Fate/Grand order 人理の火、火継の薪 作:haruhime
それはまさに人類愛によるものなのだから。
「何とかしなさい!」
恐慌するオルガマリー所長を庇うために、礼装を起動してガンドを打ち込む。槍を突き込もうとしていたスケルトンにガンドが命中した。
当たった、運がよかった。
当たりさえすれば、三流以下の魔術師が礼装で強化されているとはいえ、不思議存在の動きを止めることができるのだ。
そして不可解な体勢で硬直したスケルトンを、横合いから巨大な鉄塊がばらばらにする。
「大丈夫ですか、先輩!」
「大丈夫だ!」
俺たちの前に鉄塊、巨大な盾を構えて守勢をとる少女。命を失いかけ、デミサーヴァントとして命をつないだ
彼女はその手に持つ巨大な盾で、十体以上のスケルトンを撃破している。彼女がいなければ俺も所長もとうに串刺しになっていただろう。
サーヴァントとしての力をふるう彼女によって、スケルトンは次々に砕かれている。しかし、がれきの陰や建物の隙間から次々とやってくるため、むしろ数は増えていた。今は奴らの動きが遅いからどうにかなっている。だが、
「ふっ、やぁっ!」
実際に戦えているのは、マシュだけだ。もともとマスター候補として参加した彼女は、白兵戦による継続的護衛戦闘の訓練など受けていない。
デミサーヴァントとなってステータスは上がっても、彼女の心は経験不足でこの状況に耐えられない。今ですら呼吸が上がり、視線は無駄にさまよっている。はたから見ても彼女に余裕がないのは明らかだった。
「所長も攻撃魔術で援護を!」
カルデアからの魔力を精製し、無駄に数だけはある魔術回路に走らせる。知っている魔術は数あるが、今使える魔術なんてガンドと、
≪
これくらいだ。
指先から収束した魔力弾を連続射出し、着弾時の衝撃と小爆発による物理干渉に重きを置いた速射術式。
対魔力なり対抗礼装を持つ魔術師相手ならともかく、物理強度も神秘も弱いスケルトン相手ならば十分な性能だ。
一体、二体、十連打で砕き飛ばす。
だがそれでも、この状況を打開するだけの火力はない。だからこそ、一流である所長の援護が必要なんだが。
「もうイヤ、来て、助けてよレフ!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」
だめだ、錯乱してる。
「先輩!敵スケルトン、さらなる増援が!」
マシュの声に目を向ければ、盾の向こうに、スケルトンの大群ががれきを乗り越えているのが見えた。十や二十じゃない。百以上の群れだ。冗談じゃない、あんな数に近づかれたら、ひとたまりもない。
「所長!立ってください!」
「いやよいやよいやよ、助けてレフ!」
腕をつかみ、立たせようとしても首を振るだけで立とうとしない。この状況で現実逃避とかずいぶん余裕があるな!
「マシュ!背後をカバー!」
「先輩!?」
「逃げるぞ!」
所長を無理やり担ぎ、身体強化を施して背後に走り出す。喚く所長をどうにか保持しているが、暴れるのでかなりきつい。あと一人でも手数があれば、どうにでもできるものを!
二体のスケルトンをなぎ倒し、集団に向けて叩きつけたマシュがすぐに横に並び、通信機に叫ぶ。
「ドクター!ポイントまでどれくらいなんですか!」
『あと少しだ、もう少し先の交差点を曲がった先が指定ポイントになる!』
バックアップを担当するドクターロマニが返答する。確かに英霊召喚ができれば違うかもしれない。だが召喚しているだけの時間があるのだろうか。
『うそだろう!目標地点周辺に大量のスケルトンの反応!?……いや、消えた。』
ドクターが叫んだと思えば、突然冷静になる。何が起きた。スケルトンの群れが急に消える?おいおいまさか。
『サーヴァントのような反応が君たちに向かっている!敵か味方かはわからない、警戒してくれ!』
「先輩!私の後ろに!」
「任せた!所長は後方警戒を!」
ドクターも無茶をいう。敵対してくるサーヴァントなら三流魔術師が警戒してどうにかなるものか。盾を構えるマシュの背中に隠れるように、所長を背に庇いながら立つ。
「貴方ごときが私に命令してるんじゃないわよ!」
俺に指示されるのが気に障ったのか、所長も自力で立ってスケルトンが来るであろう方向に腕を向ける。一流魔術師の火力であれば、俺たちを追うスケルトン相手でもたやすく殲滅できるだろう。
待ち構えている俺たちの視線の先、交差点の向こうの燃え上がる瓦礫の上を、一人の男が駆けてきた。
煤けた赤いマントをなびかせ、血塗れの大剣を地面に擦り、火花をあげながら。獣のように身を低くかがめ、猟獣の爪牙のごとき短剣を翻し。不明瞭なうなり声をあげ、俺の前に迫る男は、
「―――■■■■■!!!!!!!!!!!!」
俺とマシュを飛び越えて、スケルトンの群れに飛び込んでいった。
彼に向かって振るわれる剣槍の群れ。しかし、彼は左手の短剣を持って何十ものそれらを払いのけ、右手の大剣の一撃を振るう。
落撃の一打。
アスファルトを断ち切り、砕き散らすほどの衝撃。
叩き潰された二体は粉砕され、その衝撃は大地を伝い、数体の足を粉砕する。初撃を払われ、武器を失い姿勢を崩したスケルトン達は掬い上げるような回転切りを持って両断される。
そうして討たれ塵に帰るスケルトンから、青白い魔力のようなものが彼に向かっていく。それが彼の中に潜り込むたびに、男の動きは素早く、鋭くなっていった。
全てのスケルトンは俺達には目もくれず、ただ男に向かっていった。まるでこの戦場の脅威は彼だけであるように。骨の顔からはいかなる表情も読み取れなかったが、狂乱したかのように向かっていくのだ。同族がミキサーにかけらえたように塵に帰る死地へと。
見向きもされない状況に、安堵とわずかな口惜しさがあった。それほどまでに、俺には力がないのかと。
しかしそれはまぎれもない事実だった。
この死地に赴くスケルトンたちにとって不幸だったのは、明らかな技量と火力の不足だった。
つい数十秒前までの俺たちのように。
スケルトンの持つ武器や技量では、獣のごとき動きの男をとらえられない。その場に死と破壊をもたらしているのは、戦う人間ではなく、獲物を狩る獣の理。
スケルトンはただ切り潰され、薙ぎ払われ、蹴り砕かれる。速度と力による、一方的な虐殺だった。
ほんの数分で、百以上のスケルトンは塵に帰り、彼がこちらに近づいてくる。
燃え盛る小野尾に照らされるのは、駆けてきた時と変わらぬ傷一つない姿。
堂々たるその歩みと、放つ圧力。まさしく英雄と呼ぶべき存在だった。
『だめだ、霊基パターンが解析できない!戦闘中に魔力量が増えるなんて!』
Dr.ロマンが叫ぶ。青白い光が彼に取り込まれるたびに、彼の力が、速度が増しているように見えたのは気のせいではなかったわけだ。
すなわち実力の差は歴然。抵抗は無意味だ。
数歩の距離で立ち止まり大剣を突き立てた彼を警戒し、俺の前に立ちふさがっているマシュの肩をたたくと、俺は盾の前に出る。
誰かに守られたまま、言葉を交わしていいとは思えなかった。普通の人間としては考えられない思考。肉食獣の前に生身をさらすような愚行だ。
ああ、理性はそういっている。だが、心が、魂がささやく。彼の前に、己が足でもって立たなくてはならないと。
「先輩!?」
「貴方一体何を!?」
『立夏君!?』
三人の声が聞こえる。すまない、だがこうしなければならない気がするんだ。
「救援ありがとう、あなたの助けがなければ死んでいた。」
感謝の言葉を告げ、頭を下げる。言葉が返ってこない、これは失敗しただろうか。
「せ、先輩、顔をあげてください。あ、相手の方が。」
マシュの声に従い、顔をあげる。
すると、中空に文字が焼き付いていた。
【無作法を許せ、人類最後の勇者。】
俺の目がその文字を認識したとき、彼は騎士の礼をとる。
「貴方は、いったい」
彼は右手を掲げ、前に出ようとする俺を止めた。
【貴殿らの名は知っている、英雄達の主、藤丸立夏】
俺を、
【未完の騎士、マシュ・キリエライト】
マシュを、
【星見の長、オルガマリー・アニムスフィア】
所長を見定める。
【我は最初の火継、かつて薪となった最後の火継でもある。】
その身は熱を帯び、
【幾星霜の果てに、我が名は焼失した。】
目に見えぬ炎を纏い、
【故に我が名は無銘なり。】
総身を燻らせていた。
【此度は人理を焼く愚行を諌めるために。】
彼はただ、其処に在るだけで、
【最初の火の理を示すために。】
揺らぐ世界を焼き固め、
【私はここに来た。】
在るべき幻想を定めていた。
【サーヴァント
その火は、今世界を覆う業火をも焼き祓い。
【この戦場では、貴殿の指示に従おう。】
俺の魂に焼き付いた。
【存分に使うがいい、
俺は、この時真の火の熱を知った。
は!燃えカスごときが何をする!
もはや我らの計画は成就した!
人理焼却は覆らない!
全てを灰に戻した愚か者どもに、何が分かるというのだ!
この世の地獄を生み出した者どもに呪いあれ!
終わった者は、ただそこで指をくわえて見ているがいい!
我らの偉業を!生命の再起を!
誤った星を正し、あるべき理想を形作る我らが業を仰ぐがいい!