遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

98 / 119
ep97「告げられしモノ」

「【紫影】…テメェぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」

 

 

 

絶叫…

 

いや、轟いたのは絶咆―

 

『烈火』と【紫影】の戦いが終わった直後の、激戦の余韻残る大空洞に…大気を振るわせながら轟き渡ったのは、およそ人間が放っているとは思えない程に重々しい声をした紛れもない絶咆であった。

 

それは【紫影】が、気を失って倒れている『烈火』、獅子原 トウコへと手を伸ばしかけた寸前の事。

 

そう、あまりに卑怯な罠によって、頭から血を流し倒れている『烈火』が殺されるまさに寸前の所で…

 

この大空洞に現れたのは他でもない、決闘学園デュエリア校学長、かつては『逆鱗』と呼ばれた元プロデュエリスト…

 

 

 

劉玄斎―

 

 

 

「…呆れましたねぇ。アレだけ痛めつけたのに地下牢から自力で脱出したとは。」

「随分ナメた真似してくれたなぁこの屑野郎ぉ!俺だけじゃねぇ!ガキ共にまで手ぇ出しやがるたぁ、本気で死にてぇってことで良いんだろうなぁ!」

「…それもこれも、貴方が【白鯨】に負けたのがいけないんですがねぇ。貴方が【白鯨】勝っていれば、私だってこんな手荒な真似なんて…」

「っざけたこと言ってんじゃねぇぇぇぇえ!初めからこうするつもりだったんだろうが!『赤き竜神』を解放出来なかった時点で…いぃや、今なら分かる!【決島】が始まった時点で、テメェは最初から仕掛けてくるつもりだった癖によぉ!俺との約束なんて、初めっから守るつもりなんざ無かったんだろうがぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

轟く…この世のモノとは思えない、まるで逆鱗に触れられた竜の怒りが。

 

それはまさに一触即発。これ以上少しでも触れたら、凄まじき爆発が起こってしまうのではないかと錯覚するほどの劉玄斎の怒りの咆哮が大空洞に響き渡り…

 

今の劉玄斎から醸し出される、その凄まじき怒りのオーラは。ただただ【紫影】への怒りとなりて、大空洞の大気を振るえさせていて。

 

 

 

「…ふふっ、何を今更。貴方だって私の事を信用していなかったくせに…知っているんですよぉ?貴方、【決島】が始まった瞬間に私が仕込んだ刺客を悉く消し去っていますよねぇ?ふふっ、本土にはもう実力者は居ないと思っていましたが、中々どうして貴方も良い手駒をお持ちのようで…」

「うるせぇぇぇぇえ!テメェと一緒にすんじゃねぇ…これでテメェにゃもう人質を取られちゃいねぇ!もうテメェに、付き従う理由なんざ俺にゃねぇんだよぉ!俺ぁとっくにキレてんだよ屑野郎ぉぉぉぉお!」

 

 

 

そう…劉玄斎がここまで怒り狂っているのは、何も拷問を受けたからとか【決島】を地獄に変えたからとかだけではない。

 

それは、【紫影】と『逆鱗』の会話から分かるとおり…

 

【王者】と同格とまで謳われたほどの『逆鱗』、劉玄斎が、【紫影】の手駒として動かされていたその理由に関連する…卑怯で卑劣なことをした【紫影】に対して、劉玄斎の堪忍袋の緒が既に弾け飛んでいるからに他ならないのか。

 

 

…デュエリア本土に残してきた他の生徒達の命を天秤にかけられ、準備が整うまで【紫影】に従うしかなかったデュエリア校学長、劉玄斎。

 

 

そう、【決島】で【紫影】に付き従わねば、本土に残してきたデュエリア校の生徒達を順に殺していくと劉玄斎は脅しをかけられていたのだ―

 

 

【紫影】は、学生達に刺客を放ったと…そう言った。それすなわち、【紫影】は『逆鱗』を従えるために、デュエリア本土に残った学生達を無差別に人質に取っていたと言うことであり…

 

…それは『逆鱗』や教員、生徒まで含めたデュエリア校の実力者達のほとんどが、【決島】に上陸してしまっているが故の手薄を狙った、どこまでも汚い【紫影】の策。

 

自分は【決島】に居る所為で助けには行けず。かと言って本土を優先させれば今度は【決島】にいる学生達が危険にさらされるという…

 

どちらを優先させても待ち受けるは地獄、周到に施された【紫影】の策に、生徒達を守るために劉玄斎は従うほかなかったのか。

 

…決闘界の風雲児、暴れ狂う大災害とまで呼ばれていた『逆鱗』、劉玄斎を、顎で使っていたその真実。

 

そんな、どこまでも汚い手を使ってくる【紫影】に対し…劉玄斎とて予め伝手を使って『手』を打ってはいたものの、ソレが達成されるまでどうしても【紫影】に従うしか出来ることはなかったわけであって―

 

 

 

「…覚悟しやがれぇ…今、ここで!俺が!テメェを!ぶっ殺してやらぁぁああ!屑野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

―!

 

 

 

…だからこそ、つい先程デュエルディスクに入っていた連絡によって。すでにデュエリア本土に放たれた【紫影】の刺客は、全て駆逐されていることを劉玄斎は知っている。

 

それはこれまで決闘界、ひいてはデュエリア校学長としてデュエリスト達を引っ張り続けてきた劉玄斎の信頼が成せる人の輪による功績であり…

 

そして何より、今世紀最大の大犯罪者と呼ばれた【紫影】に、これ以上勝手な真似などさせないために。

 

 

怒れる竜もまた、もう我慢などしなくてもいいのだとして―今、絶咆と共に。その怒号と共に、その痛んだ体を逆にフル稼働して劉玄斎は走り出す。

 

 

…ソレはまるで巨龍の突撃。

 

 

その丸太のような太い腕に、純粋なりし『力』を込めて…

 

今、【紫影】という屑の中の屑を。文字通り粉砕せんとして、恐るべき竜の一撃が捻じれた男へと襲いかかり…

 

 

 

「おっと…ふふっ、恐い恐い…筋肉お化けに殴られてたまるものですか、えぇ。」

 

 

 

しかし…

 

突進してきた劉玄斎を、闘牛しの様に避けるように。

 

『烈火』から離れつつ、横っ飛びに『逆鱗』を躱すかの如く飛び跳ねると…そのまま『逆鱗』から逃げつつ、距離を開けて再度劉玄斎へと向かい合った【紫影】

 

 

―そして、【紫影】が立っていた場所に劉玄斎の拳が空振りする。

 

 

しかし、それは空振りと言ってもいいのだろうか―

 

そう、その音はまるで鋼鉄のハンマーを思い切り振り回したかのような、尋常ならざる恐怖の音。【紫影】に当たらなかったその拳は、大空洞の地面を思い切り叩き…岩が、地面が、そして山の一部が、形容では無く本当に砕ける音と共に地面にめり込んだのだから。

 

…こんなモノ、人間が喰らっていい代物ではない。

 

そんなモノをぶち当てられたらと思うと、誰であっても人間の頭など簡単に吹き飛んでしまうのではないかというイメージが簡単に浮かび上がってくるに違いなく…

 

 

けれども…恐怖も抱かずソレを避けた【紫影】の態度もまた、あくまでもどこまでも小癪で小賢しいモノ。

 

 

そう、怒り狂う劉玄斎を、更に煽るだけのふざけた態度で。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ、ソレは【紫影】の捻じれた佇まいと相まってあまりに不気味ではあるものの、ソレ以上の不快感をただただ相手へと与えているだけではないか。

 

…そんな【紫影】に避けられては、劉玄斎の怒りはどう転ぶというのか。

 

怒りの呼吸と共に、劉玄斎はゆっくりと拳を地面から引き抜き…

 

 

 

「チィッ…屑野郎がぁ…」

 

 

 

怒りが更に激しく燃え上がるのか、限界を超えて爆破するのか…

 

その【紫影】へと向けて発せられる闘気は、まさに触れたら爆発しそうな爆弾そのモノと言え…

 

 

 

しかし…

 

 

 

「…おい、獅子原の小僧ぉ…」

「ふぇ!?は、はひ…」

 

 

 

【紫影】へと向けられた、爆弾の様な怒りはそのままに。

 

劉玄斎は、ゆっくりと【紫影】に向かい合うようにして。そして『烈火』とその孫を、大きな背に隠すようにして…

 

決して【紫影】には聞こえないような声を、その背に隠したサウス校1年、獅子原 炎馬へと向かわせながら…

 

振り返らずに、声だけを届け始めた。

 

 

 

「姉御を連れて早く逃げろぉ…ここは…俺が食い止めてやる…」

「…え?」

「…顔に出すな、奴に気取られるだろうが…いいか、デュエルが始まったら、姉御を背負って逃げ出すんだぜぇ…このままじゃ、マジで姉御が死んじまうからよぉ…」

「あ…は、はい…」

 

 

 

…それは【紫影】へと向かわせている怒りとはまるで真逆。

 

そう、マグマの様な怒りを【紫影】に向けてはいても、背中に向けた劉玄斎の感情はどこまでも穏やかさを感じさせる…

 

本当に怒り狂っているのかと疑いたくなるほどの、『怒り』と『理性』が完全に離別したあまりにミスマッチで混ざり合わない感情の相反であったのだから。

 

…【紫影】へと向けている怒りだってもちろん本物。そうでなければ、これだけ【紫影】に警戒させることなど出来るはずも無く。

 

…しかし背後へと向けている理性だって、紛れも無く『逆鱗』から醸し出されている代物に違いない。

 

 

―そう、劉玄斎だってわかっているのだ。

 

 

今の自分の状態では、【紫影】には絶対に勝てないであろうと言う事を。

 

…自分は【紫影】から受けた拷問の所為で、立っていることすらやっとの状態。血を流し過ぎたせいか視界は歪み、怒りを静めれば今すぐにだって意識が飛んでしまうような感覚に襲われ続け…

 

燃え上がる【紫影】への怒りによって、今は一時的に行動出来てはいても。こんな今の状態では、到底【紫影】に勝つことなど出来るわけもないだろう…と、いうことを。

 

その怒りの中でも冷静な判断力は、これまで歴戦を戦い抜いてきた『逆鱗』の持つ武器の一つでもあるのだろう。怒りと同時に発現させた理性によって、無理矢理自分の感情を2つに分けてこの場に立っている歴戦の男、劉玄斎。

 

…勝算などない、自分だって死ぬかもしれない。けれどもここで行動しなければ、【紫影】への怒りが収まらない―

 

そんな、相反する感情を歴戦の経験で無理矢理にコントロールして。

 

例えその身が、限界を超えてもなお無茶を強いている身であっても…

 

怒りのままに【紫影】に一矢報いるため、そして同時に今にも死に掛けている『烈火』を救うために、劉玄斎はここで時間を稼ぎ人柱になろうとしているのか。

 

 

 

「だったらデュエルだ屑野郎ぉ!今度はちょこまか逃がしゃしねぇぜぇ!」

「ふふっ、死に損ないの癖に元気ですねぇ…ま、いいでしょう。そんなに死に急ぐのならば、今ここで私の手で楽にしてあげましょうねぇ、えぇ!」

 

 

 

そして…

 

 

 

『怒り』と『理性』、そんな相反する二つを感情を無理矢理に分け隔てた元プロデュエリスト『逆鱗』が。

 

 

 

今、猛りを上げ…

 

 

 

再度、【紫影】へと向かって―

 

 

 

 

「覚悟しろよ…この屑野郎ぉぉぉぉお!」

「ふふっ、またズタボロにしてあげましょうねぇ…」

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―医療棟

 

 

 

 

 

「しぶてぇガキどもだなぁ!【マルチ・ピース・ゴーレム】で攻撃!」

「とっととぶっ飛べボーナス共!【隻眼のスキル・ゲイナー】で攻撃!」

「あはは!あはははは!【ハイパーサイコガンナー】!アターック!」

 

「やらせないんだぜ!【D2シールド】発動だぜ!」

「一歩も通さないYO!【炸裂装甲】発動だYO!」

「ヌフッ、やられるわけがないよねぇ!罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

 

 

―!!!!!!

 

 

 

激しい戦いの音と、人とモンスターの叫びあう声が入り混じったここ医療棟の前…

 

そこで、混戦に混戦と混戦が混戦した、どこで誰がどれと戦い何が起こっているのかが混乱に困窮を極めた戦いが…医療棟を取り囲むようにして、凄まじい勢いで起こっていた。

 

…それは混戦や乱戦と言うよりは、誇張なしの『デュエル戦争』。

 

そう、学生の数に対し、ソレをゆうに超える程の裏決闘界の刺客たちが学生達へと戦をしかけ…それを数で劣る学生達が、医療棟を死守する気迫を持って必死になって押し返しているこの状況は、まさにデュエルによる表と裏の戦争のような代物となっていたのだから。

 

しかし、流石に裏の者による数の暴力は凄まじく…

 

既に何人かの学生は、倒されてしまい地面に転がってしまっている現状。いくらモンスターが入り混じる混戦のおかげで連れ去れる事は無いとは言え…それでも必死に耐え忍んでいる学生達は、ジリジリと裏決闘界の刺客たちに押され続けてしまっているのか。

 

けれども、学生達もまた仲間が倒されようとも、ソレ以上の敵の返り討ちにしてここまでずっと粘り続けており…

 

敵の数は膨大。最初からここまで防戦一方。それでも学生達は応援が来るまで、そして事態が良い方に急転するまで必死になって戦い続けていて。

 

…いつ救援が来るのか分からない。もしかしたらこのまま事態は最悪のままかもしれない。

 

そんな負の感情に囚われそうになる感情を、闘志と若さによって無理矢理に抑え込み。学生達はこれまでずっと、裏の猛攻に耐え忍び続けているだけ。

 

 

 

 

 

しかし、その中で―

 

 

 

 

 

「隙在り也…【沈黙のサイコウィザード】でエアーマンを攻撃。」

「少女らよ、そろそろ観念したらどうだ?【カオス・ダイダロス】で【E・HERO クレイマン】に攻撃!」

「きゃあっ!?」

「アカリ!クッ…やっぱ厳しいアルか…」

 

 

 

医療棟の中央入り口。

 

その最も重要かつ、最も攻撃を受けているであろう場所で…

 

裏決闘界の刺客の中でも、周囲の有象無象たちとは明らかに纏うオーラの違う恐るべき猛者の2人が、2人の少女へと向かって凄まじき攻撃を仕掛けていた。

 

…攻撃を受けていたのは紛れも無く、決闘学園イースト校2年の紫魔 アカリと、決闘学園デュエリア校、デュエルランキング第2位、『マフィア』と呼ばれる王 ミレイ。

 

そんな、このデュエリア校のNo.2とイースト校の融合クラス上位に対し…こうも圧倒的かつ高圧的に攻勢に出ているこの2人の男達の纏うオーラは、他の有象無象の犯罪者達よりも明らかに群を抜いた強さをまざまざと照らし出しているではないか。

 

 

 

「痛ッ…何なのよコイツら、めちゃくちゃ強いじゃない…」

「サイレント・ジョー、黄昏のアカツキ…裏でも名の知れた奴らアルが…まさかここまでヤるなんて予想外だたヨ…」

「それにしたって、他の奴等と全然違うわ…このままじゃ…」

 

 

 

まさに一方的なデュエル展開、圧倒と言うよりただの蹂躙。

 

しかしミレイもアカリも、特に『マフィア』と呼ばれる王 ミレイに関して言えば。

 

彼女はこの島の中にいる学生の中でも、トップレベルの実力を兼ね備えているはずなのだから…いくら裏社会の猛者を相手にしているとは言え、こんなにも一方的にやられているなんて考え難いと言うのに…

 

…いや、それも仕方が無いのか。

 

何せ今、【裏決島】で行われているデュエルは普通のデュエルではない。

 

実体化したデュエル…それも【裏決島】が始まってからこれまで、彼女らはずっと医療棟を死守する為に裏の者達と休む間も無く戦ってきたのだ。

 

ソレ故、数の暴力で押してくる敵側とは違い…昨日の予選も相まって、学生達の体には相当の疲れもあるのだから、いくら若い学生達とは言え、これだけの猛攻を受け続けていれば相当のダメージが蓄積しているに違いなく。

 

それに加え、この敵味方入り混じるバトルロイヤルかつサバイバルデュエルのルールの中で、敵側から悠々と現れたのが裏社会の中でも相当な力を持つとされている『サイレント・ジョー』と『黄昏のアカツキ』であったのだから…

 

王 ミレイも、紫魔 アカリも。並の学生では相手にすらならないであろう圧倒的猛者をダメージが蓄積した身で、逆に寧ろよくぞここまで耐えたと言えるレベルであり…

 

 

 

「妖艶な少女よ、貴様も余所見をしている場合ではないぞ?【カオスソルジャー-開闢の使者-】で、【X-セイバー ウェイン】に攻撃!」

「南無…トドメ也、【サイレント・マジシャンLv.8】で【E・HERO ガイア】に攻撃。」

「クッ…まずいネ…」

 

 

 

そんな、既に満身創痍に近いであろう2人の少女へと向かって―

 

 

 

今、裏決闘界の猛者、サイレント・ジョーと黄昏のアカツキが、トドメとなるであろう一撃を少女たちに与えんと―

 

 

 

 

 

「うぉぉぉお!2人はやらせないんだぜぇぇぇぇえ!【シフトチェンジ】を2枚発動だぜ!その攻撃を、俺の【千年の盾】に変えるんだぜぇぇえ!」

「『シールダー』!?なに無茶してるネ!」

 

 

 

―!!

 

 

 

「うわぁぁぁあだぜぇぇえ!?」

 

 

 

けれども…それを寸前の所で。

 

ミレイとアカリと、敵との間に割って入るかのように…体を…いや、自分と繋がったモンスター無理矢理ねじ込んで少女達を庇ったのは、決闘学園デュエリア校3年、『シールダー』と呼ばれしアキレス・ヤクモ2世であった―

 

…それはサバイバルかつバトルロイヤルという、通常のデュエルではない状況が許した第三者による介入。

 

文字通り体を張って、自身のエースで少女達を守り。【シフトチェンジ】の効果によって、【カオスソルジャー-開闢の使者-】の攻撃を相殺させ…2枚目の【シフトチェンジ】の効果によって、【サイレント・マジシャン Lv8】の攻撃を受けつつも、守備に特化したそのスタイルによってダメージ受けずに抑えていて―

 

 

 

「ダメージは無し…南無。」

「ほう、勇敢だな。やるではないか盾の小僧よ。」

「何やってるネ『シールダー』!お前が倒れたら、誰がここを最後まで守るアルか!」

「う…るさい…んだぜ…何が無茶だぜ…ここでリーダーが倒されたら、誰がここを死守するっていうんだ…ぜ…それに、俺は決めたんだぜ…今度こそ、皆の盾になるって…」

「『シールダー』…」

 

 

 

自分が傷付くこともいとわず。LPへのダメージが無いとは言え、連戦の疲労と実体化した衝撃は否応なしにプレイヤーを襲うというのにも関わらず。

 

過去に起こった出来事のトラウマからか、この場にいる全員を守るのだと言わんばかりの気概の下に…ふらつきながらも、どうにか立ち上がったデュエリア校の『シールダー』。

 

…それはおよそ学生らしからぬ、しかし大いに学生らしい無茶と無謀。

 

常識ある大人であれば絶対にしないであろうその無茶を、ノータイムで行えるのはまさに学生達がそれだけ必死でそれだけ本気ということでもあるのだろう。

 

まぁ、かつてデュエリアで起こった『事変』を経験した今のデュエリア校の3年生達からすれば、こんな事態に対してもそれぞれがそれぞれの役割を果たそうとこれまでずっと奮闘し続けていることに変わりは無いのだが。

 

しかし…

 

 

 

「…全く仕方の無い奴ネ、ホントにウチの男共は無茶ばかりアル。」

「当たり前なんだぜ…無茶ばっかの先輩達見てきたんだからぜ…コレくらい…」

「ミレイ、お話中のトコ悪いけど…状況は最悪のままよ…」

「チッ、そうだたネ…」

「フッ、おしゃべりは終わったか?残念だが、 1度止めた程度では変わらぬぞ!これで終わりである!【混沌魔龍 カオス・ルーラー】で【E・HERO ガイア】に、【カオス・ソーサラー】で盾の小僧に攻撃!」

「諸行無常…【サイレント・ソードマンLv.7】で【X-セイバー ウェイン】に攻撃。」

 

 

 

そんな学生達を意に介さず。再び攻撃に転じた裏社会の猛者、サイレント・ジョーと黄昏のアカツキ。

 

…まさに容赦の無い攻撃。実に無慈悲の冷徹な一撃。

 

その裏社会の者らしく、全く手加減の無い攻撃は…学生達にダメージが蓄積して居るからとはいえ、全く手を緩めるつもりはないのだと言わんばかりの勢いとなりて…

 

 

 

 

 

「ここまでアル…」

「そんな…」

「くっそぉぉぉお!」

 

 

 

 

 

凄まじき3撃が、今度は3人の学生達に襲い掛かった…

 

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罠発動、【和睦の使者】。全てのダメージを0にする。」

 

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

突如…

 

聞こえてきたのは、凄まじき衝突音が『何か』にぶつかったという激しい激突と爆発の音であった―

 

…それは、学生達に実体化した攻撃が当たった音などでは断じてない。

 

そう、トドメを刺されかけていた3人の学生達に、攻撃が当たるまさに寸前…

 

少女達の前に、まるで『見えない壁』が出現したかのようにして―凄まじきモンスター達の攻撃が、誰も居ない場所で爆発して辺り一帯に土煙と爆煙を立ち上らせたのだから。

 

 

 

そして、ゆっくりと土煙が晴れ…

 

 

 

『マフィア』、『シールダー』、そして紫魔 アカリの前に立っていたのは―

 

 

 

 

 

 

「全員無事だな?」

「あ…あぁぁ…まさかこの声はぜ…」

「『シールダー』、よくここまで皆を守った。流石は俺の認めた…デュエリア校の絶対防御だ。」

「い、一文字せんぱぁぁあい!ホントに一文字先輩が居るんだぜぇぇえ!?」

 

 

 

戦乱の中、爆炎の向こうで…現れたのは、『鋼』のような立ち振る舞いに『鉄』のような佇まい。

 

そう、この大混戦の中に現れて、凄まじき者達からの攻撃を難なく『防いだ』のは他でもない…

 

短く切り揃えられた黒髪は戦風にも揺られず、この乱戦の中でも楔の如く『そこ』に立つその姿はまさに不撓不屈の『折れず』の象徴。

 

およそプロデュエリストの中でも、これ程までに重厚かつ不動のオーラを持った者など他に該当する者が居ないのではないかと思える程の…

 

 

 

 

 

絶対防御、『鋼鉄』のデュエリスト…

 

 

 

 

 

十文字 哲

 

 

 

 

 

「また新手か。全く、次から次へと…おいサイレント・ジョー、蹴散らしてしまえ。」

「色即是空…【ライトニング・ボルテックス】発ど…」

 

 

 

しかし、突然現れた謎の新手にも怯まず。

 

…強者らしく、あくまでも冷静に場を進めようとする黄昏のアカツキの声に応えるように。

 

サイレント・ジョーが、敵の全てを消し去る迅雷を即座に唱え、学生達に襲い掛からせようとした…

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

 

「悪いけどそうはさせないよ!【ナチュル・ビースト】のモンスター効果発動、【ライトニング・ボルテックス】の発動を無効にする!」

 

 

 

―!

 

 

 

その迅雷を、更に掻き消す様にして―

 

新たに、どこまでも澄み渡る水のような透明感のある美声と、雄雄しくも気高く孤高に吼える一体の獣の凛々しき雄叫びがこの場に響き渡ったかと思うと…

 

サイレント・ジョーの放った凄惨な迅雷が、瞬く間に獣の咆哮によって消し去られてしまったではないか―

 

そして、雷が完全に消えたのと同時に。守護獣と共に、この場に現れたのは紛れもなく―

 

 

 

 

 

「みんな、無事かい?」

「…泉…先輩?」

「やぁ紫魔さん、久しぶりだね。それにミレイにヤクモ君も。」

「…全く、やっときたのネ…来るのが遅い先輩ヨ。」

 

 

 

戦場の中、戦火を越えて…現れたのは、全てを包み込む『清』らかなるその雰囲気に、『流』麗なりし美しさをその身の全てで体現している存在感。

 

そう、この大混戦の中に現れて、全てを破壊してしまう迅雷から学生達を『守った』のは他でもない…

 

野蛮なる戦場の風であっても、その青髪を爽やかに揺らし。この乱戦の中でも、救世主の如く『そこ』に現れた姿はまさに一縷の望みの『希望』の象徴。

 

およそプロデュエリストの中でも、これ程までに流麗かつ爽快なオーラを持った者など他に該当する者が居ないのではないかと思える程の…

 

 

 

 

 

眉目秀麗、『清流』のデュエリスト…

 

 

 

 

 

泉 蒼人

 

 

 

「こここ、こんどは森神先輩ぃぃぃい!?なな、なんで先輩達がここに居るんだぜ!?」

 

 

 

また、突如現れた泉 蒼人を見て。

 

驚愕を隠しきれていない『シールダー』が、この乱戦の音よりも大きな声でそう叫んだ…

 

 

 

 

 

その瞬間―

 

 

 

 

 

「森神先輩!?ねぇ今誰か森神先輩って言った!?」

「ね、ねぇアレじゃない!?キャー!うっそぉー!ホントにホンモノの森神先輩よー!」

「キャー!イヤー!ホンモノー!ホンモノの森神せんぱぁぁぁあい!」

「キャー!アレ泉せんぱいよぉぉお!」

「うっそー!え!?え!?なんでー!?泉先輩なんでー!」

「せんぱぁーい!泉せんぱぁーい!」

 

 

 

―!

 

 

 

発狂…いや、突然沸きあがったのは紛う事なき『歓声』。

 

そう…こんな地獄のような、最悪の状況だというのにも関わらず。突如として医療棟の上層階から響き渡ったのは、医療棟の中でサポートに回っていたり戦えずに守られていたりした女生徒たちの…

 

 

本能による押さえきれない、純粋なまでの黄色い声援であったのだ―

 

 

…誰もが皆、混戦の中に現れた一人の青髪のデュエリストを見つけ。

 

そして感極まったかの様子で、黄色い声援をその本能で飛ばしていて―

 

 

 

「…相変わらずだな蒼人。」

「ハハ…みんな元気そうでなによりだよ。それより哲、コイツらは…」

「サイレント・ジョーに黄昏のアカツキ。裏社会で名の通った猛者だ。気は抜けんぞ。」

「だね。気を引き締めていこう。」

 

 

 

島の中央の天空の塔から、ここまで雑兵を蹴散らしながら。ノンストップで医療棟へと駆けつけた、プロデュエリストの蒼人と哲。

 

そんな彼らもまた、ギリギリのところで後輩達を救ったとは言え…目の前に立つ2人の猛者に対し、気を引き締めて向かい直した辺り微塵も油断などはしていないのか。

 

…今年度からプロになったばかりの新人プロとは言え、その辺りはやはり流石の者達。

 

そんな、かつてその身に起きた出来事、そしてデュエリアの『事変』に決闘市の『異変』を経験した紛れも無い猛者である2人が…

 

医療棟の最重要地点、そして最も危険である裏の刺客2人に対し…どこまでも、頼もしき雰囲気のままに向かい合う。

 

 

 

「おい、サイレント・ジョー、なんだこやつ等は。」

「『鋼鉄』、『清流』…プロの…新人也…」

「ほう、新人の癖にその若さで異名持ちとは…中々やるというわけか。面白い…」

 

 

 

また、突然現れつつも周りの学生達とは一風変わった雰囲気を醸しだす蒼人と哲を見て。

 

裏決闘界の猛者の2人、黄昏のアカツキとサイレント・ジョーも、目の前の若造2人が一筋縄では行かない相手であると、裏社会を生き抜いてきた者として即座に理解したのか。

 

…新手とはいえ若造が現れたというのに、全く油断などしていないその様子は流石は裏社会の中でも名の通った者達か。

 

だからこそ、そんな裏の者達の危険性を蒼人と哲も即座に理解したのだろう。

 

全く気を緩めていない裏の猛者達に対し、蒼人と哲はデュエルディスクを構えなおしながら…

 

 

 

「さぁ行くよ、僕達が来たからには…」

「貴様等には、これ以上好きにはさせん!」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

山中―

 

 

 

「遊良!大空洞とやらにはまだ着かんのか」

「もう少しだ!この先をもう少し上れば…」

 

 

 

襲いくる裏決闘界の雑兵たち、そして草原で出会った裏決闘界の刺客『ヒル・ブラザーズ』を倒した遊良と鷹矢と…

 

そして、2人の後ろを着いて走っていたデュエリア校の鍛冶上 刀利が、【紫影】が居ると言われたポイントまであと少しのところまで差し掛かっていた。

 

 

…それはイースト校理事長、砺波 浜臣から聞かされた元凶の居場所。

 

 

そう、遊良は嫌でも覚えている。忘れたくても忘れられない、迷うはずなどありえないその場所を…

 

昨日…【紫影】によって連れ去られたルキを取り戻す為に、デュエリア校の狂乱少女、アイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンと命を賭けて戦ったあの『大空洞』。

 

遊良達は現在、その『大空洞』の入り口を目指して…まずは山の胎内へと誘う洞窟を目指して、一心不乱に山の中を駆け抜けていたのだ。

 

また、砺波が一体どうやって【紫影】の居場所を見抜けたのかなど、遊良達には全く持ってわからないものの…

 

しかし現状では、ソレに従う以外の選択肢が無いのだとして。遊良達はこれまで少しも足を緩めず、ペースを落とさず、ここまで全力で敵を蹴散らしながら走り続けていて―

 

 

…一体、ここにたどり着くまでに遊良と鷹矢はどれだけの敵を蹴散らし、どれだけの距離を走り抜けてきたのだろう。

 

 

乱れた息と微かな傷が、彼らのここまでの道筋の過酷さをまざまざと語り…しかし全く止まらないその足が、彼らの強い意思を反映してどこまでもどこまでも前へ前へと進ませている。

 

もうすぐ…この先に、この地獄を作り出した元凶、【紫影】が居る。そう、元凶である【紫影】を倒せば、この地獄を終わらせる事が出来るのだとして―

 

遊良も鷹矢も、そしてその後ろをついて走る鍛冶上 刀利も。誰もが山道の中をスピードも緩めず、その場所目指して駆け抜け続けるのみ。

 

そして、出発からどれだけ走り続けたのか…

 

もうすぐ大空洞の入り口がある、しかし未だ木々が生い茂る山の中腹をまだまだ駆け抜け続けようと遊良達がその足を速めていた…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「ごめんなんし…坊達、止まってくれるとありがたいでありんす…」

「ッ!?」

「むっ!?」

 

 

 

突如…

 

遊良達の耳に聞こえてきたのは、静かではあるものの身震いするほどの寒気を孕んだ…

 

あまりの悲恋に満ち満ちた、この世の何よりも悲しげであると思えるような殺気を含んだ女の声であった―

 

 

…それは遊良と鷹矢が、思わず全力で身構えてしまうほどの悲哀に満ちた『敵』の声。

 

 

そう、遊良と鷹矢の耳に聞こえてきたその声は、例えるならばこの世の悲恋を凝縮したかのような重々しくも華々しい…

 

それでいて、どこまでも冷たくどこまでも妖艶な、遊良と鷹矢が無理矢理に臨戦態勢を取らされたほどの『敵』だと分かるような声であったのだから。

 

 

…思わず感じた寒気と悪寒。

 

 

そんな、初めて感じる得体の知れないモノを思わず感じてしまった遊良と鷹矢が声の方…自分達が走ってきた方とは別の森の方向へと、反射的に視線をやった…

 

そこには…

 

 

 

「あふっ、よくぞここまでお出で下さいました…中々、骨のある坊達でありんすなぁ…」

 

 

 

大空洞へと続く道筋の、生い茂る木々の影の中から今ゆっくりと陽の下へと歩いてきたのは声の印象から感じた通りの1人の女性…

 

鮮血のように真っ赤な着物を着崩して、キセル片手にゆったりと歩き…大きなかんざしで髪を結った、化粧で顔を隠した『花魁』のような女性であった。

 

…しかし、こんな女がただの『女』であるはずもなく。

 

そう、この女の声を一聞きしただけで、そしてその姿を一目みただけで。

 

遊良と鷹矢の寒気と悪寒が、【裏決島】始まって以来の『警笛』を2人の心に大音量となりて掻き鳴らし始めたのだから―

 

 

 

「ッ…こ、この女…」

「ヤバい…な、なんだコイツ…こ、こんな奴がこの島に…」

 

 

 

止まらない身震い、収まらない寒気。

 

まるで『死』が着物を着て歩いているかのような、悲哀に満ちたその女性。

 

その姿は、どこか花魁を思わせるような化粧と出で立ちではあるものの…しかしその腕に装着された華を模したデュエルディスクが、紛れも無くこの女もデュエリストであるのだと否応なしに証明しており…

 

…今まで島で戦ったデュエリストと、この女は根本的に『何か』が違う。

 

そう、遊良と鷹矢が、即座にソレを感じてしまったほどに―彼らの目の前に現れたこの花魁のような女が醸しだす、その『死』の雰囲気は途轍もなく危ない代物となりて遊良と鷹矢を襲ったのだ。

 

 

…冗談ではなく、本気で『死』を着飾っているかのようなその佇まい。

 

…形容ではなく、実際に『死』で化粧をしているかのようなその雰囲気。

 

…例えではなく、現実に『死』を受け入れているかのようなその気配。

 

 

それでいて、この女から感じられるオーラは正真正銘本物の『強者』のオーラなのだから…

 

遊良も鷹矢も、目の前に立つこの女の実力が今の自分達では到底立ち向かえ無い程の代物であるということを、誰に教えられるよりも前にその本能で理解してしまっていて。

 

…何せ彼らは、王者【黒翼】を祖父に持つ天宮寺 鷹矢と、【黒翼】と【白鯨】を師に持つ天城 遊良。

 

そんな他の誰よりも身近に【王者】を感じてきた少年達には、今目の前に現れた花魁がどれほど危ない存在であるのかがこれ以上無いくらいに理解出来ており…

 

しかし、そんな圧倒的に危ないオーラを持った女性が、一体どうしてこの場に現れたのだろう。

 

すると、その女性を見たデュエリア校の鍛冶上 刀利が…

 

どこか神妙な顔つきと声質のままに、花魁のような女性へと向かってゆっくりとその口を開き始めた。

 

 

 

 

 

「…ナズナ先生、なんで貴方がここに…」

「おや、主さんも居たでありんすか…随分と久しぶりでありんすなぁ刀利坊…まだわっちを『先生』と呼んでくれるなんて…任務だったとは言え、『あんなこと』をしたこのわっちを…」

「…」

「殿方がそんな恐い顔しなさんな…わっちも所詮は雇われの身…これも、仕事なんでこざりんす。詮索はよしておくんなんし…」

「…そうか、ナズナ先生が居たから嫌な感じが…ッ、まさか他の『七草』も…まさか、セリ先生もこの島に来てるんじゃ…」

「さぁ、どうでござりんしょ…気になるのなら、その目で確かめに行けばよいかと…」

「…」

 

 

 

何やら、この花魁のような女性と旧知であるかのように会話を重ねる鍛冶上 刀利。

 

しかし、彼らの間に流れる空気はお世辞にも親しいモノであるとは言いがたく…

 

…そう、刀利から発せられているのは紛れも無い怒りと怪訝。

 

それはかつて、この花魁のような女性と…いや、彼が呟いた『七草』という集団と、刀利との間に『何か』とてつもない確執があったとでも言いたげな雰囲気でもあり…

 

 

 

『七草』―

 

 

 

―それは、デュエル傭兵集団

 

裏の世界で、組織の代デュエルやらマフィアの用心棒、果ては命を賭けた死のギャンブルや国同士のデュエル戦争に雇われその名を轟かせているという…

 

決して表には出てこない、七人全員が『極』の頂に位置するという恐ろしき傭兵達の総称。

 

そんな裏の世界の者の名を、旧知の名のようにして零した刀利は目の前に現れた花魁に対し、どこまでも警戒心を緩めずに怪訝な視線を伸ばすのか。

 

一体、なぜ刀利が『七草』を知っているのか…それは今この場ではこれ以上語られる事のない、『別の物語』ではあるのだろう。

 

それでも唯一つ確かなことは、鍛冶上 刀利という男にとってこの花魁のような女性は、観て見ぬ不利など絶対に出来ない彼の『敵』であるということだけ。

 

…そして、花魁に対し怒りと怪訝を隠さぬまま。

 

刀利は、遊良と鷹矢の前へと出るようにして…そのまま、年下の2人へと向かって再度口を開き…

 

 

 

「…天城君、天宮寺君、ここは僕が引き受けるから…君たちは先に行って。」

「鍛冶上 刀利…貴様、この女と知り合いなのか?」

「…昔、ちょっと…とても、強い女性だよ。」

「だ、だったら全員で戦った方が…」

「うむ。この事態なのだ、卑怯もへったくれも…」

「…駄目だよ。あの人との勝負は全員で勝負したら絶対に駄目だ…全員ここで足止めをくらって手遅れになる…それに、ただ攻めるだけだとあの人には絶対に勝てない…昔、アイナが手も足も出ずに負けてる…」

「な…貴様が、そこまで言う女だと…?」

「ア、アイツが…あのアイナって奴が…て、手も足も…?」

「…だから、この人の相手は3人より僕1人の方が戦りやすい。それに、正直『この人』が相手だと僕以外の味方は全員足手まといになるから…だから先に行って。君達のやるべきことを…忘れないで。」

「ぬぅ…」

 

 

 

鍛冶上 刀利から語られるは、およそ【地の破王】と呼ばれる彼からは考えられない程に冷静かつ冷徹なる冷たい言葉の数々。

 

それは一見すれば、遊良と鷹矢を突き放すあまりに冷たい言葉でもあったことだろう。

 

…しかし、今の刀利の言葉を聞いて。遊良とて、そしてもちろん鷹矢とて、刀利の言葉の真意など既に分かっている。

 

そう、【地の破王】と呼ばれる、鍛冶上 刀利の実力をその身で体感した鷹矢だからこそ…そしてアイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンと直で戦った遊良だからこそ、この花魁はあの鍛冶上 刀利がよもや『ここまで言う』相手であるという『敵』であるのだという、そのあまりに危険な現実を。

 

…この花魁は、自分達の手におえる相手ではない。

 

それが理解出来ないほど、遊良も鷹矢は愚かでは断じてなく。ソレ故、刀利の『やるべきことを忘れるな』という言葉の意味も勿論彼らだって理解しており…だからこそ、状況が状況であることと、己の力量と相手の力量を見分けられぬほど愚かではない遊良と鷹矢からしても…

 

刀利の言葉には、これ以上反論など出来ない様子を見せており…

 

 

 

「…でも、この人がすんなり通してくれるかは…」

「あふっ、良御座んすよ…わっちの請け負った仕事は刀利坊、主さんの足止めだけ…まぁ、主さんが来なかったらそこの坊達を止めていたかもしれないでありんすが…さっきも3人程素通しさせたでありんすが、別に雇い主からは文句も無し…」

「…ってことだから、僕の事は気にしないで。きっと後から追いかけるから。」

「わかりました…行こう鷹矢。俺達がここに居ても、出来る事は何も無い。」

「…うむ。」

 

 

 

…そうして。

 

ここで文句を言い合っている場合ではない状況だと言うことを、充分に理解している遊良と鷹矢が、自分達が今やるべき事を思い出し、確かに浮かぶ悔しさを力ずくで抑え込み…

 

自分達が認める実力者に、こうもハッキリと足手纏いだといわれてしまえばソレ以上遊良も鷹矢も口を挟めはしないのか。

 

そのまま、本当に刀利以外は足止めする気も無い様子の、ナズナと呼ばれた花魁の横を通り抜け…

 

遊良と鷹矢は、再度大空洞を目指して駆け抜け始めたのだった―

 

 

 

 

 

「若い若い…でも、若くとも中々肝の座った坊達でありんすなぁ…さて…では刀利坊、主さんだけは、ここでお引止めいたしんす…これも、仕事で御座んすから…」

「…ナズナ先生…いや、ナズナ太夫。なんで『七草』がここに居るのかはわからないけど…僕も通してもらうよ、貴方を倒して。」

「あふっ、刀利坊もわっちのデッキ、知っているじゃござりんせんか…蒼人様なら別として…刀利坊ならわっちのお相手……………ずぅっと…しておくんなんし?」

 

 

 

―!

 

 

 

揺れる…

 

山の木々が、『死』の風で―

 

別段、何が起こったというわけでもない。ただ、花魁が冷たい微笑みをその顔から零しただけ…

 

そう、ただ微笑んだだけで―命あふれる山の自然が、突如漂った『死』の気配に怯えて揺れて震え始めたのだ。

 

そしてその風が、どこまでも冷たいモノとなりて…

 

臨戦態勢を取った鍛冶上 刀利へと、否応無しに襲いかかり…

 

 

 

 

 

「…ッ、相変わらずだね…」

「あふっ、そちらは随分と成長した御様子で…では、『七草』が一葉、ナズナ・ハイラ…坊のお相手、よろこんで…」

「…いくよ!」

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

「わっちのターン。LPを2000払い【終焉のカウントダウン】を発動。ターン、エンド…」

「…く…」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「…鍛冶上さん、大丈夫かな…」

「あの男が心配いらんと言ったのだ…ならば、俺達が心配する必要などない。あの男は、とんでもなく強い男なのだからな。」

「…それは…そうだけど…」

 

 

 

背後で始まった、鍛冶上 刀利と花魁のデュエルの気配を感じ取ってか。

 

再び全速力で山の中を駆け抜けていた遊良と鷹矢が、背後を決して振り返らずにそう言葉を漏らしていた。

 

…普通に考えれば、1人よりも3人で立ち向かった方が数の暴力で勝利は手に入りやすいのは当たり前のこと。

 

しかし、鍛冶上 刀利が言うにはあの花魁はただ大勢で『攻める』だけでは絶対に勝てないと言うのだから…

 

それだけで鍛冶上 刀利ほどの実力者が臨戦態勢に入るほどのあの花魁は、到底自分達の手に負える相手では無いと言うことを遊良も鷹矢も嫌でも理解させられたのだ。

 

また、その敵も鍛冶上 刀利の足止めにしか興味がないのだと明言したのだから、あの場に自分達が残ったところで出来ることなどありはしなかったのだというコトなど、無論この2人とてわかっているのだろう。

 

だからこそ、自分達は自分達のやるべき事を…そう、元凶である【紫影】の元に一刻も早く辿り着き、この地獄のような【裏決島】を今すぐにでも終わらせるために。

 

遊良と鷹矢は、更にその足取りを速めながら目的の場所へと全力で急ぎ…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

花魁が現れた場所から、5分ほど全力で駆け抜けた頃だろうか。

 

 

 

「ここだ!ここで昨日、砺波先生と『逆鱗』がデュエルを…」

「…酷い有様だ。【白鯨】と【逆鱗】が実体化したデュエルをしたというのならばこの惨劇も納得だが…」

 

 

 

遊良と鷹矢が辿り着いたのは、木々の開けた山の隙間…この自然溢れる尼中の、その中腹に不自然に出来た広い空間であった。

 

そこは木々が折られ、草が潰され…まるでこの場で、何か巨大なモノが『暴れた』後のような自然には出来ない造りをしており…

 

『ここ』で何が起こって、そしてどうなったのかを知っている遊良はともかくとして。初めてこの光景を見た鷹矢が、この場で起きたであろう惨劇を想像したのか…鉄仮面には珍しく、少々冷や汗を浮かべている様子を見せ始めて。

 

…当たり前だ。

 

あまりに不自然になぎ倒された、辺り一面に転がる木々たち。あまりの力で押し潰された、無造作に潰れた草花の数々。

 

崖は崩れ、地面は穿たれ…焼け焦げた痕に切り刻まれた痕、凍った痕に洪水の痕まであるこの不自然な空間を一目見れば、鷹矢でなくともこの場で起きた『惨劇』を想像すらしたくはない事に違いないのだから。

 

…それは、いくら昨日【白鯨】と『逆鱗』がここで戦りあったと聞いているとは言え。

 

現場に残された数々の傷痕が、想像していた以上のデュエルがここで起こったのだとして。鷹矢の脳裏に、ここで起こった天上の戦をおぼろげながらに浮かび上がり…

 

 

 

「鷹矢、こっちだ。あの崖のところに、大空洞の入り口がある。」

「うむ。ならばさっさとゆくぞ。一刻も早く【紫影】を倒さねば…」

 

 

 

そして、2人は一瞬だけ止めていた足を即座に動かし、更に先へと進もうとする。

 

…そう、まだ、【紫影】が居るであろう場所の入り口についただけ。

 

数多の敵をなぎ倒し、時折現れた手強い敵を打ち倒し…危険な敵を仲間が引き受けてくれ、どうにか無事に目的の場所へと辿り着いたとは言えども、まだまだ本当の戦いはこの先に待ち受けていることを無論2人とて忘れてはおらず…

 

…崖のふもとで、野性の自然に隠されるようにして大きく口を開けていた野生の洞窟の、その入り口が草木を掻き分けつつ。

 

誰かが先に入っていった痕跡が残っているものの、そんなモノなど気にせずに。

 

遊良と鷹矢が、そのまま洞窟の中へと入ろうと…

 

 

 

「ッ、まて鷹矢!誰かくる!」

「む!?敵か!?」

「い、いや…アレは!」

 

 

 

いや、洞窟に入ろうとした、まさにその寸前の瞬間。

 

遊良の耳に、今確かに洞窟の向こうから弱々しい足音が聞こえてきて―

 

そして瞬間的に、鷹矢を制して立ち止まる遊良。そのまま目を凝らしつつ、洞窟の奥へと視線を伸ばした…

 

 

 

そこには―

 

 

 

「炎馬!」

「あ…あぁ…あああ天城せんぱぃぃぃっ…」

「炎馬!無事か!?なんでこんなとこ…ッ、し、獅子原先生…」

 

 

 

そう、洞窟の奥から現れたのは敵では無い、サウス校1年の獅子原 炎馬。

 

そしてその背に背負われるようにして、意識の無いサウス校理事長、『烈火』と呼ばれた獅子原 トウコが洞窟の中から現れたのだ。

 

…しかし、炎馬の怯えたその姿と、大怪我をして意識のない『烈火』を一目見て。

 

この先の大空洞で一体何があったのかが、遊良には簡単にわかってしまって―

 

 

 

(…【紫影】の奴…獅子原先生をこんな目に…)

 

 

 

そう…『烈火』は、間違いなく【紫影】と戦ったのだ。

 

 

 

そして、負けた―

 

いや、獅子原 トウコに稽古をつけてもらったこともある遊良からすれば、正々堂々の真っ向勝負で『烈火』が【紫影】に負けたなんて到底信じられるわけもなく…

 

だからこそ、遊良にはわかってしまう。【紫影】はきっと、とてつもなく汚い手を使って『烈火』を貶めたのだ…と。

 

…師である【白鯨】、砺波 浜臣から聞かされた、悪質なる【紫影】の汚い本性。

 

その情報を照らし合わせつつ、あの『烈火』がこれ程までの大怪我を負いながらも【紫影】に負けてしまったというコトに対し…遊良の中には、更なる【紫影】への怒りが浮かび上がりつつあるのか。

 

 

 

「『烈火』がこんな目に…一体何があったのだ。詳しく話せ。」

 

 

 

また、現状を把握し切れていない鷹矢が、炎馬へと迅速に言葉をかけ…

 

炎馬もまた、逃げ出した先に見知った顔が居たという安心感からか、背負った祖母を気遣いつつも迅速にかつ簡潔に『何』が起こったのかの説明をし始め…

 

 

 

「それで…『逆鱗』が助けてくれて…今も、『逆鱗』が【紫影】の奴と…」

「ぬぅ…【紫影】という奴はそんなに汚い奴なのか…気に食わん、そんな汚い手を使ってまで得た勝利に何の意味があると言うのだ。」

「だけどソレでも汚い手を使ってくるのが【紫影】だ…砺波先生にも言われただろ?絶対に気を抜くな、どんな手を使ってくるのか分からないから…って。」

「ぬぅ…」

「あ、天城先輩…行くのか?【紫影】のところに…ア、アイツ、本当に狂ってるってのに…」

「あぁ、わかってる。でも行かなきゃいけないんだ。【紫影】を倒すために…俺達は、ここまで来たんだから。」

「うむ。そんな汚い手を使う屑には死んでも負けん。俺が【紫影】を倒して、このふざけた【裏決島】を終わらせてやる。」

「お…俺は…こ、恐い…アイツが、めちゃくちゃ恐いんだ…俺、何も出来なくて…お、俺のせいでばあちゃんが…」

「…炎馬、ここから東に真っ直ぐ進めば、決勝で使ってた『塔』がある。そこには砺波先生も居るし、ルキが眠ってる医療室もあるから…砺波先生ならきっと助けてくれる。敵がまだ居るかもしれないけど、今獅子原先生を助けられるのはお前だけだ…頼んだぞ炎馬。」

「あ…わ、わかった…先輩達も…気をつけて…し、死ぬなよ?」

「あぁ。」

「うむ。」

 

 

 

そうして…

 

 

 

「行くぞ鷹矢!【紫影】はこの先だ!」

「うむ!」

 

 

 

怯える炎馬を見送りつつ、遊良と鷹矢は洞窟の中へと突入していく。

 

…昨日崩れたはずの、しかし今は全く崩れてはいないこの洞窟を、デュエルディスクのライトで照らし。

 

大人が悠々と通れる広さがあるおかげで、足場は悪いものの若さゆえの勢いに任せて遊良と鷹矢はどこまでもどこまでも走り続けるのか。

 

 

…光届かぬ山の胎内、不穏な空気の流れる洞内。

 

 

【白鯨】から逃げ仰せ、『烈火』をあんな目に合わせたという屑の中の屑がこの先に待っているとは言えども…

 

けれども、この先に居る元凶を倒すのだとして、遊良と鷹矢は更にその勢いを増しながら大空洞目指して駆け抜けるのみ。

 

 

…絶え間なく揺れる微かな地響きが、この先で『逆鱗』が今も【紫影】と戦っていると言うことを遊良たちへと教えてくれる。

 

しかし、炎馬から『逆鱗』の状態も聞いているからこそ―『逆鱗』とて長くは持たないであろうという危機感の元、持ち得る全力疾走にて遊良と鷹矢は走り続け…

 

 

 

そして…

 

 

 

洞窟の終わり、大空洞の入り口の光が遊良達の目に飛び込んできた…

 

 

そこには―

 

 

 

 

「全く、本調子ではないというのに向かってくるからですよぉ。えぇ。」

「ぐ…ぁ…」

 

 

 

デュエルが終わり、倒れている劉玄斎の頭を…

 

その捻じれた汚い足で、グリグリと踏みつけている【紫影】の姿が、そこにはあった―

 

 

 

「血を流し過ぎたせいですかねぇ?思考もままならない、フラついた貴方など相手にもなりません。ホント、手ごたえ無さ過ぎでしたねぇ。」

「…」

「おやぁ?気を失ってしまいましたかぁ…ふふっ、まだ生きているとは呆れましたが…この様子じゃ、放っておいてもいずれ死にますかねぇ、えぇ。」

 

 

 

…酷い有様で地面に倒れる、デュエリア校学長、劉玄斎。

 

その体は酷く傷付き、痛々しい傷跡と痣が劉玄斎の体が既に限界であったことを証明しており…

 

頭から血を流して倒れているその姿は、生きているのがやっとの…否、死んでいてもおかしくない怪我となりて、劉玄斎の意識すらも刈り取ってしまったのか。

 

…そう、【紫影】に受けた拷問に加え、満身創痍の体でトウコと炎馬を逃がすために実体化したデュエルを【紫影】相手に行った劉玄斎。

 

その体は既に限界を超えているのだろう、【紫影】に頭を踏まれていても、既に払いのける力も無く…朦朧とした意識すらも、既に手放してしまっている様子で…

 

また、そんな状態の劉玄斎を踏みつけ続ける【紫影】も、いくら敵対しているとは言え相手の頭を不遜に踏みつけるその姿は礼儀も何もあったモノではなく。どこまでも不躾な態度のままに、傷付いた『逆鱗』を更に甚振っているだけであり…

 

 

すると、そんな『逆鱗』を甚振っている【紫影】へと向かって。

 

 

大空洞に飛び込んできた遊良が、その光景を一目見ると…まるで弾けるようにして、その声を荒げたのだった。

 

 

 

「ッ!【紫影】!今すぐその足をどけろ!」

「おやぁ?貴方方は…」

 

 

 

確かな怒気を孕んだ遊良の声が、大空洞の中に反響しつつ…瞬間的に火が点いたように、【紫影】へと向かってぶつけられる。

 

果たして…遊良のソレは、一体何に対する【紫影】への怒りなのか。

 

昨日ルキを酷い目に遭わせた怒りなのか、自分に両親や幼馴染のありえない幻影を見せた怒りなのか…【裏決島】という地獄を作り出したことへの怒りなのか、それとも―

 

 

…すると、自分へと向けて放たれたその声を聞いた【紫影】が。

 

 

勇敢にも大空洞へと飛び込んできた、2人の学生達をその視界に入れたのか。意識の無い劉玄斎から、その捻じれた足をゆっくりと降ろしたかと思うと…

 

大空洞に現れた2人の少年達へと向かって。その捻じれた口から、更に続けて言葉を発した。

 

 

 

「ふふふふふっ!やぁっっっっっと来ましたかぁ貴方達!もぅ待ちくたびれましたよぉ本当に!」

「…何?どういうことだ!何故俺達がココに来ると…」

「あー長かったですねぇ、これでようやく面倒事が1つ終わります…さぁて、じゃあさっさとデュエルしますか。貴方方もさっさと終わらせたいでしょう?こんな、下らない茶番劇など。」

「む…」

「…」

 

 

 

しかし、鷹矢の問いを全く聞かず。

 

【紫影】の口から語られる言葉は、この地獄を作り出した張本人とは思えないような言動が何の悪びれも無く語られて。

 

 

 

「実を言うと私もさっさと帰りたかったんですよねぇ。いやぁ、本当に面倒でした。貴方達が遅いせいで、いらない労力を使わされましたからねぇ、えぇ。」

「…ふざけるな!貴様がこの現状を作り出したのだろうが!」

「何が茶番だ!お前のせいで、どれだけの人が傷付いてると思ってるんだよ!一体何が目的でこんな事を!」

「ふふっ…目的…目的、ねぇ…どうせ、貴方方に言っても意味など無いことですし、そんなモノどうだっていいじゃないですかぁ。それよりぃ…さっさとデュエルするんでしょう?えぇ。」

「ぐっ…何なのだ、コイツは…」

 

 

 

…外の状況など我関せず、傷付いている人々の事などどこ吹く風。

 

全く悪びれもなくそう言い捨てる【紫影】の言葉は、どこまでも悪意のままに無責任の限りを尽くして放たれ続け…

 

…一体、どんな人生を送ったらこんな無責任な悪意を振りまける人間が出来上がるのだろう。

 

そんな誰であろうと理解出来ない、そして絶対に理解したくないであろう【紫影】と言う男の…

 

純粋なまでの悪意に満ちた、反吐が出るほどの自己中心的言動が、遊良と鷹矢の琴線に悉く触れ続けるのみであり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【紫影】!お前だけは絶対に許さない!今ここで、絶対にお前を倒してや…」

「もぉー、そんなにピーピー騒がないでくださいよぉ。…天城 遊良、あなたもすぐに、ここで倒れている祖父と同じ目に遭わせてあげますから、えぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【紫影】の言葉を聞いた瞬間に、思わず言葉を失いそのまま固まってしまったイースト校2年の天城 遊良。

 

 

 

今…【紫影】は、『何』と言ったのだろうか。

 

 

 

聞き間違いでないのなら、【紫影】は今間違い無く…

 

 

 

 

 

「おっと失敬。口止めされていたと言うのに、うっかり口を滑らせてしまいました。」

「え…そ…祖父って…」

「おや、そんなに衝撃的でしたかぁ?まぁ、『Ex適正』の無い貴方が孫だなんて、『逆鱗』だって隠したい事なんでしょうから…貴方が知らなかったのも当たり前でしょうねぇ、えぇ。」

「あ…」

 

 

 

そう、【紫影】は劉玄斎を指して、今その口から間違いなく…

 

 

 

 

―『祖父』

 

 

 

…と、そう言ったのだ―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 




同時更新
遊戯王Wings外伝「エピソード七草」
ep3「スズナ in 決闘市」
も合わせてよろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。