Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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まだまだ続くよ。

注意、独自設定が暴発してるので、細かいことは気にしないで。

いつの間にかUA50000超えてるじゃないですかやったー。

ご愛読ありがとうございます。

コンゴトモヨロシク。


邪竜百年戦争 ーオルレアンー 鋼切りと海魔焼きと竜殺し

彼方で、すさまじい魔力が解き放たれ、赤黒い血杭の山脈が消え去った。

 

ふむ、潮時か。

 

振るわれる白銀の閃光。

 

よそ見をしていたゆえの、視界の外からの一撃。

 

視線を向ければ、暴風を纏う鋭利な切っ先が見える。

 

それらを放つ、美しい顔を歪めた痛ましいモノ。

 

狂気に侵され、それでも使えるべき主を忘れぬ忠義者。

 

目の前の美麗にして哀れな剣士との演舞も、ここいらで幕を引くことにしよう。

 

外見に似合わぬ豪剣を振るう麗人。

 

白百合のごとき騎士は、生前誇っていただろう技量を狂化によって失い、見るも無残な剣をふるっている。

 

かつては素晴らしき技量と剛力により、まさしく当代無双であったろう。

 

だが、いまは。

 

「無様よな。」

 

己のような棒振り剣士に、遊ばれているのだから。

 

「あ、ああああああ!!!!!!」

 

「激高したか?だが、事実であろう?」

 

手に持つ細剣が、すさまじい速度の連撃で突き込まれる。

 

殺気が漏れすぎていて、あくびが出そうだ。

 

正確であるがゆえに読みやすい素直な刺突を、薄皮一枚でわざとかわし続ける。

 

そのわずかな距離を縮めようと、わずかに、わずかに体制を崩させる。

 

致命的に体勢が崩れ、防御がどうあっても間に合わないその瞬間。

 

刺突の動きが硬直し、引き戻すまでのわずかな時。

 

可憐な騎士の持つ細剣が固定される一瞬。

 

それを狙い、鍔元を一閃する斬撃。

 

己の技量、そして火継の薪から受け取った物干し竿。

 

何を切っても刃筋を立ててさえいれば、鉄塊すら薄紙を切るように断ち切れる魔刃の切れ味を合わせれば。

 

たとえ英霊の持つ獲物であっても容易く断ち切ることができる。

 

まぁ、切れ味を試すといって、火継の薪が整備していたはべるの大盾であったか?

 

あれを両断したときは痛快であった。

 

己の獲物では一刀で砕かれるであろうあの岩を、抵抗なく切ることができたのだから。

 

己の技を見た英雄やカルデアスタッフからは拍手喝采。

 

火継の薪からは厳重な抗議を受けたわけだが。

 

意識を戻す。

 

当然のごとく根元から細剣を断ち切られ、獲物を失った白百合。

 

実に優雅ではないうなり声をあげながら殴りかかってきたので、秘剣燕返し・峰打ちをもって鎮圧することに相成った。

 

何とも締まらぬ結果であるなぁ。

 

「はて、どうするか。」

 

並みいる英雄豪傑の宴も、終焉が近い様子。

 

「間に合うならば、見物と行こうか。」

 

花鳥風月ほどの雅量はなくとも、無聊の慰めにはなろう。

 

なに、直にこの特異点とやらも修復される。

 

武人としての興味を満たす側に立ってもよかろう。

 

「やるべきことは済ませたわけであるし。」

 

誰に対する言い訳をするでもなく。

 

デオン殿といったか?この御仁を肩に担ぎ、この騒乱の収束点に赴くことに相成った。

 

「何が起きているのだろうな。」

 

 

 

 

 

俺とジャンヌ、マシュ、クラーナ、所長で、ジャンヌオルタとキャスタージル・ド・レを叩き潰す。

 

以前に召喚されていたメフィストフェレスは早期に討伐されていたらしい。

 

ジャンヌにとっての切り札たちはほぼ完封され、こちらは倍以上の人数で当たっている。

 

当初は容易に終わるかと思っていたこの戦いだが、予想以上に長引いていた。

 

ジャンヌと所長が、ジャンヌオルタを抑え込み、俺、マシュ、クラーナがジル・ド・レを早期に討ち取るはずだった。

 

しかし、ここで大きな誤算が俺たちの計画を破綻させてしまう。

 

聖杯を持っているのは、ジル・ド・レだったのだ。

 

シャドウサーヴァントと海魔の群れを呼び出したジル・ド・レは、その軍勢の奥に引きこもっている。

 

「焼き尽くしても減った気がしない!」

 

何より面倒なのが、シャドウサーヴァントは倒したそばから補充され、海魔は焼き尽くさないとむしろ増えるという点だった。

 

クラーナの大魔術の時間を稼ぎ、寄ってくる海魔を焼き払う。

 

そのたびに襲ってくるシャドウサーヴァントを叩き潰すと、海魔がまた増えているというサイクルだ。

 

詠唱破棄用の記憶した魔術を使っていないため、経戦能力そのものは低下していないが、ここから長期戦に持ち込ませるのは不利だ。

 

海魔を呼び出しているあの魔導書か、聖杯を奪えればことはすぐに片付くのだが。

 

他の相手をしているサーヴァントたちはまだ戻らない。

 

ここに火継の薪がいればすでに終わっていただろう。

 

だが、いま彼はここにいない。

 

直剣の柄を握りしめる。

 

俺の中に眠る太陽の力を最初の火を媒介に僅かに引き出し、直剣に乗せる。

 

こうすることで、海魔の血や肉を聖別し、召喚素材にできなくしている。

 

この繰り返しのおかげか、空間が狭いためか、海魔そのものの数は、まず打ち止めになっていた。

 

「ええい、凡愚共め。我が偉業の邪魔建てをするか!?」

 

あの王国元帥ジル・ド・レとは似ても似つかぬ怪人。

 

それがキャスタージル・ド・レだった。

 

太陽の力を宿した直剣は、彼の呼び出した恐るべき魔物を手早く無力化していく。

 

狙うは、ジル・ド・レの首。

 

確実に取らねばならない。

 

ここでためらえば、数多くの命が犠牲になるのだから。

 

敵集団のせん滅を放棄し、一気に攻勢をかける。

 

側撃をかけてきた巨大な海魔を、マシュの盾が弾き飛ばす。

 

「あと少しです、先輩!」

 

「ああ!」

 

その通り、あと二枚か今の壁を越えれば、ジル・ド・レの命に刃が届く。

 

「―――《大発火》」

 

直剣を消し、呪術の火に換装、即座に記憶してあった呪術を発動する。

 

目の前まで迫っていた海魔の壁を爆砕する。

 

周囲から迫る海魔は、クラーナが魔剣で焼き潰している。

 

再び直剣を取り出すと、真正面、最後の一枚に突き立てる。

 

ほんの数匹の海魔など、致命の在処がわかっている今なら、数手で片が付く。

 

即座に切り捨て、キャスタージル・ド・レに、刃を振り下ろす。

 

「ひいっ!?」

 

彼が防御のつもりで掲げた魔導書に、刃が受け止められる。

 

ハードカバーこそ切り裂いたものの、中身は半ばまで切り込んだだけだった。

 

その傷口から、海魔の断末魔と濁血があふれ出す。

 

それに触れないように、一足飛びに後退した。

 

「おのれ、おのれ、おのれ!」

 

「我が親友から借り受けた深淵なる魔導書を、傷つけるとわぁ!?」

 

「ち、躱すとは運のいい奴。」

 

激高するジル・ド・レの頭を、クラーナの大火球が霞める。

 

「海魔たちよ!」

 

あふれ出る濁血を触媒に、巨大な海魔が出現し、ジル・ド・レを取り込んで遥か高くまで運んでいく。

 

数十メートルはあるだろうか、その巨体の上で、ジル・ド・レが吠える。

 

「この汚らわしい腕でもって、神と聖処女を引きずり落とし、フランスを堕としましょう!」

 

「クラーナ。」

 

「ああ。」

 

「令呪を持って命ずる。《クラーナよ宝具を開放せよ。》」

 

彼女の持つ魔剣から、紅蓮の火が噴き出す。

 

「重ねて令呪を持って命ずる。《巨大海魔を、滅せよ。》」

 

火が色を失い、白光となって輝きを増す。

 

「―――《非業剣・始まりの呪火(Quelaag's Fury Sword.)》」

 

海魔よりも長く太い、強大な火柱が、クラーナの動きに合わせて巨大海魔へと傾いていく。

 

着弾。

 

海魔は無数の触手を伸ばし、防ごうとするが叶わない。

 

触れるそばから蒸発し、内側からはじけ飛んでいるからだ。

 

その巨体からわかる程度に動きが遅い海魔に、避ける手段はなかった。

 

「ここで終わるわけには!」

 

海魔は触手を一本だけジャンヌオルタに伸ばし、聖杯を手渡そうとした。

 

爆発。

 

崩れかけた町並みを、軒並み更地にするほどの威力。

 

マシュの盾の後ろにいなかったらやばかったかもしれない。

 

「ジル!?」

 

向こうで戦っているジャンヌオルタの悲鳴が聞こえた。

 

見れば、彼女の手には黄金の盃があった。

 

触手が消え去る瞬間、彼女に受け渡すことができたらしい。

 

呆けている暇はない。

 

彼女を討つほかに、手はないのだ。

 

 

 

 

 

 

「貫け―――《力屠る祝福の剣(アスカロン)》」

 

戦馬ベイヤードに騎乗した聖騎士、ゲオルギウスがその手の聖剣を振るう。

 

剣の煌きは光の槍となって対峙する悪竜()を穿つ。

 

竜殺しの因子を含んだ、竜種にとって猛毒ともいえる光の槍は、強靭なウロコを容易に貫き、激痛をファフニールに与える。

 

痛みに悶えるファフニールが苦し紛れに振るう爪や尾、火炎弾を、ベイヤードと一体となったゲオルギウスは何の苦もなく躱す。

 

ちょこまかと動き回る騎馬の人間に気をとられれば、足や胴、尾に凄まじい痛みが走る。

 

一度己を殺した、恐るべき敵手。

 

己を殺すことで、真に竜の天敵たる竜殺しの因子を持つに至った高位の魔剣、バルムンクを持つ宿敵だ。

 

この二人の連携は、無尽蔵の魔力と底なしの生命力を誇るはずのファフニールに危機感を覚えさせるものだった。

 

巨体ゆえの機動性の低さと、自慢の防御を抜くだけの敵が二人もいる状況は、ファフニールにとって初めての状況である。

 

一度殺された時でさえ、正面からの決戦の果てにかろうじて敗れている。

 

今回、自分も相手も弱体化しており、聖杯のバックアップを、竜の魔女の支援を受けていない敵の方がその弱体化は大きなはずである。

 

それでもなお、自分は今、矮小な人二匹に、追い詰められつつある。

 

こちらの攻撃は全く通らず、敵の攻撃は一つ一つは小さくとも、確実に積み上がっている。

 

悪竜邪竜の代表にして、歴史に名を刻んだいわば反英霊竜たるファフニールが、高々竜殺しに怖気づくなど、あってはならない。

 

そう奮起し、己の中の怯懦を力強い咆哮でかき消す。

 

たとえ偽りの感情であろうと、己で定めたのならば、それを真にする事も可能なはずだ。

 

魔力を翼に込め、破壊の暴風として解き放つ。

 

地面を捲り上げ、瓦礫と土の津波を生み出す。

 

崩れかけた石造りの家々が砕かれ、多くの尖塔がなぎ倒される。

 

そうだ、我が力であれば、この程度の惨劇を生み出すなど容易い。

 

濛々と立ち込める土埃の中、魔力探知で敵を探る。

 

馬の蹄鉄が、石畳をたたく音。

 

己の左後ろを駆ける騎士がいる。

 

短く低いうなり声。竜言語による超短縮詠唱により発動する、面制圧爆撃。

 

紅蓮の雨が降り注ぎ、町並みを更地に変えていく。

 

狙いを収束させ、絞り上げた連弾を叩き込む。

 

数発を剣で弾いたようだが、あとは馬が足を止めるまで周囲を破壊し続ける。

 

反撃の掃射。光の槍が無数に飛び、全身くまなく突き刺さる。

 

特にまずいのが、翼を撃ち抜かれたことだ。

 

もはや風を捕まえることも、飛ぶこともできないだろう。

 

左前脚を、魔力の刃で切られる。骨まで達する一撃だ。

 

視線を向ければ、土埃に塗れた竜鎧を纏う男。

 

宿敵。

 

視界が真っ赤に染まる。

 

こいつだけは、こいつだけは殺さなくてはならない。

 

喉奥の魔力だまりに、竜の心臓からあふれ出る魔力を圧縮し、圧縮し、圧縮する。

 

収束し、回転させた魔力で己の肉体が削られてもなお、チャージすることを止めない。

 

彼奴の纏う悪竜の血鎧は、己の血による神秘の弱い攻撃の無力化と減衰の力を持っている。

 

見ただけでわかる、あれは己の血で、己の竜鱗を模したもので、その性能は己に劣るものではないと。

 

故に、己の肉体を破壊するに足るだけの威力を以て当たらなければ、かの英雄を殺すことはできない。

 

己が魔力を収束させたことを認めた敵は、己を殺した魔剣に悍ましい気を纏わせ始める。

 

柄の青い宝玉から垂れ流されるのは、幻想種()を否定するに足る真エーテル。

 

かつて雌雄を決した時よりも、よく練り込まれ、無駄のない魔力収束。

 

より細く、より鋭く、確実に己を両断せんという意志が込められた、勇者の剣。

 

それを構える男の顔立ちは、瞳は、あの時と違っていた。

 

それを見て思う。

 

いいだろう、己の生という至高の財を懸けよう。

 

再びの竜殺しという偉業を求めんというのならば、邪竜としてその意志を打ち破らなくてはならない。

 

互いに得た、再びの生という、この世すべての財に勝るとも劣らぬものを、互いの意地に懸ける。

 

不思議な感覚だった。

 

竜に変じて以来、感じていなかった高揚感。

 

己の力のみでもって、生を勝ち取るという、原初の闘争本能。

 

たとえこの一戦で終わるとしてもかまわない、かの悪名を、敗北を漱ぐ為ならば。

 

誰も見ていないとしても、己の矜持のために命を捨てよう。

 

『悪逆なる竜は咆哮し、世界は今落日に至る!』

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る!」

 

共に重ねる宝具の詠唱、その文面はどこまでも似通い、致命的なまでに異なっていた。

 

『焼け朽ちよ―――《幻想悪疫・邪竜炎哮(ファフニール)》!』

 

「撃ち落とす―――《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)》!」

 

己の口から吐き出すのは、地獄の業火のごとき赤黒い炎の奔流。

 

対する魔剣から放たれるのは、真エーテルを含んだ竜殺しの剣気。

 

己の喉を、牙を、口を焼き溶かす熱量と疫毒の概念を練り込んだ、厄災の火。

 

それを押しつぶし、破砕し、無力化する黄昏色の剣気。

 

拮抗する力の余波が、周り全てを犯していく。

 

火の欠片は石をぐずぐずに溶かし、剣気の破片が万物を塵に帰していく。

 

目の前の光景に、見とれていた。

 

黒炎と黄昏の向こう。膨大な余波が生む風に煽られた宿敵の顔に、見惚れていた。

 

全身から血を流し、それでもなお、悪竜に挑む勇者の姿に、心打たれた。

 

限界が来た、心臓が破裂する。

 

内部構造が己の悪疫に耐えきれず、自壊する。

 

強靭な外皮とウロコによって、無様をさらすことはなさそうだ。

 

口から吐き出していた厄災の火が、途切れる。

 

さらに勢いを増した黄昏色の剣気に包まれ、分解されていく。

 

ああ、そんな顔をするな。

 

あの時と同じ、呆けたような、悲しそうな眼を。

 

己を誇れ、偉大なる竜殺し。

 

お前は再び、この偉大なる悪竜を討ったのだから。

 

『誇ってくれ、それが手向けだ。』

 

私の言葉に、彼は瞠目し、目を伏せた。

 

「……ああ、俺が、俺こそが、竜殺しだ。」

 

彼の言葉に、私の心は満たされた。

 

黄金の輝きに還る。

 

もう一度。

 

それを望むことは、罪だろうか。

 

答えてくれ。

 

我が宿敵、ジークフリート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




当カルデアでは、ジークフリートさんはリアル竜殺しだから(震え声)

デオン君ちゃんはあっさりと処分されました。

まぁ、技量の怪物に宝具並みの耐久と切れ味の獲物渡したらこうなる。

メッフィーは合流前に宝具の巻き添えで討伐されてるので、存在自体感知されていません。

切っても潰しても増える海魔相手に、何でも焼いちゃう混沌の火は相性がいい。

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