Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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オルレアン包囲戦開始

ここにFate要素もダクソ要素もないよ。

オルレアン決戦で雑魚が出てこない描写のための説明回なので。

読まなくても問題なし。


邪竜百年戦争 ーオルレアンー 突入

大地の向こうに、太陽が昇り始める。

 

朝冷えの強いフランスの大地を、朝日が照らした。

 

眼前に見えるのは、黒く焼け、崩れ落ちたオルレアン。

 

廃墟に近い見た目であるが、崩れた城壁には大量のゾンビが武器を持っており。

 

城門近くには獣人やスケルトンの軍勢が待ち構えている。

 

オルレアンに存在しないはずの無数の尖塔には、数えきれないほどのワイバーンが羽を休めていた。

 

万全の構えで、俺たちを待ち受ける竜の魔女の軍勢。

 

対するは、フランス全土から参集した60000を超える大兵力。

 

大貴族や王家、教会直隷の精強な騎士が、磨き抜かれた武具を纏い、朝日に照らされている。

 

槍列を組む兵士たちも、槍の穂先を煌かせていた。

 

馬の嘶きのほかに、鎧がこすれる音が遠く響くほどの静寂。

 

皆の顔は緊張にこわ張っている。

 

それも当然だろう。

 

今日行われる決戦は、人間相手ではないのだから。

 

陣の中、小高い丘の上にある本陣から、二騎の騎士が歩みだす。

 

フランス王国元帥ジル・ド・レとヌヴェール・ルテル伯爵シャルルの二人だ。

 

一目で最高級とわかる白馬に騎乗した二人は、金や銀糸で飾られたサーコートを纏い、鎧を輝かせていた。

 

「諸君、よくぞ今日まで戦ってくれた。」

 

「私は王国元帥、ジル・ド・レである。」

 

強く、大きな声を響かせる。

 

かの細身の元帥に、これほどまでの声量を発揮する力があるとは、にわかに信じられなかった。

 

「我らが聖処女が処刑されたあの日に始まった地獄は、今日この日を以て終わらせる。」

 

「ほかならぬ我らの手でだ。」

 

彼は、伸ばした手を握り、隣に立つ伯爵の肩に手を置く。

 

「この地には貴族、王統、教会関係なく、すべてのフランス人が結集している。」

 

「諸君、日頃の諍いを捨てよ。それを気にしている余裕などないのだから。」

 

伯爵もまた、元帥の肩に手を置いた。

 

「心せよ!今日の戦いに敗れたその時、我らの大切なものは全て、分け隔てなく失われる。」

 

「我らはここに来た、あの惨状を見た、ならば勝つだけのことである。」

 

偉大なるカエサルの至言を口に、元帥は剣を抜き放つ。

 

「神の恩寵は我らにあり!」

 

「天の加護は汝らと共にある!」

 

天に掲げた剣は、朝の煌きを跳ね返し、聖なる雰囲気を纏う。

 

「聖処女の悲願を、今度こそ我らの手で!」

 

「フランスを、奪還する!」

 

Vive la France!(フランス万歳!)

 

「「「「「「「「「「Vive la France!(フランス万歳!)」」」」」」」」」」

 

全軍の斉唱が大気を震わせた。

 

全身が震える。

 

「全軍、前進!」

 

剣をオルレアンに振り下した、元帥の檄が飛ぶ。

 

ラッパの音が響き渡った。呼応するように遠方からも鐘やラッパの音が響く。

 

包囲に参加している教会騎士やブルゴーニュ公の軍勢も前進を始めたらしい。

 

戦列を整えた歩兵が、弓兵が、騎士が太鼓の音に合わせて前進を始めた。

 

地響きのごとき足音ともに。

 

こちらの動きに対応するように、スケルトンが戦列を組み迎撃の構えを、獣人が突撃の構えをとる。

 

ワイバーンたちも離陸をはじめ、オルレアン上空を旋回し始めた。

 

「私たちも進むわよ。」

 

所長の号令に従い、カルデアの戦力も移動を始める。

 

サーヴァント戦力が固まって前線に出張り、南門を狙う動きを見せれば、かの魔女も対応せざるをえまい。

 

そこにマスターがいるならば、自分も含めた最高戦力を投入してくるだろうというのが、今回の作戦の要諦だ。

 

そうでなければ、数の差で圧殺するだけの話。

 

「砲兵、目標南門及び門前スケルトン隊!」

 

百門以上の青銅砲が南門周辺を狙い、装填を完了させている。

 

同様に、トレバシェットやカタパルトが、油壷や火炎弾を撃ち込む準備をしている。

 

「バリスタ、ワイバーン戦用意!」

 

「弓兵、第一梯団は城壁ゾンビ、第二梯団は対獣人突撃破砕射撃、第三梯団以降は対ワイバーン用意!」

 

弓兵は、1500づつの梯団に編成され、前衛に二個、残り二個は本陣周辺にバリスタと同様に配置されている。

 

第一梯団の前に掘られた溝には油が注がれており、火矢が準備されていた。

 

ゾンビ相手には通常の矢よりも、燃える火矢の方が効果が高いことが明らかになっている。

 

まぁ、燃やせば動かなくなるしね。

 

本陣周辺には、弓兵の護衛として混成歩兵3000がついている。

 

所長が提案した対空防御陣形である。

 

「槍盾兵、防御態勢!」

 

「剣槌兵、突撃用意!」

 

槍盾兵は2000ずつの梯団として四個薄く配置され、その後備として半数の剣槌兵が展開している。

 

また、側面防御のための軽騎兵と軽装歩兵が両翼に500配置された。

 

「騎兵は本陣にて別命あるまで待機!ワイバーンの攻撃に備えよ!」

 

主力の重装騎士500と従騎士2500、従兵3000は本陣として弓兵部隊の陣形の中央に位置し、敵の攻撃を引き付ける役割を持っている。ほぼ全員が弓やクロスボウを使えるため、効果的な迎撃が可能であろうと目されている。

 

「砲兵、放て!」

 

盛大な砲音。

 

先ほどの唱和に匹敵する爆音とともに、青銅砲から丸められた石の砲丸が飛ぶ。

 

唸りをあげて飛翔した砲丸は、地面に当たると大地をえぐりながらバウンドし、スケルトンをボーリングのように弾き砕く。

 

陣形の各所が文字通り粉砕され、多くの砲丸が門扉や城壁に命中する。

 

榴弾ではないために爆発はないが、随所で外壁が崩れ、奥の構造石が見えていた。

 

「命中確認、砲撃続行!」

 

トレバシェットやカタパルトも、唸りをあげて油壷を撃ち込む。

 

その多くは城壁や地面にまき散らされるが、一部は城壁上のゾンビを襲う。

 

壺や樽の直撃を受けた獣人やスケルトンは再起不能になっている。

 

「第一梯団、用意!」

 

溝にまかれていた油に、火がともされる。

 

地面にさして準備していた火矢に火をつけ、引き絞る。

 

弓の軋みが重奏で聞こえる。

 

「放てぇ!」

 

1500本の火矢が宙を駆けた。

 

突き立った火矢から、巻かれた油に引火し、オルレアンの周囲は火に包まれた。

 

火に追い立てられるように獣人たちが突撃を始める。

 

「第二梯団、突撃破砕用意!……放て!」

 

第二梯団の1500本が、突撃を始めた獣人を襲う。

 

流石に頑丈で、斉射でも数百を削ったに過ぎない。

 

それでも、第一梯団の火矢と第二梯団の連続射撃、カタパルトの火薬樽砲撃が、獣人の突撃の衝撃力を削り落とす。

 

「敵獣人、来るぞ!」

 

こちらの槍盾兵が、防御陣形をとる。

 

二列目は槍を頭の上で前に構える。三列目以降は槍を斜め上に向けて構え、飛んでくる敵を迎撃する構えだ。

 

「突き込め!」

 

突き込まれる槍。

 

衝突の寸前、多くの獣人がその体を縫い留められる。

 

しかし、その槍を切り払い、躱した獣人の戦闘集団が、前衛の盾を足場に飛び上がる。

 

「来るぞ!……ぎゃぁ!?」

 

大半を撃墜したものの、一部は槍兵の陣内で暴れ始めた。

 

後続集団は両刃斧を盾に打ち込み、破壊を狙ってくる。

 

獣人の膂力で振るわれる総金属製の両刃斧の一撃は、鉄枠で強化されている木の盾を容易く破壊する。

 

「盾が破らぐぎぇ!?」

 

一部の前線は突き破られ、こちらでも乱戦が始まった。

 

「剣槌兵、迎撃開始!」

 

その動きに呼応するために、後備の剣槌兵が槍兵の陣内に突入し、白兵戦を繰り広げる。

 

「助けてくれ!」

 

「この野郎ぶち殺してやる!」

 

この時点で、敵の騎兵に当たる獣人の大半はこちらの陣に拘束された。

 

衝撃力は吸収され、最後部を走っていた獣人たちは塊となって停滞してしまう。

 

「敵の動きが鈍った!撃ち込め!」

 

そこに、第一、第二梯団の容赦ない射撃が加えられる。

 

盾を持たない獣人にとって、集中射撃はかなりの脅威だ。

 

「あいつら、死体を盾にしてやがる!」

 

武器を振り回し、味方の死体を盾に生き延びようとする。

 

「スケルトンが来たぞ!」

 

「砲撃で削ったんじゃねぇのかよ!?」

 

そこに、遅れて進軍してきたスケルトンの軍勢がぶち当たってくる。

 

度重なる石と散弾による砲撃に削られたとはいえ、無数といっていいスケルトンの軍勢。

 

獣人戦力は、スケルトンの群れに取り込まれる形で逃げ場を失い、前後の圧力に磨り潰される他なかった。

 

「くそ、まともに効いてねぇぞ!」

 

「敵の力は弱い!守り抜けば安全だ!」

 

新たにやってきたスケルトンの軍勢に、前衛たる槍盾兵は有効な武器を持っていなかった。

 

その骨は頑強で、槍や盾でぶちかましても中々致命的な打撃を与えられない。

 

頼りの槌持ちは陣内に流れ込んできた獣人を掃討しており、まだまだ手が離せないようだった。

 

ここに、地上戦力の拮抗がもたらされる。

 

「ワイバーンが来るぞ!」

 

それを打破するためか、ワイバーンたちが本陣の騎士を狙って攻撃をかけてくる。

 

「矢弾を馳走してやれ!」

 

大編隊を組んできたワイバーンは、第三、第四梯団とバリスタによる出迎えを受けることになった。

 

密集した襲撃体勢をとっていたワイバーンに、6000の矢と200の槍弾が襲い掛かる。

 

豪雨のごとき弾幕を回避しようにも、前後左右上下に味方がいるワイバーンの大半は躱すことができずに、直撃を受け、前衛にあった集団はその大半が地面に落ちていく。

 

しかし、密集していたがゆえに前衛一枚分にほぼすべての攻撃が当たったため、ワイバーンの大半は無傷で飛んでいた。

 

「分散してくるぞ!」

 

ワイバーンは、隊列をいくつのも集団に分け、各々の狙いに向かっていった。

 

ワイバーンの攻撃が始まるまでに三度の弓兵射撃が行われ、数百のワイバーンが地面に落ちた。

 

ワイバーンが低空から毒爪による蹴撃を狙う。

 

「最後の一射だ!……退避!」

 

バリスタの水平射撃が、十数匹のワイバーンを叩き落とす。

 

それらの犠牲を乗り越え、ワイバーンがついに本陣に躍り込んだ。

 

「侵入されたぞ!」

 

「迎撃しろ!」

 

バリスタやトレバシェットやカタパルトに襲い掛かるワイバーン。

 

護衛の歩兵が迎撃にかかり、羽ばたきや尻尾で吹き散らされる。

 

次々に破壊される兵器を尻目に、騎兵とワイバーンによる決戦が始まる。

 

「フランス王国万歳!突撃!」

 

最初の一手は、整列突撃した騎兵と同じくワイバーンのトーナメントであった。

 

騎兵とワイバーンのチャージ合戦は、すれ違いざまにランスを突き立てた騎士と、馬や騎士の首を毒爪でもぎ取り、かじり取るワイバーンが生まれていた。

 

その後、激しい乱戦状態に移っていく。

 

しかし、数で劣るワイバーンが騎士と従騎士、従兵の連携によって駆逐されていく。

 

おそらく兵器の壊滅と引き換えに、ワイバーンの全滅が起きるだろう。

 

「あと少しよ!目の前のスケルトンを抜ければ!」

 

俺たちはそんな一大決戦を迂回する形で、火薬樽による爆破で跡形もなくなった城門に向かっていた。

 

右翼に配置されていた軽騎兵を護衛に、ばらけていたスケルトンを薙ぎ払う。

 

俺と所長は騎乗しているが、サーヴァントたちは走っている。しかし彼らはそれでも一騎当千だった。

 

当たるを幸いに、スケルトンたちは跡形もなくなっていく。

 

クーフーリンは赤と緑の軌跡を残し、スケルトンを粉砕していく。

 

小次郎は背骨を両断することで動けなくし、クラーナの魔剣が触れれば灰になる。

 

マシュは盾ごとぶつかるだけでどんな装備のスケルトンでもばらばらになるので安心だ。

 

火継の薪は、とんでもなく大きい黒馬に乗り、竜騎兵の弓で射撃中だ。

 

すでに本陣上空のワイバーンを数十は射落としている。

 

所長は体力回復や恐怖除去の魔術を馬に駆けることで、この強行軍を支えている。

 

そして俺も雷のショートボウで、接近してくるワイバーンを射落とすことに必死だ。

 

大半が本陣や他の陣に向かっているとはいえ、それなりの数がこちらを襲撃してくる。

 

「抜けたわ!」

 

ロレーヌ川にかかる長大な橋を渡ることになる。

 

長い長い騎乗戦、実際には2kmほどを駆け抜け、南門に接近した。

 

近寄ってみると、予想以上にがれきが多く、馬で入れそうにもなかった。

 

城壁上のゾンビの大半が火矢や火薬樽で排除されており、残りも火継の薪によって射落とされた安全地帯で、俺たちは馬から降りることになった。

 

「馬を閣下にお返しください。」

 

「は、我々は左翼騎兵と共同し、敵後方を削ります。……ご武運を。」

 

ここまで護衛してくれた軽騎兵に馬を引き渡し、オルレアンに突入する。

 

この先で、どんなサーヴァントと戦うことになるのか。

 

どんな戦いになるのか()()()()()()()()()()()()


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