遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep25「決闘祭、激闘ー猛攻の武士vs堕天の翼」

「おばあちゃん、ごめんなさい。初日でサウス校は私だけになっちゃいました。」

 

 

まだ朝も早いと言う時間の、決闘市のとある病院。およそ特別待遇というのが見てわかるほどに豪華な病室に、決闘学園サウス校3年、獅子原 エリがそこに居た。

 

やや赤みがかった長い茶髪を後ろで縛って、一つに纏めている髪を手で弄りながら…心苦しそうに。

 

それはきっと、『烈火』と呼ばれた元プロ選手であった、彼女の祖母であるサウス校理事長…獅子原 トウコに、ふがいない結果となってしまったサウス校の戦績を伝えているからなのだろう。

 

 

およそ血縁者か、よほどの大物しか入ることを許されないこの病室で…エリは選んだ言葉を紡ぐ。

 

 

「二人ともイースト校の生徒に負けちゃって。それが二人とも1年生なんだよ?…袴田君なんて、負けた瞬間にさっさと帰っちゃったんだから。よっぽどショックだったんだろうなぁー。」

 

 

一人は、初めての決闘祭と実物の王者に舞い上がって負け…もう一人は、根本的な実力が不足していたために負けて。

 

いくら昨年4位入賞したとはいえ、一人残されたというその重圧は決して慣れるような物でないことは確か。

 

シード選手という観客の期待も、サウス校の全生徒達からの声援も、その華奢な体で支えなければいけないのだ。

 

それに捕まらないように、発する言葉を緩めないエリ。

 

 

「あ、聞いて聞いて!袴田君の相手の1年生さ、誰だと思う!?なんと!『あの』天城 遊良だったんだよ?」

 

 

話す。

 

 

「凄いよねー。最初は絶対に嘘かズルだって思ったけど、デュエル見たらあれでEx適正無いなんて、絶対おばあちゃんも驚くよ。さっすが【白鯨】のいるイースト校だよねー。」

 

 

喋る。

 

 

「セオリーなんて関係ないって感じ?…なんか私も【白鯨】に鍛えて貰いたかったなー…なんて。あ、嘘だよ、うそうそ。おばあちゃんに教えてもらうのが一番だからね。」

 

 

矢継ぎ早に、次々に。

 

そう、その口から言葉が溢れるように。

 

エリの祖母…『烈火』と呼ばれた獅子原 トウコが、現役時代に唯一届かなかった相手…シンクロ王者【白鯨】、砺波 浜臣。

 

その相手とのデュエルの話をしてくれる祖母は、いつも悔しそうで…それでいてどこか楽しそうではあったと覚えているものの、エリにとっての一番は常に祖母なのだ。

 

プロの世界で活躍していたそんな祖母に、幼いころから鍛え上げられたエリがサウス校でもトップに上り詰めるのは時間の問題だったのか。

 

 

 

「…約束だもん、今年こそ絶対にウエスト校とイースト校よりも上の結果を出すって。」

 

 

 

だからこそ、彼女は今でも気を張り続けている。

 

 

昨年の【決闘祭】で、3位決定戦で彼女が負けたイースト校代表の泉 蒼人。若かりし頃の【白鯨】を思い出させるような凛としたデュエルに見惚れて…顔にも見惚れたのは言うまでもなく…敗北を喫したこと。

 

【白竜】を輩出したサウス校にとって、表彰台に上ることはサウス校にとって当然のことだったというのに、表彰台を逃して祖母の名を汚してしまった事…サウス校のトップだった自信が崩れてしまったことが相まって、昨年4位を素直に喜べずにエリは悔やんでいた。

 

 

「今日は袴田君に勝った天城 遊良との試合だよ。おばあちゃんも応援宜しくね?私絶対に勝つから!おばあちゃんが見ててくれたら、Ex適正無い子になんて負けないから!」

 

 

祖母に向かって、どこか甘えるように…歳よりも幼く感じるような話し方をするエリ。

 

セントラル・スタジアムで、竜胆 大蛇と話した時も…それ以外の人間と話すときも、どこか気を張ったように話す彼女ではあるが、そうは言っても祖母の前では甘えたような声を出すことなど仕方ない。

 

生まれた時から祖母に甘えてきたのだ、今更祖母の前で気取っても遅い事を彼女とて理解している。

 

だからこそ、思ったことを正直に話すのだろう。

 

 

「TVでもいいから絶対に応援しててよ?私、前より超強くなったんだから、おばあちゃん驚いちゃうかも!」

 

 

内容を聞いているだけなら、静かに話を聞いてくれる祖母に、甘えて話すかわいい孫のお喋り。

 

しかし、その言葉はどこか不安げで…強い言葉を使って、一生懸命に何かから目をそらしたいかのよう。

 

 

 

…何故なら、いくらエリが話しかけても、それに対して返ってくる言葉はないのだから。

 

 

 

「…だからおばあちゃん…早く起きて私の試合見てよ…ねぇ…おばあちゃん…」

 

 

エリの眼前で、目を開けることなく眠る祖母。

 

人工呼吸器をつけられ、心電図の音が鳴る病室には、エリ以外の声がすることはない。夏前頃に起こった、唐突な祖母の救急搬送。

 

 

今でこそ眠り続ける祖母に話しかけられるようになったものの、当初の祖母の姿を見たエリは気が狂いそうになっていたのだ。

 

おびただしい怪我の痕と、取り戻さない意識。医者も何者かに襲われたという事だけしか説明せず、いくら家族が問い詰めても何も詳しい事を教えてくれないのだから、それはそれは不安で仕方ない日々を送るしかなかったエリ。

 

そんなエリが、今こうして【決闘祭】に臨めるのも…祖母が残していた、自分にあてた手紙を読んだからに他ならない。いつ頃用意していたのか、一枚のカードと、手紙に書かれていた孫へのエールを読んで。

 

 

―『去年駄目だったら、今年勝てばいい。落ち込むくらいなら、それが出来るように努力しなさい。』

 

 

昨年の結果に引きずられず、今年はさらに上がれるように努力すること…祖母の怪我で落ち込む暇があったら、祖母のために【決闘祭】優勝を持ち帰らなければ、と。

 

 

先に目を覚ましたウエスト校理事長…李 木蓮と、未だ目を覚まさない彼女の違い。それは一重に、受けたダメージの違いによるところが大きいのだが…【決闘世界】が漏らさぬ情報は、被害者の血縁と言えども教えられることは無い。

 

 

―ただただ、エリの心には不安しかないのだ。

 

 

「…絶対、絶対に優勝してみせるよ。そしたらおばあちゃんだって寝てる暇ないよね?驚いて絶対に起きちゃうよね?」

 

 

返ってこない声を、確認するように。

 

 

窓から差し込む朝日を浴びて、祖母の手をやさしく握った彼女はその決意を改めて強くしていった。

 

もうすぐ始まる【決闘祭】2日目…自身の戦いへと、向けて。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「絶対に帰るなよ?昨日みたいなことしたらもう知らないからな!」

「…うむ…もう呼ばれるまで控え室からは出ん…」

 

 

まだ朝も早い時間、【決闘祭】初日と同じ集合時間に向けて、遊良と鷹矢はセントラル・スタジアムの入り口前に居た。

 

しっかりと睡眠をとって、疲れなどない遊良に対して…鷹矢はと言うと、どこかグッタリしていて元気がないようにも見える。

 

しかし、その原因は分かりきったことであって…昨日起こった遅刻事件で、遊良の堪忍袋の緒を鷹矢が自ら切り刻んだことに他ならない。

 

 

「…まさか本当に飯抜きにされるとは…」

「控え室に弁当用意されているだろ。それまで待て馬鹿野郎。」

「…ぬぅ…腹が…減ったぞ…」

 

 

腹部を押さえて、止まぬ腹の虫に耐えて。

 

昨日の夕食、折角遊良が初戦突破を祝して作ったハンバーグも、目の前で遊良とルキに食べられてしまって。水しか用意されなかった鷹矢は、とても苦々しい顔で幼馴染二人と美味そうなハンバーグを見ているしかなかった。

 

流石にそれを見かねたルキが、自らの分を少し鷹矢に分けようとしたのだが…遊良がそれを許してくれなかったものだから、鷹矢も取り付く島がなく泣き寝入りするしかなかったのだろう。

 

そうして、腹が減りすぎて早く寝るしかなかった鷹矢ではあるが、それが逆に幸いだったのか…あまり熟睡は出来ず、今朝も遊良に起こされる前に起きられたのだった。

 

 

「お、ルキはもう会場入ってるってさ。『鷹矢は寝ぼけてない?』って聞いてるぞ?」

「…うむ…腹の虫がうるさくてあまり寝られなかった。」

「いいことじゃねーか。もしこれで今朝も寝坊してたら、【決闘祭】終わるまで飯抜きだったからな。」

「…腹が減っていて助かったぞ…」

「だろ?」

「…うむぅ…」

「つーか、そろそろ気合入れろよ?いい加減ふざけるのも終わりだ。」

「…わかっている。」

 

 

思わぬ所で首の皮一枚繋がっていたことを知り、力なく頷く鷹矢。その姿を見た遊良も、鷹矢が多少は反省してくれることを期待していた。

 

そして、早朝ながらも賑わいつつあるセントラル・スタジアムの…選手専用入り口へと向かって、歩いていく。そろそろ、他愛無い会話で緊張を緩めるのも終わりにしなければ、と。

 

 

―【決闘祭】2日目

 

 

正午丁度に始まった初日と異なり、2日目の戦いは朝から始まる。

 

そして2回戦からは、全員が各校のシード選手達との試合となるのだ。組み合わせが【決闘世界】に一任されているとはいえ、中には同じ学園の生徒と戦わなくてはいけない選手も居ることは言うまでもない。

 

 

今日の遊良の相手は、昨年4位のサウス校3年、獅子原 エリ。

 

本日第四試合が出番の鷹矢も、相手は同じイースト校2年の紫魔 ヒイラギ。

 

 

ヒイラギに関しては、選抜戦であんな事件があったためにその戦いは見られずじまい…しかし、紫魔家の令嬢であるヒイラギも当然【HERO】デッキの使い手と思われ、鷹矢とて対策はしてあるだろうと、遊良は鷹矢に問いかける。

 

 

「鷹矢…お前、紫魔先輩とのデュエルはどうするつもりなんだ?」

「む?どうする、とは何だ?」

「いや、対策とか考えてあんのかってことだけど。」

「普通に戦る。それだけだ。」

「お前なぁ…そんな考えで大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 

 

鷹矢のその返答に、全くもって大丈夫とは思えない遊良だったが、ふてぶてしくも実力が伴っている鷹矢がいつも通りにデュエルをすれば…確かに紫魔の令嬢とは言え、引けを取らないことは間違いないだろう。

 

そもそも鷹矢が緊張に押しつぶされる奴でないことは、遊良もほとほと理解している。

 

 

「油断すんなよ。気合だけは入れとけ。」

「うむ。それより遊良、最初の試合はお前からなのだから、お前こそ気合を入れておけ。」

「わかってるって。」

 

 

気持ちを入れ替え、遊良と鷹矢は戦いの場…セントラル・スタジアムへと入っていった。

 

 

 

 

 

…会場入りした途端に、血相を変えたスタッフに連行されるように控え室に連れて行かれた鷹矢を、遊良は苦笑いで見ているしかなかったことは置いておいて。

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「…どこだ釈迦堂。どこに居る…」

 

 

セントラル・スタジアムの上層階…スタジアム内部が一望できる理事長席から、イースト校理事長である砺波は、階下を血眼のようにして見ていた。

 

自身にとって復讐の対象である釈迦堂 ラン。昨日、終わりがけに偶々その後姿を見てしまったせいで、見るのも憚られる天城 遊良の戦いすらも今の彼の頭にはない。

 

もうすぐ始まる第二回戦のことなどそっちのけで、目的の存在を探す砺波。

 

 

「くそ、いないか…しかし始まれば出てくるはず。」

 

 

まだ観客の出入りが多い会場内。存在が異なる女とは言え、そこから唯一人の人間を見つけ出すことは容易なことではないだろう。もしランが大勢の人間の熱気に混ざって、その気配を消していたらなおさらのこと。

 

未だ現れぬ対象に、砺波は心奪われていた。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

『会場にお越しの皆様!中継を御覧の皆様!お待たせいたしました!一回戦を乗り越え、【決闘祭】2日目!激闘を感じさせること間違いなし!本日はどのような戦いが繰り広げられるのでしょうか!』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

すでに満員になった会場。実況の煽りに盛大に反応する観客。初日に負けない熱気と興奮が、ここセントラル・スタジアムに充満している。

 

すでにモニターに映し出されているトーナメントの、第二回戦・第一試合で戦う選手の名前が、その歓声をより一層大きくさせて。

 

 

イースト校1年、天城 遊良

VS

サウス校3年、獅子原 エリ

 

 

【決闘祭】初日に、『Ex適正が無い』とは思えぬ程に豪快なデュエルを魅せた遊良のデュエルを…実力ある人間ならば理解できている。そして同じく、サウス校3年、『烈火』の孫である獅子原 エリの実力は、説明されなくとも…否応にも知れ渡っていることだ。

 

 

それが始まるのを心待ちにして、今か今かと待ちわびる空気を引き裂くように、実況アナウンスが鳴り響く。

 

 

『それでは、選手の入場です!イースト校1年、天城 遊良選手VS、サウス校3年、獅子原 エリ選手!』

 

 

そうして、実際に名が呼ばれると共に入ってくる2名の選手。

 

初日と変わらぬ規模の大歓声の中、対面の入場口から堂々と歩いてくる遊良とエリの姿を視界に入れて、会場内がより一層盛り上がりっては熱気が高まり、見ている誰もが冬だということを簡単に忘れ去ってしまうことは間違いない。

 

シード選手が相手と言う、良い意味での緊張の面持ちをした遊良と、どこか気を張っているようなエリの表情は正反対なれど、お互いに浮き足立っていないことは確かな様だ。

 

 

「よろしくお願いします。」

「…よろしく。」

 

 

お互いに挨拶を交わして、立ち位置に着く。

 

しかし、遊良がたった今感じた獅子原 エリの印象は…張りつめた糸が今にも切れそうなくらいに、凄みを帯びた迫力が漂ってきていたというモノ。

 

中々出せる迫力ではないものの、流石はサウス校の猛者と言ったところか。しかし、自分の容量ギリギリのモノは、危なげすら感じさせるのか。

 

何か背負っているような、それでいてどこか焦っているような…そんな感情が渦巻いているよう。

 

 

(獅子原 エリ…シンクロ召喚の使い手。爆発的な展開力は…多分去年の代表の中でも一番だった。気を抜いたら一瞬でやられる。)

 

 

去年の【決闘祭】の中継を見ていた遊良は、今目の前にいる彼女の戦いも覚えていた。サウス校理事長である『烈火』直伝の、隙を見逃さずに一瞬で攻め込んでくる『怒涛の攻め』は、押し寄せる波の様であり決して侮ることなど出来ない。

 

 

―『攻めこそ全て』…いかなる逆境も、攻めなければ変えられないというのはサウス校の理念であって。

 

 

その中で、たった今彼女から感じた印象と合わせて、遊良は戦う心を決める。

 

 

 

―初めから全力で『攻め』にくるであろう相手と、いかにして戦うべきか…どんな手を打つべきか。

 

 

 

(速攻を仕掛けてくるのか?…だったら…)

 

 

今にも切れてしまいそうに張りつめた糸、最初から全力で切り込んできそうな雰囲気。

 

真っ向から向かってくる相手に、恐れている場合じゃない。相手は昨年4位、そもそも最初から気など抜けるわけが無いのだ。それを再確認して、遊良はデュエルディスクをデュエルモードへと移行した。

 

 

 

―【決闘祭】2日目

 

 

 

去年の大活躍した選手のデュエルに、観客の歓声が寄り一層強くなってくると同時に…

 

 

 

『それでは参りましょう!【決闘祭】第二回戦・第一試合!かいしぃぃぃいー!』

 

 

 

―デュエル!

 

 

 

そうして、始まる。先行はイースト校1年、天城 遊良。

 

 

 

「俺のターン!魔法カード、【闇の誘惑】を発動!2枚ドローし、【堕天使アスモディウス】を除外する!続いて【堕天使ユコバック】を召喚!その効果で、デッキから【堕天使スペルビア】を墓地へ送る!」

 

 

【堕天使ユコバック】レベル3

ATK/700 DEF/1000

 

 

「手札の【堕天使イシュタム】の効果を発動し、【堕天使アムドゥシアス】と共に捨てて2枚ドロー…俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

遊良 LP:4000

手札:5→2枚

場:【堕天使ユコバック】

伏せ:2枚

 

 

初日とは打って変わって、静かな立ち上がりを見せる遊良。

 

昨日の暴風雨のようなドロー加速が鳴りを潜めている様子に、観客が若干ざわめく物の…遊良とて何も考えずにドローを連打するわけがない。

 

 

―ただ様子を見るために、遊良がターンを渡したわけでないことだけは確か。

 

 

何せ、思考を停止してカードを引きまくるだけでは…何の策も無しにただ展開するだけでは、絶対に勝てない選手が今日の相手。

 

強靭な『攻め』の姿勢を取ってくる獅子原 エリを相手にするため。

 

そう、瞬きほどの一瞬でやられないために…ここぞという時に、最大限の引きを発揮するために、初めはエリの『攻め』を何としてでも凌ぐという遊良の意思。

 

恐れている者の目ではない遊良の視線。それを理解してか、エリも動き出す。

 

 

「…時間がないのよ…すぐに終わらせるわ!私のターン、ドロー!」

 

 

そうして素早くカードを引くその所作は、遊良の行った先攻ターンの意味を嘲笑うかのよう…いや違う、嘲笑うどころではない。遊良の思考を頭に思い浮かべた上で、それを意にも介さず攻め潰しにかかるつもりなのか。

 

朝、祖母の見舞いに行っていた彼女からは思いもよらぬ、『焦り』にも似たその感情を漏らして…初めから全力で向かってくる。

 

 

「私は魔法カード【紫炎の狼煙】を発動!デッキから【六武衆の影武者】を手札に加える!続いて永続魔法【六武衆の結束】を発動し、私は【真六武衆―カゲキ】を召喚!」

 

 

【真六武衆―カゲキ】レベル3

ATK/200 DEF/2000

 

 

エリの場に現れるは、義手を交えた4刀流の武士(もののふ)。その攻撃力は低いものの、通常召喚時に仲間を引き連れることの出来る効果を持ったモンスターだ。

 

文字通り『過激』な迫力を纏って、エリの場に参上した。

 

 

「【六武衆の結束】に武士道カウンターが一つ乗る!そしてカゲキのモンスター効果!手札から【六武衆の影武者】を特殊召喚!それにより、さらに【六武衆の結束】に武士道カウンターが一つ乗る!私は武士道カウンターが2つ乗った【六武衆の結束】を墓地へ送って、デッキから2枚をドロー!…よし!」

 

 

エリの声に連なって現れる武士達。

 

怒涛の攻めと言っても、展開には手札消費が付き物であり、それをカバーする手も備わっていたエリのスタートは上々といえるだろう。

 

まだ始まったばかりとは言え、また、早々にシンクロ召喚の素材を場に揃えた隙のない立ち上がりを遊良も理解できるのか。開始早々からエリの張りつめた迫力に対し身構える遊良に、エリは容赦の無い声で堂々と宣言を行う。

 

 

「…行くわよ、レベル3のカゲキに、レベル2の影武者をチューニング!」

 

 

そして、カゲキが3つの光球に、影武者が二つの輪へとその姿を変えて…

 

 

「燃え盛る戦火よ、戦乱を統べる魔王となりて、仇名す敵を打ち破れ!シンクロ召喚、レベル5!【真六武衆―シエン】!」

 

 

―!

 

 

エリの場に降り注いだ光の柱から現れるは、紫炎に染まりし鎧をその身に纏った武士(もののふ)の姿。戦乱の場にこそ相応しいその姿は、安寧など求めない…まさに魔王と呼べる者。

 

敵を圧倒するために培われたその力を発揮すべく…今、この場に。

 

 

 

【真六武衆―シエン】レベル5

ATK/2500 DEF/1400

 

 

「やっぱり、いきなりエースで畳みかけるつもりか。」

「まだよ!手札から永続魔法、【六武の門】を発動!」

 

 

続いて、手を休めないエリの場の背後に現れたのは、家紋が輝く厳かな門。

 

エリが発動したこの永続魔法…【六武の門】は、六武衆デッキにとって一番のキーカードと言えるモノ。

 

しかし…先ほど追加でドローした2枚の中にあったのだとしても…その発動タイミングにはいささか疑問が残ると思われる。

 

普通なら、カウンターを稼ぐ意味合いでもシエンをシンクロ召喚する前に発動しておくのがセオリーだというのに。それを観客も思ったのか、エリの行動に若干ざわめくものの…

 

 

 

―エリの思惑を感じた遊良は、それを苦い目で見ていた。

 

 

 

「ここで【六武の門】を!?…それを許すわけには!罠発動、【背徳の堕天使】!場のユコバックを墓地へ送って、相手の場のカード1枚を破壊する!」

「無駄よ!【真六武衆―シエン】の効果発動!1ターンに1度、魔法・罠の発動を無効にして破壊する!」

 

 

そう、シエンをシンクロ召喚する前に【六武の門】を発動していた場合、遊良が発動したこの罠によって厳かな門は無残に破壊されるはずだった。

 

それを即座に感じ取って…いくら焦った様子の彼女でも、培った嗅覚まで鈍っていない様子。戦乱を統べる魔王に命じ、遊良の反逆を無に帰す。

 

 

「くそっ…」

「【背徳の堕天使】は無効!残念ね、コストに使ったユコバックが無駄に終わって!」

 

 

いくら『発動』自体を無効にされても、それを扱う目的で『支払った』堕天使の魂が帰ってくることは無い。

 

遊良の場で侍を睨んでいた小さな堕天使が少しずつ消えていく様を、エリが嬉々として見ていたものの…

 

 

―それが消えきる前に、遊良は『守り』を怠らないが。

 

 

「でも、ただじゃ消えさせない!永続罠、【奇跡の光臨】発動!除外されている【堕天使アスモディウス】を攻撃表示で特殊召喚!」

「なっ!?」

 

 

【堕天使アスモディウス】レベル8

ATK/3000 DEF/2500

 

 

黒き光を降らせて、突如として遊良の場に現れる高位の堕天使。

 

除外されていたと言うのに…悠々と戦場に光臨する姿は、堕天していても神々しさすら感じさせる存在。徐々に消えゆく小さな堕天使を見て、断罪の羽で主を守る。

 

 

「シエンの効果にチェーンしてそんなカードを…くっ、時間が無いのに!」

 

 

1ターンに1度とは言え、魔法・罠カードを止めるシエンはまさしく脅威だ。遊良とて、罠の発動順を逆にすればエリのキーカードである【六武の門】を破壊することは出来たものの、それでは遊良の場はがら空き。

 

獅子原 エリ、一瞬の展開力は【決闘祭】参加選手で一番…ならば、ここは攻めにも守りにも力を発揮出来るこのアスモディウスは、今の遊良の状況で出来る最善策。

 

 

(くそっ、【六武の門】は仕方ないか…まずはこのターンを凌がなきゃ。)

 

 

「でも【六武の門】は残っている…場に【六武衆】モンスターがいる場合、手札から【六武衆の師範】を特殊召喚!【六武の門】にカウンターが2つ乗る!続いて同じ条件で、手札から【真六武衆―キザン】も特殊召喚!場にキザン以外の【六武衆】が2体存在するため、キザンの攻守は300アップ!さらに【六武の門】にカウンターが2つ乗るわ!」

 

 

【六武衆の師範】レベル5

ATK/2100 DEF/800

 

 

【真六武衆―キザン】レベル4

ATK/1800→2100 DEF/500→800

 

 

「まだまだ!【六武の門】の効果発動!武士道カウンターを2つ取り除いて、【真六武衆―シエン】の攻撃力を500アップする!私はもう一度【六武の門】の効果を発動し、シエンの攻撃力をさらに500アップ!」

 

 

【真六武衆―シエン】レベル5

ATK/2500→3000→3500

 

 

一瞬で、エリの場に現れて参戦する侍達。遊良の場に突如現れた堕天使にも怯まず、さらに次々に自身のエースの力を上げていくエリには、立ち止まるつもりなどないことを遊良に沸々と感じさせてくるのか。

 

シエンの攻撃力を大台に乗せ、怯まずに攻撃へと打って出るつもりなのだろう。相手モンスターの攻撃力を悠々と超えた自身のエースへと、攻めることを命じた。

 

 

「バトル!【真六武衆―シエン】で、【堕天使アスモディウス】に攻撃!」

 

 

―!

 

 

そうして…真紅の鎧纏う侍が妖しく光る刀身に焔を纏わせて、高位の堕天使へと切りかかり、断罪の黒き翼を切り落とす。

 

戦乱を生きる武士には、神も天使も悪魔も…堕天使すら切り裂くことに躊躇がないのか。

 

己の力を戦場で存分に振るい、そのまま成す術なく…燃え盛る烈火に焼かれて堕天使は地に落ちていった。

 

 

 

遊良 LP:4000→3500

 

 

「よし、これでがら空き!」

「…ッ!まだだ!【堕天使アスモディウス】が破壊され墓地へ送られたことで、【アスモトークン】と【ディウストークン】を、それぞれ守備表示で特殊召喚!」

 

 

【アスモトークン】レベル5

ATK/1800 DEF/1300

(効果で破壊されない)

 

【ディウストークン】レベル3

ATK/1200 DEF/1200

(戦闘で破壊されない)

 

 

「【アスモトークン】は効果で破壊されず、【ディウストークン】は戦闘で破壊されない!」

「あくまで守りきるつもりなのね…バトル続行よ、【六武衆の師範】で【アスモトークン】へ攻撃!」

 

 

休むまもなく、アスモディウスが遊良を守るために残した従僕の一体が、侍の一閃で切り裂かれていく。いくら高位の堕天使の従僕と言えど、その力は主には遠く及ばないのだろう。

 

しかし、アスモディウスのそれは無駄に終わったわけではない。もう片方の従僕は、いくら撃たれても切られてもその身が消えることは無いのだから。

 

まだ攻撃権の残るエリのもう一体の侍は、その刃が遊良に届かないことを知ってか、どこか悔しそうにも見える。

 

 

「戦闘耐性…手間取らせてくれるわね…」

 

 

―それは、きっとデュエルをしているエリも、同じ表情をしていたからだろう。

 

 

何故かデュエルが始まる前から焦っていたようにも思える彼女が、猛攻を凌いだ遊良を忌々し気に睨んでターンを終えようとした。

 

 

「時間が無いっていうのに…私はカードを一枚伏せて、ターンエンド。【真六武衆―シエン】の攻撃力も元に戻るわ。」

 

 

 

獅子原 エリ LP:4000

手札:6→1枚

場:【真六武衆―キザン】

【真六武衆―シエン】

【六武衆の師範】

魔法・罠:【六武の門】

     【伏せ1枚】

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

そうしてデュエルが一巡し、再び遊良にターンが移る。

 

しかし遊良はすぐには動き始めず、最初から飛ばしてきたエリの速攻・猛攻を何とか耐えることが出来たものの、遊良は一枚増えた手札を見て思考を巡らし始めた。

 

 

そう、エリの場に居る【真六武衆―シエン】…1ターンに1度とは言え、魔法・罠の発動を無効にしてくるその存在は、ただただ脅威。

 

 

猛攻を凌いだと言えども、それでもギリギリだったことには変わりないのだ。攻めに転じようとも、今遊良の手にある3枚の魔法カードを、順番も考えずに無駄に連発するわけにはいかず、エリがどれを止めてくるかにもよって戦況・戦法は大きく変わってくるのだから。

 

 

―彼女が、これらの魔法のどれを脅威の策と考えるだろうか。何を思って無効にするかを、遊良は考えて…

 

 

 

「…よし、俺は魔法カード、【堕天使の戒壇】を発動!」

「それは…確か昨日も使ってた蘇生カード…」

 

 

 

そうして動き出した遊良の第一手。墓地から堕天使を守備表示で蘇生するこの【堕天使の戒壇】は、エリとて昨日の一回戦で見ているために、その効果を覚えているのか。

 

その中で、墓地に送られている堕天使から特殊召喚されるモンスターは、エリにだって容易に想像がつく。【堕天使の戒壇】に対して、エリはまだ動かずシエンは佇むのみ。

 

 

「俺は墓地から【堕天使スペルビア】を守備表示で特殊召喚!そして、スペルビアの効果で、【堕天使イシュタム】も続けて特殊召喚する!」

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使イシュタム】レベル10

ATK/2500 DEF/2900

 

 

「続いて魔法発動、【堕天使の追放】!デッキから【堕天使】カードを手札に加える!」

「それも一回戦で見た!ここよ、シエンの効果発動!【堕天使の追放】の発動を無効にして破壊する!」

 

 

【堕天使】カードなら何でも手札に呼び込める万能サーチ…それを脅威と取った獅子原 エリ。命じられたままに、シエンから発せられる烈火によって遊良の魔法カードは焼け落ちていく。

 

エリが脅威と取った可能性…それはきっと、デッキから加えられる高レベルの堕天使の中でも、昨日も召喚した【堕天使ゼラート】を警戒したのだろう。敵を一掃できるゼラートは、それだけで戦況をひっくり返すことが出来るのだからそれも当然だろうが。

 

しかしそれを止められても、遊良の手はまだ止まらない。遊良の場に居る【堕天使イシュタム】…彼女の効果は、主の命を削って散っていった力を再現するのだから。

 

 

「まだだ!【堕天使イシュタム】のモンスター効果!LPを1000払って、墓地の【堕天使の追放】の効果を得…」

「無駄よ!リバースカードオープン!永続罠、【デモンズ・チェーン】!イシュタムの効果を無効にする!」

 

 

遊良 LP:3500→2500

 

 

「これも止めてくるのか…」

「足掻いても無駄!2回戦なんかで手こずっている場合じゃないの…それに、私はこんなところで時間を食ってるわけにはいかないのよ!」

 

 

先ほどから、何かと時間を気にしている彼女。入場してきたときから『そう』だったが、どうにも焦りが先行して気持ちが逸っている様子。

 

それでも、そんな心の状態とはいえ…いくら焦った様子でも遊良の手を次々に止めてくる辺りは流石と言えるだろう。

 

効果を使えなくとも発生するコストで、遊良のLPがさらに減り…徐々にエリに引き離されていく状況に、流石は昨年の猛者と囃し立てる観客達。初めて【決闘祭】に望んだ一年生…『あの』天城 遊良との、経験の差を誰もが感じている様子を見せる。

 

 

 

 

 

―それでも…

 

 

 

 

 

「…でも、これで終わりじゃない!サーチが出来ないなら引けばいいだけだ!魔法カード、【アドバンスドロー】発動!」

「え!?ここでドローカードですって!?」

 

 

最後に残ったその魔法、遊良の最後の手札の一枚。レベル8以上のモンスターを2枚のドローへと変えるソレを見て、エリは予想外な表情を見せた。

 

 

そう、エリに止められたとはいえ、慎重に『コト』を進めるべき戦況では…こういった不確かなドローに賭けるよりも、的確にデッキからキーカードを選んだ方が安全と言う事は、もちろん遊良だって理解していることであって。

 

 

しかし当の遊良にしてみれば…手札にあったこのカードは、ドロー戦術を得意とする自分が何としてでも発動したかったモノ。

 

 

 

―何の躊躇もなくドローを選択できる遊良には、不安など微塵も無い。

 

 

 

これが、自分が一番得意な戦法…ずっと磨いてきて、ずっと頼ってきたモノが…【決闘祭】で発揮されないわけがないのだから。

 

 

「いくぞ!【堕天使スペルビア】をリリースして2枚ドロー!…よし、続いて【闇の誘惑】発動!2枚ドローして、2枚目の【堕天使ユコバック】を除外する!まだだ!【トレード・イン】を発動して、【堕天使ゼラート】を捨てて2枚ドロー!そして【貪欲な壺】を発動だ!【堕天使スペルビア】、【堕天使ゼラート】、【堕天使アスモディウス】、【堕天使ユコバック】、【堕天使アムドゥシアス】をデッキに戻して2枚ドローする!」

 

 

水を得た魚の如し、解き放たれた鳥の如し。

 

初日を思い出させるかの様な遊良のドロー加速に、待っていたと言わんばかりに沸くセントラル・スタジアム。

 

遊良とて先攻ターンにも引こうと思えば、初日の様にドローを加速することは出来ていたのだが…昨年の猛者相手に、初めから流れも考えずただ引きまくるだけでは決して勝てないことを直感して、そして初めは耐えたのだ。

 

 

そう、『ここぞという時』まで。

 

 

 

―それが、今。

 

 

 

「最後の【闇の誘惑】を発動!2枚ドローし、【堕天使ディザイア】を除外する!」

 

 

至極当然、凡事徹底。当たり前のように、引いて、引いて。

 

 

必要なカードならば、引けばいい。運に任せるだけでは決してない、信念を持ったデュエリストに、デッキは応えてくれるものであって…

 

 

「…あんな少ない手札から、何て引きなの。」

 

 

エリがそれを見て呟くものの、観客席や中継映像でデュエルを見ているイースト校の面々は知っている…以前の代表選抜戦で、遊良の『ソレ』はすでに証明されていることを。

 

Ex適正など関係ない。主の進撃のために…堕天使達が、遊良に応える。ただそれだけのこと。

 

 

「俺は【堕天使イシュタム】と【ディウストークン】をリリース!レベル9、【堕天使テスカトリポカ】をアドバンス召喚!」

 

 

【堕天使テスカトリポカ】レベル9

ATK/2800 DEF/2100

 

 

そうして現れるは、まるで悪魔のような風貌をした一体の堕天使。眼前で構える武士たちを視界に入れ、不敵に佇み宙に浮かぶ。

 

 

「【堕天使テスカトリポカ】の効果発動!LPを1000払い、墓地の【背徳の堕天使】の効果を得る!俺が破壊するのは、【六武の門】だ!」

 

 

―!

 

 

そうして会場に響いたその音は、誰の耳にも確かな破壊音。悪魔のような堕天使が放った炎撃で、厳かな門が粉々に崩れ去っていった音。

 

場にあれば多大なるアドバンテージをエリに与える、そのキーカードをやっと破壊して…苦い表情をしているエリを意に介さず、さらに攻撃をしかける遊良。

 

 

遊良 LP:2500→1500

 

 

「バトルだ!【堕天使テスカトリポカ】で、【真六武衆―キザン】を攻撃!」

 

 

―!

 

 

「くっ…一年生の癖に、ここまで…」

 

 

獅子原 エリ LP:4000→3300

 

 

そうして、悪魔のような堕天使の炎撃で、侍の一人が砕け散った。

 

LPには差があるものの、まさか初出場の1年生が昨年の猛者相手に引けを取らず渡り合っているその光景に、興奮が大いに沸き上がってくるのを観客の誰もが感じているのか。大いに盛り上がる会場の雰囲気は、一進一退のデュエルをさらに奮い立たせて。

 

 

強き者を、観客は望む。それは、『Ex適正の無い』遊良であっても。

 

 

簡単には…一朝一夕では立つことを許されない、このセントラル・スタジアムで戦う事こそがその証拠。

 

昨年の4位入賞者にも臆せず、遊良は堂々とターンを終える。

 

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

「…ホント粘るわね…」

 

 

 

遊良 LP:1500

手札:3→0枚

場:【堕天使テスカトリポカ】

伏せ:2枚

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

そうして再びターンがエリへと移り、彼女は素早くカードを引いた。

 

逸る気持ちがもはや雰囲気だけでなく、その行動にも出てきているのか。予想外に粘る一年生に、苛立ちと焦りを覚えながら…それでも彼女は自分が勝つことを疑っていないが。

 

 

―彼女にあるのは、『勝つ』ヴィジョンではない。『早く勝つ』という…そう、『早く勝ってこの場を後にする』というヴィジョン。

 

 

2回戦開始前に、控え室でエリに届いた『とある』メッセ―ジが、彼女をここまで焦らせていることを、誰も知らない。

 

 

 

「一年生でここまで出来たことは褒めてあげる!でも、それももう終わりよ!魔法カード、【増援】を発動!デッキからチューナーモンスター、【影六武衆―フウマ】を手札に加える!そのまま【影六武衆―フウマ】を通常召喚!」

「『影』?…『真』じゃないのか?」

 

 

【影六武衆―フウマ】レベル1

ATK/ 200 DEF/1800

 

 

エリが召喚したのは、今まで召喚した六武衆とは容姿がことなる戦士。

 

昨年は使っていなかったソレは、乱世で戦う侍ではない。影に生き、影となる忍者。変幻自在の術を操り、その姿を変えるために…

 

 

『烈火』と呼ばれたエリの祖母、獅子原 トウコの…それを受け継いだエリの、最大の『攻め』の姿へと、その身を変えるために。

 

 

「いくわよ、これが私の切り札!レベル5の【真六武衆―シエン】と【六武衆の師範】に、レベル1の【影六武衆―フウマ】をチューニング!」

 

 

侍たちが10の光球へと姿を変え、一つの光輪を潜り抜ける光景は…まるで姿を変えるというよりは、ソレを呼び寄せているかのようであって…

 

ソレが宙へと駆け上がっていき…祖母から受け継いだ口上とともに、エリが叫ぶ。

 

 

 

「烈火、舞い上がりて(そら)をも焦がす!燃える星々を喰らいつくせ!」

 

 

 

それは、星を喰らいし宙の存在。巨大な、星と見間違うほどに巨大な龍。

 

星の核にも似た灼熱の体を持つソレは、いかなるモノでも降臨の邪魔することは許されず…

 

 

「シンクロ召喚!現れなさい、レベル11、【星態龍】!」

 

 

 

―!

 

 

 

『烈火』と呼ばれた選手の、最大最強の切り札がここに降臨した。

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

「で、でかい…」

「これが私の…おばあちゃんの切り札!もう構ってあげられないの、これでお終いよ!【死者蘇生】を発動し、墓地から【真六武衆―シエン】を特殊召喚する!バトル!【星態龍】で【堕天使テスカトリポカ】を攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

そうして、セントラル・スタジアムの天井を埋め尽くすほどに巨大な龍から放たれる灼熱の咆哮。いくら神に歯向かう堕天使といえど、小さき存在の一つを消し去るには有り余る威力。

 

とても耐えられるモノではないのか、悪魔のような堕天使が為す術もなく砕け散っていった。

 

 

「くっ!」

 

 

遊良 LP:1500→1100

 

 

遊良の場には、他にモンスターは居らず。先ほど蘇った真紅の侍にこのまま直接攻撃をされれば、そこで遊良は一巻の終わりだ。

 

 

流石は昨年の猛者か。『烈火』の如き猛攻を見せる彼女に、観客が…いや決闘市中が興奮のボルテージを最高潮まで上げていき、その決着を叫ぶ。

 

 

「これで終わり!【真六武衆―シエン】で、ダイレクトアタック!」

 

 

迫る刃、猛る雄叫び。

 

戦乱の世を刀で治めし侍が、エリの命令で遊良へと襲い掛かった。今にも勝敗が着きそうな状況に、観客の大歓声が『重さ』を持って振り落ちてくるものの、それをシエンは意にも介さず。

 

 

…ただ、己に歯向かう愚か者に、一筋の刃で切り伏せるために。

 

 

 

「させるか!永続罠、【リビングデッドの呼び声】を発動!墓地の【堕天使テスカトリポカ】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 

 

しかし、それでも遊良は諦めない。

 

自分を守るモンスターが居なくなろうとも、寸前まで侍の刃が迫ってこようとも、僅かに残る可能性に、必死になってしがみつく。

 

例えそれがみっともなくとも、諦めが悪いと哀れられても…『勝つ』ヴィジョンを考えているのは遊良とて同じ。最後の最後まで、『負け』など受け入れるわけにはいかないのだから。

 

 

「無駄だって言ったでしょう!【真六武衆―シエン】の効果発動!【リビングデッドの呼び声】の発動を無効にして破壊するわ!」

「だったらそれを超えればいい!さらにリバースカードオープン!永続罠、【デモンズ・チェーン】!」

「なっ!?」

 

 

そうして最後に残った一枚が、シエンを縛って抑え込む。

 

そう、それはエリも使っていた、敵を封じる悪魔の鎖。攻め焦るエリに、これ以上ないくらいの遊良の防御。

 

敵の策を無慈悲に燃やし尽くすシエンの焔が消えていき…遊良の場に再び、悪魔のような堕天使が蘇った。

 

 

「シエンの効果は無効となり、これで【リビングデッドの呼び声】は有効!蘇れ、【堕天使テスカトリポカ】!」

 

 

【堕天使テスカトリポカ】レベル9

ATK/2800 DEF/2100

 

 

「ど、どこまでも粘って…いい加減にしてよ!くそっ…ターンエン…」

「まだだ!そのエンドフェイズに、俺はLPを1000払い、【堕天使テスカトリポカ】の効果を発動!墓地の【堕天使の追放】の効果を得る!」

「このタイミングで!?少ないLPを削ってまで一体何を…」

 

 

遊良 LP:1100→100

 

 

遊良の行動に驚くように、疑問の声を上げたエリ。

 

確かに、吹けば消えてしまいそうな遊良の残りLPは、まさしく風前の灯火で…そこまでして何を手札に加えようとするのだろうか。

 

次の自分のターンで、引いたカードを確認してから発動した方が、事故率は少なく確実性があるというのは誰の目にも明らかだと言うのに。

 

 

「俺が加えるのは【堕天使イシュタム】!その後、【堕天使の追放】はデッキへ戻る!」

「…ターンエンドよ。」

 

 

獅子原 エリ LP:3300

手札:2→0枚

場:【星態龍】

【真六武衆―シエン】

伏せ:なし

 

 

 

「俺のターン!」

 

 

そうしてデッキに手をかけて…一瞬止まった遊良のその姿勢は、今まさにドローを行おうとする者の所作。

 

 

LP残り100、エリと遊良の場の戦力差は一目瞭然であって。

 

 

おそらくこの一枚で、勝負が決まるであろうことは、この戦いを見ている誰もが感じていること…当然遊良にもそれはわかっていて。…微かに震える手が、引くことへの覚悟を試しているのだろうか。

 

 

 

―それでも、覚悟は決めてある。

 

 

 

先ほどのエリのターンの最後に削ったLP…それは遊良の覚悟の証。堅実の方に逃げたのでは、絶対にこの獅子原 エリには勝てないと、遊良の心が理解したために。

 

 

『引き』に、『頼る』のではない…覚悟を持って『引き寄せる』のだ。それが出来ることを、信じている遊良。自分に仕える堕天使を、信じて、信じて…

 

 

観客たちの視線が遊良の手に注目し…

 

 

 

「ドロー!」

 

 

 

 

 

―そして…

 

 

 

 

 

「…来た!俺は手札の【堕天使イシュタム】の効果発動!引いた【堕天使マスティマ】と共に捨てて2枚ドロー!そして今引いた【トレード・イン】を続けて発動!【堕天使スペルビア】を捨てて2枚ドロー!」

「なっ!なんなのよ!?なんなのよ、その引きは!」

 

 

土壇場の戦況で、驚きの目で遊良のドローを見ているエリ。

 

LPは大幅に差が開いていて、場の戦闘力だってエリが圧倒的に上。シエンが鎖に繋がれていても、ボードアドバンテージ自体はエリに分があるというのに。

 

それでも、昨年の【決闘祭】を経験している彼女にだって信じられないのだろう。2回目だからこそ、『焦って』いるエリでも何とかデュエルが出来ているというのに…経験の浅い筈の一年生が、この異常な興奮に包まれている【決闘祭】で、こんなデュエルをしてくるなんて。

 

 

そう、安全な、確実な…堅実な手を打ってこその勝利だというのに、それに歯向かうようにドローしてデュエルする遊良が、まるで信じられないかのように。

 

 

「…よし!魔法カード、【死者蘇生】を発動だ!【堕天使スペルビア】を攻撃表示で特殊召喚!その効果で、【堕天使マスティマ】も続けて特殊召喚!羽ばたけ、2体の堕天使達よ!」

 

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900 DEF/2400

 

【堕天使マスティマ】レベル7

ATK/2600 DEF/2600

 

 

「レベルもバラバラ…チューナーもなしで融合先もいないっていうのに…」

 

 

一瞬で3体の堕天使が揃い、神々しくも背徳的に宙に佇むその姿。

 

Exデッキが使えない癖に…『相手を圧倒する怒涛の攻め』を信条とするサウス校に、引けを取らないこの遊良の展開力と攻めの姿勢…ギリギリとはいえ、怒涛の攻めを凌いだという状況を…エリは、信じられない。こんな…こんなデュエルが出来ると言うのに…

 

 

―この男に、『Ex適正が無い』という事実が、まるで信じられない。

 

 

「そ、それでも【星態龍】の方が攻撃力は上!このまま押し切って…」

「いや、このターンで決着をつける!コレが最後のカードだ!手札から永続魔法、【一族の結束】を発動!俺の場の堕天使たちの攻撃力が…800アップする!」

 

 

 

【堕天使テスカトリポカ】レベル9

ATK/2800→3600

 

【堕天使スペルビア】レベル8

ATK/2900→3700

 

【堕天使マスティマ】レベル7

ATK/2600→3400

 

 

 

「こ、攻撃力3000オーバーが3体!?そ、そんなことって…」

 

 

持てる力を吐き出して、出来る限りの手を尽くして。背徳心を束ねた堕天使の力は、星をも喰らう巨大な【星態龍】をも超えるのか。

 

文字通り身を削って、そうして決して諦めない遊良が導いた、最初で最後の『勝利』への道しるべ。

 

絶対にそれを逃さぬよう、遊良は攻撃を命じた。

 

 

「バトル!【堕天使スペルビア】で【星態龍】を攻撃!」

 

 

星の核にも似た燃え盛る身体へと、力を増した堕天使が襲い掛かる。いくら星をも喰らう巨大な龍と言えども、堕天使は決して恐れない。

 

 

―何せ、彼らは神に歯向かっているのだ。今更こんなモノに、恐れなど抱くはずもない。

 

 

 

―!

 

 

 

その巨体をも超える背徳の力によって、破壊される【星態龍】。無残にもその光景は、星の消滅の爆発にも似ていて…

 

 

 

「お、おばあちゃんのカードが…そんな…」

 

 

エリ LP:3300→2800

 

 

 

祖母から受け継いだ切り札を破壊され、勝つことを信じて疑っていなかった彼女は呆然とそれを見ていた。

 

祖母のため、負けるわけにはいかなかったと言うのに。このターンの、遊良の引きさえ許さなければ…次のターンで勝っていたのは自分だったと言うのに。

 

そんな気持ちが沸々とエリの胸中に湧き上がってくるものの、さらに遊良は攻撃の手を緩めない。

 

 

―負けられないのは、遊良も同じ。

 

 

誰にどんな理由があろうとも、それで遊良が負けていい理由にはならないのだから。

 

 

 

「続けて【堕天使マスティマ】で、【真六武衆―シエン】に攻撃!」

 

 

―!

 

 

「あぁっ!」

 

 

エリ LP2800→1900

 

 

彼女を最初から最後まで守っていた真紅の鎧が、獣の堕天使によって縛られた鎖ごと吹き飛ばされていった。

 

…一瞬の出来事、怒涛の攻撃で攻め抜く気でいた獅子原 エリの、隙を見逃さないようにした、まさに一瞬の閃光の様。

 

焦りもあったのだろう。彼女が『勝ち』を逸り、どこか攻めを急いでいたようであっても…それでも微かなチャンスを掴み損ねないようにして。

 

相手は昨年4位、元プロ選手『烈火』の孫娘。当然、侮ってはいなかったが、恐れてもおらず…師の教え、どうすれば勝てるのかを、『考えて』、『考えて』…そして『考えた』のは、まさしく遊良。

 

 

奇しくも、プロに鍛えられた同士…遊良の過去など知る気もない観客達には、その感想を抱くことも許されないが。

 

 

―この戦いを見ていた誰もが、思いもよらぬ表情で…驚愕と興奮が混ざった歓声で、昨年の猛者を歯牙にかけた遊良へと、その盛り上がりをぶつけて…

 

 

 

「これで終わりだ!【堕天使テスカトリポカ】で、ダイレクトアタック!」

 

 

 

ーそれを背負っても、軽々と舞い上がって手を広げる堕天使に…遊良は、命じる。

 

 

 

 

「革命の業火!バニッシュ・グリード!」

 

 

―!

 

 

「きゃあーっ!?」

 

 

 

天と地に…縦横に左右に…十字に放たれた業火が、エリを確かに貫いて…

 

 

 

―そして、鳴る。

 

 

 

―ピー…

 

 

 

デュエルの決着を告げる無機質な機械音。熱気で沸き上がるここセントラル・スタジアムの中でも…それは確かに響き渡り、勝者を讃える音となるのであって。

 

 

エリ LP:1900→0(-1700)

 

 

 

『き、ききき決まったぁー!なななんと!昨年4位の獅子原 エリ選手が2回戦で姿を消してしまうという結果ぁ!大事件だぞこれはぁー!』

 

 

人々のかき鳴らす地響きを、割いて響くは実況の声。

 

誰の歓声よりも早く、勝者に現実を伝えるために。

 

 

 

『【決闘祭】第二回戦、第一試合!勝者!イースト校1年っ!天城 遊良選手ぅー!』

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 


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