遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep112「休話―酒の席にて」

 

 

 

…物語は、一度過去へと遡る。

 

 

 

それは昨年度の【決闘祭】…

 

 

 

その、『前日』のこと―

 

 

 

 

 

「しかし、天城 遊良、か………まさかあの浜臣が、あのEx適正の無い子をイースト校代表として出場させるとはのぅ。」

「お、そうだ。その遊良のことだが………アイツ、劉玄斎の孫だぜ?」

「ブッ!…お、お主今何と言った!?」

「カカッ、言った通りだ。そのまんまの意味だっての。」

 

 

 

決闘市、その中央地区にある会員制、完全個室のとある特別なBarの一室。

 

他に誰も聞いている者が居ないそこで、エクシーズ王者【黒翼】、天宮寺 鷹峰が静かに呟いたその言葉を聞いて…

 

『妖怪』と呼ばれる翁、超巨大決闘者育成機関【決闘世界】最高幹部である綿貫 景虎は思わず飲んでいた酒を噴出してしまっていた。

 

…それは祭典の前日に、人知れず夜の街へと消えていった『妖怪』綿貫 景虎へと、エクシーズ王者【黒翼】天宮寺 鷹峰が誰も邪魔の入らぬところで酒を酌み交わしていた途中での事。

 

そう、【王者】やその道の著名人、有名人などが秘密裏に利用する事でも知られているそのBarで、心から驚いた表情を見せる綿貫の顔は決闘界の生き字引としても知られる彼を持ってしてもあまりに衝撃的な事実であったからに他ならない。

 

何しろ、この男と来たらそんな大事な事をこんな酒の席で思い出したように告げてくるものだから…

 

自らも知らなかった劉玄斎とEx適正の無い少年のその繋がりを、思わぬところで知らされた綿貫の心情は果たして如何なるモノとなっているというのだろう。

 

 

 

「ゴホッ…な…い、いや、しかし…………ま、まさか天城 竜一!あやつ、もしかしてイノリの子か?」

「あぁ。劉玄斎とイノリのガキの、そのまたガキが遊良だ。」

「なんと………じゃ、じゃが解せぬ、天津間 イノリがなぜ決闘市に…いくら名を変えていたとは言え、決闘市に居たのならば儂の情報網に引っかからぬはずがないと言うのに…」

「カカッ、そこんとこは『天津間』の隠蔽工作に決まってんだろうが。いくらジジイでも、三大貴族の『本気』の根回しを気付けるわけもねぇってか?ま、イノリの方も、劉玄斎の野郎が出禁くらってたから寧ろ丁度よかったんだろ。」

「ぬぅ…天津間 イノリ…天津間家から追放されたとは知っておったが、まさか決闘市に居たとは何と言う盲点じゃ…し、しかし、じゃ。鷹峰、お主、どうしてソレを知っておる?この儂でも知らなんだ事を…」

「実はよぉ…俺ぁ、この街で一回イノリに会ってんだ。」

「なっ!?」

 

 

 

しかし、そんな綿貫の事を意に介さず。

 

次々と綿貫の度肝を抜き続ける天宮寺 鷹峰は、どこまでもあっけらかんとした態度を崩さぬままに酒を交えてただただ言葉を続けるだけ。

 

そんな鷹峰は、酒の入ったグラスを見つめながら遠い目をしつつ…

 

一度だけ…生涯でたった一度だけ、本当に気まぐれで自分の息子を幼等部に送っていった時のことを思い出しながら―

 

 

 

―『おいおい…ンでテメェがここに居んだ?あの野郎、ずっとテメェのこと探して…』

―『ごめんね鷹峰君、誰にも言わないで…私、あの人の足枷にはなりたくないの。』

 

 

 

「強ぇヤツだったぜ、あの女は。三大貴族の地位を捨ててまで、愛した男の為に泣き言も言わず、たった一人で劉玄斎のガキを産んで育てやがった。…遊良が生まれてすぐ、病気で死んじまったらしいがな。」

「鷹峰…お主、ソレを知っておったと言うのになぜ儂にすぐ教えなんだ。儂が把握しておれば、小龍もあそこまで荒れることは無かったはずじゃ。」

「おぅおぅ、ちったぁ落ち着けってんだよジジイ。殺気が駄々漏れてんぞ?」

「…茶化すでない。」

「チッ、わーったよ。俺様だってなぁ、イノリの事を劉玄斎に教えてやろうと思っりもしてたんだぜ?けどあの女に頼まれてな…何でも、イノリの奴ぁ劉玄斎の子を産む代償に、今後一切劉玄斎の野郎と会う事も、自分の事を知らせるのも天津間家から禁じられたんだとよ。その結果がアレだ…イノリは三大貴族を追放。当ても無く黙って一人で劉玄斎のガキを育て…劉玄斎の野郎は女々しいほどに荒れちまって、立ち直ったがまた荒れて…難儀なモンだぜ。」

「…何と言う事じゃ…その時に、儂が介入出来ておれば…」

「カッカッカ、無茶言うんじゃねーよ。貴族の『禁』を破った代償が『どんなモン』なのかは…ジジイだって、【白夜】のジーさんの一件でよーく知ってんだろ?」

「ぬぅ…」

「ま、あの頃は俺様も色々と忙しかったからなぁ。劉玄斎の野郎に構ってる暇も無かったし、正直言って遊良を引き取るまですっかり忘れてたってのもあるが…カカッ、後にも先にもイノリだけだぜ、この俺様が女なんかを『凄ぇ』なんて思ったのは。」

「…」

 

 

 

口惜しげに漏らされる綿貫の苦言は、きっと自分の力の足りなさを痛感しているからこその苦々しげな溜息でもあるのだろう。

 

…しかし、それも当然か。

 

何しろ、綿貫はこれまでずっと苦しみ続けてきた劉玄斎を見てきた。しかも、ソレがある理由から特に可愛がっていた小龍であるのだから…

 

イノリを失った小龍が苦しみ悶え、そしてどうやってソレを乗り越え、しかし再び折れてしまった劉玄斎その一部始終をずっと見続けてきた綿貫からすれば。もっと自分がどうにかしてやれなかったモノかと、どうしても考えてしまうのだろう。

 

 

また…

 

 

【決闘世界】の最高幹部として、貴族ひいては『三大貴族』をよく知る綿貫だからこそ。天津間 イノリの身に起こった事が、綿貫には痛いほどよく分かってしまう。

 

イノリが劉玄斎の前から姿を消したその時…それはきっと、イノリ一人の問題では決してなかったはず。

 

ソレこそ、この世の特権階級に位置する三大貴族の…その一角の正統なる血を引く令嬢が、どこの馬の骨とも分からぬ男に孕まされたと言うのは、その当時はきっと天津間家でも大きな問題となったに違いないのだ。

 

それ故…天津間 イノリが劉玄斎の子を産むために、一体どれほどのやり取りが天津間家で行われたのだろう。

 

おそらく、天津間 イノリは自ら貴族の地位を捨てる覚悟を見せたはず。しかし、それだけは怒りが収まらぬ天津間家の当主は、あろうことか娘が腹の子の父親と結ばれる事を断固として拒否したと思われ…そして、貴族から追放される娘に、様々な『禁』を与えたというのがその時に起こった事と思われ…

 

三大貴族の科した『禁』…それすなわち、世界の法よりも重い処罰であるソレは貴族から追放される少女が一人では覆す事などできない絶対の『憲』。

 

もしソレを破れば、愛する『逆鱗』にまで危害が及ぶ…いや、きっとそれ以上―

 

彼の知人・友人・関わりのある者、それに親類である彼の妹やその夫、それに加えそこから関わりのある人々の命…そしてそれ以上に、自分の息子にまで危険が及ぶ可能性があると言う事を、天津間 イノリはそこで理解したはずで。

 

だからこそ天津間 イノリは…いや、天城 イノリは、たった一人で劉玄斎の子どもを産み、誰にも頼らずに息子を育て…そして、最期の最期まで劉玄斎に会うことなく亡くなってしまった。

 

果たして…

 

天城 イノリという女には、どれほど強い覚悟があったのだろう。

 

鷹峰から、思いがけない事実を聞かされ、瞬間的にそこまで『理解』してしまった『妖怪』綿貫 景虎だからこそ―

 

三大貴族の令嬢と言う、なに不自由無い暮らしをしていたはずの箱入りのお嬢様が庶民にまでその地位を落とし、愛した男に会う事も許されず、しかし愛する男とのたった一つの繋がりである息子を大切に育て上げ、最期の時だって愛した男に真実を告げられず一人で逝ってしまったその女性の…

 

その、恐るべき『覚悟』と凄まじいまでの『強さ』を、一瞬で深く理解出来てしまった『妖怪』は…

 

その目に、隠す気もない大粒の雫を浮かべつつ…

 

 

 

「…天津間家め…この儂をコケにしよってからに…」

「カカッ、だから殺気が駄々漏れだぜジジイ。【決闘祭】の前だってぇのに人でも殺すつもりかよ。」

「安心せい、今すぐ感情に任せて動くほど儂も若くはないわい。…じゃが、この仕返しはいずれ果たさせてもらうわい…いずれ、の。……ん?待て、するともしや、10年前の天城君の『あの』馬鹿馬鹿しい報道も…」

「あぁ、天津間家の、ヒステリーな妹の方がやらかした事だ。ま、イノリが生きてりゃ遊良の扱いももう少し違ったんだろうが…イノリが死んじまった事で、嫌がらせも度が過ぎるぐれぇになっちまったって感じだろ。遊良の親の事ぁまだよくわからねぇが…もしかしたら、ソレも…ったく、本当に胸糞悪ぃ話だぜ。何せ遊良がここまで扱き下ろされてんのも、元を辿りゃ天津間家の嫌がらせだってんだからよ。」

「やはり…そういう事じゃったか…」

 

 

 

鷹峰からの言葉を聞いて、何やら色々な事が『腑』に落ちた様子を見せる『妖怪』、綿貫 景虎。

 

…一体、その白髪と白髭に隠れた彼の素顔は今、いかなる表情となっているのだろう。

 

綿貫だって、ここで鷹峰から事の真実の欠片を伝えられるまでは、Ex適正の無い少年に対し過度な興味は抱いては居なかった。

 

そう、誰も信じられるはずがない…三大貴族の1つが、たった一人の少年を貶める為だけにメディアを掌握し印象を誘導するなど。

 

けれども、今まさに『点と点』が『線』として繋がったからこそ―

 

 

 

「うむ、相分かった。天津間家が10年前にメディアを使い天城君を叩いたのも、ソレが大いに『間違い』であったことも…よく分かったわい、憑き物が落ちた気分じゃ。」

 

 

 

超巨大決闘者育成機関【決闘世界】の最高幹部として、そして全ての若きデュエリスト…ひいては、彼がこれまでその成長を見守ってきた、およそこの世の全デュエリスト達の父として。

 

綿貫もまた、どこか霧が晴れたかのように少々スッキリとした表情を見せていて―

 

 

 

 

 

しかし―

 

 

 

 

「…それで?」

「あ?」

 

 

 

 

 

…そこまで事の顛末を理解した綿貫はそこで、1つゆっくりと言葉を発しつつ。

 

静かに、一端『話』を区切り始めた。

 

 

 

「この儂に、お主は『何』をさせたいんじゃ?いきなりこんな事を話して、儂を炊き付けてそれで終わりと言うわけではあるまい?」

「カッカッカ、話の早ぇジジイで助かるぜ。………劉玄斎の『出禁』を解く。アイツを、決闘市に入れるようにする。」

「…貴族連の決定に逆らうつもりか?…まぁ、【王者】であるお主ならば可能といえば可能じゃが…」

「あぁ。けど、いくら俺様でも流石にお貴族様に真正面から喧嘩売ってたら時間がかかりすぎる。だからジジイに頼むんだぜ?『白桜院家』に口聞いて、劉玄斎の出禁を解かせろ。」

「儂を何じゃと思っておるんじゃ…いくら儂でも、三大貴族に口聞きなど…」

「出来ねぇとは言わせねぇぞ。白桜院家に親類潜り込ませてるじゃねーか。」

「何故ソレを知っておるのじゃ………なるほど、トウコちゃんから聞いたのか。…まぁ、確かに出来んこともない。しかし、じゃ。白桜院家が口出ししたところで、あの天津間 ネガイが真っ先に反対を示すことは目に見えておるじゃろ。何せ、ちょっとした事でいきなりヒステリー起こすからのぅあの小娘…」

「カカッ、ネガイのババアも綿貫の爺にかかりゃ小娘と来た。ま、確かにそれだけじゃ足りねぇ…けど、俺様にもちと思い当たるツテがある。ホントならトウコの姉御からも煉獄園家に口利かせてぇ所だが…ま、姉御はまだ意識が戻ってねーからソレどころじゃねーがな。」

「それはお主がやりすぎたからじゃろ…トウコちゃんをあんなにボコしおって。」

「カカッ、そりゃ仕方ねーだろ。何せ相手が相手だ。いくら姉御がれんぞーの『闇』のせいで弱くなってたっつっても…その辺の雑魚と違って、本気で俺様のこと殺しにかかる姉御が相手じゃ、俺様だって手加減なんざしてる暇ねぇっつうの。…久々だったぜ。あんなに殺気駄々漏れの姉御とデュエルすんのはよ。俺様を【紫影】の野郎と間違えてるみてぇだったぜ。」

「ぬぅ…憐造め、トウコちゃんまで操るとはのぅ…」

 

 

 

彼らの口から語られるは、この【決闘祭】の盛り上がりの『裏』で暗躍している前融合王者【紫魔】、突如として蘇った『鬼才』紫魔 憐造の事ついて。

 

それはこのもう少し『後』に決闘市に起こる『異変』について、先んじて事情を『知って』いる鷹峰と綿貫だからこそ交わされる会話の内容でもあるのだが…

 

とは言え、【決闘祭】も始まっていないこの段階では、今の彼らに出来る事は限られていることもまた事実。

 

…この時点において、綿貫も鷹峰も知っている。蘇った『鬼才』が『何』をしようとしているのかを、『彼の娘』という内通者から聞いているから。

 

 

それ故、そのまま綿貫は静かにグラスに残った酒を一息で呷った後に―

 

 

短く息を吐いたかと思うと、先ほどと『同じ言葉』にて鷹峰へと続けて言葉を発するのみ。

 

 

 

「…それで?」

「あ?」

「その続きは?お主は、儂に見返りに『何』をくれると言うんじゃ?三大貴族に口を聞くという、とんでもなく危ない橋を渡るこの儂に…」

 

 

 

『妖怪』の口から零される、酒の混じった言葉と共に伝わってくるのはどこか冷たい、それでいて相手を対等な者として認めているからこそ零される『妖怪』の正当なる報酬の確認。

 

…そう、ソレがいくら可愛がっている小龍に関わる事であるとは言え。綿貫だって、危ない橋を渡る事に違いは無いのだ。

 

三大貴族に口を聞く…いや、言う事を聞かせる。

 

三大貴族でもないモノが、三大貴族と同じだけの権力を発しようとしている。ソレが果たしてどれだけのリスクを負うのか、そしてソレがどのような結末を齎すのかは、三大貴族ではない者からすれば想像することすら憚られるとてつもない危険な行為であることは言うまでもない事であり…

 

そして、鷹峰は『ソレ』を承知で綿貫へと『ソレ』を頼んだ。

 

だからこそ、綿貫もまた天宮寺 鷹峰へと対し、相応たる『報酬』を望むのは極々自然な当たり前の行動と言えばそうであり…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

綿貫からそう問われた鷹峰は、少し考える素振りをみせつつ…

 

何か1つ、良い考えが浮かんだのか。

 

徐に、『妖怪』と呼ばれる翁、綿貫 景虎へと向かって今堂々と―

 

 

 

 

 

 

「ここ奢ってやんよ。」

「ブッ!…そ、それだけか!?」

「あぁん?たりめーだろうが。俺様が奢るなんざ相当ラッキーなことじゃねぇか。元々ジジイに奢らせるつもりだったってーのによ。」

「…お主のぅ…」

 

 

 

鷹峰からの提案に、思わず噴出してしまった綿貫 景虎。

 

…しかし、それも仕方がないのか。

 

何しろ、自分は半ば『命』すら賭けるという危ない橋を渡ると言うのに…

 

その『見返り』があろうことか、このBarでの会計を持つという、ただソレだけの行為にて済まそうとしている鷹峰の、そのどこまでもふてぶてしくも図々しい、しかしソレが最良の『見返り』だと信じて止まない鷹峰の姿に、綿貫が思わず噴出してしまうのも当然と言えば当然で。

 

…けれども、鷹峰の方もまた綿貫に対し。

 

『見返り』がソレで充分なのだと言わんばかりの確証を、どこまでも鋭く突きつけるだけで…

 

 

 

「大体よ、今起こってるれんぞーの野郎のゴタゴタだって、元を辿れば全部ジジイの所為なんだぜ?ジジイがちゃんと『地紫魔』にヒイラギを届けねぇで、適当な紫魔の奴に引き渡すなんて手抜きしやがった所為でれんぞーの野郎が…」

「わかった!わかったわい!その事は儂だって悪かったと思っておる!ヒイラギの事は全部儂が悪かった事じゃ!それは儂だってわかっておるわい!まったく…『憐造』の事といい小龍の事といい、お主、儂を顎で使う気満々じゃのう。」

「カカッ、それだけ頼りにしてるって事だ。なぁに、れんぞーの事ぁこの俺様に任せとけ。だから『この後』のゴタゴタの後片付けと、劉玄斎の『出禁』の件は頼んだぜ?何せここ奢らされるんだからよぉ。」

「全く、仕方ないのぅ…」

 

 

 

そう、綿貫だって分かっている。今この時、決闘市にて様々な『異変』が起こっていることの…その『根本』が、紛れもなく自分にあると言う事を。

 

それは蘇った『鬼才』が今現在、決闘市のあちこちに『闇』をばら撒き…【決闘祭】の後に大きな騒動を起こそうとしているという、その杜撰なるも防ぎようの無い計画の根底にあるのが、他ならぬ彼のたった一人の娘の処遇を忙しさにかまけて適当なモノにしてしまった綿貫の所為なのだから。

 

全ては10年前のあの日に…綿貫が紫魔 憐造との『約束』を、キッチリと遂行していればこんな事にはなってはいなかったはず。

 

だからこそ、そんな鷹峰から突きつけられた見返りに…

 

 

 

「その代わり、今日はキッチリと対価を貰うとするわい。お主の驕りでたらふく飲ませてもらう…後で泣き言言っても助けてやらんからの?」

「カカッ、好きにしろ。」

 

 

 

綿貫は不本意ながらも了承し、そのまま注文用のマイクへと向かってニヤリと笑みを浮かべつつ―

 

 

 

「フォフォッ、言ったな?…マスター!『ブルーアイズ・ホワイト・ペリーニュ』を持ってこい!ボトルでの!」

『かしこまりました。』

「ッ、おぉい!待てこらジジイ!そいつぁ一本3000万もする酒じゃねーか!何ふざけた注文してやがる!」

「言質は取ったわい!追加で『紅き眼の煌き』もじゃ!ボトルじゃ!」

「待ちやがれぇ!それも2400万はくだらねぇボトルじゃねぇかぁ!」

「言質は取ったと言ったはずじゃぞ!もう遅い!泣き言は言わせんぞ!」

 

 

 

先ほどからの、自分に非があるといった態度から一転。

 

鷹峰を前にして、綿貫は嬉々としながらこれでもかと言わんばかりに普段はおいそれと飲めぬ高すぎる酒を注文し始める。

 

この会員制のBarは、選ばれた者しか入れない代わりに…その立場の人間に見合った酒を置いていると言うことでも有名であることから、こうした馬鹿げた値段の酒であろうが取り揃えているのは『ここ』を利用している者からすれば既知の事実。

 

けれども、鷹峰の奢りと聞いて何の躊躇もなくそんな馬鹿げた値段の酒を注文する綿貫もまた―

 

ソレが適正な報酬なのだと言わんばかりの態度を崩さず、遠慮もなく馬鹿高い酒の注文を取り消すこともなく居座るだけ。

 

 

 

「あーくそ!ンなら俺様もチビチビ飲んでられっか!おいマスター!俺のキメラ・ダーティの1610年物のボトル持って来い!」

『かしこまりました。』

「ほぅ、1610年モノとな?世界10大名酒にも数えられる良い酒ではないか。確か【黒猫】の大和が最も好きじゃった酒じゃのう。」

「カカッ、こうなりゃヤケだ。今日はとことん付き合ってもらうぜジジイ。」

「ヒヨっこが、儂を誰じゃと思うておる。お主がオムツをしておる頃からの酒飲みじゃぞ儂は。とりあえず、天津間家への怒りは一先ずこの酒で鎮めてやる。じゃから今日はとことん飲むぞい!」

「おうおう、折角の祭りの前だ、そうこなくっちゃなぁカッカッカ!」

 

 

 

 

そんな、昨年度の【決闘祭】の前日に【黒翼】と『妖怪』の間にこの様なやり取りがあった事は…

 

 

 

誰も、知らず―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 









次回、遊戯王Wings「神に見放された決闘者」


第2章最終話


ep113『祝福の風』



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