Fate/Grand order 人理の火、火継の薪 作:haruhime
ちょっとだけ描写を増やしてみました。
後2話くらいで冬木は終わるから(震え声)
「まるで獣だな。」
火継の薪がその身を躍らせ、足元を刈り取るように大剣を振るう。
その刃を受け、流し、躱し続けるセイバー。
魔力放出を用いた音速の斬撃に、魔力の風による射程延長を施した連撃には、騎士としての、人間としての理があった。
たとえ堕ちていようと、聖剣を担い、騎士を束ねた騎士王であるがゆえに。
対する火継の薪が振るうのは、正しく獲物を狩ることに特化した獣の理を持つ剣である。
そこに人の理は無く、卑怯、外道、無様と呼ばれる動きがあった。
あえて剣の腹でもって土くれを拾い上げ、目つぶし代わりに投げつける。
地面に転がることも、地べたに這いつくばる動きすら厭わない。
貪欲なまでに勝利を、生き残ることを求める動きだった。
力任せに見えながら、黒化によって低下した直感が警鐘を鳴らし続けるほどの脅威。
細やかな技量は、無数の対人戦の経験を思わせるものがある。
セイバーは騎士ではなく、人型の獣を相手取っている気分にさせられていた。
同時に魔力の心配のない自分の連撃に対応し、あまつさえ効果的な反撃すら入れてくる火継の薪に気圧されていた。
その圧倒的な技量は騎士王たる自らに匹敵することは間違いなく、かの者が持つ武具は己の生前有していた宝具に類するものであることも間違いなかった。
まさに大敵、小手先の技量に優れる相手を、今のセイバーは苦手としていた。
対する火継の薪も、ステータスが軒並み低下しているとはいえ、己とこれほどまでに打ち合える騎士がいることに驚きを感じていた。
サーヴァントとしてこれであれば、完全武装した生前の彼女の力はどれほどであろうか。
剣を握る手に力が入り、柄から悲鳴が上がる。
互いに人外の動きをしつつ、しかし剣撃は美しいほどにかみ合い火花を散らしてる。
神々の末に鍛えられた鋼は、楔石の内包する神秘を含みその威力を大幅に向上させている。
刃においては暴風のごとき魔力壁を、莫大な魔力で編まれた鎧を切り裂くに足る神秘を内包している。
逆にその身を守る防具は革製の部分ですら魔力放出による加速なしで切り裂くことは困難だった。
互いに神造兵装を振り回す、現代の英雄譚が繰り広げられる。
速度と技量で持って千変万化の角度や位置から攻撃を仕掛け、堅固な城塞を削り取らんとする火継の薪。
対して、その防御力と攻撃力にモノを言わせ、直感による致命回避を根幹に獣を切り伏せんとするセイバー。
滑り込むようにセイバーの右背後に回り、足首を薙ぎ払わんとする火継の薪の斬撃をセイバーは跳躍で回避。そのまま後ろ手に火継の薪の首を狙う。
火継は回転運動を生かしたまま一歩動いてその一撃を回避、カウンターの回転切りで着地の足を狙う。
足裏からの魔力放出でタイミングを外し、放たれた刃の腹を踏み、セイバーは全力で踏み込み後転。火継の薪の大剣を地面にめり込ませる。
火継の薪が短剣で放つ追撃の切り上げはセイバーの脚甲にわずかな傷を入れただけにとどまった。
大跳躍したセイバーは5mほどの間隔を取って火継の薪に相対する。
「やはり貴様が最大の障害か。」
セイバーは再び数度斬撃を飛ばしながら、魔力放出で切りかかる。
首、足、右腕を狙った斬撃を回避し、大上段を大剣で右に流し、カウンターの短剣で首筋を掻き切りに行く。
セイバーは深くしゃがみ込み、短剣を掠らせるように回避する。
地面を踏み砕くほどの踏み込み。
流され、大地を切り裂いた剣が火継の薪の胴を貫かんと突き上げられる。
火継の薪は大剣と短剣を重ねるように防ごうとする。
「もらった!」
真芯を捕らえた堕ちた聖剣が、不完全な守りを抉じ開け火継の薪の心臓へと駆ける。
強い神秘に守られた皮鎧は聖剣の切っ先を受け止めた。
「おおぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!」
竜の心臓がセイバーの叫びに呼応して膨大な魔力を生み出す。
その瞬間、増幅された極光により防御判定を乗り越えた聖剣が火継の薪を貫き、串刺しにする。
心臓を正面から貫かれ、それでもセイバーを討たんと短剣を首筋に振りぬかんとする火継の薪。
しかし、
「光を飲め、
セイバーは極光を開放した。
発生した暴風によって崖にまで吹き飛ばされた火継の薪。
力なく崩れ落ちるその手には、最後まで刃を握っていた。
彼はそのまま、衝撃で崩れ落ちた土砂に飲み込まれていく。
「次は貴様らだ。」
剣についた血を振り払い、こちらに向き直る騎士王。
連続して放たれる、飛来する斬撃。
マシュがその盾でもって防いでいるが、一発受けるたびにその圧力で押されている。
「どうした!その盾を託されたのだろう!」
魔力放出による高速移動。
その勢いから繰り出される連撃を、マシュはどうにか受けることができている。
いや、受けさせられているというべきか。
アーサー王は、マシュが反応できるぎりぎりを見極めて攻撃を仕掛けているようにしか見えなかった。
少なくとも、火継の薪とやりあっている時よりも、その斬撃に鋭さはない。
攻撃にも、明確な間隔をあけている。
何を意図しているんだ?
「火よ、焼き尽くせ―――《大火球》!」
クラーナの手から火箭が伸びる。
セイバーは左手でとっさに受けたように見えた。
巨大な爆炎が生み出される。その勢いに乗って、マシュは後退した。
所長が回復魔術でマシュの傷を僅かばかり癒す。
「ふん、危ないな。」
爆炎を切り裂き、セイバーが現れる。
その手から噴出させた魔力を盾に、呪術を防御したらしい。
彼女に影響は見られなかった。
「ふざけた魔力耐性だ、混沌の火を使わなければ有効打にも成らんとは!」
クラーナが新たな火球を生み出す。
その数8個。
―――《連弾する混沌の矢》
それは長い時間の中で生み出された新たな呪術。恐るべき魔術に発想を得たそれは、敵対者を追い詰めるもの。
深紅の火球は、火箭となって飛翔する。
正面から時間差で三本、左右から二本ずつ、上方から一本のそれは、セイバーを半包囲するように飛んでいく。
「ちっ」
セイバーは後方に下がり追いすがる火箭を聖剣でもって切り潰そうとする。
「弾けな!」
クラーナの合図を受けて、セイバーが切ろうとしていた一本が爆発する。
大火球のそれよりも小さいそれは、セイバーの正面を完全に覆い隠す形で爆発した。
連続で火炎の中に飛び込んでいく深紅の矢、連続する爆発音。
混沌の火が燃え上がり、灼熱の粘体が燃え広がる。
「ついでにおまけだ!」
―――《混沌の火槍》!
これまでに放ってきた混沌の大火球よりは小さいものの、まるで槍のように細く鋭い形に加工された深紅の槍が、一直線に飛んでいく。
―――《卑王鉄槌》
声が聞こえた。
舞い上がる炎を吹き散らすように、黒の暴風が放たれる。
あまりにも莫大な魔力の奔流に飲まれた火槍は、暫く拮抗したものの、セイバーにたどり着くことなく霧散してしまう。
クラーナは回避しようとしたが、一部を受けてしまい、かなりの距離を飛んでいく。
「させません!」
襲い掛かる極光を、前に出たマシュの盾が阻む。
大火槍によって勢いを大きく減じた黒光は、マシュの盾に触れたそばから霧散し、最後の残滓まで宙に消えた。
「その盾とは相性が悪すぎるか。」
吹き散らされた炎の中から、セイバーが歩み出る。
「信義によってなる不壊の円卓。」
周囲の灼熱の粘体から立ち上る陽炎と魔力粒子によってぼやけて見えるが、全身を飾っていた黒の鎧はあちらこちら焼け焦げ、欠損していた。
「優れた騎士が担った神聖なる盾。」
中でも左手は小手の指先側が熔け、奇妙な形に固まっている。
「だが、それでもだ!」
あれでは剣を握ることはできないだろう。
「己の頼るモノの弱さを知れ!」
だがそれでも
「私自ら叩き割ったモノの弱さを!」
セイバーは聖剣を両手で握りしめる。
「我が鉄槌を受けるがいい!」
砕けた小手を零しながら、聖剣を【鍵】の構えで担持する。
―――それは堕ちた聖剣という、悲しみの象徴。
「卑王鉄槌」
聖杯からの魔力を、霊基が耐えられる限界まで高めていく。
―――それは全てを救いたかった王の、嘆きの証。
「光を飲め」
堕ちた聖剣から吹き出す極光が、ひび割れたバイザーを吹き飛ばす。
―――それはあらゆる兵士が死の間際に零す、呪怨の輝き。
「―――《
黄金の両目は、まっすぐに俺たちを見据え、呪血を溢れ出させる。
―――それは結果として全てを失った竜王の、魂の咆哮。
「―――《
魂から吐き出されたような、吐血と絶叫。
空間を断ち割るがごとき、魔力の暴威。
魔竜の咆哮に似た光の柱が、神速の突きと共に放たれた。
これまでとは比べ物にならない大きさと質の魔力柱。
「―――《仮想宝具
万全の態勢で発動したマシュの盾に、破城槌のごとく突き刺さる。
明滅する視界。
黒の極光と青の盾がせめぎあい、互いを食らいつくさんとその存在を削りあう。
爆光の真ん中に立つマシュは、その勢いに押され、じりじりと後退してくる。
盾に、俺の手を重ねる。
「マシュ、俺が支える。勝つぞ、一緒にな!」
「はい!先輩!」
この一撃を乗り越えたところで、おそらくいつかは切り伏せられる。
だがそれでも、マシュのために俺は敗北を認めるわけにはいかない。
この先人理修復の前に七つの特異点がある。
その全てに、セイバーを超える脅威がいるのだろう。
ならば、こんな前座に時間をかけていられるか!
いつまでも壊れない盾に業を煮やしたのか、セイバーの放つ魔力がさらに高まる。
極光の向こうで、魔力風に煽られ各所から血を吹き出すセイバーが見えた。
「ああああああぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
体を壊し、極光が爆発する。
青白い盾に、一気にひびが走る。
「負けません!あなたには!」
セイバーの体から立ち上る魔力が、突然ゼロになる。
急激に細くなる宝具の一撃。
極光が淡くかすれると共に、青い盾も虚空に溶けた。
マシュが崩れ落ちる。
「す、みません。」
体内に魔力がほとんど残っていない。あれだけの一撃に耐えたことを考えれば、当然か。
「どうするのよ!」
所長が震えながらも、大魔術を発動させようとする。
でも、大丈夫ですよ、所長。
「なにがって!?」
所長も感じましたか。
セイバーも含め、だれもが感じ取った異常。
二つの宝具のぶつかり合いでまき散らされた膨大な魔力。
その全てが火の粉となって、瓦礫の中に吸い込まれていく。
鼓動のように、右目の奥が燃える。
そうだ、彼があの程度で滅びるわけもない。
火継の輪は、彼を終わらせない。
かの使命を果たすまで、彼は終われない。
最初の火は、彼を終わらせない。
その精魂を捧げるまで、彼は終われない。
瓦礫の中から、彼が立ち上がる。
全身に火の粉をまとわりつかせ、鉄帽の奥の瞳は赤く輝いていた。
その手の大剣は内側から燃えている。
足を肩幅に広げて立つ火継の薪。
その右手の大剣を肩の高さまで持ち上げ、まっすぐに伸ばした腕の先、切っ先はセイバーに向けられた。
左手は右手の二の腕に手首を置くように重ねられ、その短剣は牙のように見えた。
深淵を狩るもの達の、開戦の合図。
貴様を刈り取るという、強烈な決意表明。
人を容易く殺しうる密度と強度の殺意。
火を継ぐ狼の狩りが始まる。
新しい呪術を習得しました。
連弾する混沌の矢
クラーナと火継の薪が生み出した新たな呪術。
高レベルの理力により、呪術の火で魔術を再現した。
混沌系統の呪術であり、命中爆発した際に高温の粘体が拡散する。
混沌の火槍
クラーナと火継の薪が生み出した新たな呪術。
強度、貫通力、飛翔速度に優れた呪術である。
収束性が高く、遠方まで飛ばしても威力減衰がほとんどない。