Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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おらぁ!(原稿を叩き付ける音)




炎上汚染都市 ー冬木ー 深淵の監視者

最初の熱火を宿した大剣が、空間を焼きながら駆ける。

 

魔竜の息吹を宿した聖剣が、大気を削りながら吠える。

 

赤光の剣閃と黒光の剛撃が縦横無尽に振るわれ、大地を破砕する。

 

その魔刃の余波一つで、人間など両断される。

 

その炎熱の欠片一つで、人間など塵も残らない。

 

一歩の踏み出しが大地を割り、炎熱がその破片を融かす。

 

最初の火に焙られた地面は、瞬く間に滑らかな表面となる。

 

その地面をえぐり取る軌道で大剣が走る。

 

剣先で拾い上げられた土塊は融け、散弾のようにセイバーを襲う。

 

セイバーは溶岩散弾と、追撃の一撃を魔力放出により弾き飛ばす。

 

しかし、それにより聖剣に纏わせていた魔力が一瞬薄くなる。

 

その隙をついて火継の薪が踏み込み、左手の短剣が走る。

 

狙いはセイバーのガントレット、その右手首の隙間。

 

膨大な魔力放出による防御がなくなった隙間に、短剣が滑り込む。

 

素肌に触れた部分、手の甲を傷つける。

 

肉と骨、ガントレットという取っ掛かりを得た火継の薪は、セイバーを地面へ叩き付けようとする。

 

その動きに逆らわず、自分自身も飛びながらガントレットを魔力に分解し、拘束から逃げ出すセイバー。

 

右手の甲を傷つけられ、剣を握る力がわずかに、しかし確実に減ったことを理解してしまう。

 

大地を削りながら迫る人型の狼。その大牙は、剣先の炎熱で地面を融かしながら飛沫を散らしていた。

 

再び始まる神速の応酬。

 

しかし、先ほどまでと異なり、明らかにセイバーの動きに無駄が現れていた。

 

弾かれ、躱された一撃からの振り返し。そのほんの一瞬の速度の遅れ。

 

積み重なったそれは、火継の薪の一方的な攻撃を防ぐしかなくなるほどになっていく。

 

魔力放出による強撃は出足を潰され、流され。

 

移動はその方向に振るわれる刃によって阻まれ、回避のためにさらに時間を失う結果になる。

 

魔力の鎧を抜け、確実に傷を増やし、隙を作り出す火継の薪。

 

大剣に宿る火が、極光を食い、減らしていく。

 

剣を打ち合わせるたびに、膨大な魔力がセイバーから消し飛んでいく。

 

一呼吸で元通りになるとはいえ、その一呼吸がこのやり取りの中でどれだけの危険を内包するのか。

 

それでも、その身に宿る全てを用いて、セイバーは火継の薪に抗っていた。

 

しかしそれでも、天秤は傾いていく。

 

【終着である。】

 

火継の薪の宣言。

 

何度も振るわれた短剣の一撃。

 

度重なる手首への攻撃は、もはやセイバーですらどうにもならないほどに握力を失わせていた。

 

故に、全力の一撃による終着を狙った。

 

踏み込み、大上段からの一撃。

 

対する火継の薪は、腰だめに大剣を構え無造作に一歩踏み込み、こちらの足を踏みつける。

 

大上段からの一撃を、短剣で容易く跳ね返され、その手のうちから聖剣を失う。

 

大きく両手を跳ね上げられたセイバーは、全力で後退しようとするが既に足を踏み抜かれている。

 

そして、目の前には大剣を腰にひきつけ、心臓を狙う火継の薪がいた。

 

肩口に短剣を突き入れられ、火継の薪に抱き寄せられるセイバー。

 

火を宿した大剣が、その動きと共に心臓を貫く。

 

根元まで突き入れられた大剣に、その体重をかける形で、セイバーは脱力する。

 

身を覆っていた魔力は霧散し、堕ちた聖剣は既にない。

 

その胸の内に取り込んでいた聖杯を切り出され、もはや魔力供給は為されない。

 

もはや、セイバーには何もできなかった。

 

黄金の光となって消えゆくセイバー。

 

「ああ、私には何もできなかった。」

 

「ただ、ここで世界を終わらせないことだけに執心した。」

 

「結局、このざまだ。」

 

「私程度を乗り越えた所で、これを引き起こした存在には手も足も出ない。」

 

「七つの特異点を乗り越えた先に、絶望だけが待つとしても。」

 

「乗り越えよ、不可能を可能にすることは、人間にしかできないのだから。」

 

口の端から血を流しながら、それでも黄金の瞳を緩め、わずかな笑みを浮かべて、彼女は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――俺は、彼女の望みにこたえられるのだろうか。

 

答えなくてはいけない、人類を守るために。

 

他の誰かの笑顔のために、俺は生きているのだから。

 

最初の火を宿すものの、宿命にして使命は、我が内に刻まれている。

 

―――《絶望を焚べよ。》

 

何者かの声が響いた。心の中に響いた、誰のものかもわからない声。

 

決意を胸に、火継の薪へと近づいていく。

 

そんな俺たちに、セイバーの黄金の光が吸い込まれる。

 

―――堕ちた騎士王のソウルの欠片を入手しました。

 

これまでに得てきたソウルとは質、量共に桁違いのソウルを得た。

 

【偉大なる王のソウルの一端を得たか。】

 

【マスターを高めることにも、新たな武具を作ることにも持ちいることができる。】

 

【どう使うかは、自分で考えるがいい。】

 

「ああ、よく考えることにするよ。」

 

そういう火継の薪は、明らかに強くなっていた。

 

見るだけでわかるほど、その霊基は高まっている。

 

なら、俺の力も増すことができるのだろう。

 

カルデアに還り次第、強化してもらわなくては。

 

『すさまじい戦いだったね、ごくろうさま。』

 

膨大な魔力によってかく乱されていた通信が回復したらしい。ドクターの声が聞こえた。

 

『先ほど火継の薪がはじき出した黄金の盃、聖杯を回収してくれ。それを回収できればこの特異点も修復されるだろう。』

 

なら聖杯を拾いに行かないと。

 

そう思って、聖杯のある場所を見ると、杯を持っている人影があった。

 

「ふん、騎士王も役に立たんな。あれだけの力がありながら無能共に敗れるとは。」

 

基本緑のコーディネートに身を包んだ胡散臭い糸目の男。

 

「レフ!」

 

へたり込んでいた所長が立ち上がり、駆け寄ろうとするのをクラーナが押しとどめる。

 

「邪魔しないで!」

 

「馬鹿者、あの邪悪なものに近づこうとするな。」

 

クラーナの言葉に、レフが笑い出す。

 

「全く、サーヴァント風情に見破られるとは。これはオルガマリーの節穴っぷりを笑うべきか?」

 

「レフ?なにを?」

 

呆然とした表情で、レフを見る所長。

 

「死んでからレイシフト適正を得るとは、まったく度し難い。つくづく無能な女だ。」

 

『やはり君が犯人だったか、レフ・ライノール』

 

心底侮蔑していることを隠しもしない声色と表情で、所長を罵倒する。

 

そんな彼を糾弾するように、初めて聞く声色でドクターが話しかける。

 

「貴様も生きていたか、折角一網打尽にできるところを、よそでさぼっていたとは。貴様の適当さに我が計画が邪魔されたと思うだけで虫唾が走る!」

 

突然激昂するレフ。まぁ、渾身の計画を怠惰に台無しにされたら、誰だって怒るだろう。

 

そんなことをされたら俺でも怒る。

 

崖の上まで浮遊すると、聞いてもいないのに意気揚々と計画とやらについて語るレフ。

 

火継の薪が突然半透明になって、足音一つ立てずに背後に回ろうとしていることにも気づいていない。

 

空間の裂け目からカルデアスをを見せ、人類史が焼失していることや等何やらを語りつくしたのだろう。

 

満足げな表情を浮かべながら、所長をカルデアスに焚べようとしている。

 

所長がいろいろ叫んでいる。大事なことを言っているようだが、今はそれどころではない。

 

レフの正面に、火継の薪が立っている。

 

こちらからは背面しか見えないが、ずんぐりむっくりとして丸みを帯びたシルエットの黄金の全身鎧。

 

そして目を引くのが、とんでもない大きさの黄金の大槌。

 

目の前にいきなりそんな奴が現れて、まともな思考ができるやつがどれだけいるのだろうか。

 

―――《処刑槌・爆雷重撃(Smough's Hammer )

 

レフは只、目の前の衝撃的な映像に何も考えることができず。

 

「えっ」

 

そんな大物で突進されて、突き上げられるように宙に浮く羽目になる。

 

トラックに衝突されたような感じで、レフが宙を舞う。

 

回転しながら横殴りかつ、掬いあげるようなモーションで振り切ると、

 

「えっ」

 

インパクトの瞬間に、極大の雷撃が迸った。

 

レフはその衝撃で空中を一直線に走り、そのままカルデアスに叩き込まれてしまう。

 

彼は、自分が語っていたようにそのまま分解されてしまったらしい。

 

火継の薪以外の全員が、何が起きたかわからないまま、止まっていた。

 

「キャ!?」

 

所長は落ちて正気を取り戻したらしい。

 

【さぁ、世界が崩れる前に帰還せよ。】

 

『そ、そうだね!』

 

黄金の槌を肩に乗せた火継の薪が所長に近づきながら言う。

 

ドクターが帰還の準備を始めたらしい。

 

【星見の主よ。】

 

「な、なによ。」

 

火継の薪が、所長に語り掛ける。

 

【其方に二つの選択肢を与えよう。】

 

【ここで生を諦め、理の狭間に死ぬか。】

 

【一度私に殺され、その先の生を願うか。】

 

【どちらにする。】

 

とても、重要で、難しい選択を迫った。

 

レフのいう通り、あの事故で所長は確実に死んでいる。それについてはドクターも確認していることだ。

 

「すぐに選ばなくては、ダメ?」

 

【時間はない。】

 

『修復が始まるまで、そんなに時間はないよ!?』

 

所長が青ざめた表情で、火継の薪に問いかける。

 

しかし、火継の薪の答えと、ドクターの補足に希望は切り捨てられる。

 

まぁ、これだけ大きな揺れが起きている中に残りたくはない。

 

「―――なら、貴方にかけるわ。あ、でも痛くしな」

 

【無論】

 

所長の決断を聞いた火継の薪は、所長がしゃべっている途中、一撃で叩き潰す。

 

「よ、容赦の欠片もありませんね。」

 

「違うよマシュ。」

 

あれは、おそらく痛みも恐怖も感じさせないための殺し方だろう。

 

あれだけの重量物をあの速度で打ち込まれたら、常人では何の反応もできずに死ぬだけだ。

 

脳が一番最初に潰されているから、痛みも感じる暇がなかっただろう。

 

そのまま青白い光が火継の薪に取り込まれる。

 

―――星見の娘のソウルを入手した。

 

【さぁ、帰還としよう。】

 

彼の言葉と共に、俺たちはカルデアスに帰還する。

 

かなりショッキングな絵面だったが、忘れるべきだ。

 

「先輩。」

 

「ああ。」

 

マシュが差し出してきた手を握る。

 

「これからも頑張りましょう!」

 

「ああ!」

 

彼女の笑顔と、手の暖かさを感じた。

 

『転送開始!』

 

光が走る。

 

怒涛の一日だった。

 

信じられない経験を重ねてしまった。

 

でも、これからも多くの経験をすることになるのだろう。

 

人類史を守るために。

 

意識が急激に浮き上がる。

 

目を覚ました時、何かが変わっているのだろうか。




遅くなって済まぬ。

やっぱレフ君には何もさせずに死んでもらわないとね。

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