アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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先ずは最終回を越えろ、三日月。


8話 ずっと待ってた

三日月・オーガスは暗闇の中に居た。

まばたきをしても、黒く塗り潰された視界は変わらない。

夢心地というか、浮遊感のようなものに包まれ、現実味がない。

何故、自分がこんな状態なのかも、思い出せない。

 

身体が自分のものじゃないみたいだ。

 

薄くなっていく思考。

何もない所から滑り落ちていくように、三日月の意識は零れていきそうになった。

 

それを、何かが引き留めた。

 

声だ。声がする。

 

自分を呼ぶ声が聞こえて、三日月・オーガスは意識を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ!起きてったら!」

 

女の声が聞こえる。

思考がはっきりしてくるにつれ、視界もクリアになっていく。

女の声は切羽つまっているのか、ひっきりなしに呼び掛けてくる。

 

「お願いだから目を開けて!!動いて!!」

 

「……うるさいな」

 

三日月はぼんやりと呟く。

その声に反応したのか、女の声が色めきたつ。

 

「良かった!起きたんだね!」

 

起きた。そう、起きたのだ。

三日月は目を覚ました。だが、目の前に広がる光景は、薄暗い基地の中だった。

 

ここはどこだろう?

たしか、自分はバルバトスに乗って、宇宙で戦っていたはずなのに……

 

「ここは……?」

 

「そんなのいいから!すぐに行かなきゃ!」

 

行く?どこに?

オルガのところへ……

しかし、ここはオルガ達が居た場所とは違う。違いすぎる。

ここはどこなんだろう。改めて思う。

そして、記憶を探るために、意識を集中させる。

 

背中の阿頼耶識で機体と繋がっている三日月、情報交換の密度の高さは、もはや記憶の共有と言ってもいいほどだった。

そのバルバトスから送られてくる情報、記憶。

 

ここは、この光景は……

 

「お前の……記憶?」

 

バルバトスの記憶野に残されていた、彼女の記憶、彼女の戦いの記憶だ。

つまりここは、バルバトスが生まれた時代、バルバトスが戦っていた世界、三日月が生まれるよりずっと昔の話だ。

 

ガヂン、とカタパルトが閉まる音がする。

射出台が作動し、発進準備が整う。

ここから彼女は戦いに出るのだ。

 

三日月は咄嗟に名乗る。

 

「……!三日月・オーガス」

 

「ガンダム・バルバトス!出るよ!!」

 

風圧と勢いを感じながら、バルバトスは真上に飛び出される。

長く保管されていた基地から出て、外へ。

これが、バルバトスが最初に戦場に出た時の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下の貨物トンネル、その通路を高速で走り、町のド真ん中に飛び出したバルバトス。

アスファルトの道路を爆散させ、高層ビルに囲まれた町中に躍り出る。

 

目の前には白い怪物。

体長50メートル越え、イソギンチャクのような触手を無数に蠢かし、近付く者を破壊し、絡めとり、絞め殺してしまう。

 

バルバトスは巨大な両手剣を振りかぶり、触手の束をばっさりと切り落とす。

触手の怪物はギョロリと眼球を向ける。

 

着地の勢いで土煙が上がる。

そこに紛れ、大剣を構え、一気に距離を詰める。

 

「ああああああああ!!!」

 

彼女が叫ぶ。

三日月も切迫する戦場の空気に、瞳が赤く燃える。

今はバルバトスと共に、そのボディを自分の身体のように操って、戦う。

 

触手の束の奥、本体と言えるどっしりとしたボディから、一本の砲芯が涌き出る。

その先端から、藍色のビームが発射され、ビルが瞬く間に崩壊する。

倒れてきたビルを避け、軌道を変えるバルバトス。

弧を描くように移動し、大剣を突く。

しかし大量の触手に阻まれ、硬い衝撃音が鳴り響く。

 

触手にはいくつもの眼球があり、それらが一斉にバルバトスを見る。

ギョロリと蠢く目は、生理的嫌悪感を催すものだった。

腰を捻り、脚でそれらを切り裂く。

脚部に取り付けられた、スケートブーツのようなユニット、そこに仕込まれたブレードの切れ味は抜群だ。

スラスターも搭載されており、直後の素早い回避動作も可能となる。

 

「うわ、なにあれ」

 

「あいつは『サリエル』。穢れた天使の名を持つ、殺戮兵器モビルアーマー」

 

彼女に教えられ、数々の情報が三日月にもフィードバックされる。

すとん、と腑に落ちるように、自然と受け入れられた。

自分は、あの兵器を殺さなきゃいけない。

あれは自分の獲物なのだと。

 

「この装備で殺せる?」

 

三日月は問う。

ここで奴を殺しきれるか。手持ちの武器、装備、性能、技量、地形、何でも使って、自分達が奴を殺す。

それがバルバトスの

ガンダム・フレームの使命だから。

 

「ふふっ、やっとやる気になってくれたみたいだね」

 

彼女も上機嫌に答える。

異形の眼球触手天使、サリエルは、ゆっくりとこちらを見る。

随伴機であるプルーマは、他のモビルスーツが破壊してくれたようだ。

だがそのモビルスーツの姿は見当たらない。

町中まで天使の侵入を許した時点で、彼らの生死は予想できるが。

 

自分達しか、いない。

大天使サリエルを殺せるのは。

 

「殺せるよ。私たちなら」

 

彼女は確信を持って、言う。その瞳は赤く光っていた。

 

「そっか。……んじゃあ」

 

腰を落とし、突撃体勢に入る。

大剣を握るマニピュレーターが、ギシリと音を立てる。

バルバトスのツインアイ、その赤い光が残像を残す。

 

「「行くかぁ!!」」

 

全身に力が流れ込む。

バルバトスは地面を蹴り、飛んだ。

 

 

突撃したバルバトスを、無数の触手が串刺しにしようとする。

一発一発がアスファルトにクレーターを開ける威力。

その触手の針山の中にバルバトスは居ない。

 

横の高層ビルに飛び移り、壁を蹴って跳ねる。

サリエルのビームがビルを真っ二つに切り裂く。

倒れてくるいくつものビル群、それらをピンボールのよつに飛び跳ね、サリエルとの距離を取る。

追尾ミサイルのように触手が襲い掛かる。

回転斬りでそれらを切り落とす。

まるで鎌鼬だ。

まだ空中にある、高層ビルの上層部。

それを思いきり蹴飛ばす。

 

ガンダム・フレームの高出力によって、高速で飛来するビルの上層部。

そのまるごとの直撃を喰らったサリエルは、衝撃に本体が揺れる。

爆音と衝撃と瓦礫と土煙。

アスファルトの色で塗り潰された煙の中、バルバトスは大剣を投げ槍のように構え、サリエルのボディに深々と突き刺す。

 

『ギギギエエエエエエエエエガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!』

 

天使の歪な悲鳴。

触手を生え散らかした本体、そのぶよぶよした肉の塊のようなボディに、さらに拳を叩きつける。

露呈した内部パーツ。

バルバトスの肩に装備された長距離砲を全段撃ち込む。

直後で大きな爆発が起こるが、その悪魔は表情一つ変えない。

 

残った触手がバルバトスを狙う。

引き抜いた大剣を振るい、根こそぎ切り落とす。

突き出したビーム砲も蹴り折り、大剣を突き刺す。突き刺す。突き刺す。

何度も突き刺す。

 

本体と触手の眼球から、マイクロウェーブが発射される。

マイクロ波兵器により、機体内の人間にダメージを与え、戦闘不能にするつもりだ。

 

人体に対して電磁波兵器は劇的な効果を期待出来る。

特にビーム兵器が効かないモビルスーツには、内側から破壊するのが一番簡単で理想的な方法だ。

サリエルの『邪眼』から発されるマイクロウェーブは、強烈な幻覚作用、痛覚の誤認、不安や恐怖、強い倦怠感や混乱などの巧妙な影響を生み出す。

 

モビルスーツとパイロットが繋がっているため、パイロットの不調はモビルスーツの不調になる。

集団戦、情報戦、長期戦には有効な兵器だ。

 

だがしかしバルバトスとそのパイロットは、精神的な不調や痛みなど、全く考慮に入れていない。

己の身を喰らい尽くしてでも、天使を破壊し尽くす。

暴風のような彼女らには効果が薄い兵器だった。

 

『ギギギギギギギギギィッ!!!』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

彼女の雄叫びに呼応し、サリエルの悲鳴も大きくなっていく。

山を掘り進めるように、サリエルの体内を破壊するバルバトス。

ついに動力源、天使の心臓とも言えるエイハブ・リアクターにまで辿り着き、それを掴み、引きちぎる。

サリエルのボディはあちこちから火を吹き、爆発し、崩れていた。

その歪なボディを貫通し、引き裂き、その悪魔は天使の体内から這い出てきた。

 

天使の心臓をぶら下げている。

ドス黒いオイルが、滴り落ちる血液のようだ。

それを一身に浴び、天使の体躯を踏みつけ、見下ろす。

影になった顔は、赤い眼光が業火のように輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔バルバトスによる、大天使サリエルの討伐。

それから少し記憶が飛び、また再び最初の基地の光景に戻っていた。

三日月は戦闘時の緊張を解き、ゆったりと構える。

 

「あの時はありがと、ちゃんと動いてくれて」

 

彼女に話し掛けられ、三日月は意識を彼女の方に向ける。

 

「アンタが起きてくれなかったら、私じゃ何も出来なかったから。そしたら町の人達も皆死んじゃってたと思うし……」

 

「別に、それが俺の仕事だから」

 

「フフッ、格好いいじゃん」

 

彼女は茶化すように言う。

送られてくる情報から、彼女が上機嫌である事が五月蝿いほど伝わってきた。

 

「てかさ」

 

「うん?」

 

三日月は素朴な疑問を抱いていた。

 

「なんでお前、女みたいなしゃべり方なの?」

 

「うえっ!?な、何か変!?」

 

彼女は狼狽する。

 

「いや、変っていうか……そもそもお前、女なの?」

 

「お、女だよ!見たら分かるでしょ!!」

 

「ふぅん……」

 

彼女が女だという事を今知った。

バルバトスが初めて動いた時代ということ以外、この記憶が何も分からないのだ。

 

「お前と話したの初めてだし、てっきり男なのかと思ってた」

 

まあ、自分の機体と話すなんて事、誰にでも出来る事ではないが。

三日月もした事が無い。

 

「う……いや、あのね?別に喋り方はー……ちょっとしたキャラ付けというか……」

 

「キャラ漬け?食べ物?」

 

「いやいやいや違う!その、あれよ!寡黙な方が格好いいかと思って!」

 

「ふぅん?格好いいと何かいい事あるの?」

 

「え?いや、ほら……子供達が喜んでくれそうじゃん?」

 

「あー」

 

三日月は何となく納得したような、しかし他人には生返事のように聞こえる声を出した。

 

「わ、笑わないでよ!心の中で笑わないでよ!!」

 

「え?別に笑わないけど」

 

「……ほんと?」

 

「うん」

 

彼女がまた調子に乗り出す予感がして、三日月は既になんとも言えない表情になる。

 

「ま!やっぱり皆の希望になりたいじゃない?こんなご時世だし、格好いいヒーローが居た方が、皆も気分盛り上がるでしょ」

 

「俺この時代の事、何も知らない」

 

「はあ!?ポンコツじゃん!」

 

「ポンコツ……?」

 

「でも流石にアグニカさんは知ってるでしょ?」

 

「ああ、アグニカなら知ってる」

 

三日月は頷く。アグニカ・カイエル。その戦場のごとき傍若無人っぷりと容赦の無さ、そして力の塊、狂気のカリスマ性。

 

「アグニカさんみたいな凄いヒーローになれれば、子供達の夢も広がる訳よ」

 

「子供好きなの?」

 

三日月が問い掛ける。なんとなく、好きそうだなとは思っていた。

 

「そうだねー。どっちかと言うと見守るほうが好きかな。わいのわいのやってるのを、静かに見下ろして和むのが好き」

 

「ふーん」

 

三日月も、静かに佇むバルバトスを見上げていた。

よくじっと見つめていたのだ。

あんな風に、静かに見守ってくれる方が、汚い大人達よりも信用できるのかもしれない。

 

 

それからいくつのも戦場を駆け抜けた。

彼女もその度に傷付き、壊れたが、修復技術によって治され、再び戦場に出た。

もっともっと強くなって。

取り返しの付かない一線は、ぎりぎりの所で回避してこれた。

 

視界が大きく変わる。

 

宇宙の片隅、幾重にも偽装され、隠された巨大施設。

地球への巨大ビーム砲撃、その『核』となる構造物で、工業コロニーほどの大きさがある。

その内部、動力部が密集している区画に、バルバトスはいた。

 

他の仲間は来ていない。

幾重もの偽装データ、それらを物量で探し出す、ローラー作戦を行った結果、バルバトスの所が当たりを引いた。

この区画を破壊すれば、地球へのビーム砲撃は止められる。

 

だがバルバトスは動かない。

 

動力部の最も重要な機器の前に、禍々しい姿の『天使』がいた。

 

まず目に入るのは、その黒い翼だ。

ふくよかな梟の翼を連想する。

羽の黒い色は、全てを呑み込んでしまいそうな力を感じる。

広がりを見せるようで、収縮させる力を持つ。

そんな二面性、矛盾を感じた。

 

三日月はアグニカを思い起こす。

アグニカという存在の異常さ、歪さに、すごく似ている。

 

その機体の顔は、この世の全てを憎み、害そうと睨み付けるかのような、邪悪で歪な顔をしていた。

真っ赤な目はつり上がり、灼熱の溶岩のように光っている。

牙を噛み締め、常に力んでいる。己の牙すら砕けてしまいそうだ。

憎悪が具現化し、脳みそから突き出したように、左右に形の違う、歪な角が生えていた。

黒く、硬く、荒く、太く、鋭利な。

 

血管が突き出るように、顔、角、そのボディには、赤い亀裂が走っていた。

機体の性能を限界まで上げ、装甲やフレームの耐久値すら度外視した動きをするため、燃えながら戦っているように見える。

 

その戦いぶりの根底には、人間への、

この世界への憎悪が感じられる。

 

その事から、ついた個体識別名(コードネーム)は

 

 

憎悪(マステマ)

 

 

 

 

「動けばやられる」

 

三日月はピリピリ痛い空気の中、彼女に言う。

微弱な電流を流されているみたいに、肌が、肉が、骨が、目が、手が、脳が痛い。

 

マステマのふくよかな羽の中に、ありとあらゆる武装が隠されている。

こちらが動けば、即座に刈り取る準備が整っている。

ここまで探知出来ずに近付かれた時点で、半分殺されたようなものだ。

首に深々と刃物が突き刺さっている。

あとは、それを引いて切り裂くだけ。

 

彼女はニヤリと笑う。

 

そのぐらい。

刃物が突き刺さったまま戦うなんて、この戦争では日常茶飯事だった。

 

つまりこの程度、最悪と言うには程遠い。

 

「とは言え、アイツはアグニカさんから逃げ切った事がある。バエル先輩で殺しきれない系のやり手。こっちも……」

 

死ぬ気でやらないと。

 

三日月は無言で頷く。

バルバトスの……いや、

 

「バルバトス・ホープの全てを使って」

 

希望(ホープ)の名を冠されたバルバトス。

自らが『希望』になりたいという、彼女の強い意思が込められている。

 

改良と改装を重ね、システム改造や武装の強化など、バルバトスの最終形態とまで呼ばれる、バルバトス・ホープ。

 

右腕にはサリエルを倒した大剣『ミミングスの剣』

左腕にはエイハブ・リアクターを動力源にした自立起動剣『フレイの剣』

さらに両腕には可動式の仕込み剣『グンラウグの剣』と、剣速を上げる追加噴進機を搭載。

 

バックパックには超高起動スラスター。

装甲は重装備の鎧のように重厚で頑丈。

さらにフレームを太く、頑丈に改良したため、エイハブ・リアクターの最大出力で戦っても砕けたりはしない。

片手で巨大な剣を振り回せるほどの斥力を生み出せる。

 

 

バルバトス・ホープの瞳が赤く光り、その残像が稲妻のように線を引く。

リミッター解除。

 

彼女の全てを使った、最大で最高の力を引き出す。

 

三日月もそれに答え、全力で叫ぶ。

 

 

「「行くかぁ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界がまた変わった。

 

場所は同じビーム砲台の中だ。

だが景色は一変していた。

辺りは火の海で、赤い炎がメラメラと燃えている。

内部施設の破壊は気にする必要はなかった。

マステマとの戦いで、施設の九割がたは破壊されたからだ。

機器は粉々、黒く燃え落ち、砕け散る。

ここももう持たない。いずれ暴発し、大爆発を起こすだろう。そんな予感がする。

死の予感が。

 

というのも、彼女自身が死にかけているからだ。

三日月の意識も朦朧として、視界の焦点が合わない。

 

バルバトス・ホープは右腕が千切れ飛び、左腕が肩口から切断され、右脚が湾曲し捻り折られ、左脚は溶けて無くなっていた。

フェイス部は右半分が消し飛び、肩は破壊された。

名剣は全て折れ、砕け散った。

下半身のフレームは真っ二つにされた。

残った上半身の装甲も、バツ字に大きな切れ込みがあり、フレームが露呈。

コクピットは剥き出し、リアクターも露出している。

腰部のシリンダーも抉り取られ、背骨のフレームはヒビが入っている。

オイルを血のように垂れ流し、内部の細かいパーツを肉片のように落とし、電子ケーブルを内臓のようにこぼれさせている。

もはやショートの電流もない。

 

 

バルバトス・ホープは大破していた。

 

心臓と肋骨と左顔面と背骨を残して、全てを破壊された。

もはや、この機体を識別するには、外的情報はアテにならない。

エイハブウェーブを感知して、ようやく認識できるぐらいだ。

そのエイハブリアクターも、接続されたバルバトスが大破したことで、調整が効かなくなっていて、どんどん出力が落ちている。もうすぐスリープモードに入るのだろう。

 

終わる。

 

希望が、消える。

 

死ぬのだ、ここで。

 

 

 

マステマの生首が浮遊している。

バルバトスの心臓と、その乗り手を、怨めしそうに睨み付けている。

必ず復讐すると、必ず報復すると、言葉は発せずとも、目が語っていた。

 

「はっ」

 

彼女は鼻で笑う。

それが最後の吐息となろうとも、最後まで、敵を笑って、希望に微笑みかけて、生きる。

 

「アンタはもう死んだんだよ……おとなしく…………天国にでも行きな」

 

マステマの生首は、そのまま燃え盛る動力源の方に吸い込まれていき、爆発した。

ついに施設の爆発が始まったのだ。

 

「終わりかぁ……」

 

彼女が弱々しく、冬の白い吐息のような声を出す。

 

「やだなぁ…………」

 

消える。彼女の意識が途絶える。

そうすれば、三日月の視界も途絶えるだろう。

だが、三日月には見えていた。

 

アグニカと共に戦っていたからこそ。

近くでその戦いを見ていたからこそ、閉じる視界の端で、それを捉えられた。

 

 

青く光る閃光。

純白のような輝きを持つ、銀色の機体。

黄金の剣で壁を切り裂き、こちらに真っ直ぐ進んでくる。

 

熱い灼熱地獄のような場所に、冷たい氷のような光が差し込む。

そしてそれは、バルバトスを掴むと、一気に施設から脱出した。

 

 

 

 

バエルだ。

 

アグニカ・カイエルが助けに来てくれた。

 

 

 

他の地獄のような戦場で戦っていたはずだが、それらを終わらせ、ここに辿り着いた。

そして『希望』を見つけ、救い出した。

 

 

やはり彼は英雄だ。

アグニカ・カイエルは、戦場にある奇跡だ。

 

それを認識すると共に、彼女の、三日月の意識は途切れた。

 

死の冷たい眠りではなく、安堵と信頼の、暖かい眠りだった。

 

 

 

 

 

 

 

「生き残れてよかったね」

 

また大きく視界が飛んだ。

 

何度も見た基地の中、ホームとも呼べる場所だ。

あの地獄から、三日月達は生還したのだ。

九分九厘死んだ状態で。

 

アグニカに救われた。

 

「アグニカ……」

 

「うん、やっぱりアグニカさんは凄い!」

 

彼女も喜び、はしゃいでいる。

ほとんど達磨同然になって、内臓もグチャグチャになり、脳にもダメージが入ったような状態だったにも関わらず、元通りに復活した。

全く、この時代の技術力には驚かされるばかりだ。

 

「これで、希望は生き延びたわけだ」

 

彼女は染々と語る。

 

「死なず、止まらずに進み続ければ、その先に希望はある。だから私は、その先頭を歩きたかったんだ」

 

「止まらずに……」

 

三日月も釣られて呟く。

同時に、子供達を率いて歩く彼女を想像する。

 

「歩き続けた先に、幸せがある。未来がある。それこそ、私が求める希望なんだよ」

 

ここじゃないどこか。

俺たちの本当の居場所。

 

ーーーそこに、行くんだよ

 

「その場所に辿り着く」

 

「そう、その場所に辿り着く」

 

オルガの言葉を思い出した。

オルガの言う「本当の居場所」とは、希望の事。

本当に辿り着く場所なんていらない。

ただ、自らが希望になって、皆の幸せを守り続ける。

家族皆の幸せが、辿り着くべき場所なんだ。

 

「そっか……」

 

それに、気付かせてくれた。

彼女に対して、止めどない感謝が溢れてくる。

自分が死ぬまで気付かなかったかもしれない真理。

 

「ありがとう」

 

純粋な感謝の気持ちを、言葉に。

 

「んーん、こっちこそ、ありがとうね。いままだって、アンタがいないと何も出来なかった」

 

何も始まっていなかった。

 

でも今は、未来がある。

居場所がある。

幸せがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、妊娠したの」

 

 

 

 

 

彼女ははにかんで言う。

三日月は唐突な事に、驚いた顔をする。

 

「……子供?」

 

「そう、子供。赤ちゃんができたの」

 

子供。

彼女を語る上で、外す事の出来ない言葉。

子供達の希望になる事が、彼女の戦う理由。

強さの理由だったから。

 

「だからね」

 

 

彼女は立ち上がる。

 

 

「ここでお別れ」

 

 

彼女はコクピットを出て、三日月の前に立つ。

希望と、寂しさとが混ざり合い、少し影のある笑顔だ。

視線を合わせ、顔と顔を近付ける。

 

 

「ごめん、バルバトス」

 

 

三日月はじっと、彼女の瞳を見つめている。

今の三日月に沸き上がる感情は、バルバトスが抱いた感情だ。

 

ここはバルバトスの記憶の世界なのだから。

 

「私の身体、結構ガタがきててさ、そんなに長くも生きられない……っぽいんだよね」

 

阿頼耶識の弊害で脳は焼け切れ、神経は死に、四肢は戦火に焼かれた。

その度に取り換え、埋め、取り繕ってきた彼女の肉体も、機械化で補える許容量も、すでに限界が近いらしい。

それでも

 

「でもさ、私、好きな人ができたの。その人と幸せになりたい……!

その人と、未来を作りたい……」

 

彼女に宿る新しい命が、彼女の新しい希望となる。

その身に希望を宿せるのは、これが最後になるかもしれない。

 

「だから……私……」

 

戦う理由より、生きる理由を選ぶ。

この戦争から退席するのだ。

 

バルバトスを置いていく。

死ぬまで戦うと誓ったはずなのに。

死ぬのはバルバトスと共にと思っていたのに。

悪魔に魂を明け渡したはずなのに。

 

幸せに逃げる。

 

それを、バルバトスは許してくれるのか?

 

 

「おめでとう」

 

自分の口から出た言葉に、三日月は驚く。

素直な感謝の後だからだろうか。

祝福の言葉も、すんなりと出てきた。

 

彼女の顔が、嬉しさに弾け、涙を流す。

感極まる、とはこの事だ。

 

思えば、ずっと待ってた。

彼女は、幸せになれる日を、ずっと待ってたのだ。

 

ただじっと待つのではなく、掴み取りに行く、戦って勝ち取るというのが、彼女の待ち方だっただけで。

 

 

これはバルバトスの記憶だ。

だから、延長ケーブルで繋がっていた彼女の気持ちも、十分に伝わってくるから。

 

三日月は微笑んで、彼女の背を押す。

 

 

彼女は顔をぐしぐし拭うと、またいつもの笑顔に戻った。

 

湿っぽい別れは嫌だ。

いつも通り、他愛の無い話をして、ふざけて、つつき合って、それで終わり。

 

「まあ、この状態じゃあ戦場は厳しいかなあ」

 

彼女はバルバトスの全身を眺める。

長い時間をかけ、なんとかフレームを修復できたのだが、初期の型で再建したため、一番最初の形に戻ってしまった。

装甲も基地にあった予備のありあわせで、無いよりはマシ、という状態だ。完全ではない。

最高の完成形態から一転、レベル1の新品に転生したわけだ。

 

モビルアーマー・マステマと相討ちになり、生き延びただけでも行幸だが。

 

「特に、今回の『最終決戦』はねー……アグニカさんから召集かかったけど、今の性能じゃあ足出まといになるだけだし」

 

アグニカ・カイエルによる、モビルアーマー掃討作戦。

お互いの残存する全戦力を用いた、文字通り最終決戦が始まるらしい。

これが今後数百年を左右する、大いなる戦いとなるだろう。

最後の聖戦、というわけだ。

 

この装備で出ても、死ぬだけ。

死にたいのならまだしも、今の彼女には、生きる理由がある。

 

「んんじゃあ、そろそろ」

 

彼女がバルバトスに触れる。

名残惜しそうに指を這わせ、感触を確かめる。

 

そして、目を閉じて、阿頼耶識のケーブルを外した。

カチャン、と音がして、それだけ。

 

彼女から何も感じなくなる。

彼女の何もかもが、分からなくなる。

すぐ目の前にいるのに。

 

「さよなら」

 

彼女は振り向かず、歩いていってしまう。

だが、それでいいと思う。

彼女が向いている方向には、彼女が欲した、希望があるのだから。

 

かつてバルバトスに求めたものとは違う、新しい希望を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また視界が飛んだ。

 

見慣れたはずの基地は、そこらじゅうに物が散乱し、崩れた壁や、落ちてきた照明の残骸が散らばっていた。

 

この基地は崩壊しようとしていた。

理由は分からない。だが、ここは崩れ、自分は埋まるのだと理解出来た。

三日月はぼんやりと、格納庫の入り口を見つめていた。

 

普段はここから、彼女が歩いてくるから。

もう二度と戻る事は無いと、知ってはいるが。

乗り手がいなければ、動く事も出来ない。

契約者がいなければ、動く道理がないから。

 

でも、それでいい。

再び視界を閉じようとした三日月。

この崩れ落ちる基地、その入口から歩いてくる人物がいた。

 

 

彼女だ。

 

彼女が戻ってきた。

しかし一体どうして。

 

「ごめん!バルバトス!」

 

彼女は髪を振り乱し、ひどく焦燥していた。

見開かれた目には何が映るのか。何の像も映していないように見える。

足はガクガクと震え、生まれたての小鹿より弱々しい。

支えを失った身体は、重心操作も出来ないのか、ふらつくばかりだ。

 

「私ねっ!ぜーんぶ無くしちゃった!」

 

両手を広げて、笑顔で叫ぶ。

 

たくさんのものを掴み、包み込むはずだった両手は、何も残っていない事を伝えるため、虚しく広げられる。

暖かさと柔らかさの象徴だった身体は、冷えきり、痩せさらばえていた。そして

 

彼女は狂っていた。

 

「アナタを捨ててまで、手に入れたもの、ぜーんぶっ!なくなっちゃった!!」

 

彼女の衣服と顔を染める赤い色は、それか。そうなのか。

 

「もう、なーにも残ってないの!

わっ、わたしっ!……もう…………」

 

しゃくりあげるような話し方。

転ぶように、彼女はひざまずいて、バルバトスを見上げた。

 

 

「アナタしか…………残ってない…………」

 

幸せも、希望も、掴み損ねた。

手から溢れ落ちてしまった。

 

恋人は死んだ。

仲間も死んだ。

 

我が子も……死んだ。

 

本当にもう、何も残っていないのだ。

彼女が生きる理由が。

戦わない、理由が。

 

だから、もう一度一緒になりたいなんて。

そんな身勝手で、我が儘で、傲慢で、恥知らずな、懇願。

 

「……」

 

三日月はそんな彼女を、無言で見つめていた。

 

 

基地が一層大きく揺れる。

 

その揺れでバルバトスが前のめりに倒れる。

 

咄嗟に目を閉じる彼女。

罰に、押し潰されると思ったのか。

 

轟音の後、おそるおそる目を開けると、目の前にはバルバトスがいた。

騎士がひざまずき、宣誓を取るかのように。

 

「バルバトス……」

 

コクピットハッチが開く。

それを見た彼女は、涙を流す。

 

「許してくれる……?」

 

三日月は静かに、しかし僅かに微笑む。

 

「いいよ」

 

それだけ。

他に言葉はいらない。

 

彼女は立ち上がり、涙でくしゃくしゃになった笑顔で、心の底から、叫ぶ。

 

 

「ありが  ブェシ

 

 

バルバトスの顔に、赤い液体がかかる。

冷たい鉄の身体を持つバルバトスでも、この液体が暖かく、命を動かしていたものだったと、分かる。

 

 

 

「……は?」

 

どっちの口から漏れた疑問符か。

 

彼女の胸から、十字架が生えていた。

元は白かったであろうそれは、彼女を背中から突き刺し、肋骨をへし折り、心臓を串刺しにし、肺を引っ掻き、赤く穢れていた。

 

 

『よーーーーかったぁーーーーーーねえーーーーーーー』

 

彼女の背後に、人影があった。

彼女の影に隠れられるほどの、小さな体躯。少年の声だ。

 

その姿は神聖で、天使を連想した。

白い。白くて、白くて、白い。

穢れ一つ無い、純白のマント、純白の正装を身に纏った、天使がいた。

 

天使が、彼女に、十字架を、刺したのだ。

 

『バルバトス、君を許してくれるってさ』

 

彼女の耳元で囁く。

次の瞬間、十字架は内側から爆発した。

 

彼女の胸の中身が、グチャグチャになって、バルバトスに飛びかかる。

血が、肉が、骨が。

 

彼女を彼女足らしめていた全てが、三日月に浴びせかけられた。

 

三日月は目を血走らせたまま、思考を、精神を、魂を停止させていた。

 

時間が止まったかのような静寂。

天使の狂笑が響く。

 

『キャーーーーーーーーーーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャアアアアーーーーーーーーッッ!!!

 

お前を捨ててまで手に入れた幸せ、僕がぜぇえーーーーーーんぶ壊してやったあ!!

奪ってやったあああ!!!

ねえ今どんな気持ち!?

やっとこさ戻ってきてくれた彼女が、目の前でグッチャグチャになった訳だけど、どんな気持ち!?どんな心境!?ねえねえ教えて!?

一体どんナッ  』

 

 

天使を殴り潰した。

 

一人で動けた。

拳を振り上げられた。

魂を震わせて、動く事が出来た。

 

けどあまりにも遅すぎて、あまりにも残酷な結果だ。

 

 

彼女は死んだ。

その身体は肉塊になって飛び散り、残骸は天使と共に、バルバトスが、

 

バルバトス自身が、殴り潰した。

 

 

憎悪(マステマ)』は残っていた。

どういう仕組みか知らないが、生き残り、復讐の機会を待っていた。

 

そして、彼女の全てを奪った。

 

自身の身体を奪った憎き相手、彼女とバルバトス。

その憎悪だけを抱いて、人間に化けて出てきた。

そして、目の前で彼女の肉体を。

バルバトスからは、肉体を動かす機会を。

 

最悪の形で奪っていった。

 

 

基地が崩れる。

 

土砂に埋もれ、暗闇に覆い尽くされても、思考が途絶える訳ではない。

 

マステマが植え付けた憎悪は、バルバトスを無限の反復地獄に陥れた。

 

彼女の最後の表情、胸が弾ける瞬間の表情、心臓が無くなり、息を吐き終わる瞬間の表情。

マステマへの憎悪。

天使への憎悪。

自分への憎悪。

世界への憎悪。

 

一秒に数十回は繰り返される、憎悪の反芻。

そのドス黒い記憶に、三日月の精神はドロドロに溶かされる。

 

人間ではとても処理しきれない憎悪。

バルバトスの抱える狂気と憎悪、その総量を知る事すら出来ず、三日月の意識は濁って、消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

火星の基地で、初めてバルバトスと繋がり、地を突き破って戦場に出た、あの日。

夜明けと共に、起き上がった、あの日。

三日月の背骨を伝い、脳を震わせたあの感情。

それは、歓喜。

 

暗い無の世界から、再び戦場に出られた事への感謝。

 

ずっと待ってた。

 

パイロットの情報処理速度の限界を越えるほど、多大で深い感情の渦。

 

敵からパーツを奪い、進化していく快感。

整備が行き届き、自身のポテンシャルを発揮出来た事の喜び。

 

全て、三日月には伝わっている。

けれど、バルバトスの過去を知った今は、そこに数百年分の無念が込められていたのだと分かる。

 

そして、天使の尖兵、天使の弓矢をその身に受けて、その存在を感じ取った。

 

『憎悪』が、目の前に現れた。

 

超高速で飛来したそれらは、バルバトスのボディを突き刺し、通り過ぎていく。

バラバラになりそうな衝撃を受けて、三日月に流れこんできた感情は

 

 

歓喜(ぞうお)

 

 

ずっと待ってた。

ずっと待ってた。

ずっと待ってた。

 

 

奴に復讐する機会が、自身に舞い降りたのだ。

どこに居るか見当も付かなかったが、まさか相手の方から姿を見せてくれるとは!

天使を喰い殺す悪魔としての本分、存分に発揮出来るというわけだ!

 

こ ん な に う れ し い こ と は な い

 

 

「そっか……お前、ずっと待ってたんだな」

 

あれから、暗い地中でずっと待ってた。

CGSに発掘されてからも、ずっと待ってた。

バエルが近くに現れてからは、もうずっと待ってた。

おやっさん達が整備するのをずっと待ってた。

三日月が乗り込む瞬間を、一秒が無限に感じるほど、待っていたんだ。

 

 

「じゃあ、ここで終わりたくなんか、ないだろ……」

 

まだ何も出来てない。

何も終わってない。何も始まってない。

 

「俺も……まだ…………ま、だ……!!」

 

終われねえ!!

 

 

『だろ!?   ミカァ!!』

 

 

「……ッ!!!」

 

 

オルガの声を聞いた。

自分はまだ、立ち上がれる。

バルバトスと一緒に、戦える。

 

 

「んじゃあ……行くかぁ!!」

 

三日月は吠えた。

オルガにも聞こえるように。

迸る感情を吐き出すように。

負けてたまるかと、叫ぶように。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バルバトスは中破していた。

右腕は肩口から消し飛び、左脚は膝から先が無い。

最も深刻なのは、右脇腹に喰らった一発で、装甲とフレームが破壊され、コクピットが剥き出しになっていた。

 

シールドメイスがいくらか壁として役に立ってくれた。

少なくとも即死は免れた。

それでも瀕死の状態だが。

 

グチャグチャのコクピットの中。

細かい破片やガラスが浮遊し、暗い宇宙空間が覗く。

そこに赤い水滴が、塊を作って浮遊していた。

まるで意思を持った生物のように、フヨフヨと動き回っている。

 

それは三日月の右腕の断面から漏れ出ていた。

肩口から先が無い。

右腕が、ない。

破片がびっしりと突き刺さり、傷口を覆う事で、逆に出血を押さえていた。

 

「ぅ…………あ……」

 

精神世界から帰ってきた三日月、彼を真っ先に襲ったのは、強烈な眠気だった。

 

視界が霞み、思考が乱れる。

身体は倦怠感に包まれ、無重力であるのに関わらず、身体がとても重かった。

世界が赤かった。

頭が水の容器のように重い。

手足の感覚が無く、音もどこか遠くに聞こえる。

目の奥が痺れ、瞼に意識が集中する。

普通ならショック死だ。

だが、阿頼耶識で繋がった先の悪魔は、一言だけ、呟く。

 

『まだ だめ』

 

左手は無事だ。

フッと笑みが零れる。

アトラの作ったブレスレット。これが守ってくれた。

 

頭の中が、スゥーッとするような、どこか晴れやかな気持ちでもあった。

 

今なら、身体も精神も、全部を任せられる気がする。

バルバトスに、全部をやれる気がする。

 

三日月は自分の全部を使う。

だから、

 

「ゼンブよこせ…………」

 

お前の全部を。

 

バルバトスの瞳が、赤く燃え上がった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『けきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃっ!!!

きゃーっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃああああああああああああああああ!!!!』

 

 

クダル・カデルは狂笑していた。

限界を越えた阿頼耶識、その力を得た反面、脳が耐えきれず、焼け切れているのだ。

すでに論理的な思考回路はショートした。

記憶も性格も破綻している。

培養液で満たされたコクピット内では、骸骨のような表情をしたクダルが笑っていた。

その骸骨の歯の間からは、赤い蛇がチロチロと蠢く。

 

ガンダム・グシオンは巨大なハンマーを振りかぶり、高速で飛んでいた。

目の前には、片手片足を失い、コクピットに風穴を開けたバルバトスがある。

力無く浮遊する姿は、クダルの嗜虐心と殺意の本能を刺激した。

ハンマーを振りかぶる。こいつを叩き付けて、終わりだ。

憎悪を目一杯膨らませ、絶叫する。

 

『死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっ!!!!!!』

 

 

重い衝撃。まるで惑星でも殴ったかのような感触に、クダルは活動が止まる。

 

 

バルバトスは素手で、グシオンハンマーを受け止めていた。

 

『hhhhhhhhhhhhhhhhhhhh、は?』

 

グシャリ

 

異音と共に、ハンマーの殴打部分が握り潰され、へしゃげる。

 

引っ張られ、ハンマーを手放してしまった。

あり得ない。

このグシオンから武器をひったくるほどのパワー。

 

理屈に合わない現象に、クダルは目を見開いている。

 

動くはずがない。生きているはずがない。

憎きバルバトスは、全身を赤く光り輝かせていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バルバトスはフレーム全体に赤い亀裂が入っていた。

リアクターから流れ出す超強力なエネルギー、その熱がフレームを熱し、赤く変色させているのだ。

 

バルバトスが消えた。

赤い残像を残して、グシオンの背後に瞬時に移動する。

狼の遠吠えのような駆動音に、女性の悲鳴のような禍々しい異音が混ざる。

 

左腕に持っていた刀で、グシオンの左腕を脇から切り上げる。

グシオンの厚い装甲を、ばっさりと。

その肩口の断面から、刀を突き刺す。

しかしグシオンは高速回転し、背中の装甲で弾き返す。

その勢いのままバルバトスを殴りつける。

 

だがそこにバルバトスはいない。

赤い残像が残るだけ。

刀による斬撃の嵐は止まず、グシオンをズタズタに引き裂く。

まるで、狼が獲物の肉を噛み千切るように。

狂女の金切り声がなり響く。

狼の息使いが聞こえる。

 

クダルのいるコクピットは沸騰していた。

培養液が泡を噴き出し、熱湯のような液体の中で、クダルは絶叫していた。

 

『あああぁぁぁぁぁぁぁもおおおおおおおおおぉぉぉおおぉおぉおぉおおおぉぉぉぉぉおおおおッッッ!!!』

 

胸部のキャノン砲『バスターアンカー』を発射。

周囲のデブリに命中し、大爆発を起こす。

 

『死んで!!死んで!!死んでえ!!!しんでええええええええほしいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』

 

辺り構わず体当たりをする。

デブリ帯を破壊し、暗い宇宙を爆走する。

バルバトスは依然として視界に入らない。捉えきれないのだ。

脳内情報処理速度を上げる。

流れる電流の強さも格段に上がり、肉が焼け、脳の神経が焼き切れる。

眼球がドロリとこぼれ落ちた。

 

だが見えた。

クダルの命の全てを使って、バルバトスの動きを捉えた。

バルバトスはグシオンの顔面を斬り裂く。

カメラアイを左右共に斬り、視覚を奪う。

だがグシオンも黙っていない。

脚で横に蹴りつける。

分厚い装甲とスラスターの加速で、とんでもない威力の蹴り。

バルバトスの右脇腹に命中すれば、パイロットは潰れてお陀仏だ。

刀を盾にして防いだが、その刀も半分に折れる。

スラスターで体当たりをして、艦船の剥離した装甲に叩き付ける。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『お前楽しんでるだろお!?人殺しをよおおおおおおおお!!!』

 

「ああ?」

 

暗闇の世界。

痛みも、衝撃も感じない精神世界。

いや、ここは、魂の見る世界か。

 

グチャグチャに溶けた大男が、三日月に掴みかかってくる。

グシオンのパイロットが、魂だけになって三日月に触れてきたのだ。

嫌悪感が溢れる。

 

『悪魔に身を売った化物がっ!楽しんで虐殺と破壊をする、生まれついての悪魔ッ!!お前は人殺ししか脳がない、ゴミクズなんだよぉ!!』

 

「俺が……楽しんでる?」

 

そう、楽しんでいる。

高揚している。

この地獄のような戦場を、生き甲斐と感じている。

 

(あれ?なんで……こんな気分に……)

 

まるで、全身が人殺しのためにあるみたいだ。

細胞一つ一つが、戦闘のために作り出されたみたいだ。

魂そのものが、ガンダムに乗って、戦うためのものみたいだ。

 

戦争そのものみたいな……

 

「まあいいか」

 

三日月は思考を放棄する。

 

「コイツは、死んでいい奴だから」

 

とどめに右腕をコクピットに叩きつけて、この戦いは終わりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

グシオンが降り下ろした腕。それは死の鉄槌となりうる。

だがその間接部に、折れた刀を突き刺し、動きを止める。

 

『ゴエッ!?』

 

バルバトスはグシオンを突き飛ばし、そのどてっ腹に、拳を叩き込む。

 

 

エイハブ・リアクターのリミッターを外した出力、超電力で硬質化したフレーム。

その拳は、グシオンの装甲を突き破り、コクピットをへしゃげさせた。

クダルの身体も潰れたが、まだ首から上は残っている。

マグマのような培養液の中、皮膚が溶け、頭蓋骨が露出し、脳ミソすらはみ出た状態でも、グシオンは戦う。

 

間接部が動かない右腕を、バルバトスの胸へと叩き付ける。

衝撃がダイレクトに三日月を襲う。

 

「がっ…………!ぐっ……!!」

 

破片が腹部に刺さり、内臓を抉る。

 

「うっ……ぶ!!」

 

ドロリとした血を吐く。

頭が割れるように痛い。

首を支える力も無く、顔は横に傾く。

汗が噴き出す。体温調整も出来ないのか、暑いし寒い。

ボロボロの身体が揺すられ、息をするのも辛い。

だが

 

(来い……)

 

赤く血を流す瞳は、まだ死んでいなかった。

 

(来い……ッ!!)

 

呼び寄せられたように、刀の刀身が近付いてくる。

浮遊していた刀の破片、その先端部を掴み取ると、そのままグシオンのコクピットに突き立てた。

陥没した装甲に、刀の破片が突き刺さる。

 

『ウ゛ァアア゛ア゛アア゛アアア゛アア゛ア゛アアアアア゛アアア゛ア゛アアアア゛アアア゛アアアア゛アアア゛アアア゛アア゛アア゛アア゛゛ッッッ!!!!』

 

響き渡る断末魔。

装甲を貫通してきた切っ先に、クダルは顔面を真っ二つに切断される。

首のチョーカーは切れ、蛇のような舌も千切れた。

溶けていく骸骨の怪物は、左右に別れる視界の中、憤怒の獣、真の悪魔の姿を見た。

 

 

三日月の意識もここまでが限界だった。

悪魔と悪魔は、お互いの心臓に腕を伸ばし、叩き、突き刺し、殺し合った状態のまま、動きを停止した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

強襲装甲艦の5倍はある大きさの岩石

二体の悪魔が沈黙した時、その上部からそれは飛来した。

上部と下部から、バルバトスを挟み撃ちにするように。

その巨大な質量と硬度で、三日月を押し潰すのだろう。

 

圧倒的な存在感を発しながら、ゆっくりと、しかし確実に押し寄せてくる。

 

イサリビのブリッジにてそれを見たオルガは、絶望に顔を蒼白にする。

 

「なんっ……」

 

息がつまり、喉から嘔吐感が漏れ出そうだ。

 

あんなものに押し潰されれば、今度こそ三日月は終わりだ。

遠距離からの馬鹿みたいな威力の射撃武器、それを喰らって命があった事に胸を撫で下ろし、グシオンとの壮絶な喰らい合いを制し、相討ちになって動けない状態。

 

今からでは間に合わない!

 

「ミカァ!!」

 

悲痛なオルガの叫び。

モニターには新たな動きがあった。

トンボの群れを振りきったハンマーヘッドが、あの巨大な岩石の片方に、高速で近付いているのだ。

 

「兄貴!?」

 

まさか、ぶつかろうと言うのか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ハンマーヘッドのブリッジ内、名瀬はずり落ちた帽子をかぶり直し、前を見据える。

 

「うちの船がなんでハンマーヘッドって呼ばれてるか、教えてやれえ!」

 

「あいさ!総員対ショック用意!」

 

エーコが叫ぶ!

 

「リアクター出力最大!艦内慣性制御いっぱい!」

 

ビルトの声と共に、船の速度がぐんと上がる。

その大きな力を感じながら、名瀬は叫ぶ。

 

「突貫!!」

 

ハンマーヘッド艦首には横長の大型装甲版が取りつけられており、この装甲を活かした突撃を食らわせる。艦側面にはみ出した部分には推進器も搭載しており、これによる推進力の強化も大きい。

 

自身の五倍はある巨大な岩に激突。

超巨大岩石は、わずかに軌道を逸らし、三日月との衝突を数秒遅らせる。

 

衝撃から立ち直った名瀬は、そのままブリッジを飛び出し、エーコ達の制止を振り切り、カーゴブロックの方へと飛んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

フミタンが前方右シートに移り、火器管制を操作する。

主砲全門による集中砲火で、ハンマーヘッドがぶつかった方とは別の岩、その先端部を狙う。

二連装砲の集中砲火により、超巨大岩が抉れる。

だがそれは全体からすれば微々たるものだ。

 

「くそっ!これじゃ数秒しか稼げねえぞ!!」

 

オルガが絶望に絶叫する。

イサリビを飛ばしても、これでは間に合わない。

 

「いいえ!」

 

フミタンは確固たる意思で、抗う。

 

「この数秒を使うのは、アグニカです!!」

 

「!!」

 

名瀬も、希望に繋げるために動いた。

使える手を全て使って、稼いだこの数秒、それを全賭けする。

 

アグニカという希望に。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『その数秒を詰めないと思うかい?』

 

天使は指揮者のように手を振るう。

 

再装填を終えたダインスレイヴ

16体のモビルスーツが照準を構える。

狙いはやはり、バルバトスと三日月。

 

放っておいても死ぬ。

だがそれでは意味がない。

隙間無く埋め尽くされる鉄の圧力、その絶望に抗い、生き残る事が出来るか。

それだけの耐久力があるかを試す試練なのだから。

 

16本の魔剣が発射された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

黄色い閃光を発しながら飛来し、魔剣の一本がバルバトスの胸部を狙う。

まるで吸い込まれるように。

これが当たれば、三日月は死ぬ。

 

 

蒼い閃光が割って入った。

黄金の剣が、魔剣の剣身を斬り落とす。

凄まじい金属音と、爆ぜたような火花が散る。

目も眩む光と衝撃。だがそれ1発では終わらない。

 

間を置かず飛来したダインスレイヴを、次々と斬り落とす。

斬り落とす。斬り落とす。斬り落とす。

一発斬り裂き、弾き落とす度に、真空の宇宙に力が分散され、放射されていくのが分かる。

 

「おおおおおおおおああああああああああああっ!!!」

 

13発、14発、15発、最後の一発。

全ての動きを流れるように連動させた、無理のない洗礼された動き。

衝撃を殺さず、くるりと一回転し、振りかぶった剣を、下ろす。

魔剣の暗い灰色と、煌めく黄金の剣が錯綜し、弾ける。

 

魔剣は真っ二つになって左右に飛んでいった。

 

あまりの威力に熱を発したのか、黄金の剣は赤々と輝いている。

 

「ふーーーーっ」

 

魔剣の流星群を撃墜してみてる。

伝説の英雄憚を実現してみせたのは、他でもない。

 

 

アグニカ・カイエルだ。

 

バエルゼロズが、そこにいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

激しい『動』の後の、一秒にも満たない『静』の時間とでも言うべきか。

両手を広げ、黄金の剣を構えた、純白のような銀色の機体。

青と銀のカラーリングの、冷たい印象を与える姿、赤く鋭い眼光は、正に『魔王』だ。

 

超巨大岩がバルバトスを押し潰そうとする。

 

「三日月ッ!!」

 

アグニカは叫ぶ。

バエルゼロズは青い翼を大きく広げ、バルバトスに近づく。

その勢いのまま掴んで回収した。

絡み合ったグシオンもついてきた。

 

真後ろで超巨大岩同士がぶつかる。

お互いがへしゃげ、潰れ、砕ける。

鉄と鉄をぶつけ合うような、重厚で歪な光景だった。

 

バルバトス、グシオンを回収したバエルゼロズは、そのままイサリビの方に飛んでいく。

イサリビに張り付いていた、クランクのグレイズが近づく。

 

「アグニカ!」

 

「クランク!三日月を治療しろ!!」

 

バルバトスをクランクに任せ、バエルゼロズは反転し、再び飛ぶ。

行き先は勿論、このふざけた戦況を作り出した、ダインスレイヴを持ったモビルスーツの所だ。

 

岩の壁を飛び越え、真っ直ぐに飛ぶ。

 

すぐに敵は見えた。

 

位置を全く変えず、まるでアグニカを待っていたかのように、魔剣を構えているではないか。

 

「……くっくっくっ」

 

アグニカは喉を震わせた。

 

ダインスレイヴの第三弾、バエルゼロズに狙いを絞った一斉射撃が襲う。

 

「くくくくくく……」

 

アグニカは手を震わせた。

 

警告のアラームが鳴り響く。

限界まで高められた認識能力で、魔剣の切っ先がくっきりと見えた。

 

「あっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

アグニカは胸を震わせた。

 

バエルゼロズの首を動かし、ダインスレイヴを避ける。

羽を下に動かし、ダインスレイヴを避ける。

大きく右に傾き、ダインスレイヴを避ける。

S字を描くように飛行し、ダインスレイヴを避ける。

 

最小限の動きで、スピードを殺さず、前に進みながら、魔剣の一斉射撃を回避してみせた。

 

「あははははははははははははは!!!!!」

 

 

アグニカは脳を震わせた。

モビルスーツ達に接近する。

そこからは一方的な展開だ。

ここで起こったありとあらゆる破壊行為を、分かりやすく、端的に表すとすれば、

 

『ミキサー』だ。

 

野菜や果物を高速で斬り裂き、粉砕し、グチャグチャに混ぜ合わせる様が、一番イメージとして合致する。

 

時間も同じくらいだった。

 

もう二度と元に戻らない。

壊し方にも色々あるが、バエルゼロズの暴れっぷりは、再生を許さない破壊の極地であった。

 

バラバラの残骸が浮遊する中で、バエルゼロズは静かに佇んでいた。

 

 

そのコクピットの中、アグニカは瞳孔を収縮させ、口を開ききって、笑っていた。

 

天使だ。

天使が生きていた。

 

この時代にも、奴らの悪意は残っていた。

 

ならば、それを踏み砕く。

 

アグニカはそれだけが生き甲斐なのだから。

それが、向こうから姿を現してくれるなんて!

 

 

待ってた。

ずっとと言うには短いけれど、待っていた。

もう一度、天使と殺し合える日を。

 

内側から溢れ出す歓喜に、アグニカはヘルメットを外し、髪をかき上げて、狂ったように笑った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あはっ」

 

映像に映ったバエルゼロズの暴力の嵐を見て、天使は笑った。

ここからどれだけ離れていようと、その圧倒的な力はピリピリと感じる事が出来る。

 

「あはは、あはっ、うふっ、あはははは」

 

純白のマント、純白の衣服を着た少年が、うっとりとした表情で笑う。

 

アグニカ・カイエル。

人類の到達点にして、魂の進化の最良系。

 

天使達の希望。

 

「すき」

 

恋する乙女のように、顔を赤らめ、腰をくねらせる。

 

「すき、すきすきすき!

 

愛してるッッッ!!!」

 

アグニカを愛してる。

彼こそが、天使達が生きる理由なのだから。

 

「愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる」

 

ずっと待ってた。

300年も、アグニカが戻ってくる日を待ちわびていた。

 

 

「ねえ君もそう思うでしょ!?」

 

天使が振り返る。

そこには生命維持装置に繋ぎ止められた、アイン・ダルトンという男がいた。

 

『バ……エ…………ル』

 

うっすらと目を開き、空洞を通る空気のような声を発する。

呼吸すら機器に頼らなければ満足に出来ない。

 

「ああそっか、君はバエルの方にご執心だったね」

 

生命維持装置に腰かける天使。

ガラス張りの機器に、培養液に満たされたアインが見える。

 

『だ……れ……だ……』

 

「おやおやおやぁ!僕の事が見えるんだねえ!」

 

天使は上機嫌に笑う。

 

『みえ……る……?』

 

「あっはぁ!声も聞こえる!これは当たりかもねえ!」

 

手を叩いて、足をブラブラと揺らめかせる。

 

「バエルが憎いかい?」

 

『バエ……ル!……憎い……ッ!憎い!にクい!にくい!ニクイ!!にくいっ!!』

 

「あはぁ……いいね。その憎悪。

僕気に入っちゃった」

 

天使はにっこりと笑う。

 

その者の名は『マステマ』

 

「君には『ボティスの心臓』をあげよう」

 

神に遣える悪魔にして、悪魔のような天使。

自らが崇める神、すなわちアグニカのため、悪魔に近い暴虐を為し、人間を害し、また誘惑する事で、人間を強制的に進化させようとする存在。

 

『バエルを……コロス力をォォォォォォ…………』

 

「勿論、試練は受けてもらうけどねっ」

 

その名は

 

神の国の言葉(ヘブライ語)で、『憎悪』と『敵意』を意味する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「死なねえ!お前は死なせねえ!!」

 

「あにき……?」

 

ボロボロのグレイズが、同じくボロボロのマン・ロディを抱き止めていた。

昭弘は頭部を打って血を流していたが、そんな事は気にも留めなかった。

 

 

「俺が守ってやる!!!」

 

 

吠えるように、全身全霊をかけて叫んだ。

 

「何……言ってんだよ……そんな事」

 

昌弘は俯き、肩を震わせる。

今までの苦しみを、絶望を、憎悪に昇華させて、昭弘にぶつける。

 

「ヒューマン・デブリの俺を?……兄貴が?……出来っこない!!」

 

所詮宇宙の鉄屑。出来る事なんてない。

 

「こうしてさ、兄貴が迎えに来て……兄貴についていって、それで何が変わるっていうんだ?」

 

どこへ行っても、自分達が鉄屑なのは変わらない。

だから使い捨てにされる事も、ゴミみたいに死ぬ結末も変わらない。

 

「遅かれ早かれどうせ死ぬんだ。だってそうだろ?俺たちはヒューマン・デブリなんだ……地面でなんて死ねない」

 

「何度だって言ってやる……」

 

「え?」

 

「お前は死なねえ!!俺が守ってやる!!」

 

「バッ……だからっ!俺たちは死ぬんだよ!ヒューマン・デブリが!まともに生きていける訳……」

 

「誰が決めたぁ!!」

 

「はっ……!?」

 

「デブリが生きてちゃいけねえなんて、どこのどいつが言ったんだ!!」

 

「そ……そんなの、見てれば分か……」

 

「分からねえ!!分かってたまるか!!」

 

「ただの思考停止じゃないか!!俺が……!どれだけ苦しい目にあったか……!!アンタ分かるか!?

アンタをずっと待ってた……!!けど期待なんかしたら、余計に虚しくなって!悲しくなって!!こんな自分が惨めで!!もう死んじまいたいんだよ!!

ヒューマン・デブリに希望なんて無いんだ!!」

 

「希望なんざどうでもいい!!俺には生きる理由がある!その一つがお前だ!昌弘!!」

 

「えっ…………」

 

「お前は俺を恨んでいい!俺が遅かったせいで……お前がどれだけ苦しんだか、好きなだけぶつけてこい!それを俺は受け止めてやる!!」

 

「で……でも、俺は……死ぬしかなくて……ヒューマン・デブリで…………人間じゃないから……」

 

「うるせえ!!!」

 

「!?」

 

「お前に言ってるんだ!!昌弘・アルトランド!!」

 

「……ッ!!」

 

「お前は、俺のたった一人の、血の繋がった家族だ!!

家族を守るのが俺の役目だ!!!」

 

「かぞ……く…………」

 

母も父も死んで、昌弘にとっての家族は、この世に昭弘だけ。

昌弘を分かってくれるのは昭弘だけだ。

 

「守りあって……支えあって……それで生きていくんだ!死ぬまで生きていくんだよ!!」

 

それが家族の形。

 

「兄貴……」

 

「とにかく力づくでも連れていくぞ!!」

 

グレイズは昌弘のマン・ロディを押さえたまま、イサリビへと飛んでいく。

お互い無言だった。

二人の間にある溝は、会えなかった時間に味わった苦痛ではなく、手に入れられたものの差が作り出している。

昭弘がここまで希望に溢れている理由を、昌弘は理解できないのだ。

 

だが昌弘は、自身の心の氷が溶け始めているのを感じた。

希望も苦痛もいっしょくたに固めた、感情の塊。

それが溶け出す事で、封じ込めていた負の感情が溢れてくるだろう。

それがとても怖い。

 

だが、それすらも昭弘が受け止めてくれると言う。

理解し、肯定してくれる。

 

そうすれば、自分は、救われるのかもしれない。

認められるのかもしれない。

 

生きていていいと、そう断言してもらえるのかもしれない。

 

この胸に根付く憎悪が、消えてなくなるかもしれない。

 

俺は……人間になれるかな?

兄貴……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

青い地球。

青い海。

東部ヨーロッパ大陸とスカンディナビア半島に囲まれた海域、『バルト海』。

ゴットランド島近海にある、巨大なメガフロート、『ウィーンゴールヴ』

白を基調とした優雅な曲線美を持つ構造物で、天下のギャラルホルン地球支部の本拠地となっている。

 

ここにはギャラルホルンの重鎮家の居住区が用意されており、セブンスターズの一席、ボードウィン家の屋敷もここにある。

その屋敷の敷居を跨ぐ、二人の青年達が居た。

 

一方は長めの金髪と整った顔を持った、どこか底知れなさを醸し出す雰囲気の男、マクギリス・ファリド。

その表情は非常に穏やかだ。

 

もう一方は青い髪の青年で、こちらも顔立ちは整っている。マクギリスよりも少し大人気ない印象を受ける。

疲れているのか、ぶすっとした表情を崩さない。

名はガエリオ・ボードウィン。

 

「はぁー、久し振りだなぁ」

 

ガエリオは一人ごちる。

肩布を外し、首をポキポキと鳴らす。

玄関を通り、メイド達が並んでお出迎えだ。執事の老人がガエリオに一礼する。

 

「4ヶ月ぶりの我が家だ」

 

「アーレスで足止めを喰らったからな」

 

「その間オレは、二人分の仕事をしてた」

 

「フッ、すまなかった。埋め合わせはさせてもらうよ」

 

ガエリオが嫌味っぽく言うと、マクギリスはさらりと返す。

マクギリスはメイドに肩布を渡し、優雅に微笑んでいる。

その横顔を見ながら、ガエリオは難しい顔をした。

 

(ここ1ヶ月弱、マクギリスはどこに行っていた?)

 

ギャラルホルン火星支部、その本拠地である「アーレス」にて、ガエリオは仕事に忙殺されていた。

というのも、アーレス局長のコーラル・コンラッドの不正取引、汚職、モビルスーツ部隊の私用という職権乱用。叩けば埃が出るわ出るわ。

そこに鉄華団とかいう武装集団に返り討ちにされ、コーラル自身が死亡、多数のグレイズが鹵獲され、ガエリオの専用機、シュヴルベ・グレイズもぶん盗られてしまった。屈辱だった。

 

そして鉄華団の騒ぎはこれだけでは無い。

なんと、鉄華団側が持っていたモビルスーツの中に、ギャラルホルンの開祖、アグニカ・カイエルが乗っていた伝説の機体、ガンダム・バエルが確認されたのだ。

これがまた相当な騒ぎになった。

本物のバエルか、嫌まさか。

偽物にしても、エイハブ・ウェーブまで完璧に偽装するとなると、完全なオーバーテクノロジーだし、不可能と言ってもいい。

 

そんな訳で、アーレスでは現場の混乱を抑え、なるべくスムーズに仕事が出来るように奮闘していたのだ。

馴れない気苦労に、不満が溜まりに溜まった。

 

そして、その不満を愚痴る相手が居ないのだ。

マクギリスは「入り用」だとか何とか言って、出ていったっきり音沙汰無し。

アーレスに行くと言っていたのに、いざ覗いてみれば、影も形も無かった。

 

まさか火星に行く理由も無いだろうに、一体どこへ?

 

などと思っていると、20日ほどでアーレスに姿を現した。

どこかから戻ってきたのだ。

 

それこそ詰め寄って問い正そうとした。

だが出来なかった。

 

マクギリスの並々ならぬ覇気、溢れ出すオーラのようなものに、気圧されてしまったのだ。

底知れぬ活力と、力のある笑顔。

マクギリス・ファリドは、数段上の存在になってしまったと感じた。

またさらに、手が届かない所に行ってしまったのだ。

 

それは普段被っている仮面でもなく、内に秘めた暴力性(ガエリオは薄々気づいていたのだが、マクギリスは狂暴性と容赦の無さを隠し持った、腹黒い性格なのである)でもない。

全く新しい姿だ。

ガエリオの知らない、マクギリス。

 

彼の瞳には、一体何が映っているというのだろうか。

 

 

「マッキー!」

 

黄色い声に、思考の深みから引き揚げられる。

見れば、ふんわりとした青髪の少女が、満開の向日葵畑のような笑顔を咲かせ、とてとてと走ってくるではないか。

ガエリオの妹、アルミリアだ。

白いドレスのような服装で、スカートのすそを摘まんで走ってくる。

切り花の途中だったのか、手には一輪の花を持っている。

 

そのままマクギリスに抱きつき、マクギリスはくるくると回る。

顔をすぐ近くに寄せて、目を輝かせる。

ずっと待っていた。愛する人の帰りを。

 

「いらっしゃい!マッキー!」

 

「ふふっ、会えて嬉しいよ、アルミリア」

 

彼女の髪に頬擦りし、匂いを嗅ぐように吐息を吹きかける。

アルミリアは照れたように笑い、くすぐったそうに首をすぼめる。

 

「あはっ、やだ、マッキー」

 

「アルミリア」

 

マクギリスは彼女の細い首筋に唇を這わせた。

周りの目など気にせず、いちゃつきだした二人。

メイド達も顔を赤くして、目を丸くして見ている。

そんな桃色空間に耐えられなかったガエリオが、ごほんと咳払い。

 

「あー、あー……親子感動の再会の邪魔をして悪いが……」

 

「親子じゃありませんわ!」

 

アルミリアがぷんすか怒る。

マクギリスは彼女を丁寧に抱き下ろす。

地面にストンと降ろされ、スカートのすそを摘まんで一礼する。

その動作は優美で、なかなか様になっていた。

背が低いので、どうしても「可愛らしい」という印象が強くなるが。

 

「おかえりなさい、お兄さま。私はもう立派なレディです」

 

そこで初めて、ガエリオの存在に気付いたという風に、急に澄ました顔になる。

フフン、と無い胸を張って。

 

「紅茶のいれ方だって完璧に覚えたんだから」

 

くるりとマクギリスの方を向く。

それだけで顔色も声色も変わった。

 

「マッキーにも後でいれてあげるね!」

 

「楽しみだよ、アルミリア」

 

「うふふっ!」

 

「俺は遠慮しとくよ」

 

「むぅ……!」

 

マクギリスとアルミリア、薔薇色の会話に、ガエリオが棘のような茶々を入れる。

 

これが、彼らの日常の風景だった。

ガエリオは少しだけ、影のある笑顔をしていたが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

地球に降下する前、マクギリスは「地球外縁軌道統制統合艦隊」の本拠地、グラズヘイムに立ち寄りたいと言い出した。

地球軌道上に3基が存在する低軌道ステーションで、そのうち一番基は、同艦隊指揮官、カルタ・イシューが居る。

そこに行きたいそうだ。

 

カルタ・イシュー。

セブンスターズの第一席、イシュー家の一人娘で、階級は一佐。

ガエリオの幼馴染みで腐れ縁。

ふくよかな白髪と麿眉が特徴の令嬢で、凛とした佇まいで、雪のような印象を与える。

見てくれは悪くないのだが、その性格には難ありだ。

とにかく高飛車で、上からの物言いがキツい事と、感情がコロコロと良く変わるので、上からも下からも「手に負えない」という評価を受けやすい。

 

現当主であるサイ・イシュー氏が病床に伏しているそうで、代行を務めて頑張っている。

イズナリオ・ファリドが後見人となり、彼女をサポートしているのだが、如何せん彼女の身の重要さと、前線に出たいという上昇気性の齟齬が発生している。

 

300年経った今でも、セブンスターズの第一席という家柄が持つ重要さは、人一人が背負えるほどの重さではない。

女という事もあり、いずれは嫁に出して、家を安定させたいというのが周り大人達の言い分だろうが、彼女は縁談を片っ端から断っているそうだ。

まああの性格では、許嫁だろうが政略結婚だろうが破局するだろう、と苦笑していた。

 

それに彼女は、心に決めた人がいるのだ。

幼い頃に一目惚れし、それなりに時間が経った今でも、想い続けている男が。

 

 

グラズヘイムにて、適当に報告と部下達との交流を済ませた後、廊下をぶらついていた。

地球が見下ろせる大きな窓がある。

そこを通りがかった時、甲高い女の声が聞こえた。

聞き間違える訳がない。

嫌というほど聞いた、カルタ・イシューの声だ。

扉の影に隠れ(決して飛び火で怒られるのが怖かった訳ではない)、そっと覗き見てみると、案の定、カルタとマクギリスが話をしていた。

 

マクギリスは背を向けていて、その表情は見えない。

だが穏やかな声色からして、微笑んでいるのだろう。

 

「バカにしてるの!?」

 

「どうして?」

 

カルタは大人気なく怒り、マクギリスは涼しげに返す。

 

「んもうっ!焦れったいわね!言いたい事があるならハッキリ言いなさい!」

 

「フッ、ならば一つだけ問おう」

 

少し間を置いて、その名を口にした。

 

「アグニカ・カイエルについて、どう思う?」

 

アグニカ・カイエル。

ギャラルホルンを作り上げた人物で、厄祭戦を終わらせた第一任者。

混乱し、滅亡寸前の危機、その絶望の淵にいた人類を纏め上げ、世界を一つにした男。

人類史上最強のモビルスーツ乗りで、ガンダム・フレームに初めて乗った人物。

彼の言葉は人々の魂を震わせ、正義と希望のために戦う原動力となったという。

 

だが、厄祭戦終結の決め手となった最終決戦にて戦死。

血縁者もいなかったため、カイエル家は途絶。

人類史上最も貴重な血縁が途絶えた瞬間だと言われている。

もしアグニカが生存していれば、ギャラルホルン統制幕僚長は彼だったはずだ。

セブンスターズの席次を決めた、モビルアーマーの討伐数だって、イシュー家よりアグニカの方が上だった。

(とどめを刺すのは部下にやらせ、自身はモビルアーマーの利点を殺す戦い方だったにも関わらず、だ)

 

カルタの答えも、そういった基本的な知識によるものだった。

 

「……ギャラルホルン、いえ、セブンスターズの者であるなら、知っていて当然の知識よ。「伝説の英雄」。全ての兵士の目指すべき理想。それ以外に思う事なんて無いわ」

 

やっぱり私を馬鹿にしてるの!?と視線で語っていた。

 

「では、今の世界をアグニカが見れば、一体どう思うのだろうな」

 

マクギリスは地球を見下ろす。

 

「大きく肥え太り、腐敗した組織。格式張り、表面上の平和を守るために、個を土の下に埋めてしまう。そんな世界」

 

「……アグニカの思想を持つ者が、今のギャラルホルンの体制を変革させたいと望んでいる?」

 

マクギリスの抽象的な言葉を、精一杯繋ぎ合わせて、現実的な結論を出した。

その根性は流石だと、純粋に思える。

 

「世界は変わる。俺はそう確信しているんだよ、カルタ」

 

名を呼ばれた事に、一瞬動揺するカルタ。

横髪を弄って、目線を逸らして照れ隠し。

あれで誤魔化しているつもりなのだろうか?

 

「急に来て、いつにも増してニヤケ面で、自信満々に話しかけてきたと思ったら、全く根拠の無い与太話。それが格好いいとでも思ってるの!?」

 

お茶に誘われて、世間話でもするつもりだったのだろうか?マクギリスがそんな普通の事をする訳がないのに。

あいつもああ見えて、内心乙女だな。

こじらせ方が尋常ではないが。

 

「大体アンタはいつもそう!小便臭いガキと婚約したり、意味が分からない事ばっかりする!周りと違った事をして、自分を確立させたいんでしょう!?ほんとっ、いつまでたっても子供なんだからっ!!」

 

自身も若干、口調が子供っぽくなっている事に気付いていないのだろうか?

 

「大人だろうと子供だろうと、もはや関係無いよ」

 

マクギリスはマクギリスで、いつも以上に謎理論を展開する。

 

「変革を迎えた世界で、誰も彼もが、自分ではいられなくなる。拠り所としていた平穏と常識が崩れ去る時、人々は……君は一体、どうするのかな?」

 

目をじっとのぞき込まれているのか、カルタの動きがピタリと止まる。

まるで魔法で石にされたように。

マクギリスの瞳の動きだけで、たとえ鉄にでも、熟れた果実にでもなるのが乙女だ。

ガエリオには絶対に使えない、本当の魔法のようなもの。

 

カルタは気が動転したのか、マクギリスを突き飛ばそうとする。

しかし、その手を引っ張り、カルタの身体をぐいっと引き寄せた。

視線の距離が限りなくゼロになる。

カルタの脚がピンと伸び、身体は硬直したまま。

手は金縛りになったように固まり、やがて脱力する。

 

時間が止まったような感覚。

ガエリオにだって、何が起こったか分からなかった。

 

数瞬後、身体を離した二人。

カルタは目の焦点が定まっていない。

 

「今の俺に触らない方がいい」

 

カルタの耳元に顔を近づける。

カルタはびくりと震えるが、その場から動けない。

 

「火傷してしまうぞ」

 

そう呟くと、マクギリスは颯爽と立ち去ってしまった。

 

一人残されたカルタも、影から覗いていたガエリオも、あまりに突然の事に、脳の処理が追い付かない。

 

カルタはその場にペタンと座り込んでしまった。

駆け寄ろうか迷ったが、カルタが唇を指でなぞっているのを見て、ゆっくりとその場を離れた。

 

(マクギリス……お前、アルミリアとの婚約はどうした!?)

 

親友であり、義理の弟になるはずのマクギリス。

腐れ縁であり、胸に秘めた想いを間近で見てきたカルタ。

その二人の浮気(?)現場を目撃してしまい、どうしたらいいか分からないガエリオ。

 

実家に帰り、仲睦まじくしているマクギリスとアルミリアを見て、その思いは渦を巻いていた。

 

なんというか、ぶっ壊れた。

マクギリスが壊れた。

 

そう思えてならない。

 

やはり、この1ヶ月弱で、何かがあったのだ。

あるとすれば、鉄華団。

そして、アグニカ・カイエル。

 

これらがマクギリスの仮面を外し、内なる獣を解き放った。

そんな気がしてならない。

 

過去も目的も知らず、変革の理由も分からない。

限界も見えない。いや、マクギリスに限界なんて無いのかもしれない。

 

マクギリスは、自分の考える常識など、全く通用しない存在になってしまったのではなかろうか……

 

それが、とても怖い。

 

だが……

 

「見てみたい、気もする」

 

ポツリと、本心が零れ落ちた。

 

「あら?お兄さまの分はありませんわよ?」

 

「……ハァ?」

 

アルミリアの生意気な声がして、声が裏返る。

 

「遠慮すると言っていたじゃないですか」

 

フーンだ、と顔を背けるアルミリア。

憎たらしいが、同時に力も抜けてしまった。

 

「うん、美味しいよ。アルミリア」

 

「あはっ」

 

顔をほころばせるアルミリア。

隣に座るのは、いつもと変わらぬマクギリスだ。

 

その先に何があるのか。

それを、お前の隣で見られるのなら。

 

 

変革だろうと混乱だろうと、俺は受け入れられる気がするよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

イサリビ内のモビルスーツデッキに帰還したはいいが、艦内は滅茶苦茶な状態だった。

あの大きな爆発の衝撃は、細かい機材や物を散乱させ、床になぎ倒していた。

壁や機材に弾痕が残り、爆発の焼け跡、敵の死体。

どうやらブルワーズの侵入者はあらかた倒したようだが、まだ混乱が残っている。

昭弘はグレイズから降りる。

誰もが慌ただしく動く中、ライドとおやっさんが浮遊して近付いてきた。

 

「昭弘さん!あの機体って……」

 

「ああ!俺の弟が乗ってる!」

 

昭弘はマン・ロディに飛んでいく。

コクピットは開き、中では昌弘がヘルメットを外していた。

 

「昌弘!」

 

昭弘がコクピットに身を入れ、手を伸ばした。

 

「さあ!こっちへ来い!」

 

「兄貴……俺……」

 

そっちに行っていいのだろうか?

自分のような鉄屑が。

 

「アンタが眩しいよ……なんで、そんなに、強くいられるんだ?死ぬのが怖くないのかよ……?」

 

生きているという事は、つまり死ぬという事。

ヒューマン・デブリの生は、死を待つだけの無意味で無意義なものだ。

だが、昭弘は意味を、「理由」を持っているのだと言う。

 

それが、家族のために戦う事。

つまり、家族のために生きる事だ。

 

「死ぬのなんざ怖くねえ。……だが、お前を失っちまう事の方が、よっぽど怖かった」

 

一緒に死のうと言われた時、昌弘とならいいかと思った。

だが、昌弘が死ぬと思うと、心が掻き乱された。

思考が真っ二つに引き裂かれた気分だった。

 

「俺はお前が生きていてくれて、嬉しい。凄く嬉しい。

お前が生きていてくれるだけで、俺は戦える。だから、こっちに来てくれ」

 

はっとした顔をする昌弘。

昭弘が手を差し伸べる。

目の前にある手に、おずおずと手を重ねる昌弘。

 

「あに……き」

 

昌弘の手を握り、ぐいっと引き上げる。

軽い。

改めて見ると、背もさほど伸びていない。

体格も良いとは言えず、腕は細い。

顔は痩け、髪はぼさぼさだが、昔の思い出とそっくりだ。

 

彼は間違いなく、自分の弟、昌弘だ。

 

思いきり抱きしめた。

もう、ぎゅーーーっと言わんばかりに。

力一杯、抱きしめた。

 

「昌弘……!昌弘……!!」

 

「あ……」

 

息が出来ないくらい締め付けられ、背骨が悲鳴を上げるほどだ。

だが不思議と、嫌じゃない。

 

耳元で自分の名を呼ぶ兄の声。

それを聞いただけで、緩んでしまった。

氷が、溶けてしまった。

 

救われてしまったんだ。

 

顔がくしゃくしゃになる。

涙腺が崩壊したように、涙が溢れ出た。

 

「にいちゃん……!!」

 

昌弘は泣いた。

大声で泣いた。

今まで抱え込んだもの、全てを吐き出してしまうように。

 

昭弘も泣いた。

弟を助け出す事が出来た。

彼の苦しみを、この身で受け止める事が出来る。

これからは、昌弘も自分が守っていく。

愛すべき、家族なのだから。

 

ライドとおやっさんはその一部始終を見守っていた。

他が大変だという事も今は忘れ、家族の再会を、静かに祝福していた。

 

しばらく泣いた後、落ち着きを取り戻した昌弘。

昭弘も一度、身体を離す。

 

「昌弘、もう大丈夫だ」

 

「にいちゃん……俺……」

 

胸の内にあった憎悪が、消えた瞬間であった。

こんなに幸せな気持ちは、思い出の中以来だ。

自分は、この時を……

 

「ずっと待ってガッペ」

 

昌弘の胸が膨張した。

水風船のように、ノーマルスーツを押し広げて、昌弘の細い身体を膨れさせる。

 

「……え?」

 

上半身が異常に大きくなった昌弘。

何が起こったかも分からず、ポカンとした顔をしている。

昭弘も、ライドも、おやっさんも、突然の変化を凝視し、思考が停止している。

 

 

 

これは 明らかに おかしい。

 

 

 

「ま…………」

 

「……いたい」

 

時間が止まったような静寂。

そこに、昌弘がポツリと呟く。

 

「い、いたい……いたい、いたい!痛いぃぃぃぃ!!」

 

「昌弘!?おい!な、何なんだこれは!!!??」

 

昌弘の様子が一変。

顔を歪め、苦痛に身悶える。

その間にも、身体の膨張は続く。

 

「あっ……づ!あつい!に、にいちゃ!助けて!!……にいちゃんたすけてえ!!」

 

「昌弘!!昌弘お!!」

 

昌弘の肩を掴む。しかしパニックになって、何をしていいのかすら分からない。

近くで見ていたライドとおやっさんも同じだ。

 

「い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!

ぎぎぎぎぃぃぃぃいぃいぃいいいぃぃぃぃッッッッ!!!!」

 

「うわあああああああああああああ!!!!昌弘!!昌弘おおおおおおおおおおおお!!!!」

 

昭弘は昌弘を抱き寄せようとした。

膨張が最高点まで進むと、一瞬時間が止まった。

その瞬間、昌弘は昭弘を突き飛ばした。

 

止まった時間の中、目が合う。

 

「まさひ」

 

「にいちゃ」

 

 

昌弘の身体が爆発した。

 

破裂した胸部からはドス黒い血と肋骨が飛び散り、昭弘の身体を染め、突き刺す。

肋骨の先端が、昭弘の右目に突き刺さり、潰してしまう。

爆発の衝撃に吹き飛ばされる。

時間は相変わらずゆっくりで、ぶち撒けられる血液も、視界を半分抉った肋骨も、ピンク色の肉も、血管も、心臓も見えた。

 

昌弘は死んだ。

守ると誓ったその瞬間、最悪の形で、失ってしまった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!」

 

 

喉を引き裂くような絶叫。

この世を呪う呪詛、全てを破壊する超音波の如く、昭弘は絶望を叫んだ。

 

壁に激突し、後頭部を強かに打ち、視界が反転するまで、その地獄のような悲鳴は絶えなかった。

 




バルバトスが妊娠したと錯覚させるために全てを費やした叙述トリック(のようなもの)
やはり厄祭戦は今の時代より遥かにぶっ飛んだ時代という事で、ラブホテルバルバトスよりもさらに上のものはないかと考えた結果、
「じゃ、妊娠させよっか」となった訳であります(まるで意味が分からんぞ!?)

バルバトスの記憶内で、三日月とバルバトスが会話しているのではなく、バルバトスと同化した三日月がパイロット(彼女)と話していたという構図。


ガンダム・フレーム八号機
バルバトス・ホープのパイロット。

厄祭戦時のバルバトスに乗っていた、20代の女性。阿頼耶識手術は当然受けている。
名前は特に考えていないのですが、「希望」に関係する名前がいいなーとはボンヤリ思ってます。
ボサッと伸びた黒髪のイメージ。
明るくて笑顔が眩しいが、恥ずかしがり屋な一面も。照れると涙が出るタイプ。
子供が好きで、子供達が希望を持って生きられる世界のために戦っていた。
アグニカやセブンスターズとも面識がある。

初戦でモビルアーマーを単騎で討伐、その後も「剣鬼」として類い稀なる剣術で敵を切り裂き、多大な戦果をあげた。

衛星ビーム砲探索、破壊の任務中にモビルアーマー・マステマと会敵。
凄まじい激戦を繰り広げる。コロニーくらいの大きさの衛星ビーム砲が崩壊するほど。

この時、マステマの思考AIに標的にされ、憎悪を抱かれる。

バルバトスを火星支部の基地に置き、一度は戦場を離れる。
恋人との間に子を身籠っており、幸せな家庭を築くはずだった。

しかし人体インターフェイスによって受肉したマステマの毒牙によって、目の前で恋人、我が子、仲間を最悪の形で奪われ、発狂。
最後の拠り所であるバルバトス・ホープの所に舞い戻り、許しを乞う。
その姿は心身共にズタボロで、見る影もなくなっていた。

バルバトスに受け入れられ、安堵の笑顔を見せるも、背後から近づいてきたマステマに刺され、心臓を爆破され死亡。
その遺体はバルバトスによって、マステマと共に殴り潰されるという、凄惨な最期を遂げた。

この光景はバルバトスと三日月に深いトラウマを植え付ける。
この時の憎悪をバルバトスは忘れず、300年間抱えこんでいた。
それによりバルバトスのエイハブ・リアクターは機能が暴走しており、通常では考えられない出力とエイハブ粒子を生成する。
さらにモビルアーマー戦でしか使えないはずのリミッター解除まで使える。

アニメ最終回のダインスレイヴを撃たれた後の状態がこれですね。
姿勢制御にしか使えないようなエイハブスラスターすらも、一級の高出力スラスターとして使えるようになるというチート仕様。
さらに、フレームの限界耐久値をはるかに越えた電力と出力によって、フレームの原子構造が変化。
硬質化と怪力を出し、赤い亀裂が入るようになる。
ただし代償として、その一度きりでフレームが砕け、破壊されてしまう。
継戦能力としては最悪だが、「これが最後なら」という状況下では最強の力。

300年間蓄電していたエイハブ・リアクターともなると、流石のギャラルホルンにもデータが無い。
なのでガンダム・フレーム史上最初の暴走とも言える。


バルバトス・ホープ

七星勲章獲得数  2

大天使『サリエル』 
憎悪の天使『マステマ』




そして遂に現れたバエルゼロズ!
ダインスレイヴ16本を弾き落とすという曲芸じみたキチガイ剣術!
SAOのキリトくんも真っ青な銃弾芸当!
いやーやっぱアグニカさんぱねえっす。

直後に笑い出すアグニカさん。
何が嬉しいんだよ……(困惑)

その後のマステマのヤンデレっぷりも自信作です。
人類には早すぎる愛っていうのがコンセプトなので(笑)

そしてついに名が明かされた、世界を蝕む蟲の正体。
なんとバルバトスが倒したはずの、モビルアーマー・マステマの思考AI。
それがネットワーク上に寄生し、人体インターフェイスを作って復活した姿。

つまりこいつを倒せば地球の問題とかは解決、ハッピーエンド。
やったねアグニカ!


昌弘爆死!
前回マステマが言っていた「特別プレゼント」とやらがこれです。
いつの間にか体内に埋め込まれていた小型爆弾。

原作の昭弘と昌弘の死別シーンを見ていて、

映画監督風のヨフカシ「んー……まだいけるね!」

と思ったので、原作を越える鬱展開、死亡シーンにしちゃいました☆テヘペロ☆

結局昭弘は男泣きと、多少声を荒げたくらいしか感情の起伏がなかったので、もっともっと絶叫しようね!と張り切っちゃいました☆


ついに満を持して、女帝・アルミリアたん登場。
鉄血女性キャラの中で、スカートのすそを摘まむという行為をしたのは
アルミリア、クーデリア、フミタンの三人だけ(だった気がする)なので、数少ない貴重なお嬢様キャラ。
一際輝くのも分かるという訳ですね。

ただスカートのすそを摘まむ三人、うち一人が死亡、一人は夫が死んで悲哀エンド、一人は結婚出来なかったけど子供はいるし、レズハウスでパパになったからまあいいかエンド。
平均的に人並みな幸せとは言い難い。
製作者達の悪意でもあるのか……?


ガエリオ、久しぶりに登場。
マッキーが歳星に行っていたとは露知らず、理由を聞いてもはぐらかされる。
相手にされない感じがして、ちょっと機嫌が悪い。
なんか高校生っぽい。

マッキーの発するアグニカみに気圧され、カルタとのキスシーンを覗いてしまい、アルミリアともイチャイチャしている彼を見て、自分とは住む世界が違うという実感を持つ。

しかしそれでもいいと思える程度には、ガエリオ自信の凝り固まった常識が(ぶっ壊れ)変わりつつある。



原作よりちょっとお早い登場、カルタ様。
300年間戦術の更新をしてこなかった無能家系、イシュー家の末裔にして筆頭。
熱して打てば名刀になるのだが、時代がぬるま湯すぎて実戦経験に乏しい。

ギャラルホルンの制服は結構身体のラインが出るので、彼女もなかなか引き締まった身体をしている事が分かる。
マッキーに認められるために、自分を磨く鍛練を欠かさなかった成果。

今更ではあるが、簡単に死んでいい立ち位置と設定ではない。
一期を見ていた時は「あー死んだわコイツwww」ぐらいにしか思っていませんでしたが、ギャラルホルン内でもかなり重要な血族で、その実力も確か。

幸い、アグニカ本人と出会った事により、「アグニカごっこ」から「アグニカの右腕ごっこ」に切り換えたマッキーには、もはや殺すまでもないと判断されている。
寧ろセブンスターズの一員として、「アグニカの命令には従えよ?分かるよね?それぐらい常識だよね?」と思われている。
強大な死亡フラグを回避したカルタ様。
今後の活躍に期待。

ちなみにあれがファーストキス。



ついに最近、マッキーのことを想って夜の一人遊びをした回数が10000回を突破した。
蟲はなんでも見ている。

ギャラルホルンの地球支部本拠地ウィーンゴールヴさん。
ホモが指揮っていたりアルミリアたんがいたりシン☆阿頼耶識が研究されてたりセブンスターズ会議があったり蝶々が食べられたりバエル宮殿があったりテロられたりバエルが「ここはジャパリパークだよ!」したりマッキーが手を刺されたり色々あった場所。

周りが水平線が見えるほど広い海、海の水がすごく綺麗という以外情報がなく、検索しても出ない(無いよね?)ので、北欧神話の舞台となったスカンディナビア半島の近くの海にしようと思い、勝手にバルト海にしちゃいました☆

ゴットランド島というのは魔女の宅急便のモデルになった町があるんだとか。
なんとなく海が見える町というイメージがあります。
実際のバルト海は水質汚染が進んでいるそうなのですが、そこはギャラルホルンの謎技術。

水質浄化に特化した清掃モビルスーツとか、プランクトンや生物を殺す(ついでにゴミも焼き付くす)ビーム兵器とかで環境美化を押し進めたのでしょう。

地理的にはヨーロッパ諸国に近いため、アフリカンユニオンとの交流が深い。
美味しいごはんに綺麗なもの、建築物や技術、情報など、アフリカンユニオンが腕によりをかけて送り出したもので、他の経済圏からの出荷は最小限に押さえている。
この辺もかなり暗躍と腐敗の匂いがする。

おまけ

ホモに♂マーク
マクギリスにwwwマーク
ガエリオにゲボを吐かせて会話してみた



イズナリオ「此度の火星遠征♂、大儀♂であった」

マクギリス「はっwww」

イズナリオ「ファリド家の名に恥じぬ働き♂であったと、監査局局長および統制幕僚長から報告♂を受けた」

マクギリス「はっwww」

イズナリオ「ガエリオも愚息♂の護衛任務、ご苦労♂であったな」

ガエリオ「うおぼろろろろろろろろろろろろろっ!!!ゲッホッ!!オボボボボボボボボボボボボッッ!!!」

イズナリオ「はははっ♂、その実直さはそなたの魅力♂だな。ボードウィン卿には礼♂を言っておこう」

ガエリオ「お……お腹があああああああああ!!!うっ!ぅげえ!うっっっぽ、ゲボオオオオオオオオオオッ!!!」

イズナリオ「してマクギリス♂、しばらくは家に戻り、ゆっくり♂できるのか?」

マクギリス「いえwww帰還に伴いwww新たな任務もwwwありますゆえwwwwwwwww」

イズナリオ「ふむ♂……そうか♂↓」


それでは次回もお楽しみに(^ω^)

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