Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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サーヴァント戦終了。


邪竜百年戦争 ーオルレアンー 竜の魔女と聖処女

「よくも、よくもジルを!」

 

竜の魔女(ジャンヌオルタ)が、怒りの形相で己の現身(ジャンヌダルク)に突き掛る。

 

「く、討ち取ったのは私ではありませんが!」

 

両者とも旗槍での一騎打ち。

 

技量も速度も、目を見張るものはないが、怒りや悲しみが存分に伝わってくる争いだった。

 

「なぜ、なぜです!」

 

「私を見捨てたフランスを、なぜ守るのです(ジャンヌダルク)!」

 

怨嗟のこもった声を吐き出し、裂ぱくの気合を込めて、旗槍を振り回す。

 

「フランスは確かに私を見捨てました。」

 

「それは事実です。」

 

同じく旗槍で受け止め、悲しげな表情をしたジャンヌダルクが告げる。

 

「どうして恨みを持たない!」

 

「私は、私たちには、この国を亡ぼす権利がある!」

 

ジャンヌオルタが呪いの火を旗槍に纏わせ、薙ぎ払う。

 

ジャンヌダルクは、洗礼詠唱でもって呪いを打ち払い、聖なる布で悪しきを拭い去る。

 

「その国を守るために立ち上がったのですよ?」

 

「救国の使命を果たした者への贖いが火刑ならば、その報いは国家の火刑であるべきよ!」

 

「全てを含めた献身の果てに、国家の安寧があるのです。」

 

「綺麗ごとが過ぎる!」

 

ジャンヌオルタは、旗槍を投げ捨て、直剣を抜き放った。

 

取り込んだ聖杯からのバカげた魔力を、全身の強化と呪火の燃料に回した連撃。

 

旗槍のリーチによる有利を、速度と威力を向上させてねじ伏せる。

 

「我が怨念の火は途絶えない!」

 

「聖なる祈りをここに!」

 

豪速で振り回される直剣。

 

内側に入り込まれたジャンヌダルクは、その連撃を受けきれない。

 

呪いが、薄く刻まれた傷口から、ジャンヌダルクの身と魂を侵食する。

 

祈りによる浄化を重ねるが、呪いそのものと洗礼詠唱による負担がジャンヌダルクを疲労させていく。

 

「吹き荒べ、獄界の怨嗟よ!」

 

直剣に宿した呪火を急激に膨張させる。

 

突きに合わせて放出された呪火は、ジャンヌダルクの持つ旗槍に深刻なダメージを刻んだ。

 

「仕方がありませんね。」

 

呪いの火が侵食している旗槍を投げ捨てる。

 

ジャンヌダルクもまた、腰の直剣を抜き放つ。

 

洗礼詠唱により神聖な光に輝く直剣が、ジャンヌオルタの命を狙う。

 

善悪、正邪によって分かたれた二人。

 

剣撃に彩られた舞は、終わりを見せる気配がなかった。

 

ただ見ていたもののうち、三人だけが状況を把握していた。その後の勝敗すらも。

 

【終着である。】

 

「あぁ、終わりだ。」

 

「仕舞か。」

 

火継の薪、クーフーリン、小次郎には、この戦いの終着までが見えたのだろう。

 

一人はモニターから目を反し、二人は構えを解いた。

 

 

 

 

 

 

 

「っ、どうして!?」

 

ジャンヌオルタの剣は、ジャンヌダルクを捕らえられなくなっていた。

 

互い防ぎ、防がれていたはずの剣撃が、一方的なものになっていた。

 

ジャンヌオルタの剣が、鈍っていた。

 

彼女の内心を表すように、剣筋はブレて、大ぶりなものになっていた。

 

一発逆転を狙うがゆえに、その剣筋は荒く、読み取りやすいものになっていた。

 

その姿を見て、ジャンヌダルクは泣き出しそうなほど、表情を歪める。

 

「貴女は、どうして!?」

 

気にくわない。

 

―――どうして、()()()()()()を浮かべたあの女(ジャンヌダルク)に届かない!

 

―――認めない、認められるものか、()()()()()()()()()()()()に、負けるなんて!

 

己の内にある憎悪の炎に燃料が注ぎ込まれ、暴発するように燃え上がる。

 

その意志に従い、聖杯が更なる魔力を絞り出す。

 

「私の思いだけは、この願いだけは、私の本当なんだから!」

 

紫色の、呪火が燃え上がる。

 

「下らない聖女様、お前に、お前にだけは哀れまれる筋合いはないのよ!」

 

呪火はジャンヌオルタの身にまとわりつき、ジャンヌダルクの輝きを拒絶する。

 

―――そうよ、聖なるものなど、この世にありはしない。

 

聖なる献身なんて、あってはならないのだから。

 

この世の、この地上の聖なる献身を否定する。

 

―――そんなものに救われる者に、価値などありはしない。

 

救われた者の痛みを知らない者の齎す救いなど、呪いでしかないのだから。

 

かつて幾度も無名な兵士の献身によって救われてしまった(呪われてしまった)聖処女ならばわかるでしょう!

 

いくつもの夜を震えて過ごした、命の重さに潰された貴女なら!

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮!」

 

聖処女の献身を知って最後の箍を砕かれ、魔道に堕ちたジル・ド・レの。

 

最後まで貴女を守ろうと戦地に散った兵士たちの。

 

国家のために、己のために見捨てざるを得なかったあの方の。

 

憎悪によって磨かれた、フランスの祈り(呪い)

 

「―――《吼え立てよ、我が憤怒》!」

 

紫から黒へと堕ちた炎を、聖処女に向けて解き放つ。

 

足元から吹き上がった炎の道がジャンヌダルクを捕らえ、焼き尽くす。

 

追撃とばかりに、怨嗟と呪怨に形を与えた地獄の槍が何本も突き立つ。

 

生き残ることなど許さない。

 

私たちの憤怒に、私たちの憎悪に焼かれて消えなさい!

 

火炎の柱が突き立つ。

 

これで、終わり。

 

「アッハッハッハ!」

 

「何を笑っているんだ。」

 

燃え盛る火柱を見て笑っていると、ジルと戦っていたさえない男から声がかかる。

 

心底不思議そうに、私に問いかけた。

 

肩越しに振り返ると、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「何言ってるのよ、どう見たって、終わって、る。」

 

ばかばかしいと、笑い飛ばそうとして、できなかった。

 

「見ろ、彼女の思いを。」

 

その男の瞳に宿る、強すぎる意志に、押しつぶされそうになった。

 

気にくわない。

 

私を照らしていた色が変わる。

 

「なによ。」

 

顔を戻せば、火柱の色が変わっていた。

 

その性質すらも。

 

怨嗟と呪怨の結晶が。

 

聖なる救済の火に代わっていた。

 

「なんなのよ、それは!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

炎の中心には、全身に槍傷を負い、今にも死にそうな女が跪いていた。

 

神への祈りを捧げる格好で、出血にかまわず直剣の剣身を両手で握りしめていた。

 

それでも、己の滅びすら受け入れたような、冷徹な聖女の顔をした私がいた。

 

―――主よ、この身を委ねます。

 

つぶやくように、告げられた言葉。

 

あの女の口からこぼれた祈りに、その手の直剣が姿を変える。

 

何の変哲もない剣が、聖なる炎で象られた聖剣へと姿を変えた。

 

黄金の光に代わりながら、聖女が告げる。

 

―――《紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)

 

紅蓮の火が、私の祈りを、願いを焼き尽くす。

 

ああ。

 

燃えてしまう。

 

消えてしまう。

 

私が、たった一つだけ持っていた本物が。

 

私が私である、唯一のものが。

 

なくなってしまう。

 

呪いが、消えた。

 

あの女に、持っていかれた。

 

認めない。

 

認められない。

 

これでは、私は、単なる道化!

 

「まだよ。」

 

見回す。

 

「私は。」

 

私は消えた。

 

「私はまだ。」

 

あの男が近い。

 

「戦える!」

 

なぜ一人で。

 

「ここが!」

 

もうどうでもいい。

 

「この地獄こそが!」

 

全身のほころびを無視して、さえない男に切りかかる。

 

「私の魂の場所よ!」

 

ちょうどいい、こいつも近づいていた。

 

こいつさえ殺せれば。

 

「終わってるんだよ、ジャンヌ。」

 

渾身の力を込めて、振り下ろした剣には、呪火を纏わせることもできなかった。

 

全てを払われた私には、何も残っていなかった。

 

剣を、盾で受け流される。

 

開いた私の体に、彼の直剣が潜り込む。

 

心臓を一突き。

 

そこに潜り込んでいた聖杯をはじき出され、致命傷を負った私は本当に何もかもを失った。

 

私の心は、変わっていた。

 

あの聖なる炎に、呪いを焼かれて。

 

「もう、終わってるんだ。」

 

その言葉を受け入れてしまうほどに。

 

剣を堕とし、立つこともできない私を、抱き留めてくれた。

 

ほどけていく私には何も返せないのに。

 

「私には、何もない。」

 

「狂える男に生み出された、伽藍洞の人形。」

 

わかっていた、自分が偽物なことくらい。

 

消えゆく私は、どこにも帰れない、何も残らない。

 

「私は、もう何にも、誰にも負けたくなかった。」

 

あの始まりの日から。

 

植え付けられた記憶に、憎悪に操られた愚か者。

 

それでも、それだから何かを残したかった。

 

最後に、自分を残せない運命になんて、負けたくなかった。

 

「最後に消える私を、誰かの記憶に刻みたかった。」

 

ただそれだけ。

 

「けれど、これですべて終わり。」

 

彼の手が、私を強く抱きしめる。

 

最後に、神様とやらに感謝してやってもいいわ。

 

「優しいのね、貴方。」

 

彼の肩に乗せていた首を、無理矢理に持ち上げる。

 

「私は、勝ったわ。」

 

抱き着くような形で彼を、正面から見つめる。

 

意外にいい男じゃない、見直した。

 

「だから。」

 

彼の口を、塞ぐ。

 

私の初めては、血の味がした。

 

驚く彼の顔に、満足する。

 

唇を放す。

 

「さよなら。」

 

彼の記憶に、私は刻まれた。

 

私が消えても、私は遺る。

 

「これで。」

 

彼の顔がゆがんでいく。

 

霞む視界に、それが見えた。

 

「これで、よかったのよ。」

 

言葉を零して、私は消える。

 

暖かい雫が、頬に落ちた。

 

ああ、泣かないで、私の語り部。

 

貴方は使命を果たして、皆に私を伝えて。

 

それが、私の勝利条件。

 

消える寸前。

 

私は、きれいに笑えただろうか。




聖骸布は投げ捨てていくストロングスタイル。

この作風でジャンヌが生き残るわけないだろ、いい加減にしろ。

立夏君のファーストキスは血の味でした。

これで型月主人公としてのフラグが立ったな。

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