私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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第六十一話 みなさんお疲れ様でした会

 大洗女子学園は聖グロリアーナ女学院を下し、優勝を勝ち取った。

 学園艦の存続をかけた戦いもこれで終幕。閉会式を終え、深紅の優勝旗を手にした今、あとは学園艦に帰るだけだ。

 誰も彼もが笑顔になれた最高のハッピーエンド。その歓喜の輪を二人の生徒が遠巻きに眺めていた。

 

 角谷杏と西住まほ。

 試合は終わったが、彼女たちの戦いはまだ終わっていない。

 大洗は聖グロリアーナのクルセイダーを借用した。不義理を働いた責任は誰かが取らなければならない。

 

「西住ちゃんは私に付き合わなくてもいいんだよ?」

「私も責任を取る。クルセイダーの車長は私だからな」

「わかった。じゃあ、行こっか」

 

 聖グロリアーナはすぐには撤収しない。試合に関わったすべての関係者にあいさつをするのがあの学校の伝統だからだ。

 大洗の生徒の前にはまだ姿を現していないので、観客や審判団へのあいさつを優先しているのだろう。二人だけで謝罪に向かうのは、今がちょうどいいタイミングといえる。

 ところが、杏とまほは移動することができなかった。二人が会おうとしていたお相手が向こうからやってきたのである。

 

「角谷会長、お姉ちゃん」

 

 クルセイダー隊の隊長、ラベンダー。

 杏の恩人であり、まほの大事な妹であるラベンダーは、真っ先に謝罪しなければならない相手だった。

 

「先に会長に会えたのは好都合でございますわ」

「そうだな。これで手間が省ける」

 

 ラベンダーの隣にはローズヒップとルクリリの姿もある。

 この二人も大洗に手を貸してくれた恩人だ。

 

「三人に謝らないといけないことがあるんだ。私は……」

「クルセイダーのことですよね? それなら気にする必要はないですよ」

 

 杏の言葉をラベンダーはばっさりカットした。

 

「いいですか。聖グロリアーナの戦車道はあくまで……」

『優雅!』

「なんです。大洗の勝利にケチをつける気はありません」

 

 ラベンダーの言葉にローズヒップとルクリリが合いの手を入れ、三人はすまし顔でティーカップ片手にポーズを決める。

 ヘンテコなポーズを前にした杏とまほは凍りついたように固まってしまった。ラベンダーたちの突飛な行動に面食らってしまったようだ。

 

「カッコいいこと言ってますけど、その変なポーズで台無しですよ」

 

 あとからやってきたオレンジペコがラベンダーたちにツッコミを入れる。

 困惑していた杏とまほにとっては、まさに渡りに船であった。

 

「来年はわたくしたちが最上級生。優雅という言葉を体で表現する必要があるのですわ、オレンジペコ隊長さん」

「まあ、ペコ隊長の言うことも一理ある。ポーズをとるのはやめるか」

「ごめんね、オレンジペコ隊長様。私たち、ちょっと舞い上がってたよ」

「その変な呼び方はやめてください。リーサルウェポンの二の舞だけはまっぴら御免ですからね」

 

 オレンジペコ隊長。ラベンダーたちはオレンジペコのことをそう呼んだ。

 どうやら、次の戦車道チームの隊長はオレンジペコに決まったらしい。

 

「角谷会長、体調不良で不在のダンデライオン様に代わって、私があいさつに参りました。優勝おめでとうございます」

「ありがとう。これも聖グロのみんなが助けてくれたおかげだよ」

「優勝できたのはみなさんの努力の成果ですよ。私たちはほんの少し手伝っただけです」

 

 オレンジペコもクルセイダーの件は何も言わない。おそらく、気にする必要はないというラベンダーの言葉は聖グロリアーナの総意なのだろう。

 

「本当なら、このあとみなさまをお茶会にご招待する予定だったんですが、今回は事情が変わりました。今日は前々隊長がサプライズをご用意してくれたので、今からみなさまを会場へご案内します」

「前々隊長……ダージリンか」

 

 まほの言葉に静かにうなずくオレンジペコ。

 

「ダージリン様のサプライズは本当にすごいんでございますわよ。きっと度肝を抜かされますわ」

「戦車道をたしなむ戦車女子なら誰でも参加できるからな。普段とは人数が桁違いだ」

「なので、今日のお茶会は名前も違います。今回開催されるのは、みなさんお疲れ様でした会です」

 

 意気揚々と話すラベンダーたちのテンションはかなり高く、喜びの感情を隠しきれていない。あの決めポーズが飛び出したのはこれが原因のようだ。

 こうして、大洗女子学園の面々は激闘を繰りひろげた相手と仲良くパーティをすることになったのであった。

 

 

 

 

 東富士演習場の近くの空き地で開かれた立食パーティー。

 戦車女子なら誰でも参加できるとあって会場は大盛況。様々な学園艦の生徒が一堂に会するこの会場は、まるで今大会の抽選会場のようだ。

 そんな中、まほは二人の人物と話をしていた。

 一人はまほの友人であるアンツィオ高校のアンチョビ。そして、もう一人は準決勝で戦ったプラウダ高校のノンナだ。

 

「優勝おめでとう、西住。私は今年で卒業だけど、来年はペパロニ率いる新生アンツィオ高校が大洗に必ずリベンジする。首を洗って待ってるんだぞ」

「私も負けないようにがんばるよ。まぐれで優勝したとは言われたくないからな」

「プラウダもと言いたいところですが、来年は分が悪いかもしれません。まだ次の隊長すら決まっていませんので」

 

 カチューシャ戦術を完璧に使いこなせるのはカチューシャだけ。カチューシャ戦術は彼女の残したデータだけで運用できるほど単純ではないのだ。

 プラウダが来年苦労するというノンナの予想は多分当たるだろう。良くも悪くもカチューシャは偉大すぎたのである。

 そのカチューシャはここにはいない。彼女はまほと少し話したあと、深水トモエと共にこの場を離れている。

  

 そのとき、会話を弾ませている三人の元に一人の少女が走ってきた。

 先ほどアンチョビの話に出てきたアンツィオ高校次期隊長、ペパロニだ。

 

「姐さん、緊急事態ッス! コアラって何食べるんスか!?」

「コアラといったらユーカリの葉だろう」

「そんなもん用意してないッスよ!」

「あー、あの学校が来たのか……よし、私が何とかしよう」

 

 アンチョビは席を離れる前にまほのほうへと顔を向けた。

 

「私は料理に戻る。西住、もう妹さんの友達に嫉妬するんじゃないぞ」

 

 そう言い残し、アンチョビはペパロニと一緒にこの場を去った。

 すると、それと入れ替わるようにプラウダ高校の制服を着た少女がやってくる。

 

「ノンナさん、面倒なことになっただ」

「どうしたのですか?」

「ケーキの味にうるさいお客がやってきたべ。わんどの作ったケーキだば満足できねって」

「私も手伝います。あの隊長を納得させるケーキを作るには、プラウダの総力を結集する必要がありますからね」

 

 どうやら、ノンナもこの場を離れるようだ。

 そして、アンチョビ同様、ノンナも去り際にまほへ言葉を贈った。

  

「まほさん、今度戦うときは私とカチューシャが勝利します。勝ち逃げは許しませんよ」

 

 アンチョビとノンナが去り、一人残されるまほ。

 留年しているまほは今年は卒業できない。それはすなわち、同年代のライバルたちから置いていかれることを意味する。

 それでも、まほはこれからも前を向いて進んでいく。ライバルたちに背中に追いつくために。

 

「ハーイ、まほ。次は私の話に付き合ってもらうわよ」

 

 また一人、まほのところにライバルがやってきた。 

 この分だとまだまだ多くの生徒がまほの元を訪れそうである。 

 

 

◇◇

 

 

 どこも人でいっぱいのパーティー会場。そのなかでもひときわ人数が集まっている場所があった。

 大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院の一年生。その主要メンバーが一つのテーブルに集結していたのだ。

 

「みんなー、今日はあたしとニルっちの部隊長就任パーティーに集まってくれてありがとうー!」

「えっ!? それがこのパーティーの趣旨だったんですか!?」

「カモミールさん、だまされちゃダメですの。今のはハイビスカスのジョークですわ」

「私とハイビスカスさんが部隊長になるのは本当なんですけどね」

 

 聖グロリアーナ女学院の部隊長は新二年生が就任するのが伝統。

 来年のクルセイダー隊の隊長はハイビスカス、マチルダ隊の隊長はニルギリ。そして、そのすべてを統括する総隊長はオレンジペコ。

 決勝戦終了直後に来季の準備を進める。この切り替えの早さも聖グロリアーナが強豪校と呼ばれる理由の一つなのだろう。

 

「大洗はやっぱり梓が副隊長になるのかな? 河嶋先輩は今年で卒業だし」

「ありえるね。来年は武部隊長、澤副隊長。そして、ゆくゆくは澤隊長が誕生するかも」

「大出世だねぇ、梓ちゃん」

「みんな、気が早いよ。私はまだそんな器じゃないから」

 

 あゆみ、あや、優季の言葉を否定する梓。

 あれだけ活躍しておいて謙遜するのは、戦車道を始めるまでは地味で目立たない少女だった梓らしい。

 

「ということは、あずっちはあたしのライバル兼ペコっちのライバルでもあるわけだ。これは負けてらんないね、ペコっち……なんで怖い顔してるの?」

「……ハイビスカスさん、あなたに言いたいことがあります」

「なになに、もしかして愛の告白?」

「どうしてそうやっていつもふざけるんですか! あなたはクルセイダー隊の隊長になるんですよ。もっと自覚を持ってください!」

 

 真っ赤な顔で怒鳴り散らすオレンジペコ。

 普段からは考えられないような行動をとるオレンジペコは、どう見ても正常ではなかった。正気を失っているといってもいい。

 

「梓、まずいことになりました」

「芽依子、オレンジペコさんに何があったの?」

「ノンアルコールビールの中に本物のビールが紛れこんでいました。オレンジペコさんはそれを飲んでしまったようです」

「もしかして、芽依子も飲んじゃった?」

「はい。桂利奈と紗希もです」

 

 芽依子は平然としているが、桂利奈と紗希はテーブルに突っ伏している。アルコールが入ったことで二人は眠ってしまったようだ。 

 

「これは非常事態ですの。お酒が入ったオレンジペコさんは手が付けられませんわ」

「三年生の寮に突撃した伝説の再来です」

「今はハイビスカスさんが防波堤になってますけど、それもいつまでもつか……」

 

 暴走するオレンジペコと説教を受け続けるハイビスカス。

 それを見守ることしかできない聖グロリアーナの一年生と、茫然としている大洗女子学園の一年生。

 誰もうかつに動けないこの混沌とした状況。それを打破したのは意外な人物だった。

 

「探したよ、リーサルウェポン。戦車での勝負は結局有耶無耶になったからね。今度こそ決着をつけるよ」

 

 現れたのは大洗の助っ人選手、お銀とラム。

 その二人をオレンジペコはキッとにらみつける。眼光の鋭さは女子高生とはいえないレベルだ。

 

「……いいですよ。あなたとの因縁、今ここで絶つ!」

「お、親分、リーサルウェポンの奴、すごい気迫ですぜ。船底でサルガッソーのムラカミを倒したとき以上だ」

「これがこの女の本性なんだよ。口では嫌だ嫌だと言いながら、心はつねに戦いを求めている。リーサルウェポン、あんたのそういうところ嫌いじゃないよ」

 

 オレンジペコが啖呵を切ってもお銀は少しも動じなかった。荒くれ者だらけの大洗の船底を仕切っている彼女は、この程度で動じるタマではない。 

 

「それで、今度はどんな勝負をするんですか?」

「あんたとの決着はこれでつける。ノンアルコールラム酒、ハバネロクラブ飲みくらべ対決。前回の対決は引き分けに終わったからね。今回は勝たせてもらうよ」

「わかりました。受けて立ちます」

 

 この日、オレンジペコの伝説に新たな一ページが刻まれた。

 戦車道チーム歴代最強の隊長、オレンジペコ。

 彼女の名は、オレンジペコが卒業した後も聖グロリアーナ女学院内で永遠に語り継がれることとなる。

 

 

◇◇◇

 

 

 パーティー会場の近くにある木の下でダンデライオンは体育座りをしていた。

 ダンデライオンは自分の膝に顔を埋め、決して顔を上げない。その姿からは、誰にも会いたくないという彼女の意思が伝わってくる。

 

「こんなところにいたのね。探したわよ、ちびっこライオン」

「アッサムさんもダンデライオンさんのことを心配していましたよ」

 

 ダンデライオンのところへやってきたのはカチューシャと深水トモエであった。

 

「あたしのことは放っておいてください」

「そんな風に後悔するなら、あんなバカなことしなければよかったのよ」

「後悔はしていません。みんなに合せる顔がないだけです」

「それを後悔っていうのよ。ほら、さっさと立ちなさい」

 

 カチューシャはダンデライオンを立たせようとするが、まったくビクともしない。

 ダンデライオンは小柄だが、カチューシャはもっと小さいのだ。パワー不足のカチューシャでは土台無理な話だった。

   

「トモーシャ!」

「はい。私にお任せください」

 

 トモエはダンデライオンに近づくと、足の隙間に手を入れて体をひょいっと持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつである。    

 黒森峰は重戦車主体のチーム。その分砲弾や履帯も重いので、ある程度の力がなければ練習についていくことすらできない。黒森峰の隊員は小さな女の子を持ち上げるくらい訳ないのだ。

  

「ななな、何をするんですか!? 下ろしてください!」

「そうはいきません。このままパーティー会場まで連れていきます」

「深水さん、あなたそんなキャラじゃありませんでしたよね? カチューシャさんに洗脳でもされたんですか!?」

「私はカチューシャ様に出会えたことで人生が変わりました。だから、ダンデライオンさんの気持ちも少しはわかるつもりです」

 

 騒ぎながらジタバタしていたダンデライオンの動きは、トモエの言葉でピタッと止まった。

 それを見たトモエは、静かにダンデライオンを地面へと下ろす。ダンデライオンが抵抗する様子はもうなかった。

 

「ちびっこライオン、私はあんたを責める気はないわ。でも、あんたにはまだやるべきことがある。このまま腐って終わるのだけは許さないわよ」

「あたしにはもうやることなんて……」

「あんた、去年の聖グロ祭で私にこう言ったわよね。ダージリンをそばで支えるのが選んだ道だって。自分の吐いた言葉にはちゃんと責任を持ちなさい。ダージリンの計画にはあんたの力が必要なんだから」

「ダージリンさんの計画?」

 

 ダンデライオンは何が何だかわからないとでも言いたげな顔をしている。

 

「そう。あんたとトモーシャ、それと西住流に聖グロのOG会。いろんな人を巻きこんで、ダージリンはおもしろいことをやろうとしてるの」

「その言葉を聞いただけで、嫌な予感がひしひしと伝わってくるんですけど。ダージリンさん、今度はいったい何をやらかす気なんですか……」

「知りたいなら教えてあげるわ。ダージリンは大洗女子学園の廃校を完全に阻止するつもりなのよ」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 華やかなパーティー会場の一角に辛気臭い空気を漂わせている空間があった。

 そこにいるのは、アッサムと大洗の生徒会役員。アッサムはノートパソコンを使ってなにやら説明しており、大洗の生徒たちはそれを静かに聞いていた。

 

「というわけで、文科省が廃校を撤回する可能性は限りなく低いと思われます。私たちが集めた情報でシュミレーションした結果、八十パーセントの確率で廃校になるというデータが出ましたわ」

「口約束は約束じゃないか……いやー、聖グロの情報収集能力はすごいね。たしかに、あの役人ならこれくらいの言い訳は用意してそうだ」

「感心してる場合じゃないですよ。早く対策を練らないと……」

「もうダメだよ、柚子ちゃん! 大洗はおしまいだー!」

 

 大泣きしながら柚子にしがみつく桃。今までの苦労が無に帰す可能性が高いというデータは、彼女にかなりのショックを与えたようである。 

 

「心配する必要はありません。このデータを覆すための策をすでにダージリンが実行しています。作戦が成功すれば、この確率を十パーセント近くまで下げられるはずですわ」

「一つ質問してもいいかな?」

 

 アッサムに問いを投げかける杏の顔は真剣そのもの。

 その表情からは嘘はいっさい許さないという杏の強い意志がうかがえる。

 

「どうして親切にしてくれるの? 聖グロが大洗を助けるメリットってそんなにないと思うけど?」

「私が協力する理由はただ一つ。ラベンダーの悲しむ顔が見たくないからですわ」

「……ラベンダーちゃんは人気者だね。うちの子もメロメロだし」

 

 杏の視線の先にはいるのは、あんこうチームの面々に囲まれているラベンダー。その馴染みっぷりは別の学校の生徒とは思えないほどだ。

 ラベンダーの魅力は学校の垣根すらあっさり超えてしまう。だから、彼女の元には人が集まるのだ。

 

「納得していただけましたか?」

「うん、した。それで、私は何をすればいいのかな?」

 

 アッサムに向き直る杏の目は前だけを見据えている。

 杏が諦めない限り、大洗が廃校になることは決してないだろう。

 

  

◇◇◇◇◇ 

 

 

 パーティー会場全体を見渡せる丘。そこでは、ダージリンとアールグレイの二人だけのお茶会が開かれていた。

 

「聖グロリアーナの戦車道で大事なのは勝敗ではなく、心を成長させること。アールグレイ様が教えてくださった聖グロリアーナの伝統は、今も生徒たちの心に根付いています。この光景がその証拠ですわ」

 

 聖グロリアーナ女学院は決勝戦という大舞台で敗北した。しかし、それを表情に出している生徒は一人もいない。

 聖グロリアーナの戦車道はあくまで優雅。伝統は後輩にしっかりと受け継がれている。

 

「アールグレイ様の強引なやり方では、そう遠くない内に伝統は失われてしまいます。勝つことだけを考えるようになってしまえば、それはもう聖グロリアーナの戦車道ではありません。その考え方は、アールグレイ様が打倒しようとしていた黒森峰の戦車道ですわ」

 

 手にした紅茶をじっと見つめたまま沈黙するアールグレイ。

 彼女の沈んだ様子からは、悩んでいるのが手に取るようにわかる。ダージリンの言葉は確実に彼女の心を揺さぶっているようだ。

 

「ですが、アールグレイ様がやろうとしたことをすべて否定する訳ではありませんわ。伝統に縛られすぎて盲目になり、他校から置いていかれる。そんな母校の姿は私も見たくありません。大洗女子学園のような新進気鋭の学校が現れた今、多少の改革は必要だと思います」

「……私は少し焦りすぎていたようですわ。ダージリン、あなたはすべてにおいて優秀な子でしたが、弁も立つようになりましたね」

「これもアールグレイ様のご指導のおかげですわ」

 

 二人の間に流れていた空気は徐々に穏やかになっていく。

 元々二人は敵対していたわけではない。目指す方向は一緒なのだから、再び手を取りあうのは十分可能だった。

  

「聖グロリアーナを強化する計画は白紙に戻します。大洗女子学園の廃校阻止にも手を貸しますわ」

「ありがとうございます。アールグレイ様のお力添えがあれば『鬼に金棒』ですわ」

「礼はいりません。私はあの子たちの真剣勝負に水を差してしまいました。彼女たちの雪辱の機会を守るのは当然の責務です」

 

 中央政界にも顔が利く深水家。高校戦車道連盟の理事長を務め、戦車道プロリーグ設置委員会の委員長にも就任予定の西住しほ。そして、社会的地位が高い良家の人間が多いOG会を手中に収めつつあるアールグレイ。

 これだけの協力者がいれば外堀は埋められる。学園艦教育局長よりも立場が上の政治家を父に持つダンデライオンの協力さえ得られれば、大洗女子学園の廃校は百パーセント阻止できるだろう。

 

 ダージリンの作戦はこれにて完結。あとは、オレンジペコが優勝旗を持って帰ってくる日を待つだけだ。


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