Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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連合首都入城から陛下登場まで。

オリ設定に注意な!


永続狂気帝国 ―セプテム― 神祖ロムルス

目の前には急峻な白亜の山脈がそびえたっていた。

 

ピレネー山脈。

 

古来より多くの人間の命を吸ってきた、イベリア半島とガリアを隔てる大障壁。

 

準備無しで越えることなどできない山地を前に、ネロ率いるローマ軍は、越山の図ん美を急いでいた。

 

ローマを進発してさらに一月。

 

いくつかの連合ローマ軍と衝突し、幾度かの会戦を経て、ネロ率いるローマ軍はピレネーを越える。

 

数多くの激戦があった。

 

一度などアレキサンダー、諸葛孔明のペアに、友軍を誘引され危うく壊滅するところだった。

 

過去と現在、そして未来のローマ皇帝たちが、ネロの前に立ちはだかった。

 

彼らが率いるのは、絶対なる忠誠を誇る連合ローマ軍。

 

己の死をいとわず、常に最善の行動をとり続けることができる兵士たち。

 

ネロへの信望がなければ、そしてサーヴァントによる介入がなければ、多くの戦いで敗北しただろう。

 

それでもなお、ネロと配下の兵たちは、すべての戦いに勝利した。

 

すでに一人を残して皇帝を討ち取っている。

 

ならば、残る大敵は一人。

 

彼女は、戦うことができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「では、軍議を始めよう。」

 

幾分しおれているネロが、軍議の開催を宣言する。

 

「残る目標はただ一つ、連合ローマ首都だ。」

 

恐るべきピレネーを越え、ローマ軍は麓の皇帝属州たるヒスパニア・タラッコネンシス属州(スペイン東部全域とポルトガル北部)州都タラッコ(現タラゴナ)に到着した。

 

現地住民は入城前に完全に逃散しており、人気はなかった。しかし、略奪の後もなく、食料や財貨がそのまま残されていた。

 

そんなタラッコの行政府中枢で、親衛隊長官ブッルスが地図を叩く。

 

カルデアからの観測によれば、連合ローマの首都はヒスパニア・バエティカ属州(スペイン・アンダルシア州)の州都コルドバだ。

 

「偵察の結果、約2万の兵と複数のゴーレムが存在することを確認した。」

 

「対するこちらは、ガリア方面のから抽出した精鋭三個軍団12000、本土から招集した新編四個軍団18000、それに親衛隊2000。」

 

数の上では上回っている、しかし。

 

「数では勝っている。しかし。」

 

「敵は、おそらく神祖様。」

 

「かの偉大なる神祖様を前に、我が兵士は戦意を失うであろうな。というより、余も戦えるかわからぬ。」

 

カルデアの解析により、残る皇帝は只一人であるとわかっている。

 

ローマ帝国の開祖、神に列せられた偉大なるローマ。

 

ヨーロッパ史に燦然と名を輝かせる、強大な王。

 

かの者の名は、

 

「ロムルス。彼を討たねば、ローマは終わる。」

 

「貴様、蛮族の分際で神祖様の名を軽々しく口にするな!」

 

周囲が沸き立つが、この程度で激高するのならばちょうどよい。

 

「ならば閣下はロムルスを討ち果たすことができるのですね?」

 

「な、なにを。」

 

「彼は明確な意思を以て今のローマを侵略している。ならば、そこに和平の道など存在しない。服属するか、させるかしかないのです。」

 

「貴方は、陛下のためにロムルスと戦えますか?」

 

彼は押し黙る。

 

「勝利しなければ、陛下が死にます。」

 

「伝説と今、どちらに忠義するのかが問われているのです。」

 

「貴方は、どちらを選ぶのですか?彼は敵です、私は陛下を選びます。」

 

「わ、私とて!陛下をお守りするためにここにいるのだ!」

 

彼は己の意思でもって、神祖への敬意を打ち破った。信仰を捨てるに等しい覚悟がいる。

 

「ならば、呼び方から変えましょう。そうでなくては、敬意で剣が鈍ります。」

 

「やめよ、そこまでにしておけリッカ。」

 

「申し訳ありません、陛下。」

 

「プブリウス、其方の気持ちもよくわかる。ただ、戦の前だ。たとえ神祖が相手でも戦う意志を持たねばな。」

 

「申し訳、ありませぬ。」

 

ネロの仲裁を以て、この騒ぎは終わりにしなければならなくなった。

 

どうする気なのだろうか。

 

「私から提案が一つ。」

 

「申してみよ。」

 

我らが所長が進み出る。

 

周囲の将軍たちの目には、信頼の光があった。

 

これまでの戦で、積み上げてきた実績故にだろう。

 

「ローマ軍の皆様には、連合ローマ兵を抑えていただきます。」

 

「我らが中央を突破し、神祖ロムルスの周囲にいる魔術師を討ちます。これ以外にないかと。」

 

ネロを含め、皆怪訝な表情を浮かべる。

 

どういうことだ?

 

「だが、敵の首魁は神祖ロムルス陛下であろう?」

 

ネロの疑問は当然だ。

 

「いえ、神祖は魔術師によって召喚された英霊であると考えられます。」

 

「この時代に生きている人間でないのなら、使役している魔術師さえ討てば問題ないかと。」

 

しかし、所長の口から衝撃的な事実が明らかになる。

 

もしそうなら、さっきの俺の発言は狂言みたいなものだぞ。

 

「なんと!」

 

「では神祖は何者かに冥界から呼び出され、使役されていると!?」

 

「許せぬ!」

 

「八つ裂きにせねば!」

 

「やかましいぞ貴様ら!そういきり立つ出ないわ!……全く頭が痛い。」

 

立ち上がり、いきり立つ将軍たちを、頭を押さえたネロが制する。

 

持病の頭痛がひどいらしい。

 

「よい、ローマ軍では神祖に立ち向かえぬ。むしろ敵になりかねぬわ。」

 

「ならば、其方たちに任せよう。むろん余も征くぞ!」

 

彼女の発言に、立ち上がろうとする将軍たちを手で押さえる。

 

「当然であろう。余のローマが戦いを挑まれたのだ、それを買うのも余の役目よ。」

 

「全軍でもって戦線を押し上げよ!」

 

「おそらく神祖は、野戦に出てくるであろう。」

 

「出てこなければ、我らが攻め込むまでの事。」

 

「全力での、力攻めよ!」

 

「明日進発だ、全軍に英気を養わせよ。……余は休む、誰も寄せるな。」

 

頭を押さえながらではあるが、力強い口調での命令に、将軍たちが従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お聞かせ願えますか、所長。」

 

俺たちに割り振られた陣幕の中で、俺は所長に問いかける。

 

俺はその予測を聞いていなかった。だが、そんなことはどうでもいい。

 

なぜその予測を立てたのかを聞いておかなくてはいけないだけだ。

 

「言っていなかったのはごめんなさい。でも、話すわけにはいかなかったの。」

 

「なぜです。」

 

「ある程度の根拠はあったけど、半分は勘だったから。」

 

なら、下手に周りに話すわけにはいかなかったわけだ。

 

「以前、アレキサンダーやカエサルと戦った時、神祖の傍に宮廷魔術師がいるという話が出たの。」

 

「あの英霊たちに不快感を持たせる人格の持ち主が、神祖の宮廷魔術師として徴用される?あり得ないわ。」

 

「この人理焼却の世界において、そんなことをわざわざする魔術師なんて、一人しかいないでしょう?」

 

まさか。

 

『まさか!?』

 

「そう、レフ・ライノール。彼がいるわ。」

 

彼女は、泣き笑いの表情でそう告げた。

 

誰もが、絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に日が落ちた夜。

 

天空に浮かぶ光輪を見ながら、焚火に当たっていた。

 

「先輩、風邪をひきますよ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

マシュが、毛布を肩にかけてくれた。

 

一緒に、横に座る。

 

少し肌寒勝ったから、助かった。

 

「レフ教授が、この先にいるんですね。」

 

「ああ、今度こそ息の根を止めてやる。」

 

俺の言葉に、マシュが息をのむ。

 

焚火に、薪を投げ込む。火の粉が上がった。

 

「カルデアスに灼かれて死ななかったんだ、どうすれば亡ぼせるのか試さないとな。」

 

原子にまで分解されるあの破壊の塊に沈んで生きているんだ。

 

「マシュを殺しかけたんだ、必ず報いは受けさせるよ、マシュ。」

 

八つ裂きでも飽き足らない、魂まで砕いてやる。

 

どんな手段を使ってでもだ。

 

「先輩!」

 

彼女が、俺の頭を抱きしめてくる。

 

「どうしたんですか、そんな怖いこと言い出すなんて。」

 

「怖い、こと?」

 

何を言ってるんだマシュは、あのクソ野郎をぶち殺すなんて当然じゃないか。

 

暗い火が、燃え上がる。

 

「貴方は、私のために?」

 

「そうだけど。」

 

当然だろう?あの時、そう誓ったんだ。

 

暗い火が、俺を照らす。

 

「私は、そんな先輩が、いやです。」

 

心が、冷えた。

 

「一緒にいてくれるだけでいいんです。」

 

彼女が、俺の手を取る。

 

「私は、先輩のおかげで命をつないで、ここにいるんです。」

 

胸の間に、手を引き寄せた。

 

「私は、先輩の傍にいるんですよ。」

 

鼓動を、感じた。

 

「そんなことをする必要は無いんですよ。」

 

思考がほどけていく。

 

「そんな暗い瞳を、しないでください。」

 

「隣にいるだけで、いいんですから。」

 

「ごめん。」

 

「それでいいんですよ、先輩。」

 

彼女の泣きそうな笑顔に、心が悲鳴を上げる。

 

それでも抱きしめてくれる彼女のぬくもりに縋ってしまう自分が、いやだった。

 

あの誓いは、マシュにだって覆せない。

 

それを許したら、俺は……。

 

 

 

 

 

 

―――人間性の小さなかけらを得た。

 

 

 

 

 

 

あの日以来、連合ローマ首都周辺まで、何の妨害もなく到達してしまった。

 

すでに、全軍の配置は完了している。

 

結局、神祖は戦場に現れなかった。

 

「指揮は任せるぞ、ブッルス。」

 

「本当にいかれるのですね?」

 

「くどい!余は言を翻さぬぞ!」

 

「わかりました。陛下の軍勢、確かにお預かりします。」

 

「では、余の直掩を其方らに頼もう。……よいな?」

 

「お任せください陛下、我らカルデア一同、一騎当千の実力を振るいましょう。」

 

「うむ、頼もしいな!」

 

軍勢は進む。

 

連合首都周辺に展開する連合ローマの残党との決戦へと。

 

開戦の笛の音。

 

轟音と共に、バリスタが投射される。

 

双方から放たれる太矢は、互いの盾列を突き崩していく。

 

続いて弓兵の射撃が始まった。

 

前衛たちに振りそそぐ矢の雨。

 

頑丈な大盾で防いでいるものの、その盾を撃ち抜いて来る石や太矢で兵士が倒れ、隙間に矢が降り注ぐ。

 

互いの戦力を減らし、陣形を崩しながら、両軍は激突する。

 

ピルムが飛び交い、長槍を叩き付けあう。

 

互いがローマ軍であり、簡単に崩せるものではなかった。

 

あっという間に、膠着してしまう。

 

しかし、それでよかった。

 

中央を、一撃で突破する。

 

「―――《非業剣・原初の罪火》」

 

二列目に位置し、魔剣を縦振りしたクラーナ。

 

神々の一撃であるように連合ローマ軍の陣列を両断する。

 

すぐさまその隙を埋めようとするが、その隙に飛び込んでいく二つの影。

 

「―――《飛翔する死棘の槍》」

 

無数の鏃が、連合ローマの兵士を切り裂く。

 

千に届こうという数が、動きを止める。

 

その狭間を、俺たちは駆け出した。

 

ローマへの入場を阻もうと、連合ローマ軍はあきらめることなく隙間を埋めようとする。

 

我々に続く親衛隊が、突出してそれを阻む。

 

半包囲下に進んでいった親衛隊は、膨大な圧力を受けることになる。

 

死ぬ気か。

 

「ここは我らにお任せを!」

 

「連中に邪魔はさせません!」

 

「済まぬ!余の勝利を信じよ!」

 

彼らの士気が高まる。

 

死ぬ気だろう。だが、敵のただなかを突破し、俺たちの後ろで連合首都への蓋の役割を果たすつもりなのだ。

 

本陣に配置されていた精鋭たる第四軍団が、親衛隊を後押しする。

 

親衛隊は、閉じかけていた包囲網を食い破り、連合ローマの後背に躍り出た。

 

俺たちはその隙に、連合首都の正門へと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

首都内部は、地獄に変じた。

 

全ての市民が武器を取り、俺たちに襲い掛かってくる。

 

剣で、槍で、棒で、壺で、イスで、机で、石で、縄で、荷車で。

 

あらゆる生活用品でもって、神祖に刃向かう俺たちを駆逐せんと。

 

しかし、所詮は民間人。

 

つたない連携と足りない身体能力では、英雄たちを前に何の障害にもならなかった。

 

ネロの表情が引きつっていく。

 

俺だってつらい。

 

小さな子供ですら、命を惜しまずに襲ってくる。

 

守るべきローマの民を切らねばならないネロの心境は、どうなってしまっているのだろうか。

 

今もまた、鎌を片手に襲ってくる母親を切り、金槌で殴りかかってくる男の子をけり倒し、首をへし折る。

 

陰から襲ってきたレンガを手にする男を盾で殴り、片足を切り潰す。釘を持ち縋ってくる幼い女の子をけり飛ばす。

 

これで一家族殺したわけだ。

 

さっきから何人殺しているのだろうか。

 

すでに全身、血と臓物を浴びていない場所の方が少ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

明らかに王宮とわかる場所にたどり着いた。

 

小次郎とクーフーリン、シフがこの場に残り、追いすがってくるローマ市民を食い止める事になった。

 

遅滞戦術を用いて、徐々に王宮内部に退くことで時間を稼ぐ作戦だ。

 

「任せろよ坊主!」

 

「拙者は広い方が剣を振るいやすくてなぁ。」

 

「ウォン!」

 

彼らは既に、時折襲ってくる市民を切り捨てていく。

 

王宮前の、壁に囲まれた広場は彼らによる屠殺場と化していた。

 

「征くぞ!」

 

ネロの号令一下、俺たちは王宮の奥へと突き進んでいく。

 

 

 

 

 

道中、敵の姿は一つもなかった。

 

移動中に、見覚えのある鎧がひしゃげて倒れているのを見つけた。

 

数多くの連合兵士の死体に埋もれたジークバルトは、死にかけていた。

 

彼を一目見た火継の薪が、首を横に振る。

 

「お、おお。灰の方か、そしてまた会いましたな、立夏殿。」

 

無数の斬撃に刻まれた彼は、血を吐きながら俺にすがる。

 

「この剣を、お願いする。」

 

傍らに突き立つ剣を指さし。

 

「もう、私には不要のもの。」

 

吐き出すように

 

「役立てて下され。」

 

か細い声で、俺に託した。

 

「この先に、我が友が。」

 

震える指で、遠くに見える巨大な扉を指さす。

 

「頼みます。」

 

俺たちは崩れ落ちた彼を壁によりかからせ、進むことにする。

 

もう彼は、助からなかった。

 

駆ける俺たちの足音に紛れ、彼の声が聞こえた気がした。

 

「……すまない、友よ。」

 

鋼が、落ちる音が聞こえる。

 

彼から託された剣の、重みが増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な両開きのドアを、けり破るように部屋に入っていく。

 

どこまでも巨大で、どこまでも偉大な、ローマが、そこにはあった。

 

あまりにも大きな玉座に座る、巨大な男。

 

全身余すところなく筋肉で鎧い、その背後にはあまりに武骨で巨大な赤い両刃槍、いやこん棒だろうか、恐るべき重武装を突き立てている。

 

黄金の飾りを随所にちりばめ、ローマの深紅で染めたマントを羽織っている。

 

「よくぞ来た、我が愛し子よ。」

 

彼の口から放たれた言葉に、皆の動きが止まる。

 

そこに、敵対の意思はなかった。

 

ただ無限の愛だけがあった。

 

彼の放つ、偉大なるカリスマ。

 

この神祖に触れたものは、確かにああなるだろう。

 

全てを捧げ、理想の世界の完成に至る。

 

天壌無窮の愛による、理想郷。

 

そこに、個人の意思など存在しえない!

 

(ローマ)は、(ローマ)である。」

 

彼がこの言葉を発した瞬間、周囲に無数の魔力が現れる。

 

その中から現れるのは、ここまでに討ち果たしたはずの過去現在未来の皇帝たち。

 

亡霊としてではあるが、明確に人の形を保った皇帝たちが神祖に跪いて、ネロを凝視する。

 

「さあ、来い。(ローマ)へと帰ってくるがいい、愛し子よ」

 

「「「「「さぁ、神祖の腕の内へ!!!!!」」」」」

 

「お前も連なるがよい。許す。お前のすべてを、(ローマ)は許してみせよう。」

 

「「「「「許しを得た、進めネロよ!!!!!」」」」」

 

「お前の内なる獣さえ、(ローマ)は愛そう。それができるのは、(ローマ)ひとりだけなのだから」

 

「「「「「お前がローマであるならば、神祖を称えよ!!!!!」」」」」

 

神祖の言葉の合間に、皇帝たちがネロへ語り掛ける。

 

「いや!断る!」

 

彼女の大音声に、ローマ皇帝たちが怯む。

 

「連合ローマを見た。だがそこに市民、兵士の笑顔はなかった。」

 

彼女の剣を持つ手に、力がこもる。

 

「誰も笑わぬ治世を、余は認めぬ!」

 

原初の火(アエストゥス エストゥス)に火が燈る。

 

「いかに完璧な統治であろうと、笑い声のない国があってたまるものか!」

 

彼女の感情の高ぶりに合わせ、その熱量は増大する。

 

「余はローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス!」

 

燃え上がるかの宝剣を掲げ、皇帝たちの回廊を駆け抜ける。

 

「余のローマこそ!」

 

玉座への階段を飛び上がり。

 

「過去現在未来、すべてのローマに勝るローマである!」

 

彼女は自らの情熱(ローマ)を神祖へ叩き付ける。

 

「愛し子よ、それでこそ、お前もまたローマである!」

 

赤い木で作られた宝具が、燃え盛る宝剣を受け止める。

 

神祖は、彼女を無限の(ローマ)で受け止めた。

 

 

 

 

 

 

皇帝たちが、武器をとって俺たちに襲い掛かる。

 

彼らは実体を持たない。

 

ゆえに聖別された武器出なければ、彼らに触れることもできない。

 

相手に触れられると、呪詛によって生気を吸われてしまうのに。

 

ただ、こちらの陣営で亡霊相手に有効打を出せないのは、所長だけである。

 

彼女も、いくつかの魔術によって霊体に対抗する手段を持ち合わせているから大丈夫だろう。

 

皇帝の陣列が吹き飛ぶ。

 

その中心で、火継の薪は、明らかに神聖な気配を漂わせる二振りの直剣を振るっている。

 

【銘を聖女の愛(レアの献身)

 

ごく普通の、飾り気のない実直な直剣。

 

しかし、その剣身からは目視できるほどの神聖な光があふれ出している。

 

【銘をローリアンの聖剣】

 

ロスリックの双王子、その片割れが振るうべく鍛えられ、ついぞ振るわれることのなかった聖剣。

 

その役割を果たすために、滾々と聖なる光が湧き出ている。

 

大きさも長さも重さも異なる直剣を彼は自在に操っていた。

 

前後左右から襲い掛かる皇帝たちを、次々に切り捨てている。

 

このすべてを切り捨てるのに、それほどの時間はかからないだろう。

 

しかし、目的の奴はどこに行った。

 

 

 

 

 

 

 

「神祖とらやも所詮サーヴァント。役に立たんな。」

 

 

 

 

 

 

 

その音に、一瞬、体の動きが止まった。

 

声の主は、玉座の陰から現れた。

 

忘れもしない、その声、その姿!

 

「レフ・ライノール!」

 

右目の奥が熱い。

 

奴を見た瞬間に、全てが燃え始める。

 




―――小さな人間性の欠片

黒い靄の中に白い影が見える、小さな人間性の欠片。

人間性が欠けるほどの、何かがあった証。

小さな傷は時間と共に癒えていく。

ならば欠片はどうなるのだろうか。




オリ武器設定。

聖女の愛

もとは何の変哲もないアストラの直剣。

稀代の才を持つソルロンドの聖女レアが、己を救ったもののために、死の間際に捧げた真摯な愛と聖なる献身によって聖別された聖剣。

不死人・死霊系に対する強力な特効を持つ。

人の愛は、時に奇跡を起こす。

残された者の心に、深い傷を刻むとしても。


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