ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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スイレンの試練です。
予め言っておきます。我らが主人公が割と……どころか尋常じゃなく好き勝手やっています。


逃げるヤツってなんか追いたくなるよね!

「勝った!スイレンの試練完!」

 

「ゆ、ユウキさん!?」

 

「ちょっと待ってください!!」

 

「…………なんだ、不服があるのか?主ポケモンなら倒しただろう?」

 

「不服と言いますかなんと言いますか………いやでもこれはあんまりじゃないですか!」

 

「逃げる方が悪い」

 

「シンプル!そして酷い!?」

 

「も、もしいきのいい海パンやろうさんがいたらどうするつもりだったんですか!?」

 

「…………それくらい水飛沫で分かれ。明らかに人間じゃないだろう?さっきは本当にいたんだが――僕らが進む時にはいなくなっていた」

 

「え、本当にいたのですか!?

あ、いや、だからって………だからってなにも………!」

 

 

 

「「せせらぎの丘すべてを氷漬けにすることはないじゃないですか!!」」

 

 

 

せせらぎの丘。

階段状に並ぶ湖と滝が美しく、釣りスポットとしても人気の高い、アローラに来たならば1度は見るべき観光名所――――であった(・・・)

 

過去形である。

今のせせらぎの丘は熱帯に有るまじき気温0°cアンダーの寒冷地域へと早変わりしていた。幸いにして被害は水面だけであるものの、湖も滝も、ポケモンさえも凍てついた氷の世界である。ある意味壮絶な絶景ではあるものの、こんなモノ誰も望んではいない――元凶を除き。

その元凶(ユウキ)は、一つの観光名所を無許可に劇的ビフォーアフターさせた事に特に何の感慨も懐いていない口ぶりで告げる。

 

 

「…………悪いな、1度逃げられたら周囲すべてを巻き込んででも追い詰めなきゃ済まない性格(タチ)なんだ」

 

「なんて傍迷惑な……」

 

「結局ラティオスはリラに取られたし。ラティアスこそゲット出来たものの………アレは本当に悔しかった」

 

 

ユウキは心底悔しそうに言うが、その場にいる2人――――スイレンとリーリエからすれば溜まったものではない。寒い。南国風の薄手の服装をしている2人にとって、この環境は過酷に過ぎた。

 

加えてスイレンにとっては自分の試練の場がこうなり果ててしまい、管理責任が問われることになりそうで肝も冷える。

リーリエに至っては諦めの境地である。これがエーテル財団に伝われば、ユウキさんの同行者ということで自分の存在が母にバレるかもしれない。いや、かもしれない、じゃなくて絶対バレる。連鎖的にククイ博士や空間研究所のみんなのこともバレる。公的にも私的にも自分達の事を追求するだろう。背筋が寒くなる様だった――物理的にも精神的にも。

 

 

――というかどうしてこの人(ユウキさん)平然としていられるんですか!?

 

 

もちろん経験豊富(・・・・)だからである。元の世界でもユウキは日常的にこういった行為をやらかしていた――が、勿論この世界にそれを知る者はいない。元の世界でもポケモン協会が必死こいて揉み消していることで、極めて事実に近い噂程度に収まっていた。

それを事実だと確信しているのは本当に僅かであり、その僅かな人々とは即ち廃人連中である。彼らにとってその行いははやって当然の事で、どこが悪いと言わんばかりにスルーしていたのである。

 

ちなみに、最も被害を出しているのはリラだ。(規模)より()なのがリラで、()より(規模)なのがユウキなのだ。バトルフロンティアで確保している準伝説の殆どは彼女が捕獲したポケモンである。

準と付くとはいえ、数多くの伝説を捕らえ続けた彼女の偉業(被害総額)は伊達じゃない。

 

 

妙に慣れた手つきで解凍を始めるユウキに、2重3重の意味で震えが止まらない2人であった。

 

 

 

***

 

 

 

――――時は数時間前に遡る。

 

 

 

「ここがせせらぎの丘、ですか……」

 

「階段状に流れる自然の湖、ね……各湖ごとにポケモンの生息はバラけているのか?」

 

「……………そんなことより、綺麗だと思いませんか?ほら、あそこで2匹のポケモンが泳いでいますよ!競走でもしてるんでしょうか!?」

 

「コイキングLv.19とヒンバスLv.16か。一緒に泳いでいるように見えるがその実アレは戦っているな。ヒンバスは親が優秀なのかタマゴ技を多く持っててレパートリー上は有利だが、レベルが低いために速度でコイキングに追いつけずにいるな。コイキングははねる・たいあたりしか技がないからレベル差生かしてひたすら逃げているだけだ。生と死を分ける競走という訳だな。あと1レベ上がれば進化して逆に追いかける立場になるのだが」

 

「………………ほら、あれなんてどうでしょうか?ニョロモたちがじゃれあってるようにみえませんか?」

 

「群れの頂点争いをしているんだろう。特性にちょすいがあるから水技以外を使って戦うしかないんだよ。見たところLv.18前後だから往復ビンタしか攻撃技が使えず、勝負というよりは運ゲーになっているが。それが結果的にじゃれてるように見えているんだろう」

 

「…………………………あの水飛沫は?」

 

「いきのいい海パンやろうが潜っているだけだな。アイツらは海パンだけで深海まで潜っても平然としている人種だから、心配するだけ無駄だ」

 

 

いきのいい海パンやろう:

たとえ 海底だろうと そこに 海があるなら 潜ってやるのが 真の 海パンやろうだ!

主な生息地:深海

使用ポケモン:ハンテール、サクラビス、ジーランス、ランターン、ホエルオー、パールル(しんかのきせき)

ダイビングが必要な深海でも海パン1丁で潜水し活動出来る海と共に生きる漢。平均6時間は潜水を続けることが可能であり、いきのいい海パンの王ともなれば24時間潜り続けられる。深海のことについては誰よりも詳しく、ユウキが海底洞窟へ辿り着けたのも彼らの助けがあってこそ。

 

 

「本当に人間なんですかいきのいい海パンやろうって!?

そしてユウキさんには綺麗な景色を見て楽しもうという気持ちがないのですか!?」

 

「いきのいい海パンやろうは海の漢(トレーナー)だ。あと、僕が景色に感動することはない。理解してるだろう?」

 

「そうでした……この人頭おかしかったんですよね……」

 

 

あとホウエンってなんでそんなに魔境(ホウエン)なんですか……と黄昏るリーリエには目もくれず、軽く気配を確かめる。

…………奥の方にちょっと普通じゃない気配。この気配は主ポケモンのものだろう。イリマの試練における、即座に爆散した金色なオーラを纏った妙なポケモンに通じるものがあるのだから――っと。

 

 

「――――いきのいい海パンやろうについての話、もっと聞かせて頂けませんか!?」

 

 

遠くの気配を探っているあまり、周囲の気配を察せなかったようだ。声をかけられるまで気が付かないとは僕もまだまだだなと自嘲し、かかってきた声の方向への振り向く。

そこにいたのは青い髪を有する少女だった。瞳を輝かせてこちらへと話しかけてくる彼女に内心辟易としながらもさりげなく実力を測ると、だいぶ上等な部類に入っていることが理解できる。特定は容易いものだった。

 

 

「それ自体は特に構わないが…………試練はどうする?キャプテン(・・・・・)

 

 

そう、この少女はキャプテンだ。あどけないようにも、いきのいい海パンやろうキチの様にも見えるが、実力は紛れもなくホンモノである。水タイプ使い――専門を同じくするアダムやミクリ(元ホウエンチャンピオン)と比べると流石に雲泥の差があるが、傘下のジムトレーナーと比べると実力は遥かに高い。あっちは元々ミクリのファンクラブなのだし。

 

 

「あっ、そうでした…………というか、わたしがキャプテンであるということを一瞬で見抜かれてしまったのですね。はい、スイレンと申します」

 

「トレーナーのユウキだ。こっちはいきのわるいビキニだったお姉さんの」

 

「違います!!

………コホン、リーリエと申します」

 

 

サラッと自己紹介を済ませ、いきのいい海パンやろうの説明を始める。大体上記した通りの説明が終わった後に、スイレンは腕を組んで深く頷き、納得したかのように息を吐いた。

 

 

「なるほど、今までわたしがいきのいい海パンやろうを見つけられなかったのは、湖や海面を探していたからなのですね」

 

「アローラはそもそも深海へのダイビングを禁止されているからな。ホウエンと比べて遭遇する機会が少ないのだろう」

 

「ホウエンはダイビングが自由なのでしたか?深海のポケモンとも会う機会が多いのでしょうし…………全く、羨ましいことです」

 

「え、ホウエンってダイビングが自由なんですか?」

 

 

そのタイミングでリーリエが口を挟んだ。彼女のルーツがどういったものなのかはあまり興味がないが、箱入り娘だったために妙な所で世間知らずだということは理解している。まあ説明くらいはしてもいいかと思う一方で、そして果たしてこの世界とは共通しているのかという僅かな疑問を抱きながら解説する。

 

 

「ん、ああ。ポケモンがいるのなら捕まえようと考えるのが魔境(ホウエン)修羅(住民)だ。ダイビングの秘伝技マシンが開発されてから一時期は深海のポケモンが乱獲されて絶滅の危機にあった位だし。それをなんとか解決したのがいきのいい海パンの王なんだが……それはまあ別でいいだろう」

 

「良くないです聞かせてください」

 

「後でな。

そんな感じで当時のダイビングはあくまで珍しいポケモンの住む領域へと辿り着くための技だったんだが、一部の人間が『これ観光利用できるんじゃね?』と思って一般に広めてからはそんな平和な話になった。海が深い所(ダイビングポイント)におけるダイビングの禁止令がないのは、そんな事をして希少なポケモンの生息地を逃しては開発した意味がないからだ」

 

「予想以上に夢のない話でした!?」

 

 

話を終えると、リーリエは随分とショックを受けたような顔をしている。そりゃあホウエンですし、とスイレンが声をかけると膝をかかえて座り込んだ。夢だの幻想だのに憧れる少女だったのだろう。僕からは慣れろとしか言いようがない。ミヅキだって急速にスレて(・・・)いったのだから。

 

 

「ともかく、この試練の説明を要求する。何をすれば達成になるんだ?」

 

「あ、はい。あの湖を見てください」

 

 

彼女が指し示した方向を見ると、湖の1点に無数の泡が浮かんでいた。人のものではない。無数のポケモンが収束している……のだろうか。何にせよ発される気配は決して強くない。

 

 

「あの泡の原因であるポケモンを倒して欲しいのです。いいものを差し上げますので」

 

 

ライドギアにラプラスが登録された!

 

 

「なるほど、コイツに乗ることで波乗りができるのか。…………流石、専門の訓練を受けているだけあって乗り心地がいい」

 

 

さっそくラプラスを呼び出して乗ってみると、想像以上に乗り心地が良い。思ったことをそのままスイレンに伝えると、そうでしょうと自慢げに頷きを返す。曰く、だってわたしが育てたのですから、との事。

僕もブリーダーとして最高峰の実力は備えていると自負しているが、それは戦闘向け――強くするという方向に限定される。こういった器用な育成が出来るなら尊敬してもいいくらいだ。少なくともその分野では僕が追いつくことはできないだろうから。

 

まあいい、と割り切ってラプラスを走らせる。こちらの挙動から求められている行動を察して適切な動きをとるあたり、やはり素晴らしい。ホウエンの頃からの付き合いであるミロカロスでさえ、このような波乗りが出来るかは怪しいぞ。

 

とりあえず何も考えずに水飛沫の方へとラプラスを進める。決して速くはないがゆったりと近付いていき――――

 

 

――――逃げられた。

 

 

その時の僕の心境をどう話せば良いのだろう。過去の記憶が思い起こされる。音速(マッハ)で逃げるラティオスを必死こいて探し、何度もエンカウントしてその都度少しずつ追い詰めたのに、結局ゲットしたのはリラだったという赫怒が彷彿される。

野生のポケモンは普通逃げない。だからこそ今回の逃げられたという体験はダイレクトにその記憶を刺激し――

 

 

――――端的に言ってブチ切れた。

 

 

何故かその場に一匹だけ残っていたヨワシを右ストレート1発で瀕死へと陥らせ、水切りの要領で水面で幾度とバウンドさせて遠くまで弾き飛ばす。躊躇いはない、これが育成力(物理)である。ラプラスが妙に怯えた目でこちらを見るが、この程度は些細な事だ。驚かれてもこっちが困る。

 

そして気配を辿ると、本来の獲物は滝を下って下の湖へと降りた様だった――――嘲笑。その程度で僕から逃げ切れると?せめて音速は超えろ、と嘲りを向け、ラプラスの甲羅から跳躍する。空中でライドギアを操作してラプラスを戻しながら反対側の陸地へと着地。落下の勢いを殺すことなく素早く下り坂を降りて湖へと到達する。

 

解放されるモンスターボール。最も美しいとされるポケモン(ミロカロス)がアローラ有数の美麗な湖へと現れた幻想的な光景に目もくれず

 

――――殺意を告げた。

 

 

「最大出力だ――――れいとうビーム」

 

 

そして湖は氷に包まれ――――始まりに戻る。

 

 

 

***

 

 

 

「ついカッとなってやった。反省しているが後悔はしていない」

 

「後悔もしてください!本来は最後に群れた姿(ツヨシver.)で挑ませるつもりだったのに!」

 

「あとせめてポケモンにはポケモンを使ってください!右ストレートでワンパンってなんなんですか!」

 

「育成足りてないのが悪い。普通育成限界(Lv.100)まで育てるだろうが。

ちなみに群れた姿だかな、トップクラスのブリーダーが育成した場合は全能力を元々のステータス×ヨワシの数まで跳ねあげるぞ。多少高くなった種族値程度で妥協してどうするつもりだ。

大体なんだ、ヨワシという名前からして弱いだろう。せめて名前だけは強くあろうとしろよ恋の王様(コイキング)みたいに」

 

「………うう、わかりました、わかりましたからもう勘弁してください。水のZクリスタルと釣り竿あげるので」

 

 

ユウキは水のZクリスタルを手に入れた!

ユウキはスイレンの釣り竿を手に入れた!

 

 

清々しい位にハートフル(ボッコ)だった。リーリエの視点からは最早カツアゲにしか見えない。目元を潤ませながらZワザの動きを教えるスイレンを見て尋常じゃない申し訳なさを覚える。同行者がごめんなさい。わたしは無力でした。

 

ちなみに、リーリエがこんな余裕を持って――現実逃避とも言う――考えられる理由の一つとして、ここせせらぎの丘が通常の状態へと戻ったことが挙げられる。

 

凍りついた湖を前にユウキが一つのボールを掲げただけで、氷点下だった気温がアローラ全土を基準としても煮えたぎるような灼熱となり、日輪が煌々と輝きを放つ。天候変化だとしても、ここまで強力なものは知識にも存在していなかった。それが単なるにほんばれであるとは到底思えない。

その日照り(・・・)の影響ですべての氷は融解し、せせらぎの丘は元の絶景を取り戻した。凍りつくのが一瞬だったため、多くのポケモンの生命に異常はない。

 

その辺でリーリエは、これが異世界のホウエンクオリティなのかと現実逃避した。バックに入っているコスモッグ(ほしぐも)もなんら反応を示さずフリーズしている。規模と世界観が明らかに違いすぎていた。異世界とはいえダイビングが自由に出来るという話を聞いて全てが解決した後に1度は行ってみたいと思ったこともあったけど――絶対嫌だ。巻き込まれたら死ぬ。生命が幾つあっても足りないと確信出来てしまう。

リーリエは知らないとはいえ、ダイビングの最中に他の人間のバトルに巻き飲まれて死亡する観光客も実在するのだから。

 

ここでユウキが真実――ここまで好き勝手が出来るのは100人に満たないと告げても、リーリエが知る限り、アローラにはいないのだから何のフォローにもなっていない。というか1人いるだけで許容範囲外だ。巻き込まれる立場にもなって考え――――たけどユウキさんなら嬉嬉として混ざりますよね?

 

アローラのレベルが低いのではない。ホウエン地方、引いてはバトルフロンティアのレベルが頭おかしいのだ。育成限界(Lv.100)になってからがスタート、上位トレーナーは準伝説を持ってて当たり前とする環境は、常人からするとキチガイという一言でまとめられる。

 

だからこその現実逃避。

結局彼女が帰って来たのは、あまりに頼りになりすぎる同行者が声をかけてからだった。

 

 

 

 




リーリエ
(ユウキさんのこと、これまでは接した事がないタイプだから苦手だったのですが、今は客観的に見て頭おかしい人だと思うので尚更苦手です…………)

ギャグ風味でやってますが、Lv.100のポケモンが全力を出した時の周辺への被害状況ってこんなんで良いのかなーと思いながら書いてました。設定上ユウキのパーティーはフレーバーテキストの性能を含む伝説のポケモン(グラードンとカイオーガ)を(レックウザがエアロックすれば)ボコれるレベルなので、まあこれ位ならはっちゃけても良っかーと。この辺の設定を普通のバトルにまで持っていくと泥沼にハマりそうなので辞めておきますが、トレーナーもこういった攻撃の余波を喰らうかもしれないと考えると、実はみんなスーパーマサラ人になる可能性を秘めている可能性が微レ存……?


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