイ。

何がヤバイのかは全く分からない。しかしミノタウロスと出会ったときと、いや、それ以上の警鐘が頭の中で鳴り響く。

 

「あ、ありがとうございます。このお礼はまた後日させていただきますね‼」

言うが否や出口に向かうテオに《勇者》は軽快に笑顔で言ったのだった。

 

「いや、お礼は要らないよ。ここで僕と模擬戦をしてくれればね」

 

「……マジっすか」

再び空気が凍りついた瞬間だった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「……マジっすか」

思わず呟く。それぐらいあり得ない提案、そして断ることが出来ない提案だ。

ロキ・ファミリアの全員がいる前で断ったりしたら、今度お礼に行ったときには無事に帰ってこれる気がしない。

 

というよりも《勇者》はすでに自分の槍を装備し、周りの酒を飲んでいた冒険者も観戦モードだ。

 

ゴクリ

唾を飲み込みてにもつ槍を構える。

同時に空気が張つめていき……

 

「こらぁ‼店の中で暴れるんじゃないよ‼やるんなら外でやんな‼」

ミア母さんの怒鳴り声が飛ぶ。

 

「……そうだね、槍で戦うにはここじゃ狭すぎる。外でやろう」

《勇者》は苦笑いで外に出ていく、そしてついていくように出ていく酒場の冒険者たち。

 

「ミア母さん、どうせなら止めてからくれれば良かったのに……」

思わず呟きながら俺も外に出ていくのだった。

 

 

 

「……マジか」

再び呟く。

そこには酒場の冒険者以上に《勇者》と俺の模擬戦を見ようと野次馬が集まって居たからだ。

中には神らしき人物が酒を飲んで観戦しようとしている。

 

「Lv. 6とLv. 1だぞ?相手になるわけないじゃないか」

思わず愚痴らずにはいられない。

 

「名前を名乗っていなかったね、僕はロキ・ファミリア所属のフィン・ディムナだよろしくお願いするよ」

存じている。

 

「……俺はヘルメス・ファミリア所属のテオ・リードっす、宜しくお願いします」

 

「テオ君はもしかしてもう負けたつもりで要るのかい?」

《勇者》槍を地面に突き、挑発するような口調で尋ねてくる。恐らく煽って本気を出させようとしているのだろう。

 

「いや、《勇者》心配無用っす。此方もやるからには本気でやるんで」

何処にも負ける気なんてない。最初は負け試合、意味なない戦いだと思っていた、しかし今は違う。

相手は《勇者》俺が目指す英雄に最も近いと言っても過言ではない冒険者、何時かは越えなければならない壁。だから……ここで全力をぶつけたくなった。

 

「……そうか、余計な心配だったね。すまない、少し見くびっていた」

彼は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに不適な笑みを浮かべ槍を構える。

 

「いくぞ《勇者》‼」

 

「来い‼」

 

 

沈黙は降りることなく《勇者》フィン・ディムナとLv. 1  テオ・リードの戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「オラァァ‼」

仕掛けたのは俺、全力の敏捷を持って突きを放つ。

 

ガキンッ

 

「っくそ‼」

《勇者》は動かずにたやすく防ぎきると同時にカウンターを叩き込んでくる。

 

速い‼そして重い‼

ミノタウロスより小さな身体でミノタウロスより速く重い攻撃。

正直防げたのが奇跡だと思えるほどだ。

 

「驚いた。正直さっきの一撃で沈むと思っていた」

彼は驚いた顔で言う。

しかし俺はそれに返さない、返せるほどの余裕がない。

 

全力で縦横無尽に駆け回りながら槍を振るう。

 

それでも追い付けない、相手の防御を貫き切れない。

ならどうする?

決まっている、未来視の常時発動。

 

相手の三秒先を攻撃する。

《勇者》は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに真顔に戻る、同時に相手の槍を振るう速度が速くなる。

 

当たり前の事だ、相手はLv. 6 むしろ最初から本気だったら等の昔に決着は着いている。

 

だから、俺は未来視に映る《勇者》の姿から呼吸を、筋肉の動きを、防御の仕方からさらに行動を予測する。

 

ただ、これではまだ足りない。

もっと速く。

もっと上手く。

もっと正確に。

一撃一撃を昇華していく。

 

《勇者》の技を盗み、防御の仕方を学び、そしてカウンターに繋げていく。

 

《勇者》の顔が驚愕に染まる。

 

しかしまだだ、俺の背中が焼けるように熱くなっていく、これはミノタウロスとの戦闘であった感覚だ。

 

これだけしなければ、英雄になんて届きはしない。

憧れのあの人には追い付けないのだ。

 

俺はひたすら槍を振るう。

何も考えずに本能の従うままに、そして同時に理解した。

ーーーー終わりは近いと。

 

 

そして終わるのは俺。

 

もともとミノタウロスとの戦闘でボロボロだった身体だ。全力ので戦おうにも戦える時間はもとより少ない。

足は痙攣し、腕は重りがついたように鈍くなっていく。

 

だから、決着の一撃を放つ準備をする。

 

 

俺は《勇者》との撃ち合いから離れ距離を取る、彼も俺の限界が近いのは分かってるのだろうがその場から動かないようだ。

 

「……これが最後の一撃だ」

フィンに告げるが彼は何も言わない、ただ、俺に向かって槍を構える。

正面から受け止めるつもりなのだろう。

 

俺はゆっくりと膝をつき、槍を構えた。

フィンが息を飲むのが聞こえる、そう俺が取った構えは

ミノタウロスの突撃によくこく似していたのだった。

 

 

 

 

 

空白の静寂。

野次馬の声も何も聞こえない、そんな中で俺は時をまつ。

そして未来視が三秒先を捉える、静寂が破られる瞬間を

足に最後の力を注ぎ込み槍を強く握り、そして背中が発熱する。

 

……一、二、三‼

 

『ベルく~~ん‼何処に要るんだ~~‼』

 

「疾ッ‼」

この場をぶち壊す泣きじゃくるような声。

だが俺は同時に突撃する、今まで以上の速度、俺の最速で。

 

そして俺の長槍と《勇者》の長槍が重なりあう光景を見て……俺の意識は暗転したのだった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

驚愕だった。

様子見程度の模擬戦のはずだった。

 

しかし彼はテオはまさにLv. 1としては異常だった。

 

Lv. 2相当、いやそれ以上の敏捷、未来を見ているかのような先読みと僕の技を駆け引きを盗み、ものにしていく吸収力とセンス、まさに異常。

 

野次馬さえ黙り戦いを見守っていたぐらいだ。

 

そして僕と一部の冒険者にしか分からいだろうが少しずつ槍が硬く、鋭くなっている。

恐らくあれがミノタウロスを貫けた理由だ。

 

そして最後の一撃。

あの大声に一瞬だが意識をそらされてしまった、気が付くと彼の槍はすぐ目の前に迫ってきていた。

 

不味いッ‼

恐れてしまった、思わず全力で槍を振るう。

僕の槍は彼の槍を切り落とし彼の首まで迫る。

 

「ファン‼そこまでや‼」

ロキの声に反応して首を切り落とす寸前で槍が止まる。

 

「……助かったよ、ロキ」

危なかった。

ロキが止めてくれなければあのまま彼を殺してしまっていたかもしれない。

 

テオは最後の一撃と同時に意識を失ったらしく地面に倒れ込んでいる。

 

「ハハハ、すまないねロキ。僕の子供が世話をかけた」

 

野次馬から一人の男神が進み出る、たしかあの神はヘルメスと言ったはずだ。ヘラヘラと本性を一切見せない神だったのでよく覚えている。

 

「このガキンチョ、お前んところの子供か?」

 

「ああ、最近入った新しい子だよ。元気がよくてね‼」

神ヘルメスはひきつった笑みを浮かべ汗かきながら答える。相当、焦っているな。

 

「アスフィ、テオを連れて帰るぞ‼」

神ヘルメスは後ろにいた《万能者》にテオを担がせると颯爽と野次馬に紛れ込む。

 

ロキが叫んでいるが一切無視して走り去って行ったのだった。

 

 

「……強いね、あの子」

 

「アイズか、ああ、肝がひえたよ」

 

「最後の本気だったの?」

 

「ああ、本気を引き出された」

足元に目をやるとそこには真っ二つになった長槍が転がっている。

 

「これはお詫びに何か送らないとな……」

 

「逃げ足だけは速い奴や‼フィン~‼飲み直すで~‼」

模擬戦は終わり、ロキのあとを追いながらロキ・ファミリアは酒場に戻っていくのだった。




三人称は難しいね

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