Fate/Grand order 人理の火、火継の薪   作:haruhime

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ぐだメインに戻ります。

オリジナル設定に注意。


邪竜百年戦争 ーオルレアンー 遭難

森の中、当てもなくさまよう俺は、獣人に襲われていた。

 

ちょっと待て、百年戦争当時のフランスには、武装した獣人がいたってのか?

 

暗殺者のように、音もなく木の上から降ってくる獣人の斧を、盾で受け流す。

 

着地のすきを狙い、その首元を突きで切り裂く。

 

動脈の切れ目から、吹き出す血。

 

一歩足を引き、返す刃で斧を持つ手を切り、取り落とさせる。

 

そのまま盾の縁で、苦痛にゆがむ獣人の鼻を殴りぬく。

 

白目をむいて倒れる獣人を無視し、再び走り出す。

 

さっきから何度もこれを繰り返しているが、数が減ったように思えない。

 

明らかに遠吠えで仲間を集めている。

 

首筋に殺気を感じた。

 

盾を振る。

 

手に衝撃。

 

盾を戻せば、矢が突き立っていた。

 

防いでいなかったらここで死んでいた。

 

「どうにかならんのか!」

 

剣を振り込んできた獣人を、パリィで体勢を崩し、心臓を一突き。

 

蹴って剣を抜き、また走る。

 

森の開けた場所に出てしまった。

 

明らかに追い込まれていた。

 

周囲の森から、無数の獣人たちが現れる。

 

どう考えても絶体絶命だった。

 

 

 

 

 

 

十匹から後は数えていないが、どれだけ倒しただろうか。

 

地面には、無数の獣人が転がっていた。

 

火継の薪からもらった法王の左目と右目の力で、毛皮も筋肉も骨も関係なく切り捨て、それで体力が回復できるからこそどうにかなっている。

 

しかし、もう集中力は持たなそうだ。

 

ここで終わりか。

 

足がもつれる。

 

踏み込みで抉った凹みに、足を取られた。

 

地面に倒れ込んでしまった。

 

その隙を逃すほど、獣人は遅くなかった。

 

振り上げられる斧。

 

当たれば一撃で、俺の人生は終わるだろう。

 

思わず目をつぶってしまう。

 

「……すまない、助けは必要だろうか?」

 

目の前に立っていたのは、背中を大きく開けた鎧をまとい、黄昏色の魔力を垂れ流す大剣を持った男だった。

 

「頼む。」

 

「わかった、助けよう。」

 

俺の言葉にこたえ、男は獣人を殺し始める。

 

それは一方的な作業だった。

 

男の斬撃はどんな角度でも獣人を両断し、獣人の攻撃はすべて男の鎧にはじかれていた。

 

広場の獣人は瞬く間に数を減らし、逃げ散っていく。

 

誰もいなくなった血臭漂う広場に、俺と男はいた。

 

「俺は藤丸立夏、あなたは?」

 

「俺か、俺は……ジークフリート。ネーデルラントの王子にして、竜殺しと呼ばれたこともある。」

 

それが、俺と偉大なる大英雄、ジークフリートとの出会いだった。

 

 

 

 

あの後、ジークフリートの先導を受けて森を抜けた。

 

そのまま平原を歩き、ちょうど見つけた街道そばの岩陰に野営地を作ることになった。

 

ここはどうやら旅人たちも利用する野営地らしく、少し歩いたところに泉もあった。

 

野営について様々な仕事をジークフリートから教わり、すべての用意が整ったころには、すっかり日が落ちていた。

 

呪術の火を火種にした焚火に当たりつつ、これまでの事を彼に話した。

 

「そうか、この時代に来た時にはぐれてしまったのか。」

 

「ああ、でもあっちのいるはずの皆は強いからね、一人でも大丈夫だろう。」

 

俺が一番弱いんだからな。ここで死んだら、所長たちの足を引っ張ることになってしまう。

 

「こんな俺が言えることではないが、人類最後のマスターであることを誇りに思ってほしい。他の誰も、君の変わりはできないのだから。」

 

ジークフリートの言葉に、胸を打たれる。

 

「今この瞬間は、俺だけが君のサーヴァントであろう。」

 

俺がここで諦めたら、人類史は終わってしまうのだ。

 

「この悪竜の血鎧とバルムンクに懸けて、君を彼らのもとに送り届けて見せる。」

 

この程度の逆境、大英雄の助力があって恐れることなどない。

 

この火が俺の内にある限り。

 

ないのだ。

 

萎えかけていた気力が戻る。

 

「よろしく頼む、ジークフリート。」

 

眠る前に、彼と一時的な主従契約を結ぶことにした。

 

カルデアからの魔力供給は途切れているが、獣人たちから得たソウルを魔力に転換して渡すことで、宝具を二回発動できる程度を渡すことができた。

 

明日からの旅路に、俺は耐えられるだろうか。

 

呪術の火を胸に抱き、夜の冷気に震えているのだとごまかしながら。

 

俺は激動の一日目を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日から、街道沿いに南西に向かうことになった。いくつかの村と街を経由し、たどり着いたのはフランス北方の大都市であったアミアンである。

 

俺はともかく、ジークフリートの格好はなかなか目立つものだ。

 

最初の村では遠巻きに見られ、次の町では衛兵に止められてしまった。まぁ、途中で潰したそれなりの規模の盗賊から回収した銀貨を賄賂にすり抜けることができたが。

 

対策として、途中の町で獣人たちの使っていた金属武器と古びたマントを交換したものの、悪竜の血鎧が破壊してしまうことも分かった。

 

それを見た俺たちの表情は、何とも言えないものだったと思う。

 

結局、なるようになるということで開き直ることにした。

 

しかし、俺たちはその場所で思いがけない光景を目にすることになった。

 

アミアンの城壁は焼け焦げ崩れ落ち、人間が信じられない形状に損壊されている光景。

 

人間の手ではできないような、何か巨大なものに踏みつぶされ、かじり取られたような、焼けた遺体が転がっていた。

 

門の前には衛兵はなく、そもそも門自体が崩れ落ちている。

 

門を抜けると、あちらこちらに崩れ落ちた家と死体の群れがあった。

 

崩れ落ちた家を前に座り込む老人。

 

青年の遺体を前に泣き叫ぶ娘。

 

下半身の無い子供を抱え、ふらふらと歩く壊れた母親。

 

片腕を失い、剣を握って立ち尽くす傭兵。

 

がれきからはみ出た焼け焦げた腕の前で、泣き叫ぶ幼い兄妹。

 

生気のない顔をしながら、ばらばらになった同僚を集めて運ぶ兵士達。

 

これまでの旅の中で、最も非日常的な光景。

 

あの冬木の火災の中には、人がいなかった。

 

死体が無造作に転がっているということが、いかに精神に負担をかけてくるのかを初めて知った。

 

「なにが、あったんだ。」

 

「竜の気配がする。強くはないが、あちらに死んだ竜がいるはずだ。」

 

ジークフリートが、妙なことを言い出した。

 

今だくすぶる城壁の上に登っていく。慌てて俺もついていくことになった。

 

城壁には、無数の武器を持った男たちが倒れていた。

 

そしてその中に、翼竜が崩れ落ちていた。

 

バリスタの矢を受けたのか、胴体と片羽が縫い付けられている。

 

そのほかにも無数の矢と槍が突き刺さっていた。

 

その周囲には頭の無い死体、下半身の無い死体、黒焦げの死体。

 

兵士の格好をしたものよりも、はるかに多くの粗末な格好をした者たち。

 

ただの村人達が、粗末な武器を持って立ち向かったのだ。

 

今、この城壁の上だけでも、100を超える死体が見える。

 

上から見ると、竜の死体がかなりあるようだった。

 

それ以上に、崩れ落ちた建物があり、それより多くの黒煙が上がっていた。

 

「血の色からして、この襲撃があってから1日は立っている。」

 

「何があったのか確認しないとな。」

 

ジークフリートの提案に、俺は頷いた。

 

人理修復がなされぬ限り、この悲劇はフランス全土で繰り返される。

 

とっとと解決しないと。

 

心があげる悲鳴に蓋をして。

 

俺たちは城壁を降りると、情報を集めることにした。

 

 

 

 

 

 

アミアン郊外の避難民の集団に紛れ込み、いくつかのうわさ話を集めることができた。

 

曰く

 

―――火刑に処されたジャンヌダルクが蘇った。

 

―――彼女が巨大な竜を呼び出し、王統政府は城と一緒に燃え尽きた。

 

―――彼女の周りには異装の戦士がおり、信じられないくらい強い。

 

―――ワイバーンを操る聖女は、竜の魔女を名乗っている。

 

―――聖人を名乗る騎馬騎士が、ワイバーンに襲われていた村を助けた。

 

どう考えても、この特異点の中心は蘇ったジャンヌダルクだ。

 

しかし、彼女の周りにいる異装の戦士は間違いなく呼び出されたサーヴァントだろう。

 

いくら大英雄たるジークフリートでも、複数の英霊に囲まれては無事ではすむまい。

 

そこで俺たちは、ジャンヌダルクの本拠であるオルレアンを外し、聖人を名乗る騎士を探し出すことにした。

 

ワイバーンを狩るものであれば、少なくともジャンヌダルクの味方ではないだろう。

 

アミアン守備隊から生き残った上質な馬を三頭、200エキューで買い取り、俺とジークフリート、そして荷物を載せて噂を追いかけることになった。

 

 

 

 

 

 

 

かの騎士は方々で民を助けているらしい。

 

明らかに惚れているだろう村娘達から、話を聞きながらの旅だった。

 

ルーアンでの盗賊狩り、バイユーの森に潜む獣人討伐、ル・マンの水妖退治、アンジュー近郊のグリフォン追討、ポアティエを襲う逃亡騎士討滅を経由し、リモージュで追いつくことができた。

 

というより、襲撃を受けていたリモージュ防衛戦の最中に出会ったのだが。

 

かの騎士の名はゲオルギウス。竜殺しの偉功を以て聖人に列せられた誉れ高き騎士である。

 

堅物だが、冗談も交えた会話もできる人物のできた人だ。

 

搭乗者を無敵化する戦馬ベイヤードに騎乗し、赤銅の鎧に紅白のサーコートを翻し、竜殺しの聖剣アスカロンを掲げてワイバーンに突撃するゲオルギウスは、かの伝説に勝るほどの騎士っぷりであった。

 

一刀にてワイバーンを確殺し、放たれるブレスを無効化して切り潰す。

 

遠距離のワイバーンには、剣の煌きが光の槍となって襲い掛かっている。

 

その間合いに捉えられたワイバーンは確実に命を奪われていた。

 

そして、ジークフリートもまたバルムンクを縦横無尽に振るい、ワイバーンを駆逐していく。

 

ブレスを吐こうとするワイバーンに立ちはだかり、その鎧でもって炎を無効化し、兵士たちを守っていた。

 

対する俺はというと。

 

火継の薪からもらったロングボウを放つ。

 

太陽の力の一端を宿したロングボウは、放たれる何の変哲もない矢に、雷を宿す。

 

着弾した矢は宿している神威を開放し、ワイバーンは気を失い地面にたたきつけられる。

 

落ちた時に被害が出るが、防衛軍が瞬く間に取りつき、あっという間に躯に変えていた。

 

「やるじゃねぇか!」

 

「まだまだいくぜ、おっさん!」

 

「おいおい!俺はまだおっさんじゃねぇ!」

 

「マルコ!もういい年のおっさんだろうが!」

 

「やかましい!」

 

町の人が手に槍や農具を以てワイバーンに立ち向かっている。

 

多くのワイバーンが外で戦っている二人に集中しているため、城壁を襲うワイバーンはほとんどいなかった。

 

「砲兵!」

 

「ぶちかませ!」

 

城壁に据え付けられたカノン砲から、ブドウ弾が放たれる。

 

数十個の鉛玉はワイバーンをとらえ、その翼膜をずたずたに破り去る。

 

そのワイバーンは城壁にぶつかり、首の長さが半分になっていた。

 

「やったぞ!」

 

「再装填急げ!」

 

砲兵が黒煙を吐き出すカノン砲の清掃を始める。

 

「シーリス!もう一匹来るぞ!」

 

「くそが!弓兵、バリスタ、射撃用意!」

 

このあたりの取りまとめをしている傭兵隊長が命令する。

 

ゲオルギウスを狙っていたワイバーンがこちらを狙っていた。

 

周辺の弓兵やバリスタと共に、接近してくるワイバーンを狙いかえす。

 

「射て!」

 

バリスタ二基の太矢と城壁兵の30本の矢がワイバーンに飛ぶ。

 

しかし、ワイバーンはそれらを一瞬上昇することで躱してしまう。

 

回避を終え、もう一度狙いを定めようとしているワイバーンに、雷矢を放った。

 

安堵したか?

 

驚愕に染まるワイバーンの脳天に雷矢が突き立ち、閃光と共に俺の目の前に落ちてきた。

 

目と鼻の先まで滑ってきたワイバーンは、香ばしい香りをさせて、死んでいた。

 

白濁した目玉に直剣を突き立て、脳をかき混ぜておく。

 

一度だけはねたが、それ以降動きはなかった。

 

そうしているうちに、リーダーと思しき赤いワイバーンをジークフリートが切り捨てる。

 

「私はここにいるぞ!」

 

ワイバーンたちが統制を失ったところで、ゲオルギウスがスキルでワイバーンを引き付ける。

 

―――《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

ジークフリートの声が、かすかに聞こえた。

 

彼の持つ大剣にはめ込まれた蒼の宝玉から、膨大な魔力があふれ出す。

 

黄昏色の剣気を纏った大剣が振り切られ、壁のような剣気が放たれた。

 

とっさに逃げ出そうとするワイバーン、しかし、剣気の壁は逃亡を許さない速度で迫っていた。

 

すべてのワイバーンを滅ぼした剣気は風に消え、ここにリモージュは守られた。

 

城壁の兵士たちは、目の前で行われた伝説の再現に目をむき、呆然としている。

 

俺だって現実感を失うほど、幻想的な光景だった。

 

時間がたつにつれて、これが現実だということを噛み締める。

 

歓声が上がった。

 

爆発のような音。

 

二人の騎士も、城壁に近づいてきた。

 

銀猫の指輪の力を使い、城壁から飛び降りて合流した。

 

「すごいな二人とも、まさしく英雄だった。」

 

「いえ、立夏君の魔力供給のおかげで好き放題できましたから。」

 

「ああ、俺たちが全力で動けるだけの魔力があればこそだ、立夏。」

 

二人が肩に手を置いて来る。

 

感謝の念がこそばゆかった。

 

魔力供給はマスターとして当然のことだし、二人がすごいことに変わりはない。

 

俺は結局、十匹も殺せなかったしね。

 

「立夏君、勘違いしていないかい?」

 

「何を?」

 

「普通の人間は、ワイバーンを一人で殺せないことを。」

 

真剣な表情で告げるゲオルギウスの言葉に、驚いてしまった。

 

「……そういえばそうだね。」

 

忘れていた。

 

三流魔術師でしかない俺が、ワイバーンを十体近く倒した?

 

十分すぎる戦果だ。

 

俺は、英雄じゃないんだ。

 

―――胸がきしむ気がした。

 

歓声を以て迎え入れようとしてくれているリモージュ防衛隊の皆。

 

その声を浴び、気後れすることなく門を抜けようとする二人の後を、奇妙な脱力感をと共に追うことにした。

 

 


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