遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep90「【決島】、決勝―後編、激闘の果てに」

「行くぜ鷹矢…お前にだけは…」

「ゆくぞ遊良…お前にだけは…」

 

 

 

 

 

 

今年も始まる…

 

 

 

遊良と鷹矢…

 

 

 

 

 

二人の、今年の『約束』の舞台が…

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前にだけは絶対負けねぇ!」

「お前にだけは絶対負けん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先攻はイースト校2年、天城 遊良。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のターン!魔法カード、【トレード・イン】発動!【クラッキング・ドラゴン】を捨てて2枚ドロー!続けてフィールド魔法、【チキンレース】も発動!LPを1000払って1枚ドロー!魔法発動、【成金ゴブリン】!LPを1000与えて1枚ドロー!よし、【闇の誘惑】を発動だ!2枚ドローして、【闇の侯爵ベリアル】を除外!」

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

いつもの様に、いつもの如く…始めから全開全力で、デッキをフル回転させにかかる遊良。

 

それは昨日の予選から全く衰える気配を見せない、天城 遊良独自のスタイル。

 

猛者ばかりの【決島】において、これ程までにドローに全力を賭けるデュエリストなど、彼以外には存在せず…

 

その、終わらぬドローによって最初からデッキをフル回転させる、この動きこそが自分のデュエルなのだと言わんばかりのそのドローは…

 

全世界に見られているというプレッシャーをまるで感じない、どこまでも遊良の自然体と言えるだろうか。

 

 

 

「【手札抹殺】を発動!手札を全て捨てて4枚ドロー!」

「ふっ、始めから飛ばしているではないか。5枚捨て5枚ドロー。」

「当たり前だ、お前相手に出し惜しみなんてするわけないだろ。【死者蘇生】発動!墓地から【イービル・ソーン】を特殊召喚して、そのまま【イービル・ソーン】の効果発動!【イービル・ソーン】リリースし、相手に300ポイントのダメージを与えてデッキから【イービル・ソーン】2体を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【イービル・ソーン】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 300

 

 

鷹矢 LP:5000→4700

 

 

 

そして遊良の場に現れる、歪で奇怪な2本の植物。

 

【成金ゴブリン】で1000回復しているため、たった300のダメージなど鷹矢にとっては痛くも痒くも無いとはいえ…

 

それでも先攻1ターン目からダメージを負わされたことを、鷹矢はどう捕らえるのだろう。

 

どれもが特定のカテゴリには属さぬ、寄せ集めにも似たデッキ。しかし多量のドローによって無理矢理にフル回転を始める、恐るべきキレを見せるデッキ。

 

そんな、何が飛び出してくるのか全く分からないであろう遊良のデッキの、激しすぎる動きを静かに見据え。鷹矢もまた、身構えるような構えを取り始め…

 

 

 

「ぬぅ、リリース素材が2体…来るか…」

「行くぞ!永続魔法、【冥界の宝札】を2枚発動し、俺は【イービル・ソーン】2体をリリース!レベル8、【モザイク・マンティコア】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【モザイク・マンティコア】レベル8

ATK/2800 DEF/2500

 

 

 

現れたのは継ぎ接ぎされた、禍々しく歪んだ合成獣。

 

レベル8の最上級モンスターだけあって、高い攻撃力を誇るモンスターではあるのだが…

 

しかし、攻撃が許されてはいない先攻1ターン目に呼び出すようなモンスターとしては、場を制圧するような特殊な効果は備えておらず。

 

…ただの、攻撃力高いモンスター。

 

Ex適正が無く、Exデッキが使えないことから、好きなモンスターを自由なタイミングで呼び出す事を遊良は出来ない。

 

ソレ故、これまで遊良は数多の他人から言われようのない蔑みを受けてきた。

 

しかし…

 

たった今遊良が呼び出した、この大型モンスターを見て。

 

鷹矢は更にその視線を鋭いモノへと変え始め、より一掃身構えた手に力を入れ始めたではないか。

 

そう、遊良が『先攻』の1ターン目で、このモンスターを呼び出したという…

 

ソレにこそ、意味があるのだから。

 

 

 

「そして【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!」

「マンティコア…次のお前のターンに、リリース素材を復活させるモンスターか。」

「あぁ、次の俺のターン、全力で攻め込ませてもらうためにな。」

「…この俺が、ソイツを次のターンまで残すと思っているのか?」

「思ってないさ。だから全力で守らせてもらうだけだ!俺はカードを3枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

手札:5→1

場:【モザイク・マンティコア】

魔法・罠:【冥界の宝札】、【冥界の宝札】、伏せ3枚

フィールド:【チキンレース】

 

 

 

先攻1ターン目から、自分の魔法・罠ゾーンを全て埋めるほどのデュエルの進行。

 

それは遊良が、最初から全力で鷹矢に立ち向かうという決意の現れでもあり…

 

そのあまりに激しい展開は、遊良にEx適正が無いというデメリットを全く持って感じさせないほどの勢いとなりて、今はっきりと全世界へと見せ付けるのか。

 

…何がEx適正の有無か。たかだかExデッキからモンスターを自由に呼び出せない程度で、自分は弱者になんてならない。

 

遊良のあまりに堂々とした立ち姿が、まるで『そう言っている』かの如く。

 

未だ遊良の力を認めようとしない、世界に多々いる者達へと向かって…遊良の無言の宣言が、世界中へと映し出され…

 

そして…

 

遊良が紛れも無い強者であることを、鷹矢も嫌でも知っているからこそ…

 

 

 

「ならばお前の考えなど蹴散らしてくれる!俺のターン、ドロー!」

 

 

 

実力の『壁』を更に超え、その『先』の地平にまで到達した遊良を相手に。鷹矢もまた、始めから全力で向かい合おうとしているのか。

 

勢いよくデッキからカードをドローし、一枚増えた手札を見据え…

 

 

 

「…どうせお前の事だ、【デモンズ・チェーン】でも伏せてあるんだろう?魔法カード、【ナイトショット】発動!その左端の伏せカードを、使わせずに破壊!」

 

 

 

発砲―

 

 

ターンが変わって即座に響き渡ったのは、紛れも無い発砲音だった―

 

鷹矢の好んで扱う魔法。相手の伏せた策を、使わせること無く破壊してしまう無慈悲なる銃声。

 

…撃ちぬく弾丸、死角からの一発。

 

そして鷹矢の宣言通り―

 

破壊されたのは、遊良もよく使用している悪魔の鎖、【デモンズ・チェーン】だったではないか。

 

 

 

「くそっ!相変わらず、勘のいい奴だな!」

「うむ!これで思う存分動けるというモノ!【チキンレース】の効果発動!LPを1000払って1枚ドロー!そして【死者蘇生】を発動!墓地から【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚し、その効果で【シルバー・ガジェット】を特殊召喚!更にシルバーの効果で【レッド・ガジェット】を特殊召喚!イエローを手札に!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【ゴールド・ガジェット】レベル4

ATK/1700 DEF/ 800

 

【シルバー・ガジェット】レベル4

ATK/1500 DEF/1000

 

【レッド・ガジェット】レベル4

ATK/1300 DEF/1500

 

 

 

そして即座に並び立つは、鷹矢お得意のガジェットモンスター達。

 

金と、銀と、赤―

 

その彩色溢れる歯車の兵士たちが一瞬で場に揃う場面は、もはや天宮寺 鷹矢の代名詞とも言える程に世界が見慣れた、あまりに安定した磐石の展開。

 

 

…良くも悪くも、戦い慣れた相手同士。鷹矢には、遊良の力が良く分かっている。

 

 

遊良の伏せた罠を見抜いたその嗅覚もそう。遊良の思考を読み、これまでの経験から遊良が何を狙っているのか…

 

ソレを見抜き、ソレを超え、そうして優位に立つのだと言わんばかりの勢いで、鷹矢も激しく展開を始めて。

 

 

 

「一瞬でガジェットが3体…相変わらず、馬鹿げた展開力だなお前も!」

「うむ!だがこんなモノではない!魔法カード、【モンスター・スロット】発動!場のレベル4、【ゴールド・ガジェット】を選択し、墓地の【ブリキンギョ】を除外し1枚ドロー!…よし、俺がドローしたのはレベル4の【無限起動ロックアンカー】だ!」

「ロックアンカー…レベルを8にしてくる奴か。まさかお前がレベルチェンジ戦術を使ってくるなんてな。」

「ふっ、いつまでも昔の俺とは違うという事だ!【モンスター・スロット】の効果で、今ドローした【無限起動ロックアンカー】を特殊召喚!そしてロックアンカーの効果発動!手札から【イエロー・ガジェット】を…」

「それなら効果を使わせなきゃいいだけだ!ロックアンカーの特殊召喚成功時!罠カード、【奈落の落とし穴】発動!ロックアンカーを破壊し除外する!」

 

 

 

―!

 

 

 

しかし、逆もしかり―

 

…良くも悪くも、戦い慣れた相手同士。遊良には、鷹矢の力が良く分かっている。

 

鷹矢が召喚してくるであろうモンスターに、照準を合わせていたその先見もそう。鷹矢の思考を読み、これまでの経験から鷹矢が何を狙っているのか…

 

ソレを見抜き、ソレを超え、そうして優位に立つのだと言わんばかりの勢いで、遊良も鷹矢に好きにさせる気などなく。

 

後続を呼び、レベルを上昇させる効果を持った【無限起動ロックアンカー】が…狙っていたレベルアップを果たせずに、跡形もなく爆散してしまって…

 

 

 

「…ロックアンカーに照準を合わせてきていたのか…」

「当たり前だろ。つーか、俺に黙ってそんなモンスター準備してやがったのかお前は。第二試合で見ておいたから良かったけど。」

「…お前との決勝まで取っておこうと思ったのだが…相手が相手だったからな、そう簡単にはいかなかっただけだ。まぁいい、召喚に成功したため【イエロー・ガジェット】を特殊召喚してグリーンを手札に。」

「けど、これでお前はランク8を出せない。どうする?先生の『ダーク・リベリオン』を出すか…後のお前のランク4の主力はカステルにダイヤウルフにアイアン・ヴォルフにヴェルズ・ビュート…だけど去年と同じような主力じゃ、もう俺には勝てないぜ?」

「ぬぅ…」

 

 

 

王者【黒翼】の孫に向かって、あまりに堂々と放たれるは自信に溢れた遊良の言葉。

 

…昨日の予選でも、鷹矢を研究し、対策してきたデュエリストは沢山いた。

 

何せ王者【黒翼】の孫―

 

幼少の頃より、各地の大会を幼いながらも荒しまわり…初等部、中等部と、その年代における決闘市の学生タイトルを総ナメにし続け…何より有名なのは、昨年度の【決闘祭】準優勝と、今年の夏休みにプロも参加するレベルの高い大会を荒しまわっていたというその噂。

 

だからこそ、これまでそれだけ派手に結果を残してきた鷹矢を、【決島】に参加する選手達が対策してきたのはある意味で当然であり…

 

そして、その相手の全てに。鷹矢は真正面から打ち勝ってきて、真正面から力で捻じ伏せて来た。

 

…それはまるで、祖父である天宮寺 鷹峰が歩んできた覇道そのモノ。

 

立ち塞がる全ての邪魔者を、己の力で蹴散らし爆進する…誰であろうと止められない、本物の強者にしか出来ない生き方。

 

 

しかし…

 

 

そんな他人の行う対策と、遊良が見ている世界は根本からして違う。

 

そう、他人が、鷹矢のこれまでのデュエルを研究し、理論的に対策を講じてくるのならば…

 

遊良は、鷹矢のデュエルのみならず、性格から思考、果ては日常的な癖をも感覚的に理解して、そうして反射的・直感的に向かってくるのだ。

 

それは誰にも真似出来ない、天宮寺 鷹矢への深い理解。

 

これまで幼馴染として、長い間共に過ごして来たが故の…遊良にしかできない、鷹矢への対策。

 

 

 

「…去年と同じでは勝てないと言ったな?ならばコレではどうだ!俺はシルバーとレッド、2体のガジェットでオーバーレイ!」

 

 

 

けれども、そんな遊良の対策を更に力で上回らんと。

 

鷹矢の叫びに呼応して、2体のガジェット達がその身を光へと変え天に舞い始め…

 

鷹矢の持つ、エクシーズのEx適正の導くままに。足元に広がる銀河の渦より、この天空闘技場の大空へと羽ばたきしは…

 

 

 

「エクシーズ召喚!来い、ランク4!【竜巻竜】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【竜巻竜】ランク4

ATK/2100 DEF/2000

 

 

 

…現れしは暴風纏いし、吹き荒ぶ突風と疾風の化身。

 

吹けよ嵐、暴れよ竜巻―

 

速攻魔法、【サイクロン】がモンスターとして具現化したかの様なその姿は…ランク4を多用する鷹矢が、好んで使っているエクシーズモンスターの1体。

 

 

 

「トルネード…【サイクロン】内蔵モンスターか!」

「うむ!【竜巻竜】の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、【チキンレース】を破壊する!まだだ!【アイアンコール】発動!墓地から【シルバー・ガジェット】を、効果を無効にして特殊召喚!そのままゴールドとシルバー、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【ギアギガントX】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ギアギガントX】ランク4

ATK/2300 DEF/1500

 

 

 

続けて…

 

鷹矢の場に現れたのは、天宮寺 鷹矢というデュエリストを現すに相応しいとさえ言われる…鷹矢のデッキの先発、先鋒、鋼鉄なりし機械巨人。

 

唸る豪腕、轟く体躯―

 

鷹矢のデュエルの始まりを示す、その駆動音を猛りへと変え。戦い慣れた遊良へと、いつもの様に向かい合う。

 

 

 

「この情況での【ギアギガントX】?…けどソイツじゃ、【モザイク・マンティコア】は突破できないってのに…」

 

 

 

けれども、どれだけ戦意の駆動音を唸らせようと。

 

たった今遊良が言った通り、この状況下での【ギアギガントX】のエクシーズ召喚は些か戦法としては物足りないのではないかとさえ思える展開。

 

一体、何を企んでいるのか。

 

思考停止で、ただとりあえずいつもの様に【ギアギガントX】をエクシーズ召喚した…というわけでは、断じてないということを遊良も理解しているからこそ。

 

世界中に蔓延する興奮とは裏腹に、どこまでも冷静な思考の元、遊良は鷹矢の狙いを解析し始め…

 

 

…しかし、そんな遊良の疑問を意に介さず。

 

 

まるでこの展開こそが、自分にとっての最適解なのだと言わんばかりの確固たる信念と迷い無き眼。

 

そう、どれだけ周囲に疑問に思われようとも関係ない。鷹矢は、全く崩れる事無くこう叫ぶのだから。

 

 

 

「いや、これでいいのだ!【ギアギガントX】の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから【穿孔重機ドリルジャンボ】を手札に加える!そして俺はまだ通常召喚しておらん!今手札に加えた、【穿孔重機ドリルジャンボ】を通常召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【穿孔重機ドリルジャンボ】レベル4

ATK/1800 DEF/ 1000

 

 

現れたのは、巨大なるドリルを2つも構えた屈強なりし重機の1体。

 

…機械族でレベル4、属性も地属性でとはいえ。それはこれまでの鷹矢のデッキには、入ってすらいなかったはずのモンスターなのだが…

 

 

 

「ドリルジャンボ…ソイツも見た事無いモンスター…」

「俺のレベルチェンジ戦術が、ロックアンカーだけだと思うな!ドリルジャンボの効果発動!召喚成功時、俺の機械族のレベルを1つ上げる!」

 

 

 

―!

 

 

 

【穿孔重機ドリルジャンボ】レベル4→5

 

【イエロー・ガジェット】レベル4→5

 

 

 

叫ばれるは己を超える、鷹矢の新たな戦術の狼煙。

 

レベル4を多用する鷹矢が、レベル4にこだわりながらもランク4という枠組みを超えるために編み出した…【決島】で確立した新たな戦術であり、去年までの鷹矢とは一戦を画す、新たな鷹矢の強さの境地。

 

 

…それはある意味、祖父の生み出した戦術に通ずるような、擬似的なランクアップ戦術とも言える戦術。

 

 

そう、様々なランクを多用しようとすれば、それだけメインデッキのバランスが崩れる。そうなる事を嫌って、ランク4という縛りの中で強さを磨いてきた鷹矢の…

 

その殻を一つ破らせたのは、何を隠そう他でもない…

 

 

 

「レベル5のモンスターが2体!?ランク8だけじゃなかったのか!」

「当たり前だろうが!俺はレベル5となったイエローとドリルジャンボで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 

 

―オーバーレイネットワークを、構築

 

 

それは、およそこの世界のエクシーズ召喚のためのモノではない口上。

 

そう、この世界においては、鷹矢にのみ許されたその宣言の導くままに…

 

 

 

「現れろ、『No.61』!怒り猛るは火山の如く!燃え上がる灼熱をその身に宿し…怒りを噴火し目を覚ませぇ!」

 

 

 

…己の頭の中に浮かぶイメージと、天に怪しく輝くその数字を、Exデッキにて眠る『白紙』に焼き付け。

 

今ここに呼び出されようとしているのは、果たして一体どんなモンスターなのか。

 

鷹矢の強さの殻を破り、一つ上の段階へとその強さを押し上げた根源…

 

その、この世界においては鷹矢しか持っていない、特別なエクシーズモンスターが…

 

 

 

 

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

「エクシーズ召喚!来い、ランク5!【No.61ヴォルカザウルス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【No.61ヴォルカザウルス】ランク5

ATK/2500 DEF/1000

 

 

 

溶岩と共に現れしは、燃え上がりし火山恐獣。

 

焼けつく咆哮、轟く爆風―

 

その左胸に、『No.』の証である数字…『61』の定めを刻んだ、灼熱に燃え盛る太古の獣。

 

先の第二試合において、【FNo.0 未来龍皇ホープ】へとその姿を変えていたのだが…

 

鷹矢がこの世界に一時的に呼び出した『未来皇ホープ』が消えた事により、その姿を再び『白紙』へと戻したのだ。

 

そんな、鷹矢の力を更なる段階へと押し上げた…

 

特別なるエクシーズモンスターが、世界へと向けて荒れ叫ぶ。

 

 

 

「また新しい『No.』…一体どれだけ変化するんだよ!」

「そんな事、俺の知ったことではない!ゆくぞぉ!俺は『No.61』の効果発動!」

「ッ、来るか!?」

「うむ!オーバーレイユニットを一つ使い…【モザイク・マンティコア】を破壊し、元々の攻撃力分のダメージをお前に与える!」

「なっ!?」

「喰らえ遊良ぁ、溶岩濁流!」

 

 

 

―!

 

 

 

火山恐獣より放たれた、灼熱の大波が遊良へと襲い掛かる。

 

…それは避けようにも避けられない、あまりに激しい溶岩の高波。

 

それだけではない。モンスターを破壊するだけでは飽き足らず、なんとその攻撃力分のダメージをも相手に与えるその凶悪な効果は…

 

まさに変幻自在、予測不可能な『No.』の、決して逃れられぬ怒涛の攻撃と言えるのであって―

 

 

 

 

 

けれども…

 

 

 

 

 

「なんてな!ソレも想定済みだ!速攻魔法、【禁じられた聖衣】発動!【モザイク・マンティコア】の攻撃力を600下げ、効果破壊耐性を与える!」

「何ぃ!?」

 

 

 

【モザイク・マンティコア】レベル8

ATK/2800→2200

 

 

 

刹那―

 

そう、【モザイク・マンティコア】が溶岩濁流に飲み込まれんとした、その刹那の瞬間―

 

遊良の場から放たれた、神に使用を禁じられた聖なる衣が合成獣の尾に絡みついたかと思うと…

 

なんと【モザイク・マンティコア】は、溶けてしまうほどの熱を持つ溶岩の高波を、その身一つで耐え切ってしまったではないか。

 

 

灼熱の濁流をその身に受けても、なお原型を留める合成獣。

 

 

特殊な金属で構築された、その体がやや溶けかけているようにも見えるものの…それでも、『No.』の激しい効果を受けても倒れぬその姿は、まさにExモンスターにも引けをとらぬ大型モンスターと言え…

 

 

 

「馬鹿な…変幻自在の『No.』を読んでいただと?俺でさえ、『その時』にならんと『何』が出てくるのか分からんと言うのに…」

「読んでたっていうか、そんな気がしてただけだ。…どうせお前の事だ、『破壊』と同時にダメージを効率よく与えようとしてくるんじゃねーかってな。」

「む…」

 

 

 

それは鷹矢を研究してきた、他の学生達よりも深い理解。鷹矢の戦術を見通してきた、竜胆 ミズチよりも鋭い読み。

 

鷹矢でさえ、その時になってみないと何が出てくるのか分からない『No.』の変化を…使い手である鷹矢よりも先に見抜き、そしてソレに対して手を打っておくなど、普通であれば出来ない事だというのに…

 

鷹矢の行動パターンを見据え、鷹矢の戦術パターンを感じ、鷹矢の展開パターンを先読みし―

 

残っていた最後の伏せカードを、まさに『この時』の為に用意していたという遊良の守りは、まさに磐石の一言と言えるだろうか。

 

そう…いくら『No.』がExデッキに戻る度に、その身を『白紙』に戻すとは言え…

 

新たに場に出すとき、それを創造しているのが鷹矢自身なのだから、だったら何が出てくるのか分からない『No.』であろうとも、読めないことなど無いのだという遊良の狂った正確なる暴論。

 

…幼馴染は伊達じゃない。

 

この世の、誰よりも鷹矢を理解している自負が遊良にはあるからこそ。

 

鷹矢が理解するよりも、一歩早く鷹矢の創造しようとしたモノを見抜き…考えるよりも先に、鷹矢の気配を感じ取って読みきるという、遊良にしか出来ない経験からくる予測なのであって。

 

 

 

「変幻自在だろうが何だろうが、創造するのがお前なら俺に『No.』は通用しない!去年と同じ戦術じゃ、俺には通用しないって言っただ…」

「ならばその台詞、そっくりそのままお前に返してやろう!俺とて、お前が『そのカード』を使ってくると思っていたのだからな!」

「何!?」

「これで【モザイク・マンティコア】の攻撃力は、【ギアギガントX】をも下回った!バトル!『No.61』で、【モザイク・マンティコア】を攻撃!」

 

 

 

それでも―

 

遊良の読みに反発するように、鷹矢の方もまるで遊良が、『こう動く』事を予測していたかのように即座に攻撃を宣言して。

 

…そう、先に攻撃力の劣る【ギアギガントX】を展開したとは言え、鷹矢にもここまでの道筋は実は見えていた。

 

それは遊良が、単純に破壊耐性を与えるのではなく…攻撃力を下げる【禁じられた聖衣】を使ってくると踏んでいたからこそ。鷹矢は何の迷いもなく、攻撃力の劣る【ギアギガントX】を展開したのだ。

 

鷹矢の宣言が天に轟き、『No.61』が天に叫び―

 

そのまま、火山恐獣が一目散に遊良の場の合成獣へと襲いかかり始め…

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

「甘い!墓地の【サクリボー】のモンスター効果!【サクリボー】を除外して、【モザイク・マンティコア】は戦闘では破壊されない!」

「むっ、【サクリボー】!?…チッ、【手札抹殺】か、相変わらず用意のいい奴だ!だがダメージは受ける!続けて【ギアギガントX】で攻撃!」

「2体目の【サクリボー】の効果!戦闘破壊の身代わりに!」

「なっ、2体目だと!?」

 

 

 

遊良 LP:3000→2700→2600

 

 

 

火山恐獣の熱閃と、機械巨人の鉄腕を受けてもなお倒れない、歪なりし合成獣。

 

…ダメージを負ってしまうとは言え。遊良もまた、鷹矢がこう攻撃してくると読んでいたのか。

 

鷹矢の攻撃までをも見通して、予め墓地に送ってあった『2体』の【サクリボー】が身代わりとなりて…【モザイク・マンティコア】を、戦闘破壊から完璧に守りきって。

 

 

 

「対象耐性に効果耐性…そして戦闘耐性…ぬぅ、硬い…」

「当たり前だろ。お前相手に、俺が守りきるって言ったんだ。そう簡単にやらせるかよ。」

「攻撃回数まで読んでいたとは…仕方ない、ダメージを返しただけでも良しとしてやる。バトルフェイズを終了し、【エクシーズ・ギフト】発動。【ギアギガントX】と『No.61』のオーバーレイユニットを1つずつ使い2枚ドロー。【強欲で貪欲な壷】も発動。デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー。…カードを2枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

鷹矢 LP:4700→3700

手札:6→2枚

場:【ギアギガントX】

【No.61ヴォルカザウルス】

【竜巻竜】

伏せ:2枚

 

 

 

 

互角―

 

まさに互角のぶつかり合い。

 

お互いに、どこまで見えているのかと思える先見の凌ぎ合いをぶつけ合い、そうしてお互いに拮抗したまま長い長いターンが終わる―

 

…これ程までの攻防を、学生が行えるなんて―

 

もし今の攻防を見て、つまらないだとか無駄が多いとか、そんな無粋なる言葉を述べる観客が居たら…きっと、その観客自体が嘲笑されることだろう。

 

何せ今の攻防は、遊良も鷹矢も他人では決して見通せないほどに深い相手の思考の領域まで読んでいたからこそ…今の攻防が繰り広げられ、そして今のぶつかり合いが繰り広げられたのだ。

 

だからこそ…

 

思考の果て、先見の顕現…あまりに深いところで繰り広げられた、今の攻防の意味を理解できる者の目には…

 

遊良と鷹矢の行った今の鬩ぎ合いが、ただただ恐ろしいモノとして映っており…

 

 

 

「俺のターン、ドロー!このスタンバイフェイズに【モザイク・マンティコア】の…」

「ならばその前に【竜巻竜】の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、【冥界の宝札】1枚を破壊する!」

「ッ、早速動いてきたか…」

「うむ。アドバンス召喚する度に手札が馬鹿みたいに増えていくなど、容認できるわけが無かろう。」

「…【モザイク・マンティコア】の効果で、墓地の【イービル・ソーン】2体を効果を無効にして特殊召喚。」

 

 

 

【イービル・ソーン】レベル1

ATK/ 100 DEF/300

 

【イービル・ソーン】レベル1

ATK/ 100 DEF/300

 

 

 

行われているのは、幼い感情にまかせたぶつかり合いでは断じてない。

 

一手一手が、互いのリソースを削り合うという…あまりに細い綱渡りを、何の恐れもなく互いに繰り広げ続けているという、にわかには信じられない読み合いの嵐。

 

…例え、対処できるのが僅かだけでもいい。

 

その後の展開を見据えつつ、今のこの時の僅かな妨害が、後から大きな逆転の一手になるのだと。

 

お互いが、お互いに何をしてくるのか。これまで過ごして来た日常から、それを的確に予測できるからこそ…

 

遊良も鷹矢もお互いに、一歩も引かぬ削り合いを繰り広げていて。

 

 

 

「…けど、それだけじゃ止まってやるもんか!魔法カード、【アドバンスドロー】発動!【モザイク・マンティコア】を墓地に送って2枚ドロー!続けて速攻魔法、【大欲な壷】発動!【闇の侯爵ベリアル】、【サクリボー】2体をデッキに戻して1枚ドロー!【トレード・イン】も発動!【デモニック・モーターΩ】を捨てて2枚ドロー!…よし!【冥界の宝札】を発動!」

「くそっ、3枚目を引いたか!」

「行くぞ!2体の【イービル・ソーン】をリリース!レベル8、【鉄鋼装甲虫】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【鉄鋼装甲虫】レベル8

ATK/2800 DEF/1500

 

 

 

再び加速し始めた遊良の場に現れたのは、鋼鉄纏いし堅牢の虫、重甲なりし鉄の蟲。

 

…これは遊良が幼少の頃に使っていた、効果を持たぬ通常モンスター。

 

そう、高い攻撃力を持つとはいえ、初戦は子どもの使うような通常モンスターなど、世界中の観客達の大多数からすれば嘲笑にすら値する代物ではあるのだが…

 

しかし、このデュエルの『本質』を理解できる一握りの者達からすれば…

 

 

 

「アドバンス召喚成功時!【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!」

「チィッ、手札が減らん!」

「まだまだぁ!手札を1枚捨てて魔法カード、【ワン・フォー・ワン】発動!デッキから【サクリボー】を特殊召か…」

「ならばその前に罠カード、【戦線復帰】発動!墓地から【ゴールド・ガジェット】を守備表示で特殊召喚する!」

「けど止まるもんか!【サクリボー】を特殊召喚し、速攻魔法【地獄の暴走召喚】発動!デッキから【サクリボー】2体を特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

「俺が選択するのは【ゴールド・ガジェット】!デッキからもう一体の【ゴールド・ガジェット】を守備表示で特殊召喚!…3体の素材…来るか!?」

「残念だけどハズレだ!俺は3体の【サクリボー】をリリース!」

「【二重召喚】を使わないだと!?まさか!?」

 

 

 

世界中の誰とも違う反応を見せた鷹矢に対し、高らかに天に叫ばれる遊良の宣言。

 

…召喚権は既に使った。【二重召喚】を使わなければ、Exデッキの使えない遊良はもう大型モンスターを出す事など出来ないと言うのにも関わらず…

 

 

 

―小さく奮える悪魔達の、その身に纏うは渦ではなく。

 

 

 

「見せてやるよ!これが【決島】に来てから手に入れた…俺の切り札の『1枚』だ!運命を切り裂く英雄よ!青き誓いをその身に刻み…」

「ッ、その口上は…」

 

 

 

世界に轟くその口上。かつて世界の頂点にいた、1人の『鬼才』が放った叫び。

 

3体のリリースを要求してはいても、これはアドバンス召喚とは違う、特殊召喚のエフェクトであり…

 

それはこの【決島】に来てから手に入れた、新たな切り札を呼び出すためのエフェクト。

 

高らかに天に掲げられしその手には、一片の迷いも淀みもなく…

 

天高く聳える天空の塔の、その最も高い場所で、遊良の叫びが空を裂く。

 

 

 

「天を喰らいし覇者となれ!来い、レベル8!」

 

 

 

今、悠久の時を経て。

 

熱狂に湧く全世界へと、ソレは高らかに響くのみ。

 

この島の最も高い場所で、世界で最もアツい場所で…

 

天を揺るがすその叫びと、天に轟く威光と共に…

 

 

 

 

それは、現れる―

 

 

 

 

 

「【D-HERO Bloo-D】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

震える天を切り裂いて、降臨せしは飢えの滴り。

 

血霧と共に降臨し、剥き出しの牙を刃へと変え…混沌渦巻く天より出でしは、竜頭を纏いし運命の英雄。

 

纏いし竜の咆哮で、双翼を広げ地に降りることなく空に佇み。下界を見下ろすその瞳は、一体何を映しているのか。

 

 

 

【D-HERO Bloo-D】レベル8

ATK/1900 DEF/ 600

 

 

 

それは鷹矢のエクシーズモンスター達を前にしても、決して慄かない正真正銘の英雄の姿。

 

遥か昔、世界が鬼才の戦いに熱狂していた頃…

 

運命を貫く英雄と、運命を引き千切る英雄と共に、3体の【紫魔】の象徴として世界中が見惚れていたという…

 

世界で最も有名な、『D』の英雄の最たるエース。

 

 

 

「そして【サクリボー】3体の効果で3枚ドロー!」

「【紫魔】だった男のカード…遊良め、【王者】のカードを使ってくるとは…」

「お前だって先生の【黒翼】持ってるんだからイーブンだろ?…行くぞ!Bloo-Dの効果発動!1ターンに1度、相手モンスター1体をBloo-Dに装備できる!俺が選択するのは…『No.61』!」

「ぬぅ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

竜頭構えし運命の英雄が、飢えと共に襲い掛かる。

 

…無慈悲にも相手モンスターを喰らい尽くす、この暴食の竜の飢えを止められるモノなど存在するのだろうか。

 

否―

 

今この場においては、誰であろうと止められない。

 

運命の英雄の放つ、【王者】の如し威圧によって。今、鷹矢の全てのモンスター効果は無効となっているのだから。

 

 

 

【D-HERO Bloo-D】レベル8

ATK/1900→3150

 

 

 

「まだまだぁ!【貪欲な壷】発動!【サクリボー】3体、【イービル・ソーン】、【モザイク・マンティコア】をデッキに戻して2枚ドローッ!【成金ゴブリン】も発動!LPを1000与えて1枚ドロー!」

「ッ、相変わらず馬鹿げたドローだ…こうなると手がつけられん…」

「よし!【二重召喚】を発動して、速攻魔法【帝王の烈旋】発動ぉ!俺は【鉄鋼装甲虫】と…お前の、【ギアギガントX】をリリィースッ!」

「っ!?」

 

 

 

あまりに目まぐるしく入れ替わる、遊良の手札と遊良の場。

 

果たして加速し始めた遊良の展開を、追えている者は観客達の中に一体どれだけ居るのだろう。

 

あまりに激しく、あまりに流れ、まるで止まらぬ気配を見せぬ…Ex適正が無いからと見下されてきた、天城 遊良の怒涛のデュエル。

 

一度始まったら止まらない。その加速を続ける遊良の勢いは、まさに壊れた暴走列車の如く。

 

ドローにドローとドローの連鎖で、更なるドローでドローを繰り返すその勢いは…到底、Ex適正が無いという『世界の常識的な弱者』には、絶対に出来ないデュエルであるはずだというのに。

 

 

 

…まさかEx適正の無い男が、【黒翼】の孫相手にここまでのデュエルを見せてくるなんて。

 

 

 

それは実力の高い者ほど思い知らされる事実。

 

プロの中でも…いや、プロのトップランカーになればなるほど嫌でも理解してしまうコト。

 

 

―Exデッキを使ってないのに、こんなにも恐ろしいキレを天城 遊良は魅せるのか…

 

そう、今まで気にも留めなかった…今まで蔑みすらしていたEx適正の無いデュエリストの出来損ない…

 

そんな男に、背筋が凍るほどの寒気を感じさせられることになるなんて―、と。

 

 

 

 

 

続けて、呼び出されしは―

 

 

 

 

 

「来い!レベル10!【The tyrant NEPTUNE】!」

 

 

 

―!

 

 

 

―その時…

 

 

 

『何か』が、宙から降ってきた―

 

 

 

それは深海よりも深きモノ、海嘯よりも豪きモノ。

 

荒ぶる激浪をその身に纏い、四海すら凌駕する海闊の化身。

 

空を映し、天を彩り、宙すら飲み込むまさに『海の星』。

 

それはたゆたう星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。

 

 

 

 

【The tyrant NEPTUNE】レベル10

ATK/ 0→5100 DEF/ 0→3000

 

 

 

「ぐぅっ!?こ、攻撃力5100…」

「これが新しく従えた、俺のもう一枚の切り札だ!」

「NEPTUNE…まさかこれ程のプレッシャーを放つモンスターだったとは…釈迦堂 ランめ、余計なカードを…」

「行くぞ!燦然と輝くプラネットの一球、【The tyrant NEPTUNE】のモンスター効果!NEPTUNEの攻守は、リリースしたモンスターの攻守の合計となる!更にアドバンス召喚成功時、NEPTUNEは【ギアギガントX】と同名となり、同じ効果を得る!そして【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!」

「ぐっ、また手札が増え…」

「よし、バトルだ!まずは【D-HERO Bloo-D】で、【竜巻竜】を攻撃ぃ!」

 

 

 

 

王者【黒翼】の孫を前に、元とはいえ王者【紫魔】であった男のエースのその瞳に映るのは…立ち塞がる者を蹴散らすというその煌々とした戦意のみ。

 

…Exデッキから自由にモンスターを呼び出せないことが、一体何のデメリットになるというのだろう。

 

今、観客達の目の前で多量のドローを繰り返したこの男こそ、メインデッキから自由にモンスターを無理矢理引っ張り出してくるという、狂っているとさえ思える男ではないか。

 

そんな、一部の『気付き始めた』観客達の目の前で…

 

今…

 

運命の英雄が、高らかに天へと舞い上がり…

 

 

 

 

 

「鮮血の、ブラッディ・フィニッ…」

「させるものかぁ!バトルフェイズに入ったこの瞬間、墓地の【超電磁タートル】を除外し効果発動!バトルフェイズを終了する!」

 

 

 

―!

 

 

 

それでも、喰らわない―

 

…血霧の槍雨から主を守るは、墓地より飛び出した電磁の亀。

 

 

相殺し、反発する…その有り余る斥力で。

 

 

それは鷹矢が用いる事の多い、守りの手段のその一つ。

 

バトルフェイズを強制的に終了させる、その力にはこれまで鷹矢も幾度と無く救われてきた。

 

 

だが、何故か―

 

 

攻撃を止めたはずの鷹矢のほうが、どこか『苦い顔』のような雰囲気を漂わせていて…

 

 

 

「くそっ、こんなにも早くコイツを使わされるとは…」

「よし、これで厄介な奥の手は無くなったな。」

「まさか、これも分かっていたとはな…」

「あぁ、どうせお前の事だ。【手札抹殺】で墓地に送ってると思ってたからな。これで【超電磁タートル】も使わせた…後は削り合いだ。俺とお前、どっちが先に音を上げるかのな!」

「むぅ…」

 

 

 

苦々しい言葉を零した通り。

 

まさか鷹矢も、先ほどのターンに先んじて用意しておいた【超電磁タートル】を、こんなにも早く使わされる事になるなんて想定外だったのか。

 

…使うとしても、もっと後のギリギリの場面。

 

そんな情況を想定して用意しておいたというのに、遊良にソレを見破られて無理矢理に使わされたことは、鷹矢にとっても不本意だったに違いなく。

 

 

 

「何が削り合いだ…手札が6枚…動けば動くほど手札が増えていくなど本当に理解できん。」

「メインフェイズ2だ。【暗黒界の取引】発動。お互いに1枚ドローして1枚捨てる。【チキンレース】も発動。LPを1000払って1枚ドロー!俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

遊良 LP:2600→1600

手札:2→3枚

場:【D-HERO Bloo-D】

【The tyrant NEPTUNE】

魔法・罠:【冥界の宝札】、【冥界の宝札】、【No.61ヴォルカザウルス】(Bloo-D装備中)、伏せ2枚

フィールド:【チキンレース】

 

 

 

LPの差は着実に開いていくのに、ソレに反してデュエルの流れはどこか遊良に分があるようにも見える。

 

…きっと、そう感じた観客達が居たことは何らおかしいことではないだろう。

 

そう、プロの目から見ても…いや、例えプロでなくとも。

 

ごくごく『一般的な実力』を持っている者であれば、天城 遊良が今のターンに、この決勝の舞台で『何』をやっているのかが…嫌でも、察知してしまって…

 

 

―何せ今のターンにおける、遊良のキレはまさに『凄まじい』の一言

 

 

…時代遅れのアドバンス召喚を、ここまで使いこなしているその技量。

 

…展開すればするほど、逆に増えていくその手札。

 

…Exモンスターに引けをとらぬ、圧倒的な力を持った切り札足り得るその最上級の大型モンスター達。

 

…鷹矢の手札が透けて見えているのでは無いかと、そう思えるほどの未来視にも似たその先読み。

 

 

そのどれをとっても、遊良が魅せた鋭すぎるキレは学生の枠を大きく超えているのだ。

 

…一度回転を始めたら、決して止まらぬ嵐となりて繰り返されるドローもそう。

 

相手を力で圧倒する、Ex適正が無いとは思えない程に洗練された…あまりに高いデュエルの腕と、あまりに強い心の証。

 

 

…本当に、この男は10年前にEx適正が無いと大々的に報じられた、あの出来損ないの天城 遊良なのだろうか。

 

 

普通、常識的に考えて、このExデッキ至上主義の時代にEx適正を持たないということは、そのままの意味で『人間以下』だというのにも関わらず…

 

 

そんな人間以下の屑であるはずの、デュエリストにすらなれないはずの出来損ないが―

 

 

―まさかこの学生の頂点を決める、大舞台の中の大舞台において、こんなにもわかりやすい『強さ』を見せてくるだなんて。

 

 

信じられない―信じたくない―信じられるわけがない―

 

 

予選の結果は、何かの間違いか奇跡か、それとも『祭典』を盛り上げるためだけの演出だとでも思っていた者も居たのだろう。

 

しかし、プロの間でも有名なデュエリアの『ギャンブラー』に競り勝った先の第一試合もそう。

 

王者【黒翼】の孫相手に、ここまで正面から己の力のみでぶつかり合い…そして正々堂々と圧倒しかけている、今の天城 遊良の力を見て。

 

世界中の観客達が、言葉を失いかけ己の常識を疑い始め―

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 

 

 

 

 

けれども、そんな遊良に圧倒されることもなく。

 

運命の英雄と『海の星』が放ってくる重圧を切り裂くように、鷹矢の叫びが木霊する。

 

 

 

「これ以上お前の好きにはさせん!お前のLPは残り1600!一撃が通れば…俺の勝ちだ!墓地の【ブレイクスルー・スキル】を除外し効果発動!Bloo-Dの効果を無効に!」

 

 

 

―!

 

 

 

ターンが移り変わってすぐ。

 

【手札抹殺】で墓地の送っていたカードの中から、一枚の罠カードの発動を宣言した鷹矢。

 

…相手にのみ【スキルドレイン】と同じ効果を無理矢理与えてくる前【紫魔】のエースに、威圧され続けるつもりはないのだと言わんばかりのその対処。

 

鷹矢の発動した罠によって、運命の英雄がその翼を力なく垂れ落としてしまったではないか。

 

 

 

「ッ、簡単に超えて来やがって!用意がいいのはどっちだよ!」

「『No.』は返してもらうぞ!Bloo-Dに装備されていた『No.61』は破壊され、俺の墓地へ送られる!更に【チキンレース】の効果発動!LPを1000払って1枚ドロー!そして【ゴールド・ガジェット】2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!来い、ランク4!【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】ランク4

ATK/2200 DEF/ 2200

 

 

 

そして即座に現れしは、鉄の狼たる装甲列車。

 

世界のどこへでも突撃してしまいそうなほどに蒸気を噴出しているその姿は、まさに荒々しくも猛々しい出で立ちと言えるだろう。

 

どれだけ強力なモンスターで身を守ろうとも、それを蹴散らしながら相手へと直接ぶつかることのできるその効果はあまりに有用。何しろ劣勢でも一撃で勝負をつけられる直接攻撃は、ただただ強力の一言であるのだから。

 

 

 

 

 

…そう。強力の、一言なのだが…

 

 

 

 

 

「やっぱりな!そう来ると思ってたよ!【奈落の落とし穴】発動!アイアン・ヴォルフを破壊し、除外する!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊良へと突撃を仕掛ける前に、遊良によって爆散させられてしまった鉄の狼。

 

その無慈悲なる宣言は、鷹矢に好きにはさせないという遊良からの宣戦布告なのか…

 

一発逆転を狙える直接攻撃を、何の役割も果たさせてもらえず破壊されてしまうその気持ちは果たして…コレを見ている観客達には、決して理解できるはずも無く。

 

 

 

「ぐっ…だが俺にはわかる!永続カードを多用するお前は、伏せられる枚数に限りがあるからな!もうお前は、俺を邪魔するカードを伏せられてはない!」

「それがどうした!俺には【チキンレース】がある!これがある限り、LPが少ない俺はダメージを受けないんだぜ?それに…」

「わかっている!【チキンレース】の他に、お前の墓地には【手札抹殺】か【ワン・フォー・ワン】で用意した【ネクロ・ガードナー】があるのだろう?」

「ッ、気付いてたか…」

「当たり前だ!俺が墓地に策を用意していたのだ…お前が用意してないわけがないだろう!だからこそ一撃、お前を倒すのには、一撃さえ届けば充分!【貪欲な壷】発動!『No.61』、ギアギガントX、ゴールド、シルバー、イエロー・ガジェットを戻して2枚ドロー!」

 

 

 

遊良が、鷹矢の手を読みきっていたように。

 

鷹矢もまた、遊良の手を読んでいるのだと言わんばかりの勢いを放ったかと思うと、遊良に負けじと加速を始めて。

 

 

 

「お前のことだ、どうせモンスターに耐性を与える速攻魔法でも伏せたのだろう?ならば手札の【グリーン・ガジェット】を捨て、速攻魔法【ツインツイスター】発動!俺が破壊するのは、【チキンレース】と【冥界の宝札】だ!」

「ッ、【チキンレース】が!?」

「俺は止まらん、お前を倒すまでは!俺はまだ通常召喚しておらん!【爆走軌道フライング・ペガサス】を通常召喚!その効果で、墓地より【古代の歯車機械】を、効果を無効して特殊召喚する!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【爆走軌道フライング・ペガサス】レベル4

ATK/1800 DEF/1000

 

古代の歯車機械(アンティーク・ギアガジェット)】レベル4

ATK/ 500 DEF/2000

 

 

 

そして…

 

鷹矢の場に連続して現れるは、2体のレベル4、機械族モンスター達。

 

そのどれもが、これまでの鷹矢は使用していなかったモンスターであり…

 

そのモンスターを見て、不意に遊良も少々焦りながら声を荒げ…

 

 

 

「アンティーク・ギアでガジェットモンスター!?お前、そんなモンスターまでデッキに入れてたのか!?」

「当たり前だろう?お前と戦うのだ!展開ルートはどれだけ用意しておいても足りんくらいだからな!そのまま【機械複製術】を発動!デッキから【古代の歯車機械】2体を、守備表示で特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

古代の歯車機械(アンティーク・ギアガジェット)】レベル4

ATK/ 500 DEF/2000

 

古代の歯車機械(アンティーク・ギアガジェット)】レベル4

ATK/ 500 DEF/2000

 

 

 

「ぐっ、アンティーク・ギアだからソイツの効果は確か…」

「うむ!特殊召喚成功時に、【古代の歯車機械】2体の効果が発動する!俺が宣言するのは、『モンスター効果』と『魔法』カー…」

「くそっ!それにチェーンして墓地の【ネクロ・ガードナー】を除外して効果発動!このターン、1度だけ相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 

 

 

鷹矢の放つ無慈悲な宣言…それは鷹矢の攻撃時に、ダメージステップ終了時まで遊良の『モンスター効果』と『魔法カード』の発動を禁じるという【古代の機械】特有の搦め手。

 

…遊良が墓地に仕込んだ【ネクロ・ガードナー】と、伏せてあるであろう『禁じられた』系列のカード。ソレを完全に読み取り、嗅ぎ取り、そして看破したその自信の表れは、まさに鷹矢の激しくも迷いない展開に現れていて。

 

ソレを避けるように、遊良も用意していた守りの手をここで発動して鷹矢からの攻撃に備えるものの…

 

ここで使っておかなければ、遊良の行動に応じて鷹矢は展開ルートを無限に変化させるだろう。だからこそ、鷹矢に無駄に効果を『使わされた』感を遊良は拭いきる事が出来ず。

 

ソレ故、このギリギリで、拮抗し続けている状況下において。鷹矢の放った無慈悲な宣言は、遊良からしたらただただ脅威と言えるのか。

 

 

 

「よし、これで厄介な奴が全て消えた!ゆくぞ遊良!俺は【古代の歯車機械】2体で、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 

再びこの場で叫ばれし、天を劈く鷹矢の宣言。

 

―オーバーレイネットワークを、構築

 

この世界においては、鷹矢にのみ許されたその宣言が再び天空闘技場から全世界へと響く時、またしても誰も見たことの無いモンスターがこの世界に生まれようとしていて。

 

 

 

「来い、『No.60』!時の狭間に彷徨いし悪魔よ!久遠の時にその身を任せ…時間の果てより姿を現わせぇ!エクシーズ召喚!」

 

 

 

己の頭の中に浮かんだ、そのイメージを『白紙』に焼付け。

 

空に浮かび上がる『数字』と共に、今ここに現れしは―

 

 

 

 

 

 

「【No.60 刻不知のデュガレス】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【No.60 刻不知のデュガレス】ランク4

ATK/1200 DEF/1200

 

 

 

それは時間の狭間にて怪しく笑う、揺らめく時の流れの悪魔。

 

その左翼に、『No.』の証である数字―『60』を宿した、一時の揺らめきのような歪なるその佇まいで、どこまでも不気味に揺れていて。

 

 

 

「また新しい『No.』…一体どれだけ変化するんだよ!墓地の【迷い風】の効果発動!【迷い風】を俺の場にセットする!」

「かまわん!『No.60』の効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い…次の俺のドローフェイズをスキップする代わりに、デッキから2枚ドローし1枚捨てる!」

「なっ、ドローフェイズをスキップ…お前、そんなデメリットを覚悟で…」

「言っただろうが!お前の言う削り合いとやらには付き合ってはやらんと!このターンで決着をつければいいだけだ!2枚…ドロー!…うむ!手札を1枚捨て、再び【貪欲な壷】を発動!」

「ッ!?」

「ドリルジャンボ、アンティーク・ギア、ゴールド、グリーン、レッド・ガジェットをデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 

 

止まらない―

 

 

 

「【モンスター・スロット】発動!場のフライング・ペガサスを選択し、墓地の【古代の歯車機械】を除外し1枚ドロー!…よし!俺が引いたのはレベル4の【イエロー・ガジェット】!守備表示で特殊召喚し、レッドを手札に!そのままフライング・ペガサスと古代の歯車機械でオーバーレイ!」

 

 

 

止まらない―

 

 

 

「エクシーズ召喚!ランク4、【ジェムナイト・パール】!」

「効果を持たないエクシーズモンスター…なんで今ソイツを…」

「決まっている!コイツが必要だからだ!【エクシーズ・ギフト】発動!パールのオーバーレイユニットを2つ使い2枚ドロー!…来たぞ!最後の【アイアンコール】発動!」

「なっ!?お前、何枚引くんだよ!」

「決まっている!…お前に、勝つまでだ!墓地より【古代の歯車機械】を、効果無効にして特殊召喚!」

 

 

 

【古代の歯車機械】レベル4

ATK/ 500 DEF/2000

 

 

 

 

止まらない―

 

 

 

そう、全く持って止まらない―

 

 

 

遊良の連続したドローも大概ならば、あまりに的確にカードをドローする鷹矢も、常軌を逸した狂気のドロー。

 

普通であれば、こんな綱渡りの連続のようなドローなど、絶対に繰り返す事などできないと言うのに…

 

…しかし、天宮寺 鷹矢は恐れない。

 

次にドローするカードで、展開が台無しになってしまう可能性があっても…

 

それでも鷹矢はドローを止めず、ただただ遊良に向かい合う。

 

…なぜなら、鷹矢もこれまでの人生で、ドローに全てを賭けて戦ってきた男を1人知っているから。

 

その男のデュエルを、この世の誰よりも近くで見続けてきたからこそ…天宮寺式高等計算術によって導き出されたその解に従い、どこまでも激しく動くのか。

 

 

 

そう…

 

 

 

遊良に出来ることならば、自分に出来ないわけがない―と。

 

 

 

 

「レベル4のモンスターが2体…」

 

 

 

このデュエルで…いや、これまでも鷹矢のデュエルにおいて、一体どれだけレベル4のモンスターが揃えられてきたのだろう。

 

それを数える事すら億劫になるほど、これまで気が遠くなるほどの回数、鷹矢はレベル4のモンスターを揃えてきた。

 

 

それはまるで、レベル4のモンスターを揃える事など、どんなことよりも簡単なのだと言わんばかりに―

 

 

 

「うむ!やはりお前との戦いには、このカードが必要だろう!俺はレベル4のイエローとアンティーク・ギア…2体のガジェットで、オーバーレイ!」

 

 

 

叫ばれしその宣言には、少しの迷いも淀みもなく。

 

今、エクシーズ名家、天宮寺一族…その筆頭である祖父、王者【黒翼】に倣うかのように。

 

鷹矢は、その手を天に掲げ―

 

 

 

 

 

 

「天音に羽ばたく黒翼よ!神威を貫く牙となれぇ!」

 

 

 

 

 

世界に轟くその口上。祖父より受け継ぎしそのカード。

 

レベル4を多用する、自分のデュエルを飾るまさに『切り札』。

 

覇道を突き進む己のデュエルの、『砦』となるべく存在をここに呼び出すために…

 

天を劈く鷹矢の叫びが、全世界へと木霊したその時。ソレは果て無き頂の上から、少年達の場へと降り立つのか。

 

 

 

 

「エクシーズ召喚!来い、ランク4!」

 

 

 

既に天宮寺 鷹矢の象徴とも言える、世界の頂点を見た大いなる力が…

 

 

 

満を、持して―

 

 

 

 

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

「【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4

ATK/2500 DEF/2000

 

 

 

天に羽ばたく雄雄しき翼と、神をも切り裂く鋭き牙が全世界へと輝いて。

 

その佇まいはまさに王者の風格。これまでの激戦を戦ってきた、天宮寺 鷹矢の元で荒々しくも吼えるのか。

 

正真正銘『歴戦』の牙竜。天に轟く咆哮を、世界中へと轟かせ…

 

少年達の『約束』の舞台。今年も巡ってきたこの大舞台に、【黒翼】の叫びが木霊する。

 

 

 

「ッ、現れたか!」

「ゆくぞぉ!ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、NEPTUNEの攻撃力を半分にし…その数値分、ダーク・リベリオンの攻撃力をアップさせる!『海の星』を縛り上げろ、紫電吸雷!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4

ATK/2500→5050

 

【The tyrant NEPTUNE】レベル10

ATK/5100→2550

 

 

 

放たれるは紫電の雷鎖。神すら縛る反逆の轟き。

 

いくら遊良の繰り出したプラネットの一球が、とてつもない攻撃力と重圧を端って来ようとも…

 

神にすら嬉々として牙を突きたてる、この『ダーク・リベリオン』の好戦的な咆哮の前では『海の星』すら無力と化すのか。

 

どんな相手であろうとも…そう、例え神が相手でも―

 

全ての強者は、もれなく自分の獲物なのだと言わんばかりに、どこまでも歓喜に震える牙竜が、その黒翼を羽ばたかせ。

 

 

 

「ぐっ、攻撃力5050…やっぱり強すぎだろその効果!」

「まだだ!墓地から【スキル・サクセサー】を除外し、ダーク・リベリオンの攻撃力を更に800アップ!」

「攻撃力5850!?ッ…さっきの【暗黒界の取引】か!ホントに油断ならねぇ奴だなお前は!」

「当たり前だ!俺の全力で、お前を倒すと宣言したのだからな!バトル!先ずは『No.60』で、【D-HERO Bloo-D】を攻撃!」

「くそっ、【ネクロ・ガードナー】の効果によって、『No.60』の効果は強制的に無効になる!」

「うむ!」

 

 

 

攻撃宣言時に発動できたのならば、確実にダーク・リベリオンの攻撃を無効化できたというのに。

 

ソレを想定して用意していたはずの【ネクロ・ガードナー】。しかしそれを鷹矢によって不本意なタイミングで『使わされた』、【ネクロ・ガードナー】の効果によって…

 

―このターンの最初の攻撃は、強制的に無効となってしまう

 

また、例え無駄だと分かってはいても。それでも己の引き出せる全身全霊を賭けると宣言した鷹矢が発動した罠カードの効果によって、ダーク・リベリオンが更にその攻撃力を上昇させていく。

 

だからこそ…

 

 

 

「これで終わりだぁ!【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】で、【D-HERO Bloo-D】を攻撃ぃ!」

 

 

 

届く―

 

―まさに鷹矢の宣言通りに。

 

まさに一撃。まさに反撃。圧倒的な境地までその攻撃力を上昇させた、【黒翼】ダーク・リベリオンが天に舞う。

 

…運命の英雄へと襲い掛かるその牙は、かつて15年以上前に繰り広げられたエクシーズ王者【黒翼】と、融合王者【紫魔】の対決の再現だとでもいうのか。

 

…神魔を断ち斬る黒き刃と、鮮血に塗れる血霧の槍雨。

 

今、竜頭構えし運命の英雄へと、黒翼を広げし牙竜がその牙を光らせながら…

 

 

 

世界を貫く、その攻撃宣言と共に―

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえぇ!斬魔黒刃!ニルヴァー…ストライィィィィィィクッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

 

 

 

「っかよぉ!罠発動、【攻撃の無敵化】!戦闘ダメージを0にする!」

「なっ!?」

 

 

 

―!

 

 

刹那―

 

 

 

そう、まさに遊良のLPが0を刻みかけた、瞬き以下のその一瞬の刹那―

 

攻撃宣言と同時に、突如として遊良の伏せカードが光り輝いたかと思うと…

 

なんと遊良のLPを0にするはずだった、実に3950ものダメージの余波を、発生した見えない壁が完全に守りきってしまったではないか。

 

…それは、普段の遊良ならば使用したところを見たことの無いカード。

 

しかし、虚を突くようにして発動されたそのカードの効果によって、これで0となるはずだった遊良のLPが無傷で1600も残ってしまったなんて。

 

 

 

「な、【攻撃の無敵化】…だと?罠カード…そんな、馬鹿な…」

「いや、お前が勘違いしたのも無理はない。だって俺もこのカードを、【禁じられた聖衣】だと思い込んで伏せたんだからな。」

「なん…だと?」

「用心を重ねておいて正解だった。お前は、俺の伏せたカードを見破ってくるんじゃないかって思ってたから…だからお前の嗅覚の裏を取れるように、俺もギリギリまで【攻撃の無敵化】を【禁じられた聖衣】だと思い込んで伏せた。そのおかげで、お前はちゃんと勘違いしてくれたからな。」

「ぐ…」

 

 

 

今の遊良の防衛は、鷹矢からしてもあまりに予想外だったのか。

 

…当たり前だ。

 

最大限の攻撃を仕掛けたつもりが、まさかダメージを与えられなかったなんて。

 

折角ここまで遊良の思考を読みきり、そして遊良の用意した妨害の手を全て乗り越え…

 

そうしてようやく決着となり得る、トドメの一撃を繰り出せたかと思ったその先に、遊良はまだ最後の守りの手を用意していたことなど、鷹矢にとっても予想外だったはずなのだから。

 

 

 

「くそっ!【ジェムナイト・パール】で【The tyrant NEPTUNE】を攻撃ぃ!」

 

 

 

予想を崩され、予測を外され…

 

このデュエルが始まってから、初めて本物に見える焦りの冷や汗を浮かべた鷹矢。

 

…その焦りは、本当に今の攻防が鷹矢にとって想定外だったことの証明と言ってもいい程。

 

そう、これまで遊良の策を感じ取り、的確にデュエルを進めていたからこそ浮かび上がったその焦り。

 

それゆえ、どうにか『海の星』も戦闘破壊するものの…次のドローフェイズがスキップされる制約の所為で、焦りを浮かべたまま鷹矢はそのターンを終えてしまって…

 

 

 

 

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

 

 

鷹矢 LP:4700→3700

手札:3→2枚

場:【竜巻竜】

【No.60刻不知のデュガレス】

【ジェムナイト・パール】

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】

伏せ:2枚

 

 

 

なんて…なんて先の読めない少年達のデュエル。

 

このデュエルを見ている世界中の見えない観客達も、思わず決着となりそうだった今の攻防を息を止めて観ていたものだから…

 

鷹矢の悔しげなターンエンドの宣言と共に、思わず止めていた息を吐き出しながら苦しそうに再呼吸を始めた者達が世界中に一体何人いたことやら。

 

先の第二試合で鷹矢が創造した、『ランク0』が出てこないことへの疑問など全くもって思い浮かべる暇など無い程に…

 

観客達の興奮のピークは、今まさに最高潮へと達したと言っても過言ではないはず。

 

 

…デュエルの間に、彼らの実力が更に更に上がっていくと錯覚するほどのこの熱気。

 

 

それはまるでミックスアップ。同等の実力を持った少年同士が、己の全てを賭けただひたすらにぶつかり合っているこのデュエル。

 

そう、このデュエル自体が、天城 遊良と天宮寺 鷹矢の力を更に更に引き出しながら高め合い…そしてデュエルが始まる前よりも今の遊良と鷹矢はきっと始まる前よりも数段強くなっているのではないのか。

 

この戦いを観ている者達の多くが、無意識にそんな事を頭の片隅に思い浮かび…

 

プロ同士の戦いでも、中々観れないこの凄まじい少年達の戦いに、更に興奮を高め続けていて。

 

 

 

 

 

しかし、そんな興奮のピークを迎えた観客達とは裏腹に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、鷹矢…」

「む?」

 

 

 

自分のターンを迎える前に…

 

遊良は、鷹矢へと。

 

静かに、語りかけた

 

 

 

「楽しかったよな?【決島】は…ルキは襲われるし、俺もルキに死にそうな目に遭ったけど…でも、色んな相手と戦って、全員恐いくらい強くて…」

「…うむ。」

「それに、戦った相手全員がなんて言ったと思う?…俺を見て、俺を相手にしてさ、Ex適正が無いからって馬鹿にするんじゃなくて…【決闘祭】の優勝者だからって、舐めずに全力でぶつかってくるんだ!全員…そう、皆がだ!俺と…俺とデュエルするのにだぜ?初戦の相手なんか、俺の事を調べ尽くして、全力で対策までしてきたんだ!」

「うむ。」

「ホント…初めてだったよ…こんなに…強い相手が全員、最初から俺と全力でデュエルしてくれるなんて…」

「うむ…」

 

 

 

吐き出されるのは遊良の思い。

 

どこか感極まった様にも聞こえる、感情を吐露する遊良の想い。

 

…これまで、Ex適正が無い、Exデッキが使えないからと言って、長きにわたり天城 遊良という少年は酷い迫害を受けてきた。

 

世界中でただ一人、誰もが持っているEx適正を…持っていないという、デュエリストではない人間の最底辺、生きる価値のない人間の屑。

 

世界中から…そう、世界中から。Ex適正を持っていないという、ただそんな理由で、幼い少年は世界にただ一人取り残され、そして世界から見放されてきたのだ。

 

そんな、地獄ともいえる幼少期を…苦痛とも思える学童期を…悪夢のような少年期を、遊良は過ごして来た。

 

デュエルだってまともにやらせてはもらえず、大会には出場させてもらえず…

 

戦う相手は自分を舐めきっているせいで、負けても敗北を絶対に認めようとはせず…あげくは学園でも遠巻きにされ、教師たちからも煙たがられてきた。

 

そんな人生を送ってきた遊良が、ここへきて初めて。そう、初めて、大勢の猛者に囲まれた祭典に出場し、そして全員が自分を強者と認めて始めから全力で全開で立ち向かってきてくれたのだ。

 

…デュエリア勢も、決闘市勢も。

 

全員が猛者で、全員が強者で…そんな強いデュエリスト達が、自分を強者と認めてくれる。

 

それは遊良にとって、どれほど嬉しかったことなのか。

 

今まで蔑まれこそすれ、認められることなどほとんど無かった。だからこそ、全員と全力でぶつかり続けた【決島】が…

 

遊良は、心の底から楽しかったのだろう。

 

 

 

 

 

そう、だから…

 

 

 

 

 

「だから…俺は強くなった!全員が恐いくらいに強かったこの島で!64戦もして!死にそうな目にもあって…でも、それでも分かったんだ!俺はまだまだ強くなれる…俺は、まだまだ先にいけるんだって!」

「…む?」

「見せてやるよ…お前に、俺が【決島】で得た…俺の全力を!俺のターン、ドローッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

感情を爆発させる勢いで、激しく引くは1枚のドロー。

 

鷹矢の激しい猛攻を、凌ぎきった遊良の始まる攻勢。

 

 

 

「【貪欲な壷】発動だ!【イービル・ソーン】2体、【デモニック・モーターΩ】、【D-HERO Bloo-D】、【The tyrant NEPTUNE】をデッキに戻して2枚ドロー!そして【ワン・フォー・ワン】を発動!手札を1枚捨て、デッキから【サクリボー】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

デッキから飛び出してくるは、小さく奮える毛玉の悪魔。

 

…これぞ遊良のデッキのメインエンジン。

 

最早観客達とて、説明されずとも理解している。これまでのデュエルでも、この毛玉の悪魔達が現れたときにこそ遊良のデュエルの進撃が始まってきたのだということを。

 

…そう、天城 遊良のデュエルにおける、最大最強のモンスターはまだこのデュエルには出てきていない。

 

【D-HERO Bloo-D】と、【The tyrant NEPTUNE】という、遊良のデッキの切り札が2体も先のターンに召喚されていても…

 

 

 

天城 遊良は、まだ【神獣王バルバロス】を召喚していないのだ―

 

 

 

だからこそ―

 

 

 

「ッ、来るか!?」

「あぁ!速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動!デッキから【サクリボー】2体を特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

【サクリボー】レベル1

ATK/ 300 DEF/ 200

 

 

 

「くっ、俺はダーク・リベリオンを選択!…ッ、【サクリボー】が、3体…」

「行くぞ鷹矢ぁ!俺は【サクリボー】3体をリリィースッ!」

 

 

 

響き渡るは獣の如き、猛々しく轟く遊良の咆哮。

 

これまで、幾度と無く召喚してきた。これまで、幾度と無く共に戦ってきた。

 

その、自らが最も信頼する絶対の、唯一無二なる魂のカードが…

 

 

 

今、現れる―

 

 

 

「レベル8!【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

この終盤において…

 

ようやく全世界へと轟いた、天を突き抜ける獣の咆哮。

 

…アドバンス召喚でその真価を発揮するという、時代に置いていかれたこのカード。

 

しかし、天城 遊良というデュエリストがこの獣の王と共に戦うからこそ。このExデッキ至上主義の時代においても、獣の王の力が全世界へと見せ付けられているのだ。

 

この時代においては、絶対に見ることなど叶わないであろうその効果…3体ものリリースを要求するというその効果…

 

 

そう、観客達も理解した…鷹矢の全てが破壊されると。

 

それは、これまで保たれてきたデュエルの均衡が―

 

 

 

「アドバンス召喚成功時!バルバロスの効果発動ぉ!いっけぇ!バルバロ…」

「させるものかぁ!【ブレイクスルー・スキル】発動ぉ!」

 

 

 

しかし、喰らわない―

 

 

 

そう、鷹矢だって、『はいそうですか』とやられてやるわけにはいかないのだ。

 

この情況を予期していた鷹矢の、寸前で発動した罠の光が獣の王の放った破壊の波動とぶつかり合い…

 

そして、全てを壊す破壊の衝撃から完全に鷹矢を守りきって。

 

 

 

「バルバロスの効果は使わせん!ソレで去年痛い目に遭ったのだからな!」

「だけど【冥界の宝札】と【サクリボー】の効果で5枚ドロー!そして【アドバンスドロー】も発動!バルバロスを墓地に送って2枚ドロー!」

「くそ!まだ止まらんのか!」

「当たり前だ!お前に勝つまで…止まってたまるかぁ!墓地の【神獣王バルバロス】と【クラッキング・ドラゴン】を除外!」

「なっ!?」

 

 

 

それでもなお、間髪入れず。

 

一枚のカードを天に掲げながら、そのまま高らかにそう宣言した遊良。

 

そして遊良の宣言により、眠りについた獣の王と機電の黒竜が、その身をこの世から消し始め…

 

 

 

―否

 

 

 

この世から消え始めたのではない。

 

獣の王が吼える時、機鉄の竜はその身を散開させたかと思うと、2体のモンスターの姿が重なり始めたではないか。

 

…それは融合召喚ではない。シンクロ召喚でもない。エクシーズ召喚でもない。

 

それは単なる特殊召喚のエフェクト。しかし更なる力を求めた遊良が手に入れた、獣の王の新たなる力であって。

 

 

 

「バルバロスを除外するだと!?」

「見せてやるっていっただろ?俺の手に入れた力の全てを!来い、レベル8!【獣神機王バルバロスUr!】」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【獣神機王バルバロスUr】レベル8

ATK/3800 DEF/1200

 

 

 

現れしは機電の鎧をその身に纏いし、神をも打ち抜く獣の王。

 

…『海の星』と同様に、実力の『壁』を超えた『先』の地平へと遊良が至るための結論として導き出した…純粋なりし、『力』のカード。

 

しかし、攻撃力が不安定な『海の星』とは存在からして異なる『力』…そう、召喚権を使わずに現れる、遊良の欲する『力』の象徴そのモノ。

 

 

 

「バルバロスUr!?補正なしで攻撃力3800…お前、こんなモンスターを一体どこで!」

「予選の、一番の強敵と戦ったときに手に入れた!コレが俺自身の、最大最強のモンスターだ!」

「戦闘ダメージを与えられないモンスター…だが、遊良ならば【禁じられた聖杯】で…」

「まだまだぁ!速攻魔法【大欲な壷】発動!バルバロス、クラッキング、ネクロ・ガードナーをデッキに戻して1枚ドロー!【闇の誘惑】も発動!2枚ドローして【イービル・ソーン】を除外!」

「ぐぅっ、と、止まらん…」

 

 

 

止まらない―

 

あれだけドローしてきたというのに、これだけ展開してきたというのに。

 

それでもなお遊良のドローは止まる気配を見せず、その勢いは更に強いモノへと変わっていくのみであり…

 

 

 

そして―

 

 

 

「だがお前は先のターンで【二重召喚】を使った!知っているぞ、【二重召喚】はデッキに1枚だけだと!それに俺には…」

「わかってるよ、お前の伏せカード、【和睦の使者】なんだろ?」

「ッ!?」

 

 

 

鷹矢がまだ発動すらしていないカードを、ピンポイントに指名した遊良。

 

そしてソレを聞いて、明らかに動揺した様子を鷹矢は見せ…

 

 

 

「で、デタラメを!」

「いいや、わかってるんだ!お前が最後に何で守ろうとしているのか!俺には、お前の守りがはっきりと!」

「ッ、だ、だがソレが分かったところで…」

「そして俺の手札には、【抹殺の指名者】がある!」

「なっ!?」

 

 

 

そんな鷹矢へと、追い討ちをかけるように。その鷹矢の最後の守りすら超えられるカードの存在を、あまりに堂々と遊良は言い放ったではないか。

 

…それは鷹矢の知る限り、遊良のデッキには無かったはずのカード。

 

確かに強力な効果を持っているカードではあるものの、しかしこれだけピンポイントな妨害効果を持つそのカードは、遊良とてこれまでデッキに入れようとすらしていなかったはずなのだ。

 

…何せ寄せ集めにも似た、何故回転しているのかすら理解出来ない遊良のデッキ。

 

 

そんな鋭すぎるキレを持ったデッキを回すためには、ピンポイントな妨害の手など入れている隙間など無いはずなのだから。

 

だからこそ、鷹矢は驚いている…

 

これまでの遊良とは違う、新たな強さを―

 

 

 

「ま、【抹殺の指名者】だと!?」

「あぁ、デュエリアの『アナライザー』に教わったからな!例えピンポイントな対策でも、情況を支配すればそれは最大の対策に出来るんだって!」

 

 

そう…

 

【決島】が始まる前よりも、数段強さを上昇させた今の遊良。

 

それは初戦で戦った、デュエリアの『アナライザー』とのデュエルも。

 

その後に戦った、『ボマー』や『レーサー』と言ったデュエリアの猛者達とのデュエルも。

 

紫魔 アカリを始めとした、決闘市側の猛者達とのデュエルも。

 

先ほどの第一試合で戦ったデュエリアの『ギャンブラー』、リョウ・サエグサとのデュエルも。

 

そして何より、予選で戦った最も強かった相手…

 

狂乱少女、アイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンとのデュエルの経験の、その全て今の遊良の力となっているのだ。

 

…今の遊良の力は、鷹矢が知っているこれまでの遊良のどれよりも強い。

 

その力の凄まじさが、中継を通して全世界へと映し出され続けており…

 

 

 

 

「ッ!だ、だがLPさえ残れば…」

「いいや、これで終わりだ!【黙する死者】を発動し、墓地から【鉄鋼装甲虫】を守備表示で特殊召喚!更に【ワーム・ベイト】発動!【ワーム・トークン】2体を特殊召喚する!」

 

 

 

―!

 

 

 

【鉄鋼装甲虫】レベル8

ATK/2800 DEF/1500

 

【ワーム・トークン】レベル1

ATK/ 0 DEF/ 0

 

【ワーム・トークン】レベル1

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

「リリース素材が3体だと!?もう召喚権はないと言うのに!」

「あぁ、これでいいんだ!バトル!」

「ッ!?」

 

 

 

今―

 

高らかに宣言されたのは、遊良の進撃の最後の叫び。

 

連続して現れた昆虫達を、守備表示で据え置いたままではあるものの…

 

それはここで、この情況で。鷹矢の残った最後の守りの手を、全て読みきったからこその遊良の宣言。

 

 

…ソレは、これまでの【決島】のどれとも異なるデュエルの流れ。

 

 

【黒翼】の孫、天宮寺 鷹矢をこの世の誰よりも理解している、遊良だからこそ捕らえる事の出来たデュエルの展開。

 

…実力の『壁』を超え、その『先』の地平へと辿り着いたからこその先見の鋭視。

 

鷹矢のデュエルを…そのパターン、戦術、思考、カード…その全てを誰に説明されずとも理解できてしまう遊良だからこそ。

 

この世の誰にも出来ない先読みによって、完全に鷹矢を読みきったのか。

 

そう、先ほどの攻防で、ソレはもうハッキリしている…

 

 

 

この、デュエルの―

 

 

 

 

 

 

均衡は、崩れている―

 

 

 

 

 

「そしてこのバトルフェイズに速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉ!」

 

 

 

これまでの【決島】で天城 遊良のデュエルを、60戦以上も見てきた観客達は知っている。先の第一試合を見たであろう、世界中の見えない観客達は理解している。

 

これまで…ここまで…そしてこれから先―

 

天城 遊良の力を、誰にも文句の言わせないモノとした、その象徴を。

 

Ex適正が無いはずの天城 遊良を、デュエリスト…否、決闘者たらしめているその『根源』…いつだって、どんな時だって、どのデュエルだって―

 

 

常に遊良と共に戦っていた、このモンスターの『力』を―

 

 

 

 

 

「俺は【鉄鋼装甲虫】と2体の【ワーム・トークン】をリリィィィス!」

 

 

 

 

 

轟かせしは進撃の雄叫び。

 

 

天に一番近い場所から、全世界へと響き渡る獣の咆哮。

 

 

…これまで世界中から見下されてきた、その鬱憤を晴らすように。

 

 

そう、天宮寺 鷹矢という、最も戦い慣れた相手だからこそ。この最も強い好敵手へと、ソレは高らかに叫ぶのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、現れるのだから―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

 

 

幾度阻まれても。

 

それでも絶対に轟かせるは、神をも打ち崩す王の雄叫び。

 

天城 遊良の魂のカード。どれだけ邪魔されようとも、それでも絶対に彼の場に現れる、遊良を守りし獣の王。

 

…これまで、ずっと遊良を守ってきた。これまで、ずっと遊良と共に戦ってきた。

 

だからこそ、鷹矢との決着をつけるため。

 

今ここに、神をも破壊せんとする螺旋の槍を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っけぇぇぇぇぇえ!バルバロスゥ!」

 

 

 

―!

 

 

 

爆音―

 

世界中へと轟き渡る、獣の王の発した爆音―

 

それは地面に突き刺されし螺旋の槍より放たれた、獣の放った衝動。

 

…鷹矢が、どれだけエクシーズモンスターを揃えようと。いくら王者【黒翼】の名を召喚していようと。

 

全てを飲み込む破壊の波動が、全世界へと向けて放たれ―

 

鷹矢の、全てのカードが破壊されていくその光景が誰の目にも映り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、鷹矢はその中で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うむ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに、そう呟いた―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、それを待っていたのだ!リバースカードオープン!速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動!」

「なっ!?」

 

 

 

 

否―

 

全てのカードが破壊されていくわけではない。

 

崩壊に抗うようにして、鷹矢が発動したのは自らのモンスターに渦を纏わせるカード。

 

それは鷹矢が、後攻の1ターン目から伏せていたカード…

 

しかしそれは、遊良が先ほど宣言した【和睦の使者】ではなく…

 

 

 

 

 

たった今遊良が発動したカードと、『同じカード』―

 

 

 

 

 

「【和睦の使者】じゃない!?そんな馬鹿な!」

「お前が勘違いしたのも無理は無い!俺とて…このカードを、【和睦の使者】だと思い込んで伏せたのだからな!同じことを考えていたとは驚いたぞ!」

「ッ!?」

「だから…待っていたのだ!この瞬間をぉ!俺はダーク・リベリオンと『No.60』の…2体のモンスターをリリィィィィス!」

 

 

 

 

…止められない。

 

手札に構えた【抹殺の指名者】では、鷹矢の【ライバル・アライバル】は止められない。

 

何せ、たった今遊良も【ライバル・アライバル】を使ったのだ―

 

もうデッキに【ライバル・アライバル】は無く、鷹矢の【ライバル・アライバル】を無効にできず…

 

だからこそ鷹矢の場の【黒翼】と『No.60』は、ほかのカードとは違いその身に纏いし渦によって破壊の衝動から身を守り…

 

 

 

「お前がアドバンス召喚!?け、けど何でこのタイミングで!?」

 

 

 

しかし、わからない―

 

 

 

一体何故、鷹矢がこのカードを伏せていたのか。

 

アドバンス召喚などしたこともない鷹矢が、何故後攻の1ターン目からこのカードを伏せていたのか。

 

自分が本気で【和睦の使者】だと思いこんでしまうほどに『匂い』のしていたそのカードを、鷹矢がどうして自分自身でも【和睦の使者】だと思い込むようにして伏せたのか。

 

どうして【神獣王バルバロス】によって全てが破壊されるタイミングで、そのカードを発動したのか―

 

 

 

 

―それが、遊良には分からない。

 

 

 

それでも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見せてやる!これがお前に勝つ為の…俺の力だぁ!アドバンス召喚!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ここに、現れるは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【The big SATURN】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

その時…

 

 

―『何か』が、宙から落ちてきた

 

 

それは岩盤よりも硬きモノ、黄金よりも重きモノ。

 

崩れぬ地殻をその身に纏い、陸地すら生み出す大地の化身。

 

空と対峙し、天を撃ち抜き、宙をも落とすまさに『土の星』。

 

それは幾重にも積み重なった星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。

 

 

 

【The big SATURN】レベル8

ATK/2800 DEF/2200

 

 

 

それは、鷹矢の最初のターンからずっと手札に持っていたカード。

 

それは、鷹矢の最初のターンからずっとその手札に存在していたカード。

 

ここまでの果てしない攻防の末に、まさかこんなカードをここまで隠し通していたのか。

 

そんな衝撃が遊良を襲い、ソレと同時にプラネット特有の重圧が容赦なく遊良へと襲いかかり…

 

 

 

「プラネット!?ど、どうしてお前が!?…けどいくらプラネットだろうと、バルバロスの効果で全て破壊する!やれっ!バルバロスッ!」

 

 

 

しかし―

 

それでもなお遊良は怯まず。

 

突如現れたプラネット、押し潰してくる『土の星』。

 

そんなイレギュラーを前にしても、自らの勝利を確信しているからこその遊良の叫びが獣の王とリンクする。

 

…そう、いくら鷹矢が謎のプラネットを繰り出してこようと、この情況では何ら意味はない。

 

既に獣の王の全体破壊は発動しているのだし、それに例え『土の星』が如何なる耐性を持っているのだとしても…

 

その攻撃力は2800。獣の王たちの攻撃力は3000と3800で、それ更に上昇させる手立ても相手の耐性を無効させる手立てもこの後のドローで引く自信があるのだから、次の戦闘でも勝てるのだとして―

 

 

 

 

―!

 

 

 

抗うことなど許されない、凄まじい威力の獣の波動。

 

ソレが一瞬の躊躇もなく、鷹矢の場に現れた『土の星』を他の全てのカードごと慈悲もなく全て崩壊させていく。

 

 

…そう、折角このギリギリの場で呼び出した、『土の星』ごと、だ。

 

 

一体、鷹矢は何を狙っていたのか。むざむざ破壊されていくだけならば、虚を突いたように今召喚しなくともよかったはずだというのに…

 

 

 

 

しかし―

 

 

 

 

「【冥界の宝札】の効果で2枚ドロー!」

「うむ!この瞬間を待っていた!遊良よ!お前に勝つために、俺も無傷で済ますつもりは無い!破壊された、【The big SATURN】の効果発動!」

「なっ!?」

 

 

 

突如…

 

破壊されたはずの『土の星』が、燃え上がりながら蘇る。

 

…いや、コレを蘇ったといってもいいのだろうか。

 

何せ、壊れかけ―

 

到底蘇ったとは思えぬ、到底まだ戦えるとは思えぬ…オーバーヒートして壊れている、燦然なりし『土の星』。

 

どこか、場には居ないとさえ思えるその燃え上がった『土の星』が、怪しく天へと飛び立って―

 

 

 

そして―

 

 

 

―『叫べ…天宮寺 鷹矢…燦然と…ジオ・インパクト…燦然と…燦ぜ…』

 

 

 

 

 

 

意識に直接語りかける、他の誰にも聞こえない『土の星』の意思を…

 

 

 

 

 

「さんさんさんさん煩い!黙って俺に従えぇ!SATURNが相手によって破壊された時…俺とお前にSATURN の攻撃力分…つまり、2800のダメージを与える!」

「ッ!?」

「喰らえ遊良ぁ!天宮寺…ビックバァァン!」

 

 

 

 

 

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閃光―

 

 

 

モニターに映し出されていたのは、ただただ真っ白な閃光だった―

 

 

 

轟く爆音が大きすぎて、音声を伝える機能の限界を超え―

 

世界中の観客達の、見ているモニターにはただただ白くなった画面のみが映し出されているだけ―

 

 

 

そんな、中で―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鷹矢 LP:3700→900

 

遊良 LP:1600→0

 

 

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

 

 

 

LPの減少音と、戦いの終わりを告げる無機質な機械音だけが―

 

 

 

 

 

モニターの向こうから、聞こえてきたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、遊戯王Wings

ep91「祭典の終わり、災転の始まり」



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