赤いじゅうたんが敷かれたプラウダ高校の隊長室。その中央に置かれたテーブルで、カチューシャと深水トモエは二人きりで話をしていた。
いつもは仲睦まじい様子で会話に花を咲かせる二人だが、今日は普段と様子が違う。
ピリピリした空気。このテーブルのまとう雰囲気を表現するなら、その言葉がしっくりくる。
「トモーシャ、それがあなたの出した結論なのね?」
「はい。私は戦車道を引退します」
戦車道を辞める。トモエは開口一番そう切り出した。
これがこの部屋に漂う独特の緊張感の原因である。
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
「私はカチューシャ様に甘えてばかりで何も成長してなかったんです。この前の試合でそれを思い知らされました」
黒森峰女学園は聖グロリアーナ女学院に敗北した。
カチューシャも現地で観戦していたので、試合の顛末はほぼ把握している。
「試合が終わったあと、ラベンダーさんが謝りに来たんです。目に涙をためて頭を下げる姿は、カチューシャ様を侮辱したときとはまるで別人でした。それで気づいちゃったんです。彼女は自分を曲げてでもこの試合に勝ちたかったんだって……私にはそんな気概はありませんでした」
トモエはどこか寂しそうな表情で言葉をつむいでいく。
「私が今までがんばってこれたのはカチューシャ様のおかげです。でも、私はカチューシャ様の優しさに浸るだけで、本気で自分を変えようとはしなかった。こんな私が隊長をしてるんです。黒森峰が負けるのは必然でした」
カチューシャはトモエの話を黙って聞いていた。
カチューシャが何も言わないのはトモエのことを信頼しているからだ。
深水トモエはこれで終わるような少女ではない。トモエと絆を深めてきたカチューシャはそう確信していた。
「このまま戦車道を続けていたら、いつかきっとカチューシャ様に見捨てられる。だから、私は選手としてではなく、別の形でカチューシャ様のお役に立つことにしたんです」
「別の形?」
「はい。私はカチューシャ様のスポンサーになります」
これにはさすがのカチューシャも度肝を抜かれた。
カチューシャは一介の高校生にすぎない。そのカチューシャにトモエは出資するというのだから、驚くなというほうが無理だ。
「お父様も乗り気でした。文科省は世界大会誘致のために戦車道のプロリーグを作るつもりなので、有力選手のスポンサーになるのは悪い選択肢じゃありません。お父様はこの一連の流れをビジネスチャンスと捉えたみたいです」
実家まで巻きこんでいるのだから、トモエは本気なのだろう。
選手としての実力はないが、実家の権力は超弩級。それが深水トモエの強みだった。
「それがあなたの進む道ってわけね」
「私は武家じゃなくて商家の娘ですから。これからは自分の得意分野でカチューシャ様に貢献します」
すっきりしたような顔でそう言い切るトモエ。
その表情からは、トモエが内包していた怯えや迷いといったものはいっさい感じられない。
「それなら、カチューシャも一層努力しないといけないわね。スポンサーに恥をかかせるわけにはいかないし」
カチューシャはそう言うと、トモエに向かって手を差し出す。
カチューシャの意図に気づいたトモエは、すぐさまその手を取った。これで契約は完了だ。
「あなたの広告塔になってあげる。絶対に損はさせないわ」
「私も精一杯サポートします。もろもろの雑務は私にお任せください」
この日、カチューシャと深水トモエの関係は大きく変化した。
それでも、二人の間に芽生えた絆は途切れない。戦車道の世界で生きていく二人の関係は、今後もずっと続いていくはずだ。
「ところで、黒森峰のほうはどうなっているの? トモーシャのことだから、ちゃんと目処はつけてきたと思うけど……」
「新隊長には逸見さんを指名しました。副隊長は赤星さんのままなので、スムーズに新体制へ移行できると思います」
「ずいぶん思い切った決断をしたわね。反対意見も多かったんじゃないの?」
逸見エリカは勝利のチャンスを見す見す逃したヤークトパンターの乗員。準決勝の戦犯に祭り上げられてもおかしくない人物だ。
エリカは優秀な隊員かもしれないが、下手をしたらチームがバラバラになるかもしれない諸刃の剣。隊長に据えるにはリスクがあるとカチューシャは思ったのだろう。
「反対意見も多少はありましたけど、ほとんどの隊員は納得してくれました。逸見さんが優秀なのは間違いないですし、彼女には人を引っ張っていく力もあります。それに……」
そこで一度言葉を切ったトモエは、少し考えこんだあとで話の続きを口にした。
「私だったらクロムウェルを撃ってました。それがどんなに卑怯で恥知らずなことなのか、頭に血が上っていた私は考えもしなかったと思います。逸見さんは黒森峰にとって最良の選択をしてくれました。彼女を隊長に推したのはそれが一番の理由です」
あの場面でクロムウェルを砲撃していたら、黒森峰は勝利よりも大事なものを失っていた。
二年連続で優勝旗を逃してしまったが、黒森峰の名声はまだ地に落ちていない。再起させることは十分可能である。
新生黒森峰の旗頭に勝利ではなく名誉をとった逸見エリカを起用するのは、あながち間違いではないのかもしれない。
そのとき、隊長室の扉が控えめにノックされた。
「ノンナが帰ってきたようね。さて、ちまたで話題の解任隊長はカチューシャに何の用なのかしら?」
「おいしい紅茶を飲みに来ただけかもしれませんよ。プラウダのロシアンティーは絶品ですから」
「ダージリンならその可能性もあり得るわね」
いつもカチューシャのそばに控えているノンナが不在なのは、ダージリンを迎えに行っていたからであった。
事前の連絡もなしにダージリンがここを訪れるのは珍しいが、隊長を解任されて暇を持て余しているのだろう。ダージリンは無類の紅茶好きなので、トモエの言ったとおり紅茶を飲みに来ただけの可能性も高い。
「カチューシャ、ダージリンさんをお連れしました」
「ごきげんよう、カチューシャ。今日はあなたに仲介役を頼みに来たのだけれど、私は運が良いみたいですわ。『棚から牡丹餅』とはこのことね」
ダージリンはそう言うと、トモエのほうに顔を向けた。
どうやら、ダージリンのお目当てはトモエのほうだったようである。
「トモエさん、大事な話がありますの。少しお時間をいただいてもよろしいかしら?」
◇
みほは『紅茶の園』でアッサムと二人きりでお茶会をしていた。
明日は決勝戦当日。その大事な決戦の前に、みほはどうしてもアッサムに確認したいことがあった。
一部の三年生は大洗にわざと負けようとしている。アサミが語ったその話が事実だとしたら、おそらくアッサムも含まれているだろう。
アッサムはアールグレイの命令で中学時代のみほを調査していたのだ。無関係とは考えづらい。
決勝戦は大洗女子学園の廃校がかかった試合だ。大洗が勝てば廃校は取り消されるし、まほが苦しむこともなくなる。聖グロリアーナの敗北ですべてが丸く収まるなら、そのほうがみほにとっても都合がいい。
だが、それは絶対にやってはいけないことだ。
西住流はどんな困難があっても前を見据えて突き進む流派。みほは楽なほうに逃げてはいけないのである。
今日のみほは、ラベンダーではなく西住流の後継者、西住みほであった。
「ラベンダー、話とは何ですの?」
「アッサム様に聞きたいことがあります。正直に答えてください」
その後、みほはアサミから聞いた話を包み隠さずアッサムにぶつけた。
ここは小細工を使うのではなく、正面突破が吉。みほはそう判断した。
「アールグレイ様の情報管理は徹底されていないようですわね」
「アッサム様もわざと負けるつもりなんですか? もしそうなら、私は!」
いすから立ち上がり、テーブルの上に身を乗り出すみほ。
「ラベンダー、こっちへいらっしゃい」
アッサムはみほを手招きする。
先ほどのみほの行動は淑女らしからぬ振る舞い。いつもだったらお説教間違いなしだ。
ところが、アッサムの元へやってきたみほを待っていたのは、厳しいお説教ではなく優しい抱擁だった。
「安心しなさい。私は八百長まがいのことをするつもりはありません。アールグレイ様から指示はされたけど、丁重にお断りしましたわ」
「アッサム様……」
アッサムの優しさに包まれたみほは、自分の心がどんどん満たされていくのを実感していた。
一番お世話になった先輩が自分と同じ考えでいてくれたのだ。みほが心に抱えていた最大の不安はこれで消えた。
「だけど、ダンデライオンはアールグレイ様の指示に従うつもりですわ。あの子はアールグレイ様に恩がある。命令には逆らわないはずよ」
わがままで傲慢なお嬢様だったダンデライオン。そのダンデライオンが変わったのはアールグレイの指導の賜物だ。
みほが演技をみんなの前で披露したとき、ダンデライオンはアールグレイへの感謝の言葉を口にしていた。残念だが、アッサムの予想が外れる可能性は低いと言わざるを得ないだろう。
「ラベンダー、あなたは自分の判断で行動しなさい。ダンデライオンの命令が不可解だった場合は無視していいですわ」
「わかりました」
「泣いても笑っても次が最後なのだから、悔いのない試合をしましょう。ダージリンも私たちを見守ってくれているはずですわ」
「はい!」
みほは元気よく返事をした。
懸念はすべて消えたわけではない。それでも、前へ進む原動力は得た。
あとは優勝に向かって突き進むのみである。
◇◇
大洗女子学園の学園艦は大洗港を目指していた。
決勝戦の会場は静岡県の東富士演習場。学園艦が入港したあと、大洗の生徒は貨物列車で現地に向かうことになっている。
今夜が犬童頼子が父の望みを叶えるラストチャンスだった。
「芽依子にこんな仕事はさせられませんよ。お父様が言ったとおり、頼子は嘘をつくのが上手みたいです」
犬童家の当主は芽依子に大洗の戦車の細工をさせろと頼子に命じた。
しかし、頼子はその命令を芽依子に伝えていない。父親には芽依子に連絡したと嘘の報告をしている。
「汚れ仕事は全部頼子がやります。芽依子には清く正しい道を進んでほしいですからね」
頼子はそう独り言をつぶやいたあと、大洗の戦車が格納されているガレージへと向かった。
全部やるとはいっても、頼子が得意としているのは話術を使った計略。破壊工作は専門外だ。
なので、頼子は助っ人を大洗に送りこんでいた。
頼子の部下、武器屋のブッキー。彼女は老舗戦車ショップの跡取り娘だ。戦車の細工などお手の物だろう。
頼子はガレージの入口までやってきたが、ブッキーの姿はない。
もしかしたら、ブッキーはすでに工作を開始しているのかもしれない。そう思った頼子がガレージの中に入ると、予期せぬ人物が頼子を待ち構えていた。
「遅かったわね、クラーク。紅茶がもう冷めてしまいましたわよ」
頼子に目の前にいるのは、ティーカップを手にしたダージリン。
それでも、頼子は冷静だった。人を精神的に揺さぶる手段を好む人物には心当たりがある。
「ダージリンさんがこんな場所にいるわけがありません。正体を現しなさい、キャロル」
「あら、忍道の授業をさぼっている割には勘が鋭いのね。真っ当な道を進んでいれば、あなたもいい忍者になれたのに……残念ですわ」
「あなたがここにいるということは、ブッキーはしくじったみたいですねぇ。二回連続で失敗するなんて、思ったよりも役に立たない子です」
「いいえ。五右衛門は失敗していないわ。だって、これはあなたを捕まえる罠なんですもの」
偽ダージリンがティーカップを地面に叩きつけると、あたり一面に白い煙が充満した。ティーカップの中には、キャロルお得意の煙玉が仕込まれていたのだ。
視界を奪われた頼子が怯んだ瞬間、強烈な足払いが頼子を襲った。
芽依子と違って頼子は荒事に慣れていない。なので、何の抵抗もできずに床に転がってしまう。
そこに再びの追撃。何も見えない白い視界の中で、頼子の腕と足に激痛が走る。
どうやら頼子は関節技をかけられているらしい。あまりの痛みに頼子の目からは涙があふれてきた。
「いだだだだっ!! ごめんなさい! もう許してぇ!」
「ちょっとやりすぎたみたいでござる」
「半蔵の腕ひしぎ十字固が決まりすぎたんですわ」
「そういう弥左衛門のアキレス腱固めのほうが痛そうでござるよ」
「私の足払いもきれいに決まった。あれは痛い」
頼子に攻撃を仕掛けてきたのは聖グロリアーナの忍道履修生のようだ。
彼女たちは忍者じゃなくて格闘家になったほうがいい。頼子はそう思わずにはいられなかった。
「お仕置きはもうそのへんでいいですわ」
キャロルのその言葉で頼子はようやく痛みから解放された。
「クラーク、あなたの陰謀は五右衛門がすべて教えてくれましたわ。今日が年貢の納め時ですわよ」
「ブッキー、頼子を裏切ったんですね。どうなっても知りませんよ」
頼子はキャロルの隣に立っていたボコの着ぐるみをにらみつけた。
犬童家を裏切れば実家に悪影響が出る。商人の娘であるブッキーは当然それを理解しているはずだ。
にもかかわらず、ブッキーは頼子を罠にはめた。それ相応の報いは覚悟してもらうほかない。
「五右衛門を脅しても無駄ですわよ。あなたのお父様も今ごろ同じような目にあっているはずですわ」
「へっ?」
思わず間の抜けた返事をしてしまう頼子。
嫌な汗が頬を伝うが、この場で頼子ができることはもう何もなかった。
「さて、あなたは私が責任を持って真人間にして差しあげますわ。今日から一週間ほど伊賀で修行する予定なので、あなたにも参加してもらいますわよ」
「無理無理無理! 頼子は脳筋のあなた達と違って、か弱い女の子なんですぅ!」
「大丈夫ですわ。一週間死ぬ気で努力すれば、あなたも立派な忍者になれますの」
キャロルは聞く耳を持たない。このままでは頼子は地獄へ真っ逆さまだ。
「三郷さん、待ってください!」
そのとき、頼子にとっての救いの女神、犬童芽依子が現れた。
芽依子は騒ぎに気づいてここへ来たのだろう。頼子が助かるチャンスは今しかない。
「めいめい、助けて! お姉ちゃんはこの子たちに殺されちゃいますぅ!」
「犬童芽依子、口出しは無用ですわ。この件は聖グロリアーナが決着をつけますの」
両者の言い分を聞いた芽依子は、頼子の元へ歩み寄った。
「姉さん、忍道の修行はつらく厳しいですが、慣れればなんてことはありません。どうか生き延びてください」
「えっ? お姉ちゃんを助けてくれないんですか?」
「今は試合に集中したいんです。姉さんとお父様が何を企んでいたのかは、試合が終わってから聞きます」
芽依子はそう言うと、ガレージの入口に向かってスタスタと歩いていく。
その背中に向かって頼子は最後に声かけた。
「芽依子、試合がんばってね」
「……はい」
◇◇◇
「しほ様、今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえなかったのならもう一度言います。本日をもってあなたを西住流から破門します」
夜の西住邸で通達された突然の破門通告。それでも、犬童家の当主に動じた様子はなかった。
犬童家は西住流の雑務を司っている。西住流を円滑に回すには彼の力は必須なのだ。
ゆえに、犬童家の当主は余裕の態度を崩さない。
「失礼を承知でお聞きしますが、私がいなくて西住流はうまく立ち回れますかな?」
「その件に関しては問題ありません。あなたの業務を引き継いでくれるかたとはすでに話がついています」
「ご冗談を……そんな人物がいるのならお目にかかりたいものですな」
犬童家が行っていた業務は多岐に渡る。
財務、情報収集、マスコミ対応。西住流の内情をしっかり把握し、なおかつこれらの業務をすべて行えるものなどいるわけがない。犬童家の当主はそう高をくくっていた。
「今日は代理人のかたがこの家を訪れていますので、あなたにも紹介します。トモエさん、どうぞお入りください」
「失礼します。この度、西住流に協力させていただくことになった深水家当主の代理、深水トモエです」
「なっ!? バカなっ! なぜ深水が私を裏切る!」
声を荒げる犬童家の当主。この展開は彼も予想していなかったらしい。
深水家は西住流の大口スポンサー。犬童家との付き合いも長く、ずっと良好な関係を築いてきた。
それがここにきてまさかの背信。まさに虚をつかれた形だ。
「自分で言うのもなんですけど、お父様は私に甘いんです。私がお願いしたら即了承してくれました。お兄様たちも手伝ってくれるそうなので、西住流の業務はなんの支障もなく遂行できると思います」
深水トモエは深水兄弟の紅一点。家族から大切に育てられてきた深水家のお姫様である。
深水家の男衆はエリートぞろいだが、全員彼女には甘い。トモエにおねだりされたら、ほいほい言うことを聞いてしまう親バカとシスコンばかりだ。
犬童家の当主の見通しは不十分だった。
深水トモエは西住流のパワーバランスを崩壊させることができるジョーカー。真っ先に抑えておかなければならない危険なカードだったのだ。
「私は深水の娘に恨まれることをした覚えはない! いったい何が目的だ!」
「あなたは頼子さんを使って大洗女子学園が敗北するように仕向けました。理由なんてそれだけで十分です」
「言いがかりだ! どこにそんな証拠がある!」
犬童家の当主がトモエと言い争っていると、一人の少女が部屋に入室してきた。
「『失敗の言い訳をすれば、その失敗がどんどん目立っていくだけです』。見苦しい姿を晒すのはもうおやめになったらいかがかしら?」
英国の劇作家、シェイクスピアの言葉と共に登場した少女を犬童家の当主はよく知っている。
彼女が隊長を解任されるように仕組んだのは犬童家の当主だ。知らないわけがない。
「わかったぞ。お前が元凶だな。深水の娘をたぶらかして私に復讐するつもりか!」
激高してダージリンに詰め寄る犬童家の当主だが、その手が届くことはなかった。
二人の間に突然割って入ったきた背が高い黒髪の少女に、犬童家の当主は取り押さえられてしまったからだ。
「貴様、何者だっ! ええい、放せ!」
「カチューシャ、罪人を拘束しました」
「ご苦労様、ノンナ。さーて、このおじさんにはどんな罰が相応しいかしらね」
「いっそのことプラウダ送りにしますか? カチューシャ様の指導を受ければみんな良い子になりますよ」
少女たちの会話を聞いていた犬童家の当主は、深水トモエというジョーカーを手にしたのが誰なのかを知った。
プラウダ高校戦車隊隊長、カチューシャ。小学生にしか見えないこの少女が、犬童家の当主を破滅に誘う死神だった。
「
「おいおい、無茶するなよ。怪我したらどうするんだ」
次に部屋へと入ってきたのは、サンダース大学付属高校の隊長とアンツィオ高校の隊長。
犬童家が裏工作をした学校の隊長が姿を現したことで、犬童家の当主は自身の敗北を悟った。
「証拠は取りそろえてありますわ。ご覧になりますか?」
ダージリンから突きつけられた書類の束。その書類の内容を確認する気力は、犬童家の当主にはもう残っていなかった。
西住流を自分の思いどおりに操作しようとした彼の野望はここに潰えたのである。