ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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中二病ってムズい。俺は邪気眼系じゃなかったからなー、なんかコレジャナイ感がする。
まあ、だいぶ前のリーリエの独白でグラジオくん中二強化フラグを入れてたし、許容範囲だろたぶん。

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この話からSM主人公の名前を間違えていたので修正しました。

(誤)ミツキ→(正)ミヅキ

同日。
修正しきれていなかった所を修正しました。
誤字報告ありがとうございます



厨兄ちゃんという圧倒的語呂の良さ

もうすぐ日が暮れる。近辺にはポケモンセンターがあるため、真っ暗にならない内にたどり着こうと速足で歩く私だったけれど、すぐそこで行われているバトルの音を耳が捉えた。

 

…………元気だなぁ。

 

無意識のうちに随分と年寄り臭いことを思ってしまい、即座に頭を振って思考を打ち消す。なに考えてるの私……!まだぴっちぴちのJSだよ、12歳だよ!?

 

聞こえてくる音から察するに、周辺のトレーナーと比べると実力は高いんだろう。単純な興味に加えて、先程の私の年老いた思考のこともある。時間を気にせず好きなことをやるのが子供らしさだよね、と結論付ければ後は早い。

 

ポケセンへと一直線だった進路を素早く方向転換。好奇心の赴くままに脚を進めるのであった。

 

あと……気の所為かな。このバトルしてるうちの片方の音、どうも最近聞いたことあるような気がするんだよね……。

 

 

 

***

 

 

 

「ん、やっぱりハウだったんだ」

 

 

随分聞き覚えあるなーと思っていた声だけど、近付いてみると特定出来た。ハウだ。ポケモンに指示をだしている時はいつもの間延びした口調じゃないから、気付くのがちょっと遅れてしまった。ピカチュウの声ならカントーでもよく聞いてたうえ、さっきの天使のキッスの印象がヤバかったから、それが聞こえてきたら話は早かったんだけど……どうやら既に倒れていたようで。オシャマリの声は聞き覚えがないからなぁ……。

 

という考え事をしているうちに、どうやらバトルは終わってしまったらしい。オシャマリが見慣れない4足のポケモンに体当たりを決められて瀕死となり、ゲームセット。金髪で黒い服を着た男の人の勝利に終わった。

 

後は掛け金の徴収だけだろう。そう判断した私は拍手をしながら精一杯の笑顔を浮かべ、軽快に彼らの元へ躍り出る。

 

2人からぎょっとした様子で見られた。

泣きたい。

 

 

「…………ミヅキはさー、もうちょっと学習したほうがいいんじゃないかなー?」

 

 

…………解せぬ。

私の行動のどこに非があると?

 

 

「おれー、さっき言ったよねー?『ミヅキがむりに笑おうとして頬を痙攣させてるからねー。はじめての人やこどもにとってはー、尋常じゃないくらい怖く見えるんじゃないかなー』って。

たたでさえ初対面なんだし、こんな薄暗い所で見えない所から覗かれていたんだとしたらー、ビビって当然なんじゃないかなー?」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

 

実際おれもちょっと怖かったしー、なんて言われればもうどうしようもない。私はすぐさま2人へ向けて90°頭を下げる。許してくれるといいなー、なんて思いながらそのままの姿勢を継続すると、ハウではないもう一人の男の子が私へと声をかけた。

 

 

「ふっ……気にすることは無い。いずれは世界の頂点に立つこのグラジオの闘争(バトル)ともなれば、その輝きはあまりにも荘厳に過ぎて直人では目を焼かれてしまうであろう。闇に紛れていたのは英断と言える」

 

 

…………ん?

 

 

「だがしかし!今、お前が俺の前に立ったということは即ち、ここで俺達が闘う運命にあるということを意味する!さあ、傍らにて侍り猛る獣を封ずる紅白の球を持て。俺達の雌雄、ここで決そうではないか!」

 

 

…………え、えっと?何言ってるのこのひと。

無駄に難しく難解な言葉を連発するため、金髪少年――グラジオ、で良いのだろうか――の言いたいことがよくわからない。

 

『目が合ったからバトルしようねっ!』って事だろうか?トレーナー的に考えて。

 

……うん、なら何の問題もない。トレーナーは百の言葉よりも一度の戦闘(バトル)の方がなお雄弁に物語るものなんだ。たとえ今理解出来ていなくたって構わない。終わった後にはきっと、互いを理解して会話ができるだろうから。

 

 

「何も言う必要はない。黙って俺と闘え!――――さあ行くぞヌル!」

 

「――――それはそれとして、せめてもうちょっとわかりやすく話してくれないかな!?」

 

 

 

 

***

 

 

 

「顕現せよ、夜天に飛翔せし闇の鳥(ズバット)!」

 

「お願い、ドデカバシ(・・・・・)!」

 

 

――――今なんて文字書いてズバットって言った?もしかすると、アローラの方言なのかもしれない。あまり聞いたことないからわからないけど、こんなものなのかな?

 

グラジオの言動はある特定の年齢層の人々はいたく気に入り、それよりも少し年がいった人は背筋を震わせ、魔境(ホウエン)のチャンピオンであるユウキでさえ冷静ではいられないという強力な精神攻撃である。だが、とある病に極めて無知で穢れない(ピュアな)ミヅキには通用しない。

 

アローラへの熱い風評被害を押し付けて、レベルの暴力(ドデカバシ)へと指示を出す。

 

 

「――ドデカバシ、ロックブラスト!」

 

 

特性(スキルリンク)によって強制的に攻撃回数を5回まで引き上げられたロックブラストがズバットを襲う。岩の一つ一つの威力は決して高くはないが、ドデカバシの優れた攻撃力で放たれた技だ。圧倒的なレベルの差に、ズバットの弱点(岩タイプ)であることも加わるとなれば、一撃だけで瀕死となるのは確実だった。

 

 

「甘いな――この程度の攻撃さえも回避出来ないほど、俺の一番槍は容易くはないぞ!」

 

 

そう、だった(・・・)――――過去形である。狙いが甘い(命中率90%)という弱点を付かれ、ロックブラストの全弾を回避しきるズバット。その姿に唖然とする気持ちを抑えきれなかったため、一瞬の隙がミヅキに生まれる。

――――それを狙わないグラジオではなかった。

 

 

懐疑を付与する幻惑光(あやしいひかり)!」

 

 

相手を惑わし混乱状態にする光がドデカバシへと命中した。ふらついて動きが鈍くなった姿を見たミヅキは小さく舌打ちをし、素早くドデカバシを引っ込めて混乱の状態異常をリセット。次のポケモンを繰り出す。

 

 

「お願い――フクスロー!」

 

 

そしてフクスローがフィールドに現れ――一瞬の硬直。グラジオが嗤う。

 

 

「千里を超え、アカシックレコードに記されし森羅万象を見通す俺の『瞳』より逃れられるものなどありはしない!

その交代は読めていた――再度惑わせ、闇の鳥よ(ズバット)!」

 

 

逃れられない一瞬に放たれる怪しい光。元より命中率は100%なのだ、外れる道理などありはしない。不遜な笑みを浮かべるグラジオに対し、ミヅキはどこまでも真顔だった。

真顔で、平然と(・・・)指示を出した。

 

 

「――――ついばんで」

 

 

直後動き出すフクスロー。その動きには混乱状態特有の迷いが一切見られない極めて鋭敏な挙動だった。面食らったグラジオだが、それでも指示の遅れは僅か数瞬だった。

 

 

不浄を払いし双つの翼(つばさでうつ)!」

 

 

だが、その数瞬が命取りだった。もとより同じタイミングで指示を出された場合でも素早さの差によってフクスローが先手を取るのだ、遅れてしまったのならば言わずもがな。後手に回ってしまったズバットはあまりに容易く翼を折られて地へと堕ちた。

 

 

「くっ、よもや俺に解読出来なんだ記述が下僕の命取りとなるとはな。禁断の果実(ラムのみ)、か……まったく、未知とは忌々しいものだ」

 

「…………確かにラムのみであってるんだけど……なんか違うというか、心情的に否定したいというか」

 

 

そう、ミヅキがフクスローに持たせていたものはラムのみだった。先程ハウにも交代と同時に状態異常を狙われたので警戒していたのだが――保険が効いていたようで何よりだ。ミヅキは僅かに安堵すると同時に、なんか妙なつっかえを抱く。

 

 

「だが――構わん!たとえ世界が俺に仇なすとしても、アカシックレコードが偽りの記述を伝えようとも、『瞳』に映りし総てが夢幻に過ぎなかったとしても――俺は相棒(ヌル)と共に世界の頂点に立つ!神よ、ただ刮目せよ!行くぞ相棒――叡智を宿す超越世界への牙(タイプ:ヌル)!反撃の時は訪れた!」

 

「うわー、絶対人の話聞いてないよこの人。なんか勝手に盛り上がってるし。本当にバトルするとトレーナーは分かり合えるんですかユウキさん。次第に温度差が広がっていくような気がするんですけど」

 

 

グラジオが出したのはタイプ:ヌル。Sを除いた種族値がオール95と安定しているポケモンである。それは器用貧乏とも取れるが、このレベル帯では未進化なために充分な種族値を持たないポケモンが多いため、相対的には極めて優秀なステータスを誇っている。

 

ミヅキはこの情報を知らないが、準伝説級(タイプ:ヌル)から溢れ出るプレッシャーから、生半可な気持ちで戦うと敗北すると本能的に理解する。元より加減するつもりなどなかったため、特に意識を変える必要はないのだが。

 

先程のやり取りによって僅かながらも途切れていた集中力を再度研ぎ直し、心を落ち着けてフィールドを俯瞰する。手持ちは2vs1。数の上ではミヅキが有利だが、だからといってヌルはそう簡単には破れない。何をするべきか考えて、ミヅキはフクスローへと指示を出す。

 

 

「ついばむ!」

 

原初にして最強の戈(たいあたり)!」

 

 

なにをどう考えようとも、結局フクスローはフルアタに過ぎないのだ。よく考えるまでもなく攻撃特化なのだから、不慣れな領分に手を出すよりも、ひたすら削っていく方が性に合う。

 

ヌルとフクスローの攻撃はフクスローに軍配が上がったようだ。それは素の技の威力か、それともレベルの差なのか。どちらにせよやることは変わらない――敵を討て。その思いのままに両者が指示を出す。

 

 

「もう一度!」

 

「行け、ヌル!」

 

 

触れ合うほどの超近接距離(ゼロレンジ)で、真正面からぶつかり合う2匹のポケモン。高速で複雑に行われる戦闘に、トレーナーの介入する余地はない。下手な指示は自分のポケモンの行動を遅らせ、命取りとなるだけだろう。超一流(トップクラス)ともなれば話は別だが、少なくとも2人は未だその領域にたどり着いてはいないのだから。

 

フクスローが穿ち、ヌルがはね飛ばす。無限に続くかと錯覚させる攻防の果てに、両者はこれまでの比較してあまりにも遠く距離を取った。体を地に強く押し付けたヌルに対し、フクスローは高高度で姿勢を安定させ――

 

ヌルが繰り出したのは、四肢をめり込む程に強く地に押し付けて、これまでよりも遥かに強い勢いでの体当たり。

そしてフクスローは、飛行タイプというアドバンテージを活かし、高高度からの位置エネルギーを一点に集約させたついばむを放つ。

 

周囲一帯に肉と肉が衝突した鈍い音が響き渡る。空中で激突した両者はそれっきり動きを停止し、共に地面へと墜落した。

僅かな沈黙を挟んだ後、立ち上がったのは一匹のみ。

 

そして、グラジオは呟いた。

 

 

「ふっ――憎い奴だ…………」

 

 

立ち上がったのは――――フクスロー。

泥に塗れながらも胸を張るフクスローに、ミヅキは服が汚れるのも構わずに勢い良く抱きついた。

 

 

***

 

 

グラジオはその光景を見ていたが、やがて興味を失ったかのように顔を逸らし、もう一人――傍観者でしかなかった少年へと語りかける。

 

 

「どうだ、これこそがお前が渇望せし心の強さだ。お前は確かに強いだろうさ。それはアカシックレコードにも記された事実だ」

 

 

えー、おれって強いのー?とハウは照れたように笑いながら言葉を返す。

そんな彼へ、グラジオは決して視線を向けない。ハウの言葉を聞いているのかさえ定かではない。ただ言葉を先へと進めた。

 

 

「――――だが、俺の『瞳』に見えないものなど存在しない。お前はただ強いだけ(・・)だ。心構えには常に『諦め』が存在する。無様だな。故に壁を破ることが能わないのだ。自分を、そして同胞(パートナー)に全幅の信頼を抱け。自分を信じられぬ者が、どうして世界と向き合うといえよう。偉大なる祖父(しまキング)だからどうした(・・・・・・・)。我も(トレーナー)、彼も(トレーナー)、故に対等だ基本だろう?

 

俺に勝てぬ相手などいない。たとえ今勝てぬとしても、不断の意志を以て己を鍛え、いつか(・・・)必ず勝利をこの手に収めてみせる。

俺は独りではない――ヌルがいるのだからな。

 

 

――――ハウ、お前はどうなんだ?」

 

 

グラジオの言葉に、ハウが常に被っていた笑顔の仮面に罅が入った。彼は漸く自覚したのだ。自分の中にあった無意識の諦め――祖父には勝てないという諦念を。

 

ハウは今、漸くトレーナーとしての第一歩を踏み出した。ハラにも、そしてミヅキにも勝てないのではないかという幻想を断ち切った。勝てないのではない、勝つのだと。今は無理でも、いつかは必ず――と。

 

そして――――なんか無性に苛立ってきた。何人の事情を知った気になって好き勝手言ってくれてんだろうこの人は。

無様?強いだけ?そんな気取ったよう(中二スタイル)な言動をしている相手に言われたくはない。遠慮なんてしてやるもんか。そっちがそうだってなら、こっちだって好きに言わせてもらおうか――。

 

ハウはグラジオの言葉に答えようとして――――邪魔が入った。

 

 

「プーゲーラッwwwグラジオくん負けてやんのwww用心棒のクセに島巡り途中のガキに負けてやんのwww」

 

「悔しいでちゅかー?悔しいでちゅよねー。だってグラジオくんAIBOと一緒に世界の頂点(爆笑)に立つんでちゅもんねー」

 

「そのクセド素人に負けるとかマジウケるーwwwねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?俺は相棒と共に世界の頂点に立つ(キリッ)とか言っといて通りすがりのJS(ロリ)に負けるとかマジ無様wwwねぇ今どんな気持ち?」

 

「悔しくて悔しくて泣いちゃいそうでちゅー!良いもんボクちゃんにはAIBOのヌルがいるんだもんねー!」

 

「プギャーwwwお坊っちゃんはいいねぇ泣きつく相手がいてwwwそうだね君は1人じゃないもんねヌルがいるからねwwwスカル団内では絶賛ぼっちなうですけどwww」

 

 

煽りと共に表れたのはスカル団のしたっぱだった。

 

グラジオとはさほど接点がなく、かつ先程までブチ切れてたハウからしても、やりすぎなんじゃ……と思ってしまうほどに無意味に高すぎる煽り。

こっそりとグラジオの方を伺ってみると――

 

 

(うわー、なんか視線で人殺せそうなくらい睨んでるよー!おでこなんて血管めっちゃ浮き出てるしー!)

 

 

「……………………ハウ」

 

「う、うん……」

 

 

背筋が凍るような声だった。心なしか周囲の空気も冷えきっており、まるで湖一つが(・・・・)まるっと(・・・・)凍りついた(・・・・・)ような冷気が体を襲う。

グラジオが抱く凍てつく憤怒に、ハウは一言を返すことしか出来なかった。

 

そんなハウへと意識を向けることなく、グラジオは一片の躊躇いもなしに懐から取り出した元気の塊をヌルの口元へと放り投げる。

HPが全回復して途端に元気を取り戻したヌルは、ゆっくりと立ち上がってグラジオの傍らへと歩み寄る。

 

 

「お前は決して手を出すな。奴は俺の逆鱗に触れた。俺はともかく、相棒(ヌル)を侮辱するならば――潰す。

完膚なきまでに潰す。地獄の業火に焼かれながら、このグラジオの憤怒を理解しろ。

 

――いや、理解しなくていい。疾く死ね。拒否など認めない」

 

 

ハウは内心で決意する。

グラジオへの苛立ちは残っているし、わざわざ遠慮をするつもりはない。だけど――程度は弁えたものにしよう、と。

 

 

 

 




前々話での闇堕ちフラグが速攻断ち切られるハウ君。個人的にはもうちょっと引き伸ばしたかったんですが……原作でイベントがこうも連続してるのが悪い。あと厨兄ちゃんが意味深なセリフを連発してたのが悪い。

……俺は悪くねぇ!

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