Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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色々回収した。

描写が絶望的にあれ。

独自設定注意な。


永続狂気帝国 ―セプテム― 魔人柱と闇霊

「はははぐぶぁ!?」

 

ごちゃごちゃ所長相手にしゃべり腐っていたので、背後から心臓を一突きする。

 

魔術防壁の抵抗を感じたが、神代以上の神秘を内包したこの剣に切れないということはない。

 

そもそも半透明化と足音を消しただけで認識できないとか、無能過ぎない?

 

あれだけ偉そうにしゃべっていたのにな。

 

ソウル装填。

 

雷撃発動。

 

ハイデの直剣が、内包された雷の神秘を開放する。

 

たとえレフが人間を止めていたとしても、肉体が人間の形をしていて、電気信号で肉体を制御している以上、それなり電流を流し込まれれば、当然動けなくなる。

 

「どうした?痛いのか?」

 

肋骨に添わせるように、体の外に振りぬく。

 

今の自分にできる最大の速度で、全身を切りつける。

 

「ががgぁはだえvfrsbkvぬうぇあ!?」

 

奴の口から妙な音が飛び出した。

 

崩れ落ちようとしているレフの頭を掴み、呪術の火を灯し、大発火を連続でたたき込む。

 

腕が燃える?

 

それがどうした。

 

この痛み、マシュの感じたそれに比べればそよ風のようなものだ。

 

あの訳の分からない髪型も含め、完全に焼け焦げた頭を放す。

 

武具の切り替え。

 

「銘をガーゴイルの燈火槍」

 

まだ何か、声にならない声を漏らすレフの腹を突き刺す。

 

大量のソウルを燈火に注ぎ込む。

 

膨大な量の火が、レフごと燈火槍を包み込んだ。

 

強化によって常人をはるかに超えた筋力を用いて、奴ごと槍を振り回す。

 

奴の頭を下にして、地面にたたきつける。

 

同時に、燈火槍が爆発する。

 

爆炎と共に見事に四散したレフの頭が、足元に転がってきた。

 

白濁した瞳を向けていたその顔を、踏みつぶす。

 

ぐちゃりと、湿った音がする。

 

意外だな。あれだけ焼いても、まだ水分が残っているのか。

 

「何をしてくれる藤丸立夏ぁ!?」

 

グリーヴの裏に着いたねばつく白い塊を地面でこすり取っていると、吹き飛ばしたはずの奴の声が聞こえた。

 

目を向けると、息を荒げたクソの塊が綺麗な格好でわめいていた。

 

おいおい、まだ生きてたのか。

 

どうやったら死ぬんだお前は。

 

まだ死に足りないんだな。

 

良いことだ。

 

こっちもまだまだ殺したりない!

 

「貴様!?」

 

一足飛びに接近し、顔面を槍で狙う。

 

奴は地面を変質させ、硬い石の壁を出現させた。

 

槍が噛み込まれ、奴の目の前で止められる。

 

動かせなさそうな感触が返ってきた。

 

「まったく、この私を驚かせるとは、人間の分際でよくぐべぁ!?」

 

なら渾身の力で名工のハンマーで尻を叩けばいい。

 

ぶちぬいた感触が返ってきた。

 

いい声で鳴く。そうだ、その声が聞きたかったんだ。

 

奴が死んだことで、石壁が崩れる。

 

しかし、槍を抜き捨てるやつがいた。

 

どうなっている?

 

「無駄だ!貴様ごときでは私を殺せない!」

 

先ほどよりも息を荒げ、顔を青くしたレフ。

 

どうした、不死なら何回んでも大丈夫だろう?

 

その身からあふれる魔力が、間違いなく減っている。

 

なんだよ、残機に限りがあるのか。

 

残念な話だ。

 

「だまれだまれ!私の真の姿で、貴様らを蹴散らす!」

 

バカげた魔力をため込み、何かをしようとするその姿。

 

「我は魔神柱フラウヹァ!?」

 

実に的である。その手のショートボウから放たれた矢が、奴ののどを貫く。

 

詠唱などさせるものか。

 

喉を抑え、血の泡を吐きながらこちらをにらみつけるレフ。

 

いい表情だ。矢を抜き取り、血を吐き出す。

 

接近し、もう一度切り付けてやろうかと思ったが、奴の魔力の高まりが早かった。

 

『信じられない魔力が観測されている!気を付けてくれ!』

 

そんなの見るだけでわかるよドクター!

 

「そうだ、ここで死ね!王の寵愛を受けた私の力を目に焼き着けてな!」

 

奴の肉体が変容する。

 

肉の柱に無数の瞳が着いたバケモノ。

 

「私はレフ・ライノール・フラウロス!」

 

宮殿の天井を突き破るほど巨大で、しかし動くことができないほどの図体のでかさ。

 

「七十二の魔神柱が一柱である!」

 

「バカな!?七十二の魔神柱だって!?なら、あのお方はソロモンだっていうのかい!?」

 

現代魔術の開祖にして、究極の魔術師。そして彼に従う七十二の魔神柱。

 

確かに、抵抗は無意味といってもよい戦力かもしれない。

 

普通なら絶望するべき場面かもしれない。

 

「己の所業を悔いながら死ね!」

 

しかし、今この瞬間の敵はお前だけだ肉柱。

 

ここには数多くの異形を殺してきたジャイアントキリングの達人がいる。

 

わざわざ戦力を小出しにして、自ら滅びに来るなんて律儀なやつだ。

 

かの異形の目が、一斉に俺を見る。

 

膨大な視線による干渉。

 

魂まで掴まれているような不快感。

 

俺という存在に焦点を当て、呪詛と魔力を照射し、内部から爆破する攻撃なわけだ。

 

目で見えるほどに高まる魔力が、すべての瞳で輝く。

 

だがいいのか、俺を見ていて。

 

取り出したのは、曇った鏡のような盾。

 

「銘を王の鏡」

 

王城の守護者が持ったとされる、魔法を跳ね返す盾。

 

ソウルを注ぎ込み、鏡面の曇りを払う。

 

全ての目から、光が放たれる。

 

輝きを降り戻した王の盾は、光の速さで飛来する爆破魔術をすべて跳ね返した。

 

同時に着弾した爆破魔術で全ての目が、弾け飛ぶ。

 

「ぐなsふぁぃvwuibqlr!?」

 

奇怪な声をあげ、身をよじる魔神柱。

 

自分自身の攻撃に耐えられないのならば、その防御力はそれほどでもないな。

 

「やれ。」

 

【承知した。】

 

縦横無尽に暴れていた火継の薪が、皇帝集団の中から飛び出す。

 

ザクロのように花開いていた目の再生が始まる。

 

「なんだそれは!」

 

飛び出してきた火継の薪を相手に、巨体を捻り無事な瞳で迎撃を図る。

 

だが、火継の薪の迎撃には間に合わなかった。

 

美しい結晶が生え始めているその手には、輝く巨大な結晶が握られている。

 

【結晶の呪いに飲まれよ!―――《白竜の吐息》】

 

つららのようにとがった大きな結晶を肉の柱に突き立て、内部に結晶の吐息を吹き付ける。

 

巨大な肉柱を突き破り、再生しかけていた無数の目を突き破り、無数の結晶が成長する。

 

「あkjdfihsbravk.なえふあlwrlんgくぉ;bjvんばlvbw!?」

 

奇声を上げて、肉の柱がうごめく。

 

痛いだろうな、全身が結晶になり、それが肉に食い込むのは。

 

暴れまわり、大地を揺らすほどの振動。

 

凝視による爆破攻撃が、あちらこちらで暴発する。

 

肉という肉が結晶に置換され、自重に耐えられなくなった巨体は崩れ落ちていく。

 

結晶に己の力を吸収され、真の姿になったはずのレフの力が霧散する。

 

醜悪な見た目の柱は、瞬く間に光り輝く美しい結晶の山と化した。

 

「な”、なんだ、その石はぁ!?」

 

その山の中から、結晶に侵されたレフが現れる。

 

どうやら、結晶の呪いからは逃げられなかったらしい。

 

全身が小さな結晶に覆われつつあり、その浸食は止まっていない。

 

呪いを含んだ結晶に触れていたらそうなるよな。

 

【岩の古龍の秘宝、原始結晶。】

 

光り輝く美しい結晶は、白竜の妄執に汚染された究極の魔法触媒でもある。

 

本来であれば持ち主に永続的な回復を与え続け不滅をもたらす。

 

しかし、呪われ堕ちたそれは結晶系統を自在に操る力を与え、代償としてその身を結晶に置換する。

 

結晶化による疑似的な不滅という解釈に基づき、使用者を侵食するものに変わってしまっているのだ。

 

堕ちた聖杯のようなものだろう。

 

それを使って、火継の薪が結晶系魔術の秘奥を用いたのだ。

 

たとえ対魔力がすさまじいことになっているであろう魔神柱とて、ひとたまりもない。

 

奴は、懐から聖杯を取り出す。

 

「私を癒せ!……クソ!効果がないか!」

 

しかし、その身を癒すことは叶わなかったらしい。

 

だが、その身を犯す結晶の呪いに歪めていた顔が、突如として笑い顔に変わる。

 

なんだ、痛覚でも遮断したか?

 

「まあいい、何度私を殺したところで無駄だ。本体はここにはなく、七十二の魔神である私は滅びない。」

 

相変わらずむかつく顔だ。

 

「だが、今のお前が持っている力の総量はカスみたいなものだろう?」

 

「ゼロにしてやるから安心しろよ。」

 

俺の目で見てすらわかるほどに、その身に宿る力は薄れている。

 

それこそカルデアにいたころのように。

 

さっきまでの重圧が嘘のようだった。

 

図星を突かれて動きを止めたレフを前に、どう殺してやろうか考えていると、神祖の声が響いた。

 

「……マグナ・ウォルイッセ・マグヌム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の斬線。

 

偉大にして敬愛する神祖を前に、ネロの剣は衰えていない。

 

今この瞬間、この時代において、生身の人間であるはずのネロが、サーヴァント相手に激闘を繰り広げている。

 

彼女の身の内から、魔力が迸っているのだ。

 

それによって力を増した彼女の連撃は、より鋭くなっている。

 

だが。

 

―――なぜだ!

 

「おおおおお!!!!!」

 

原初の火が、彼女の感情の高ぶりに合わせるように燃え上がる。

 

それでも。

 

―――どうして!

 

「よい、その情熱もまたローマである!」

 

神祖は呵々大笑しつつ、連撃を容易くいなす。

 

―――届かない!

 

いかなる技法を持ってしても、神祖の身に剣身を掠らせることもできていない。

 

万能の天才たるネロが、その身に秘める皇帝特権でもってセイバーとしての格を得ているのに。

 

武器の格が違う?

 

それもあるだろう。天才が作り上げた宝具に匹敵する剣ではあるが、積み上がった歴史が違う。

 

ローマ全ての歴史の重みを内包した赤木の槍にかなうはずもない。

 

ステータスが違う?

 

それもまた、あるだろう。

 

真正の英霊たるロムルスに、外れかけているとはいえ、人の身で抗うのは困難だ。

 

だが、それだけではない。

 

ネロは歯噛みする。

 

認めざるを得ない。

 

自分は神祖に刃を向けられないのだと。

 

自分の意思より、僅かに刃が遅れる。

 

ゆえに、神祖はたやすくそれを防ぐ。

 

今もこうして打ち合えているのは、神祖が自分を殺す気がないからだということを。

 

認めなくてはいけない。

 

自分は同じ場に立っているわけではないことを。

 

そんな権利はない。

 

対等ではない。

 

今の自分にできることは、ただ一つ。

 

己のローマを示すことのみ。

 

しかし、その気づきは、遅すぎた。

 

ほんのわずかな、体力の消耗。

 

僅かにずれるバランス。

 

できてしまった、致命的な隙。

 

「この結果もまた、ローマである。」

 

彼の言葉に背筋が冷える。反射的に剣を引き戻し、間に合わせた。

 

瞬間、両腕がへし折れそうな重撃。

 

神祖が大きく振り回した槍でもって、ネロは壁際まで吹き飛ばされる。

 

剣で防いだとはいえ、生身の人間が受けてよい一撃ではなかった。

 

壁にぶつかった瞬間、気が遠くなる。

 

それと同時に、猛烈な疲労と脱力感がネロを襲う。

 

魂から絞り出していた魔力供給を失い、力を失ったためである。

 

高まった力を持ってしても、神祖たる彼には届かなかった。

 

ネロの体は、すでに立つことすらできなくなっていた。

 

彼は戦う力を失ったネロに背を向け、いまだに戦う皇帝たちに槍を向けた。

 

「当世より過去の皇帝たちよ!当世より未来の皇帝たちよ!」

 

瞬間、皇帝たちは剣を収め、傾聴の姿勢をとる。

 

カルデアのサーヴァントたちは、戦っていた相手をそのまま殺すが、彼らは微動だにしない。

 

「お前たちは去るがいい!お前たちはローマではあるが、当世はネロの時代!」

 

「初めの連合は既にない!故に、おお、虚ろに集いし我が子たちよ!」

 

「槍を通じて私ローマへと還るがいい。おお、おお、―――《マグナ・ウォルイッセ・マグヌム》!」

 

彼の赤槍に、生き残っていたすべての皇帝たちが吸い込まれる。

 

彼らは青白い光と、無色の何かに分かれ、槍には青白い光が吸い込まれていく。

 

そして、ローマそのものである無数の巨木が、宮殿の床を突き破り現れる。

 

しかし、その規模は小さい。

 

本来放たれるべき力の、数十分の一にも満たない規模だった。

 

むしろ、解放された力の多くがレフの後ろに集まってしまう。

 

集まった無色の力。

 

その無色の力が、前触れ赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

強い力の塊が、自分の後ろに蟠っていることに、レフは気づいていなかった。

 

それは、魔力ではなく魂の力だったからだ。

 

魂とは魔術を操る者が、利用したくても利用できないモノ。

 

ゆえに、背後に蟠る力が赤黒く変色し、渦を巻き、恐るべき存在が現界していくことに、最後まで気づかなかった。

 

赤黒い力の渦から、音もなく巨大な人が姿を現す。

 

その身を燻ぶらせた、赤黒い燃える巨人。

 

【バカな。】

 

火継の薪が、驚愕しているのがわかる。

 

巨大でありながら、その存在感は希薄だった。

 

【本当に、呼ばれたのか!巨人ヨーム!】

 

それはかつて聞いた、薪の王の一人。

 

守るべきものを失い、盾を捨てた孤独な王。

 

かつての友の手で葬られ、ソウルが火継の薪の内にとらわれたはずの、巨人。

 

全身が赤黒く染まり、詳細はわからない。しかし、その瞳は赤く燃えていた。

 

話に聞く闇霊のようだった。

 

その瞳に、理性はない。ただ、何かの怒りに染まっていた。

 

巨人は、手にした巨大な鉈剣を振り上げる。

 

「何を言っている、私はまだ何も呼んで、」

 

剣の陰に覆われたレフは、後ろを振り返る。

 

「は」

 

叩き付けられた鉈剣に、愕然とした表情ごと両断されるレフ。

 

その一撃ですべての力を霧散させられたのか、復活してくることはなかった。

 

残念なことに、奴のとどめを刺すことはできなかった。

 

【主よ!ストームルーラーを構えよ!】

 

【闇霊に堕ちてもそれ以外の武器では、奴を討つことはできない!】

 

火継の薪も、ストームルーラーを取り出し、構える。

 

また、その装備はジークバルトを思わせる玉ねぎ装備になっていた。

 

【象るはカタリナ騎士ジークバルト。友との約束を果たすために旅した者。】

 

【汝の勇名、威光、武功を我が手の内に。】

 

【―――《ソウルの具現化・巨人の友(ジークバルト)》】

 

かつて見た、英雄を憑依させる宝具。

 

ついさっきであった、彼を呼び出したのか。

 

この手に握る、刃がさらに重くなる。

 

「……灰の方、感謝しよう。堕ちた友を救えるのだな。」

 

彼は巨人を見据え、つぶやいた。

 

「さぁ、友よ、此度もまた約束を果たしに来たぞ。」

 

ジークバルトは、ストームルーラーを突きつける。

 

巨人も、それに呼応するように鉈剣を振り上げる。

 

「そこの方、私が迷惑をかけたようで。」

 

「かつての灰の方のように、共に戦っていただけるかな?」

 

「応!!!!」

 

「では、行きましょうか。」

 

彼の構える剣に、風が纏わりつく。

 

一足飛びに巨人が近寄る間に、かの剣は暴風を纏った。

 

「かつての友を止めん!―――《嵐を統べる王権(ストームルーラー)》」

 

彼は高らかと掲げた大剣を振り下ろす。

 

剣に纏わりついていた嵐が、巨大な風刃となって奔る。

 

巨人は、その刃を防ごうとして、防ぎきれなかった。

 

盾のように構えた鉈剣。

 

嵐の刃は、それを超えて巨人の片腕を切り飛ばす。

 

苦悶の声をあげる巨人。

 

彼が盾を捨てていなかったら、防ぎきれただろう。

 

しかし、彼は守るべきものを失った孤独の王。

 

その手にかつての盾はなく、鉄壁の守りを失っていた。

 

解けた嵐に押し込まれるように、巨人は数歩後退するが、即座に前に出てくる。

 

巨人が鉈を振り下ろしてきた。

 

ジークバルトと俺は、別の方向に飛び退る。

 

着弾した瞬間、無数の石弾が放たれた。

 

吹き飛ばされる。かなり、痛い。

 

それでも、剣だけは手放さなかった。

 

巨人を挟むように立つ、俺とジークバルト。

 

巨人は、ジークバルトにしか興味がないようで、こちらに見向きもしない。

 

「友よ!何を望んだ!」

 

彼の問いに答えることなく、轟音をあげながら刃を振るっていた。

 

「人理焼却を求めるのか!」

 

ジークバルトはその刃を避け、躱し、反撃とばかりに刃を向ける。

 

「く、答えよ、我が友!」

 

あの戦いの最中なら、安心して嵐を纏わせられる。

 

大剣を掲げ、精神を集中させる。

 

あの時託された思いを、巨人に届けることだけを思う。

 

―――嵐よ、かの巨人を止めん!

 

嵐の力で暴れまわる剣を、力ずくで押さえつける。

 

彼の最後の言葉が、脳裏に流れた。

 

ストームルーラーが震え、更なる風が生まれる。

 

―――《嵐を統べる王権(ストームルーラー)》!!!!

 

こちらに気づいたのだろう。巨人が振り向こうとする。

 

だが、もう遅い。

 

振り下ろした剣の先から、解放された嵐が駆ける。

 

戒めから解き放たれた喜びを、暴風として表しながら、巨人殺しの風刃が征く。

 

巨人の背中に、大きな傷が刻み込まれた。

 

「■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

たたらを踏み、それでも持ち直して雷鳴のような叫び声をあげる巨人。

 

その身から炎が噴き出し、鉈剣にも火が宿る。

 

完全にこちらに振り向き、爆炎を宿した鉈剣が振り下ろそうと、近寄ってくる。

 

あと数歩で間合いの内に入る。

 

剣を掲げ、嵐を集める。

 

裏切られ、薪となり、ただ一人となった孤独の王。

 

悲哀と怒りを込めた必滅の一撃が、俺に放たれる。

 

撃ち込まれれば、どう避けても死ぬ。

 

だが、俺の目の前に、滑り込んでくる人影。

 

「やらせません!」

 

残念だったな、孤独の王。

 

俺たちは一人じゃない。

 

彼女がいる限り、その刃は届かない!

 

―――《仮想宝具疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!》

 

青白い、光の盾が現れる。

 

「ぐ!あああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

マシュの咆哮。盾の輝きが増す。

 

短いようで長い時間拮抗し、盾は巨人の振り下ろした鉈剣を防ぎ、その後の爆炎も防ぎきる。

 

その爆炎の破片が、嵐によってかき消される。

 

この手には、すでに最大限まで嵐をため込んだ剣がある。

 

ジークバルトの手の中にもまた、嵐を最大限まで纏った剣があった。

 

「行きます!」

 

「友よ、終わりだ!」

 

同時に、振り下ろす。

 

二つの風の刃を、攻撃を防がれ、体勢を崩していた巨人は完全に受け止める。

 

灼けた王冠を被る頭部から股下まで、一直線に断ち切る斬線。

 

衝突した風の刃が、巨人を中心に暴れまわる。

 

飛び散る風を、マシュの盾で防いだ。

 

両断された崩れ落ちる巨人。

 

最後まで赤い瞳で俺を見据えていた彼は、赤黒い火の粉となって、消えていく。

 

同時に多くのソウルが、俺に流れ込む。

 

 

 

 

 

 

―――闇霊・巨人ヨームのソウルの欠片を得た。

 

 

 

 

 

 

俺の手から、さらに重みを増したストームルーラーが零れ落ちる。

 

膨大な魔力とソウルの、短時間での流出と流入は、体に悪い。

 

ふらついた体をマシュが、抱き留めてくれた。

 

「さあ、最後の乾杯だ 。」

 

いつの間にか近づいてきたジークバルトが、脇に座り込んでジョッキを手にしている。

 

脱力している俺にジョッキを渡す。

 

「貴公の勇気と使命、そして古い友ヨームに 。」

 

燻ぶりすらない、巨人のいた場所に座り込む。

 

どこか遠くを見るように、まるでジョッキをぶつけ合うような動きをした後、中身を飲み干す動きをする。

 

俺も合わせて、ジョッキの中身を乾した。

 

苦い、どこまでも苦い、決してうまいといえる酒ではなかった。

 

「ああ、友よ。」

 

あの兜で、どうやって飲むのだろうか。

 

そんな場違いな感想を覚えるほど、自然な動きだった。

 

「……願わくば、もう二度と出会わんことを。」

 

小さなそのつぶやきは、俺とマシュにだけ届いたのだろう。

 

そのまま、彼は火の粉となって消え去った。

 

 




あとがきは後で更新します

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