ダンジョンで英雄を目指すのは間違っている!?   作:カピバランサー

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英雄は歩み出す
始まりと冒険と


夢を見る。今となっては6年前の夢。

 

一人の少年が森を走っている。それを追いかけるのは熊のような姿をしたモンスター。

少年の身体はすでに擦り傷や打撲傷でぼろぼろで足の感覚はもうない。

 

「はぁはぁ」

 

後ろから近づいてくる「ズドン、ズドン」と大きな足音、次の瞬間に噛み殺されるじゃないかと思うほど近くに聞こえる唸り声。

 

こんなところで死ぬのか…

 

少年が諦めうつむき、足を止めようとするそのときだった、

 

「止まるな、坊主!!」

 

何処からともなく声が響く。

その言葉を聞き、少年は顔をあげ最後の力を振り絞る。

 

森を抜けた。

目を射すような日射しが全身を照らす。

それと入れ替わるように一つの影が少年の横を駆け抜けた。

 

その影を追うように後ろを振り向くと、心臓を槍で一刺しにされたモンスターと彼がいた。

 

「よく走り抜いた、坊主」

 

彼は太陽のように安心する笑顔で笑いかける。

 

俺にとって、どんな英雄章の英雄より彼こそが一番の英雄だった。

 

~~~~

 

「終わったよ、テオ・リードくん。」

 

一人の優男のような神が話しかけてきた。

それとともに一枚の紙を手渡された。

彼、テオはいつもの眠たげな赤目を見開いてその用紙を眺める。

 

ーーーーー

 

テオ・リード

Lv. 1

 

力:I0  耐久:I0  器用:I0  敏捷:I0  魔力:I0

 

《魔法》

 

《スキル》

・人槍進駆(アネローレコード)

  ・全ての槍に属する武器の扱いに+補正(大)

  ・武器の扱い上昇に比例して武器強化(大)

  ・憧れを追い続ける心の思いに比例して成長力上昇

 

ーーーーー

 

「~ッ!」

彼は激しく拳を握る。

ようやく彼のあとを追いかけることができると意気込んだ。

 

それに対して冷や汗をかいているのは彼が入団したファミリアの主神、ヘルメスだった。

 

これは面白いスキルだ、この子の夢にも必ず必要になるスキルだ。だからこそ他の神々に目をつけられないようにしないと…

 

彼はこれから振り掛かるであろう火の粉と子供の成長を思い浮かべひきつった笑みを浮かべるのだった。

 

~~~~

 

テオ・リードがヘルメス・ファミリアに入団してから15日、彼はいつも通りダンジョン5層にソロで潜っていた。

 

ゴブリン、それは上層に出現するありふれたモンスター。

 

テオはゴブリン三体を相手取る。

突っ込んでくる一体目の喉元に素早く緑色の長槍を突き刺し灰にする。

残り二体は同時に襲いかかってきた。跳躍して襲いかかってくるゴブリンを長槍で切り殺し、走ってくるゴブリンをおもいっきり蹴り飛ばした。

 

「ゴブリンにもなれてきたな…」

 

そんなことを呟きながらも魔石とドロップアイテムを回収する。

 

そのときだった。

 

「ヴォーーーー………」

 

何かの雄叫びが聞こえてきる。

 

かれこれ10日ほどこの5層にもぐっているが聞いたこともない声。

そんな声にテオの脳内が危険信号の鐘を盛大に鳴らした。

 

そしてそれは通路の奥の角から姿を現す。

歩く度に地面が揺れるように感じる足音。

立派としか言えないような筋肉隆々の身体。

そして興奮しきった目と頭から生える角。

 

「ミノタウロス…」

それは完全なイレギュラー。

 

ミノタウロスは通常13層以降の中層にいるモンスター。

そしてそのなかでも上級冒険者が苦戦するLv . 2にカテゴリーされるモンスターである。

 

テオの脳はフル回転していた。彼にとっての一番の策は逃げることであった。

 

しかしここは上層であり。自分と同じLv . 1の冒険者がたくさんいる。

もし擦り付けて地上に逃げ帰ってもその事は必ずギルドに伝わり自分のファミリアであるヘルメス・ファミリアに迷惑をかけるであろう。

 

そしてなによりーーー

 

「俺の憧れるあの人は絶対にそんなことをしない‼」

 

その瞬間、テオにとってのとる選択肢は一つになった。

そして彼は死を覚悟する。

 

 

 

 

彼の装備は緑色の長槍、予備ナイフ、そして両手の肩から手先までの黒い手甲だけであった。

すべてヘルメス・ファミリアで使わなくなったお下がりである。

 

ポーションも回復ポーションが2つだけである。

 

つまり当たったらアウト、下手したら一発で即死である。

 

そんななかテオはミノタウロスと相対する。

 

ミノタウロスが右腕で大振りのパンチを繰り出す。

 

速い!!

テオはそのパンチを転がりながらも避ける。

その拳は地面をなんなくえぐりとった。

 

直ぐに体勢を立て直しミノタウロスの腹に渾身の突きを叩きこんだ。

 

「ッ!?刺さらない!!」

 

しかしミノタウロスの強靭な筋肉は槍が突き刺さるのを許さなかった。

 

その後も続くミノタウロスの拳によるパンチのラッシュ。

 

一発でももらったら終わり、それがテオの感情を熱くしながら頭を冷していく。

 

一発一発見てかわしていたら間に合わない‼あいつの筋肉の動きを読み取れ!次の動きを先読みしろ!!

 

ミノタウロスの攻撃をときには懐に入り込みかわし、ときには槍で叩きそらし、ときには紙一重で避ける。

 

それはまるで決められた行動をお互いに行う、武道の型のようにも思えた。

 

しかし、そのときは来た。こちらからの攻撃が通じない限り必然的にくるとも言える。

 

着地した場所が悪かった。ミノタウロスが砕いた地面の瓦礫の上に着地してしまい体勢を崩す。

 

「しまっ」

 

ミノタウロスの大振りの腕が目の前まで迫る。

それをとっさに両腕の手甲で防ぐ。

 

「かはっ!」

壁に背中から打ち付けられた。

 

痛い痛い痛い!!

口から血を吐き崩れ落ちる。泣いてしまいそうだ。

骨はどこも無事そうだが肺をやられたのかうまく息が吸えない。

 

しかしミノタウロスが止めをさそうと近づいてくる。

 

そんななかテオの頭の中には走馬灯のように過去の映像が流れていた。

 

~~~~

 

それは風が気持ちよく日も暖かい川辺での一時。

「ねぇ、おじさんの友達に英雄っている?」

子供の俺は隣に座り空を眺める俺にとっての英雄に尋ねる。

 

「う~ん、そうだなぁ~。どんなのかが英雄なのかは分からないが俺にとっての英雄はいるかな」

 

「どんなの!?」

 

「はっはっは、落ち着けよ。

そうだなぁ、あれは俺が仲間たちとダンジョンに潜っていたときだった。

普通ではあり得ないぐらい強いモンスターが現れたんだ。俺たちは直ぐにぼこぼこにやられちまった。」

 

「ヤバイじゃん⁉」

青ざめ慌てる俺を横目に彼は懐かしそうに目を細めながら話を続ける。

 

「そのときは皆が諦めたよ。俺もここで終わるのかってな。

でも一人俺よりもひょろいやつが剣持って諦めずに立つんだよ。

俺はそんな状況にも関わらずに、何でお前は諦めないんだって聞いたんだ、そしたらそいつなんて言ったと思う?」

 

「う~ん、わかんない‼」

俺はそんな彼の質問にそう答えた。

 

「はは、わかんないか、そうかそうか。

だけどそいつはなこう言ったんだ。

「俺にはやらなくちゃならないことがまだまだある。俺のこれから歩く道は終わらねぇ。だから俺の命もこんなところで終わらねぇ」ってな。」

 

「う~ん、道とかよくわかんない。」

 

「はっはっは、俺は口下手だから説明なんて出来ないからなぁ。」

彼は俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら後のの言葉を語りかけてきた。

 

「だけどきっとお前もきっとわかる時がくる、見つけるときがくる、だからお前も……」

 

~~~~

 

同時に目が覚める。

すでに目の前にミノタウロスの拳が迫ってきていた。

 

それをギリギリで転がり避け、ポーションを飲み捨てた。

 

「俺にとっての道は彼に、英雄に至ること。だからそこ終われない。こんなところでお前もなんかに躓いていられなあ!!」

 

俺は俺にとっての道を吼える。

 

そして再び、真っ正面からミノタウロスに相対する。

 

「これで決める」

そう言ってテオは長槍を構えた。

 

するとミノタウロスもその気迫を感じ取ってか四足歩行の体勢をとった。

それはミノタウロスにとっての必殺技とも言える一撃。

何人たりとも防ぎ得ない、強烈無比の突進。

 

それはこの対決が決まることを示していた…。

 

 

 

 

 

 

 

その場を静寂が支配する。

 

背中が熱い、まるで燃えているかのように感じる。

頭は冷静に心が燃える。

手に握る槍を通して何が槍の中を流れるのを感じとる。

そして槍と身体が一つのように思えてくる。

 

なんの前触れもなくそのときがくる。

 

「ヴォーーー!!!!」

「おおーーー!!!!」

 

テオとミノタウロスが同時にお互いに向けて走り出す。

 

ミノタウロスの角が、テオの槍が交差する。

その時クレアは一瞬のことを数十秒のように感じていた。

 

ミノタウロスの角を身体をひねりギリギリでかわす。

それと同時に矛先を下にして構えていた、槍をヤツの右腕に向けて振り上げる。柄が大きく反りながら跳ね上がる。

 

「オラァッッ!」

 

その槍はミノタウロスの右腕を切り飛ばした。

 

普通ではあり得ない。

レベル1の冒険者が、何の変哲もない、特に優れてもいない長槍が、ミノタウロスの右腕を切り飛ばす。

 

ーー人槍進駆。

 

テオの憧れが、吼えた明確な道が彼のそのあり得ない光景を作り出した。

 

テオの憧れがそのミノタウロスの突進に負けない加速を可能にした。

 

テオのその傷をつける事すら出来なかった槍を、彼の冒険者に成るまでのそして成ってからの修練が鋭くした。

 

そしてテオの諦めない気持ちが、思いがミノタウロスに対する恐怖よりも上回った。

 

結果、奇跡をおこした。

 

しかし、まだミノタウロスは生きている。

 

クレアは即座に急転回する。同時に膝が嫌な音をたてるが無視して駆ける。

 

ミノタウロスはこちらに振り返るところだった。

 

「ハアッ!!」

 

それと同時に槍をつき出す。

 

全体重をのせて突きにひねりを加えて、ミノタウロスの腹に突きだした。

 

「ブォッ!!?」

 

そのままの勢いで壁に長槍ごとミノタウロスを打ち付ける。

 

「はぁはぁ、何とかやったか?」

 

ミノタウロスの方を見ると槍が腹を貫通して動けないようだった。

左手で抜こうとするも壁に矛先が埋まっているからか、右腕を切り落とされて弱っているからか槍を抜け出せそうではなかった。

 

テオは腰からポーションを取りだし飲み干す。

彼の身体はすでに限界を越えていてまともに動けない状態だった。

 

両腕を覆っていた手甲はミノタウロスの一撃で半壊しており、服もミノタウロスの攻撃を避けるのに転がったり、地面の瓦礫によってずたぼろになっていた。

 

普通ならミノタウロスに止めをさすところだが、

「帰るか……」

テオは帰ることにした。

 

ポーションもなく、唯一ミノタウロスに傷をつける事ができる長槍はまだ壁に刺さったままだ。

抜いた瞬間にミノタウロスに殴られるのは想像にするのに難しくない。

かといって、他にあるものと言ったら剥ぎ取りナイフのようなものだ。

 

結果的にテオは壁に槍によって縫い付けられているミノタウロスを尻目に逃げ帰るというシュールな光景になったのであった。

 

 

~~~~

 

 

ロキ・ファミリアの遠征帰還中に起きた、ミノタウロスが上層に逃げるというイレギュラー。

上層には初心者の冒険者が多くいてもしミノタウロスとエンカウントしたら直ぐに殺られてしまう。

 

そのミノタウロスを追ってLv . 5の一級冒険者である《剣姫》アイズ・ヴァレンシュタインは第5層をかけていた。

 

「あと一体……」

そう言って目の前のミノタウロスを容易に切り捨てた。

 

最後の一体を見つけるべく目を閉じて耳を澄ます。

 

「ブォッ………ブォッ…」

 

微かに聞こえるミノタウロスの声を聞き取り足に力を込めて、疾走する。

 

直ぐにミノタウロスのいるルームへとたどり着いきそれを見つけた。

 

そこにはおかしな光景が広がっていた。

めちゃくちゃに荒らされ、瓦礫が散らかっている地面。そして、おそらく冒険者のものであろう破壊された手甲。

 

そして、壁に長槍で縫い付けられたミノタウロスと切り捨てられている右腕。

 

そこに、彼女と同じくロキ・ファミリアのLv . 5 の冒険者である《凶狼》ベート・ローガが追い付き同じく声をあげた。

 

「なんだこりゃ!?」

 

彼も一目でその光景のおかしさに気づく。

 

彼女は戸惑いながらベートをみる。

 

「とりあえず、そこのミノに止めをさせよ。その槍持ってフィンに報告すりゃいいだろ」

 

「……うん。」

 

そして彼らはミノタウロスに止めをさし、その魔石と槍を持ってフィンの元へ戻っていった。

 

 

 

 

「なるほど、それはおかしいね。」

そう言ったのはロキ・ファミリアの団長である《勇者》フィン・ディムナは呟いた。

 

「そこには切られた右腕とこの槍に縫い付けられたミノタウロスがいたんだよね?」

フィンがそう言って緑色の長槍を手に持つ。

 

アイズとベートは頷く。

 

「ああ、あとは割れたポーションとか壊れた手甲が落ちてただけだぜ」

ベートが返す。

 

「うん、矛盾してるね。」

フィンは目を細めながら槍を見て言う。

 

「ミノタウロスは普通Lv 2の冒険者では一人では倒せない、腕を切り落とすとなればLv . 3でも難しいだろう。

しかし、この槍ではミノタウロスを傷つけられない。僕がやってもおそらく槍の方が砕けるだろうね。」

フィンは言い切る。

 

「なら、どうやってあのミノをやったっつうんだよ!」

ベートはいきりながらフィンに尋ねる。

 

アイズも黙ってはいるが目で訴えかけていた。

 

「分からないよ。だけど、僕はこの冒険者に興味があるよ」

そう言いながらフィンは楽しそうに目を細めた。

 

また、アイズも心の中でこの冒険者に興味を抱いき、心踊らせた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

テオ・リード

Lv . 1

 

力:D582  耐久:D546  器用:C681  敏捷:B702  魔力:I0

 

《魔法》

 

《スキル》

・人槍進駆

 

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