Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

26 / 33
めっちゃ短い

内容もあれ


永続狂気帝国 ―セプテム― ローマと別れ

闇に堕ちた巨人の死。

 

そして友のために再び戦った騎士。

 

クソ野郎の死を含めて、この特異点の修復が始まるはずだった。

 

『んんん、どうなっているんだ。修復が始まらないなぁ。』

 

『いやいやダヴィンチ!そんなのんきな話でいいわけないだろ!』

 

ドクターの言うとおりである。

 

「でも先輩、いったい何がこの特異点を維持させているのでしょうか?」

 

マシュの言う通り、何者かの存在がこの特異点を安定させてしまっている。

 

その何かを排除しない限り、特異点の修復は始まらない。

 

(ローマ)だ。」

 

その声が聞こえる。

 

(ローマ)がある限り、この特異点もまたローマである。」

 

ローマを背負う男の声。

 

ただそこにあるだけで、永遠を体現する者。

 

「ゆえに、永遠なのだ。」

 

彼が言う。

 

「立て、いとし子よ。偽りの永遠(ローマ)を終わらせるために。」

 

このローマを終わらせよと。

 

その役割は、今代の皇帝の責務であると。

 

 

 

 

 

 

ガラリ、と音がした。

 

「ネロさん!?」

 

崩れた瓦礫の上に立っていたのは、額から一筋に血を流したネロだった。

 

纏っていた赤いドレスは、所々切り裂かれ、破れ、赤黒く変色していた。

 

その焦点はどこかぼやけており、顔からは血の気が失せている。

 

全身に覇気がない。かろうじて立ち、剣をとり落としていないだけだった。

 

「余は……。」

 

それでも彼女は立ち上がった。

 

ふらつく足に、喝を入れるように空いた手を叩き付ける。

 

「まだ折れてなどおらぬ。」

 

一度は折れかけた心を震わせて。

 

彼女の意思に呼応するように、熾火となっていた火が、再び燃え上がる。

 

「一敗地に塗れた?また勝てばよいだけの事。」

 

敗北を認め、それでもなお立ち上がる勇気を見せて。

 

これまでの放出するような火ではなく。

 

「敗北の果て、最後に勝利するのは常に我ら(ローマ)なのだから。」

 

自らの生き様をこそ、ローマであると謳うために。

 

どこまでも薄く、鋭い炎の刃として。

 

「神祖よ、余の生き様を見よ!」

 

もう一度、泰然と立つ神祖へと躍りかかる。

 

「決して諦めぬその姿、実にローマである。」

 

赤木の槍が、ネロの情熱を受け止める。

 

始まりの一撃と同じ構図。

 

しかし、最初と異なっている点があった。

 

神祖が、僅かに押し込まれる。

 

「余の全ては、帝国(ローマ)と共にある!」

 

ネロは離れ、切りかかる。

 

「たとえ望んで得たわけでなくとも、既にこの身は皇帝(ローマ)なのだ!」

 

傷つくことをいとわず、ただ剣を振るう。

 

「ゆえに神祖よ!」

 

己の在り方を示すために。

 

「やはり余は其方を受け入れるわけにはいかぬ!」

 

偉大なる大樹(ローマ)に己の存在を刻み込むように。

 

「見せよ!いとし子の生き様(ローマ)を!」

 

強く踏み込んだ最後の一撃を防がれ、ネロは大きく後退した。

 

だが、彼女に悲愴も後悔もない。

 

むしろ、いつも通りの(自信過剰な)笑みを浮かべていた。

 

『うおぅ!?彼女から膨大な魔力が観測されているぞ!?』

 

『人間が出せる出力じゃない、大丈夫かな?』

 

どうしてダヴィンチちゃんはそう適当なんだ。

 

「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け! インペリウムの誉れをここに!」

 

剣を持たぬ手を天に掲げ、高らかに謳いあげるネロ。

 

彼女からあふれ出す魔力が、渦を巻き、玉座の間を満たしていく。

 

言葉を重ねるに従い、彼女の声に力が戻ってくる。

 

テンションが上がるにつれて、原初の火の勢いも増していく。

 

「咲き誇る花のごとく……」

 

彼女の手に、黄金の輝きが煌く。

 

その輝きを剣と共に握り込み、床に突き立てた。

 

悍ましくも美しい色と形式の魔法円(マジックサークル)が突き立ったところから広がり、光を放つ。

 

「開け! 黄金の劇場よ!!」

 

魔力を含んだ風、鮮烈なバラの香りと共に、無数のバラの花びらが舞い踊る。

 

風が収まると玉座の間は、黄金の劇場となっていた。

 

グロテスク様式の贅と芸術と退廃と美に満たされた、我儘娘の遊び場(ドムス・アウレア)

 

「さぁ!(ローマ)に!いとし子の帝政(ローマ)を示すのだ!」

 

周囲を見渡し、一度だけ頷いた神祖は、槍をわきに突き立て彼女を待つ。

 

神祖は、彼女の意志(ローマ)を見定めようとしていた。

 

「神祖の帝政(ローマ)は正しい、だが、正しいだけだ!」

 

突き立てた剣を、天高く掲げ、芸術の徒(ネロ)は独唱する。

 

己を示すために。

 

血に塗れ、奪い、守らざるを得なかったローマを胸に。

 

「正しく、また、華々しく栄えてこその人間よ!」

 

火剣を携え、尊敬すべき神祖に駆けだす。

 

ローマは、己のものだと叫ぶ。

 

「ここに、我が帝政の在り方を示す!」

 

ゆえに、示すのだ。

 

「―――《童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)》!」

 

彼女の成した結果(ローマ)を。

 

突き出された刃は、極大の炎刃を纏い、神祖へと迫る。

 

必滅の一撃。

 

神祖は防ぐ素振りすら見せず、微笑みを浮かべて、その全てを受け入れた。

 

「えっ?」

 

原初の火が、神祖の胸から背へと突き抜ける。

 

その感触に、ネロは呆けた。

 

「良いのだ、いとし子よ。」

 

呆ける彼女の頭を、神祖の大きな手がなでる。

 

「汝もまた、曇りなきローマであった。」

 

どこまでも愛おしむ、無限の父性と抱擁を以て。

 

「ローマとは世界であり、世界とはローマなのだ。」

 

慈しむ表情でもって。

 

祈り(ローマ)は潰えず、世界(ローマ)は続く。」

 

しゃべるたびに、傷口から血があふれ出す。

 

それでも神祖は、ネロに語り掛けることをやめなかった。

 

我ら(ローマ)ローマ(我ら)である限り。」

 

ローマとは何かを伝えるために。

 

「汝の裡に秘めた浪漫(ローマ)を継がせよ。」

 

神祖は全てを黄金の輝きに変えながら最後の言葉を言い切る。

 

「ローマとは永遠なのだから。」

 

その言葉を最後に、彼はこの特異点から消滅した。

 

原初の火を消し止め、彼女を濡らした跡も残さずに。

 

 

 

 

 

『この特異点の崩壊が始まったよ。すでに準備はできているから。』

 

「そ、其方らまで消えるのか!?」

 

呆けていたネロが、その声に反応する。

 

「待て、待つが良い!まだ此度の礼が済んでおらぬ!」

 

「ローマ市民総出の宴を催すのだぞ!」

 

「主賓たる其方らがおらぬなどありえんではないか!?」

 

目から大粒の涙を流し、声を荒げるネロ。

 

「皇帝陛下。」

 

彼女を遮ったのは、真剣な表情を浮かべた所長だった。

 

「私たちは、行かなければなりません。別の地を救わなくてはいけません。」

 

彼女は語る、俺たちの目的を。

 

世界(ローマ)が永遠であるために、成すべきことなのです。」

 

ただ、人理修復の旅であることを。

 

「ですから、どうか貴方のもとを去ることをお許しください、皇帝陛下。」

 

ゆえに、彼女の下にとどまれぬことを。

 

所長は深く深く、頭を下げた。

 

そうすることしか、できなかったからだ。

 

「そうか、ならば引き留めてはならぬ。」

 

それを聞いたネロは、目を擦る。

 

目の周りを真っ赤にしながら、それでも、涙を止めた。

 

「余の思い一つで、世界(ローマ)を左右してはならぬのだな。」

 

鼻をすすりながら、無理をして笑みを浮かべる。

 

皇帝であるが故の、強がりだろうか。

 

「だが!其方に罰を与える。」

 

胸を張り、堂々と罰を告げる。

 

「最後だ、余をネロと呼べ。」

 

それは、甘く切ない響きを以て告げられた。

 

二度と会えぬ友を忘れぬために。

 

「では、さようなら。ネロ。」

 

微笑みを浮かべた所長が、消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネロは、この場にいた者たちと最後の会話を交わし、俺以外は帰還した。

 

「最後は其方か。此度は其方にも、世話になったな。」

 

「いや、ネロの治世、存分に味わったよ。素晴らしかった。」

 

民に紛れ生き、結果として彼女の治世を感じ取った。

 

足らぬところもあるだろう。

 

それでもなお、多くの市民に支持されているのだ。

 

「皇帝陛下、貴方の帝政に、曇りはない!」

 

これだけは、俺が胸を張って言える。

 

「さよなら、いつか、また。時の彼方で。」

 

「そうだな!また会おう!」

 

彼女の泣き笑いの顔を見て、俺はカルデアへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアのメンバーが消え去り、かつての玉座の間に一人残されたネロは、ぽつりと言葉を零す。

 

「我が帝政に曇りなし、か。」

 

「本当に、そう言えればよかったのだがな。」

 

彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ、原初の火に落ちる。

 

その涙は、乾くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。