ダンジョンで英雄を目指すのは間違っている!? 作:カピバランサー
彼、テオ・リードはミノタウロスと闘ったあと、帰り道にモンスターにも出会わず無事ギルドまでたどり着いていた。
テオに一瞬周りの冒険者の視線が集まる。
しかし、テオの格好はボロボロではあったがここでは日常茶飯事であるため、特にきに止められる様子もなかった。
テオは魔石とドロップアイテムの換金の為に換金口に並ぶ。
並んでいる間にギルドの様子をうかがったがミノタウロスの事が噂に立っていないようだ。
そんなことに気を取られていると直ぐに自分の番が来た。
腰に着けた魔石等が入った袋を窓口に渡す。
すると手慣れた手つきで鑑定されていく。
「5048ヴァリスになりますがよろしくですか?」
低い。わかっていたが低すぎる。
今日消費したポーションや、長槍、手甲の事を考えるとおお赤字であった。
その事を考えると頭が痛くなる。
「お願いします。」
テオはこの金を全額今日の夕食のやけ食いに突っ込む事に決めた。
テオはお金を受け取り、換金口から離れながらこれからの事を考えていた。
いつもなら、自分の担当である受付嬢のミィシャさんのところへこれからの方針などを相談しに行くところである。
チラリとミィシャさん達の居る受付に目をやる。
そこには明らかにダンジョンの以外の目的で並んでいる冒険者による長い行列ができていた。
よくよく見ると、ごっついスキンヘッドの冒険者が赤い
薔薇を持って並んでいる。
思わず吹き出し笑っていると、ミノタウロスにやられた肺が痙攣していまいしばらくのたうち回るような事態になってしまった。
うほっ、げぼっ、やばすぎるだろ……ぶほっ……
ダンジョンから帰還して笑い死になど冗談ではない。
ミィシャさんにせめてもの哀れみの視線を送ってあげたいところだが見つかると後日めんどくさいので大人しく帰ることにする。
ヘルメス・ファミリアの拠点に戻ると、済ます事を済ますべく私服に着替えて神ヘルメスのいる部屋を訪ねる。
神ヘルメスはオラリオの外に外出している事が多く、ステータス更新しようにも出来ない事がよくある。
今日は運のいいことに丁度部屋に神ヘルメスがいた。
「やあ、久しぶりぶりだね、テオ。そんなに傷だらけの姿は初めて見るね。
何かあったのかい?」
優男のような雰囲気をかもし出しながら訪ねてくる。
「まぁ、いろいろです」
一から話すのは面倒なので適当にはぐらかす。
すると神ヘルメスは大袈裟に肩をすくめながらため息をはく。
「ほんとにテオは冷たいねぇ~」
思ってもない事をいう辺り俺は苦手に思ってしまっていた。
「そんなことより、アスフィさんはどうしたんすか?
ここにはいないようですけど」
アスフィさんはヘルメス・ファミリアの団長であり、Lv . 2の冒険者《万能者》として有名である。
実はギルドに報告してないだけでLv. 4と言う実力者だ。
ヘルメスの右腕としてほとんどの行動をともにしている。
「あぁ、アスフィなら書類の山を見たせいで吐血して今は休んでいるよ」
彼女はきっと、遠くない未来に過労死してしまうだろう。
「…後でお見舞いに行っておきますよ。まぁ、とりあえずステータス更新お願いします」
「あぁ、じゃあそこに服を脱いで背中を見せてくれ。」
言われた通り背中を見せる。
神ヘルメスがイコルを垂らしステータスの更新を始める。
………………………………長いな。
いつもなら1分ぐらいで終わるはずだが今日はすでに3分近くたっている。
「ヘルメス様、長くないっすか?」
「…………」
「ヘルメス様?ちょっ!大丈夫っすか!!?」
「あ、あぁすまない。少し寝不足でね、これが更新したステータスだよ。」
そう言ってステータスの書かれた紙を差し出してきた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
テオ・リード
Lv . 1
力:A867 耐久:A821 器用:S955 敏捷:SS1091 魔力:I0
《魔法》
《スキル》
・人槍進駆
・未来視
・3秒先の未来を見れる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔力以外の全てのアビリティが丁度評価が二段階上がっている。
合計、約800程度の上昇である。
やはりミノタウロスと闘っただけあってすごい上昇値だ。
もしミノタウロスに止めをさせていれば器の昇華、Lv アップも合ったかも知れない。
そして、新しいスキルが追加されている。これには思わず興奮してしまう。
この未来視はミノタウロスの攻撃をほぼ予測と予想でかわしていたのが切っ掛けだと思う。
どちらにしても敏捷の高い俺からしたらなかなか使えるスキルを手に入れることができた。
「ヘルメス様、あざっす」
しかし、神ヘルメスがさっきから反応しない。
目が結構虚ろである。
眠たいと言っていたので起こすのも悪いと思い、毛布を被せて部屋をあとにした。
ーーーー
テオはアスフィさんの部屋を訪ねる。彼女は死んだかのように眠っていたのでお見舞いの品だけおいて帰る事にする。
机の上に目をやるとファミリアのみんなもお見舞いに来たのか、沢山の品が置いてあった。
胃腸薬が机を埋めつくし高く積み上げられている。
「ファミリアの皆の愛を感じるね…」
そんなことをしみじみと呟きながら俺も鞄から胃腸薬1ダースをそっと置き部屋を出ていった。
ーーーー
俺は夕食を食べに豊饒の女主人まで来ていた。ここは代金は高いが、料理は美味しく従業員も可愛い事から人気で前から一度来てみたかったのだ。
少し緊張しながら扉を開け店に入る。
そこは多くの冒険者で賑わっていてウェイトレスがひっきりなしに働いていた。
「いらっしゃいませー!!」
灰色の髪をしたヒューマンの女性が声をかけてきた。
一目で一名だとわかったのかカウンターの端っこの方に案内される。
正直、目立ちたくないので嬉しい。
「これとこれとこれ、あとこれとこれと酒をお願いします。」
注文するとその灰色の髪をした女性は一瞬驚いた顔をしてから戻っていった。
一品目を早速食べてみると
「旨い!!」
そこからは、ひたすら食べては飲んで、食べては飲んでを繰り返す。
注文した料理を食べつくし、一段落をつける。
「すごく美味しそうに食べますね。」
後ろからいきなり声をかけられる。
振り向くとそこにはウェイトレスの姿をした金髪のエルフの女性がたっていた。
可愛い人だなぁ。
そんなことを思いながら返事を返す。
「まぁ、旨いからね。」
「そうでしょう、ミア母さんの料理は絶品ですから。ミア母さんも沢山食べてくれて上機嫌だ」
彼女はそう言いながら厨房の方に目をやると大柄のドワーフのいかにも女大将といったような女性がこっちを見ながら豪快に笑っていた。
俺も軽く笑いながらに手を振っておいた。
「ははは、まぁ正直やけぐいなんだけど、喜んで貰えたなら何よりだよ」
「何か大変なことでもあったのですか?」
彼女はこちらを向いて聞いてくる。
「まぁ、少しダンジョンでバカやってね」
「そうですか…、貴方は冒険者なのですか。
なんで貴方はなぜわざわざ危険なダンジョンに潜るのですか、お金を稼ぐ方法なら他にも沢山あるはずだ。」
俺は彼女を見る。彼女はさっきまでとはまるで違う問い詰めるような雰囲気を纏い、目には真剣な眼差しを浮かべていた。
俺も彼女の目を見つめながらこたえる。
「憧れだ、俺を助けてくれた、俺にとっての英雄のあの人に近づく為だ。」
「その夢が叶う前に死んでしまうかもしれません。」
「それでも憧れたんだ。俺は今日その道を歩む事を決めた。だから、例え片腕を失うような事があろうとも俺は止まらない。」
彼女の目を見る。そこには俺の顔が写っている、まだまだ幼く精悍とは言えぬ顔つき。しかし、瞳の赤目はより赤く力強く燃えていた。
「……強い目だ。貴方は本当に死ななそうだ、私の勘はよくあたる。」
彼女は初めて少し微笑んだ。
「あぁ、死なない、死ねない。」
そう返す。
「フッ、私はそろそろ仕事に戻ります。このままここにいたらミア母さんにどやされてしまいそうだ。」
「ありがと、おかげで俺の決心を見つめ直す事ができた。」
「貴方は本当におかしな人だ」
彼女はそう言いながら戻っていった。
テオは夜もまだこれからなので酒を飲み直す事にする。
すると扉を開けて十数人の団体が入ってきた。
その瞬間沈黙が降りる。
『おい、あれロキ・ファミリアだぞ。』
『ああ、遠征から帰ってきていたのか。』
辺りで冒険者が噂をしている。
ロキ・ファミリア。たしか、オラリオにおいてフレイヤ・ファミリアと並ぶ二大ファミリアか。
………関わらないのが吉だなぁ
彼は神ヘルメスにロキ・ファミリアの第一級冒険者について教えられていた。
テオは自らの知識と照らし合わせながら彼らの宴会を眺める。
あの赤い髪の女神が主神のロキか。
順に顔を確かめていく。
小人族のLv . 6 《勇者》フィン・ディムナ、
エルフのLv . 6 《九魔姫》リヴェリア・リヨス・アールヴ、
ドワーフのLv . 6 《重傑》ガレス・ランドロック、
アマゾネスのLv . 5 《怒蛇》ティオネ・ヒリュテ、
同じくLv . 5 の《大切断》ティオナ・ヒリュテ、
獣人のLv . 5 《凶狼》ベート・ローガ、
そして、Lv 5《剣姫》アイズ・ヴァレンシュタイン
まさに一流冒険者たる顔ぶれだ。憧れの人が言っていた英雄とはああいう冒険者の事を言うのだろうか。
彼は確かめて終わるとまた、酒を楽しむ事にする。
そして気づく、隣にいる白髪の冒険者が悔しそうに下を向いていることに。
どうやら《凶狼》の話を聞いて悔しがってるようだ。
そして同時にその様子を見てわかってしまった、あの話のトマト野郎とは隣の冒険者のことではないか?
隣の冒険者はそれを肯定するように悔し涙を流しながら走り去っていく。
ひどく理不尽な気がした。ロキ・ファミリアのミスで命の危険に晒した冒険者を酒のつまみにして貶す。
そんなの間違っている。おじさんが言ってた英雄はそんな事はしない‼
俺は自然とロキ・ファミリアを睨み付けていた。
それに気がつきあわてて冷静になる、彼らが悪いわけではないのだ。ただ、俺はあれを認められない。ならやることはひとつだ。強くなって自分の意思を貫き通す、それだけだ。
俺は再び酒を仰ぐ、その様子をロキ・ファミリアの《勇者》に見られていた事も知らずに。
……一時間後、酒を飲み終えふらついた足取りで会計に向かった。
会計を払い終えると厨房の奥からミア母さんが顔を覗かせた。
「貴方は本当に美味しそうに食べるから見てて嬉しいよ‼。また来な‼」
俺はそれに扉の方に歩きながら手を上げて返事をする。
そのときだった。
「ああ!!?何だって!てめえ俺に喧嘩を売ってんのか!!」
「てめえこそ言いたい放題言いやがって、ぶち殺すぞ!!」
二人の冒険者が酔っ払い喧嘩を始める。
周りの冒険者は憐れむような視線で彼らを見ている。
『あ~あ、やっちまった』
『ミア母さんにほっぽり出されて終わりだな』
そんな声が細々と聞こえてくる。
(俺も無視して帰るか)
そう思い足を進めた時だった。
世界が止まったように感じる。
それと同時に二人の冒険者の近くにいた猫の獣人のウェイトレスの女性がぶつかられ、此方に皿をぶちまけながら倒れて来るのが残像が残ったかのように見える。
(なんだこれは⁉)
そしてその残像をなぞるかのように二人の冒険者が揉めあい、猫のウェイトレスの女性にぶつかる。
この瞬間、俺は訳もわからないまま動いていた。
彼女は残像を追うように倒れそうになる。
それを片腕で抱き止めながら空中にぶちまけられている、皿をキャッチした。
「「「うぉぉぉーー」」」
周囲から感嘆の声と拍手が聞こえてくる。
「あ、ありがとニャ」
「どういたしまして」
彼女に笑って返事をする。
そして、テオは直感で理解した。
これは恐らく俺の新しいスキルの未来視だな。
これはさっきのはたまたま発動したが、恐らく自らの意思で発動できるはずだ。
意外な所で新たなスキルの確認を出来た事をよろこびながら再び出口に向かう。
「そこの君、待ってくれるかい」
俺を呼び止めたのはロキ・ファミリアの《勇者》だった。
だんまちおもれー