ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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最近文字数が減りつつある件について。
5000字ちょいオーバー位をウロチョロしてます



バタフライエフェクト……つまり、蝶舞だな!

 

カンタイシティでユウキさん達と別れてから、私は次の試練の場所――せせらぎの丘へ続く4番道路を歩いていた。

流石は熱帯ということもあって、軽く周辺を見渡してみるだけで、カントーでは見られないような、暖かい場所にしか生息しない植物が多く見られ、多大な新鮮味を感じてしまう。今更ながら、これが島巡りの醍醐味なんだ。島のあちこちを自分の足で歩き、広大な自然を感じて成長する。

メレメレ島ではそんな余裕なかったからなぁ………。

 

確かに、ユウキさんの教えはためになったし、この先自分が成長する上で欠かせない土台作りもしてくれた。感謝の気持ちはもちろんあるんだけど……私だって女の子だし、こういった風景を楽しみたいという気持ちは大きい。あのユウキさん(バトル脳)はそれがわかってない。戦闘での読みは尋常じゃなく鋭いのに、どうしてここら辺はポンコツなんですかユウキさん!せっかく五感全部人外クラスなんだから日常生活にも活かしてくださいよ!そんなんだから彼女いn――――げふんげふん。

 

そんな益体もない思考をしながら、目に付いたトレーナーに片っ端から勝負を選び、速攻で叩き潰す。余計な行動なんてしない、ワンパンだ。育成(レベル)の暴力だ。

当初ユウキさんからは『自分の戦闘方法(バトルスタイル)を確立させろ』と言われていたんだけど…………正直な話申し訳ないけれども、ここ周辺のトレーナーとは実力が離れすぎていてまるで意味をなさないんだよね……。

最初こそ様々な試みをしていたけれど、軽い牽制で瀕死になるか、もしくは瀕死寸前の状態なのに色々試されて絶望し目が死んでいく姿を見るとこちらの心がキリキリと痛む。私は鬼畜でも廃人でもサディストでもないので、そんな心理的外傷(トラウマ)扱いしなくても……。

 

慣れた手つきで敗北者から掛け金を徴収してからその場を離れると、周囲から無遠慮な、しかし明確な怖れが含まれた視線が突き刺さる。そんな怖がらなくても……と溜息を吐きたい気持ちを無理矢理に堪えた。そんなことしたらむしろ悪化しちゃうからね……。

そういえば、とオハナタウンのゲートを潜る寸前に思い出す。笑顔はコミュニケーションを潤滑にするって誰かが言ってたし、とりあえず微笑んでみることしにした。

 

 

にっこにっこにー()

 

 

 

「――――なんで引かれたんだろ」

 

「そりゃー、ミヅキがむりに笑おうとして頬を痙攣させてるからねー。

はじめて見る人や小さなこどもにとってはー、尋常じゃないくらい怖く見えるんじゃないかなー?さっきまで暴れてたってこともあるしー」

 

「――――ぐはッッ!!」

 

 

…………独り言に対して突っ込まれた言葉によって掘り起こされるカントー地方でのトラウマ。

こちらが一生懸命近寄ろうとしているのに、距離を縮めるごとに全力で逃げるスクールのクラスメイト。その理由について聞いた時に、

 

『だってミヅキさん、ずっと真顔で怖いから…………』

 

って返されて絶望した瞬間を思い出す。そのせいで私にはアローラ(ここ)に来るまで友人が極々少数しかいなかったんだよね…………軽くナイーブになる。

 

でもまあ今は友達がいるからいっかーと割り切って現実復帰。声がかかってきた方向を見ると、案の定そこにはハウの姿があった。この間延びした特徴的な話し方は彼のものだし、判断なんてよゆーですよよゆー。

 

 

「なんかー、引っ越してきた時と比べて性格ぶっ飛んでないー?」

 

「………自覚はしてる。たぶん、ユウキさんのスペシャルプログラム(時間制限につき超詰め込みver.)受けたからかな?ハウもいつか受けてみるといいよ、私の気持ちが少しわかるから」

 

 

アレはヤバかった…………と(声だけは)朗らかに笑う私を見て、ハウが常に浮かべている笑顔に微妙な亀裂が走る。ハウは常に笑顔を浮かべているため人にとってはサイコの様に映るかもしれないが、私と比べると表情変化(差分)豊かである(多い)。まだまだ甘いな、という無意味な優越感に浸る私に、ハウはポケモン勝負(バトル)を提案してきた。

 

 

「オハナタウンでのポケモンバトルってー、なんかー、西洋劇みたいな感じがするよねー!」

 

「そうだね――――じゃあ、行くよ?」

 

 

――――簡単には倒れないでね、ハウ。

 

 

 

***

 

 

 

 

「行くよ、アブリー!」

 

「ピカチュウ!」

 

 

私の先頭はアブリーで、ハウの先頭はピカチュウ。これまで彼の先発だったピチューが進化したんだろう。レベルもそんなに高くないのに進化しているあたり、ハウのポケモンに向ける愛情の程が伺える。大好きなんだね、ポケモンのこと。

 

――――ま、だからって勝ちは譲らないし、そもそも私が愛情で負けてるとは思わないけど。

 

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ちょうのまいをしながら回避して舞を継続!蝶舞最優先で積めるだけ積んで!」

 

 

電光石火という圧倒的な速度(優先度+1)によって先手を取ったピカチュウに対し、私は蝶舞を指示する。電光石火の命中率は100%だが、それは技を受けるポケモンが対処行動を何も取らない場合だ。かわせ!と指示すればワンチャン回避は可能である――――byユウキさん。

必中技?無理無理絶対無理。つばめがえし――平行世界の自分を呼び出して全く同時に攻撃する技なんてどうやれば躱せると?

 

アブリーは蝶舞を行いながら、自然な形で電光石火を避ける動きをとる。ピカチュウは普段地上を走っているのに対し、アブリーは元々空を飛んでいるポケモンだ。空中での動きの自由度は比ではなく、蝶舞に影響が出ない程度の微弱な回避動作でもカスる程度に抑えられる。多少のダメージはあるが、蝶舞が継続しているのならば問題はない。CDS一段階ずつアップのぶっ壊れ。本来覚えられるレベルには達していないけど、ユウキさんに頼んで覚えさせて貰った技だ。

 

 

「蝶舞継続――もっと積んで!」

 

「なら――ピカチュウ、てんしのキッスだ!!」

 

 

舞うような動きを止めないアブリーに向けて、ピカチュウはてんしのキッスを行う。ピチューの時にのみ覚えられる技だ。キスってことは接近する(・・・・)必要がある(・・・・・)のだから、電光石火と同様に蝶舞をしながら回避するのが吉か。混乱するほどのキスなのだから、最低限マウストゥマウスくらいのショックは必要だろうし――――って、

 

 

ヘイガール(はぁと)(ピカ、ピカピッカ)

 

「まさかの投げキッス!?あっ、アブリー!?」

 

 

効果に関する知識はあっても、技のモーションに関する理解が足りてなかった!?

やたらとダンディーな挙動で投げキッスを行ったピカチュウに唖然となり動きが鈍ってしまったアブリーへと投げキッス(物理)が命中し、混乱の状態異常へと陥ってしまう。

 

混乱は技が低確率で自傷技となってしまう厄介な状態異常ではあるけれど、手持ちに引っ込めると元に戻る。ただし、ただ戻すだけではせっかく積んだ蝶舞が無意味なものになる。数巡迷い、選んだ選択は――――

 

 

「アブリー、バトンをつないで!」

 

 

バトンタッチ――能力変化を受け継いでポケモン交代を行う技だ。混乱したままでもアブリーならきっと発動できると信じて――身も蓋もないことを言ってしまえば、ハウのピカチュウのレベルなら電光石火以外に物理技はないため、自傷したとしても1発は耐えられると判断したのだ。特殊技なら2ランク上昇したDで耐久余裕です。

 

果たして結果は――――成功(ヒット)!返ってきたアブリーの入ったボールを素早くホルダーに戻し、次のポケモンをフィールドへと繰り出す。ボールが破裂して中からポケモンが表れ――次の瞬間に叩き込まれるてんしのキッス。交代した直後にはどんなポケモンであろうと隙が出来る。それを狙い撃ち、状態異常で少しでもリードを稼ごうとしたハウの判断はベターではあるけれど、

 

 

「――――ベターだからこそ、読みやすいんだよね」

 

 

ボールから表れたのはエーフィ――特攻(C)特防(D)素早さ(S)に優れたエスパータイプのブイズである。4番道路で捕まえたイーブイがいつの間にかなつき進化したのがこのエーフィだ。単純に速くて火力が高いだけでなく、もう一つ重大な特徴がある。それは――――

 

 

「えっ――ピカチュウ!?」

 

 

ハウの絶句する声が聞こえる。それも当然だろう。相手を混乱させる筈が、まさか自分が(・・・)混乱する(・・・・)とは思いもしなかっただろうから。

 

そう、このエーフィは夢特性(マジックミラー)。変化技は通用しない。

 

 

「っ――でんこうせっか!」

 

 

混乱の状態異常になりながらも、ピカチュウは主の命中に従って電光石火をエーフィへと命中させる。優先度が高い以上は幾らSを積んでいようが無意味だし、エーフィの防御力は決して高くない。表情に苦悶の色を宿すものの――――これで終わり。

 

 

「エーフィ、アシストパワー!」

 

 

電光石火が命中した直後の外しようがない至近距離。2ランク×3ステ×威力20、合計威力120のタイプ一致技がピカチュウへと直撃し、HPを一瞬で削り切る。

 

 

「っ――オシャマリ、アクアジェット!!」

 

 

2体目のポケモンはハウがハラさんから頂いたアシマリが進化したポケモン、オシャマリだ。ボールから放たれたと同時にアクアジェットを放ち、優先度+1という絶対性の下突撃する。対処することは不可能――――だけど、

 

 

「これで終わり!エーフィ、アシストパワー!!」

 

 

耐えることならできる。元々優先度の高い技は威力が決して高い訳ではない。故にエーフィはやや余裕を持って攻撃を受け止め、アシストパワーでトドメを刺したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「さすがミヅキー。ポケモン、回復するねー」

 

「あ、ありがとう」

 

「それとー、いいもの(クリティカット)あげるー。主ポケモンが防御ランクをあげても、急所にあげれば関係ないからー」

 

「え、ちょっ、待っ」

 

「じゃーね、ミヅキー。先に行ってるよー!」

 

 

何か言いたそうにしていたミヅキをその場に残し、ハウはコハナタウンを後にする。ミヅキを気にする余裕なんてなかった。口調自体はそのままだったものの、普段の彼らしからぬ一方通行の会話は、単にその表れだ。

 

 

――――おれ、こんなんでいいのかなー?

 

 

ハウはメレメレ島のしまキングにして、アローラにおけるトップクラスのトレーナー、ハラの孫である。そのために幼い頃から将来を期待されており、プレッシャーは大きいものだった。幸いなのは彼が決して無才ではないことと、周囲の期待を察しながらも理解しないという行為が出来たことである。少なくともこの2つがなければ、ハウは父同様に、この地方を後にしていただろう。

 

そう、結局のところハウは父と同じ(・・)なのだ。意識的にか無意識かの違いはあれど、偉大な祖父(ハラ)には勝てないのだと思っている。今までそれは、祖父(ハラ)が人としても、トレーナーとしても強かったからだと思っていたけれど――――。

 

 

――――また勝てなかった。

 

 

カントーから来たという少女(ミヅキ)。彼女は自分よりも後にポケモンを得たにも関わらず、同時期に島巡りを始めたにも関わらず、ハウは1度も勝ったことがない。いや、単に勝てないだけならまだ良い。問題なのは今に至るまでずっと、着実に力の差を付けられているという事実だった。

今回のバトルで自分は場当たり的な対処しか出来ていなかったのに対し、ミヅキは予め役割を決めた上で、それを遵守して戦っていたのだ。ハウも力を尽くしたものの、結局崩すことが出来なかった。つまり、ミヅキにとってハウはその程度の相手に過ぎないという事だ。かろうじて一矢は報いたものの、アレはミヅキのうっかりミスと、優先度によるものに過ぎない。

…………ハウ自身で達成したものは何もない(・・・・)のだ。

 

 

――――ミヅキだったら、じっちゃんに勝てるのかなー?

 

 

頭に浮かんだ可能性を否定し切れない。彼女はあっという間に成長していき、気付いたら既に遠くへと到達している。その成長はもしかしたらハラに届き得るかもしれない。もう自分では、相手にならないのかもしれない。

 

 

自分とミヅキでは、どうしてこんなに差がついてしまったのか――?

その答えが、どうしてもハウにはわからなかった。

 

 

気が付くと、オハナタウンを出た時に比べて脚取りが遥かに重くなっていた。外は既に陽が沈みかけている。西に沈む太陽は壮大に美しく、酷く印象的で、ちっぽけな自分を笑っているかのようにも見えた。

 

夕焼けに見とれていたハウの意識を現実へと引き戻したのは、眩いプラチナブロンドを有した漆黒の少年だった。

彼はモンスターボールを手に取ってハウへと告げる。

 

 

「俺はグラジオ。相棒のヌルと共に世界の頂点に立つトレーナーだ」

 

「お前、何も言わずに俺と戦え」

 

 

 




グラジオ君の大物感ヤーバイ……!

あと、ハウが初っ端でキッス打たなかったのは、まず電光石火のダメージの通りを見てアブリーのレベルに見当を付けるためです。この世界ではHPやらレベルやらが表示されないので、レベル差を測る時にそうする事が多いです。エリートトレーナーの上位やベテラントレーナーとかなら大体レベル差を直感的に理解できますが。
ホウエンのバトルフロンティア?アイツらはLv.100前提だからそもそも察する技術が必要ない。せいぜいHP1がむしゃらを警戒する程度。

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