ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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今回初となるリーリエ視点がありますが、こんなのリーリエじゃないと思う人もいるかもです。あまり極端な変更はしてないんですが…………正直、大天使リーリエは凄く書きにくい。


異性への対応って色々めんどい

 

突然ではあるけれど、リーリエ(わたし)にはどうしても苦手な人がいる。

 

 

 

***

 

 

 

最近、わたしの朝は早い。

元々わたしは寝起きが良い方で、起きるのが決して遅い訳ではないけれど、ここ数日は今までのそれよりも遥かに早い。我ながらよく起きれるなぁと関心する。

原因は――――わざわざ探すまでもなく、とっくにわかりきってることだけど。

 

 

簡潔に言えば、大体全部『彼』が悪い。

 

 

こみ上げる欠伸を噛み殺し、ほしぐもちゃんを起こさないように注意しながら旅用の小型簡易テントの外に出る。登る太陽を見ながら深く深呼吸。朝の爽やかな空気が肺に入り込み、なんだか新鮮な気持ちになった。

軽く体を解し、あらかじめ組まれていた綺麗な水で顔を洗う。その頃にはとっくに目も覚めていて、空きっ腹にはあまりに効く(・・)いい香りが漂ってくる。

 

こんなにもいい香りを出されては、どうしても期待せざるを得ないじゃないか。

 

香りが漂う方向へ顔を向けると、案の定、先にはわたしが使っていたテントに隣り合うように設置されているもう一つのテントがある。その影に『彼』の姿はあった。

 

 

「おはようございます、ユウキさん」

 

「おはよう、リーリエ。朝食はもう出来ているが――食べるか?」

 

 

もちろんですっ!

そう答えたわたしの声は、我ながら随分と弾んでいるように聞こえた。

 

 

 

ユウキさんの料理はきのみを使ったものが多い。パッと見何も使われていない料理でも、実は下味や風味付け、隠し味などに使われている、なんてこともある。ユウキさんは元々きのみ名人の元で修行していた経験があり、料理の技術はその人から仕込まれたものらしい。多種多様なきのみの風味を損なうことなく同居させる手腕は素人目に見ても見事なもので、もはや格が違いすぎてわたしの女としての自尊心(プライド)が傷付くこともない――それはそれでどうかと思うけど。

 

今日のメニューは7種のきのみを配合した特性シチューに、キーのみとパイルのみのクッキーグラノーラ、そしてモモンのみのスムージーだ。

ほしぐもちゃんを始めとするポケモンたちには、ユウキさんが作ったオリジナルのポケモンフーズが配られる。

 

いただきます、と食前の挨拶をして、早速シチューを手に取った。温かみのあるシチューの奥で繊細に調合されたきのみの味がさりげなく光る。アローラといえどもやはり朝は寒い。冷えきった体にじんわりとシチューの熱が広がる。

その熱を冷ますようにスムージーを飲むと、人工甘味料を一切使っていないモモンのみ本来の芳醇な甘みが口いっぱいに広がった。あえてパワーの弱いミキサーを使っているために若干ドロっとしているけれど、モモンのみはとても柔らかいため、とてもあっさりと飲むことが出来た。

次いで手に取ったのはクッキーグラノーラだ。噛むとサクリという小気味の良い音が響き、スムージーとは対称的であるために強調される硬い食感を楽しみながら食事を進める。

 

夢中になって食べ進めていくうちに、ふとあることを思いついた。クッキーグラノーラを一つ手に取り、シチューの器へと投入する。キーのみとパイルのみは吸水性がそれぞれ15と35であり、どちらも吸水性が高い(ユウキさん情報)。十数秒も待てばいい感じにシチューを吸ったクッキーグラノーラが見える。少しはしたないかなと思いながらも口に運ぶと、グラノーラの硬さを多少残しながらも程よく吸ったシチューが咥内に広がった。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

一口一口を味わって無心になって食べていると、器はあっという間に空になってしまった。少しの残念さを覚えながら挨拶をする。ユウキさんの出す食事はヘルシーで健康に良い上、味も超一流と隙がない。ミヅキさんはメレメレ島ではこんな美味しい料理を毎日食べていたんだなぁと思うと、思わず嫉妬してしまいそうになる。

…………もっとも、今はわたしがユウキさんに同行してもらっているんだから人のこと言えないんですけど。

 

そう、わたしは今ユウキさんと一緒にアーカラ島を巡っている。わたしは元々の立場もあって世間知らずだったから、この機会に色々なことに触れてみたいと思ったのだ。わたしは一人だと迷ってしまうため最初はククイ博士に頼もうとしたけれど、彼はバーネット博士の研究を手伝わなければならないためどうしても手が離せなかった。代わりに、ということで名前を挙げられたのがユウキさんだ。ホテルしおさいでそれを頼まれた時の、『一生懸命練ってた計画が潰された』とでもいうかのようなユウキさんの表情は、今でも強く記憶に残っている。

 

そうして得た念願の体験に、毎日の美味しい食事。同行者(ユウキさん)はとてもバトルが強く、安全性は極めて高い。

 

だけど、それを素直に喜べないのは――――やはり、どうしても苦手な人(ユウキさん)といっしょだからだろうか。

 

食事に使ったお皿や鍋をポケモンと協力してキレイにするユウキさんの姿が目に入る。ミロカロスのハイドロポンプ(微弱)で皿を洗い、リフレッシュ(対油汚れ仕様)で徹底的に汚れを除去。洗い終わった食器はバシャーモのフレアドライブ(弱火)に当てて手早く乾かす。無駄に洗練された無駄のない無駄な連携プレーによって、食器は数分と経たずにバックへと入れられた。

 

ポケモンと共存し笑い合う姿を見て今更警戒するべきなんてことは思わない。だけど、なんとなく感じる苦手意識はどうしても払拭出来ない。

 

 

 

 

お母様(ルザミーネ)お父様(モーン)が行方不明になってからずっと独り身で、自身が代表を務めているエーテル財団としての活動や研究に没頭してきた。結果的にわたしとお兄様は保護者との関わりが限りなくゼロに近くなっていたけれど、ビッケさんを始め、優しい人たちが一緒に居てくれたから1人ではなかった。

 

だけど――そんな子供たち(わたしとお兄様)を利用しようと考えた人も確かにいた。お母さまと結婚し、財団代表の椅子に座って実権を握ろうと考える人達。

そんな彼等は、お父様がいなくなってから研究に打ち込む(おかしくなった)お母様よりも先に、まず息子(グラジオ)(リーリエ)をターゲットにして恩を売っておこうと考えたのだ。

 

お母様は突然おかしくなり、心から心配してくれる大人の中に、自分を『道具(モノ)』としか見ていない人が混じっている状態。今優しい人は本当に優しいのだろうか、わたし達をちゃんと見てくれているんだろうか――?

まだ経験の浅い子供(わたしとお兄様)では相手の心を読むことなんて出来ないから、誰のことも深く信用することができなかった。

 

だからお兄様は1人で立とうとして(中二病を発症させ)、わたしは人の内心を観る技術を高めた。

 

そして、わたしはコスモッグ(ほしぐもちゃん)と出会い――今ここにいる。

 

 

 

バーネット博士もククイ博士も、みんな優しい人だった。わたしが生来の方向音痴で迷惑をかけても笑って許してくれるし、迷いそうならあらかじめ案内してくれる。エーテルパラダイスでも一応そんな扱い自体はされていたものの、明らかに温度が違っていた。なんというか、暖かいのだ。お父様がいなくなる前のお母様のように、ほっとする暖かさ。

だけど、ユウキさんは違う。彼等とも、エーテル財団職員とも明らかに違う始めての相手。

 

 

無色透明で、わたしになんの感情も(・・・・・・)抱いていない(・・・・・・)人。

 

 

一緒に旅をして始めて知ったことだけど、根()優しい。力仕事を手伝ってくれるし、話すと言葉を返してくれるし、方向音痴であるわたしのアシストもしてくれる。今だって、食事の準備や片付けをしてくれている。

 

だけど、その対応の理由は義務感が多くを占めている。リーリエという一個人を見ているようで見ていない。

わたしが、トレーナーじゃないから。

 

あの人が興味を持っているのはポケモン勝負(バトル)というただ一点だけ。その他は優先順位こそあれど基本的には無関心なのだ。他の分野の先駆者に対する敬意にしたって、それが結果的にバトルにも関係しているからに過ぎない。

 

今まではそれでいいと思っていた。だけど、楽しそうに、そして懸命にポケモンと関わるミヅキさんの姿を見るにつれて思ってきたのだ。

このままのわたしでは、おかしくなったお母様を救えない。今身近にいる人とマトモな関わりを持てずに、どうやって心を閉ざしている(UBキチな)お母様を救えるなんて言えるだろうか。

 

だから、わたしは――――

 

 

「ユウキさん、わたしと一緒にほしぐもちゃんについて調べていただけませんか?」

 

 

――今まで苦手だったひとへ、一歩踏み出すこと(がんばリーリエ)を決めた。

 

 

 

***

 

 

 

「まあ、別に構わないが」

 

 

畏まった趣のリーリエから発された言葉に特に躊躇いもなくあっさり頷く。

無駄に深刻そうな表情でこちらを見るものだから何を複雑に考えているんだかと思ったが、想定の斜め下をぶっちぎる他愛ない相談事に逆に驚愕する。

 

彼女はこんなにもあっさり許可がおりたことに拍子抜けした様子だったが、数秒経つと途端に顔に喜色が広がった。ミヅキではありえない反応だなと結論付けて、とりあえず手段を考察する。

 

 

とりあえず、リーリエが居たと思われる何らかの機関に接触するのはアウトだ。おそらくそこがこの世界で最もコスモッグ(ほしぐも)のことを理解していると思われるのだが、リーリエの身に危険が迫る。欲しいものを求める過程で危険が迫るならそれでも構わないと僕は思うのだが、依頼内容はリーリエの安全確保と補助である。彼女が自分の意思で踏み込まない限り、僕から推奨することは出来ない。

そもそも拠点の位置知らないし。

 

後は空間研究所でバーネット博士と協力して研究するという手段がある。博士は人道的だろうし、ポケモンにとって明らかな負担になることはしないだろう。リーリエが信用できるというのも大きい。反面限界を超えて酷使する違法研究に比べると進展はゆっくりだが、リーリエなら待てるだろう。

 

最も手間がかかるのが『じくうのさけび』能力者とコンタクトを取ることだ。じくうのさけびは信頼できるパートナーと一緒にいる状態でなにかに接触した時、それに関係する現在過去未来を観ることがあるという超能力の一種である。発動する確率こそ低いが、他では得られない情報が入手できる。――最も、じくうのさけび能力者は希少な上、大半は警察や研究機関に協力しており、個人情報が漏れることは少ないのだが。

彼らは犯罪が起きれば現場に残された何の変哲もない物から犯人を特定し、研究の道に進むと未開の生態を幾つも発見する。だから(既に解散したが)ロケット団を始めとするいくつもの結社からは怨みをもたれており、所属している機関に対立する研究機関からもいい感情を持たれていない。下手をすれば殺される(・・・・)

 

僕が知っている中でじくうのさけびを持ちながらも自由に過ごしていたのはたった1人。名前はソラ――ジュプトル使い(・・・・・・・)のソラだけである。そんな彼でも僕がこの世界に渡る数年前に消息を絶っているのだが――――この話は今は良いだろう。

 

あるいは、島を回りながらルーツを探すという手段もある。普通はそれで解明するなんて不可能な話だが、僕と超古代ポケモン(カイオーガ・グラードン・レックウザ)だったり、レッドと人造の最強(ミュウツー)だったり、ヒビキと伝説の二鳥(ホウオウ・ルギア)だったり、コウキと時間の空間の神(ディアルガ・パルキア)対世界の神(ギラティナ)だったり、トウヤと真実の龍(レシラム)だったり――妙な実績がある。前例には事欠かない。

 

こういった内容を掻い摘んで説明すると、リーリエは顎に手を当てて考え込む様子を見せる。…………何を考える必要があるのだろうか。とりあえず全部試せば良いだけだろうに。

 

 

「え、それでいいんですか!?」

 

「良いも何も最初から絞ってなどいないだろうが。本当に調べたいなら手段を明確にする過程が必要だったから並べただけに過ぎないのだが」

 

 

紛らわしかったか?と問いかけると、呆れたかの様な溜息が返ってくる。まあ、今のは僕に非があるか。広い心持ちで受け止める。

 

 

「とりあえず方針としては島巡りを通して全ての島を探し、コスモッグ(ほしぐも)の伝承と、じくうのさけびを持つフリーの人間について調べ、6番道路でひとまず南下して空間研究所へ。1週間程度滞在して研究を進める。短いとはいえ、きっかけ程度にはなるはずだ。

そこからは島巡りを再開、北部をコンプしてからまた研究所へ。同程度の時間調べ、命の遺跡を散策する。本当にカプに関わるのであれば向こうから何らかのアクションを起こしてくれると思うが――曰く、カプ・テテフは特に気まぐれという話だからな。期待しないでおくべきか。それでこの島はひとまず終わり、次の島に向かう」

 

「向こうから、ですか……?」

 

「ああ。何故か僕の周囲では最短でも月に一度くらいの頻度で何らかの厄介事が起きるからな。年に一度は伝説・準伝説も混じってくる。そろそろ前のヤバイやつから1年が過ぎるし、丁度いいと言えなくもない」

 

 

…………それがコスモッグ(ほしぐも)関連だと思えなくもないが、そこはスルーしておこう。とりあえず遺跡にはミヅキも同行させておくか。リーリエのためだとでも言えば断らないだろうし、良い経験になるだろう。

 

今度こそ計画が崩れないといいなぁと思いながらも、僕は不安を感じざるを得なかった。

 

 

 




ほしぐもと呼ばせるべきかコスモッグと呼ばせるべきか……この頃ってコスモッグという名前は判明してましたっけ?とりあえずどっちも並べてみましたが、そのうち変えるかもです。

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