遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep74「天翔ける雷」

煌びやかなシャンデリアが煌々と煌いた、どこか優雅な気品の中に醜い狂気を孕んでいるとさえ思えるような、そんなどこかの国にある豪華な『カジノ』の一つ。

 

 

 

 

―『バトルだ!【神獣王バルバロス】でダイレクトアタック!』

 

 

 

―!

 

 

 

―『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?』

 

 

 

 

その『カジノ』に、今もなお激しい戦いが繰り広げられている【決島】の、リアルタイムの映像が『超大型モニター』で映し出されていた。

 

…しかし、ただ【決島】の『映像』をBGM代わりに流しているのではない。

 

あまりに巨大な賭場だと言うのに、この場に居る客達の誰もが超大型モニターにその目を釘付けにしているこの現状は…

 

ただ単に、世界最大規模の祭典を、大勢の人間達で観覧している…といったような、生易しい目線ではないと言う事は言うに及ばず。

 

 

…そう、『カジノ』で行われる事と言ったら唯一つ。

 

 

その超大型モニターの前には、一目で特別な賭けなのだとわかる程に大きなテーブルと、熟練のディーラーが一人。たった今終了したデュエルの結果を確認した後、テーブルのあちらこちらに置かれた大量のチップを、『ある一人の男』の前へと移動させ始めたではないか。

 

 

 

「…驚いた。大穴中の大穴じゃないか。まさか『彼』の言った通り、3連続で『Ex適正』の無い少年が勝つとは…」

「こうなるなら私も『彼』の読みに乗っておけばよかったですわ。だって『Ex適正』の無い子がこんなに勝つだなんて、普通だったら信じられませんもの。」

「今のデュエルも危なかったですものねぇ…こんなギリギリな勝利なら、いくら『Ex適正』の無い子が前【紫魔】の甥だったからとは言え、到底賭ける気にはなりませんねぇ…危なっかしくて、憐造氏のデュエルとは全然似てないですものねぇ…」

 

 

 

そこに居たのは、世間に良く知られた各界の著名人達や、各国の要人と言った…この煌びやかな空間にあまりによく似合う、狂気と言う名のドレスを纏った、外面を無害なモノで厚く塗り固めた大人達の姿。

 

子ども達の戦いを、自分達の娯楽へと変え…

 

狂気を孕んだ金のやり取り、しかし純粋なるゲームの雰囲気。『表』の人間達には見せられない、世界の裏側で行われている一つの遊びに嬉々として身を投じている者達が、そこには居て。

 

巨額の金がたった一つの読み違いで消え、たった一つの大番狂わせで人生を変える程の金額が移動するこのゲームを、顔に貼り付けた笑みと裏しかない言葉で優雅に見せてはいるものの…

 

その狂っているような重苦しい雰囲気と、狂っているような嘘と嘘の交わし合いは、とてもじゃないが子ども達の戦いを『楽しんでいる』様には到底思えない事だろう。

 

 

そんな、一筋縄ではいかない曲者達のど真ん中に。

 

この大掛かりな賭けで、まさかの大穴中の大穴を3連続で的中させチップを総取りしたと言う『ある男』の…

 

この中の誰よりも機嫌のよさそうな声と、その特徴的な渇いた笑いが響き始めた。

 

 

 

 

 

「カッカッカ!気分がいいねぇ!まーた総取りじゃねーか!」

 

 

 

 

 

大振りのワイングラスを片手に、行儀悪くカジノテーブルの上に両足を乗り上げ…一杯が一般人の年収額を軽く超えるほどのワインを、何の迷いも無くその喉に通して機嫌を良くして。

 

常人が下手を一つでも言えば、命をも危ぶまれるような異様な空間となっているこの『裏』のカジノだと言うのに…

 

全く恐れることも無く、渇いた笑いを響かせて、彼らから大金と言うにもおこがましい程の金額が示されたチップを、まるで小銭でも巻き上げるかの如く手元に積み上げたこの男。

 

各界の著名人達や世界の要人達のど真ん中に陣取っているというのに、まるで自分がこの中で最も偉いのだと言わんばかりの言動を放つ、あまりに不遜なるその態度。

 

そんな態度を取れる男など、この広い世界においてもたった一人しか該当する人物は存在しないことだろう。

 

 

 

…豪放磊落、天下無双、世界最強のエクシーズ使い。

 

 

 

―【黒翼】、天宮寺 鷹峰

 

 

 

「どうしたどうしたお偉さん方よぉ、手ごたえ無さ過ぎじゃあねぇかい?」

「流石はエクシーズ王者【黒翼】の読みと言った所か。…しかし、一体どうして3回も連続であの子に賭けようだなんて思えるんだ?確かに3連続で『Ex適正』の無いあの子のデュエルを賭けの対象にしたのは私だが…」

「あぁん?…カカッ、んなモン決まってんだろーが。あのガキはこの俺様の弟子なんだからよぉ、師匠の俺様を勝たせるのは当たりめぇだろうが。」

「あらあら、ふふっ、面白い冗談ですわね【黒翼】。もしソレが本当なら…」

「…前【紫魔】の甥であると同時に、【黒翼】の弟子と来たか…ククッ、これでもし【白鯨】が絡んでいたらもっと面白いんだがなぁ…」

「おうおう、良い線行ってんじゃねーか大統領。政治の読みは下手糞な癖によぉ、カッカッカ。」

 

 

 

少年達は知らない。『表』で行われている輝かしい『祭典』のその『裏』で、汚い大人達が一体『何』をしているのかを。

 

少年達には、知る由もない。自分達の戦いが、大人にとっては『何』と思われているのかを。

 

 

 

「んなことより、今日の俺は負ける気がしねぇんだ、さっさと次の賭けにいこうじゃねぇか。次の親はお前さんだぜ?なぁ、銀幕の大女優様。」

「…そうですわねぇ…では、次はチャンネル31のデュエルに致しましょう?流石に、【黒翼】にこれ以上勝たせるわけにはいきませんもの。」

 

 

 

そうして…

 

新たな賭けの対象に『Ex適正』の無い少年ではない別の者のデュエルが選ばれたのと同時に、超巨大モニターの映像が切り替わる。

 

少年達の事などお構い無しに、賭けはまだまだ続くのみであり…自分達の娯楽の為、一時の快楽の為、余りに余った金を使った、世界の裏側で行われているこの賭けはまさに一種の狂宴の場。

 

…そんな狂った宴の席に新たに映しだされたのは、これより戦いに臨まんとして対峙している一組の少年と少女の姿であり…

 

デュエルが始まるまさに寸前。この場に集まった大人達が、それぞれ各々の直感の元、悩みながらも少年と少女の勝敗を予想し金を賭け始めて。

 

『Ex適正』の無い少年の勝利を誰も信じていなかったが故に、この3回の賭けで大損した者達が、次の賭けではどちらが勝つのか頭を悩ませ続けているのだろう。狂気のドレスが金への欲望で更に濁り、薄っぺらい言葉で取り繕ったこの場の空気が冷たく変わっていく。

 

しかし、そんな中であっても…

 

 

 

「…カカッ。こりゃまた、考えるまでもねぇな。」

 

 

 

…慎重になっている周囲の悩みを、まるで嘲笑うかのように。

 

まだ誰も賭けていないと言うのにも関わらず、全く考える素振りを見せず。

 

先程、『Ex適正』の無い大穴中の大穴の勝利をただ一人予想し、一人勝ちで大儲けをした【黒翼】、天宮寺 鷹峰はさも簡単そうに…

 

この賭けで巻き上げた巨額のチップの、その全てを惜しげも無く目の前へと押し出しながら…

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよ。高天ヶ原 ルキの勝ちに…全額だ。」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「YO!天城 遊良!こ、ここまでやるとは…」

「バトルだ!【神獣王バルバロス】でダイレクトアタック!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

光差し込む森の中に響き渡った、勝敗を決めた無機質な機械音。

 

それはつい先程本格始動した、世界最大規模の学生達の祭典、【決島】における一つの戦いが終了した事を告げる決着の合図であり…

 

…それに伴い、【決島】に採用されているリアル・ダメージルールに則り、敗者に実際のダメージが衝撃となって襲い掛かって。

 

 

 

「うぼぉぉぉぉぉぉぉぉああっ!?」

 

 

 

…演技などではない、本物の衝撃による苦痛の声。

 

そう、デュエルディスクとは別の方の腕に装着された、衝撃発生の為の特殊な装置から発せられる電流と衝撃が、否応無しに敗者となった少年にその牙を思い切り剥いたのだ。

 

4000を超えるダメージによる、容赦の無いワンショット。ソレを喰らったことで、意識を断ち切るほどの衝撃が敗者へと襲い掛かり、そのまま敗者となった少年は体を支える事もできずその場に倒れ込んでしまう。

 

 

 

「…あ、危なかった…まさかバーンダメージに特化した奴だったなんて…デュエリアの『ボマー』…な、なんて恐ろしい奴なんだ…」

 

 

 

そんな、たった今自分が降した相手に対し…

 

心の底から畏怖したかのような言葉を漏らし、冷や汗を垂らしながらそう呟いたのは決闘学園イースト校2年、天城 遊良。

 

 

…しかし、遊良の焦燥の声もそのはず。

 

 

何せ、たった今勝敗が決したこのデュエル。

 

決闘学園デュエリア校、デュエルランキング82位。巨大なアフロが特徴的な『ボマー』と名乗った男子生徒との今の一戦は、相手が効果ダメージに特化した奇襲性の高いデッキの使い手だったと言うこともあり、後攻一ターン目から容赦の無いバーンダメージが襲い掛かって来ていたのだから。

 

…LP4000など、一瞬で消し去れる程の火力と炎圧。

 

一応デュエリアの『ボマー』が仕掛けてきた奇襲は、念押しで伏せておいた【メタバース】と、あと1枚だけデッキに残っていた【チキンレース】のおかげでどうにか防げたものの…

 

もしも先攻で【チキンレース】を使い切っていたり、【メタバース】を伏せていなかったりしたら…後攻の相手ターンに、自分は何も出来ずにバーンダメージの爆発によって負けていた…

 

ソレを考えると、遊良も勝利したとは言え流石に溢れ出る冷や汗を止められないのか。

 

 

 

「…これで…3勝…うっ…」

 

 

 

戦いの後に、気を緩める暇も無く。

 

どこか苦しげに息を吐いた遊良の表情は、今の『ボマー』とのデュエルの時に受けたバーンダメージによる衝撃の余韻だけではない。

 

初戦の『アナライザー』とのデュエル、次の『グラップラー』とのデュエル、そして今の『ボマー』とのデュエルと、あまりに異質で突出した戦い方をしてくるデュエリアの生徒達に対して、まるで畏怖にも似たモノを感じているかのよう。

 

 

 

「…これが今日一日ずっと続くのか…流石にキツイな…」

 

 

 

…これまで戦ったデュエリア側の生徒とのデュエルは、全員が気を抜く事など許されなかった猛者達ばかり。

 

今の所、とりあえずは全勝出来ているとは言え。その全てのデュエルが一瞬も気を抜けない、一手読み違えば取り返しのつかない、一つ間違えれば倒れていたのは自分という、常に気を張り詰め続けていなければならないデュエルだったのだから…たった3戦とは言え、遊良のその心労は相当なモノになっていることに違いないだろう。

 

一応、こういった休みなく戦いに明け暮れる修業も、以前に師である【黒翼】、天宮寺 鷹峰にさせられていたおかげで、どうにかペース配分や精神面の保持は出来ているとは言え…

 

この3戦は、全てが1戦以上の緊張感を齎すほどに厳しかったモノばかりだったのだから、リアル・ダメージルールによりデュエルのダメージが実際の衝撃となって襲いかかるというプレッシャーも重なって、たった3戦でもすでに10戦以上をこなしたかのような疲労感を遊良へと与えているのか。

 

 

 

…しかし、だからと言って休んでいる暇など無い。

 

 

 

明日の決勝へと進める4人の中に残るには、負けない事ももちろんなのだが、どれだけ多くのデュエルを行ったのかも重要なポイントとなるのが【決島】の掟。

 

多くの猛者と戦い続け、そして勝ち続けた者しか次なるステージへと進む事は許されない、猛者が犇めくこの魔境となっている島で最後まで戦い抜いた者しか、これより『先』へは進む事を許されないのだ。

 

 

…戦わなければ生き残れないというのは、そういう事なのだから。

 

 

 

そうして…

 

 

 

弱音を程々に、気を張りなおして。

 

気を失って『失格』となってしまった、デュエリアの『ボマー』を回収しにくる救護班をこの場で待つ事も無く…

 

次なる相手を求めて、遊良がその場を離れ始めようとした…

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

「あ、遊良だ。」

「…え?」

 

 

 

今にも歩みだしそうだったその刹那。

 

自分の名を呼ぶ女性の声が背後から響き、その不意に背後から聞こえた声に、思わずその足を止めてしまった遊良。

 

それは、戦い溢れる【決島】における、戦意溢れる声ではなく。その声を聞いただけで、声の主の正体が瞬間的に頭の中に浮かび上がるほどに、それは遊良にとっては聞きなれた声でもあり…

 

そのまま反射的に、背後へと振り返って声の主の方へと視線をやった…

 

そこには…

 

 

 

「…なんだ、ルキか。」

「『なんだ』じゃないよ、もう。何かふらついてるじゃん。大丈夫?」

 

 

 

よく見慣れた赤い髪、よく聞き慣れた優しい声。

 

そう、声をかけてきたのは、紛れもない高天ヶ原 ルキ本人。

 

初期位置は確かに比較的近かった方ではあるのだが、戦いを求めて島を歩いている内にこうして森の中で鉢合わせでもしたのだろう。

 

彼女が何戦したのかはわからないが、少々疲労を感じている遊良とは違い、まだまだルキは元気であるという雰囲気を醸し出している。

 

そんなルキは、戦いが終わったばかりで少々ふらついている遊良へと向かって…

 

その体を心配する素振りを見せつつ、この戦いの空気の中でもいつも通りの声質のままその口を開いた。

 

 

 

「何かデュエルの音するなーと思って来てみたら遊良だったんだ。何か凄い疲れてるけど…今終わった所?」

「あぁ、とりあえずこれで3戦して3勝だ。…毎回キツいデュエルばっかりだから休む暇も無い。」

「え、もう3戦もしたの?私まだ最初の1回しかデュエルしてないんだけど…ずっと森の中歩いてたけど、全然人と会わないんだよね。」

「…そうか?森の中に行けば行くほど戦ってる奴多いみたいだぞ?」

「でも遊良と会うまで全然人に会わなかったよ?…あ、私の初期位置、森抜けた先の崖のとこだったんだ。島の端っこだったから周りに人が全然いなかったのかもね。」

「崖…」

 

 

 

そんな明るいルキの言葉に対し…まだルキの身に何事も起こっていない事への安堵と同時に、ルキの言った『崖』と言う単語に、少々寒気を覚えた様子を見せた遊良。

 

島の端、周囲に人が居ない、後ろが崖という逃げ場の無い状況…取り越し苦労なのかもしれないが、もしもルキの事を狙っている『敵』がそんなところで襲いかかって来ていたら…と、どうしても考えてしまったのだろう。

 

一応、ルキの身に僅かでも『神』の力の暴走の兆しが見られた場合はすぐにでも体調不良などの理由から棄権する約束になっており…また、ルキの身に僅かでも危機が生じた場合は、特別観覧席で常にルキの事を監視している砺波から迅速に連絡が来る手筈となってはいる。

 

だからこそ、遊良は今もこうして気兼ねなく戦いに望めているというわけなのだが…

 

 

 

「あ、でも聞いて聞いて?えっとねー、最初の相手ね、デュエリア校のデュエルランキング33位って人だったんだけどね?かなり強かったんだけど、全然暴走とかしなかったからアレももう完璧に押さえられてるみたいだよ。」

「…でも一戦しかしてないんだろ?これから回数増えたらわからないし、危なくなったらすぐに棄権するって約束は絶対だからな。」

「むー…ちょっとは褒めてくれてもいいじゃん、もう。」

 

 

 

それでも、誰がルキの事を狙っているのか分からぬ、もしかしたらそんな『敵』など居ないのかも知れぬこの【決島】においては、こうしたルキの何気ない一言であっても遊良の張り詰めている意識の糸に引っかかってしまうのか。

 

言葉を交わし、顔を見合わせ。こうして、ルキの無事であるという様子が、何よりも遊良にとっては安堵できることであるとは言え…

 

…何かがあってからでは遅い。

 

それはルキを狙っている『敵』に対しても、そしてルキの身の内に潜んでいる『神』の暴走に対しても。

 

何も起こらなければ、それはそれでとても良い。ルキは人生初の『祭典』で、今まで制限されていたデュエルを思い切り行えるのだから、ルキが楽しく祭典を過ごして、そして何事も起こらなければ、それは遊良にとっても良い事であるのだから。

 

しかし、その懸念が少しでも拭えない今の段階では、遊良とてルキの身を気にしていなければならず…

 

 

 

 

 

「なぁ、ルキ…」

「んー?」

「俺とデュエルするか?」

「…え?」

 

 

 

 

 

…しかし、ルキの身を心配してはいても。

 

抗えぬ戦いの定めに従い、ルキに対してそう言葉を投げかけた遊良。

 

 

 

「まだ一戦しかしてないんだろ?折角【決島】で鉢合わせたんだ、ここでルキと俺がデュエルしたってルール通りだし。」

「…遊良と?」

「あぁ。ルキならワンショットで気絶するなんて事はしなそうだし…って言うか、下手すれば俺がワンショット喰らって気絶させられそうだから、俺も本気で行かせて貰うけどな。」

 

 

 

…そう、ここは【決島】。

 

今こうしている場面も世界中から見られていて、終わらぬ戦いを続けなければいけないのがこの島のルールなのだから、いくら身の安全を案じているルキに対してであっても『ここ』で出会ったのならば戦いに臨むのが常と言えるのだ。

 

故に…遊良は、ルキへと問いかける。

 

幼少の頃から戦い慣れた、その実力も思考もデッキも戦術もエースも何から何に至るまで、その全てを知り尽くした幼馴染の少女。

 

これは『祭典』。あくまでもルキの身に何事も起こっていないのならば、もちろん遊良は全力でルキと戦うつもりだし…それはルキも同じ気持ちだからこそ、ルキも相手が遊良だろうと鷹矢だろうと、全力でデュエルを楽しむことだろう。

 

彼女にとっては初めての『祭典』。これまでデュエルを制限されて、抑圧してきたからこそ誰よりもこの【決島】を心待ちにしていたのは何を隠そうルキ本人。そんな生き生きとデュエルを行おうとするルキと戦う事は、遊良にとっても待ち望んでいた事でもあり…

 

 

―ルキは強い。

 

 

それは、幼少の頃から彼女の事をよく見てきた遊良が最も良く知っている。

 

いくらルキがデュエルを制限をされているとはいえ、それはあくまでも彼女の内に眠る『赤き竜神』を目覚めさせないための、ルキがヒートアップしてしまわぬようにするための回数の制限。

 

その回数制限に抗う為に、彼女は何時だってどのデュエルだって全力でぶつかってくるのだし…数少ない許されたデュエルを目一杯楽しむために、彼女がどれだけ『力』を磨いてきたのかも遊良は知っている。

 

また、その『神』の力のコントロールも、イースト校理事長である【白鯨】が直々に教えを授けたことによって、以前とは比べ物にならない程に改善されており…以前までの彼女とは比べ物にならない程に強くなって…いや、元々持っていた力をようやく発揮できるようになっている事も相まって、今ではその力は遊良や鷹矢と並び立っても何ら遜色無いレベルとなっているのだ。

 

 

―だからこそ、そんな今までの彼女を超えた、これまでの彼女の中で最も強いであろう今のルキと、全力で戦いたいという遊良の気持ちは嘘ではない。

 

 

そして、そう思ってくれている遊良の気持ちは、もちろん彼女自身だって理解しているからこそ。

 

 

 

「…遊良と…本気で…」

 

 

 

戦いを持ちかけてきた遊良へと向かって、ルキはその赤い髪を風に揺らしながら。

 

 

ゆっくりと、考える素振りを見せつつ…

 

 

 

 

 

「うーん…まだ、戦らなくてもいいかなぁ。どうせなら遊良と鷹矢とは、最後の方にデュエルしたいし…それに、出来れば二人とは明日デュエルしたいんだよね。3人とも生き残る前提だけど。」

「…そっか。」

 

 

 

 

 

しかし…遊良からの申し出を、悩みつつも断ったルキ。

 

 

それは別に、怖気ついたとか戦いたくないとか、そんなネガティブな感情から来る断りではなく…ルキの言葉からは、こんな序盤から遊良と戦うのは勿体無いという気持ちが切実に漏れ出ていたことだろう。

 

…出会った者と戦うのが、この島におけるルールの一つ。

 

しかし、それは出会った者と『絶対』に『その場』で戦わなくてはいけないルールでは無い。

 

ダメージが溜まっていて満足に戦えないと自分が判断したら、見つかった瞬間に一目散に逃げる事だって可能ではあるのだし…相手が了承さえすれば、一時休戦して手を組む事だって許されてはいる。

 

まぁ、徒党を組む事がこの島において有益なのか無益なのかは、その場にいる彼らにしか判断がつかないことではあるのだが…それでも、一度デュエルした相手とは二度デュエルを行えないルールとなっている【決島】においては、ライバル同士が終盤、そしてそれより『先』で満を持して戦いを行いたいという感情を持っていたとしても、それは何ら不思議な事ではないだろう。

 

本番は明日の『決勝』。20万人の中から選ばれた200人の中で、生き残った上位たったの『4人』が準決勝を行い…そしてその勝者二人だけが決闘市とデュエリアの『頂点』を決める戦いに望める。

 

だからこそ…ルキもまた、遊良と鷹矢が二人で交わしている、『頂点』で戦うという約束のように、二人とはもっと大きな舞台で戦いたいのかもしれず…

 

そして、そんなルキの気持ちは、遊良とて理解出来ているからこそ。

 

ルキの身を案じつつも、砺波が見ていてくれているという安心感から、始まったばかりのこんな時間ではまだ戦う時ではないのだというルキの気持ちを尊重してやろうとして…

 

 

 

「わかった。じゃあルキも頑張れよ。俺は向こうの方に次の相手を探しに行くから。」

「うん。私はこのまま森の中歩こうか…」

 

 

 

遊良が、ここでルキと別れようと言葉を交わしかけた…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「おお!?次の相手みっけたぜ!…って、取り込み中かぜ?」

「…ん?」

「え?」

 

 

 

遊良とルキの間に突然、割って入った第三者の男の声。

 

思わずその声の方へと、遊良とルキが瞬間的に目をやったそこには…

 

森の中から飛び出てきたのか、デュエリア校の制服に身を包んだ男子生徒が一人、デュエルディスクを構えてこちらへと向かってきているではないか。

 

森の中から、木々の隙間から、体中に葉っぱをくっつけて飛び出てきた言う事はおそらく彼も次なる戦いの相手を求めて、この森の中を縦横無尽に駆けずり回っていたのだろう。

 

…デュエルディスクを展開し、臨戦態勢の空気を駄々漏れに。

 

遊良とルキを見つけるや否や、今にもデュエルを行わんとする勢いのまま。デュエルを行っていない二人へと向かって、弾けるような言葉遣いで力強くその口を開き始めて。

 

 

 

「見た所戦りあってた…ってわけじゃなさそうだけど、お前ら今からデュエルするのかぜ?」

「…いや、そういうわけじゃ…」

「じゃあ丁度良かったぜ!どっちでもいいからよ、俺とデュエルだぜ!いやー、ドンパチ聞こえる方に来て正解だったぜ!相手が2人も見つかるなんてよ!…んお?…おぉ!そこに倒れてるアフロは『ボマー』の野郎じゃねーかぜ!?」

「…知り合いか?」

「おうとも!同期の奴なんだけどよ、俺とは相性が最悪的に最悪過ぎたから倒してくれててマジで助かったぜー!…って、そんなことはどうでもいいんだぜ!『ボマー』の奴を片付けてくれてた事は感謝するけどよ、ほらほらお二人さん、どっちから俺と戦るんだぜ?俺を待たせるんじゃないぜ!」

 

 

 

遊良とルキがデュエルをしないと聞くや否や、語尾の力強さを更に高め、更にその闘気を増していくデュエリアの男子生徒。

 

一触即発の空気を纏い、爆発寸前の熱さを放ち…今にも噛み付いてきそうな剥き出しの戦意は、戦いに飢えた獣のソレにも近いだろう。

 

…少々テンションがハイになっているところを見るに、きっと彼は【決島】が始まってからこれまで、ずっと休まずに戦いを続けてきたのではないだろうか。

 

ランナーズハイにも似た、デュエリスト特有のデュエルによる快感を求める飢餓行動。そんなデュエリアの男子生徒は益々荒くなる口調と共に、目の前の獲物へと向かって更に逸る。

 

 

 

「さっさと決めてくれだぜ!どうせ二人とも俺の餌食なるんだからよ、とりあえず先に倒されたい方から前に出てくるんだぜ!」

 

 

 

じりじりと攻め寄ってくる男子生徒の迫力は、その力強い言葉遣いと相まって奇妙な圧力を放っていて。

 

…理性ではなく本能でデュエルをするタイプのデュエリストには、時折こうした興奮状態に陥る事が多々あるという研究結果も出ているとは言え…

 

こんなにも戦意をだだ漏れにしている、今にも噛み付いてきそうな激しさを持った相手と戦うのは誰であろうと一瞬の戸惑いを感じる事に違いないだろう。

 

特にデュエリアの生徒達は、全員が一癖も二癖も持った厄介な実力の持ち主達ばかり。どんな戦法を繰り出してくるのか分からぬそんな相手が、こんな興奮状態で戦いを迫ってくるという事は、傍から見たら危なさしか感じられないはずであり…

 

だからこそ、ルキが己の目の届く範囲に居る内は、ルキに迫る危険の芽を少しでも摘まなくてはという奇妙な義務感を抱いたのか。

 

たった今一つの戦いを終えたばかりの遊良が、まだ少々気怠さの残る体を押してルキの前へと一歩出ながら、デュエルディスクを構え始め…

 

 

 

「ルキ、ここは俺が…」

「私が戦る!」

「…え?」

 

 

 

 

 

…しかし、そんな遊良を押しのけて。

 

勢い良く遊良の前へと飛び出て、勇んでこのデュエルを買って出たルキ。

 

 

 

「だって遊良、今一戦終わったばっかりって言ってたじゃん。だからここは私が戦るよ。」

「いや、でも…やっぱりここは俺が…」

「ずるい!遊良はもう3戦もしたんでしょ?私これが2戦目なんだから私に譲ってよ。」

「ずるいってお前なぁ…」

 

 

 

相手の戦意に触発されたのか、それとも相手とは正反対のデュエルへの飢えからか。

 

遊良の過剰とも思える心配を跳ね除け、自らがこのハイテンションな相手と戦うと買って出たルキもまた…

 

まだ最初の1戦しかしていないが故のデュエルへの欲が滲み出ているかの様でもあり、遊良の言葉を遮ってデュエルに向かうルキの戦意も、相手のソレに決して負けておらず。

 

 

 

「だってずるいよ。折角相手が見つかったのに、遊良ってば対戦相手取ろうとするんだもん。」

「まぁ、そう言われれば確かに…」

「でしょ?それに、こんなトコ鷹矢に見られたらまた『過保護』だって言われるよ?私だってちゃんと選手なんだから、私にだってデュエル戦らせてよね。」

「…」

 

 

 

そんなルキの訴えを聞いて、遊良は少々考えるような素振りを見せ始める。

 

…思わずいつもの調子でルキの身を案じてしまったが、確かにルキも【決島】のれっきとした参加者の一人。

 

ルキの身を案じる事も、確かに遊良にとっては必要なことではあるのだが…だからと言って、祭典を楽しんでいるルキのデュエルを奪うと言うのもまた、ただの自分の厚意の押し付けになっているだけだと言う事を遊良も今になってやっと自覚し始めたのか。

 

鷹矢ほど放置・放任も決して良くは無いが、あまりに過剰な心配もまた、祭典のただの不純物。

 

それは幼少の頃からこれまで、ずっと一緒に修業してきたルキの実力を知っているはずの遊良からすれば…いくら無意識だったからとは言え、ルキの力を信用していないと、そう彼女に言っているにも等しいモノなのだから。

 

 

…ルキを戦わせないと言う事は、彼女の持つ実力への多大なる侮辱にも繋がる行為。

 

 

どうせ、【決島】の間は否応にも離れ離れになって戦わなければいけないのだから、自分が過剰に心配しすぎてもそれはルキの邪魔になるだけ。

 

誰よりも【決島】への参加を楽しみにしていた彼女にも、【決島】を大いに楽しむ権利は確かに存在している。ならば、いくらルキの身を案じ警戒するとは言っても、それには限度と言うモノがあると言うことを遊良も考えなければいけない事だろう。

 

 

―だからこそ、遊良は今。

 

 

既に臨戦態勢に入っているルキに対し、再度向かい合いつつ…

 

どこか戦場へと兵士を送り出すような気持ちを抱きながら、再びゆっくりとその口を開き始めて…

 

 

 

 

 

 

「…わかった。じゃあここはルキに譲るよ。」

「やった!」

「お、最初の相手は女か!こりゃ5勝目も頂きだぜ!俺はデュエリア校3年、デュエルランキング25位のアキレス・ニコラス・マクスウェル・トリメリアーノ・ダニエル・リンドリン・フェイネス…」

「なが…えっと、イースト校2年、高天ヶ原 ルキです!」

「…チェスター・ビーコヌ・マキシマ・マキシマム・ヤクモ2世だぜ!…えっと、イースト校の…なんだって?」

「…高天ヶ原 ルキでーす、よろしくー…」

 

 

 

 

そうして…

 

ルキと、あまりに長い名前を名乗った男子生徒がお互いに名乗りあったところで。

 

森の中の木の一本にもたれかかるようにして観戦へと移行し始めた遊良を他所に、相手と対峙したルキは、意気揚々と己のデュエルディスクを展開し始める。

 

興奮状態の男子生徒の勢いに押されぬよう。ルキもまた、徐々にその戦意を上げようと戦いに集中し始め…

 

彼女にとっては初めての『祭典』。そしてそれ以上に、これまでやりたくてもやりたくても制限されてきたデュエルを、こんなに大きな規模の大会で行えるという、待ちに待った初めての『公式戦』。

 

そんな場所で、思い切りデュエル出来ることが、彼女にとってはどれだけ嬉しい事なのか。

 

 

 

「女だからって手加減なんかしないぜ?」

「いらないよ、そんなの。」

 

 

 

遊良が見ている、砺波が見ていてくれる、そして世界から見られているという、この未知の場所であるこの公式戦の場で、緊張よりも躍動が勝っている彼女もまた生粋の決闘者。

 

…折角の『祭典』で、まだ1戦しかしていないことに彼女も少々物足りなさを感じていたのだろう。

 

そんな待ちに待った祭典の、自らの真価が問われる2戦目。初戦と同じく、デュエリア校の生徒を前に…

 

今ここに、戦いのゴングが…

 

 

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

 

 

今、鳴り響く。

 

 

 

先攻はデュエリア校3年、アキレス・ニコラス・マクスウェル・トリメリアーノ・ダニエル・リンドリン・フェイネス・トーマス・チェスター・ビーコヌ・マキシマ・マキシマム・ヤクモ2世。

 

 

 

「俺のターン!俺はモンスターを裏側守備表示でセット!このままターンエンドだぜ!」

「…え?」

 

 

 

アキレス・ヤクモ2世 LP:4000

手札:5→4枚

場:『裏側守備表示』

伏せ:無し

 

 

 

傍から見ても、あまりの興奮状態だと言うのにも関わらず。

 

モンスターのセットだけで行動を終え、あまりに早くルキにターンを明け渡したアキレス・ヤクモ2世。

 

それは、高速化した近代のデュエルにおいては滅多に取られない行動であり…

 

対峙しているルキの目には、ランナーズハイにも似た一種の興奮状態にある彼の勢いと、彼が取ったその行動の離反はとんでもなく不可解に映った事だろう。

 

 

 

(…手札事故?…そんなわけないよね。だって…)

 

 

 

しかし、それはモンスターのセット以外にとれる行動が無かった…というわけでは断じて無い事をルキもまた感じ取ったのか。

 

リバース効果を狙っているのか、それとも早く墓地にセットモンスターを送って欲しいのか…

 

何せ、【決島】の代表に選ばれるような生徒が手札事故を起こすはずもなく。あまりに早くターンを受け渡したにも関わらず、自信に満ち溢れている相手の表情から、相手が何かを狙っているのだろうという警戒心がルキには浮かび上がってきている様子であり…

 

 

 

 

 

 

「…まぁいいや!私のターン、ドロー!私は魔法カード、【魔獣の懐柔】を発動!自分フィールドにモンスターが居ないから、私はデッキからレベル2以下の獣族モンスターを3体特殊召喚するよ!おいで、『森の聖獣』!ヴァレリフォーン、カラントーサ、ユニフォリア!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【森の聖獣 ヴァレリフォーン】レベル2(チューナー)

ATK/ 400 DEF/ 900

 

【森の聖獣 カラントーサ】レベル2

ATK/ 200 DEF/1400

 

【森の聖獣 ユニフォリア】レベル1

ATK/ 700 DEF/ 500

 

 

 

しかし、相手の狙いを考えようとしても、そのあまりに情報が少なすぎるために。

 

相手の出方を警戒はしつつも、いくら考えても相手の狙いが読めぬ以上…こんな後攻1ターン目から手を拱いている暇も無いという考えを彼女は抱いたのだろう。

 

そのまま自らのターンを向かえたルキが発動した、一枚の魔法カードによって彼女の場に現れたのは『3体』もの森の聖獣たち。

 

それは、幼少の頃から彼女が好んで使用している『獣族』の仲間達であり…

 

デッキから3体が同時に現れ、森の中に溶け込んでしまいそうな程に自然と一体となったその姿で、少女の元で遊び跳ねる。

 

 

 

「…へぇ、一気に3体も呼び出すのかぜ。」

「わからないのに考えてても仕方ないよね。いくよ!レベル2のカラントーサと、レベル1のユニフォリアに…レベル2のヴァレリフォーンをチューニング!」

 

 

 

相手の行動が少なかったために、相手が何を企んでいるのかは分からない。

 

だったら最初から警戒心に囚われて慎重になりすぎるよりも、相手が何を狙っていようが先ずは自分のデュエルを貫いて、先攻して優位に立つことが重要であると言う結論に彼女は至ったのか。

 

…いつもの通り、いつものように。

 

自らのデュエルの始まりとなる『エース』を、今ここに呼び出さんとして少女はその手を天へと掲げ…

 

 

 

 

「蒼穹の彼方へ鳴り響け、天翔ける雷よ!シンクロ召喚!」

 

 

 

天へと昇る葉兎と草馬、それを追う花の小鹿が2つの光輪に姿を変える時。

 

…轟く雷鳴、瞬く稲妻(いなづま)

 

晴れ渡る晴天の空に、突如として雷音が鳴り響き…少女の叫びに呼応して、ソレは大地に降り立つ一筋の雷光となりて…

 

 

 

 

 

―ここに、現れる。

 

 

 

 

 

「おいで、レベル5!【サンダー・ユニコーン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

【サンダー・ユニコーン】レベル5

ATK/2200 DEF/1800

 

 

 

天から落ちる光の柱を貫き、今ここに呼び出されたのは、蒼き雷が化身となった幻想の一角獣。

 

真っ赤な髪をした少女の髪色と比べ、青天の空を纏ったような雷馬の体色はあまりに対照的かつ正反対ではあるものの…

 

この【サンダー・ユニコーン】こそ、彼女が幼少の頃からずっと共に過ごして来た、ルキにとっては『エース』とも呼べるシンクロモンスター。

 

雷角を槍に、その身を奮わせ…赤き髪の少女を守らんとして吼え、雷鳴を唸らせ少女の前に勇み立つ。

 

 

 

「…ルキの奴、相変わらず早い…」

 

 

 

そんな、驚くほどに対照的な色を持つ少女と守護獣を見て…ポツリと、思わずそう言葉を漏らして遊良。

 

何せ、デュエルを見ている遊良からすれば、幼少の頃からあまりに見慣れたルキとユニコーンのこの組み合わせには何度痛い目に遭わされたか数え切れたモノではないのだ。

 

…遊良にとっての【神獣王バルバロス】同様、鷹矢にとっての【ギアギガントX】同様。

 

ここから始まる自分のデュエルを、飾るに相応しい始まりのモンスター。それを早々に呼び出したルキは、先制攻撃を仕掛けるために早々に蒼き幻獣へと攻撃を命じ…

 

 

 

「裏側守備表示だから【サンダー・ユニコーン】の効果は使えないけど…でも、その守備モンスターは破壊しとくよ!バトル!【サンダー・ユニコーン】で、裏側守備モンスターに攻撃!」

 

 

 

―駆ける。

 

まるで、天を翔けるように軽やかに。

 

相手の思惑など、情報も少ないこんな序盤から分かるはずも無いという吹っ切れからか。相手がどんな戦略を持ってモンスターをセットしたのかはわからなくとも、この攻撃でその片鱗が判明する事だろうという思考のもとに。

 

…リバース効果か、破壊されたときに発動する効果か。

 

どちらかはまだ分からぬが、それを見て相手の戦術を見抜いてやろうと言うルキの宣言によって、そのままユニコーンが蒼き雷をその身に纏い始め…

 

 

 

 

 

「貫け!蒼雷の、ライジング・ブレイヴァー!」

 

 

 

 

 

自らを巨大な雷槍へと変えた蒼き雷馬が今、ルキの場から勢い良く放たれた…

 

 

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

 

「不用意に突っ込み過ぎだぜ!俺の守備モンスターは【ビッグ・シールド・ガードナー】!その守備力は2600だぜ!」

「え!?」

「跳ね返すぜ、その雷!」

 

 

 

―!

 

 

 

森に轟く衝突音と、微かな雷馬の悲鳴の前に反転して現れたのは、ルキの予想のどれにも当てはまらぬ、まさかのただの効果モンスター。

 

…巨大な盾を構えた戦士、防御に長けた守りの兵士。

 

それはただの効果モンスターとは言え、その守備力はレベル4のモンスターにしては破格の数値を持っており…その盾に激突した衝撃で、蒼の雷馬は無慈悲にも弾き飛ばされてしまったではないか。

 

 

 

「いっ!…つつ…や、やっちゃった…」

 

 

 

ルキ LP:4000→3600

 

 

 

自身の攻撃力を超える守備力を持ったモンスターに攻撃した事により、反射ダメージが生じたことに連動した実際の衝撃がルキを襲う。

 

…そう、リアル・ダメージルールに則って、このわずかなダメージにも腕の装置からわずかな衝撃がルキへと襲いかかったのだ。

 

まぁ、衝撃と言っても大したダメージではなく、少しビリッとした程度の衝撃だった為にさしてデュエルに支障は無いのだが…

 

 

 

「伏せカードも無いからって不用意過ぎたなお嬢さん。【ビッグ・シールド・ガードナー】はダメージステップ終了時に攻撃表示となるが…追撃は出来ないだろ?」

「むー…私はカードを2枚伏せて、ターンエンド…」

 

 

 

ルキ LP4000→3600

手札:6→3枚

場:【サンダー・ユニコーン】

伏せ:2枚

 

 

 

しかし、それ以上にルキの目には、まさか相手が伏せていたモンスターがただの高守備力のモンスターだったという事実に少々驚きを感じているかのよう。

 

 

―油断した…

 

 

セットされたモンスターは、リバース効果でも狙っているのか、破壊待ちの守備力の低いモンスターだと思い込んでしまっていて…ここまで極端な守備力を持った、ただの効果モンスターのみで相手がターンを終えていたとはルキとて考えていなかったのだろう。

 

何せ、『何か』を狙っているかのような相手の熱くなっている目と、相手があまりに早くターンを渡してきたモノだから。ソレに釣られて、ルキもこのターンは相手の動きを様子見しようと、【サンダー・ユニコーン】だけの展開に留めてしまったのが不味かった。

 

まだ召喚権も残っていたと言うのに、場慣れしていない『祭典』の空気と、初めて戦う相手の手の内を探ろうとしてしまったのが彼女にとっての手痛いミス。まぁ、手札にあった通常召喚可能なモンスターは、攻撃力100の【キーマウス】だけだったのだから、召喚権を使っていたところで追撃は出来なかったのだが…

 

いくら実力もあるとは言え、まだこうした『公式戦』の勝手がつかめていないルキもまた、実戦の経験が極端に少ない悪く言えば経験不足。

 

それはこの戦いの場において、致命的なモノへとなりえる危険性があり…

 

 

 

「俺のターン、ドロー!【強欲で貪欲な壷】を発動!デッキを10枚裏側除外して2枚ドローだぜ!更に俺は魔法カード、【手札抹殺】を発動するぜ!手札を全て捨てて、5枚ドローだぜ!」

 

 

 

しかし、そんなルキを意に介さず。

 

再び自らのターンを向かえ、早々に連続して魔法カードを発動したアキレス・ヤクモ2世。

 

それは先程のターンの少ない動きとは打って変わって、このターンから行動を起こそうとでもしているかのような勢い。

 

先のターンのルキの出方を見て、次なる行動を彼は既に確定していたのか。そのまま、彼はルキの手札交換を囃し立てるかのような素早さを持って…

 

 

 

「…わ、私は3枚捨てて3枚ドロー。」

「よし、良いカードを引いたぜ!魔法カード、【増援】発動!デッキから戦士族の【ミドル・シールド・ガードナー】を手札に加えて通常召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ミドル・シールド・ガードナー】レベル4

ATK/ 100 DEF/1800

 

 

 

「ビッグ・シールドに…ミドル・シールド?」

「いっくぜぇ!レベル4の【ミドル・シールド・ガードナー】と、【ビッグ・シールド・ガードナー】でオーバーレイ!エクシーズ召喚、来るんだぜ、ランク4!【ダイガスタ・エメラル】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ダイガスタ・エメラル】ランク4

ATK/1800 DEF/ 800

 

 

 

勢い良く呼び出したのは、鮮翠煌く宝玉の騎士。

 

…鷹矢が好んで使用しているため、その鮮翠の体躯はルキも見慣れている。

 

しかし、血気盛んな彼のテンションとは裏腹に、現れた【ダイガスタ・エメラル】は守備表示で現れた為に攻める気配を全く見せず…

 

勇むアキレス・ヤクモ2世の勢いに反し、その身を静かに固めているのみ。そんな守備表示で現れたモンスターに、自らの勢いを何の躊躇もなく乗せる彼は一体何を狙っているのか。

 

 

 

「まだだぜ!俺は【ダイガスタ・エメラル】の効果発動!オーバーレイユニットを一つ使って、墓地から俺のエースを守備表示で特殊召喚するぜ!さぁ、現れろ!」

 

 

 

そして…

 

ルキが良く知る、鷹矢がよく使用しているドロー効果ではなく。もう一つの効果を選択し、今ここに高らかに宣言するアキレス・ヤクモ2世。

 

 

―『エース』

 

 

それはデュエリストがデュエルの流れを預けるに相応しい、自らにとっての頼れる1枚のカード。

 

そんな自らが『エース』と呼ぶあるモンスターを、墓地から蘇らさんとしてアキレス・ヤクモ2世は益々その勢いを増していき…

 

 

 

 

 

―ここに、現れるは…

 

 

 

 

 

 

「来るんだぜ、レベル5!【千年の盾】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

【千年の盾】レベル5

ATK/ 0 DEF/3000

 

 

 

墓地より蘇ったのは、進撃を許さぬ威圧的な守備力を持った、身を隠すほどの巨大な『盾』。

 

壁と見間違いそうなほどに、あまりに大きな盾であり…生半可な攻撃を少しも通すことのない3000という破格の守備力を携え、主の前に守衛の陣を取っていて。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「え?エースって…通常モンスター?」

「おうさ!コイツが俺のエースモンスターだぜ!通常モンスターだからってバカにすんじゃないぜ?俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだぜ!」

 

 

 

アキレス・ヤクモ2世 LP:4000

手札:5→2枚

場:【ダイガスタ・エメラル】

【千年の盾】

伏せ:2枚

 

 

 

興奮状態である相手の勢いと、あまりに意気揚々と呼び出したにも関わらず現れた通常モンスターに、思わずどこか拍子抜けにも似た声を漏らしたルキ。

 

何せ、アキレス・ヤクモ2世はあれだけ逸っているにも関わらず、まったく攻撃をしかける素振りを見せずに、ただ守備表示のモンスターを並べるだけで行動を終えてばかりなのだ。

 

 

 

「2体とも守備表示…ねぇ、攻撃してこないの?」

「ん?…あぁ、別に構わないでくれだぜ。これが俺のデュエルなんだからよ。」

「…」

 

 

 

だからこそ、ルキは不思議でたまらない。

 

折角エクシーズ召喚した【ダイガスタ・エメラル】も、そして彼がエースだと言っている通常モンスターである【千年の盾】も…

 

守備表示で呼び出し守りを更に固めるだけのデュエルに、何故あそこまで自信満々に熱くなれるのか。

 

更に上がっていく彼のテンションと、彼の取る行動との乖離が激しい彼のデュエルに、ルキは違和感しか感じていないようでもあり…

 

 

―しかし、そんなルキの視線を真っ向から受け止めてもなお。

 

 

怪訝な表情を崩せぬルキを他所に、再び意気揚々とそのターンを終えたアキレス・ヤクモ2世は、どこか満足気に自ら築いた牙城に守られ、その戦意を更に上げていくのみであり…

 

そんな、思惑が全く掴めない相手に対し、対峙しているルキは一体何を思うのか。

 

 

 

「ふーん…まぁいいや。でも、守ってばっかりじゃ勝てないよ?私のターン、ドロー!私は【レスキューキャット】を召喚!そのまま【レスキューキャット】の効果発動!【レスキューキャット】を墓地に送って、私はデッキから獣族の【マイン・モール】を2体特殊召喚する!おいで、2体の【マイン・モール】!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【マイン・モール】レベル3

ATK/1000 DEF/ 1200

 

【マイン・モール】レベル3

ATK/1000 DEF/ 1200

 

 

 

「まだだよ!魔法カード、【エアーズロック・サンライズ】を発動!私は墓地から【森の聖獣 ユニフォリア】を特殊召喚して、そのままユニフォリアをリリースしてモンスター効果発動!私の墓地が獣族だけの時、墓地から獣族モンスターを特殊召喚できる!私は【森の聖獣 カラントーサ】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【森の聖獣 カラントーサ】レベル2

ATK/ 200 DEF/1400

 

 

 

自らのターンを迎えてすぐに、多量な展開を始めるルキ。

 

相手のモンスターは全てが守備表示であるために、【エアーズロック・サンライズ】の弱体化効果は全く活用できないものの…

 

『盾』や『シールド』と名の付いたモンスターを多様していたり、守備力の高いモンスターで守りを固めていたりしていたの見るに、相手のデッキは徹底的な『防御タイプ』だとルキは睨んだのか。

 

ならば、取るべき手は『2つ』…

 

攻撃してこない相手ならば、相手の隙を突けるカードが引けるまで自分も守りに入ってひたすら『待つ』か…

 

今ここで、相手の守りが完全に完成する前に、今出来る全力で一気に叩くか。

 

 

しかし、そんな『待ち』の一手など性に合わない彼女にとっては、取るべき手はあくまでも『1つ』のみ。

 

 

そう、いくら相手から違和感を感じようとも…相手の守りを超える攻撃で、その違和感ごと吹き飛ばせば済む話。

 

攻めの一手、待ちを嫌って。全力で、全開で、攻めることが得意であると自負しているからこそ。

 

様子見で終わらせた先のターンとは、比べ物にならない程のスピードと勢いを持って…

 

更にその手を、前へと進めるのみ。

 

 

 

「カラントーサのモンスター効果!獣族モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を破壊できる!…私が破壊するのは、【千年の盾】!」

「おおっと、そうは行かないぜ!永続罠、【スクラム・フォース】発動!守備表示の【千年の盾】と【ダイガスタ・エメラル】は相手の効果の対象にならず、相手の効果で破壊されない!」

「流石に防がれるよね…だったら伏せてあった罠カード、【戦線復帰】を発動!墓地からチューナーモンスター、【キーマウス】を守備表示で特殊召喚!いくよ!レベル3の【マイン・モール】2体に、レベル1の【キーマウス】をチューニング!」

 

 

 

止まらない、収まらない、流れるようなルキのデュエル。

 

連続して展開を行うルキの手には、少しの淀みも停滞もなく…

 

いくら相手が守りを固め、城壁を築き身を守ろうとも。防御重視の相手ならば、ソレを越える展開と攻撃をするのみなのだと言わんばかりに。

 

今度は相手の牙城を突き崩す為、先程よりも更に激しく展開を続けんとして、彼女は再びその手を天へと掲げるのか。

 

 

 

 

「地平の彼方を駆け巡れ、天翔ける雷よ!シンクロ召喚!」

 

 

 

天へと昇るは大地を穿つ、2体の小さな土竜の獣。そしてそれを追う鍵鼠が、その身を1つの光輪に姿を変える時。

 

…唸る雷音(らいおん)、走る稲光(いなびか)り。

 

晴れ渡る晴天の空に、突如として2つの雷雲(らいうん)が現れ…少女の叫びに呼応して、ソレは大地に降り立つ二筋の迅雷となりて…

 

 

 

 

―今ここに、現れる。

 

 

 

 

 

 

「おいで、レベル7!【ボルテック・バイコーン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

【ボルテック・バイコーン】レベル7

ATK/2500 DEF/2000

 

 

天から落ちる光の柱を貫き、今ここに呼び出されたのは、黒き雷が化身となった幻想の二角獣。

 

真っ赤な髪をした少女の髪色と見比べ、雷雲を纏ったような黒き雷馬の体色はあまりに相違的かつ注映的ではあるものの…

 

【ボルテック・バイコーン】もまた、【サンダー・ユニコーン】と同じく彼女が幼少の頃からずっと共に過ごして来た、彼女の『エース』と言えるであろうシンクロモンスターの一体。

 

双角を斧に、その身を昂ぶらせ…赤き髪の少女を守らんとして唸り、雷轟を糧に少女の前に(そび)え立つ。

 

 

 

「ユニコーンにバイコーン…随分と綺麗なモンスターを使うモンだぜ。だが、それだけじゃあまだ俺の『盾』は崩せないぜ?」

「まだだよ!シンクロ素材になった【マイン・モール】2体の効果で2枚ドロー!…よし!装備魔法、【団結の力】を【サンダー・ユニコーン】に装備!ユニコーンの攻撃力を、2400アップする!」

 

 

 

【サンダー・ユニコーン】レベル5

ATK/2200→4600

 

 

 

…それだけで終わらず、それだけでは留まらず。

 

新たに手札に加わったカードの中から、一枚の装備魔法をエースである蒼の雷馬に装備したルキ。

 

バイコーンに装備した方が、攻撃力は更に高値を刻むにも関わらず…相手に破壊されたときにその効果を発揮するバイコーンを、あえてこのまま攻撃力を抑えておこうとでも考えたのだろうか。

 

先程は不用意にもそのまま突っ込んでしまった所為で、喰らわずに済んだダメージを食らってしまったが…

 

 

 

「へぇ…攻撃力4600…」

 

 

 

ユニコーンの力を更に増し、これで相手の自慢の『盾』の守備力をこれで大きく超えた。

 

後は、先程のお返しなのだと言わんばかりに。ルキはそのまま、牙城に閉じこもった相手へと向かって、その手を攻撃へと転じ始めるのみ。

 

 

 

「これで【千年の盾】の守備力は超えたよ!更に永続罠、【吠え猛る大地】発動!私の獣族は全員、貫通効果を得る!これで大ダメージ与えちゃうからね!…バトル!先ずは【ボルテック・バイコーン】で、【ダイガスタ・エメラル】を攻撃!砕け!黒雷の、ブリッツ・ボルテッカー!」

「けど甘いんだぜ!攻撃宣言時に墓地から罠カード、【仁王立ち】を除外して効果発動!俺は【千年の盾】を選択し、このターン、お嬢さんは【千年の盾】にしか攻撃できない!」

 

 

 

しかし…

 

黒雷の双角のその前に、攻撃を阻む壁のようにして。突如として【千年の盾】が文字通り、『仁王立ち』の如く立ち塞がった。

 

先程、【手札抹殺】で墓地に送っていたのだろう。あえて場に残さずに墓地へと送っていた準備の良さと、先を見越した先見は流石はデュエリア校の代表とも言えるだろうか。

 

あまりに急に前方へと飛び出してきた為に、【ボルテック・バイコーン】もまた急ブレーキをかけるが如く。

 

その身に静止を訴えかけて、勢いを無理矢理に押し留め…

 

 

 

「おらおら、どうするんだぜ?そのまま【ボルテック・バイコーン」で攻撃するかぜ?」

「むぅー、【ボルテック・バイコーン】の攻撃は中止…だったら【サンダー・ユニコーン】で、【千年の盾】に攻撃だよ!」

 

 

 

しかし、それでもなおルキは怯む姿を見せることなく。

 

それは、ここで立ち止まるわけには行かないのだと言わんばかりの奮起。自分のミスで受けたダメージは、自分で取り返すしかない事を彼女もまた理解しているからこそ…

 

【団結の力】によって、その攻撃力を4600までアップさせた蒼き幻獣が、蒼雷を纏い雷角を光らせ、まるで大地を貫くが如き勢いで大地を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

「今度こそ!貫け、蒼雷のライジング・ブレイヴァー!」

 

 

 

そして…

 

 

主の叫びに呼応して、ユニコーンが蒼雷を纏い巨大な盾へと激突をしかけた…

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「だから甘過ぎだって言ったんだぜ!罠発動、【D2シールド】!【千年の盾】の守備力を、元々の倍にするぜ!」

「え!?」

 

 

 

―!

 

 

 

【千年の盾】レベル5

ATK/ 0 DEF/3000→6000

 

 

 

「守備力6000!?」

「今度は攻撃を止められないぜ?その雷、また跳ね返すぜ!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

「くぅぅうっ!?」

 

 

 

 

 

ルキ LP:3600→2200

 

 

 

 

それでも届かぬ敵の牙城。それでも崩せぬ相手の城壁。

 

いくら防御主体の相手がルキのエースである【サンダー・ユニコーン】の効果との相性が悪いとは言え、いくらルキがデュエルの回数を制限されてきたが故に単純に経験不足であるとは言え…

 

攻めているのはルキの方で、モンスターの数も攻撃回数もルキの方が多いと言うのにも関わらず。

 

徹底的な相手の『守り』にLPの差は開いていくばかりで、リアル・ダメージルールに則って生じる実際の衝撃を受けているのもルキばかりではないか。

 

 

 

「おいおい、たかが攻撃力4600で超えられると思ってたのかぜ?仮にも俺が『エース』って言ってるモンスターによ、考え無しに攻めすぎだぜ!」

「うぐ…か、堅い…」

「まっ、『堅い』つったって、俺の『盾』の真価はこんなモンじゃあねーけどよ!けど危なかったなお嬢さん。もし俺がさっき【仁王立ち】を捨てずに伏せてたら、この攻撃で終わってたかもしれなかったぜ?あーあ、ちょっと勿体無い事しちまったぜ。」

「ぅ…」

 

 

 

 

もしも相手言う通り、【手札抹殺】で【仁王立ち】を捨てていなかったら…あまりに膨れ上がった守備力に自分から激突していて、そのまま成す術なく自分はこのデュエルに敗北していた。

 

…それをルキも感じ取ったからこそ、初戦で戦ったデュエリア校のデュルランキング33位の相手は、偶々自分のデュエルとの相性が良かっただけのラッキーパンチだったということを今になってようやく理解した様子。

 

真価が問われる2戦目で、こんなにも相性の悪い相手にぶつかった事が、ここまで攻防の遅れを取らされる事になるなんて彼女だって思いも寄らなかったことであり…

 

装備魔法、【団結の力】の強化値は、決して少なくない値であるにも関わらず。それでも到底届かないモノへと、自らの『盾』をあっさり強固したアキレス・ヤクモ2世の自負はあまりに大きいモノ。

 

だからこそ、ルキもまた相手のその雰囲気から目の前に立つアキレス・ヤクモ2世の『異質』な雰囲気を感じ取り始めていて…

 

 

…そう、デュエリア校で『上』へと昇る為には、他人には真似できない自分だけのデュエルを作り上げる事が大前提であり必須条件。

 

 

猛者がひしめくデュエリア校で、上位に立つという事は生易しい道ではない。

 

100/200000…20万を超える生徒の中の、選ばれた上位『100』人。一芸に秀で、個性を突き詰め…他者には到底真似できない、自分だけにしか出来ないデュエルを磨き上げた者達だけしか、デュエリア校では『上』へと昇っては行けず。

 

…20万人超の中から、【決島】に出場できるたった『100人』に選ばれるという事は『そういう事』なのだ。

 

 

故に…

 

 

このアキレス・ニコラス・マクスウェル・トリメリアーノ・ダニエル・リンドリン・フェイネス・トーマス・チェスター・ビーコヌ・マキシマ・マキシマム・ヤクモ2世もまた、デュエリア校においてはこう呼ばれている。

 

 

崩せぬ牙城に守られた、城壁の如きデュエリスト。決闘学園デュエリア校、デュエルランキング25位…

 

 

 

 

 

 

 

―『シールダー』

 

 

 

 

 

 

 

「どうだいお嬢さん!これが決闘学園デュエリア校、デュエルランキング25位!『シールダー』のアキレス・ニコラス・マクスウェル…」

「…シ、『シールダー』!?」

「む………人が名乗ってる時に口挟むのは良くないぜ。でもその名の通り!俺の盾は最強の盾!どんな攻撃だろうと、俺の盾を突破できる奴なんて居ないんだぜ!ほらほら、まだバトル続けるのかぜ?」

「むぅー…バトルフェイズは終了…【貪欲な壷】を発動して、マイン・モール2体、キーマウス、ヴァレリフォーン、ユニフォリアをデッキに戻して2枚ドロー。…カ、カードを1枚…ううん、2枚伏せてターンエンド…」

 

 

 

ルキ LP:3600→2200

手札:4→2枚

場:【森の聖獣 カラントーサ】

【サンダー・ユニコーン】

【ボルテック・バイコーン】

魔法・罠:伏せ2枚、【吠え猛る大地】、【団結の力】(サンダー・ユニコーン装備中)

 

 

 

意気消沈、疲弊落胆。

 

相手が一手違う手を取っていれば、そこで自分は負けていた…

 

それをルキも分かっているからこそ、ただ単に運が良かっただけの、ただ単に命拾いしただけの、相手のスタイルもまだわからないまま不用意に突っ込んだことがどれだけ危険だったのかを今になって理解したのか。

 

デュエリアの生徒達は、全員が一癖も二癖も捻じれたデュエルをしてくる猛者ばかり。いくら初戦のデュエルランキング33位の相手が、自分のデュエルと相性が良かったからとは言え…

 

手の内が分からぬ相手に、真正面から向かって行ったことを今なって後悔している様子にも見えるだろう。

 

…だからこそ、一旦攻めることは待ったほうがいいだろうか。そんなコトを、ルキはおぼろげに考え始め…

 

 

 

「俺ターン、ドロー!…なぁお嬢さん、さっき言ったな?守ってばかりじゃ勝てないと。」

「…え?」

 

 

 

そんな、どこか意気消沈しつつあるルキを見て。徐に、そう言葉を投げかけてきたデュエリアの『シールダー』。

 

ソレは、先程のターンの始めにルキが『シールダー』へと向けて放った言葉であり…守りを固めているだけの相手へと、自らの攻めの姿勢を見せ付けんとして放った言葉。

 

それを、どうして今になって『シールダー』は持ち出してきたのか。

 

一枚増えた手札を見ながら、沈んでいるルキを見ながら。アキレス・ヤクモ2世は、その手に一枚のカードを取りつつ、更にその口を開き始め…

 

 

 

「なんでそう思うんだぜ?現に、LPは俺よりお嬢さんの方が減らされてるってのに。」

「…だ、だって、このダメージだって私が自分で攻撃したから受けたダメージだもん。それに、さっきからずっと守備表示でしかモンスター出してないじゃん。いくら反射ダメージ狙ってても、私も守備に回ったら…」

「いいや!その考えは俺の大大大好きなチョコレートよりも激甘だぜ!俺から言わせれば盾ってモンは身を守ると同時に、巨大な武器にだってなれるってのによ!お嬢さんにソレを今から見せてやるぜ!」

「…え?」

 

 

 

そのまま、アキレス・ヤクモ2世その言葉の力を増しながら、更に勢いを荒々しいモノへと変え始める。

 

…守り一辺倒だと思われている事への否定か、それとも一旦守りに入ろうと考えているルキの心情を見抜いたのか。

 

その手に握られし1枚のカードからは、彼の戦意が篭っているかのような圧力が放たれていて。

 

 

 

「お嬢さんがバカにした『盾』もなぁ、このカードを使えば『最強の盾』になれるんだぜ?【千年の盾】を攻撃表示に変更し、手札から装備魔法、【最強の盾】を【千年の盾】に装備!その攻撃力を、元々の守備力分アップさせるぜ!」

 

 

―!

 

 

 

【千年の盾】レベル5

ATK/ 0→3000 DEF/6000

 

 

 

そして、『シールダー』が発動した1枚の装備魔法によって、『盾』を装備された巨大な『盾』がその形状を変えていく。

 

守りに長けた大きな盾が、相手を突き刺す凶暴で鋭利な刃を纏い…

 

まるで一本の巨大な『槍』の、切っ先と化した【千年の盾】がレベル5の通常モンスターとは到底思えぬステータスを持ったモンスターへと化け始めたではないか。

 

 

 

「守備力6000なのに…こ、攻撃力が3000…」

「そう!たった一枚の装備魔法で、通常モンスターがとんでもないモンスターに早変わりだぜ!バトル!【千年の盾】で、【ボルテック・バイコーン】に攻撃!」

「そ、そうはさせないよ!リバースカードオープン!速攻魔法、【コンセントレイト】発動!バイコーンの攻撃力を…」

「だから甘過ぎだって言ってるんだぜ!それにチェーンして手札から速攻魔法、【コンセントレイト】発動!」

「おんなじカード!?」

 

 

 

しかし、『攻撃力3000』だけでは飽き足らず。

 

獣の叫びのようにして、迎撃をしかけたルキと『同じ速攻魔法』を発動し…彼は更に『盾』を巨大化させ、到底追いつけぬ高みから恐々と襲いかかったのだ。

 

 

 

「おうとも!俺も【千年の盾】の攻撃力を、その守備力分アップさせる!…『元々』の守備力じゃないぜ?『今』の守備力だぜ!」

 

 

 

【千年の盾】レベル5

ATK/ 3000→9000 DEF/6000

 

 

 

「攻撃力9000!?」

「これで終わりだぜ!蹴散らせ、【千年の盾】!」

 

 

 

―響く落音、落ちる巨星。

 

 

ソレは抵抗できぬ頂から、雷馬を少女ごと押し潰そうとしているのか。生半可な『強化』や『弱化』では、到底抑えきれぬ圧力が今まさにルキと黒の雷馬に襲い掛かる。

 

 

 

 

このままでは、やられ…

 

 

 

 

 

「ま、まだだよ!罠カード、【スノーマン・エフェクト】発動!【ボルテック・バイコーン】の攻撃力を、私の他のモンスターの元々の攻撃力の合計分アップさせる!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ボルテック・バイコーン】レベル7

ATK/2500→4500→6900

 

 

 

それでも最後まで抵抗を止めず、ギリギリで1枚の罠カードを発動したルキ。

 

…伏せてあった最後の罠。

 

相手が攻めてこないであろう事を予定して、次のターンの為に伏せておいたソレを使いどこまでも抗おうとしているのか。

 

蒼の雷馬と草兎の力が、黒の雷馬に流れ込み…

 

その電圧を、更に上昇させ…

 

 

 

「だがまだ俺の方が攻撃力は上だぜぇ!喰らえぇ、ブレイドォォォ…ブレイクゥゥゥゥ!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

ルキ LP:2200→100

 

 

 

 

しかし…必死の抵抗も空しく。

 

巨大な盾の鋭利な刃に粉砕され、爆散してしまったバイコーン。

 

その衝撃波はかり知れず、どうにか主のLPをギリギリ100残せたとは言え…2体の獣の力で超強化された、巨大な戦斧と化したその双雷角を持ってしても、決して届かぬ巨大な盾の衝突をその身で一挙に受け止めたのだ。

 

そのダメージはそのまま、リアル・ダメージルールに則ってルキへと無慈悲に襲いかかり…

 

それぞれが破格の攻撃力を持っているモンスター同士の激突は、例え2100程度のダメージでも強大な爆発と化してこの辺り一帯に煙を撒き散らかしていて。

 

…果たして、その衝撃をまともに喰らっていたらルキもどうなっていたかわからない。

 

まぁ、見かけ以上の大きな爆発だったとは言え、一応ダメージ自体は『2100程度』に留まったおかげで、どうにかその意識を断ち切る事無く立っていられるのだが…

 

それでも、初期LPの半分以上を削るほどのダメージは、ルキにとっては相当の衝撃だったに違いなく。

 

 

 

 

 

「うぅ…い、痛い…」

「へぇ、あれだけの衝撃を耐えるたぁ、ちょっとは肝が座ってるぜお嬢さん。…それにしても【コンセントレイト】とは…さっきの攻撃で使わなかったところを見ると、【貪欲な壷】で引いたんだろうけどよ、まさか俺と同じカード伏せてるとは思わなかったぜ?」

「つ、次のターンに使おうと思ってたんだけど…何か嫌な予感したから一応伏せておいてよかったよ…破壊された【ボルテック・バイコーン】の効果で、お互いにデッキから7枚を墓地に送るよ…」

「まっ、なんとなく生き延びる気はしてたんだけどよ。俺もデッキから7枚を墓地へ…。さて、バトルフェイズはこれで終了。このメインフェイズ、さっき【手札抹殺】で墓地に送った、【ADチェンジャー】を除外して効果を発動。【千年の盾】を守備表示にするぜ。」

 

 

 

【千年の盾】レベル5

ATK/9000→6000 DEF/6000

 

 

 

「また…守備表示に…」

「おう、『シールダー』の俺にかかればこの程度、お茶の子さいさいなんだぜ。それにお嬢さんのバイコーンはいいカードを墓地に送ってくれたぜ?【ダイガスタ・エメラル】を選択し、墓地の【ネクロ・ディフェンダー】を除外して効果発動。次のお嬢さんのターン終了まで、【ダイガスタ・エメラル】は戦闘では破壊されず、エメラルの戦闘によって発生するダメージも0にする。更に【ダイガスタ・エメラル】の効果も発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、墓地の【ビッグ・シールド・ガードナー】、【シールド・ウィング】、【ジャンク・ディフェンダー】をデッキに戻して1枚ドロー!…よし、【サイクロン】発動だぜ!【団結の力】を破壊する!更に俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだぜ。」

 

 

 

アキレス LP:4000

手札:3→0

場:【千年の盾】

【ダイガスタ・エメラル】

魔法・罠:伏せカード1枚、【スクラム・フォース】、【最強の盾】(千年の盾装備中)

 

 

 

…強固な防御、鉄壁の牙城。

 

それは、『守り』一辺倒でデュエリアの代表100人の内の一人に入れるはずも無いと言う事を、まざまざと証明しているかの如き激しいデュエルであり…

 

防御こそ最大の攻撃と自負するだけあって、彼のデュエルはまさに『攻防自在』…と言うよりは、『防攻一体』となったスタイル。

 

攻めても駄目、守っても駄目。そんな、どこまでも自分のデュエルと相性が悪い相手を前にして…ルキの心には今、一体どんな感情が渦巻いているというのだろうか。

 

 

 

「わ、私のターン、ドロー…」

 

 

 

…【団結の力】は破壊され、折角の【貪欲な壷】で引けた【コンセントレイト】も、まさかの同じカードを使われてあっさりと超えられてしまった。

 

まだルキのデッキには、モンスターを強化するカードが多々眠っているとは言えども…

 

その強化値を計算しても、【千年の盾】の守備力6000を超える程の強化値をたたき出すカードは限られている。それにギリギリ守備力6000を超えたところで、相手は更なる守備力強化を施してくるだろう。

 

…LPは残り100。次の攻撃に失敗は許されず、守りに入ったところで次の『シールダー』の攻撃は防げない。

 

…だからこそ、崖っぷちに追い込まれてしまったルキの心には、大見得を切ってデュエルに挑んだというのに、あまりの自分の不甲斐なさに胸を突き刺されるような冷たい痛みが浮かび上がっていて…

 

 

 

(ルキ…)

 

 

 

そんな追い詰められているルキを見て、遊良は何を思うのだろう。

 

ルキのデュエルは、『獣族』特有の展開力と攻撃力強化を大いに駆使し、エースである【サンダー・ユニコーン】の弱体化効果も活用して相手を一撃の下に葬り去る『力』のデュエル。

 

それは遊良のような、ドロー加速と獣の王による『進撃』のデュエルとも…鷹矢のような、多様なランク4エクシーズによる掌握と【黒翼】による『覇道』のデュエルの、そのどれとも違うモノ。

 

そのルキの強さを良く知る遊良からしても、いくら相性が悪いからとは言えここまで一方的にルキを追い詰めるデュエリアの『シールダー』は…まさしく本物の力を持った、デュエリア校の猛者の一人なのだと言う事を、遊良にもひしひしと伝えている事に違いなく。

 

 

 

―また、それだけではなく…

 

 

 

(うぐ…だ、だめ…出てきちゃ…だめだって、言ってるじゃん、もう…)

 

 

 

実際に生じたダメージのみならず。それ以外の『何か』を、抑えているかのようにして息を吐いたルキ。

 

…それは、彼女の体の内に潜む『神』の力が漏れ出そうとして、彼女の体内を蝕んでいるが故に生じる軋みの痛み。

 

通常であれば、たった2戦で漏れ出そうとしてくる事は無い。しかし、今確かに滲み出ようとしてくるソレは、『シールダー』とのデュエルの相性の悪さとも相まって否応にも生じつつあるモノであり…

 

今こうして『微かな』力の奔流の兆しを感じ取っているルキの様子を見るに、この1戦はただの1戦以上のモノをルキへと与えているのだろう。

 

ダメージを受けるということは、彼女の体が傷付くと言う事。それに伴い、彼女の体内に留まっている『神』の力が、外に出ようとでもしていると言うのだろうか。

 

…そう。デュエルの熱が昂ぶったり、自身の危機に勝手に反応して漏れ出てくる『神』の力は、簡単に彼女の体を食い破ろうとし、そして容赦なく彼女を傷付けてしまう。

 

まだ、一応抑え込める範囲であるとは言え…操れるのは力の残滓。『赤き竜神』の眷属である竜の、一体までしか制御は出来ず。

 

力が漏れ出すたびに、我先に容赦なく飛び出てこようする他の眷属達。同じ『傷だらけ』の仲か、まだ言う事を聞きやすい【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】はまだしも…一度『枷』が外れれば、自分の意思とは関係なく『赤き竜神』やその眷属達は暴れようとしてくるのだ。

 

…それが『暴走』。逆らう事の出来ない、『神』の力の器の崩壊。

 

以前は師である【黒翼】がなんとかしてくれた為に、どうにか死なずに済んだとは言え…その幼少の過去に一度だけ起こった、文字通りの体の『崩壊』が今再び始まってしまう事になれば、今度こそ命が危うい状態に陥ってしまうだろう。

 

 

 

また、ルキがどうしても『赤き竜神』を抑え込もうとしているのには、他にも理由があって…

 

 

 

―『…分かっているとは思いますが、【決島】では『赤き竜神』はもちろん、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】のカードは使ってはいけません。』

 

 

 

それは、【白鯨】砺波 浜臣からの言いつけ。

 

…ルキとて砺波の言葉の意味など、言われるまでも無く理解出来ている。世界中から見られている【決島】で、もし間違って『神』のカードが現れてしまえば…

 

どうやっても隠し通せるはずもなく、言い訳など出来ずに今まで隠してきたことがばれてしまう。

 

そして、それは『神』のカードのみならず、『赤き竜神』の眷属である【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】や、その他の眷属のカードもそう。

 

この世界において、1枚1枚が伝説となっているソレらのカードの、たった1枚でも自分が召喚してしまえば…『神』のカードを持っているのが自分だと言う事を世界中に発信してしまう事になり、それはそのまま『敵』の狙いを自分自身に注目させるようなモノ。

 

まぁ、彼女のとっておきである【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】も、そもそも『赤き竜神』が降臨した時しかExデッキに現れないのだから、抑え込んでいる内はどうやっても呼び出せはしないのだが…

 

それでも、誰が見ているかわからない、誰が狙っているのかわからないこの場においては、絶対に『神』の力を発現させてはならないと、固くルキは誓っていて。

 

 

 

それに…

 

 

 

―『ルキ…『神』の力に頼らなくたって、お前が強いって事は俺が一番良く知ってる。だから…見せ付けてやろうぜ。お前がこれまで磨いてきた…ルキ自身の『力』を。』

 

―『ふん。ごちゃごちゃ考える事もなかろう。…全てぶっ壊せ。それがお前のデュエルだろうが。』

 

 

―遊良と鷹矢にそう言われたからには、『神』の力なんかに頼ってたまるものか。

 

子どもの頃から、デュエルを覚えた頃から…ずっと一緒に居てくれた、幻想の雷馬達こそ自分自身の力。

 

デュエルが出来ない自分を救ってくれた遊良。デュエルが出来ない自分に全く偏見なく接してくれた鷹矢。

 

そんな大切な幼馴染2人が居たからこそ、彼女はここまで来る事が出来た。そんな、『先』に進み続ける男共に、決して置いていかれたくない彼女もまた生粋の決闘者なのだから。

 

 

 

「しっかし、不用意に突っ込んできたり読みが甘かったり…お嬢さん、ちょっと手ごたえ無さ過ぎじゃないかぜ?」

「…え?」

 

 

 

そんな、必死に『何か』を抑えているルキに対し…

 

少々乱暴な言葉使いで、どこか偏見に満ちた言葉をつらつらと並べつつ、ルキを煽ってくるアキレス・ヤクモ2世。

 

 

 

「けどまぁ、気を落とす事無いぜ?『シールダー』の俺の敵じゃなかったってだけなんだからよ!まっ、女にしてはさっきの【コンセントレイト】と【スノーマン・エフェクト】は中々根性があったが…今の所、俺に真正面から土をつけることが出来た女はアイ先輩だけだし、悪いが女の小手先のテクニックなんて俺には通用しないんだぜ!ガチンコでぶつかってくる『漢』しか、俺の相手は務まらないんだからよ!」

「…こ、小手先…」

「おう!ちまちま攻撃力上げても所詮は小手先!小手先も小手先の小手先過ぎる小手先だぜ!所詮、『女』は非力って昔から決まってるんだからよ!とっとと押し潰されちまうのがいいぜ!」

「…」

 

 

 

ランナーズハイにも似た、デュエリスト特有の決闘への快感からテンションが上がっている所為なのか。

 

女性軽視とも思える持論を展開し、自らの荒々しく猛る決闘への欲望を発散させ続ける彼の言葉からは、裏表もなければ留まる事も無い。

 

…自分よりもデュエルランキングが高いデュエリアの生徒達の中にだって、女生徒が確かにいるはずだと言うのに…

 

 

 

「いつの時代も女は逃げるか避けるか回り込むかで、小手先の技術を使う奴ばっかたぜ!それはお嬢さんも同じ、男も女も超えた、真の『漢』じゃなきゃあ、俺には絶対に勝てはしないんだぜ!」

「さっきから女女って…それに、わ、私のデュエルを小手先って…」

 

 

 

アキレス・ヤクモ2世の言葉に、ルキは肩を震わせわなわなと声を絞り出す。

 

【白鯨】の修業により、力のコントロールを多少なりとも覚えたからこそ。満足にデュエルをすることも出来ず、燻り続けるしかなかった自分が、今こうして全力でデュエル出来ることが、彼女にはどれだけ嬉しいことなのか。

 

…それを、この男は貶した。

 

いくら事情を知らぬとは言え、いくら事情など教える気は無いとは言え…

 

相性が悪いだとか、公式戦が経験不足だとか…そんな言い訳などする気は無いし、今ここで行っている戦いの経過と結果がこのデュエルの全て。

 

それを、ルキ自身も分かっているからこそ…

 

 

 

(デュエリアの『シールダー』…アイツ、ルキが一番嫌がる事を…何せ、ルキのスタイルは…)

 

 

 

悔しい。ただ純粋に悔しい。

 

幼少の頃から大好きなデュエルを制限されてきて、時には死にそうな目に遭わされて、そうしてようやく出場出来た『祭典』。

 

夢にまで見た、遊良と鷹矢と一緒に出場出来る、待ちに待った待望の舞台。

 

そこで、そんな舞台で。この男は、あろうことか自分のデュエルを性別ごと全否定してきたのだ。

 

 

許せない。許せるわけがない。

 

 

回数を制限されているからこそ、そんな自分に出来る最大最高のデュエルを突き詰めてきた高天ヶ原 ルキに対し、アキレス・ヤクモ2世の言葉あまりに不遜かつ無作法な代物。

 

 

だったら…そこまで言うなら、見せてやろうじゃないか。

 

 

小手先などと言われたままで、黙ってなんていられるか。自分を馬鹿にするデュエリアの『シールダー』に…自分の戦いを貶したこの『男』に、高天ヶ原 ルキと言う『決闘者』の力を。

 

 

 

―売られた喧嘩は、買ってやるのみ。

 

 

 

 

「もう怒った!私は【森の聖獣 ヴァレリフォーン】を通常召喚!更に【死者蘇生】発動!墓地から【レスキューキャット】を特殊召喚して、そのモンスター効果も発動!自身を墓地に送り、デッキから再び【マイン・モール】2体を特殊召喚する!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【森の聖獣 ヴァレリフォーン】レベル2(チューナー)

ATK/ 400 DEF/ 900

 

【マイン・モール】レベル3

ATK/1000 DEF/ 1200

 

【マイン・モール】レベル3

ATK/1000 DEF/ 1200

 

 

 

 

「そんなに馬鹿にするんなら見せてあげるよ、私のデュエルを!レベル3のマイン・モール2体に、レベル2のヴァレリフォーンをチューニング!」

 

 

 

ルキの叫びが天に呼応して、3体のモンスターが天に舞う。

 

それはまるで、雄叫びを上げるが如く。

 

全身全霊、持てる力を全て出してでも。絶対にあの男の喉元に、雷の刃を突き立てんとしているかのようにも見え…

 

 

 

「無窮の空に光り輝け、天翔ける雷よ!シンクロ召喚!」

 

 

 

天へと昇る土竜の獣。そしてそれを追う花の小鹿がその身を2つの光輪に姿を変える時。

 

(いなな)く霹靂、迸る雷霆(らいてい)

 

晴れ渡る晴天の空に、突如として3つの雷影が瞬き…少女の叫びに呼応して、ソレは大地に降り立つ三筋の雷電となりて…

 

 

 

 

 

 

―ここに、現れる。

 

 

 

 

 

 

「おいで、レベル8!【ライトニング・トライコーン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

【ライトニング・トライコーン】レベル8

ATK/2800 DEF/2000

 

 

天から落ちる光の柱を貫いて、今ここに呼び出されたのは金色の雷が化身となった幻想の三角獣。

 

真っ赤な髪をした少女の髪色と並び、雷が命を得たかのような煌く雷馬の体色はあまりに壮麗的かつ幻想的ではあるものの…

 

【サンダー・ユニコーン】、【ボルテック・バイコーン】…そして、この【ライトニング・トライコーン】もまた、彼女の幼少の頃からの仲間であり『エース』の一体であるシンクロモンスター。

 

三叉の角を雷剣に、その身を天に轟かせ…赤き髪の少女を守らんとして、少女の前に猛り立つ。

 

 

 

「トライコーン…三本目の剣って奴か。だが、いくらモンスターを並べた所で…」

「まだだよ!シンクロ素材になったマイン・モールの効果で2枚ドロー!続いて【エアーズロック・サンライズ】を発動して、墓地から【ボルテック・バイコーン】を特殊召喚!私の場に獣族が2体以上居る為、墓地の【チェーンドッグ】のモンスター効果で、【チェーンドッグ】自身も守備表示で特殊召喚するよ!そして…」

 

 

 

5体の獣を場に並べ、あまりの戦意を剥き出しにするルキ。

 

彼女の場には守備表示の【森の聖獣 カラントーサ】と【チェーンドッグ】がいて、更には彼女の『エース』である…

 

 

―蒼の雷馬【サンダー・ユニコーン】

 

―黒の雷馬【ボルテック・バイコーン】

 

―金色の雷馬【ライトニング・トライコーン】

 

 

その計5体の獣達が赤き髪の少女を守っているこの光景は、生半可なデュエリストでは見ることさえ叶わぬ壮厳な状況であると言えるだろうか。

 

 

…しかし、それだけでは勝てない。

 

 

そう、ただモンスターを並べるだけでは、デュエリアの『シールダー』には届かない事をこれまでの攻防で味わわされたからこそ。

 

ルキは最後に残った手札の一枚。命運を賭けたその一枚に、最後の最後の希望を託し…

 

 

 

 

 

「魔法カード、【貪欲な壷】発動! 」

「あん?ここにきて手札補充って…ハハン、やっぱり意地っ張りなお嬢さんだぜ!最後のドローに起死回生を賭けるってのは、真の『漢』にしか出来ない芸当なんだぜ?それを女のお嬢さんがやろうだなんて…」

「うるさい!私は【マイン・モール】2体、【レスキューキャット】、【トレジャー・パンダー】、【虚栄の大猿】をデッキに戻して…」

 

 

 

(ここで引かなきゃ勝てない…)

 

 

 

啖呵を切っても、大見栄を張っても。

 

ここであの男に勝つためには、手札に最後に残ったこのカードに全てを賭けて、絶対に『起死回生』のカードを引くしかない。

 

 

―デッキに乗せた指は震え、恐ろしいくらいに速度を上げ続ける心臓の鼓動。

 

 

この【貪欲な壷】の2枚のドローに、全てがかかっている。今試されているのは、自分のデッキの中にある『シールダー』の『盾』を超える事の出来るであろう、たった1枚の起死回生のカードをここで引けるかどうか。

 

ここで起死回生のカードが引けなければ、攻められずに返しのターンで潰されて終わり。

 

それを少しでも考えると手が震え、たった1枚のデッキの中のカードに全てを賭けるという、今まで経験した事のないギリギリの状況に少女の心臓が飛び跳ね続け…

 

 

 

(怖い、怖いよ…で、でも…)

 

 

 

それでも…

 

こんなギリギリの状況でのドローに全てを賭けるという状況にすら、彼女の心の中には恐れの他に少しばかりの『躍動』が生まれつつあるのか。

 

…そう。彼女は知っている。

 

例えギリギリの状況でも、次なるドローに全てを賭けて戦う決闘者が一人居る事を。

 

 

 

(でも、遊良なら引いてる…遊良なら、こんな状況でも絶対にドローしてるから…)

 

 

 

そう、もしも同じ状況に陥った時、きっと遊良だったら迷い無くカードを引いているはず。

 

ーそれを、ルキは知っているからこそ。

 

こんな状況でも、自分のデッキを信じカードを引ける決闘者の存在を誰よりも近くで見てきた経験が、彼女のドローを後押しするのか。

 

…恐怖はある。『起死回生』のカードを引けないのでは無いかという恐怖が。

 

…不安もある。極端にデュエルをする機会が少なかった為に、デッキが応えてくれるかわからぬ不安が。

 

 

それでも…

 

 

 

「2枚…ドロー!」

 

 

 

ここで臆してしまっては、これから『先』で絶対に遊良と鷹矢の横に並び立って歩いていく事など出来ないと分かっているからこそ。

 

 

―ルキは…引く

 

 

ただ、デッキを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

―引いた、カードは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?き、来た!まずは装備魔法、【団結の力】発動!【ライトニング・トライコーン】に装備して、攻撃力を4000アップ!更に魔法カード、【野生解放】も発動だよ!【ライトニング・トライコーン】の攻撃力を、その守備力分…2000ポイントアップする!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ライトニング・トライコーン】レベル8

ATK/2800→6800→8800

 

 

 

 

高らかに響く雷馬の咆哮、それに呼応し獣たちもまた、天に向かって大きく吼える。

 

…この場、この時、この瞬間に、何を考えてどう行動するのかは全て彼女の思考の果て。

 

デッキが何を引かせるのかも、カードがどう応えるのかも…今ここで戦っている彼女らにしにか味わう事の出来ない、戦っている者にしか分かりえぬデュエルの真理。

 

 

 

「おいおいおい、ここで引いてくるかよ…貫通に加えて攻撃力『8800』とは、随分と意地っ張りなお嬢さんだぜ。」

「…悪いけど、私も真正面からの殴り合いが好きなんだよね!絶対にその盾、破ってみせるから!」

 

 

 

だからこそ…

 

今この状況において、ルキが連続して攻撃力を上げ続ける事が出来たのも、彼女のデッキが導き出した1つの答えなのだ。

 

…デッキが何を思い、主に何を引かせるのか。

 

それはデッキを操るデュエリスト自身にも分からぬモノではあるのだが、それでも今こうして確かに『起死回生』のカードをルキが引いたと言う事実のみが、このデュエルの確かな現実。

 

 

 

「行くよ、バトル!」

 

 

 

…故に、猛る。

 

【ダイガスタ・エメラル】の方は先のターンに相手が発動した【ネクロ・ディフェンダー】の効果によって、攻撃しても全く意味が無い。

 

故に狙うは【千年の盾】一択で、相手もソレを狙わせる為に【ダイガスタ・エメラル】を守っているのだろう。

 

それはつまり、自身が『エース』と呼ぶ【千年の盾】によほどの自信がある証拠。

 

絶対に打ち砕けぬ、自慢の盾だと自負しているからこそ。彼は、デュエリアにおいて『シールダー』と呼ばれているのだ。

 

…だからこそ、何が何でもルキは【千年の盾】に狙いを定める。

 

 

 

「【ライトニング・トライコーン】で…」

 

 

 

(…けど、俺の伏せた罠は【仁王立ち】。いくらお嬢さんが攻撃力を上げようとも…次のお嬢さんの攻撃宣言が、このデュエルの終わりの時だぜ。)

 

 

 

自分のデュエルを馬鹿にした、あの男になんとしてでも思い知らせてやる為に。

 

ここで、この場で、この状況で。

 

『シールダー』の思惑など知る由もなく、ソレを引けた事で更に少女は猛り吼え…

 

 

 

「【千年の盾】に攻撃!」

「ふははははは!いくら足掻いたって無駄なんだぜ!攻撃宣言時に罠カード、【仁王立ち】発動!【千年の盾】の守備力を、更に倍の12000にアップさせるぜ!」

 

 

 

【千年の盾】レベル5

DEF/6000→12000

 

 

 

 

燃える興奮、逸る発動。

 

そんなルキの攻撃の宣言に対し、まるで反射運動のようにして一枚の罠を発動したデュエリアの『シールダー』。

 

攻撃力が5桁に及ぶ事は稀にあれど、まさか守備力をここまでの頂にまで到達させられるデュエリストなどプロの世界においても皆無だろう。

 

待ちきれぬと言わんばかりの、あまりに速い即行の発動。

 

ルキの攻撃力の上昇を、更に超える彼の鉄壁はまさに牙城と呼ぶに相応しい、比類なき守りの化身となりて…

 

 

 

「折角攻撃力を8800まで上げたのに無駄になったな!そぉら、コレで終わ…」

「だったらそれを超えればいいだけだよ!これが最後の手札!速攻魔法、【死角からの一撃】発動!」

「はいぃ!?」

 

 

 

しかし…

 

―意地でも、無茶でも、無理矢理でも。

 

その不条理に真っ向から立ち向かう為、たった一枚の速攻魔法によってトライコーンのその猛りを更なるモノへと昇華させたルキ。

 

それは攻撃力を上げるカード。しかしそれは、相手モンスターの『守備力』を参照するという一風変わった強化のカード。

 

…それは文字通り、相手が予想だにしていなかったであろう『死角』からの一撃。

 

ここで【死角からの一撃】が引けるかどうかなんてルキにだって分からなかったことではあるのだが…しかし、この相性が最悪の相手に『自分のデュエル』で打ち勝つには、彼女もここで『このカード』を引くしか残された道はなかったのだ。

 

それは、何が何でもデュエリアの『シールダー』の誇る『盾』を、真正面から突破してやるという負けず嫌いの少女の信念が引かせたモノ。

 

守り主体の相手に対し、それを超える為の起死回生の一手を持てという…砺波との修業の時に出された課題に対する、ルキの答えの一つのカード。

 

 

 

「【ライトニング・トライコーン】の攻撃力を、【千年の盾】の守備力分アップさせる!…『元々』のじゃないよ?『今』のだよ!」

 

 

 

【ライトニング・トライコーン】レベル8

ATK/8800→20800

 

 

 

「攻撃力にまんはっぴゃくぅぅぅぅぅ!?」

 

 

 

煌く雷剣携えし、天翔る雷の化身が戦場を駆ける。

 

ここで彼女が【団結の力】と共にソレを引けたのは、まさしく自分のデッキを信じて『ドロー』したからこそ。『神』になど負けぬと、前へと進むためと、彼女のデッキ自身が主にソレを引かせたのか。

 

弾ける白雷をその身に纏い、三叉の幻獣が天を翔け…

 

 

 

(ルキのスタイルは、昔から正面から一点突破で殴り勝つデュエル。どれだけモンスターを並べたって、いくら守りを固めたって…ルキは、何が何でも突破しようとしてくる。だからルキは…)

 

 

 

果て無きドローを繰り返し、全てを吹き飛ばす遊良とも…状況に応じて、多様な戦術を取る鷹矢とも違う。

 

一撃必殺の雷の武具。槍と、斧と…そして剣と。

 

天に轟く神鳴りの雷剣。全てを切り裂く武勇の天剣。

 

どれだけ相手が強かろうとも、どれだけ相手が固かろうとも。ソレを正面から貫き、砕いて、切り裂いてでも押し通るのが高天ヶ原 ルキと言う少女のデュエルの形であり…

 

 

 

(単純に…強い。)

 

 

 

【黒翼】に鍛えられた『力』のデュエル。

 

そして【白鯨】の教えを受け、更にソレを昇華させた『武勇』のデュエルこそ、今の彼女の…高天ヶ原 ルキという少女のデュエルであって。

 

 

 

「だから言ったじゃん、その『盾』、絶対に破ってみせるって!行くよ、【ライトニング・トライコーン】!【千年の盾】を攻撃!」

 

 

 

…いくら阻まれようとも関係ない。どれだけ防がれようとも気にも留めない。

 

止められても、押さえられても、それを超える『攻撃』を繰り出すのみなのだとして、全ての壁を切り開かんと前へ前へと突き進むのみ。

 

 

猛る雷、轟く雷声(らいせい)

 

 

鳴神の化身が空を疾る。天翔ける雷の化身足り得る、神鳴りの雷剣がここに煌き…

 

 

 

 

「切り裂けぇ!白雷の…ランページ・テンペスター!」

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「ぐぅぉぉぉあぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

 

アキレス LP:4000→0(-4800)

 

 

 

三叉の雷角を剣と化した、天雷纏いし斬撃がここに炸裂。

 

【吠え猛る大地】による貫通付与によって、雷の如き渇いた破裂音と巨大な城壁が砕かれる音が森の中に大きく木霊し…

 

 

 

「ぐぶぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 

 

濁った悲鳴と燻った狂音。

 

LPを一気に消し飛ばされたその衝撃は、計り知れぬ代物となって『シールダー』を襲うのか。

 

そう、意識を断ち切る衝撃と、最強の盾をも切り裂く雷剣の閃光が容赦なくデュエリアの『シールダー』を襲ったのだ。一応、設定された衝撃の上限が『4000』である以上…その衝撃はLP4000分の衝撃を超える事は無いはずなのだが…

 

 

 

「うぼぉぁ…ちょ…挑発し過ぎた、んだ…ぜ…ふぐぅぅ…」

 

 

 

破格の攻撃力を持ったトライコーンの剣撃は、それ以上の衝撃を受けたとでも相手に錯覚させたのだろう。

 

実に8800ものダメージを一撃のもとに受けたアキレス・ヤクモ2世は、そのまま口から煙でも吐いているかのような言い残しと共に、そのまま地面へと倒れこんでしまったではないか。

 

 

 

そして…

 

 

 

「…はぁ…はぁ…か…勝てたぁぁぁぁぁ…」

 

 

 

緊張感の糸が切れ、その場にへたりこんでしまったルキ。

 

…彼女も、デッキにたった1枚入れいた、このカードが引けなければ負けていた。

 

そう、相手の挑発に乗っかったとは言え、最後の最後に、【死角からの一撃】を引けなかったら、このデュエルは勝つ事など出来なかったのだ。

 

…多少守備力を上げてくるだろうとは思っていたが、まさかまた『倍』にしてくるとはルキだって想定外だったのだろう。

 

【団結の力】で強化していたとは言え、【野生解放】でその本能を呼び覚ましていたとは言え…守備力12000となった【千年の盾】に、そのまま激突していればその反射ダメージは反対にルキに襲いかかって来ていたという避けようのないその事実。

 

そんな、あまりに怖いデュエルをしてきたデュエリアの『シールダー』に、確かな畏怖を覚えつつ…

 

 

 

「ルキ、大丈夫か?」

「…最後のドロー、手ぇ震えたー…」

「…あぁ。見ててちょっとひやひやしたよ。お前がここまで苦戦するなんて思わなかった。」

「だってー、ずっと授業か遊良か鷹矢としかデュエルしてこなかったから、あんな戦法してくる相手なんて始めてだったんだもん。」

「でもその割にはよく殴り勝てたな。【死角からの一撃】なんていつ入れたんだ?」

「…理事長先生から出されてた課題だったんだよね。『守備力の高い相手を前にした時の、確実な突破法を考えておきさない』…って、ずっと前から言われてて。【決島】の直前に見つけたんだけど…一応、デッキに入れておいて正解だったよ。あー、でも楽しかったー。すっごいドキドキしたよ、もう。」

 

 

 

 

しかし、それ以上に。

 

この【決島】に出場しているのが、こんな強さを持った猛者だらけだという事実に、彼女もまた恐怖に良く似た興奮を覚え始めているのか。

 

…楽しい。

 

初めて参加する大会、初めて出場する祭典。今までデュエルを制限されていた所為で、これまで味わう事の出来なかったギリギリのデュエルを行うという経験は、彼女にとってはどれだけ楽しい事なのだろう。

 

 

 

「私だって理事長先生に鍛えられたし、結構強くなってるんだらかね。もう遊良と鷹矢だけに先には行かせないから。」

「…あぁ。凄かったよ。攻撃力20800なんて自己ベストだろ?」

「うん。相手の守備力のおかげでもあるけどね。…でもあの人も強かったー。攻撃力0のモンスターを9000にまでしてくるし、守備力だって12000にまで上げてくるなんて普通思わないじゃん。ホントびっくりしたー。」

「…あんな相手がゴロゴロしてるんだよな、【決島】には。」

 

 

 

だからこそ、遊良もまたルキの『本来』持っていた力に加え、自分と同じく【白鯨】に鍛えられたが故に昇華したルキのデュエルに、戦慄と共に興奮を覚え始めている様子。

 

…ルキも紛れも無い強敵の一人。

 

今までずっと傍に居たからこそ、彼女の力がここまで昇華されていたことに、遊良もどこか嬉しさが生じ始め…

 

 

「お、見つけたぜ!お前が次の対戦相手か!」

「ん?」

「…って取り込み中だったか?でもデュエルはしてないし…まぁいいか、とりあえず、出会ったら迷わずデュエル!さーて、どっちが俺の相手だ?」

 

 

 

…しかし、そんなデュエルの余韻に浸る暇も無く。

 

再び、先ほどと同じような台詞で後ろから声をかけられた遊良とルキが、その声の方へと顔だけを回して視線を動かし…

 

そこには今現れたであろう、白と黒のメッシュを髪に入れたデュエリアの生徒が一人、デュエルディスクを展開してこちらへと向かってきていたではないか。

 

 

 

「遊良が言ってた事よくわかったかも…休む暇が全然無いってこう言う事なんだね。」

「…あぁ。」

「あれ?そこに倒れてるリーゼントはアキレスの野郎じゃねーか?…プハハハハ!おいおい、『シールダー』の癖にもうやられたのか!ざまぁねぇな、俺からランキング奪った罰が当たったんだ!厄介な奴を一人減らしてくれて礼を言う!俺は決闘学園デュエリア校3年、デュエルランキング78位!人呼んで『レーサー』、ミハエル・ハイウェストだ!さぁ、どっちが俺の相手だ!?」

 

 

 

戦いの前に休みは無い。戦わなければ生き残れない。

 

終わらぬ戦いに身を投じた彼らを待つのは、止めどなく襲い掛かる戦いの連鎖。

 

休んでいる暇も無く、次々に現れる対戦相手と、戦意がある内は戦いを続けるしか彼らに道は無いのだ。

 

 

 

「…この相手は俺が貰うぞ?今度は『ずるい』なんて言わないよな?」

「…うん、おっけーおっけー、任せたよ。」

 

 

 

…まだ足に力が入らないのか、ルキは地面にへたり込んだまま。

 

だったら、ここは自分が戦う番だと言わんばかりに。

 

遊良はデュエルディスクを展開し、『レーサー』の前に立って名乗りを上げ…

 

 

 

「俺が戦ってやるよ。決闘学園イースト校2年、天城 遊良だ!」

「天城!?…あの『Ex適正』が無いって…へっ、こりゃ大物だ!【決闘祭】の優勝者の実力、しかと見せてもらおうじゃねーか!」

 

 

 

まだまだ『祭典』は始まったばかり。まだまだ【決島】は続くのみ。

 

…全員が全員、強敵ばかりのこの島で、戦いに明け暮れ続ける子ども達を全世界が見ている。

 

故に…

 

遊良もまた、終わらぬ戦いの音に包まれながら…

 

 

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

 

 

 

 

―激闘は、続く

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 


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