遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep111「閑話―劉玄斎、後編」

 

 

 

『逆鱗』の引退―

 

 

 

それは、あまりに突然の事であった。

 

何しろ、前代未聞、空前絶後の大記録である、『チャンピオンズ・リーズ』の『6連覇』を成し遂げたそのすぐ後のこと…

 

まだまだ上り調子、毎日が全盛期とまで言われ最高潮を日々更新し続けていた『逆鱗』の劉玄斎が、ある日突然何の前触れも前置きもなく…

 

何の声明もなく、あまりにあっさりと決闘界からの『引退』を表明したのだ。

 

 

…一体、『逆鱗』の劉玄斎に何があったのか。

 

 

別段調子を崩しているわけでもなければ、かつてのような謎の『不調』によって崩れ落ちたわけでは断じてない。

 

【王者】よりも試合を行う回数は桁外れに多いのに、その全てに勝利し紛う事なき『最強』の一人に数えられている最中でのその突然の引退表明は…

 

決闘界のみならず、政界や財界、果ては彼の本拠点であるデュエリアや、祖国である龍華中央決闘帝国、通称『龍国』の国家経済をも揺るがす大事件となりて、大々的な騒動となったのだから。

 

…誰もが止めた。『逆鱗』の引退を。

 

何しろ、『逆鱗』は【王者】と『同格』の男。そのデュエリストとしての資質は、長い決闘界の歴史においても類を見ない代物であり…

 

彼の行うデュエルの一戦一戦が、【王者】と同じ価値のあるモノだとして決闘界においての宝とさえ言われていたのだから。

 

…だからこそ、当時の人々はこぞってその理由を知りたがった。

 

一体、どうして『逆鱗』は引退なんて真似をしてしまったのか。

 

決闘界における最高峰のタイトル、4年に一度開催される『チャンピオンズ・リーグ』で6連覇という…

 

…実に四半世紀近くにも及ぶ長い間、【王者】を除く決闘界の者達の中でも頂点に立ち続けたという偉業を達成し。

 

この調子ならば7連覇…いや、8連覇は確実とされていた、【王者】と同じ価値のある決闘界きっての至宝の、あまりに突然の引退の事実を人々はこぞって知りたがったものだ。

 

 

…しかし、『逆鱗』はそれを頑として聞き入れなかった。

 

 

何も言わず。何も告げず、誰にも何も心の内を明かすこともないままに。

 

彼が何を考えているのかすら分からないまま、誰の静止も聞くことなくある日突然『逆鱗』の劉玄斎はプロの世界からその身を引いてしまったと言うことは、今もなお語り継がれる不可思議なモノとされており…

 

そして、彼の引退の真実を全て知る者は、決してこの世には存在するはずもない。

 

 

 

 

 

そう…

 

 

 

 

 

…それは、誰も知らないこと。

 

…それは、誰も知ってはならないこと。

 

 

 

 

 

一体、誰が想像できようか。『逆鱗』が、プロとして誰も真似できないような偉業の数々を未だ成し遂げ続けている最中に…

 

劉玄斎の元に、『ある知らせ』が届いていたことなど―

 

 

 

 

 

 

…それは、劉玄斎の下から最愛の女性が姿を消して、実に『20年以上』もの月日が経ってからのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

―イノリが、亡くなった。

 

 

 

 

 

 

 

最愛の女性が自分の前から姿を消してからも、ずっとその消息を捜し求めていた劉玄斎。

 

しかし、四方八方手を付くし、稼いだ金を惜しげもなく投資し、決闘界での地位も獲得し【王者】にも負けない権力を許されていた彼でも…それまで、天津間 イノリの消息はずっと掴めないままだった。

 

だからこそ、全く持って消息を掴めなかった最愛の女性の―

 

 

そのやっと入ってきた情報が…

 

 

まさかの、彼女が亡くなった報せであったなんて―

 

 

そんな、信じがたい結果を知ってしまって…劉玄斎が、一体どれほどの喪失感を覚えたのかは言うに及ばず。

 

…また、彼女が亡くなったからか。

 

彼女に関する情報は、それまで隠されていたのが嘘のようにして…

 

劉玄斎は、それまでの彼女の足取りを知る事が『出来て』しまった。

 

 

 

 

 

…自分の前から姿を消した後、名を天津間から『天城』へと変えて決闘市で暮らしていたらしいこと。

 

…彼女が、子どもを一人産んでいること。

 

 

 

 

その情報のどれもが、劉玄斎にとってはとてもじゃないが『ダメージ』が大きすぎた。

 

 

 

…自分が『出禁』となっている決闘市に住んだのは、自分から逃げるには丁度良かったからなのか。

 

…名を天津間から変えたのは、自分に探されるのを嫌ったからなのか。

 

…愛していたのに、誰の種かも知れない子どもを産んだのか。

 

…と。

 

 

 

故に…劉玄斎はそこで、折れてしまった。

 

 

もう、自分の戦いを見せる相手がこの世に居ないことを知って。

 

そして、自分が最愛の女性だと思っていた人にとって…自分は、最愛ではなかったのだと言う事を悟ってしまって。

 

そう、今まで自分の姿が彼女に届くようにと最前線に立ち続けてきたことは、全部無駄であったのだ。

 

その時の劉玄斎には、かつてのように自暴自棄にも似た感情と形容し難い喪失感が再び襲い掛かってしまっており…

 

…きっと彼女は、自分などよりも愛する男を見つけ、結婚し、その子どもを産み、幸せに暮らしていたのだろう。

 

そんな事を、簡単に想像出来てしまったからこそ―

 

『逆鱗』と呼ばれし劉玄斎は、これ以上戦う事を簡単にやめる決断を下してしまい…常に絶頂期を更新し続けていた戦い盛りの真っ最中にも関わらず、あまりにあっさりとプロの世界からその姿を消してしまったのだ。

 

まぁ、彼女がそれまでどう暮らしどう生きたのかなど、調べようと思えば『それ以上』のことまで当時の劉玄斎は調べるコトが出来たのだが…

 

しかし、埋めようの無い喪失感に苛まれていた劉玄斎は、早くこの苦痛から解放されたい一心で。それ以上、『天津間 イノリ』の…いや、『天城 イノリ』の事を、調べる事をやめてしまった。

 

 

 

 

 

そして…そこからの1年間の記憶は、劉玄斎には『無い』。

 

 

 

 

 

何しろ、『引退』を表明した後の劉玄斎の私生活は、かつて最愛の女性を失ったショックで自暴自棄になってしまったのよりも更に酷い…

 

そう、あまりに酷い有様となりて、自堕落を通り越した『何もしない』生活を彼は送っていたのだから。

 

 

…眠り、起き、酒を飲み、眠り、起き、酒を飲み、泣き、眠り、起き、泣き、酒を飲み、眠り。

 

 

そんな、眠るか泣くか酒を飲むか、およそ知性のある人間が送るようなモノではない生活を劉玄斎は送り続けていた。

 

それはまさに堕落を超えた、あまりに酷すぎる『崩落』の一言。

 

誰の声も聞き入れることのない。誰の助けも届く事の無い生活。かつて同じような窮地から引っ張りあげてくれた、恩人である【黒猫】はもうこの世には居ない。

 

それ故、このままただ何もなく朽ち果てるだけ…

 

そして、それで良いとさえその時の彼は思っていたのだから、本当にその喪失感で一杯だった一年間の事を、劉玄斎は全く持って覚えていないのだ。

 

 

…まさに、無駄の極み。

 

 

記憶するに値しない無駄な1年を、ただただ『崩落』して過ごしていた劉玄斎。

 

自ら嬉々として戦場に赴いていたあの戦意が嘘のように。誰にも真似出来ない偉業を次々と達成し続けていたあの伝説が嘘のように…

 

…何もせず、何もできず。

 

このまま腐り果てるのを待つだけの行為を、劉玄斎はただただ無駄に過ごし続けて…

 

 

 

だからこそ、かつては決闘界の至宝とも呼ばれた、【王者】と同格の男をこのままにはしておけないとして―

 

 

崩落していた劉玄斎を、彼を幼少の頃より知る【決闘世界】最高幹部である『妖怪』、綿貫 景虎は、心の底から『不憫』に思ったのだろう。

 

彼がどんな手を使ったのかは分からないが、そのあまりに痛々しい『逆鱗』の姿を憐れに思った【決闘世界】の翁は方々に手を回して…

 

1年間の『崩落』の後に、なぜか丁度、あまりに良すぎるタイミングで席の空いた『決闘学園デュエリア校』の学長の椅子に、『逆鱗』の劉玄斎を本人の了承もなく座らせるというとてつもない『荒業』をやってのけたのだ。

 

まぁ、綿貫がそんな事を成し遂げられたのも、他の決闘学園の理事長や学園長に引退した決闘界の猛者が就任したこともあるという『前例』があったからこそなのだが…

 

そう、今はもう解体されてしまったが、かつて決闘学園中央校の学園長には元エクシーズ王者の【黒猫】が死ぬ時までその座について業務を全うしていた事。

 

そして現役の理事長で言えば、決闘学園サウス校の理事長に『烈火』と呼ばれし獅子原 トウコが就いていることや…劉玄斎と同じ時期に、決闘学園ウエスト校にデザイナー業界で『神のペン』と呼ばれるまでの偉業を成し遂げた男、『樹龍会』の李 木蓮が就任予定だったと言う事も相まって。

 

『逆鱗』と呼ばれた男、劉玄斎は、半ば無理矢理に決闘界にその籍を残す運びとなったのだ。

 

 

…とは言え、元来『事務作業』など得意ではない劉玄斎が、あまりに突然デュエリア校の学長の椅子に座らせられるというのも中々どうして無謀な賭けではあったのだが。

 

 

それでも、綿貫に喝を入れられながら…

 

 

1年という時間を無駄に『崩落』していた劉玄斎もまた、差し伸べられた手に抵抗する気力を見せることもなく。半ば流されるままに、気がついたら日々忙し過ぎる『仕事』に没頭させられる日々を送っていたのだ。

 

そう、それは1年間の記憶が無い劉玄斎からしてみれば、本当に気が付いたら学長に就任していたという奇妙な気付きでもあったのだろう。

 

まさに荒療治…

 

忙し過ぎる仕事に没頭させる事で、悲しみを感じさせるよりも仕事を優先させる体質にする事で…心を、自我を取り戻させるという、精神科医もビックリするようなあまりにスパルタかつ他人には推奨できない『喝』を、綿貫は劉玄斎に入れてみせた。

 

まぁ、学長としての忙し過ぎる仕事を、綿貫のサポートありきとは言え1年間も無意識下で行っていたのだから…それに気付けたと言う事は、それだけ劉玄斎も『自我』を取り戻すコトが出来たということでもあったのだが。

 

…とは言え、劉玄斎がなぜ自分がデュエリア校の学長になっているのかを悟った頃には時既に遅し。

 

もう逃げられないほどの仕事量が毎日のように襲い掛かるデュエリア校の学長として、彼は自我を取り戻した後もそのままデュエリア校の学長を続ける他なかった。

 

…まぁ、そこで綿貫と劉玄斎には一悶着が起こったり起こらなかったりとしつつも。

 

それでも、デュエリアにおける幼・小・中・高等部における、全責任者の仕事を劉玄斎は半ば無理矢理にやらせられる羽目になったとは言え。

 

忙しすぎる『仕事』を前に、劉玄斎も少しずつ少しずつ悲しみを心の隅へと追いやれるようにはなってきていた。

 

それは忙しすぎる『仕事』に没頭することで、彼も少しは愛した女性への未練を忘れようとしていたのだろう。毎年のように起こる問題、学生同士のいざこざや教員たちの権力争いに加え…

 

デュエリアにおける学生の祭典である【デュエルフェスタ】の運営や、その他のイベントごとなど。デュエリア校の学長に迫りくる仕事の多さは、およそ他の学園と比べても『多い』の一言であった。

 

 

そして…

 

 

自我を取り戻すまでに回復した事で、それまでは綿貫 景虎がサポートしていた学長としての仕事を、今度は劉玄斎一人でこなす日々が始まった。

 

…慣れない事務作業に四苦八苦しながらも、劉玄斎の忙し過ぎる学長業務に没頭する日々。

 

それは『逆鱗』と呼ばれた劉玄斎を知るファン達からすれば、とてもじゃないが信じられない龍の一面であったに違いない。

 

何しろ、劉玄斎と言う男は決闘界を力で荒しまわっていた文字通りの『暴漢』。それはデュエルにおける『実力』であったり、それ以外における『暴力』や『圧力』と言ったりと様々でもあるのだが…

 

それでも、決闘界における『力』の象徴が、まさかの子ども達を導く立場に立つだなんて、当時のファン達からすれば到底信じられる事でなかったのは言うまでもないこと。

 

だからこそ、そんな男がデュエリア校の学長に就任したことを心配してか忌避してか、『逆鱗』がデュエリア校学長に就任してからの1~2年間におけるデュエリア校の進学率が少々落ち気味になってしまったのもまた紛れも無い事実でもあるのだが…

 

けれども、そんな声すら仕事に没頭するしかなかった劉玄斎にとってはどうでも良い事であった。

 

毎日毎日、ひっきりなしに起こるトラブルの連続。幼・小・中・高という、1つの学園にとんでもない数の学生が在籍するという、そのあまりに巨大すぎる決闘学園デュエリア校の学長としての仕事は、劉玄斎に外部からの余計な声を聞かせる暇も無いくらいの忙しさを与えていたのだから。

 

…それは自分が戦いに明け暮れる日々を送るのとは、まるで違う毎日の連続。

 

幼等部から高等部までの全責任者に就任したからこそ、毎日のように起こる学園トラブルの対処に追われたり…

 

その他にも様々な業務が日々山のように積み重なって迫り来たりするのだから、かつて暴れ狂う大災害、王座を踏みつける戦闘狂とまで呼ばれた男も、自分よりも弱く、か弱く、そして庇護しなければいけない対象でありつつ育成の対象でもある多すぎる子ども達に対し、『大人』の対応をする日々を送ることになっていて。

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

劉玄斎がデュエリア校の学長に就任してから、およそ3年ほど経った頃だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

ある日突然…『とあるニュース』が、全世界に向けて発信された―

 

 

 

 

 

 

それは忙しすぎる毎日を送る劉玄斎の耳にも、否応にも届いたほどの世界にとっての衝撃的かつ大々的な『大事件』。

 

 

 

 

 

そう…

 

 

 

 

 

 

その日、決闘市において―

 

 

 

 

 

『Ex適正の無い子ども』が、発見されたというニュースであった―

 

 

 

 

 

世界は大々的にソレを報じた。

 

世界は、大々的にソレを騒ぎ立てた。

 

それはまるで、その決闘市で発見された『Ex適正』の無い子どもが、世界にとっての『悪』なのだと言わんばかりの偏向報道となりて―

 

毎日のように、Ex適正の無い子どもを誹謗中傷するような、人権を無視したような報道が流れ続けた。

 

…だからこそ、そんな世界中で大ニュースとなった決闘市のEx適正の無い子どもの話は、ニュースを見る暇すらなかった劉玄斎の耳にも不意に届いてしまった。

 

いや、届いたのではない…

 

その当時は、どこへ言っても何をしても、誰かが必ず『その話題』を出すモノだから、仕事に追われ世間の情勢に疎かった劉玄斎にもどうしてもその話題は耳に入ってきてしまったのだ。

 

 

 

 

 

…だからこそ、最初はほんの『興味本位』だった。

 

 

 

 

 

当初、Ex適正の無い子どもが発見されたというのは劉玄斎にとっては『どうでもいい事』だった。

 

…世間がどうしてその『Ex適正の無い子ども』に対し凄惨な言葉を投げるのか。世間がどうしてそこまで『Ex適正の無い子ども』を嫌うのか。世間がどうして『Ex適正の無い子ども』を攻撃するのか。

 

 

それが、劉玄斎にはまるで『理解』が出来なった。

 

 

そう、当初そのニュースを耳にした劉玄斎からしてみれば、別に『Exデッキ』が使えないことが何の『ハンデ』になるのだろうかと思ったはず。

 

何しろ、彼がまだプロの世界で『小龍』と呼ばれていた時代は…

 

Exデッキを自ら縛り、極力Exデッキを使わないことで自らを鼓舞するスタイルで戦っていたのだから、いくら『征竜』を屈服させるためにそのスタイルを変えたとは言え、劉玄斎自身からしてみれば『Exデッキ』が使えないことなどまるでハンデにはならないのではないかとすら考えていたのだから。

 

 

…しかし、世間ではそうとは成らなかったらしい。

 

 

その報道の仕方に『違和感』を感じるほどに、毎日のように流れてくるニュースはまるで『Exデッキ』を使えないことが『悪』であるかのように報道するような代物モノばかり。

 

これまでもExデッキを使わないデュエリストは、自分を含めてプロの世界にだってそれなりに居たはずだと言うのにも関わらず…

 

 

…世間は、世界は。

 

 

Exデッキを使えない事は『ダメ』なのだと。

 

Ex適正が無いことは『悪い事』なのだと。

 

 

何故か、『わざと』そうしているかの様に報道をし続けたのだ―

 

 

偏向報道にも程があるソレ。たかがExデッキが使えないくらいで、そんなに騒ぎ立てる事など無いだろうと、その話題を遠巻きに耳にする度に劉玄斎は感じてもいた。

 

 

 

 

だから…

 

本当に『偶然』だったのだ―

 

 

 

 

 

…偶々、偶然。

 

ほんの少し仕事に余裕が出来たという、わずかばかりの『休憩』の時間に気まぐれでTVをつけた時に…

 

 

 

 

件の、『Ex適正を持たない子ども』の顔がTVに映ったのは―

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

劉玄斎は、確かに見た。

 

今、世間で騒ぎになっている、『Ex適正』を持たない少年だという存在の…

 

 

 

その、『顔』を―

 

 

 

 

 

 

きっと…

 

この時感じた衝撃は、劉玄斎もこれまでの人生で体験したことのないくらいの、それ程までに大きなモノとなりて彼の身に降りかかってきたに違いない。

 

 

そう…

 

 

劉玄斎は、そこで『理解』ってしまったのだ。

 

今、世界で騒がれているEx適正の無い子どもが…

 

 

 

 

今、世間から酷く責め立てられているEx適正の無い子どもが…

 

 

 

 

 

 

そう、『天城 遊良』は―

 

 

 

 

 

 

イノリの、『孫』なのだ…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや…それだけではない。

 

 

 

 

 

 

TVに映った天城 遊良の顔を見て。

 

TVに映し出される、天城 遊良の姿を見て。

 

その網膜にまざまざと焼きついた、『天城 遊良』の顔を見て―

 

 

 

 

 

 

劉玄斎は、理屈ではなくその『本能』で理解してしまった―

 

 

 

 

それは紛れもない。今、世界の『異物』扱いをされている天城 遊良が…

 

 

 

 

 

 

 

自分の…『血』を、分けた者であると言う事を。

 

 

 

 

…それは血を分けた者だからこその直感か。

 

…はたまた、今もなおかつての恋人が最愛の女性であると思っているからか。

 

 

そんな、理屈では説明できない天啓にも似た直感的な『理解』。ソレを、この時の劉玄斎は悟ってしまったのだ。

 

 

 

 

…だから、調べた。

 

 

 

 

それまで避けていた、天津間 イノリが『天城 イノリ』になってからの『これまで』を。

 

 

 

…だから、知った。

 

 

 

天城 イノリが、自分の前から姿を消した後も…誰とも結婚しておらず、貴族と『縁』を切って、たった一人で決闘市で『息子』を育てていたと言う事を。

 

 

 

…だから、分かった。

 

 

 

天津間 イノリの…いや、天城 イノリの息子である、『天城 竜一』という男が…

 

 

 

紛れもなく、自分の『息子』であったという…その、『真実』を。

 

 

 

…決闘学園中央校筆頭。

 

…中央校における最後の卒業生。

 

 

 

【決闘祭】の優勝経験もあり、『5大都市対抗戦』という今では伝説となっている学生達の試合にも選手として選ばれた経歴もあり、しかし何故かプロにはならなかったという異色の経歴を持つ、それまで知らなかった自分の『息子』の、これまで知らなかった輝かしい数々の記録。

 

そして、イノリが名付けたであろう息子の『竜一』と言う名前…

 

その由来が、間違いなく自分の『名』から来ているという事を、劉玄斎は理屈ではなく本能で分かってしまったのだ。

 

また、それ以上に…

 

かつて愛した最愛の女性が、自分の前から突然姿を消したその『理由』も…決闘界においてそれなりの地位を確立してしまっていた劉玄斎は、そこでついに『知って』しまった。

 

そう、イノリが突如自分の前から姿を消してしまったその理由が…

 

それが、『自分』の所為だと…いや、自分の『為』であったと言う事を…

 

劉玄斎は、『知って』しまったのだ…

 

 

 

 

 

 

泣いた…

 

 

 

 

 

龍が、泣いた―

 

 

 

 

 

最愛の女性が消えた全ての『真実』を知って。

 

最愛の女性が何故自分の前から姿を消したのかという、その『思い』を知って。

 

誰も入れない自室にて…デュエリア校の学長室という、他の誰も入れないその固く閉ざされた閉鎖空間にて、大きな龍は声を上げ、誰も見た事も聞いた事もない声で…

 

かつて暴虐の限りを尽くした巨大なる龍は、まるで小さい子どものようにして誰もない部屋で延々と泣きはらした。

 

…それを言葉で言い表すならば、まさに涙で部屋を埋め尽くすほど。

 

形容ではない。本当に、それまでの自分の愚かさと馬鹿さ加減を悔やむようにして…かつて小さき龍と呼ばれた男は、ただひたすらに泣き腫らし続けたのだ。

 

…自分はどれだけ愚かだったのだろう。

 

最愛の女性が、何を思って自分の前から姿を消したのかも知らずに勝手に潰れ…

 

一人よがりの戦いを続けるだけで、『親』としての責務を何も果たそうとせずただ勝手に戦い続け…

 

そして、どれだけ愚かな人生を歩んでいたのだろうか…

 

…と。

 

 

 

 

 

…だからこそ、劉玄斎はすぐにでも行動を起こそうとした。

 

 

 

 

 

世間から…世界から傷つけられている、自分の『息子』とその嫁と、そして『孫』を救おうとして。

 

…しかし、行動を起こそうとした時には時既に遅し。

 

息子と、その嫁はどれだけ探しても『消息不明』と成り果ててしまっており…

 

また、『孫』だけでも救おうと動こうとしたものの、デュエリア校学長としての仕事の多さと、かつて自らが犯した愚かな行為による決闘市への『出禁』が尾を引いてしまっていた事が、ここへきて呪縛のようにして彼の行動を悉く縛りにきてしまったのだ。

 

そして、それ以上に…

 

まるで話しを聞かない周囲の『反対』によって、劉玄斎は思うように動く事が出来なかくなってしまっていた。

 

そう…

 

決闘学園デュエリア校で、天城 遊良を保護する案を提唱するも、劉玄斎を除いた役員全員の満場一致で、その案は『否決』されてしまったのだ。

 

…その理由は単純明快。

 

世間から『出来損ない』の烙印を押されている屑を、どうしてデュエリアが保護しなければならないのかという…頭の固い大人達の、大多数の反対によるモノ。

 

しかも、ライバル都市である決闘市の、そんなお荷物をどうしてデュエリアが保護しなければならないのかという…もっともらしい理由をつけて、とにかく劉玄斎の思いは多くの邪魔者によって悉く無碍にされてしまった。

 

…また、説得するために天城 遊良が自分の孫だと説明するも、何の証拠も出せないままでは誰もソレを信じようとはせず。

 

だからこそ、そのまま劉玄斎は満足に動けないままに…ただただ歯がゆい日々を送るしか、許されはしなかった。

 

まぁ、それでも『孫』が決闘市で今もどうにか生きていると言う情報だけは入ってきていたため、劉玄斎もどうにか動ける『時』が来る機会を虎視眈々と狙い続けはしていたのだが…

 

 

 

…しかし、どうにかしようと足掻き続けるも、満足に動けることもない日々が続いていたある時。

 

 

 

自身が治める決闘学園デュエリア校において、3年連続で大きな『事件』が勃発してしまった―

 

 

1年目…特待生として迎えた中等部一年生が、地属性の『霊神』を召喚したという事により、【決闘世界】が騒ぎ立てる事態が起こった。

 

2年目…『七草』と名乗る謎のテロリスト集団により、デュエリアの街が『大炎上』を起こすほどの『事変』が起こった。

 

3年目…炎上の爪痕が残っているというのにも関わらず、大勢の生徒達の集団失踪から始まった末に…特別に預かっていた三大貴族の内の1つ、『煉獄園家』の嫡子が、まさかの『命を落とす』という『大事件』が起こってしまった。

 

 

そんな、事後処理すら大変な事件が3年も連続で起こってしまったために…

 

 

劉玄斎は、『孫』の事をどうこうする暇もなく、これまで以上の壮絶な仕事に明け暮れなければならなくなってしまっていた。

 

…まぁ、その頃は『孫』が【黒翼】に引き取られているという情報も彼の元に入ってきていたため、少々『孫』の事に対しては少しの余裕が出てきてはいたのだが。

 

とは言え、旧知の間柄でも自由奔放すぎる【黒翼】には連絡も取れず所在も転々としすぎていて、邂逅すら出来ないままであったのだから…

 

彼もまた、『孫』の事を【黒翼】に聞けるはずもなく。ただただ忙しい日々、ただただ大変な日々を、劉玄斎もまた数年に渡り送る羽目になったことはひとまず置いておいて。

 

 

 

…しかし、そんな忙しい日々の中でも、一時も彼は『孫』の事を忘れた日はなかった。

 

 

 

だからだろう。『ある年』において、劉玄斎は決闘市における学生の祭典、【決闘祭】を、誰にも邪魔されないように…

 

学長室にて、一人食い入るように観ていたのを知る者は誰も居ない―

 

 

 

…それは誰にも邪魔されることなく。

 

…それは誰にも余計な事を言われないように。

 

 

 

決闘学園デュエリア校学長が、他国の、しかもライバル都市であるはずの決闘市の『祭典』を食い入るように見ている姿など、デュエリアの誰にも見せられるはずもないと言うのにも関わらず。

 

それでも、『逆鱗』の劉玄斎は年末に食い入るようにして…【決闘市】の中継映像を、瞬きも忘れて魅入っていたのだ―

 

 

 

そして…

 

 

 

その年の【決闘祭】にて、彼が見たのは紛れもなく―

 

 

 

 

 

 

 

 

―『それでは、選手の入場です!イースト校1年、天城 遊良選手VS、サウス校3年、獅子原 エリ選手!』

 

―『バトル!【堕天使スペルビア】で【星態龍】を攻撃!』

 

 

 

竜は見た…

 

その眼で、兄貴分と姉貴分の『孫』である少女相手に…そう、『烈火』の『名』を相手に、一歩も引かずに戦い抜いた彼のデュエルを。

 

 

 

―『くっ、だったら【堕天使イシュタム】でダイレクトアタック!』

―『もういっちょ罠発動!【ガード・ブロック】!ダメージを0にして、デッキから1枚ドロー!』

―『まだだ!【堕天使ディザイア】でダイレクトアタック!』

―『おっとぉ!直接攻撃宣言時、手札から【速攻のかかし】を捨ててその攻撃を無効に!そのままバトルフェイズは終了や!』

―『くそっ…やっぱり持っていたのか…』

 

 

 

龍は見た…

 

仇敵と同じ名字を持つ少年との、その『実力』の差は明らかなれど…

 

それでも、最後まで諦めずに戦う彼のデュエルを。

 

 

 

 

 

―『皆様!とうとうこの瞬間がやってまいりました!』

―『誰が想像した!誰もが知る10年前!世界にただ一人、『Ex適正』を持たない人間として世に知られた名を!それが、その人物が!今夜この【決闘祭】の!決勝のステージへと昇ってくることなど!誰が想像したというのか!しかし彼はその戦いを我々に見せつけた!Exデッキを使わない戦いで!それでも彼はここまで進んできた!』

―『決闘学園イースト校1年!天城ぃ!遊良選手ぅぅぅぅぅぅう!』

 

 

 

 

 

辰は見た―

 

群雄割拠の猛者の中に放り込まれたと言うのに、それでも『頂点』の舞台まで昇ってきた彼の姿と…

 

 

 

 

―『…でも…俺は、負けたくない!お前に負けても悔いは無くたって…だからって負けていいわけじゃ絶対にないんだ!』

 

―『俺は…俺は!Ex適正なんか無くたって、俺の存在を否定させないために!俺は!お前に勝ちたい!先に行ったお前に!俺は!』

 

―『いくぞ鷹矢!俺は3体の堕天使をリリース!』

 

 

 

 

 

【黒翼】の孫を前にしてもなお、ボロボロに傷付きながらも必死になって戦うその姿と―

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

―『【神獣王バルバロス】!』

 

 

 

 

 

まるで、かつての『自分』を思わせるような、Exモンスターではない『切り札』によって戦況を一変させるという、その懐かしくも誇らしい、そして自分が諦めたデュエルによって『頂点』に挑むその勢いと。

 

そして、Exデッキなど使わなくとも最後の最後まで戦い抜き、ついには【決闘祭】の頂点の座を掴み取った…

 

その、彼の全てのデュエルを…

 

劉玄斎は、観つづけた。

 

 

 

 

 

…だから、泣いた。

 

 

 

 

涙が、止まらなかった。

 

 

 

自分の『孫』が、世界の全てを敵に回してもなお折れず、諦めず…決闘市の学生の頂点に立ったことに、強く心を打たれて。

 

それ故、彼は何もしてやれなかった自分を恥じた。何も出来ない自分を、これまで以上に歯がゆく思い…

 

自分が手間取っている間にも、生きる事を諦めずに最後まで【決闘祭】を戦い抜くまでに成長した『孫』を、どうにかして称えてやらないといけないと…そう、なんとしてでも、『孫』の為に『何か』をしてやらなければという思いが、劉玄斎の中でより一層強くなったのだ。

 

…今でも尾を引く決闘市への『出禁』の命。

 

若いときの酒の失敗が、こんな時にありえない程に足を引っ張っていることを、この時の劉玄斎はどれほど悔やんだ事だろう。

 

同じ酒の席に居た者たち… 兄貴分(烈火)悪友(砺波)同期(蛇蝎)後輩(鷹峰)は、『妖怪』の叱責を恐れてしらばっくれたと言うのに…

 

当事者というか、最も被害を出した自分だけが決闘市を『出禁』になってしまうほどの失態を犯し、そしてソレから逃れられなかった若い時分の失敗に、今更になって心の底から悔やみを見せて。

 

だらこそ、どうにかして…

 

どうにかして、決闘市に入れるようには出来ないモノか―

 

この時の劉玄斎の頭にあったのは編にその思い唯一つ。自分が決闘市へとどうにか入れるようになり、自分がこの手で直接『孫』を救ってやらなければという強い思い、ただそれだけ。

 

しかし、『貴族連』が一度決めた事は簡単には覆す事は出来ない。それは【王者】と同格の『逆鱗』とまで呼ばれた劉玄斎をもってしてもなお、思うように進められない堅い『禁』であり…

 

 

 

そうして…

 

 

 

そんな、歯がゆくも行動を許されない日々が、一体どれほど続いた後だろうか。

 

 

 

 

…何故か、急に、突然に。

 

 

 

 

そう、何故か、劉玄斎の元へと、決闘市への『出禁を解く』という知らせが舞い込んできたのだ。

 

 

…それは寝耳に水だった。

 

だってそうだろう。いくら酒に酔った若き時分の失敗とは言え、決闘市の象徴でもあるセントラル・スタジアムを、泥酔に任せてボロボロに壊してしまったのだから―

 

…その時の『貴族連』の怒りが半端なモノではなかった事を、劉玄斎もよく分かっているからこそ。

 

消されていてもおかしくなかった失態を、決闘市への『出禁』だけで済んだと言うのは彼からしてもある意味『幸運』の部類であったはずなのだから。

 

 

…だからこそ、今更になって決闘市への出禁が解かれたのは一体どうしてなのだろう。

 

 

劉玄斎も、ソレをすぐに調べたかったはずではあるのだが、しかし決闘市への『出禁』が解かれたと知った彼は、ソレよりも先にまず真っ先に『ある行動』を反射的に起こしていた。

 

 

そう…

 

 

劉玄斎は、真っ先に『決闘市』へと向かった。

 

 

実に20年以上も足を踏み入れる事が許されなかった、あまりに懐かしき決闘市。

 

聞くところによると、数年前まで『不良時代』の全盛期であったという懐かしきこの街は、かつて劉玄斎が活動していた頃とはその造りも雰囲気もかなり変化してしまっていた。

 

…当たり前だ。何しろ、20年以上も時間が過ぎ去ってしまっているのだ。

 

記憶にある場所などは一新されたり再開発されたりして風変わりしていたし、昔なじみの店も多くが当に無くなっていた。

 

…けれども、そんなことなど劉玄斎にとってはどうでも良かった。

 

そう、決闘市への『出禁』が解かれ、お忍びで決闘市へと踏み入ったその時の彼の目的は唯一つだったのだから。

 

 

 

彼の目的は唯一つ…

 

 

 

自分の『血』を分けた『孫』の姿を、遠目からでも一目でいいからその眼に写したかった。

 

 

…目立つ風貌をしている事は彼も自覚していた。だからなるべく目立たぬように時間帯を見計らって。

 

…自分の知名度を彼も理解していた。だからなるべく見つからぬよう細心の注意を図って。

 

 

まぁ、この時の決闘市は年始に起きた『とある事件』によってかなりの被害が出ていたのだから、混乱も充分に収まっていない復旧段階の決闘市では誰も劉玄斎に気がつく事はなかったのだが…

 

それでも、一応は決闘市の公的機関へ黙認の『仕事』を装いつつ。劉玄斎は極力どうにか目立たぬようにして、20年以上ぶりとなる決闘市へとその足を踏み入れつつ自らの『目的』の為に動いたのだ。

 

 

そうして…

 

 

彼は、そこで改めてその目に『孫』の姿を写した。

 

遠目から…見つからぬようにして…

 

自分の『血』を分けた、愛する女性との間に生まれた息子の、更にその息子の姿を…彼は、ようやくその眼に映すことが出来た。

 

 

 

…涙が、出そうになった。

 

 

 

遠目から本物の天城 遊良をその眼に映した瞬間に、劉玄斎の胸の内には込み上げてくるモノが感じられていたはず。

 

…何しろ、自分の血を分けた本物の『孫』。

 

すぐにでも邂逅し、自分が祖父だと伝えてやりたかった。今まで何もしてやれなかった事を謝り、孫のためならば何でもしてやりたい衝動をこの時の劉玄斎が感じた事は言うまでもなく…

 

 

とは言え…

 

 

その時の劉玄斎は、それ以上の行動を起こせるはずもなかった。

 

…当然だ。今更、どんな顔をして孫の前に顔を出せると言うのか。

 

せめて、もっと早くイノリが決闘市に居る事が分かっていれば…

 

いや、イノリが自分の前から姿を消した理由を、もっと早くに調べられていれば。きっと『息子』とその嫁が行方不明になるような事態にはさせないように動けたはずで、『孫』もあんな酷い目にあわせなくて済んだはず。

 

…孫の姿を見た瞬間に、劉玄斎の心に同時に浮かび上がってきたのはそんな感情。

 

20年以上もの長きに渡り、彼は『真実』を知らずに見当違いの行動を起こし続けていたのだから…こんな自分が、今更『祖父』だと胸を張って会いにいっていいわけがない…

 

そんな『資格』など、無いのではないか…

 

血を分けた『孫』の実物を遠目から見て、そんな思いが心に溢れてしまったからこそ劉玄斎はどうしても思ってしまったのだ。

 

 

こんな自分が…こんな、馬鹿な男が―

 

 

今更、『孫』にどんな顔をして自分が『祖父』であるなどと告げられようか…と。

 

何もしてやれなかったこんな自分など、『孫』にとっては邪魔な存在なのではないだろうかという思いに陥って。

 

…そして、劉玄斎は『孫』と邂逅することもなくデュエリアへと帰るしかなかった。

 

控えているデュエリア校の卒業式等の仕事もあったことで、元々長居している暇もなかったのだから、20年以上ぶりとなる決闘市を懐かしむ間もなかったのはこの際仕方がないとしても…

 

それでも、直接『孫』を一目見たことによって、劉玄斎の心の内には更に『孫』への感情が大きくなっていたのは当然と言えば当然で。

 

…こんな自分が、孫のためにしてやれることは何かないのか。

 

あんな目に遭ってもなお折れず、【決闘祭】に優勝した誇らしい自分の孫に…なにか…してやれることはないだろうか、と。

 

 

そして、劉玄斎に悩める日々が続いていたある日…

 

 

そう、デュエリア校の卒業式も終わり、来年度へと向けてまた忙しくなってくる時期。そんな、毎日の仕事に追われている劉玄斎が、いつもの様に他に誰もいない学長室にて一人仕事に勤しんでいたある時に―

 

 

 

 

 

 

 

―『ふふっ、まさか本当に貴方が学長なんてしているとはねぇ、えぇ。』

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

…それは、突然現れた。

 

聞こえてきたのは誰かの『声』。龍の耳に聞こえたのは、どこか聞きなれた…性根の腐ったような、心の底から捻くれているかのような捻じれた声であり…

 

…しかし、劉玄斎はその突如聞こえてきた声に自分の耳を疑った。

 

何しろ、自分の耳が確かならば…

 

その声の主は、とっくにこの世から居なくなっているはずの人物の声であったのだから。

 

 

そして、他に誰もいない学長室にて。突然聞こえたその声に、混乱している様子を見せている劉玄斎の目の前に『靄』と共に姿を現したのは―

 

 

 

「ふふっ、お久しぶり…と言うのも奇妙な感覚ですねぇ、お元気そうで、『逆鱗』。」

 

 

 

そう…

 

 

 

劉玄斎の目の前に突如現れたのは他でもない―

 

30年ほど前に繰り広げられた、表と裏の決闘界による戦い、通称『表裏戦争』にて前【紫魔】、紫魔 憐造に敗れ、火口にその身を落とされて確かに死んだはずの男…

 

性根の腐った捻じれた男、裏決闘界融合帝―

 

 

【紫影】が、現れたのだ―

 

 

そして―

 

 

 

「な…て、テメェ!な、なんでテメェが!?ど、どっから現れやがった!いや、それよりなんでテメェが生きてやがる!」

「まぁまぁ、積もる話もあるでしょうが…それより、私も少々忙しい身でして…用件だけ手短に話させて頂きますよ?」

「ッ!誰がテメェと話すかよぉ!生きてたってぇんなら、今すぐ殴り倒して綿貫のジジイに引きわた…」

「デュエリア校の各所に爆弾を仕掛けました。」

「なっ!?」

「ふふっ、これで少しは話を聞く気になってくれましたかぁ?」

 

 

 

存在からして嘘の塊のようなこの男の今の言葉が、例え嘘偽りだったとしても…

 

それでも、そこで一瞬だけ怯むと言う、屑には見せてはいけない『隙』を見せてしまった劉玄斎。

 

…だからこそ、その隙を見逃さなかった性根の腐った捻じれた男に、劉玄斎は畳み掛けられるようにして。

 

喋る事を許してしまったのは、劉玄斎の人生においても大きな失敗の1つ出会ったに違いない。

 

…何しろ、劉玄斎も【紫影】の残虐性は『表裏戦争』の時に嫌と言うほど目にしている。

 

デュエリア校に『爆弾』を仕掛けたという言葉も、嘘と片付ければ今すぐにでも【紫影】を殴り飛ばすことができる。しかし、もしソレが『本当』だったならば―

 

自分の判断1つで、デュエリア校に在籍している幼・小・中・高等部の大勢の学生が危険な目に晒されてしまう。これまでも大きな『事件』に巻き込まれ続けた学生達に、これ以上の危険が降りかかる可能性を万が一にも考えてしまっては…

 

ソレが『嘘』だと、頭では分かっていても。

 

それでも、今すぐ確証を得られるモノがなければ、劉玄斎とて下手に出る他なく…下手に【紫影】に手を出すことが、この時の劉玄斎にはどうしても出来ず…

 

 

 

「…驚きました。本当に『彼』の言った通り、随分とお優しい大人になったご様子で。ま、それはいいでしょう。さて、ではお仕事のお話と参りましょうか…ねぇ、お優しい学長先生?」

「…」

 

 

 

 

そして…『紆余曲折』を経て。

 

そう、本当に『色々』あった挙句に、デュエリア校の学生を人質に取られている所為で、【紫影】の話に劉玄斎は乗るしか選択肢を与えられなかった。

 

そんな【紫影】の提案は、なんでも学生の【祭典】をもっと大々的に、もっと大規模に行うというモノであり…それは決闘市をも巻き込んだ、世界でも類を見ないほどの豪華な祭典にするのだと言うモノだった。

 

 

そう…その裏で、決闘市代表の『とある少女』から、『竜の伝承』に伝わる『赤き竜神』を解放するという『真の目的』の為に…

 

大々的なカモフラージュを手伝えと、そう【紫影】は劉玄斎へと告げてきたのだ。

 

そして、祭典の運営にも関わる超巨大決闘者育成機関【決闘世界】の方は、つつがなく手を回しているため問題は無いと言うことから…

 

…劉玄斎もまた、【紫影】の提案に乗る事以外に選択肢は与えられず。

 

まぁ、そんな、劉玄斎と【紫影】との間に、どんな攻防があったのかはまた別の機会に語られる話ではあるのだが。

 

 

 

 

 

…ともかく、劉玄斎は追い詰められていた。

 

 

 

 

 

どうすればいい…

 

何も打つ手がなく時間が過ぎるばかりでは、すぐに【決島】が始まってしまう。このまま【紫影】の言いなりになるばかりでは、何の罪も無い『赤き竜神』を持つ少女の命が危うくなってしまう。

 

…しかも、その『とある少女』は『孫』の幼馴染だというではないか。そんな少女に『最悪』の事態が降りかかる事になってしまえば、尚更『孫』に顔向けなんて出来なくなってしまう事は必至で…

 

けれども、【紫影】に今逆らえば、デュエリア校の大勢の学生の命が危うい。

 

そんな、螺旋に渦巻く苦悩の蔦と…どちらにも転べぬ重すぎる天秤によって、苦渋の板ばさみにされていた【決島】が始まる前の劉玄斎。

 

せめて、デュエリア本土の学生の身に安全が保障されれば。それならば劉玄斎も、【決島】の間だけでももう少し【紫影】に好き勝手はさせないように動けると言うのに…

 

しかし、【決島】が始まる前の現段階では、下手な動きをすれば【紫影】は感づいてしまうだろう。それこそ、見せしめに何人かの学生の命すら奪う行動に出るかもしれないという事を劉玄斎も分かっているからこそ、下手な行動を起こす事は出来なかった。

 

…だからこそ、せめてもの抵抗として。イースト校理事長の砺波 浜臣を挑発し、『孫』を【決島】に出場せざるを得なくしたのは劉玄斎にとって一種の賭けだったのだろう。

 

『赤き竜神』の事情を知る者が、少しでも多く【決島】に出場すれば…【紫影】の野望も、断ち切れる可能性が大きくなるから…と、

 

 

それに、自分の『孫』ならばきっと―

 

 

…まぁ、【紫影】の『真の目的』が『赤き竜神』ではなく別の所にあったとか、天城 遊良の【決島】の出場が【紫影】にとっては確定事項であっただとか、そもそもこの時の【紫影】には誰一人として『殺せなかった』と言うことは…

 

この時の劉玄斎にとっては、知る由もなかったことではあるのだが。

 

ともかく…

 

 

仇敵である【紫影】の残虐性を、過去からよく分かっていたからこそ。

 

【紫影】に好き放題にされる事と、こんなときに無力な自分への苛立ちが、この時の劉玄斎の心にはひしひしと重く圧し掛かり続けていたのだ。

 

それはどれほど重い苦悩だったのだろう。

 

それはどれだけ苦い思いだったのだろう。

 

 

 

 

―しかし、彼の『苦悩』の種はそれだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

そう、それは【決島】が始まる少し前…

 

 

 

【紫影】にいいように使われる苦しみによって、劉玄斎もまた焦燥に塗れどうにもならなくなっていた時に…

 

 

 

 

 

―ソレは、現れた。

 

 

 

 

 

 

「へぇ。本当に本物の『逆鱗』だ。」

 

 

 

…それは劉玄斎が、デュエリアにある自宅で頭を悩ませている最中でのことであった。

 

他に誰もいないはずの、広いが孤独を感じる寂しいリビングで一人、【紫影】への怒りと自分への苛立ちによって焦りを感じていた劉玄斎の目の前に…

 

 

 

「あ…あぁあ…ゆ、遊良…」

 

 

 

そう、あろうことか、そんなどうにも行かなくなってしまっていた『こんな時』に、劉玄斎の目の前に現れたのは他でもない。

 

 

―アマギ ユーラ

 

 

決闘市にいるはずの、自分の『孫』と同じ顔をした…いや、自分の『孫』そのものが、突然何の前触れもなく現れたのだ。

 

 

 

「おい、勘違いするなよ。オレとアイツを一緒にするな。俺は確かにアマギ ユーラだが…『今』のお前と、オレには何の繋がりもない。」

「…ッ…あぁ、そ、そうだなよなぁ…今更、どの面下げて俺がお前の…じいちゃんだって、言えるわけが…」

「違う。『そんな事』はどうでもいい。『今』のこの世界に生きる奴等なんて、どうせ全部偽者なんだ。アンタだけじゃない。オレにとっては、『今』のこの世界の奴等の誰とも…繋がりなんて無いってことだ。オレは『今のアンタ』の孫じゃない…『アンタの孫』は、今も決闘市でのうのうと暮らしているよ。何も知らずに、な。」

「な…い、一体どういう意味なんだそりゃ…ゆ、遊良が、2人居るってことかぁ?」

 

 

 

しかし、突然目の前に荒われたユーラが淡々と続ける言葉のどれもが、劉玄斎には理解出来なかった。

 

…ソレも当たり前か。

 

何しろ見た目からして同じ、名前も同じだと言うのに…目の前の『孫』そっくりな少年は、自分の事を『あまぎ ゆうら』ではあっても天城 遊良では無いと意味のわからない事を言ったのだから。

 

…彼の言い分だと、遊良が2人居る事になる。

 

いや、はっきりと『そう』言っているかのような彼のあまりに堂々とした言葉に、劉玄斎の頭はただただ混乱してしまうだけで―

 

 

 

そして―

 

 

 

「ソレをアンタに説明する義理もオレにはない。ユイが勝手に『ここ』に連れて来ただけだからな。」

 

 

 

突如現れたアマギ ユーラが、同じく急にここに現れたもう1つの『気配』へと向かって声をかけたかと思うと。

 

 

 

「…初めまして、劉の一族の末裔。神に喧嘩を売り、名を隠した『龍超将軍』の遠き子よ。」

「…ッ!?」

 

 

 

もう一人…

 

この部屋に、別の誰かが現れて。

 

 

 

「…私はユイ…現在は訳あって、釈迦堂 ユイと名乗っておりますが…」

「ま、待て、テメェは一体何なんだ?遊良をここに連れて来たつったが…それに、何で『劉』の隠し名の事まで知って…」

「…ソレを貴方に説明したところで理解は出来ないでしょう。…貴方にしていただきたい事はひとつ。彼を…『アマギ ユーラ』をここに匿っていただきます。同じ存在が、同じ時間に同じ場所に長く存在すると『私』にも色々と不都合が生じるので…」

「い、意味がわからねぇんだが…」

 

 

 

けれども、突然現れた謎の少女もまた、劉玄斎にはとても理解できない言葉をつらつらと並べるだけではないか。

 

…あまりに突然の状況に、ただただ混乱するばかりの劉玄斎。

 

何がどうなって、どういう事が起きているのか。

 

それが、劉玄斎には分からない。そう、自分の理解の範疇を超えた事が起こりすぎていて、劉玄斎には全く何もかもが理解できずにいるだけで…

 

 

 

「だから言っただろ?アンタは深く考えないでいい。どうせ理解出来ないだろうからな。とりあえず…オレが『事』を成すまで、ここを隠れ家にさせてもらうって事だ。決闘市じゃ【白鯨】が色々と探っているみたいだし…だから分かってるとは思うが、この事は他言無用だ。」

「あ、あぁ、そりゃ全然構わねぇが…け、けどよぉ、他言無用つっても今の俺は訳あって監視されて…」

「…それは問題ありません。【紫影】には既に通達済みです。」

「ッ!?テメェ、【紫影】と繋がってんのか!?」

「…それも貴方には関係の無い事です。…努々忘れることなかれ…今の貴方には、選択肢など用意されてはおりません…ご自分のやるべき事、それを遂行なさることだけをお考えください。では…私はこれで…」

「あ、おい待て…ッ、き、消えた?」

 

 

 

そうして―

 

のっぴきならない状況に置かれながらも、劉玄斎には背負うモノが更に増えてしまった。

 

…遊良、【紫影】、そしてユーラ。

 

『孫』の事と、仇敵の事に…そして、突然現れた孫と同じ顔をした謎の少年。そんな、誰にも言えない3つのことで…劉玄斎は、ずっと悩み苦しんできた。

 

 

…まぁ、とは言え【紫影】の方は、【決島】で何があったのかは既に記されている通りではあるのだが。

 

 

そう、本土に残ったデュエリア校の学生の安全は、【決島】の最中に水面下で劉玄斎が『手』を回していた甲斐あって、ここでは語られない劉玄斎の『協力者』によって全員の無事が確保された。

 

それはデュエリア校の学長として過ごした期間に、信頼の置ける腕利きの卒業生が【紫影】の放った刺客の悉くを打ち倒したおかげでもあるのだろう。そんな、表に記されている戦いの裏で、どんな攻防があったのかはまた別の機会に語られる事として…

 

 

 

 

 

…次に劉玄斎に衝撃が走ったのは、【決島】が終わってしばらくたった頃だった。

 

 

 

 

 

 

「…私が連れてきたアマギ ユーラは消えました。」

「ッ!?き、消えたって…ど、どういう事だ!?」

「…言った通りです。先ほど、決闘市にて天城 遊良とアマギ ユーラが戦いを行い…この世界の天城 遊良は…貴方の孫は、無事に勝ち残りました。」

「な…」

 

 

 

いきなり知らされたソレは、【決闘世界】の牢の中でのこと。

 

そう、名目的な『拘束』という名の、自分で自分を罰し続けていた劉玄斎の元に…初めて現れた日のように、いきなり何の前触れもなく釈迦堂 ユイが現れてそう告げてきたのだ。

 

 

 

「…良かったですね、実の孫の方が生き残って。…これは私としても喜ばしい事です、何しろ、貴方の孫の方が負けていればその場で『今』の世界も終わりでしたので。」

「…」

 

 

 

そして、何の感情もなく淡々とそう告げるだけの釈迦堂 ユイに対し。

 

何の前触れも無く、いきなりそう告げられた事によって複雑な感情に襲われてしまっている様子を見せる劉玄斎。

 

…当然だ。

 

『前の世界』から来たという、自分とは何の関係も無いと言い張ったアマギ ユーラ。しかし『孫』と名も顔も全く同じ少年を、接触も会話もほとんど無かったとは言え劉玄斎は数ヶ月の間、自宅で匿っていたのだ。

 

それはいくらユーラが、食事などを必要とせず『異常』なまでに『眠り続ける』という、およそ人体には不可能で不可解な状態であったとしても。それでも、これまでずっと一人で暮らしてきた劉玄斎は初めて『他人』と暮らすという…

 

…そう、少なからず、『孫』と暮らしていたという感覚を、劉玄斎は感じてもいたのだから。

 

だからこそ、いくら自分とは関係の無い存在だと『向こう』が勝手に言っていたとは言え。それでも確かに少しの間同じ空間で暮らした『孫』と同じ名前、同じ顔、同じ声、そして同じ雰囲気を持っていた少年に、劉玄斎が何の感情も抱いていなかったわけがないのだ。

 

…弟分である李 木蓮に無茶を言って、現代では入手困難な『儀式』関連のカードを作成させたのだってユーラに対する劉玄斎の一種の親心…いや、祖父心のようなモノ。

 

まぁ、その祖父心は【決島】で天城 遊良にも自分のカードを渡すという行為にて発揮されていると言う事は今はひとまず置いておいても。

 

それでも、ほんの少しの間だけでも共に暮らした少年が消えてしまったという事実は…

 

そう、この世界の『孫』が生き残り、前の世界の『孫』が消えてしまったという釈迦堂 ユイからの淡々とした言葉は…

 

劉玄斎の心に、確かに複雑な感情を抱かせていて―

 

 

 

「俺ぁ…また何もしてやれなかった…ずっとうなされながら眠り続けるだけのアイツにだって…もっと、何かしてやれることがあったはずだってぇのに…」

「…いいえ、貴方には何もすることはありませんでした。彼が眠り続けたのは彼が『邪神』を操りきれる『器』ではなかったためです。…自らの世界の終局を超え、次なる『今』に来た時点で…彼は、既に人間ではなかった。」

「ッ!けどよぉ!それでも…アイツは…ユーラは…」

「…不思議な人ですね。自分の孫が勝ち残り、この世界も消滅から逃れられたと言うのにそんな顔をするなど…『私』には、理解できかねます。努々忘れる事なかれ…では、私はこれで。もう、二度と顔を合わせる事は無いでしょう。」

「ッ、ま、待ちやがれぇ!まだ話は終わってな…」

 

 

 

それは劉玄斎が『牢』から出る、たった1日前の出来事。

 

出会いもまた急だったと言うのに、別れもまた急すぎる宣告を一方的に突きつけられ…

 

 

 

 

 

 

そうして、物語は現代へと戻ってくる―

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―決闘市の東地区、そのとあるBar。

 

時間にして深夜に差し掛かりそうな、そんな都会の喧騒もやや落ち着きを見せ始めたそんな時間に…

 

そう、人々の多くも既に寝静まっているであろう時間帯、通行人もほとんど見かけないような暗い道。そんな、決闘市の東地区の外れにある、小さいながらも立派な佇まいをした、通が好みそうな隠れ家的Barの中で…

 

 

 

「…やっぱ、テメェの作る酒は美味ぇな。」

「お褒めいただき光栄です。」

 

 

 

劉玄斎は一人、飲んでいた。

 

…しかし、酒を嗜む者ならばまだまだ飲み明かすであろう、この休日前の深夜だというのにも関わらず。

 

不思議なことに、普段は常連で一杯になっているこのBarにはカウンターに座った劉玄斎以外に誰1人として客は居らず…それは劉玄斎が人目につく事を嫌って、このBarを貸切にしたが故の静かで孤独な一人飲みでもあるのか。

 

そんな劉玄斎の体から発せられる無意識の圧は、久々に訪れた決闘市とこの店をどこか懐かしむ雰囲気が漂いはしているものの…

 

しかし、それ以上に何やら悲痛なモノを秘めているかのような、どことなく寂しさのようなモノが滲み出ているのはきっと気のせいなどではないはずだろう。

 

…劉玄斎にとっては、久々に訪れた決闘市。

 

年明けに一度、『孫』の顔を一目見るためにお忍びで…

 

数ヶ月前に一度、『仕事』の為に各決闘学園へ…

 

そして、今。

 

出禁が解かれてから、実に3度目となる決闘市の地を…劉玄斎は、この昔なじみのBarでその空気を懐かしんでいるのだろう。

 

そう、若かりし頃…それこそ、決闘市を出禁になる前まで。ルーキーと呼ばれていた時分に、仲間内で幾度となく通いつめた行き着けであるこのBarに今…劉玄斎が訪れて酒を飲んでいるのも、きっと自然に彼の足がこのBarへと向いてしまったからこその来店のはず。

 

…つい先ほど、飛行機の最終便で決闘市に到着したばかりの劉玄斎。

 

きっと、Barの店主も驚いたに違いない。何しろ、ずっと昔に決闘市を出禁になったはずの男から…何の因果か、久々に来店の電話を貰ったかと思うと、店を貸切にして欲しいというのだから。

 

まぁ、確かに『逆鱗』の劉玄斎が、一般客に混ざって酒を飲むような事になれば、軽くこの辺一体がパニックになると言う事はこの店主とて分かっているからこそ…店主もまた、店を貸切状態にすると言う事を快く承諾してくれはしたのだが…

 

…とは言え、たとえこの店内に他の客が居たところで劉玄斎に声をかけられるはずもなく。

 

そう、まるで世紀末を生きているのではないかと錯覚するほどに鍛え上げられた巨大なる体躯と、その丸太のような四肢の放つ圧迫感はこの隠れ家的Barにはあまりに似合わない。

 

それに加え、今の劉玄斎の醸しだす『孤独』なオーラはきっと…一般人であっても『何か』を察してしまうような、話しかけてはいけないような雰囲気となりてこの店内に充満しているのだから。

 

…だからこそ、今の悲嘆に暮れているかのような劉玄斎に話しかける者が居るとしたら、長年Barのマスターとして客の相手をしてきた歴戦の店主か…

 

…はたまた、『逆鱗』の劉玄斎にも引けを取らぬ、『よほどの者』だけ。

 

 

 

 

 

そう、『よほどの者』でない限りは―

 

 

 

 

 

「カカッ、ほらみろ、やっぱ『ここ』に居やがった。賭けは俺様の勝ちだぜ?」

「…はぁ、わかりましたよ。奢ればいいんでしょう?奢れば。しかし劉玄斎がここまでヘタレだったとは。」

「…あ?」

 

 

 

『孤独』なオーラにて、一人酒を飲んでいた劉玄斎へと向かって。

 

『本日貸切』の看板のかかった店の入り口がいきなり開いたかと思うと、突然劉玄斎へと向かってかけられた声が『2つ』あった。

 

 

…そう、店の外まで醸し出されている、他者を寄せ付けない『孤独』のオーラを意に介さず。

 

 

『逆鱗』の劉玄斎へと向かって、声をかけてきた『よほどの者』とは他でもない―

 

 

 

「…テメェら、なんでここに…」

「デケェ図体してセンチメンタルなテメェのこった。すぐに遊良に会いに行く勇気もねぇってんで、色々浸りてぇテメェが久々の決闘市で来るとこつったら…このBarしかねぇだろ?」

 

 

 

それは歴戦を駆け抜けたかのような渋い声に、特徴的な渇いた笑いを響かせた一人の男。

 

真っ黒な帽子とトレンチコートがよく似合う、それでいて大空を自由に飛びまわる鳥のような雰囲気をしているものの、しかしおよそ人間には近寄りがたい独特の鋭い目をしている…

 

豪放磊落、天下無双、世界最強のエクシーズ使い―

 

 

 

―【黒翼】、天宮寺 鷹峰

 

 

 

そして…

 

 

 

「私はすぐに彼に会いに行った方に賭けたんですがね。おかげでこのバカに奢る羽目になるとは。」

「カッカッカ、だから読みが甘ぇつったんだ。」

「貴様にだけは言われたくないがな。」

 

 

 

もう一人は深海が如き深さを感じさせる声で、少しの呆れを交えた言葉を放った男。

 

それは大海を自由に泳ぎまわる巨魚のようでありつつも、それでいて隣の巨大なる力に全くもって慄いていない、遥か深みから大空に跳ねあがることすらも厭わない雰囲気すら感じさせる…

 

そう、【黒翼】に連れ立って、高級感のある上品な白いコートを脱ぎつつ劉玄斎へと近づいてきたのは…

 

誇り高き歴戦の王者、決闘学園イースト校理事長―

 

 

 

―元シンクロ王者【白鯨】、砺波 浜臣。

 

 

 

 

そんな【黒翼】と【白鯨】の2人は、それぞれこの店に慣れた様子で劉玄斎を挟むようにしてカウンター席に腰を下ろすと。

 

 

 

「マスター、いつものだ。」

「かしこまりました。砺波様もいつものでよろしいですか?」

「えぇ、お願いします。」

 

 

 

突然現れた顔なじみに、混乱の色を見せている『逆鱗』の劉玄斎を他所に…

 

鷹峰は度数の強いウィスキーをロックで。砺波はここのマスターオリジナルのカクテルを注文しつつ。

 

手早く出された酒にそれぞれが一口だけ口を付けると、一息つくかのようにしてそれぞれが静かな吐息を漏らして―

 

 

そして、一瞬の静寂の後。

 

 

ジャズの調のみが聞こえる静寂を破るように口を開いたのは、【黒翼】天宮寺 鷹峰であった。

 

 

 

「ふぅ…まっ、とりあえず孫同士の対決はこれで一勝一敗のイーブンってとこか?カカッ、ガキの頃からのを数えたらキリがねーがな。」

 

 

 

鷹峰から零された言葉…

 

それは紛れもなく、劉玄斎の秘めている『真実』を知っているからこそ発せられる何の遠慮も無い確信を堂々と突く言葉であった。

 

…事の張本人である劉玄斎でさえ、長きに渡る情報収集と、そして偶然が重なってようやく知りえた『真実』であると言うのにも関わらず。

 

ソレを、まるで劉玄斎が知るよりも前から知っていたかのようにそう言葉を漏らす天宮寺 鷹峰の言葉は…あくまでも静かではあるものの、しかしどこまでも鋭い言葉となりて劉玄斎へとゆっくりと届く。

 

…とは言え、デュエリアにて綿貫から『直接本人に聞いてみるが良い』と言伝を預かっている劉玄斎も、鷹峰からのその言葉を聞いても動揺する様子は見せず。

 

そのまま、劉玄斎は鷹峰の言葉が終わるのを待ってから…

 

再度、鷹峰のよりも更に度数が強い自分の酒をゆっくりと一口飲みつつ、ゆっくりとその口を開き始めて。

 

 

 

「鷹峰…テメェ、いつから知ってやがった。俺と…遊良の事をよぉ。」

「あぁん?カカッ、ンなモン、遊良が生まれる前からに決まってんだろーが。何しろ俺の息子が昔、お前さんに似たガキとよくつるんでたからなぁ。…まっ、ソイツはお前さんみてーなゴツい男じゃなく、似ても似つかねぇ優男だったがよぉカッカッカ。」

「イノリの方に…似たんだろうなぁ。俺に似なくて良かったぜ。」

「カカカッ、違ぇねぇ。」

「…優男?中央校の天城 竜一が…優男………まぁ、別にいいですが…」

 

 

 

また、そんな重々しい会話のすぐ隣で。

 

なにやら鷹峰の言った、『優男』という言葉に強い引っかかりを覚えた様子を見せるイースト校理事長、砺波 浜臣。

 

…そう、昔からずっと決闘市を拠点にしていた【白鯨】は知っている。いや、嫌でも耳に入ってきていた。

 

『族』が幅を利かせていた過去の決闘市で、半ば伝説となっている決闘学園中央校の天城 竜一と言う男の事を…

 

【決闘祭】で『優勝』の経験もあるその男が、かつては毎日のように決闘市を騒がせていたと言う事は、過去の決闘市をよく覚えている大人からすればある意味懐かしさすら覚える出来事なのだろう。

 

それ故、その当時『族』を纏め上げていたその男を指して、『優男』と称するのは砺波からすれば特に引っかかることなのだろうが…

 

ともかく…

 

 

 

「…つぅかよぉ、ンな昔から分かってたんなら、何で俺にもっと早く教えてくんなかったんだ?」

「あー…そりゃアレだ…ま、色々あったんだよ、イノリの奴にもよ。…俺ぁ昔、一度だけこの街でイノリに会ってんだ。その時に色々…あの女に、頼まれてな。『今』のお前さんならこの意味、わかってんだろ?」

「あぁ…そうか…そうだなぁ。」

 

 

 

つらつらと語られる鷹峰の言葉を、劉玄斎は酒と共に静かに飲み込むだけ。

 

そう…最愛の女性が、何故自分の前から姿を消したのか。その真の理由を既に知りえている劉玄斎は、鷹峰が過去にイノリに会っていると聞いても最早取り乱すような事はしないのだろう。

 

 

 

「俺はイノリを守れなかった…ソレだけじゃねぇ…息子と、その嫁も守ってやる事が出来なかった…孫と…アイツも…」

 

 

 

だからこそ、酒の効いたその口から発せられる巨大なる龍のその言葉は、この世の何よりも重々しい言葉となりて静かに静かにBarの中へと零されるだけであり…

 

…その言葉の中には、最愛の女性の思いをその最期まで感じ取れなかった自分の不甲斐なさが滲み出ている。

 

それだけでは無い。劉玄斎の言葉の中には、自分の息子とその嫁となった女性への懺悔の気持ち。そしてそれ以上に、これまで悲惨な目にあってきた孫と…

 

他人には零せないものの、確かにもう一人の孫であった『彼』のことを強く思っている様子が垣間見える。

 

…龍の口から零される、強い懺悔と後悔の念。

 

これまで何もわかっていなかった、不甲斐なさ過ぎる自分がどうしても劉玄斎には許せない。それこそ、最愛の女性が自らの前から消えた後から…劉玄斎の人生は後悔の連続であり、全ての真実に手が届いた時には『時既に遅し』という場面ばかりであった事が、劉玄斎には何よりも許せないのだ。

 

 

 

「…だがソレは仕方のないことでもある。何せ相手が相手だ、今の貴様ならばまだしも…昔の貴様では、天津間家に楯突く力が足りなかった…それだけのことだ。」

「まっ、遊良の両親の事はれんぞーの野郎がランに潰されちまったってのも原因のひとつだけどな。」

「…」

 

 

 

しかし、それでも遥か過去から遊良と劉玄斎の繋がりを知っていた様子の鷹峰と、【決島】にてソレを知ったであろう砺波はこの酒の場の雰囲気を借りつつ、静かに劉玄斎へと語りかけ続けるのみ。

 

 

 

…そうして、静かなジャズの調がBarの中に静寂を広げていく。

 

 

 

きっと、赤の他人の第三者がこの場を見たら驚く事に違いない。

 

だってそうだろう。彼らがルーキーと呼ばれていた時分ならばいざしらず、今では決闘界における重鎮となった、それぞれが比類なき伝説を打ちたて続けた歴戦に刻まれし『逆鱗』、【黒翼】、【白鯨】の三人が…

 

まるで若き日のように、こうして肩を並べてBarのカウンター席で酒を飲んで話しているだなんて、一体誰が想像できようか。

 

こんな光景、若い人間が見たら感涙にむせび泣くか…彼らをよく知る歳の者ならば、心に熱いモノが込み上げるに違いないこと。

 

それ故、貸切となっているこのBarにおいて。この光景をその目に映す事が出来るのが、ずっと昔から彼らを見てきたBarのマスターだけというのもまた…勿体無くもある意味で正しい、約束された星霜の時間と言えるのだろうが…

 

 

静寂。

 

それでも、1つの会話を終えた彼らの間に流れるのは、ジャズの旋律すら空気を呼んだどこまでも張り詰めた異様な雰囲気。

 

…店内に他に誰もいないことを考えても、これ程の静寂が広がっているのはある意味異様と言えば異様。

 

それは融けた氷がグラスに当たる、『カラン』とした音が店内によく響くほどに鎮まりつつも張り詰めた…それぞれが戦いの中で、デュエルを通して会話を重ねてきた人種であるが故に生じるであろう、切れた会話の中で次の一手を考えているかのような静かな雰囲気。

 

また、Barのマスターは耳を傾けてはいない。

 

そう、それが『矜持』なのだと言わんばかりに、居るのに居ない存在感にて静かに邪魔をせず仕事を全うし続けているだけのBarのマスターもまた…『逆鱗』、【白鯨】、そして【黒翼】だけが居る店内にて、どこまでも仕事に徹底していると言うのがまた店内の静寂を広げているだけ。

 

 

 

…そして、しばらくの沈黙の後に。

 

 

 

ぞれぞれのグラスが、丁度空になったタイミングで…

 

 

 

再び口を開いたのは、『逆鱗』の劉玄斎で―

 

 

 

 

 

「鷹峰、砺波ぃ…今まで遊良のこと、面倒みさせてすまなかっ…」

「ンなモンはいらねぇ。…別に、お前さんの為じゃねぇからよ。」

「…それ以上の言葉はあの子を侮辱することになる。別に、あの子が貴様の『何』であろうが関係は無い…あの子は自らの意思で立ち上がり、自分の足で道を進み、そして自らの力で強くなった…ただ、それだけだ。」

「けどよぉ…テメェらにも『上』から色々…」

「カッカッカ、『奴ら』も俺様に手ぇ出すほど馬鹿じゃねぇよ。」

「同じく。それに私はこの奔放男とは違って社会的地位もそれなりに持っているからな。下手に手出しはしてこないさ。」

「あぁ?誰が奔放男だってんだコンチクショウ。」

「フッ、心当たりがある分、昔よりはマシのようだがな。」

「チッ、『こっち側』に来たからって調子乗りやがって…」

 

 

 

しかし、重々しく発せられたその劉玄斎の言葉を、砺波と鷹峰は即座に『否定』する。

 

…それは彼らが、彼の『孫』を己の弟子として認めているが故の『否定』の言葉に違いない。

 

天城 遊良という、『Ex適正の無い』、この世界においてはどうしようもない『出来損ない』として扱われてしまう少年を…【黒翼】と【白鯨】という、この世の頂点を知るデュエリストがそれぞれ彼のことを『弟子』と認めているのだって、事情を知らない者からすれば一体何がどうなって『そうなった』のかすら理解出来ぬほどの、あまりに信じられない奇跡だと言うのに。

 

そう、自分の子どもすらまともに育てた試しがない、あの自由奔放が度を過ぎていることで有名な天宮寺 鷹峰と…星の数ほどいた弟子入り志願者を片っ端から無視していた、弟子を取らないことで有名だったあの砺波 浜臣が。

 

何の因果か、天城 遊良という『Ex適正』のないデュエリストを弟子として認めているだなんて…およそ他人からすれば、決して理解できるはずもなく…

 

それでも、確かに『天城 遊良』のこれまでを知る砺波と鷹峰の口からは、天城 遊良という少年を微塵も憐れんでいるような言葉は聞こえず。

 

発せられるその声は、自らの道を必死に生き抜いてきた少年の軌跡を…決闘界の頂点を知り、そして人外の領域にまで至ったモノたちが、ただただ認めているだけという、それだけの言葉。

 

…それは別に、彼らの『弟子』が『誰の孫』であったからと言っても何も変わらないのだろう。

 

だからこそ…

 

 

 

「劉玄斎、貴様は知らないだろう?彼は時々…自分の事を、『恵まれてる』などと言うのだ。Ex適正もなく、散々絶望を味わってきた子どもが…私や鷹峰やトウコさんに鍛えられる事を…恵まれている…とな。」

「カカッ、自分の境遇考えりゃ、その程度で恵まれてるなんて死んでも言えねぇだろうってのによぉ。」

「だが、それでもあの子は絶望を乗り越え、そして何が幸せなのか感じる心を失わずにここまで成長した…それに関しては、私達も何もしていない。全てあの子が乗り越えた、あの子の人生の軌跡だ。」

「そうか…アイツぁ…一人でそんなに強く…」

「けどまっ、Exデッキ使えなくてもそれなりのモン持ってんのは、間違いなくテメェの血だろうなぁカッカッカ。」

「フッ、若いころ貴様がよく言っていたな。『Exデッキを使わずに勝つ方が凄いだろうが』、と。」

「おうおう、そういや、テメェらよくソレで喧嘩してたよなぁ。ソリが合わなくて殴りあってよ、ンでよくトウコの姉御に拳骨喰らってたけっかぁ?」

「…クハハ、今更、昔の事引っ張り出してくんじゃねぇ。」

「…若気の至りと言う奴だ。」

 

 

 

【黒翼】と【白鯨】は、かつてのような壁のない言葉で…少しの静寂を織り交ぜながら、『逆鱗』へと語りかけ続ける。

 

…ルーキーと呼ばれていた時代に、幾度となくこの店で酒を交わしながら、色々な言葉を紡き合った仲。

 

そう、酒の切れ目に、少しの静寂が流れようとも…しかし、これまで過ごして来た時間によって、会話などあってもなくても彼らには何かしらの『言葉』のようなモノが交わされているのか。

 

…少しの会話のその後に、また少しだけ訪れる静寂の音。

 

そして静寂の後に、また再び誰かが口を開くだけ。

 

 

 

「…まっ、ずっとウチのクソガ…孫やら、ルキの奴が傍に居たからな。遊良がひねくれなかったのはソコんトコがデケェんだろうよ。…おう、アイツはお前さんが思ってる以上に強ぇぞ?何せこの俺の弟子なんだからなぁカッカッカ。」

「そして今は私の教え子でもある。だからあの子は益々強くなるだろう…それこそ、全盛期の貴様を超えるかもしれない程にな。」

「だからよ、お前さんがどんだけ遊良に負い目を感じてもいいが…それでも、きっとアイツはお前さんの孫だって事も…カカッ、『誇る』、だろうぜ?」

「…あ?」

「そうだな。貴様がどれだけあの子に負い目を感じているのだとしても。ソレが先日の大きな力の衝突によるモノなのだとしても…それでも、きっとあの子は『誇る』だろう。貴様の孫だという自分を…『逆鱗』と呼ばれた貴様のことを、な。」

「…」

 

 

 

夜が更ける…

 

ただただ静かに、夜が少しずつ更けていく。

 

グラスの氷が、酒によって少しずつ融かされていくように…どこまでも静かに更けていく夜の空気が、もうすぐ訪れるであろう冬の寒さをただただ静かに街の中へと運んでいく。

 

 

 

…もうすぐ、翼の少年へと全ての『真実』が伝えられることだろう。

 

 

 

その資格を龍は得た。その義務を竜は持った。

 

そうして…

 

 

 

 

【黒翼】と【白鯨】という、2人の旧友からその言葉を送られた大きな龍は何を思い何を感じたのだろう。

 

 

 

覚悟を決め、決意を秘め。その分厚い手で、顔を覆い隠した小さき竜の手の向こうからは…

 

 

 

 

透き通った雫が…

 

 

 

静かに、零れていたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 


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