Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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まーたボッチプレイが始まる。(嘘です。)

今回も、一人だけ別ゲーやってます。




永続狂気帝国 ―セプテム― 再びの脱落

あの地獄を乗り越えた俺は、確かに強くなったのだろう。

 

前回の経験を活かし、多くの物資をソウルの業で取り込ませてもらった。

 

一人で遭難することになっても、どうにかなるだろう。

 

そのうえで、数多くの対策を練り、実行した安全なはずのレイシフト。

 

しかし、案の定だった。

 

まるで抑止力によって妨害されたような、運命づけられた量子偏差の重なりがまた俺をどこかに飛ばしたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

人っ子一人いない深い森。

 

植生はかなり北側であることを示し、冷えた大気がそれを肯定している。

 

かなりの距離を移動したがこのあたりにも、食べられそうなものもなければ水音も聞こえない。

 

やはり物資を持ってきて正解だった。

 

何より素晴らしいのは、今回は一人ではないことだ。

 

がさりと、音がした。

 

しかし、それが敵でないことはつながりでわかる。

 

「お帰り、シフ。」

 

「ワフ。」

 

銀灰の毛並みを持つ狼、シフだ。

 

先の召喚で呼ぶことができた、偉大なる騎士の盟友にして片翼と呼ばれた賢狼。

 

口にくわえた大剣を振り回し、獣の理によって敵を狩る戦法を得意とするらしい。

 

しかし今は霊基不足で大型の狼程度まで縮んでいる。

 

そのため、呼び出した際にそばにあった壊れた武具を使うことができず、火継の薪から借りた大型の直剣を使っている。

 

銘はうつろの鎧の剣。生命を持たない鎧が振るう、炎の力を宿した灼けた剣。

 

先端が灼けているため、かなり目立つがその威力はすさまじい。

 

この森で襲ってくるスケルトンを一撃でばらばらにし、そのまま燃やし尽くす程度の火力がある。

 

今回の偵察行でここ数日間の放浪の末、森の端に近づいたことが分かった。

 

森の外辺に割とやばいのが何体かいること。

 

少なくともそのうちの一体をねじ伏せないと、森の切れ目に出られないことを教えてくれた。

 

覚悟を決めてかからなくてはいけないらしい。

 

幸い、周囲に取り巻きのいない一帯を見つけてくれている。

 

俺とシフで速攻をかけ、他のモンスターが寄ってこないうちに処理することに決めた。

 

そろりそろりと、シフの先導を受けて森を進む。

 

途中にいるはぐれスケルトンを処理し、さまようスケルトン集団を躱して先に進んでいると、争いの音が聞こえた。

 

その方向に進み、シフの合図を受けて木の裏に身をひそめる。

 

覗き込むと、一匹の巨大な魔獣、キメラと戦う特徴的な鎧を着た兵士たちがいた。

 

ローマ様式の鎧に身を包んだ兵士たちは、同僚の死に動揺することなく、最大効率でキメラと戦っていた。

 

たとえ隣の兵士が貪り食われ、その腸を被ることになっても、誰一人として悲鳴を上げない。

 

異常な集団だった。

 

人間であれば、どれだけ鍛え上げられていても、むしろ鍛え上げられているがゆえに、あれには耐えられないはずだ。

 

全ての兵士が全力を振り絞っている。

 

ごくまれにしかキメラの体に傷をつけられなくても、戦い続けている。

 

死体の数から考えて、すでに半分以下まで減っているというのに。

 

俺は、その戦いから目を離せなかった。

 

最後の一人が、キメラの左目を対価に、その体を貪り食われるまで。

 

百人以上の兵士が、文字通り全滅するまで戦う。

 

包囲されているわけでもないのに、自発的になんて人間には不可能だ。

 

凄まじい戦いだった。

 

その結果は、巨大なキメラの全身に傷をつけ、蛇の尾は槍で串刺しにされ力なく地面に落ち、背中から生えたヤギの頭は無数の投げ槍に貫かれ弱弱しく鳴動し、獅子の顔も左目を貫かれ、口から血を流していた。

 

どう見ても満身創痍である。

 

先ほどの戦いの衝撃が抜けきっていない自覚はあるが、こいつを倒せば森の外に抜けられる。

 

戦いの音を聞きつけて他のモンスターがやってこないうちに、森を抜けださなくてはいけない。

 

巨大な獣を狩るために、火継の薪からもらい受けた新たな装備を取り出す。

 

大きな獣の攻撃を受け止め、致命傷を受けないための重装備。

 

名高きロスリック騎士が纏った甲冑は、戦闘による凹みや傷があるモノの、いまだに高い防御力を発揮する。

 

擦り切れていた金刺繍の施された赤いサーコートやマントは、ダヴィンチちゃんの手によって修復されている。

 

彼らが用いたロスリック騎士の盾も受け取っている。

 

そしてロスリックの戦旗。

 

見た目は異常に長い十字槍だが、ソウルを注ぎ込むことでたなびく幻影の戦旗を現出させる。

 

この旗が翻っている間、周囲の味方に力を与える効果があるそうだ。

 

マスターとして前線に立ち、彼らを支援しつつ自分も戦うものとして最適な装備だろう。

 

予想以上にサーヴァントの対魔術、呪術性能が高いことをふまえると、火の強化と混沌の火の習得まで呪術はお預けになった今、近接戦をしつつ見方を支援する装備としては十分と言える。

 

代わりに、消費するソウルがかなり大きいため、ここぞという時にしか使えないが。

 

あと、まだ槍の扱いになれておらず、巨大な敵でないと急所に当てられない問題もあるため過信はできない。

 

これらを纏った俺は、正直かっこいい。

 

美麗な装飾を施された鎧と盾を持った騎士がかっこ悪いはずがない。

 

いくつかのへこみや傷すら、歴戦の証に見えるくらいだ。

 

男だったら、誰だってかっこよく思えるだろう。

 

「ゥウ。」

 

シフに体をゆすられる。

 

いかん、ちょっとトリップしていたらしい。

 

戦闘開始だ。

 

戦旗を掲げる。

 

ソウルを注ぎ込むと、白い光で象られた壮麗な戦旗が浮かび上がる。

 

石突を地面に突き立てると、光の線が無数に走った。

 

戦旗が消えるのと同時に、シフが走り出す。

 

木の陰から放たれた光に反応し、こちらを向いていたキメラの視界に、シフが移ったのだろう。

 

喘鳴していたヤギの頭が持ち上がり、魔法弾を放ってくる。

 

何発も放たれる魔法弾を、獅子の前足による攻撃をシフはやすやすと躱し、胴体に初撃を叩き込んだ。

 

すでに槍が突き刺さっていた部分をまとめてそぎ落とす軌道。

 

開いていた傷口が拡大され、二つの顔から苦悶の声があふれる。

 

縦横無尽な軌道から、二度三度と振るわれる刃は、キメラの各部位に大きなダメージをもたらしていた。

 

ようやく俺も戦闘に参加する。

 

この装備、やっぱり重い。

 

シフを追いかけ、俺に完全に横っ腹を見せていた。こちらに意識を向けていない。

 

狙いどころ、戦旗で突く。

 

装備重量とダッシュによる衝撃力が、キメラの強靭な皮と筋肉を抉りぬいた。

 

戦旗の十字近くまで食い込ませたが、奇妙な感触が返ってくる。

 

腸を貫いたはずの穂先に、もっと固い感触を感じた。

 

ねじり、押し込み、引き抜く。

 

噛み込んでいた筋肉や皮膚を引き剥がさないと、この状態のものは抜けない。

 

合わせて送り込まれた、シフによるヤギの頭を伐り飛ばす一撃。

 

こちらが離脱するまでの時間を稼ぎつつ、キメラにとって致命の一撃を加える。

 

シフの戦闘勘は鋭い。

 

これで魔法弾は封じた。毒の息を吐く蛇頭はすでに動いていない。

 

後は獅子の体の息の根を止めるだけだった。

 

シフと俺は対角線上に陣取りながら、常に相手の側面をとろうとする。

 

当然相手はそれを嫌がるが、常に一方が攻撃を仕掛けることで、その場から動くことを許さない。

 

蛇頭を鞭のように振り回したり、前足による引っ掻き、噛み付き。

 

寝転がるような動きでこちらを押しつぶそうとしてきたりもする。

 

それを盾で防いだり、ぎりぎりで回避したりしつつ、その体にダメージを刻み込んでいく。

 

そうこうしているうちに、奴の動きが悪くなってきた。

 

全身の傷口からの出血量が落ちている。

 

そろそろ失血で死ぬだろう。

 

ほおっておいてもいいが、確実に仕留めておきたい。

 

手負いの獣をほおっておくと、後々復讐の牙が喉笛を食いちぎりに来るというのが、クーフーリンの教えだ。

 

ケルト式の戦闘法理を身に着けた以上、戦闘は殺すか、殺されるかだ。

 

引き分けはあり得ない。

 

故に殺す。

 

シフが、キメラの背後から背中に飛び乗る。

 

その時、背骨を断ち切る軌道でうつろの鎧の剣がねじ込まれる。

 

腰砕けになったキメラの胸を目掛けて、戦旗を大きく引き付ける。

 

両前足で踏み込むように、キメラは上半身を高く持ち上げ、上から叩き潰すように腕を振り下ろす。

 

ついでに頭をかみ砕かんと広げられた口に狙いを変え、動きのまま戦旗の石突を地面に突き刺す。

 

キメラは攻撃の勢いのまま、戦旗に向かって倒れ込んでくる。

 

後ろ足に力が入らない状態では、前足が宙に浮いている今、回避行動はとれなかった。

 

そのまま落下エネルギーを地面に伝達するように、戦旗の先端は上口蓋を突き破り、脳髄をかき回す。

 

キメラはびくりと跳ねると、両目をひっくり返し、動かなくなった。

 

何とかキメラを横倒しにし、戦旗を抜き放って移動を始める。

 

貴重な素材が取れるのかもしれないが、今他のモンスターの接近を許すつもりはなかった。

 

まずは、人間の支配圏に近づくことが先決だ。

 

俺とシフなら、素材は後でいくらでも回収できる。

 

それなりの量のソウルを獲得し、森を進む。

 

視界の先、木々の間を抜けて草原が見える。

 

しばらく進むと、森の境界を目にすることになる。

 

不自然なまでに明確な境界線。

 

人間の手が入っていることは間違いない。

 

「ふがいない主だけど、よろしく頼むよ。」

 

「ワフッ!」

 

俺の足に、軽い擦り付けを仕掛けてくる。

 

悪い反応ではないだろう。

 

森から出る前に、ロスリックの騎士一式から、ロスリックの魔術師一式に切り替える。

 

盾も戦旗もしまい、腰に番兵の直剣を履き、ショートボウを背負うだけの軽装になる。

 

もう少し重装備をしたいところだが、ジークフリートのように怪しまれても困る。

 

ゆえに、武器もこの時代の武器に近いものをわざわざ用意してもらった。

 

そして残念だが、シフの武器はいったん回収である。

 

流石に、先端の灼けた剣を振り回す狼なんて、どんな時代でも討伐対象だからだ。

 

ソウルから水と簡単な食料を取り出し、小休止をとる。

 

シフと分け合い、とっとと流し込む。

 

森を抜けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

森を抜け、丸一日が立っている。

 

崩れた石柱群を除き、まだ人間の痕跡には出会えていない。

 

古代ローマの勢力圏近辺であるのは間違いないので、とにかく西進することにしている。

 

ヨーロッパから西アジアにかけてのどこかであるのならば、西に向かうことで人間の痕跡に出会うことができるだろう。

 

シフにもにおいを探ってもらっているが、人間らしいにおいには出くわしていない。

 

水と食料には何の問題もないのだ。

 

地道に行こう。

 

 

 

 

 

スケルトンの群れに遭遇した。

 

しばき倒した。

 

シフがおやつにしようとしていたので諦めさせた。

 

そんな目をするんじゃありません!

 

 

 

 

巨大なイノシシに襲われた。

 

キメラより頑丈な猪ってなんだ、これがINOSIHSHIか。

 

結構おいしかったです、シフも喜んでいました。

 

 

 

 

 

 

獣人に襲われた。

 

捻り潰した。

 

飯にならない獣は来るな!

 

 

 

 

 

 

野盗に出会った。

 

一人だけ生き残らせて、残りは処分した。

 

町の情報だけ聞いて、地面に埋めた。

 

そのついでに拠点に囚われていた玉ねぎのような外見の騎士、ジークバルトを救い出す。

 

眠りこけているところを捕まってしまった、あと少しで売り飛ばされるとこだったと笑いながら言っていた。

 

笑い事ではないと思うのだが。

 

彼は約束を果たすために旅をしているらしく、そのまま分かれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

親切な野盗の情報のおかげで、ライン川を越えて人類圏に到着することができた。

 

その都市の名はアルゲントラトゥム、事前のレクチャーによれば、ローマ軍の駐屯地であり、後のストラスブールになる都市だ。

 

川に囲まれた防護に優れた拠点であり、高地ゲルマニア属州(ゲルマニア・スペリオル)の後背拠点でありライン戦線における重要拠点であった。

 

遥か東方より偉大なるローマを学びに来たと告げれば、俺とシフ合わせて5デナリウスの入市税と引き換えに入市することができた。

 

前回もそうだったが、盗賊団は結構金を持っている。10アウレウスはあるし、当分は持つだろう。

 

シフも一緒に入ることができたのは驚きだが。

 

正式に許可されたことを示す首輪と許可証を受け取り、各階層に対して被害を与えた場合の罰則の説明を受けて入市した。

 

町は予想以上に栄えていた。

 

まぁ、栄えあるローマ第四軍団(マケドニカ)歩兵中隊(マニプルス)600人が駐屯する都市であり、ラインという水運の大動脈を守る街でもある。

 

大きな船着場と合わせて、物と人と金が集まるのも当然だろう。

 

門兵から勧められた宿で、シフの扱いでもめた後(1デナリウスを追加で払い、寝床に入れないことを条件に許可してもらった)、部屋に入ることができた。

 

看板娘(茶色い目のかわいい娘だ)と宿の主に大量のイノシシ肉と10デナリウスを追加で支払い、宴会を開く準備をしてもらう。

 

日が落ちるころ、ローマ兵の一団と労働者たちが酒場にやってくる。

 

市場で買い求めてもらったワインと肉、魚をふるまい、様々な情報を話してもらった。

 

曰く

 

西方に連合ローマなる謎の集団が現れた。

 

一緒に人型の妙なバケモノ共も現れた。

 

それに合わせ、ネロ帝がゲルマニア方面に遠征をおこなっている。

 

皇帝陛下の親衛隊に、異国の勇者たちが加わった。

 

ゲルマニア一帯で連中の出現に合わせて蛮族共の反乱が発生し、第四軍団も鎮圧に乗り出している。

 

その影響でいくつかの物資が値上がりし始めている。

 

それにしても、このワイン旨いな!ずいぶん高い奴だろ?

 

イノシシもうまい!これがただとは、お前蛮族にしてはいい奴だな!

 

最後の方は酔っ払いの戯言だが、重要な情報を得られた。

 

多くの商人も合流し、宴はさらに華やかになっていく。

 

壮絶な宴会は砦を預かる百人隊長(ケントゥリオン)が参加する事で混迷を極め、副官に回収されることで終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一晩明け、昨日の宴会で得られた情報から今後の方針を考える。

 

皇帝ネロに従っている異国の勇者というのが、カルデアの面々だろう。

 

合流するために、皇帝が凱旋するであろうローマを目指すことにした。

 

中々の味の朝食を取り、パンとワインを受け取って宿を立つ。

 

ローマ街道を伝い、アルプスを越え、ローマを目指す。

 

かなりの距離を行くことになる。時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

南門で開門を待っていると、商人に声をかけられる。

 

結果として、昨日の宴会で仲良くなったローマに向かう商人に護衛として同道させてもらうことになった。

 

狼を従えた斥候としての役割を求めての事だった。

 

考えてみれば、よく知らない地で無理をして行き倒れるになるよりも、道中をよく知る商人の協力を仰ぐのが一番だろう。

 

彼は荷車に鉄や青銅を満載した隊商を率い、数十人の騎馬私兵を抱える大商人だった。

 

大型の馬を譲ってもらう代わりに、仕留めた大イノシシの皮や牙を譲る。

 

彼は大喜びで皮を加工士のもとに持ち込んでいた。

 

荷車に積まれた牙を見て、最初は胡散臭い目で見ていた護衛の態度も柔らかくなる。

 

状況はかなり好転している、ローマまで安全に進むことができるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そんなことはなかった。出発前の自分を殴ってやりたい。

 

ローマ到着までに、蛮族や山賊の集団に襲われること十回以上。

 

一度は部族単位で襲撃をかけられた。

 

巡回していたローマ軍の来援がなければ壊滅していたかもしれない。

 

それでもどうにかローマに到着した。

 

そのまま彼の館に招かれ、一泊する。

 

数日後に予定されているローマ皇帝ネロとの謁見に連れて行ってもらえることになった。

 

久方ぶりの入浴で汗を流し、同じく入浴でふさふさになったシフと共に眠りにつく。

 

明日は非番の護衛達とローマに繰り出す予定だ。

 

楽しみで仕方がない。




一人だけオープンワールドローマで傭兵プレイしてるぐだ男。

蛮族系傭兵でローマを満喫してやがる。

このローマでは、狼を従えることに割と意味がある設定。

神祖が狼に育てられたことが背景にあり、余程のことがないと狼は討伐の対象にならない。

やるときはやるが。

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