遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep34「決闘祭、決勝・後編ー決着の時」

…そこに、音はなく。

 

 

光もなく。

 

 

 

ただ、『黒い』空間が広がっているだけ。

 

 

 

 

―静寂、閑静、無音の空間

 

 

 

 

 

まるで、『音が無い』と空間を表すのに、これほど適した状況があるのだろうかという程に、この光が無い場所には『無音』が響いていた。

 

 

 

…それでも、何も無いというわけではない。

 

 

 

確かに感じる多くの気配は、この場所に人がいることを周囲に教えてくれている。

 

 

次第に聞こえ始める身じろぎの音、微かに擦れる呼吸音…瞬き一つとっても、鋭敏になった聴覚に、『音』としてソレを伝えているようにも感じているのか。

 

 

そんな感覚の約90%を視覚に頼っている人間が、光届かぬ場所に押しやられると…ここまで鋭い他感覚を得られるのかと思うと、誰もが不思議で仕方が無いだろう。

 

 

 

 

 

『ここ』にいる全員が…その異様で不思議な感覚に包まれている中で…

 

 

 

 

 

 

 

―突如、ソレは響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆様!とうとうこの瞬間がやってまいりました!』

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

慣れ親しんだ実況の声、それに付随して沸き起こる歓声。

 

 

先ほどまでの静寂は一体なんだったのかと勘違いする程に、一瞬でこの暗闇が『無音』から『興奮』に包まれた光景は…視覚などでは見えないはずなのに、確かな『景色』となって誰の目にも映っていると言うのだろうか。

 

 

まるで、その歓声にこじ開けられるかのようにセントラル・スタジアムの天井が開いていき…

 

 

 

―そこには、眩しいくらいに輝いた月光。

 

 

その街灯よりも光り輝いたソレが垂直落下して、中心に鎮座したデュエルスタジアムを照らしていた。

 

 

 

 

『【決闘祭】!ついに決勝戦!ここまで辿り着ける学生の名を!よもや忘れたとは言わせない!彼らの織り成す戦いを!見逃すことなど許されない!さぁ!その勇ましき姿を!その目に焼き付けろ!』

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

『閑静』が、『歓声』へ。その一字一句に音が轟き、その一つ一つが地響きへと変わっていく。

 

 

ここセントラル・スタジアムだけではない、この広い広い…世界的に見ても超巨大なデュエル大都市、この【決闘市】の全域でソレが鳴り響いているというのだから…

 

この戦いへと注がれる期待と興奮が、一体どれほどのモノなのか、分からぬ人間などここには存在しないだろう。

 

 

20万人を超える決闘学園の学生の中から、僅か12人しか立つことを許されぬセントラル・スタジアムで行われてきたこの祭典、この壮絶な戦いの…

 

 

コレより入場してくる、最後まで上り詰めてきた、たった2人の選手を、これより向かい入れるために。

 

 

 

―絶対に、鳴り止まぬのだから。

 

 

 

 

 

「私は王者としても未だあそこに立てていません…正直彼らが羨ましいです。」

「…いい景色だよ紫魔っち、あの真ん中ってのはさ。」

 

 

 

王者、【白竜】と【紫魔】。

 

過去、『ノーダメージでの【決闘祭】2連覇』を成し遂げ、そのまま決闘界のスターダムを駆け上ってきた【白竜】こと新堂 琥珀にとっても、この決勝戦の舞台というのは、決して忘れることなど出来ないのか。

 

 

―それも辺り前だ。2度に渡る【決闘祭】の決勝を戦った琥珀と言えど…その戦いは、決して楽に終わったわけでは断じてないのだから。

 

 

【紫魔】の名を受け継いだ紫魔 恋介にとっても、感じている思いは特別なモノ。王者在位10年と言えど、未だこの輝かしいステージへと彼は立てておらず。

 

紫魔本家の長、世界に誇る王者であっても彼とて18歳で高等部3年に値する年齢…そこへ立つのが、自分ではなく年の近しい他の学生というコトに、何も感じないはずがない。

 

 

 

「カカッ、相変わらず壮大な演出だねぇ。」

「育ち盛りの子供達にはのう、こんな舞台が必要なんじゃよ。子供達の…成長のためにはの…」

「フフ、では見せて貰いましょうか。鷹峰さん、あなたの弟子二人の対決と言うものを。」

「おぅ、退屈させんじゃねーって言ってあっからよぉ…面白れぇモンが見られると思うぜ?カッカッカ…」

 

 

 

決勝戦で戦う二人の弟子、その師である鷹峰の渇いた笑いが会場の暗闇へと吸い込まれていって…

 

 

誰もが見ているその戦いへ、向けているのは果たして期待か別の物か。

 

 

観客の興奮、王者の視線、妖怪の慈愛、化物の仰望…

 

 

 

―そして、師の…

 

 

 

全てのモノが混ざり合って、このセントラル・スタジアムが…引いては決闘市が世界の中でも『異次元』なモノとなっている空間の、その中心で…

 

 

 

 

 

―ソレは、始まる。

 

 

 

 

 

『それでは、選手の入場です!』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

興奮の坩堝という比喩が、これほど的を射ている表現があるのかと言うくらいに、声を超えた『轟き』が会場内に反響し、全ての人間の耳を劈いて。

 

 

これより入場してくる二人の学生を迎え入れる、その地響きは決して緩まることはないのだろう。

 

 

―これが…この戦いが

 

 

この年最後の、最大の舞台。その時を、盛大な『モノ』で迎えているのだから。

 

 

 

 

 

『誰が想像した!誰もが知る10年前!世界にただ一人、『Ex適正』を持たない人間として世に知られた名を!それが、その人物が!今夜この【決闘祭】の!決勝のステージへと昇ってくることなど!誰が想像したというのか!』

 

 

 

 

―Ex適正を、持っていない。

 

 

それは、世界に類を見ない…どうしようもない『出来損ない』の証。

 

 

その人間が、まさかデュエルをしているなど、世界中の人間の誰が思い浮かべているというのだろうか。

 

この決闘市においてもその存在は、悪い意味で有名で。

 

 

…しかし、その彼が

 

 

その、暗く惨めな世界の隅で震えて、誰にも認められずに…生きているのか死んでいるのかすら、誰にも興味を持たれないだろうと、この決闘市の誰もが思っていたその彼が…

 

 

その人間が、よもや本物の『強者』しか立つことを許されない、この煌びやかな舞台に駆け上ってくることを、一体誰が想像出来たのだろう。

 

 

 

『しかし彼はその戦いを我々に見せつけた!Exデッキを使わない戦いで!それでも彼はここまで進んできた!』

 

 

 

一回戦、二回戦の戦いは、確かに人々を驚かせた…しかし、準決勝の戦いは誰が見ても疑問が残る戦いであったことは間違い無く。

 

 

 

―それでも、あくまで堂々と。

 

 

 

弱いままでは変わらない、強くなければ変えられない。その教えを体現するために、その歩を…進めるのみ。

 

 

 

 

 

『決闘学園イースト校1年!天城ぃ!遊良選手ぅぅぅぅぅぅう!』

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

その歓声の中に混ざった、確かな小さい否定の言葉。この盛大な舞台においても、彼を認めていない人間は確かにいて。

 

 

それでも彼は…遊良は立ち止まらない。誰に、何を言われようとも。誰に、何を思われようとも。自分の戦いを見せ付けるために。

 

 

―天城 遊良は落ち零れだ。

 

 

それを、己の手で覆す…自分の存在を、否定させないために。

 

 

 

 

 

 

―そして…

 

 

 

 

 

『誰が想定出来た!彼の王者、エクシーズ使いの頂点!【黒翼】の、その血を継ぎし男が!まさか1学年と言う異例の若さで、決闘界のスターダムを駆け上って来ようなど!一体誰が想定していた!』

 

 

 

対面する道筋から歩いてくるは、この歓声を受け止め、そしてソレを弾き返すかのような強さを見せ付けている『強者』の姿。

 

圧倒的な一回戦、才能に違わぬ二回戦…

 

そして、まさか昨年度の優勝者を、真正面から打ち破って『ここ』に駆け上がったその名は…間違いなく、この長い【決闘祭】の歴史に、確かに刻まれることだろう。

 

 

 

 

『その血に違わぬ才能と!他を追随を許さぬ実力!この男に出来ぬことなど無いというのかぁ!いずれは【王者】となろうその風格をぉ!』

 

 

 

【王者】黒翼の孫、誰もが羨むその出生…彼にとっては忌まわしき血筋。

 

 

それを背負う彼が、この『轟き』の中でも涼しい顔をしていることに、何の違和感も起こり得ないように…その威風堂々とした立ち振る舞いは、彼の未来の展望を現している様でもあって。

 

 

天上天下、唯我独尊

 

 

観客達の誰もが、およそ並ぶ者など思い浮かべられないかのように…今の彼の立ち振る舞いはこれまでのどの戦いよりも輝いて見えているのだから。

 

 

 

…誰もが呼ぶ

 

 

その歩を、進める…彼の名を。

 

 

 

 

『決闘学園イースト校1年!天宮寺ぃ!鷹矢選手ぅぅぅぅぅぅう!』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

耳を劈き、内臓を揺らして。様々な感情が複雑に絡み合い、決して静まらぬ喧騒となっているセントラル・スタジアム。

 

 

期待と興奮、否定と肯定。

 

 

多種多様なモノが渦巻く、この混沌としたスタジアムで…各個人が抱くソレは、誰もが異なった物であるとはいえ…

 

 

それでもこの場において、絶対に他人とは似ても似つかないモノを感じている少女が、ここに一人。

 

 

 

 

「遊良…鷹矢…頑張って…」

 

 

 

手を合わせ、目を瞑り。会場の響きに呼応するように震える小さな少女の姿は、この場における誰の感情とも異なるモノ。

 

大切な、大事な幼馴染達。

 

別に、いがみ合って戦うとか、お互いに憎んで戦うとか、そう言ったモノで無いことは…小さく震えているルキとて、十二分に理解していても…

 

 

それでも、自ら進んで険しい道を登ることを選び、観客の誰もが想像できないほどに傷つきながらここまで来た遊良と…その遊良と並び立つことを望んで、傷つきながらも無理やりに『壁』を越えた鷹矢。

 

 

そんな馬鹿な男達に振り回されるのが、いつだって彼女なのだ。

 

 

だからこそ…いつでも、どんなときも…

 

 

彼女には、心配が絶えない。

 

 

 

 

 

―そんなルキの視線を確かに感じている二人が、盛大な歓声と、天上からの月明かりに照らされているセンタースタジアムへと上がって…

 

 

 

 

 

 

―視線を、合わせた。

 

 

 

 

 

 

「よう。」

「うむ。」

「ルキが見てる…先生も。お前の事も、随分と待たせちまった。」

「…うむ。」

 

 

 

 

次々と遊良の口から出てくる言葉。

 

こんな時には、お互いに言葉などいらないと思っていたのに…自然に言葉が出てくるのは、どうしようもなく自分が高揚しているのだと、そう言わんばかりの遊良の表情と…

 

それを理解しているのだろう。同じ言葉で返す鷹矢も、『その一言』に全ての感情をこめている様子。

 

 

それを理解できるのは、世界中探したって遊良だけだろう。だからこそ、鷹矢は無駄な言葉を挟まない。

 

 

それだけで、遊良に全て伝わることを…鷹矢は、知っているから。

 

 

 

 

「コレでお前に負けて、退学になっても後悔は無い。誰かの許可を得るためじゃなくて…俺は、好きにデュエルを続けていいんだってわかったからさ。」

「うむ。」

「でも、絶対に退学だけはしたくない。まだ俺はイースト校に居たい。」

「…うむ。」

 

 

 

蒼人から自分自身の『肯定』を貰い、すでに迷いは無くなっている遊良。

 

その中で彼が再び出した結論は…

 

自身の『退学』を、絶対に覆したいというモノであった。

 

 

そう、他の学生からは学園に居ることを否定され、教師陣からはデュエリストを諦めろと諭され…挙句の果てに理事長からは、不要な存在とまで言い放たれても。

 

 

…それでも、遊良の中にある、彼にしか抱くことを許されぬ感情は…自分自身を、『イースト校から退学させたくない』と、確かに心に訴えていて。

 

 

 

「何か、また俺に対して色々言われているけどさ…お前がさっき記者たちに言った言葉、アレ聞こえてたけど…嬉しかったよ。」

「うむ。」

 

 

 

戦う理由は人それぞれ。戦いに臨む気概も人それぞれ。

 

彼にしか抱けぬその感情に任せて…遊良は次々に言葉を発するのみ。

 

 

 

「弱いままじゃ変わらない、強くなければ変えられない。先生が教えてくれたように、色々言われるのは…俺がまだまだ弱いからだ…俺は、もっと強くなりたい。」

「…うむ。」

 

 

 

いくら回りに否定されても…彼が師の教えに則って、自由に戦うことは悪いわけが無いのだ。

 

 

誰に、何を言われてもいい。

 

誰に、何を笑われてもいい。

 

 

それを変えるのは他人ではなく、変えられるのは自分だけ。

 

八百長、イカサマ、嘲笑、嫉妬…そんな言葉の鈍器をぶつけられても構わない。この舞台に上がってしまえば、ソレは全く関係ないのだから。

 

 

―見せ付けるだけ、嘘では無いということを周囲に。

 

 

嘘はつかない…有無を言わせない程に洗練された力は…絶対に。

 

 

 

 

―強き者を、決闘市は望む

 

 

 

―『力』を、見せつければ…

 

 

 

―それは、正しくなる。

 

 

 

 

「とうとう戦える。誰に何を言われようとも、誰に何を思われようとも…」

「…」

「全力で、お前と戦う!」

「うむ!」

 

 

 

声が上ずり、気持ちが飛び出る。

 

もう待ちきれないと言わんばかりの二人の表情は、この決勝戦のステージにおいて何よりも輝いていることだろう。

 

 

 

 

「行くぞ鷹矢、お前にだけは…」

「ゆくぞ遊良、お前にだけは…」

 

 

 

 

デュエルディスクを構え…

 

 

 

今にも、弾けてしまいそうな声で…

 

 

 

「お前にだけは、絶対に負けねぇ!」

「お前にだけは、絶対負けん!」

 

 

 

―決意が弾けて、感情が溢れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

―二人は、叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

『それではぁぁぁぁあ!【決闘祭】、決勝戦っ!かいしいぃぃぃぃぃぃぃい!』

 

 

 

 

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

 

 

 

先攻はイースト校1年、天宮寺 鷹矢。

 

 

 

 

「俺のターン!【ブリキンギョ】を召喚!その効果で【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚!更にその効果で【シルバー・ガジェット】を特殊召喚!またその効果で【グリーン・ガジェット】を特殊召喚!【レッド・ガジェット】を手札に!」

 

 

 

【ブリキンギョ】レベル4

ATK/ 800  DEF/2000

 

【ゴールド・ガジェット】レベル4

ATK/1700 DEF/ 800

 

【シルバー・ガジェット】レベル4

ATK/1500 DEF/1000

 

【グリーン・ガジェット】レベル4

ATK/1400 DEF/ 600

 

 

 

 

『おぉっとぉ!天宮寺選手!一瞬で4体のモンスターを揃えた!これは流石の展開力ですっ!』

 

 

 

開始早々…瞬間的に、場に4体のモンスターを揃えた鷹矢。

 

お得意のガジェットモンスター達を駆り、その勢いは一回戦から何も変わってはおらず…いや、明らかに変わっているだろう。

 

 

準決勝での十文字 哲との戦いが原因か、勢い一つとっても今の鷹矢の魅せる圧力は凄まじく…

 

哲の持っていた、生半可なデュエリストならば押しつぶされてしまいそうな圧力に似たソレを、彼のモンスターからは感じられて。

 

 

元々留まることを知らない才能に、『壁』を越えたばかりの勢いと実力…それに加え、人知を超えた『何か』を持って戦いに望んでいる鷹矢だ。

 

序盤からの、まるで手札を使い切らんと言う馬鹿げた勢いも、彼にとっては何の戸惑いにもなりはしないのか。

 

 

 

「いきなり4体のモンスター…来るか?」

「うむ!俺は【ゴールド・ガジェット】と【シルバー・ガジェット】でオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4!【ギアギガントX】!」

 

 

―!

 

 

 

【ギアギガントX】ランク4

ATK/2300 DEF/1500

 

 

 

彼にとって始まりとなる機械兵を、先ず鷹矢は呼び出して。

 

 

いつのときも、どんなときも…彼のデュエルはここから始まるのだ。

 

 

微かに歴戦を感じさせるような雰囲気が、確かに機械兵から漂い始め…しかし、今までの先攻ならばこれで様子を見ていた鷹矢も、この場においてはこの程度で終わらせる気など毛頭無いのか。

 

 

場に残った残りのモンスターにも命じるために、鷹矢は更に動き出す。

 

 

 

「更に【ブリキンギョ】と【グリーン・ガジェット】でオーバーレイ!エクシーズ召喚!【ギアギガントX】!」

 

 

―!

 

 

【ギアギガントX】ランク4

ATK/2300 DEF/1500

 

 

 

そうして…今までは先行でも1体しか呼び出していなかったソレが、今や2体も出現し。

 

 

 

―唸る豪腕、轟く体躯

 

 

 

それが、二つ。攻めることが許されていた後攻ならばまだしも、どこか適当さを残していたこれまでの鷹矢とは違う展開方法を見せて…

 

 

さらに消費した手札すら、『壁』を越えた者ならば当たり前にリカバリー出来て当然と言わんばかりに余裕な空気を醸し出している鷹矢と…

 

彼の2体の機械兵に、多大な興奮がぶつけられていた。

 

 

 

「【ギアギガントX】2体の効果発動!オーバーレイユニットを一つずつ使い、デッキから【ゴールド・ガジェット】と【シルバー・ガジェット】を手札に加える!更に魔法発動、【エクシーズ・ギフト】!【ギアギガントX】2体からオーバーレイユニットを一つずつ使い、デッキから2枚ドロー!」

 

 

 

鷹矢の織り成す一挙手一投足に、会場の『轟き』が勢いを増していくのが、誰の目にも明らかな事となっている。

 

 

―しかし、それも当たり前なのか。

 

 

開始すぐに4体のモンスターを場に呼び出し、続けさまに場に2体の機械兵をエクシーズ召喚したこと…

 

さも当たり前に行われる、これだけ激しい展開を行ってもなお、その手札消費が『実質0枚』なのだ。

 

 

全く減っていない、デュエル開始直後と同じ枚数の手札をその手に握っている鷹矢の振る舞いが、あまりにも彼に合っているのだろう。観客達のソレを更に増長させていて…

 

 

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

鷹矢 LP:4000

手札:5→4枚

場:【ギアギガントX】

【ギアギガントX】

伏せ:1枚

 

 

 

余裕綽々、彼の祖父を思わせるような風格を微かに漂わせながら、鷹矢はそのターンを終えた。

 

 

 

「さぁ来い、遊良!」

「あぁ!俺のターン、ドロー!」

 

 

 

―!

 

 

観客達が盛り上がり、盛大な賞賛の嵐を降らした鷹矢のターンから一転、遊良のターンに入った瞬間に、声援の中にも批難の言葉が混ざり始めるものの…

 

 

しかし、そんな雰囲気の中で、まったく萎縮した様子も無く自らのターンを迎える遊良。

 

 

そう、遊良とて分かっている。

 

 

鷹矢の才能も、実力も…ソレが、既に賞賛に値するモノとなっていることなど。

 

そんな鷹矢を前にしたとことで、今更誰が萎縮したりするものか…歓声の中に混ざる確かな『否定』の言葉の数々も、今の遊良と鷹矢には届いては居らず…

 

 

 

―進撃を、始める。

 

 

 

「…魔法発動、【堕天使の追放】!デッキから【堕天使スペルビア】を手札に加える!そして【堕天使イシュタム】の効果発動!今加えたスペルビアと共に捨てて2枚ドロー!続けて【闇の誘惑】を発動!2枚ドローして【堕天使アスモディウス】を除外する!」

 

 

だからこそ、有無を言わせない鷹矢の佇まいに負けるわけにはいかないのだ。周りが煩いのならば、黙らせればいいだけ。

 

 

そう、批難の声も、賞賛に変えるほどの戦いを。

 

 

あるのは、目の前の『相手』へと向けた、感情の昂ぶりのみ。自分のターンに入った途端に、今にも場を爆発させたいくらいに昂ぶった自分のデッキを、遊良が押さえるはずも無く…

 

 

 

「2枚目の【闇の誘惑】も発動し、2枚ドローして【堕天使マスティマ】を除外!【トレード・イン】発動!【堕天使ゼラート】を捨てて、更にデッキから2枚ドロー!」

 

 

 

『来た来た来たぁ!天城選手の連続ドロー!流れるように、一瞬でカードが入れ替えられていくぞぉ!』

 

 

暴風の如しそのドロー、止まることなきその回転の連続は…一回戦、二回戦で彼が魅せ、観客達が大いに沸いた、遊良の基本戦術。

 

コレは決勝戦。となれば、必然的にここでの進め方は慎重さを求められているはずだと言うのに…

 

 

とは言え、別に遊良にとっては、何も考えていない回転などでは断じてない。

 

 

強者となった鷹矢を相手にしてもなお、いや幾度も戦ってきた鷹矢だからこそ、考えるよりも感じているのだ。

 

今必要な戦い方を、今取るべき戦術を。

 

 

―決して、負けないように。

 

 

「魔法カード、【堕天使の戒壇】発動!墓地から【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚し、そのまま効果で【堕天使イシュタム】も特殊召喚する!来い、堕天使達!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

鷹矢がいきなりモンスターを2体並べたのなら、遊良も負けじと2体のモンスターを場に召喚して。

 

そのどれもが妖しく空に浮かび、一つ間違えば謀反を起こしてしまうのではないかという危うさを見せているとは言え…黒き翼をはためかせ、今はただ主の進撃の命に従うのか。

 

 

人々を魅了しそうな美しき翼、誰もがその黒き羽ばたきに見惚れていて…

 

 

神に歯向かい天から追放されたとは言え、目の前で唸る2体の機械兵へと、その神秘なる天誅の力を炸裂させるべく軽やかに翻る。

 

 

 

「相変わらず、よくもまぁ簡単に高打点を揃えてくるものだ。」

「あぁ、お前に引き離されるわけには行かないからな!」

「…む?」

「まだまだ行くぞ、【堕天使イシュタム】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!俺が手札に加えるのは【堕天使ディザイア】!」

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

 

 

 

目まぐるしい遊良のデッキ捌きに着いてきている人間が、一体ここには何人居るのだろうか。

 

否定の言葉を投げる人間が居るとは言え…この大歓声を聞けば遊良に賞賛を与えている人間が大勢居ることは確かであって。

 

 

『これは凄い!これが決勝戦に昇ってくる選手の本領っ!天宮寺選手と天城選手!互いに2体の大型モンスターを場に揃えたというのに、全く息切れしてません!』

 

 

 

そう、先ほどの鷹矢と同じ、場に2体の大型モンスターを揃えておきながらも…LPが1000減ったとは言え…ここまで派手に動き回っても、遊良も手札消費が『実質的に0枚』なのだ。

 

鷹矢と同じだというこの状況を見れば、天城 遊良というデュエリストのデッキを操る力は、およそ鷹矢に負けていないのは誰の目にも明らかなこと。

 

だからと言って、遊良がこのままターンを終える様な真似をするわけ無いだろう。たった今加えた一枚を手札から取り、鷹矢へと攻撃をしかけるために、再び動き出すのだから。

 

 

 

「ディザイアか、なるほど…」

「【堕天使の追放】はデッキへ戻り…俺は【堕天使スペルビア】をリリース!レベル10、【堕天使ディザイア】をアドバンス召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【堕天使ディザイア】レベル10

ATK/3000 DEF/2800

 

 

 

 

「【堕天使ディザイア】の効果発動!攻撃力を1000下げ、【ギアギガントX】一体を墓地へ送る!やれ、ディザイア!」

 

 

堕天使の羽ばたきに呼応して、一体のギアギガントXが作り出していた影が伸び上がり…そのまま機械兵を飲み込まんとし暴れまわって。

 

いくら足掻こうとも、高位の存在の天誅を受けては、いくら機械の巨人でも成す術が無いのか。

 

 

 

【堕天使ディザイア】レベル10

ATK/3000→2000

 

 

 

足元から湧き出た影に飲み込まれ、そのまま機械兵の一体が成す術なく砕け散り…

 

 

間髪いれず、休ませる気などなく。遊良は、さらに攻撃をしかけるのみ。

 

 

 

「バトルだ!【堕天使イシュタム】で【ギアギガントX】に攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぬぅ…」

 

 

 

鷹矢 LP:4000→3800

 

 

 

 

 

『先制を取ったのは天城選手!これは意外な展開か!?』

 

 

 

前評判の高かった鷹矢に対して、微量ながらも『ダメージ』自体を与えた遊良に、どこか意外性を感じているかのような観客たちの雰囲気の中で…

 

 

猛々しくも麗しく飛び立つ堕天使達は、その攻撃の手を緩めるつもりなど一切無いだろう。

 

 

 

―まだ、止まらない。

 

 

 

 

「続けて、【堕天使ディザイア】でダイレクトアタック!」

「させん!罠発動、【戦線復帰】!墓地より【ゴールド・ガジェット】を守備表示で特殊召喚する!」

 

 

【ゴールド・ガジェット】レベル4

ATK/1700 DEF/ 800

 

 

 

しかし、そんな遊良の進撃を簡単に許すほど今の鷹矢は甘くは無く。

 

先行を重視せず、LPに頓着しないスタイルをとっているとは言え…こんな始まってすぐにLPを大きく削らせることは、鷹矢とて2回戦で既に味わっているために。

 

 

 

「ゴールドの効果で、手札から【シルバー・ガジェット】を守備表示で特殊召喚し、更にシルバーの効果で【レッド・ガジェット】も守備表示で特殊召喚!効果で【イエロー・ガジェット】を手札に!」

 

 

 

そうして、今は遊良のターンで、更に攻撃を仕掛けたのは遊良のはずなのに…

 

 

『天宮寺選手!何と相手ターンにも関わらず、罠一枚からの大量展開を魅せるっ!全く、一歩も引きません!』

 

 

自分のターンを終えた時よりも場のモンスターを増やし、その守りをより一層強固な物にしてしまった鷹矢。

 

 

たった一枚の罠から、いとも簡単にモンスターを並べて攻撃も防御も自由自在に操っているかのようなその振る舞いは…微塵も油断など感じさせない、まさに『壁』を越えた者のソレ。

 

 

―隙など無く、驕りも無く。

 

 

当たり前のことを、当たり前にやっているだけ…その当たり前のレベルが、当然のように高すぎるだけなのだから。

 

 

 

「まさか…伏せカード1枚でここまでしてくるなんてな…」

「ふん、甘いな遊良!この俺が、手ぬるい防御で様子を見ることなど最早ありえん!さぁ、どうするのだ?」

「くっ、ディザイアで、【ゴールド・ガジェット】を攻撃!」

 

 

 

黄金の歯車が、鎧の堕天使の攻撃に耐え切れずに成す術なく砕け散ったものの…それでも鷹矢の場には遊良が攻撃を仕掛ける前と同じ、2体のモンスターが揃ったままだ。

 

およそ遊良が操る【堕天使】の力、それは単純な攻撃力一つ、秘めた能力一つ取っても、鷹矢の操る【ガジェット】と比べても能力的に高いことはまず間違いないだろう。

 

しかしそんなモノなど、この戦いにおいては何の指標にもなりはしない。

 

どんなデッキを扱おうとも強者は強者。それは、この世界に生きる人間にとっては当たり前の事。

 

 

「くそっ、カードを2枚伏せてターンエンドだ。」

 

 

そう宣言する遊良の声は、持久戦に強い鷹矢に一刻も早くダメージを与えておきたかったと言わんばかりに響いて…それでもこれ以上の攻撃を行うことは出来ないのか、そのターンを終えた。

 

 

 

 

 

遊良 LP:4000→3000

手札:6→3枚

場:【堕天使イシュタム】

【堕天使ディザイア】

伏せ:2枚

 

 

 

「俺のターン、ドロー!先ずは【シルバー・ガジェット】と【レッド・ガジェット】でオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】!」

 

 

 

【重装甲列車アイアン・ヴォルフ】ランク4

ATK/2200 DEF/2200

 

 

 

ターンが一巡して早々に、機械族を直接攻撃させられる効果を持つ鉄の狼列車が勢いよく現れるも…

 

 

 

「やっぱりソイツで来たか!けどそいつはダメだ!罠発動、【奈落の落とし穴】!アイアン・ヴォルフを破壊し、除外する!」

「むっ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

すぐさま奈落へと落下してしまい、破壊による爆発音すら、奈落の底から除外されたためにソレは響かず…

 

相手に破壊されても後続を呼べるアイアン・ヴォルフの効果も…墓地へ送られなかったために、全くその意味を成してはおらず。

 

 

 

『何と!天宮寺選手のエクシーズモンスターが召喚と同時に大破!これは痛いか!?』

 

 

 

誰だってそう、折角召喚したモンスターを何の見せ場も無く片付けられたことは、この鷹矢にとっても気分がいいものでは決して無いだろう。

 

口惜しげに、遊良へと向かって口を開く鷹矢。

 

 

 

「…読んでいたか。」

「あぁ、お前のいつもの攻撃パターンを、俺が忘れるわけがないだろ。悪いけどお前に好きに攻撃させるつもりはないぜ。特にソイツは危ないからな。」

「…ぬぅ。」

 

 

 

これまで長い間、一緒に過ごして競い合ってきたからこその勘。

 

鷹矢の多種多様な攻撃の手、場に応じたエクシーズ召喚も、その全てを知る遊良にしてみればそれは全て想定内なのか。

 

確かに先ほどは鷹矢に攻撃を止められた。だからといって、鷹矢の攻撃まで簡単に許すつもりも遊良には無く。

 

 

 

「次は何だ?カステルか、ダイヤウルフか…それともまたギアギガントで次に備えるか…何が来ても喰らいつけるように、俺だって想定しているんだ。確かに今のお前は強いけど、俺だって引き離されるわけには行かない!」

「…そうか…なるほどな。」

 

 

 

『壁』を超えた者の怖さは、遊良とて分かっている。それは、いくら戦いなれた鷹矢であっても。

 

いや、だからこそ気を緩めず…鷹矢が何をしてこようとも、それに応じて喰らい付くために、常に思考を切らさないようにしているのだ。

 

 

それを聞いた鷹矢が、一体何を思うか。その遊良の言葉を聞いてもなお、気落ちした様子を見せずに続けて手札からカードを取るのみ。

 

 

 

「ならばこれだ!【ゴールド・ガジェット】を召喚!その効果で【イエロー・ガジェット】を特殊召喚!【グリーン・ガジェット】を手札に!」

 

 

 

【ゴールド・ガジェット】レベル4

ATK/1700 DEF/ 800

 

 

【イエロー・ガジェット】レベル4

ATK/1200 DEF/1200

 

 

 

「レベル4のモンスターが2体…」

「ゆくぞ!2体のモンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【励騎士 ヴェルズ・ビュート】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【励騎士 ヴェルズ・ビュート】ランク4

ATK/1900 DEF/0

 

 

鷹矢が召喚せしは、光り輝く騎士の一体。

 

大きな戦を幾度も生き残ってきたかのような佇まいは、歴戦で培われし風格を纏っているかのようであって…

 

全てを、吹き飛ばす。

 

相手より劣勢であろうとも、その剣の一振りで全てを無かったことにするその力は、相手にとってはただただ脅威に映る事だろう。

 

 

 

「お前のうっとおしい考えなど、全て吹き飛ばすのみ!」

「くっ…ダメージを捨てて、全体除去で来たか!けど…」

「ふん、考えすぎるのがお前の悪いところだ!全て吹き飛ばせは済む話だろうに!ヴェルズ・ビュートの効果発動!オーバーレイユニットを一つ使い、全て破壊する!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊良の言葉を遮るように、全く容赦の無い言葉が鷹矢の口から放たれて。

 

 

 

『す、凄まじい大爆発だ!天城選手の場が一掃されていくぅ!』

 

 

 

励騎士を中心にして爆発が起こり、この歓声をも飲み込みさらに巨大な衝撃波となりて遊良へと襲い掛かった。

 

 

 

「くっ、面倒だからって一気に来やがって!破壊の前に永続罠、【奇跡の降臨】発動!除外されている【堕天使アスモディウス】を特殊召喚する!」

「構わん!全て吹き飛ばせ、ヴェルズ・ビュート!」

 

 

 

まるで、襲いかかる衝撃波から主を守るかのように堕天使の一体が復活するも、そのまま衝撃波に飲み込まれていく光景は…

 

このターンのダメージを放棄したとはいえ、鷹矢の放った爆発の大きさを、より一層強調しているかのようにも見える。

 

 

しかし、遊良とてただ何も考えずに堕天使を呼び出したわけでは無いだろう。

 

 

衝撃波が収まり、観客の声が歓声となって戻ってくるのと同時に…遊良はこう宣言したのだから。

 

 

 

「アスモディウスの効果発動!破壊され墓地へ送られたため、【アスモトークン】と【ディウストークン】を、それぞれ守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【アスモトークン】レベル5

ATK/1800 DEF/1300

(効果で破壊されない)

 

 

【ディウストークン】レベル3

ATK/1200 DEF/1200

(戦闘で破壊されない)

 

 

 

 

『あ、天城選手も一歩も引かない!場が一掃されても、すぐさま立て直してきたぁ!』

 

 

転んでもただでは起きないように、絶対に場を開けないように。

 

きっと、ここで引き離されたら鷹矢の攻撃は一気に押し寄せてくることだろう。

 

それだけは絶対に阻止すべく、気を抜いたら一瞬で持っていかれる怖さを常に醸し出している鷹矢相手に、遊良も一歩も引かずに応戦して。

 

 

 

「無駄だ!ヴェルズ・ビュートの効果を再び発動!オーバーレイユニットを一つ使い、もう一度全て吹き飛ばす!」

 

 

 

―!

 

 

 

しかし、遊良のソレは鷹矢にとっても想定内のことなのか。

 

主を守る思念のように佇んでいた、2体の従僕が再度爆ぜた衝撃波に巻き込まれていき、その内の一体が原型を保てずに吹き飛ばされていって…

 

かろうじてソレに耐えたトークンが一体だけ残るものの、この衝撃波を喰らっては最早虫の息のようにも見えるだろう。

 

そんな従僕を見てもなお、鷹矢はそれすら存在することを許さぬかのように、さらに励騎士へと命じる。

 

 

 

「バトルだ!ヴェルズ・ビュートで【アスモトークン】へ攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐっ…けど、このターン俺にダメージは無い!」

「ふん、モンスターを残したくなかっただけだ。魔法カード、【貪欲な壷】発動。【ギアギガントX】2体、【ゴールド・ガジェット】、【シルバー・ガジェット】、【ブリキンギョ】をデッキへ戻して2枚ドロー…俺は1枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

鷹矢 LP:3800

手札:4→3枚

場:【励騎士 ヴェルズ・ビュート】

伏せ:1枚

 

 

 

『凄まじい攻防の応酬!これぞ決勝戦に相応しい戦いと言えるでしょう!お互いに一歩も引かずに全力で攻め抜いているぞぉお!』

 

 

 

一進一退の攻防と、互いに引かぬせめぎ合いは…見ている誰も、息のつけぬ応酬となって繰り広げられていて。

 

持てる力を出し、互いが互いを全力で攻めに行っているこの戦いの光景に、観客に興奮するなと言うほうが無理な話か。

 

目まぐるしく変わるフィールドの状況に、誰もが目を奪われ声を放って…

 

 

 

「俺のターン!ドロー!魔法カード、【貪欲な壷】発動!【堕天使イシュタム】、【堕天使スペルビア】、【堕天使アスモディウス】、【堕天使ゼラート】、【堕天使ディザイア】をデッキへ戻して2枚ドロー!続けて【堕天使の追放】を発動!【堕天使ゼラート】を手札に加え、【トレード・イン】を発動だ!今加えた【堕天使ゼラート】を捨てて2枚ドロー!…よし!【堕天使イシュタム】の効果発動!手札の【背徳の堕天使】と共に捨てて2枚ドロー!」

 

 

 

その中でも、遊良の勢いが益々増していくのが、誰の目に明らかになっているのか。

 

整えた場を一掃されようとも、止まること無きこのカード捌きと、流れるようにデッキを回転させているこの光景は…

 

 

『あ、天城選手!再び怒涛の勢いでデッキを回しております!ほ、本当にこれがExデッキを扱えないデュエリストの実力なのか!?』

 

 

まるでこの男にEx適正が無いことを、今にも忘れさせるかのようにも見えるのだろう。

 

 

 

「【堕天使ユコバック】を通常召喚!その効果で、デッキから【堕天使スペルビア】を墓地へ送る!3枚目の【闇の誘惑】を発動し、2枚ドローして【堕天使アムドゥシアス】を除外!そして【堕天使の戒壇】を発動!【堕天使スペルビア】を守備表示で蘇生し、【堕天使イシュタム】も再び呼び戻す!」

 

 

 

【堕天使ユコバック】レベル3

ATK/ 700 DEF/1000

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

 

―そう、ここまでデッキを操れるというのは、彼らが思い浮かべるような天城 遊良と言う『弱者』では、絶対に出来ぬ芸当。

 

 

Ex適正が無い…だったら大したモンスターなど出せるはずがない…そうだ、そんな雑魚はデッキだって満足に回せるわけが無い…だってあの男は、Ex適正を持っていないのだから…

 

 

全ての思考は、そう巡る。それが、この世界に生きる『普通』の人間の認識。

 

 

しかし、確かにExデッキから突如現れる煌びやかなモンスターは居ないものの…

 

彼の操る堕天使の羽ばたきに、目を奪われないと言う者の言葉など嘘にしか聞こえないことだろう。

 

鷹矢が切れることなくモンスターを呼び出したように、遊良もまた途切れることなく堕天使を羽ばたかせるのか。

 

イカサマや積み込みを疑って声を荒げる人間もいるだろうが、そもそもデュエルディスクに細工は出来ず、デッキから引いたカード以外は反応しないことは世界中の人間の常識であって。

 

 

 

「行くぞ、バトルだ!【堕天使イシュタム】で、【励騎士 ヴェルズ・ビュート】に攻撃!」

「むぅ…【背徳の堕天使】が墓地に…これはまだ使えんか。」

 

 

 

魅惑の堕天使の放った光弾が、光り輝く励騎士を撃ち抜いて。

 

相手のバトルフェイズにもその衝撃波を弾けさせられるヴェルズ・ビュートと言えども、先ほど『2回』も遊良に場を一掃させられては、その衝撃波を再度打ち出すことは叶わず。

 

 

 

鷹矢 LP:3800→3200

 

 

 

「まだだ!【堕天使ユコバック】でダイレクトアタック!」

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぬぅ…」

 

 

 

 

鷹矢 LP:3200→2500

 

 

 

 

『凄い!凄いぞ!準決勝の様子が嘘のように、押しているのは天城選手!これが『Ex適正の無い』人間の戦い方か!?この戦況を見れば一目瞭然!断然、天城選手が押しているっ!』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

前評判や、『あの天城』の噂に振り回されていた人間からは絶対に想像できないような展開が繰り広げられていることは…最早誰の目にも確かなことであって。

 

 

―確実に、かつ着実に。

 

 

少しずつとは言え、その攻撃によってLPを削って、優位に立っているのは確かに遊良の方なのだ。

 

 

誰がこんな流れを想像できただろうか。『Ex適正』を持たないデュエリストが、よもやここまで王者の孫を超えんとする気概を見せ付けて来るだなんて。

 

 

彼らの関係など、観客たちは知らない。ずっと、知ろうともしなかった。

 

 

そんな彼らの中にあった喧騒は、次第に興奮の坩堝へと変わっていき…それを、嬉々として遊良に降りかからせていた。

 

 

 

「【アドバンスドロー】発動!スペルビアを墓地へ送って2枚ドロー…よし!俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

遊良 LP:3000

手札:4→2枚

場:【堕天使イシュタム】

【堕天使ユコバック】

伏せ:2枚

 

 

 

勢いも戦況も、今押しているのは確実に遊良。

 

その勢いに感化され、観客たちの盛り上がりもより一層大きくなっていくのが誰の目にも明らかなモノとなってきているのか。

 

 

 

 

そんな中…

 

 

 

 

 

「フッ…やはり、か。」

 

 

遊良がそのターンを終え、再び鷹矢にターンが回ってきたというのに…突如その手を止め、鷹矢は静かにそう呟いた。

 

その言葉は、どこか納得したようで、それでいて少し嬉しくもあり寂しくもありと言った様子にも見えて…

 

急にその手を止めた鷹矢の言葉に、にわかに会場がざわつき…その姿が遊良にとっても不思議だったのか、聞き返すようにして遊良も口を開く。

 

 

 

「…どうした?劣勢に追い込まれて焦ったか?」

「そんなわけあるか。…分かったのだ。今の攻防ではっきりと。先ほどからお前が言っている言葉で確実に。」

「…あ?」

 

 

 

 

何かを理解したかのような鷹矢の言葉…それは、ここまで手を合わせて感じたからこそ感じた彼の言葉。

 

 

 

「何度蹴散らしても蘇り、お前の場に集う堕天使達。その無茶苦茶なドロー…やはりお前のデッキはおかしいと言わざるを得ん。俺には絶対にお前のデッキは回すことは出来んだろう。」

「…なんだよ、急に。」

「急ではない。昔から、お前のドローは特に馬鹿げていたからな…なぜそのデッキで回るのか不思議でならん。」

「それは…」

 

 

 

そんな鷹矢の口から綴られる言葉は、今このバトルを含めて、更に『あの頃』の遊良を思い出してもいるのだろうか。

 

Ex適正など関係なかった幼等部の頃。好きなカードを好きに繰り出して、思うが侭にデュエルしていたからこそ、誰もが『ここぞ』という時にキーカードを引けていた幼少期の勢い。

 

誰もが成長の過程で『Ex適正』を得て、効率化を求め、デュエルにかける『何か』を忘れていくのに…ソレを、そのまま『今』も続けているような遊良のデュエルは…

 

 

「だからこそ、俺にはわかるのだ!」

 

 

いや、『Ex適正』を得られなかった遊良だからこそ、今もソレに頼っているようにも感じるのだろうか。

 

 

「さっきからお前が言っている、『引き離されない』とか、『喰らいつく』とか…そんな言葉を並べているのがいい証拠!」

「…何が言いたいんだよ、お前は。」

「俺に『きっかけ』を与えるために、あえてダメージを減らしていた十文字 哲ならばまだしも…このターンのダメージ量、俺を仕留めきれなかったことで確信したぞ。」

「…あ?」

「…遊良、お前はまだ…『壁』を超えていないな?」

「…ッ!?」

 

 

 

別に、隠していたことではない。

 

師との修行…いや、一方的な蹂躙を一晩中耐え、夕方までそれを繰り返しながら考え抜いたとは言えども。

 

今の遊良の実力は、まだ『壁』を乗り越えるには至っていないのだろう。

 

確かに『壁』を乗り越えにかかっていることは確かなのだが、それでもソコに立っている者と比べれば…

 

 

まだ、足りない。

 

 

 

「いや、超えていないというよりは…体半分ぶら下がっていると言うべきか。堕天使の『底上げ』があるのか、瞬間的に『ここ』を乗り越えて俺を歯牙にかけようとする怖さはある。しかし…」

「あぁ、確かにまだ足りないのはわかっているさ!けどな、だからこそ一瞬!一瞬あれば十分だ、お前が隙を見せたら…」

「隙など無い!お前のその爆発的な強さを知っているのは、誰よりもこの俺なのだからな!行くぞ、俺のターン!ドロー!【ブリキンギョ】を召喚!効果で【グリーン・ガジェット】を特殊召喚!【レッド・ガジェット】を手札に!」

 

 

 

【ブリキンギョ】レベル4

ATK/ 800 DEF/2000

 

 

【グリーン・ガジェット】レベル4

ATK/1400 DEF/ 600

 

 

 

 

遊良の言葉を遮って、勢いよくデッキからカードを引き、その場に2体のモンスターを並べた鷹矢。

 

 

遊良の力がまだ『壁』を超えるに至っていないことを感じつつも…それでも、瞬間的に『ここ』に足を踏み入れる鋭さも、鷹矢には十二分に理解出来ていて。

 

それが、彼が身を削って得たモノによることも、一番付き合いが長い鷹矢だからこそわかるのだろう。

 

 

ずっと、彼と共に生きていたのだ。だからこそ、誰よりもその怖さも諦めの悪さも…遊良の、一瞬を抜けるような攻撃を知っているからこそ、油断はせず隙も見せず。

 

 

一切手を抜くつもりなど無い鷹矢…遊良の『今』の実力を感じ取ったくらいで、呆れることなど絶対にしないはず。

 

 

隙を見せたときが自分の最後。『Ex適正が無い』というハンデを背負っても、ここまで『生き』抜いてきた遊良の強さは、鷹矢が一番よく知っているのだから。

 

 

 

「なぁ遊良…この大会で、お前は何を得た?」

「…は?な、何って…」

「二回戦、準決勝はまさに俺にとって収穫が多かったぞ。」

 

 

そんなこの男が、素直にこう言う台詞を吐くのは遊良にとっても珍しいのか。

 

 

唯我独尊を貫かんとしている普段の彼からは、およそ出てこないであろうその言葉に…遊良とて、『成長』という言葉と共に驚愕を禁じえない様子が浮かんでくるのは仕方がないことだろう。

 

そう、鷹矢にとっては、本当に心から『収穫』が多かったのだ。

 

 

そんな驚いた顔をしている遊良を意に介さず、鷹矢はさらに言葉を紡ぐ。

 

 

 

「なぜなら紫魔の女には、一つの信念を貫く強さを…それを知らなければ、十文字 哲には勝てなかっただろう。…そして、その十文字 哲からは『壁』を越えるきっかけと、そこに至った者の強さを知った!おかげで、俺はまだまだ強くなれることがわかったのだからな!」

 

 

鷹矢が、どこかその才能に身を任せ、【決闘祭】を舐めていたことは否めない。

 

しかし、そんな鷹矢だったからこそ、これまで【決闘祭】を通して彼が得たモノは大きく、また彼の確かな血肉へと変えられているのだろう。

 

祭典の前よりも、一回りどころか二回りは大きく成長した鷹矢。元々の才能と受け継いだ血筋…それが大いに覚醒し、今の彼を形作っていると言っても過言ではなく。

 

 

 

「全力で戦うと約束したからには…見せてやろう!この俺の全力を!」

 

 

 

―!

 

 

 

「うぉぉぉぉお!」

 

 

 

鷹矢から放たれる覇気が一層激しくなり、観客たちの轟きを押し返して。

 

これまでの鷹矢のモノではない、遊良の知らぬ領域の実力を見せようというのか。これより行おうとしている現象に備えて、力を込めている鷹矢の雄叫びが木霊し…

 

 

 

―そして

 

 

 

「お前ガ【堕天使】ヲ得タのナラバ、俺モ新たナ『力』ヲ得ヨウ!…コノ『闇』ヲ利用シテ!ウォォォォォオ!」

「なっ!?た、鷹矢!そ、それは!」

 

 

 

 

 

…その時、鷹矢の雄叫びを受け、遊良が驚いたような声を漏らした。

 

なぜなら遊良にとってコレは、何があっても忘れることなど出来ないモノ。

 

 

 

―忘れるわけが無い、忘れられるわけが無い。

 

 

 

遊良の表情が段々と険しくなるに連れて、鷹矢の叫びが更に大きくなっていき…

 

鷹矢の姿が仄かに揺らめき、彼の周りに『何か』が漏れ出して漂っている様子は、まるで彼がソレを纏って、己の血肉へと変えているかの様でもあって。

 

 

 

「なんでお前がソレを!」

 

 

 

絶対に容認など出来ない、遊良の脳裏に焼きついた『悪意の塊』。

 

地図に無いルード地区で見て、選抜戦で蒼人と争って…どれも命をかけた、絶対に負けられないデュエルをしたからこそ、遊良は『コレ』だけは何があっても見逃すわけには行かないのに…

 

 

―そう、鷹矢の雄叫びに呼応して、彼の足元から漂い始めるソレは、まさしく『黒い靄』だったのだから。

 

 

 

「鷹矢…お前…」

「これガ遊良、お前ト戦ウ為ニ隠しテ置いタ、俺ノ『取って置き』ダ!準決勝デ仕方無ク『少し使って』しまッタが…しかシ!マダマダ十分!」

 

 

 

猛り大きくなる鷹矢の覇気に反比例し、遊良の姿が小さくなってきていて…

 

 

…その事実が、遊良には信じられないかの様。

 

 

「それ…俺、話したよな?ルードで死に掛けたってことも…泉先輩のことも…お前に…」

「ウム!ソレガどうしタ!」

「危ないって…教えてたよな?なのに…なんで…」

「フッ、知れタ事ヲ。お前ガ何か分からなイ物カラ【堕天使】ヲ得タと言うノに、コノ俺ガ何モ得ラレてないノハ『不公平』でハないカ!」

「…は?」

 

 

 

鷹矢の口から語られる台詞は、まさしく彼の本心で。

 

何と言う単純な考え、何と言う負けず嫌いな思考。

 

 

 

「ダカラ俺モ『力』ガ欲しかッタ!お前がソレを、己ノ身ヲ削ッテ得タならバ、俺モこの身ヲ削ッテ『力』ヲ手二入れルだけダ!」

 

 

 

『黒い靄』を纏っているとは言え、悪意に塗れてはおらず、その心から『力』を欲している様子は、遊良だからこそ考える前に理解出来たのか。

 

 

…それでも

 

 

「グッ!…コイツ…昨日少シ開放シタせいカ…調子ニ乗リおッテ…」

「鷹矢!」

 

 

 

遊良にも見て分かるくらいに、徐々にソレが鷹矢を蝕み始めていて…

 

 

昨日までは体内に留めているに過ぎなかった靄を、今は表に出しているのだ。その暴れようは昨日までの比ではなく、容赦なく鷹矢を乗っ取りにかかっているかのよう。

 

 

 

―せっかくの、決勝戦だったのに

 

 

 

やや苦しそうに胸を押さえている鷹矢の姿に、遊良にはその不安がはっきりと押し寄せてきていて

 

 

お互いに、納得のいく戦いが出来ると思った…全力で、ただデュエルが出来ると思った…コレの怖さは遊良もよく知っていて、コレの不条理さだって理解できている…

 

 

焦ったように声を漏らし、悔しそうに鷹矢の名を呼ぶ。何故もっと早く気付いていなかったのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

―その時

 

 

 

 

 

 

「調子ニ…のるなぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

鷹矢が盛大に吼え、それに伴って彼に纏わり付いていた『黒い靄』の勢いが増し…

 

 

―放出、開放、体内からの噴出

 

 

『な、なななななななんだこれはぁぁぁぁぁあ!コレも何かの演出なのかぁぁあ!?』

 

 

 

実況の混乱したような声が響き、それに伴い観客達の声も歓声から驚愕のモノとなって木霊して。

 

まるで鷹矢が、己の体内からソレを追い出しているかの様子。頭上でソレが集まり膨らみ、一気に巨大な球となりて妖しく輝き始めた。

 

 

靄の集まりだと言うのに、月明かりに照らされているソレはまるで黒い宝石。

 

 

突如として現れたこの『黒い宝石』に、観客達もあっけに取られて上を見上げ…皆が皆、意味のわからぬ唐突な光景を飲み込めていない様子。

 

 

そして…静かに…

 

 

 

 

 

―ソレは、響く

 

 

 

 

 

―テングウジ タカヤ…『何』ヲ望ム…

 

 

「『力』だ!遊良が得た『力』に負けないモノを!俺は欲する!」

 

 

 

 

直接頭の中に響いているような、脳を直接揺らされているかのような、そんな不快感のある『振動』が誰の耳にも届き始めて。

 

急に聞こえ始めたその気味の悪い声に、実況は口を開けたまま、観客の中には悲鳴を上げたり怯えたりしている者までいる始末…

 

 

 

―ヨカロウ…貴様ニ望ムモノヲ…

 

 

「うむ!」

 

 

―シカシ…ソノ『代償』ニ…

 

 

 

その中で、『代償』を要求してくるこの『声』に対しても、いつもと変わらず何の恐れも怯えも見せない鷹矢に対して、遊良は声を荒げて、ソレを止めにかかる。

 

 

 

「やめろ鷹矢!お前、自分が何言ってるのかわかってるのか!?」

「わかっている!黙って見ていろ!」

 

 

 

しかし、そんな遊良を意に介さず。

 

鷹矢は自らが弾き出した『ソレ』に対しても、どこまでも堂々と声を交わすのみ。

 

 

 

―『代償』ニ…オマエ自身ヲ…頂ク…

 

 

 

 

 

声が最後の審判を下した…

 

 

 

 

 

―その時だった。

 

 

 

 

 

「…何を言っている?俺は、何も差し出さん!」

 

 

 

―…ナニ?

 

 

 

「俺が欲する力とは…己の『身』を削り!『心』を磨り減らし!そうして得る確かな『力』だ!お前に貰うのでは無い!お前を喰らい、俺の血肉として変えるのみ!俺からお前に差し出す代償など何も無い!」

 

 

 

この得体の知れないモノに対しても、どこまでも引かず、省みず。

 

 

全て、彼の思うがままに。

 

 

コレが『悪意』だと言う事は置いておいても、他人から善意で『与えられた』モノでは、彼が手に入れたい『力』では無いのだ。

 

 

それは遊良が得たのと同じ…何かを我慢し、プライドを捨て、思いを諦め…

 

 

そうして『身を削って』得た力でないと、鷹矢自身が納得できないのだから。

 

 

 

「…すでに、ジジイから『身を削って』ソレは得ている。お前からは、一向に言う事を聞かん『ソイツ』を操るための実力…『壁』を超えるきっかけを掴ませてもらったまで!それを随分と調子に乗ってくれたものだ…もうお前に用は無い!」

 

 

 

神をも恐れぬその所業。鷹矢にとって、利用できるモノはなんだって利用するだけ。それは祖父であっても『コレ』であっても…そして、『それ以外』であっても。

 

 

ただ、遊良と…高き力で、全力で戦うために。

 

 

鷹矢は己のデュエルディスクのExデッキ部分を開いて、中から1枚のカードを取り出すと…

 

 

 

 

 

―ソレを、掲げ始めた。

 

 

 

 

 

それは…

 

 

 

 

「は…白紙の…カード?」

「うむ!…さぁ、調子に乗った用済みの闇よ!己の罪の大きさを悔やみ!俺の糧となりて、その力を…俺によこせぇぇぇぇえ!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

―グォォォォォォォオ!?

 

 

 

 

その瞬間、突如セントラル・スタジアムの中に暴風が巻き起こり、観客席までも飲み込んで暴れまわった。

 

 

 

―その中心にいるのは紛れも無い鷹矢自身。

 

 

 

巨大な黒い宝石の真下で、白紙のカードを掲げ…

 

妖しく輝くそのカードは、これまでも鷹矢を蝕もうとして暴れていたこの『闇』の勢いを、頭ごなしに押さえつけるかのよう。

 

いや、実際にこれまでも『このカード』が押さえていたのだ。その正体など、鷹矢自身すら分からぬモノであるし、そもそも興味も無いかのように…

 

自分を守っていたことなど気付いてもいない鷹矢は、『このカード』が暴風を巻き起こし、それに付随して謎の『声』が呻きとなって響いくことなど、まるで意に介さず。

 

 

―ただ、力とするだけ。

 

 

その暴風に巻き込まれ、宝石が再び『靄』となり散り散りになって砕けていくと…鷹矢の掲げているカードに吸い込まれるようにして、その巨大な姿を消してい行き…

 

 

 

 

 

―そして…その暴風が消えゆくと同時に…

 

 

 

 

 

 

「俺は2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 

 

突如響き渡る鷹矢の声、デュエル続行を告げる彼の宣言。

 

およそ演出では無いであろう『暴風』に混乱している観客と実況すら、その意に介すことはまるで無く。

 

こんな超常現象が、大勢の観客の前で起こったと言うのに、それすらデュエルを中断するには至らない程度と嘲笑うかのように…その声は、澄んでいて。

 

 

 

―オーバーレイネットワークを、構築

 

 

およそ、この世界で行われるエクシーズ召喚のための宣言からは、聞き覚えることが無いであろうその『単語』が、鷹矢の口から放たれた。

 

 

しかし、遊良にとってはどこか聞いたことのあるような、その『単語』…誰が言っていただろうか、少し前に聞いたような…そんな、驚きの顔、驚愕の声。

 

 

 

「エクシーズ召喚!出でよ、ランク4!」

 

 

そんな目で片割れを見る遊良の視線を突き刺されていてもなお、鷹矢はその声を静めることなく言い放つ。

 

 

 

 

 

―ここに、現れるは…

 

 

 

 

 

「【No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク】!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

夜の空から、静かに降りるは叙事的な装様をした黒き覇王。

 

 

悲鳴を奏で、狂気を演じ…自由奔放に響き渡りしは何にも形容できない『コレ』独特のモノ…

 

 

 

 

【No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク】ランク4

ATK/ 0 DEF/1200

 

 

 

「な、【No.】!?何だよこのエクシーズモンスターは!?」

 

 

突如現れた、謎のエクシーズモンスターに、遊良がそんな声を漏らした。

 

いや、遊良だけではない。誰もが、この見たことの無い新たなモンスターに驚き、そしてその誕生に、驚愕と共に興奮が戻ってきている様子。

 

 

その正体も、その原因の出自も…およそここに居る『人間』には、決して理解出来ぬ現象が起きていて。

 

 

その名前にある、何かを現す数字の意味…それが『80』ということは、他にもこんな見たことの無いカードがあるのだろうかと憶測するのがやっと。

 

 

…この世界で、デュエルの最中に新たなカードが創造されることは稀にあるコト。

 

 

それは誰かが知っているモンスターであったり、誰も見たことのないモンスターであったり。

 

これは、後者。この世界に創造された、誰も知らぬ新たなカードは、紛れも無い鷹矢だけしか知らぬ『力』だ。

 

 

 

「うむ…何が出来るのか分からなかったが…しかし成功のようだ。」

「な、なんだよコレ!お前、一体何して…」

「む?お前も見ていただろうが。『創った』だけだ、『闇』を糧に、新たなカードを!お前は複数枚の【堕天使】のカードを得ただろう?だったら俺も一つでは足りんからな!」

「だったら、コレを造ったあの『白紙のカード』は何だ!俺の知らないカードを、お前が持っているはずが…」

 

 

 

 

今目の前に現れた、誰も知らぬ【No.】よりも、今の遊良の疑問は、一重に先ほど鷹矢が掲げて、妖しく輝いていた『白紙のカード』に注がれていて。

 

 

そう、準決勝の鷹矢の戦いを見ていないとは言え、それ以外に遊良が鷹矢の持っているカードを把握していないことなど、彼らにとってはありえないことなのだ。

 

 

…すぐに散らかす鷹矢の部屋の片付けを、普段からしているのは遊良だし…鷹矢の持っているカードを整理して、整頓してやっているのだってもちろん遊良。

 

 

しかし、鷹矢が先ほど掲げていた『白紙のカード』の存在など、遊良は知らない。その出自も、その存在も。

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「…あったのだよ遊良。俺が、お前の知らぬカードを得られた時が!」

「なっ!?い、一体いつ…」

「考えてみろ、俺のデッキに、お前の知らぬカードが入っていた時は…一体いつだ?」

「いつって…そんなことは…」

 

 

 

 

 

鷹矢に起こったであろう事を、鷹矢に促されるまま考える遊良。

 

…いつだ、一体。自分のあずかり知らぬ場所で、あの鷹矢がデッキに、自分も知らないカードを入れられた時は…と。

 

 

 

そんな時があっただろうか、そんな場面があっただろうか…

 

 

 

考えて、考えて。思考を止めずに、考えて…

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

 

 

 

―すぐに、至る

 

 

 

 

 

 

―『そうだよ、君のお友達の男の子のデッキさ。僕デッキ持ってなくてさぁ。丁度良いからこっそり借りたんだ。』

 

 

…デッキを、借りた。デュエルディスクではなく、『デッキ』を。

 

 

―『あの男の立っていた所に奴のディスクも落ちていたがデッキも無事だった。』

 

 

…奴のディスクが、落ちていた。デッキだけでなく、『デュエルディスク』が。

 

 

 

「お…お前が今してるデュエルディスクって…まさか、『奴』の…」

「うむ!遊良よその通りだ!俺とルキを襲った『奴』のディスクに、この『白紙のカード』が入っていたのだ!お前にバレると煩いからな!俺が今まで隠して置いただけのこと!」

 

 

 

忘れもしない、忘れられるわけがない。

 

鷹矢とルキが死にかけ…自分にとって、最大の選択を迫られた『あの時』のことを、遊良が忘れられるわけがない。

 

人形のような『あの男』とのデュエルで、『鷹矢のデッキ』を勝手に扱われ…

 

『Ex適正』を捨てるという、持っていた希望を捨て、文字通り『身を削って』まで堕天使を得た、あの時の戦いを。

 

 

市販されている、オーソドックスな形で見分けは付かないとは言え…いくらなんでも、自分を殺しかけた『奴』のデュエルディスクを、何の躊躇も無く扱うことすら遊良には信じられないことであって。

 

 

 

 

「その後、コイツが『闇』を吸い込むことをルード地区で知り…【決闘祭】まで市内で集めていたのだが、それがこんな形で現れることまでは知らなかったがな!」

「だ、だからって…あんな奴のディスクと、よくわからないカードを使うなんて…って、『闇』を集めてたって!?」

「うむ!特に夏休みは動きやすかったぞ。何せお前は夜10時には寝てしまうからな!おかげで夜出歩くのに苦労はしなかった!」

 

 

 

遊良の驚愕すら意に介さず、なんの躊躇いも無くそう言い放つ鷹矢。

 

 

…そう、規則正しい生活を送る遊良の目を盗んで、夜な夜な街へと繰り出して…

 

 

時折市内に現れる『飲み込まれた人間』を相手に、その『闇』を己の糧として喰らい続けて溜めていたのだ。

 

 

―夜中まで起き、闇を集めて。昼まで寝て、闇を抑えて。

 

 

また、闇がイースト校の内部にも現れたこともあるのだが…いままで惨事になっていないのは、この男が迅速に喰らっていたことも大きいのでは無いか。

 

 

―全ては、この時のために。

 

 

無論、その裏で修行と称して鷹矢に指示を出していたのが彼の祖父であるのことも、遊良は知る由もないが。

 

 

 

「じゃ…じゃあ、泉先輩のあの変貌は…」

「お前を怒らせたあの3年生か。うむ、確かにあの華奢な男からも『闇』を喰らった!お前に負けて、既に放出寸前だったからギリギリで危なかったがな!」

「なっ…お、お前って奴は…泉先輩に、なんてことを…先輩に、あんな怪我を…」

「ふん!そんなことなど知らん!俺の糧とするために喰らったのみ!寧ろ感謝して欲しいくらいだ!」

 

 

 

反省の色も無く、謝罪の心も無く。

 

その彼らの交わす言動にどこか『ズレ』が生じているような気がするものの、あっけらかんとそう言い放つ鷹矢の言葉に、遊良の心には確かな怒りが積もってきていて。

 

また、それと同時に蒼人にも申し訳なさが浮かび上がってくるのは、どうしても仕方のないことなのか。

 

 

 

「…も、もっと早く気付いていれば…」

 

 

 

鷹矢を、止められていれば。きっと、蒼人はあんな怪我をしなくても済んだのではないだろうか、と。

 

まるで、鷹矢の保護者のような観念でそう思ってしまう遊良の心には、今目の前に現れたばかりの、見たことも聞いたことも無い【No.】という新種のエクシーズモンスターなどどうでもいいと言わんばかりに曇ってきていて。

 

 

 

―そんな遊良の感情を吹き飛ばすかのごとく、鷹矢が口を開く。

 

 

 

「…遊良、何を気を抜いている!まだデュエルの途中だ、そんな暇などお前には無い!」

「何を…この馬鹿やろ…」

「言ったであろう!この俺の『全力』で、お前と戦うと!俺はまだ、『全力』を出していないのだぞ!」

「なっ!?」

 

 

 

言葉を遮り、声を荒げて。

 

『壁』を超え、才能も実力も己のモノとしている鷹矢のその言葉は、確かな真実となって遊良に届いたのか。

 

申し訳なさや驚愕と言った、およそデュエルにおいて『どうでもいい感情』に囚われそうになった自分の片割れを鼓舞するように…

 

または、デュエルの最中で気を抜きかけた愚か者を叱りつけるかのように、鷹矢はその手札から1枚のカードを取ると、それを発動した。

 

 

 

 

「どうせお前の事だ、その伏せカード…【デモンズ・チェーン】でも伏せているのだろう?魔法カード、【ナイト・ショット】を発動!お前の伏せカード一枚を破壊する!」

「し、しまった!」

 

 

 

幼馴染は伊達じゃない。遊良が鷹矢の手を読んでいるように、鷹矢だって遊良の手は読める。遊良の防御の手を軽々しく打ち抜く鷹矢の策もまた、遊良にとっては脅威そのもの。

 

 

打ち抜く弾丸、死角からの一発。

 

 

鷹矢の宣言どおり、デモンズ・チェーンが成す術なく破壊され…さらに鷹矢はその手を止めずに動くのみ。

 

 

 

「うむ、狙い通りだ!【死者蘇生】発動!墓地から【シルバー・ガジェット】を特殊召喚し、更に【レッド・ガジェット】を特殊召喚!【イエロー・ガジェット】を手札に!」

 

 

 

【シルバー・ガジェット】レベル4

ATK/1500 DEF/1000

 

【レッド・ガジェット】レベル4

ATK/1300 DEF/1500

 

 

 

 

「では、見せてやろう…遊良、お前に!この俺の『切り札』を!」

「はぁ!?お、お前が切り札!?」

 

 

 

 

その瞬間、鷹矢の放ったその『単語』が、何よりも衝撃的であるかのように振舞う遊良。

 

 

 

準備が整った様に…その体を構えなおすかの様に。

 

 

―まるで2体のレベル4モンスターを揃えることなど、どんなことよりも簡単だと言わんばかりに。

 

 

遊良だからこそ知っていること…

 

 

 

…そう、今までの、どんな鷹矢の言葉よりも衝撃的な単語。感じた怒りすら、一瞬忘れてしまいそうな、そんな衝撃。

 

 

 

一枚のカードに拘らない鷹矢なのだからこそ、多種多様・自由奔放が信条の彼が口にした、その『切り札』という単語は凄まじく革新的で衝撃的な言葉であって。

 

 

 

「そ、そんなモノ、俺は知らないぞ!お前が、『切り札』に拘るなんて!」

「うむ!今まではそうだろうな!」

 

 

 

しかし、これといった『切り札』を持たず、その状況に応じて戦法を変え…天高く飛び回る『鷹』の如き戦いを魅せる彼だからこそ、『砦』を持たないその才能を、どこか持て余していたのも事実。

 

 

 

―そんな中で、彼を変えた十文字 哲との戦い。

 

 

 

そう、『なんとなく』で多様な戦術を行うのでは無い、確かな信念を持って戦う強さを…鷹矢にとって、『壁』を超えるきっかけを得られたあの戦いの、その後のこと。

 

 

―『やはり、俺にはコレが性に合っているのだろう。一つの戦法に拘ることは、どうにも窮屈でたまらん。』

 

 

ルキの『本気』を幾度も相手にし、その中で見つけた鷹矢の答え。自由自在の戦術を、『なんとなく』から『本気』に昇華させたからこそ言える言葉。

 

『切り札』であっても、『頼る』のではなく『象徴』として。

 

…彼の取るべき戦術の、『砦』となるべく存在を。

 

 

 

 

「…屈辱的だったぞ…無念だったぞ!決して頼らぬと決めた相手からの施しは!」

「な、何言って…」

「しかし、それも最早どうでも良い事!お前が『プライド』を捨てて得たのならば、この俺も『プライド』を捨てよう!そうして得た力だからこそ!この俺の『切り札』と呼べるモノとなるのだ!ゆくぞ!2体のモンスターで、オーバーレイ!」

 

 

 

鷹矢の足元に現れる銀河、その中へと吸い込まれていく2体のモンスター。

 

同じレベルを持つモンスターを使い、レベルを持たぬモンスターを生み出す召喚。

 

 

エクシーズ名家、天宮寺一族の一人…その筆頭である祖父に倣うかのように、鷹矢はその手を掲げ…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「天音に羽ばたく黒翼よ!神威を貫く牙となれ!」

 

 

 

およそ、世界で知らぬ者など居ないであろう口上を放ち、その勢いを増していく鷹矢。

 

それを聞いた誰もが、絶対にこの戦いに…いやどの戦いにも現れることの無いであろうソレを想像し…

 

 

 

「なっ!?鷹矢!その口上は…先生の!?」

「うむ!これがプライドを捨ててまでジジイから得た…俺の…『切り札』だ!エクシーズ召喚!」

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

黒翼が…現れる。

 

 

 

 

 

今、ここに。

 

 

 

 

 

 

 

「【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それは、漆黒の翼だった。

 

 

 

天に羽ばたく雄雄しき翼と、神すら切り裂く鋭き牙が月下に輝いて。

 

 

この世界で、たった一人の人間…いや【化物】にしか扱うことを許されぬソレが、よもや学生の戦いに馳せ参じることなど、一体誰が思い浮かべられようか。

 

 

―黒翼…牙竜

 

 

 

 

 

 

 

『こ、ここここここここここここ【黒翼】だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!な、何故ここに【黒翼】がぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

我を忘れた実況の声と、驚愕の喧騒を打ち鳴らす観客たちの声が反響し…セントラル・スタジアムを飛び出して、決闘市内全域で轟くソレが限りなく天を裂くような勢いで弾き渡って。

 

 

…実況や観客達が驚くのも無理は無い。

 

 

新たに生み出された【No.】の誕生すら霞む程に、このステージにエクシーズ召喚されたこのモンスターのことは…

 

ここにいる誰もが知っていて、そして誰もがその『強さ』を理解している。

 

 

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4

ATK/2500 DEF/2000

 

 

 

―この世界に、たったの1枚。

 

 

 

彼がこのモンスターを駆るからこそ、天宮寺 鷹峰は【黒翼】の名で呼ばれ…このモンスターが彼を選んだからこそ、【ダーク・リベリオン】は【黒翼】となるのだ。

 

 

…世界に轟く王者【黒翼】が操り、他の追随を許さぬ圧倒的な『強さ』をもってして、世界にその名を知らしめたそのモンスターの内の『一体』。

 

 

―【黒翼】の『片翼』…

 

 

 

神にすら(ダーク)()歯向かう者(リベリオン)

 

 

 

 

「…これは驚いた。まさか鷹峰さんともあろうお方が、『片翼』とは言えあのカードをまさか孫に渡していたとは…」

「カカカッ、どーだ言ったとおり、面白れぇ展開になっただろうが。ちっと前にあのガキ共を競わせたことがあってよ…孫の方が勝ち越しやがったから、ちっとその褒美になぁ。」

 

 

その予想だにしなかったモンスターの登場に、王者達の居る特別展望席ですら驚きの雰囲気がただよっていて。

 

以前、鷹峰がルード地区で弟子達を競わせ…そして鷹矢が勝ち越したために、秘密裏に鷹峰が渡していたのだろう。

 

鷹矢とて、そのとんでもない『希少価値』ゆえに他言は出来ず。この日、この時、この瞬間のために隠しておいた、紛れも無い鷹矢の切り札…鷹峰の、祖父の『名』。

 

 

【王者】の『名』そのものとなる、たった一枚の特別なモンスター。

 

 

 

―誇りと称号、強さと信念

 

 

 

その全てを、その一枚で全て体現するのだ。長い長い世界の歴史で見ても、その名を持った【王者】以外に、【王者】のカードを操った者は居らず。

 

 

 

「…いやいや、『ちょっと』どころじゃないっしょ!いいのかよジイサン、【ダーク・リベリオン】っていやぁ、下手したら国が2つは買えるカードじゃんか。いくら孫だからって、そんなカードやって…」

「あぁん?…んなもん、レプリカに決まってんだろーが。李の会社に無茶言って、渋る奴に無理やり作らせたんだってーの。何せアイツは俺様に恩があっからなぁ。」

「いやいや、レプリカつったって、あんなガキンチョが召喚できているのが不思議なくらいじゃん…」

 

 

そう、絶対にありえない例えではあるが…一般人が【王者】のカードを持った所で、けっして彼らは言う事など聞かず。

 

【王者】以外がデュエルディスクにおいても、条件が整っているはずなのに全くソレは反応しないのだ。

 

まるで、選ばれし【王者】の『名』そのものになるようなカードには、確かな魂が宿っているのかと思うくらいに…かつてのたった一つの『例外』を除いて、他の誰の言うことも聞かない。

 

 

…誇り高き【王者】の名は、そうして紡がれるものなのだから。

 

 

 

「…ちなみに、おいくらしたん?」

「カッカッカ、なーに、たった国家予算ぐれーよ。…二度と作らねーけどな。」

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか鷹矢…お前が…【ダーク・リベリオン】を…」

「うむ!まさに呆れるほど言う事を聞こうとしなかったコイツだが、しかし今の俺ならば違うということか!」

 

 

 

鷹矢も、ただ『希少』だからと言う理由で今までこのカードを使わなかったのでは無い。

 

今までの鷹矢では【ダーク・リベリオン】は全く言う事を聞かず、召喚したくても出来ない状況が続き…

 

無理やり力を得るために『闇』を喰らい続け、己の精神を鍛え抜いてきたこと。無理やりに『壁』を超え、召喚できるだけの力を身につけたことが…ようやくこの時になって身を結んだのだ。

 

 

今、この時にこうして【黒翼】が現れていることは、最早一種の奇跡とも呼べるのだろう。

 

 

まるで、この『約束』の舞台の戦いを、【黒翼】自身も見たかったかのように。

 

 

―ソレは、吼える。

 

 

 

「くっ…」

「コイツの効果はお前とてよく知っているだろう!ゆくぞ遊良!【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】の効果発動!オーバーレイユニットを二つ使い!【堕天使イシュタム】の攻撃力を半分にして、【ダーク・リベリオン】の攻撃力に加える!吸い尽くせ、紫電吸雷!」

 

 

 

黒翼牙竜のその漆黒の翼から放出されし、深紫の猛る雷が魅惑の堕天使へと襲いかかって。

 

 

対象の力を吸い取り、己の牙の鋭さを半永久的に増さんとするその能力は、鷹矢が2回戦で戦った、一瞬しか力を留めて置けない地紫魔の象徴とくらべても比べ物にならないコトは必至。

 

 

 

「くっ、それだけは!【堕天使イシュタム】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【背徳の堕天使】の効果を…」

 

 

その怖さをよく知る遊良も、好きにさせるわけにはいかないと言わんばかりに行動へと移そうとしたのだが…

 

 

 

「無駄だ!永続罠発動、【デモンズ・チェーン】!」

「なっ!?」

 

 

 

先ほど鷹矢が破壊した、遊良と同じ悪魔の鎖。

 

相手モンスターを縛り、その効果まで封じて身動きを取れなくするこのカードの恐ろしさは、それをよく扱う遊良だからこそ理解していることだろう。

 

 

「フッ…イシュタムの効果を先に使ってくれて助かったぞ!おかげで安心して発動することが出来た。」

「くっ、くそっ!」

「これで【ダーク・リベリオン】の効果を邪魔する者はいなくなった!さあ、思うがままに吠えるがいい!」

 

 

 

遊良 LP:3000→2000

 

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500→1250

 

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4

ATK/2500→3750

 

 

 

悪魔の鎖の上から、その抵抗も空しくさらに成す術なく黒翼の紫電に縛られてしまい…力を奪い取られてしまった魅惑の堕天使。

 

他の追随を許さぬよう、その攻撃力を大台に乗せ吼える黒翼牙竜の猛りは一向に収まることを知らず…

 

 

確かに鷹矢が召喚してはいても、まるでその関係性は主従では無い。

 

従わず、思うが侭に振舞う。本来の、主のように。

 

 

しかし、それでも召喚出来たのは鷹矢自身。その勝利を確実のモノとするために、更にその手を休めることは無く。

 

 

 

「しかし、いつまでもその危ないカードを残しておくつもりもない!俺は、ラプソディ・イン・バーサークの効果を発動!」

「こ、ここでソイツを!?」

 

 

その時…今まで沈黙を貫いていた、鷹矢が創造せし【No.】が突如動き出した。

 

沈黙からいきなり狂奏を響かせんとするその振る舞いに、得体の知れない怖さが込みあがってくるのは誰であっても仕方の無いことなのだろう。

 

誰も知らぬ、たった今生み出されし新たなカードには、誰も対処することなど叶わぬかのように…

 

 

 

「オーバーレイユニットを一つ使って、お前の墓地から【背徳の堕天使】を除外する!」

「なっ!?」

 

 

無慈悲な旋律、悪魔の調べ。

 

背徳の力を宿した、神にすら傷を負わせるのではないかという堕天使の力の一端が、遊良の墓地から消えていく。

 

邪魔するものは許さぬように、決して棘など残さぬように。

 

 

 

…まだ、終わらない。

 

 

 

「さらにもう一度ラプソディ・イン・バーサークの効果を発動!そこの危ない【堕天使ゼラート】も除外させてもらうぞ!」

「何!?」

 

 

 

奏でる恐怖の旋律は、天を舞う堕天使にとっても不快なモノなのだろうか。

 

この盤面を、その剣の一振りで返すことの出来るゼラートを、最大限に警戒することも鷹矢は忘れず。

 

新たなカードを創造し、身を削って得た『切り札』を召喚してもなお、その心には驕りなど微塵も感じていない様子。

 

 

 

「…まさか1ターンに二回も使えるなんて…」

「まだだ!ラプソディ・イン・バーサークのもう一つの効果を発動!コイツを【ダーク・リベリオン】に装備し、攻撃力を更に1200アップする!」

 

 

 

その身を輝く鎧へと形態変化させ、【黒翼】の猛りを更に持ち上げる【No.】の一体。その出自も、正体も、真意も知らぬ遊良にしてみれば、この【No.】だって得体の知れない怖さを放って。

 

 

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4

ATK/3750→4950

 

 

 

「こ、攻撃力4950…一体、いくつ効果があるんだよ!」

 

 

 

恐るべき値にまでその力を底上げし、一瞬で敵を貫き吹き飛ばすつもりなのだろう。

 

攻撃力の下がった魅惑の堕天使はもちろん、遊良の場に残る小さき堕天使すら、触れただけで消し飛ばされそうな力を駄々漏れにし…

 

 

「ゆくぞ!バトルだ!【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】で…」

 

 

 

―黒翼牙竜が、吼えると同時に。

 

 

 

「遊良の場の…【堕天使イシュタム】を攻撃!」

 

 

 

歴戦を切り伏せしその牙が、【王者】と呼ばれしその黒翼で空へと羽ばたく姿は、まるで如何なる存在もこの竜の前には、存在すること自体を許されてはいないかのよう。

 

 

『凄まじい攻撃力は流石【黒翼】だぁあ!これで!このまま!決まってしまうのでしょうかぁぁぁぁああ!』

 

 

 

―迫りくる牙突、猛り狂う黒翼

 

 

その麗しき牙が月光を反射して煌く時、それは神の体すら貫く強靭な意志と化すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

―このままでは、やられ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「っかよぉぉぉお!速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉぉ!」

 

 

しかし、その攻撃が魅惑の堕天使を貫く寸前で、遊良も伏せていた最後のカードを発動して。

 

 

…ここまできて、簡単にやられるわけにはいかない。己の持てる力を最後の最後まで絞りだし、必死になってくらい付く。

 

 

 

「ユコバックとイシュタムをリリース!神に背きし反逆の翼、その姿を今ここに!」

 

 

 

黒翼の牙突を避けるかの如く、2体の堕天使達がその身に渦を纏って天へと浮かび、その姿を更なる存在へと捧げ消えていくと同時に…

 

 

 

 

 

「来い、【堕天使ルシフェル】!」

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

清廉なる天の光、それを遮る黒き姿。

 

神に牙剥く黒き竜にも、引けを取らぬ佇まいはまるで天誅か大罪か。儚くも猛るその姿は、まるで今の遊良の姿のようでもあって。

 

 

 

『あ…こ、これは…』

 

 

 

―目を奪われ、声を出せない。麗しき孤高の存在に見惚れていて、言葉を失っている実況と観客達。

 

 

しかし、そんな彼らの心など遊良には関係の無いこと。

 

 

絶対に、やられるわけにはいかない。他のどの堕天使でも触れただけで消し飛ばされてしまうのなら、遊良の残されたのは己の持てる最大の切り札だけなのだ。

 

 

―主の身を守るために、その姿を降臨させるのみ。

 

 

 

 

【堕天使ルシフェル】レベル11

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

 

「出たか!そのモンスターが!」

「【堕天使ルシフェル】のモンスター効果!アドバンス召喚成功時、デッキから【堕天使テスカトリポカ】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【堕天使テスカトリポカ】レベル9

ATK/2800 DEF/2100

 

 

 

 

 

「構うものか!【ダーク・リベリオン】よ、ルシフェルを断ち切れぇ!」

 

 

 

しかし、誰もが目を奪われた堕天の王の降臨にも、続けて呼び出された悪魔のような堕天使の登場にも、鷹矢はまるで意に介さず。

 

 

―勝利を、確実な勝利を。

 

 

己の全力、やっと得た『切り札』を駆使して、ただソコを目指すだけなのだから。

 

 

 

 

 

「斬魔黒刃、ニルヴァー・ストライク!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

 

遊良 LP:2000→50

 

 

 

 

 

しかし、己の切り札である堕天の王の力を持ってしても…一太刀の許しもなく【黒翼】の牙がルシフェルを貫いて。

 

 

そう、いくら神に背く存在であろうとも、同じく神に歯向かう竜が、先ほど【堕天使】の力の半分を取り込んだのだ。

 

 

さらに纏った【No.】の鎧で底上げされた、他の追随を許さぬ圧倒的な攻撃力の前では…背徳を統べる堕天使の抵抗すら無に等しいのだろうか。

 

 

 

 

 

―それだけではない。

 

 

 

 

 

「ぐはっ…い、痛みが…な、何で…」

 

 

今まで遊良がルシフェルを召喚したデュエルにおいて、相打ちでは感じなかった痛みが遊良を襲っていた。

 

これは、ルシフェルがやられたことによるモノなのか…それとも何か別の原因によるものなのか…それを今の遊良に知る権利はなく。

 

 

 

「テスカトリポカが残ったか。しかし、お前のLPは残り50…堕天使の効果はもう使えず、切り札を失い伏せカードも無い…うむ!どうだ遊良!」

 

 

 

言う事を聞かなかった【黒翼】の片翼を操り、その才能に任せることが多かった実力も『壁』を超えたことで確かなモノとなっているのか…

 

そう言葉を発する鷹矢の姿は、まるで小さい頃にお互いに競い合ってデュエルし、そうして競り勝った後の様でもあって。

 

 

誇らしげに、かつ大胆に。

 

 

 

「俺の全力!俺の本気!俺の培ってきた全てをぶつけて!遊良…俺はお前に勝ってみせるぞ!」

 

 

 

先に『壁』を超えたが故に、未だ足踏みしている己の『片割れ』へと向かって、その言葉を紡ぐのみ。

 

 

 

「どうする遊良!お前がこの程度なのか、それともまだ喰らいつくのを諦めないのか!そのドローで、答えを見せてみろ!ターンエンド!」

 

 

 

 

鷹矢 LP:2500

手札:4→1枚

場:【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】

魔法・罠:【No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク】(装備状態)

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……げほっ…」

 

 

 

手が止まり、デッキに向かわせるべきその手が伸びず…その謎の痛みからか、遊良のその意識が一瞬飛びかけて。

 

ルシフェルが一瞬で吹き飛ばされたのが幸か不幸か…ジワジワと襲い来る痛みでなく、瞬間的に突き抜けるような痛みであったために、まだ何とか立っていられるのだろうか。

 

 

それでも、数秒の間呼吸が止まってしまったのは確か。観客席の轟きと、決闘市内の興奮と…目の前の片割れに見られているにも関わらず、今にもその膝が揺れて付いてしまいそうなくらいに、今の遊良の足には力が抜けていきそうであって。

 

 

彼の目の前で吼える黒翼牙竜の威嚇が容赦なく遊良に遅ってきているし、勝敗が決したかのような戦況は、既に鷹矢を勝者として称えているかのよう…

 

 

 

ーこのままでは、喰らいつけない。引き離されて、見えなくなる。

 

 

 

認めたくない感情、今までずっと隣に居た相棒が、己の手の届かない場所へと行ってしまうことが、遊良は怖い。

 

それを隠すために強がって、負けず嫌いと言われようとも、諦めが悪いと言われようとも…何かを『失う』怖さは、もう二度と味わいたくない、彼の『弱さ』。

 

 

 

 

 

 

―それでも…

 

 

 

 

 

 

「…ゲホッ…俺の、知らないカードを創り…先生のカードまで…操って…本当に…お前が羨ましいよ、鷹矢…」

「…む?」

 

 

 

 

 

息も絶え絶えで、足元もおぼつかない立ち方だというのに…目の前に立つ強き相手へと声をかける遊良。

 

 

それは、心からの賛辞。今まで絶対に述べなかった『相棒』への羨みと…その類稀なる才能への嫉妬とも言えるのか。

 

 

この歓声の嵐が、何よりもの証拠。誰からも認められ、師からも認められ…

 

 

およそ、自分が欲しがったモノの全てを、望まずとも手に入れている鷹矢へと感じる、確かな羨望。

 

 

この絶望的とも言える戦況で、思わず彼の口からそんな言葉が漏れ出てくるのは仕方のないこと。こんな時でもなければ、絶対にこんな事を遊良は言わないだろうから。

 

 

 

「遊良…お前…」

「…でも…俺は、負けたくない!お前に負けても悔いは無くたって…だからって負けていいわけじゃ絶対にないんだ!俺は…俺は!」

 

 

 

―負ければ、終わり。

 

 

その存在が『否定』される恐怖は、遊良とてもう二度と味わいたくは絶対に無く。

 

 

己の『弱さ』を吐き出し、声にして届けて。

 

 

今このステージに立って、こんな歓声を浴びて戦いを行えているのだって、遊良にとっては一種の奇跡。

 

遊良が決して生きることを諦めなかったからこそ、戦うことを止めなかったからこその彼の軌跡。

 

 

誰に何を言われようとも、自分のために戦っていいと理解出来ているとは言え…皆が持っている『当たり前』を持っていない遊良に対して、手を差し伸べてくれるほど世界は優しく出来ていないのだ。

 

 

―だから、戦う。

 

 

赤の他人からの『肯定』を勝ち取るためには、勝つしかないのだから。

 

 

―まだ、デュエルを諦めたくは無い。

 

 

 

「Ex適正なんか無くたって、俺の存在を否定させないために!俺は!お前に勝ちたい!先に行ったお前に!俺は!」

 

 

 

痛みを放り投げ、意識を結んで。

 

声を張り上げ、自分を奮って。

 

 

その手を自身のデッキへ伸ばし、ドローを行わんとしている姿は…誰もが見向きもしなかったあの『落ち零れ』などでは断じて無く。

 

この選ばれた者しか立てぬ舞台、輝かしいステージの上で争う彼ら2人の戦いは、決して偽物などと罵られることは無いだろう。

 

 

―『弱さ』を認めて、『覚悟』とする。自分の『弱さ』も『強さ』に変える。

 

 

都合よく『何か』が起こることを、期待する程度ならば所詮はここまで。何かを変えたければ、自分自身でその壁を越えるしかなく。

 

 

 

 

 

「鷹矢…これが、このドローが!俺とお前の最後のバトルだ!」

「うむ!」

 

 

 

おそらくこれが最後のドロー。

 

 

遊良に次のターンなど無く、かと言って切り札である【堕天使ルシフェル】も無く…堕天使の効果を使うためのLPもほぼ尽きていて。

 

形勢逆転を狙える【堕天使ゼラート】は、鷹矢が早くに警戒をして対策を取ったために最早その手は狙うことも出来ず。

 

 

最早遊良に勝ち目が無いことは、誰の目にも明らかなこと。

 

 

 

「行くぞ!俺の…」

 

 

 

それでも、遊良は最後まで己の引くカードに対しての希望は捨てない。

 

いや、遊良だけでは無い。デュエリスト…『決闘者』は、決して戦いを諦めてはいけないのだ。

 

 

ーその自分自身の『答え』を、絶対に『逃げ』にしないために。

 

 

自分自身の出した答えを、自分の引いたカードで現すことが出来るのは『決闘者』のみ。今遊良に迫られているのは、その『答え』を出せるか否か。

 

 

 

 

 

引きに『頼る』のではない、決意を持って、『引き寄せる』のでもない…

 

 

 

 

「…タァァァァァァン!ドロォォォォォォォオ!」

 

 

 

 

 

―自分を超えて、ただ『引く』のだ。

 

 

 

 

それが出来ぬようならば、『壁』など一生超えられない。『あの頃』と同じで殻に閉じこもるか、周りを羨んだまま生きていくしか未来は無く…

 

 

 

歴戦の決闘者にデッキが従うように。

 

 

ただ当然に、ただ当たり前に。

 

 

 

 

 

―今ここで、それを…『弱い自分』を打ち破るために…

 

 

 

 

 

―遊良は、引く。

 

 

 

 

 

「俺は!」

 

 

 

 

 

 

 

―引いた、カードは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【死者蘇生】発動!」

「なっ!?」

 

 

 

 

 

…これが、遊良の辿り着いた決意の現れ。

 

 

自分・相手問わず、条件の揃ったあらゆるモンスターの全てを蘇らせられる魔法カードは、この世界のデュエリストならば持っていて当然の、一番の汎用カードと言えるモノであって。

 

 

 

 

「ここで…蘇生だと!?遊良!これが…お前の出した答え…だと…」

 

 

 

 

―まさかこの場面で、守りを固めるのか。

 

 

 

 

誰もが、そう思ったことだろう。

 

 

こんな苦し紛れな壁など無いも同然。鷹矢の操る強大なる【黒翼】と、その類稀なる才能と実力と…あらゆる場面に対応する多種多様な戦術をもってすれば、その程度のデュエリストなどまるで相手にすらされず。

 

 

ー天城 遊良は、『逃げ』たのだ。

 

 

そんな程度のデュエリストならば、最早勝負にもならない。決着の着いた戦いに、悲観と終了を感じて誰もが息を吐き…

 

 

 

「俺は【堕天使スペルビア】を蘇生し、その効果で【堕天使イシュタム】も呼び戻す!羽ばたけ!2体の堕天使よ!」

 

 

 

 

 

―!!

 

 

 

 

 

そんな中でも、決してその声を緩めることの無い遊良。その場には、幾度と無く彼の場に召喚された…

 

 

―異形の堕天使と、魅惑の堕天使

 

 

遊良のデュエルにとって、始まりはいつもこの2体で…そして何度も召喚されては、彼のデュエルを支えた存在…

 

 

しかし今の戦況では、鷹矢にとってなんの脅威にもならない存在。

 

 

それが、誰の心にも浮かび上がる…確かな『答え』…

 

 

 

 

 

 

 

―そうだと、言うのに。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか遊良…ここで!この場で!そのデッキだというのに!?」

 

 

 

こんな雰囲気の中で、誰も想像できないことでも…鷹矢とルキには、確かに『わかった』ことがあった。

 

 

そう、今から遊良が、行おうとしていることを。

 

 

 

「何故!まさか!『最初』から持っていたと言うのか!」

 

 

遊良の残った最後の手札。それを見て、理解し、そして声を上げずにはいられない鷹矢の言葉が木霊して。

 

あれだけ派手に動き回って、夥しい枚数のカードを次々に入れ替えていたと言うのに。

 

 

 

…それは、このデュエルが始まってから、ずっと遊良の手札にあったモノ。

 

 

…それは、鷹矢とルキだからこそ理解できるモノ。

 

 

 

 

…ここで見ている誰も、『知らない』なりし『覚えていない』…または『忘れている』モノ。

 

 

 

―しかし、彼ら幼馴染2人は絶対に忘れることなどありえないモノ。

 

 

 

 

それを、大多数の一人に埋もれた少女が見て…

 

 

その目に、涙を浮かべて…

 

 

 

「…あ…た、鷹矢の言うとおりじゃん…遊良、本当に…」

 

 

 

最後の最後だというのに、不意に少女の目に溢れる涙。

 

 

そう、かつて自分の命を救ってくれた、あの強かった少年は…鷹矢の言っていた通り『消えて』などいなかったのだ。

 

 

誰もわからぬ、誰も思い浮かばぬ…しかし彼女には絶対に理解できること。

 

 

 

「…どこも…変わってなかったんだ…」

 

 

自分の悲観も不安も、全て取り越し苦労だったというのか。あの…負けず嫌いで諦めの悪い、常に皆の中心に居た、あの『強い』遊良は、『最初』から居なくなってはいなかった。

 

 

 

 

 

―あの、『遊良』ならば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー今、遊良の場には、『モンスターが三体』

 

 

 

 

 

 

―そう、常に遊良を支えてきたのは、何も【堕天使】だけではない。

 

 

 

 

もっと古くから、もっと昔から。

 

 

 

 

 

ずっと遊良と共にあった、この1体のモンスターを。

 

 

 

 

 

―『このモンスター』だけは…絶対に、遊良を裏切らない

 

 

 

 

「俺は3体の堕天使をリリース!」

 

 

 

 

歓声が木霊するセントラル・スタジアム、興奮が渦巻く異質なステージ。

 

その異様な空間となっている『ここ』であっても、それは猛々しく吼えるのみ。

 

 

 

 

 

―震える大気、獣の咆哮と共に…

 

 

 

 

 

 

 

 

―それは、現れるのだから。

 

 

 

 

 

 

「【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

【神獣王バルバロス】レベル8

ATK/3000 DEF/1200

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…」

 

 

勝ったと思った…確実に勝ったと思った。

 

遊良のLPは残り50で、形勢逆転の目も潰して。この強大なる力を纏った自身の『砦』となった象徴を、今の遊良では突破することは叶わぬと確信していて、次のターンで確実に決着となるはずだったのに。

 

 

 

―消えていない、死んでいない、何度否定されても諦めない。

 

 

遊良を体現してきた確かなカード。どんな時でも彼と共にあった、強き者。

 

 

 

 

 

 

 

「俺が『壁』を超えるためには…【堕天使】達に頼るだけじゃ駄目だったんだ!俺の!俺自身の力じゃないと!ここから先には絶対に行けないってわかったんだよ!だからこそ、俺は!俺の原点で鷹矢、お前を超えたい!」

「ぐっ!お、おのれぇぇぇぇぇえ!」

 

 

『なぁあ!?ここで!この場面で天城選手っ!まさかの【堕天使】では無いモンスターを召喚したぁぁぁあ!?』

 

 

 

―ここで、この場で、この戦いで。

 

 

そう、【堕天使】と何のシナジーもない、この【神獣王バルバロス】が飛び出てくることなど、一体誰が想像できようか。

 

 

 

「こいつの効果は…教えるまでもない!わかってるだろ、鷹矢ぁ!」

 

 

 

そう、遊良のために進撃を行う【堕天使】の力は、確かに遊良に必要で…【堕天使】がいなければ、きっと遊良はここまで到達すら出来ていなかっただろう。

 

 

―だからこそ、彼らに支えられるだけでは駄目。

 

 

自分に仕える堕天使に、甘えたままでは到れない。甘えたままターンを迎えていた所で、起死回生のカードなど引けるはずも無く。

 

 

そこから更に超えるために…遊良には、このモンスターの存在が絶対に必要だったのだ。

 

 

絶対に自分を裏切らない、最初からの相棒と共に…その『壁』を、超える時のために。

 

 

 

―それは、今

 

 

 

 

 

「バルバロスの効果発動!3体のリリースでアドバンス召喚した時!相手の場のカードを…全て破壊する!」

「ぬぅ!?」

「やれぇ!バルバロス!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

その槍を地面へと突き刺し、そこから放たれる凄まじい衝撃波がフィールド全体を包み込んで。

 

先ほどのヴェルズ・ビュートとは比べ物にならないほどの、かつて遊良が最も得意としていたこの『破壊』の光景を…もう、何度この衝撃波を鷹矢は喰らってきたというのか。

 

 

幼少の頃から…修行時代も…果ては遊良が【堕天使】を得る直前まで。

 

 

そう、鷹矢にとっては【堕天使】を操る遊良よりも、【バルバロス】を操る遊良の方がしっくり来る程に見慣れた、戦いなれたモンスターに違いない。

 

 

―『折角手に入れたんだ、このまま【堕天使】で行くのだろう?』

 

 

そうだと言うのに…遊良が【堕天使】を得た時に、鷹矢が自分で遊良に『そう言った』ことで、まさか『このカード』のことを考えから外していたなんて。

 

常に遊良と共にあった、この【神獣王バルバロス】のことを選択肢から外していただなんて…そんな思いが鷹矢を飲み込んでいるのか。

 

 

 

 

『が、がら空き!天宮寺選手の場ががら空きに!【黒翼】も!新たなエクシーズモンスターも!な、何もなくなってしまったぁ!』

 

 

 

その一掃された場、【神獣王バルバロス】以外には、何も存在しなくなってしまったこの光景に、信じられないモノを見ているかのような観客達と実況の声がセントラル・スタジアムに反響し続け…

 

 

―まるで、誰もがこの事実を飲み込め切れていないよう。

 

 

まさか、たった一枚の『Exモンスターでないモンスター』によって、この光景が形作られるだなんて。

 

 

しかし、現実。誰の目にも明らかな『現実』の光景。

 

 

そう、遊良にとっては、コレしかないのだ。Ex適正の無い自分に出来る、Exモンスターすら圧倒するような『有り余る武器』を。

 

 

 

「バトルだ!【神獣王バルバロス】!」

 

 

 

―駆け、猛る

 

 

獣の王がその足で、ずっと一緒に戦ってきた相棒のために。

 

 

 

「鷹矢に……ダイレクトアタック!」

 

 

 

―狙い、爆ぜる

 

昔と同じ。常に競い合ってきた相棒の片割れを、その槍を持って降すために。

 

 

 

 

何度蔑まれようとも、何度嘲笑われようとも。

 

 

何度馬鹿にされても、何度見下されても。

 

 

そんな世界の『決まり』など、絶対に認めてやらないと言わんばかりの相棒の…

 

 

 

反逆の為に…

 

 

 

 

―それは、響く

 

 

 

 

 

「天柱の崩壊!ディナイアー・ブレイカァァアッ!」

 

 

 

 

 

―!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…ゆうらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鷹矢 LP:2500→0(-500)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが、口を開けていた。

 

 

 

無機質に鳴り響く機械音は、デュエル終了を告げる全世界共通の合図。

 

 

 

それは、確かに『勝者』と『敗者』を分ける、絶対不変の決まりの『音』。

 

 

 

誰でも知っている、子供でも知っている。ソレが鳴り響くとき、『命』が残っている方が、『決闘』の勝者ということを。

 

 

 

それを知っていてもなお、誰も信じられてはいなかった。

 

 

 

 

 

ー今、彼らの目の前にいる…その、『勝者』とは…

 

 

 

 

 

 

 

『な………………ななななんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!ついに決まったぁぁぁぁああ!』

 

 

 

忘れているように、思い出したように。その『感情』を爆発させて、全ての人間を現実へと引き戻すは実況の声。

 

 

この勝敗は、きっと見ている誰にも思い浮かべることすら出来なかったモノだろう。

 

 

Ex適正を持たず、準決勝でも実質的に負けていて…

 

 

デュエルが始まる直前までは、いやデュエルの最中だって、【黒翼】の孫である天宮寺 鷹矢の方が佇まいは間違いなく勝者に近いものだったと言うのに。

 

 

 

『誰が予想した!?この展開を!誰が想像できた!?この男を!世界にただ一人!『Ex適正』を持たないこの男がっ!』

 

 

 

世界中探したって見つかるはずが無い、『Ex適正』を持たないたった一人の人間。およそデュエリストになることなど出来ず、また誰にも認められることなど無いであろうと思われていた…

 

 

よもやそんな『出来損ない』のレッテルを貼られて…あらゆる他人に、どうしようもないくらい惨めな人間だと思われていたこの男が。

 

 

 

 

『【決闘祭】の頂点に立つことなど!一体誰が思い浮かべられたぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

セントラル・スタジアムその物を壊してしまいそうなくらいに轟くその音は、確かに彼を包んでいて。

 

 

…嫉妬、悲観、否定、侮辱

 

 

そんな言葉も少数あれど、それを掻き消す勢いで弾けているのは、間違いなく『それ以外』の感情に違いない。

 

 

―称賛、羨望、興奮、喝采

 

 

勝者を褒め称え、戦い抜いた選手へと…『決闘者』へと送られる、この戦いへの素直な感情。

 

これを見て、この戦いを見て…それでも彼らを否定しているような人間は、デュエリストからかけ離れた、低俗な存在だと知らしめているかのようでもあって。

 

 

 

拍手喝采、一唱三嘆

 

 

 

誰に何を言われ、その存在を否定されてたにも関わらず…

 

 

勇猛果敢に戦い抜いた少年へと向ける、確かな『肯定』の嵐がいつまでも彼を証明していて。

 

 

 

ー強き者を、決闘市は望む

 

 

 

それは…例えどんな決闘者であっても。

 

 

 

 

『【決闘祭】!優勝はぁぁぁぁぁっ!激しい戦いを勝ち抜き!その頂点に立ったのはぁぁぁぁあ!』

 

 

 

 

文句のつけようが無い決着の証明は、無機質な機械音が勝者を称えるファンファーレとなりて…どこまでも高らかに鳴り響く。

 

 

ソレがいつまでも彼を包み、その功績は決して嘘ではないと、彼自身が見せ付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

【決闘祭】・決勝戦…

 

 

 

 

 

 

 

 

―優勝は…

 

 

 

 

 

 

 

 

『イースト校いちねぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!天城ぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!遊良選手だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 

 

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 


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