ダージリン解任。この衝撃的なニュースは大洗女子学園にもすぐに伝わった。
決勝戦の対戦校の隊長交代劇は、大洗女子学園にとっても大きな出来事だ。新隊長がどんな戦いをするのか見極めなければ、黒森峰女学園と同じ轍を踏んでしまう。
準決勝のように伝統よりも勝利を優先するのか。それとも、再び伝統に固執した戦いかたに回帰するのか。
大洗女子学園が優勝するためには、それをどうしても探らなければならなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが秋山優花里である。
優花里はサンダース大学付属高校、アンツィオ高校と偵察を立て続けに成功させている。聖グロリアーナを探ることができるのは、彼女を措いてほかにいない。
しかし、聖グロリアーナはGI6と呼ばれるスパイ集団の存在が噂される学校。今までの学校のようにすんなりとはいかないだろう。
それでも、優花里の手腕に賭けるしか手はないのだ。残った隊員は彼女の成功を信じ祈るだけであった。
そして、優花里が出発して数日たったある日、彼女は無事に大洗女子学園へと戻ってきた。
ところが、帰還した優花里は浮かない顔。その落ちこんだ様子の表情は、彼女の偵察任務が失敗したことを物語っていた。
「この映像は武部殿に見せるようにとダンデライオン隊長から渡されたものです。お役に立てず、すみません……」
「最初から無謀な作戦だったんだもん。ゆかりんが無事に帰ってきてくれただけで、私はうれしいよ」
「優花里が貴重な情報を持ち帰ったことに変わりはない。この映像を見れば、何かヒントをつかめるかもしれないからな」
落ちこむ優花里を沙織とまほが励ました。
ちなみに、会議が行われている生徒会長室に集まっているのはあんこうチームとカメチームの面々。それに各チームのリーダーを加えた計十四名である。
「それじゃ、さっそく見てみよっか。鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだね」
干し芋を食べながらのんきにのたまう杏。
さすがは廃校寸前の学園艦の生徒会長。肝が据わっている。
優花里は手にしたマイクロSDカードをノートパソコンにセットし、映像を再生させた。
画面に現れたのはティーカップを手にした金髪ツインテールの小柄な少女。この少女が聖グロリアーナ女学院の新隊長、ダンデライオンだ。
『大洗女子学園のみなさん、ごきげんよう。あたしがダージリンさんに代わって隊長に就任したダンデライオンです。今日はこの場を借りて、みなさんに宣言したいことがあります』
優雅な物腰で語るダンデライオンは、背格好は小さいものの淑女然としていた。
あのダージリンの後釜に座るだけはある。おそらく、彼女をよく知らないメンバーはそう思ったことだろう。
『聖グロリアーナは決勝戦で卑怯な戦いはいっさいしません。伝統を守り、正々堂々と戦うことを誓います。これはあたしの一存ではなく、戦車道チーム全員の総意です』
「卑怯なことはしないって言ってるけど、本当かにゃ?」
「我々を油断させる罠かもしれない。シーザーの好敵手、ポンペイウスも最後はだまし討ちで命を落としている」
「私は信じたいです。聖グロリアーナの人たちは一緒にバレーをやった仲ですから」
ねこにゃー、カエサル、典子がそれぞれ意見を述べる。
そのとき、ダンデライオンしか映っていなかった画面に変化が起きた。
『ダンデライオン様、わたくしにも発言させてくださいまし』
『いいですけど……聖グロリアーナの品位を下げるような発言は許しませんよ』
『わかっているでございます。では、失礼いたしますわ』
元気よく画面に現れたのは、大洗の面々とはすっかり顔なじみのローズヒップだ。
『冷泉様、いよいよ雌雄を決するときが来ましたわ。わたくしのクルセイダーと冷泉様のⅣ号。どちらの運転技術が優れているか、勝負でございますわ!』
「冷泉さん、あの子はあなたをご指名みたいよ。絶対に勝ちなさいよね……って会議中に寝るんじゃない! 起きなさい、冷泉さん!」
激しい剣幕で寝ている麻子をゆさゆさと揺らすみどり子。
しかし、麻子が目を覚ますよりも先に画面は新たな展開を迎えた。
『次はルクリリの番ですわよ』
『えっ!? 私は別にいいよ』
『逃げるのでございますか? それでよく西住流の門下生を名乗れますわね』
『言ったな。わかったよ、やってやろうじゃないか』
ローズヒップに言葉巧みに誘導されたルクリリが画面に登場した。
だまされやすい性格は依然健在だ。
『えーと、決勝戦はお互いベストを尽くして戦おう。どっちが勝っても恨みっこなしの真剣勝負だ。あとは……バレー部! 今度はだまされないからな!』
「ルクリリさんの挑戦、受けて立ちます!」
体育会系特有のノリで一気に室内が暑苦しくなった。なんだかんだでルクリリとアヒルチームは馬が合うのかもしれない。
『次はあたしたちの番じゃん! 一年生のみんな、全員集合!』
『待ちなさい。これは友達に送るビデオレターじゃないんですよ。あ、ちょっと待っ……』
ハイビスカスの号令で画面にわらわらと聖グロリアーナの生徒が集まってきた。そのせいで、小さなダンデライオンは人波に埋もれてしまう。
この映像を撮影した場所にはかなりの生徒が集まっていたようである。ダンデライオンの総意という言葉は、あながち嘘でもないのかもしれない。
『あずっちー! あたし、小隊長に出世したよー。決勝戦ではハイビスカス小隊の恐ろしさを存分に味合わせてあげるからね。バニラ、クランベリー、二人もあいさつするじゃん』
『は、はい。ハイビスカス小隊所属のバニラです。よろしくお願いします』
『クランベリー。よろしく』
金髪セミロングの小柄な少女、バニラ。そして、茶髪のロングヘアーで大柄な少女、クランベリー。
一年生の梓にさらなるライバルが二人も登場した形だが、梓の視線はハイビスカスしか捉えていない。どうやら、彼女にとってのライバルはハイビスカスただ一人のようだ。
「澤、ハイビスカスはきっとお前を狙ってくる。あいつの相手は頼んだぞ」
「はい。私はあの人に勝ちたい一心でここまできました。ハイビスカスさんには必ず勝ってみせます」
桃に発破をかけられた梓は勇ましい返事でそれに答えた。
ウサギチームは大洗の準エースとも呼べる存在。みんながかける期待は大きいが、梓はそれを気にも留めていないようだ。
『あの、私も梓さんと戦えるのを楽しみにしています。決勝戦はマチルダの車長で出場しますので、練習試合の雪辱を果たさせてもらいますね』
『私は武部様にご報告があります。ダーリンの話では、若い自衛隊員の間で武部様の人気が高まっているらしいですわ。武部様、このチャンスを活かしてくださいませ』
「マジでっ!? いやいや、そんな都合のいい話があるわけないもん。何かの間違い……わかった! きっとまぽりんと勘違いしてるんだよ」
ニルギリの次に発言したベルガモットの言葉に沙織は激しく動揺していた。
「なぜそんなに否定するんだ? 沙織は異性に好かれたかったんだろう?」
「まほさん、沙織さんはモテ慣れてないんです。今はそっとしておいてあげましょう」
まほと華がそんな話をしている間に映像はどんどん進んでいく。
にぎやかな一年生が退散したことで、画面に映っているのは髪型が崩れたダンデライオンだけになった。
『お見苦しいところをお見せしてしまいましたが、これで終わりにしたいと思います。そうそう、言い忘れたことがありました。ダージリンさんは決勝戦には出場しません。この映像もダージリンさんの策略ではありませんので、安心してください。ではみなさん、ごきげんよう』
騒がしい映像が終了し、静まり返る生徒会長室。
誰も発言しないのは、みんなこの映像の真意を計りかねているからだろう。
聖グロリアーナ女学院は強敵だ。対応を誤れば取り返しがつかない事態になりかねない。
そんな重苦しい空気を打ち破ったのは生徒会長の杏であった。
「もしかしたら、この映像の中に勝利のカギが隠されてるかもしれないね。小山、何か気づいたことある?」
「うーん、気になったのはラベンダーさんが出てこなかったくらいですね。彼女は聖グロリアーナの主要メンバーですから」
「そういえば、練習試合でお見かけした隊長車の砲手のかたもいませんでしたね」
「オレンジペコさんとカモミールさんもいませんでした」
柚子、華、梓が映像に出てこなかった人物を次々にあげていく。
「ラベンダーも決勝戦には出ないんじゃないか? フラッグ車を放棄してチームを敗北させるところだったんだ。ダージリンと同じように罰せられたかもしれない」
「それはないな。み……ラベンダーの行動は聖グロリアーナで称賛されたはずだ。あの学校は淑女育成を掲げる学校だからな。敵ですら救おうとした高潔な行いを非難するような輩はいないだろう」
桃の仮説をまほはあっさり否定した。
妹の名前をニックネームで呼んだのを考えると、まほのシスコンは順調に改善へと向かっているようだ。
「私もあの救出劇には感動しました。否定的な意見もありますけど、ラベンダー殿の判断は間違っていませんでした」
「同感だな。左衛門佐も彼女は武田信玄ではなく敵に塩を送った上杉謙信だったとほめ称えていたぞ」
「ネットでも好意的な意見が多かったよ。ネット掲示板には戦車に乗った天使だって書かれてたにゃ」
「みほが天使……ふふっ……」
キリッとしていたまほの表情が一瞬でにやけ顔に変わった。妹が天使と呼ばれたことが心に刺さったらしい。
この分だと、まほが完全にシスコンから脱却するのはもう少し時間がかかりそうだ。
「ラベンダーさんはわからないけど、クロムウェルは使わないんじゃないかな? ローズヒップさんはクルセイダーで勝負するって明言してたからね。あの子はクルセイダーの整備を手伝ってくれたし、私としてはあの子の言葉は信じたいな」
ポルシェティーガーで決勝戦に参加する自動車部チームのリーダー、ナカジマの発言に一同の注目が集まる。
「クロムウェルの通信手だったニルギリさんもマチルダで出場すると言ってました。紗希と仲がいい彼女が嘘をつくとは私には思えません」
ナカジマの仮説を梓が補足。さらに、先ほどの桃の発言とは違い、否定的な意見は誰からもあがらない。
聖グロリアーナの一部の生徒は大洗のために力を貸してくれた。程度の差はあるが、彼女たちを信じたいという気持ちはここにいる全員が持っている。
「クルセイダーが増えるとなると、例の作戦が成功しやすくなるね。河嶋、人員の件はうまくいった?」
「船舶科の生徒に助っ人を頼みました。顔合わせは今日行うと連絡してあるので、もうそろそろ到着するはずです」
「オッケー。これで勝率を上げられる」
「会長、本当にいいんですか? 恩を仇で返すような真似をして……」
なにやら不満げな表情の柚子。彼女はこの作戦に乗り気ではないらしい。
「使用許可はもらってるよ。前隊長のだけどね」
「でも……西住さんはいいの? 妹さんの好意を無碍にすることになるんだよ?」
「私は今までみんなに助けてもらってばかりだった。だから、今度は私がみんなを助ける。みほに恨まれることになっても構わない」
髪を短くしたまほはすっかり印象が変わった。
以前の弱々しいまほだったら、妹に恨まれてもいいとは口が裂けても言わなかっただろう。
「西住ちゃんもやる気になってるんだ、小山も頼むよ。あのとき、ああしてればよかったって後悔はしたくないでしょ?」
「……わかりました。私も全力を尽くします」
「それでこそ私の副会長だ。よし、あとは練習あるのみだね。武部ちゃん、よろしく……ってあれ?」
杏の視線の先では沙織がまだ一人でぶつぶつ独り言をつぶやいていた。
簡単に気持ちの整理がつかないの当然だ。
男にモテたい。それが沙織の行動原理なのだから。
「私がモテてる? 本当に? はっ!? もしや、これって聖グロリアーナの罠なんじゃ? ううっ……やだもー!」
◇
みほは一年生の学生寮に来ていた。
目的はカモミールのお見舞いである。準決勝で川に飛びこんだカモミールは風邪をこじらせ、しばらく学校を休んでいるのだ。
「カモミールさんの具合はどうですか?」
「今眠ったところです。熱も少し下がってきたので、ひとまずは安心といったところですね」
みほの問いに答えたのはカモミールの姉、アサミだ。
カモミールが熱を出したその日に学園艦へ乗りこんできたアサミは、大学を休んでずっと看病に励んでいる。
「ごめんなさい、アサミさん。カモミールさんの具合が悪くなったのは私の責任です」
「謝罪は無用です。私にあなたを責める資格はありませんから」
大洗で行った合宿でアサミはカモミールと仲直りをしたが、彼女は自分の罪をまだ許せていないのだろう。こういうところは、良くも悪くも生真面目なアサミらしい。
みほとアサミがその後も軽い雑談を続けていると、話は決勝戦の話題に移った。
「ダージリン隊長とクロムウェルの件は残念でした。反対意見もあったんですが、結局は賛成多数で可決されてしまいました」
OG会は支援を継続するかわりにいろいろと条件を出してきた。ダージリンの解任とクロムウェルの使用禁止はその一端だ。
ダージリンの解任はチームにとっても痛いが、みほの心にも大ダメージを与えていた。
聖グロリアーナの伝統を捨て、やりたい放題やったのはみほである。ダージリンはそれを承認したにすぎない。
それなのに、処分されたのは許可を出したダージリンのみ。
実行犯のみほは対戦相手を救助したことをOG会に大絶賛され、逆にほめられる有様だった。
自分の行動が肯定されたのは素直にうれしい。しかし、そのせいでダージリンの風当たりはさらに強くなってしまった。
問題児トリオのみほと優秀な隊長のダージリンの評価はすっかり逆転。ダージリンは隊長を解任されただけでなく、決勝戦も出場禁止。それだけでなく、卒業後のOG会への参加資格もなくなった。
みほが無茶苦茶した結果、ダージリンの居場所は完全に失われてしまったのだ。
「どうしてダージリン様ばかりが責められるんですか? あの作戦を考えた私が全部悪いのに……」
「OG会はダージリン隊長の作戦ということにしたいみたいです。本人も否定しませんでしたからね」
「えっ? どうしてですか?」
「あなたはチームの勝利ではなく敵の救助を優先した。最後の最後で聖グロリアーナの伝統を守ったんです。OG会があなたを擁護するのは当たり前ですよ」
聖グロリアーナの戦車道は優雅さだけでなく、騎士道精神も大事な要素。
優しさと勇気にあふれたみほの崇高な行動は、あの試合で唯一見ることができた聖グロリアーナの戦車道だ。OG会にとって、みほの救助活動は救いといっても過言ではなかったのである。
「ただ、OG会の大多数が同じ意見でまとまったのは、いささか不自然でした。当初はいろんな意見があったのに、いつの間にかとんとん拍子で話が進みましたからね。このシナリオを書いた人物は、よっぽどダージリン隊長を解任したかったんでしょう」
ダージリンにすべての責任を押しつけ、解任に追いこむ。いったい誰がそんなひどいことを考えたのか、みほには見当もつかない。
「私のしたことは正しかったんでしょうか? ダージリン様もカモミールさんも私のせいで……」
「……ダージリン隊長の件に関してはあなたが気にする必要はありません。この結末は彼女たちにとって、最良といってもいい結果ですから」
「ふえっ?」
みほはアサミの言っていることが理解できなかった。
彼女たちとは誰を指しているのか。なぜ解任が最良なのか。彼女の言葉はわからないことだらけだ。
「私もかつて聖グロリアーナで隊長をしていました。なので、いろんな話が耳に入ってくるんです。聖グロリアーナを真の強豪校にする計画があるのも知っています」
アサミはそこで言葉を区切りひと呼吸置くと、信じられないような一言を口にした。
「三年生の一部の生徒は決勝戦でわざと負けるつもりです」
◇◇
聖グロリアーナ女学院に数多く設置された談話室。
その談話室の一室で、オレンジペコはダージリンと二人きりで紅茶を飲んでいた。
「OG会のお姉様がたは伝統を何よりも大事にしているわ。けれど、伝統を守って負け続ければ在校生からは不満が出る。そうなると、いつか必ず第二第三のダージリンが現れてしまう。ペコ、伝統を守るにはどうすればいいと思う?」
「既存の戦車を一新するしかありませんね。マチルダとクルセイダーで勝ち続けるのは、不可能に近いですから」
「アールグレイ様もペコと同じ答えに行き着いたのよ。伝統を守るかわりに戦車を高性能なものに変換する。それがアールグレイ様の聖グロリアーナ強化計画なの」
「だから準決勝でラベンダーさんの作戦を許可したんですね。現状のままだと今回のように伝統が破壊されるぞって、OG会に脅しをかけたわけですか」
準決勝でやる気を見せていた三年生はこの計画を知っているのだろう。
伝統を捨てれば勝てるという結果が出れば、OG会も脅し文句を無視できなくなる。あの試合はラベンダーにとって大事な試合だったが、聖グロリアーナにとっても重要な試合だったのだ。
「決勝戦で伝統を守った聖グロリアーナは無名校に敗北。優勝という結果が出なかった以上、伝統が捨てられる可能性は今後も消えずに残ったままになる。OG会のお姉様がたが安心して伝統を守るためには、アールグレイ様の計画に乗るしかない。これがアールグレイ様の描いた筋書きよ」
「私はそれには反対です。ラベンダーさんたちは迷惑をかけた三年生に恩返しをしたいと言ってました。私だって思いは同じです」
「ダンデライオンはアールグレイ様の命令には逆らわないわ。ペコ、いざというときはあなたがダンデライオンを止めなさい」
「はい!」
ダージリンはアールグレイの計画にすべて賛同しているわけではなかった。それがわかっただけで、オレンジペコの気分は高揚していく。
ダージリンが誰かの操り人形になってる姿は似合わない。つねに人の上に立って頂上を見つめているのが、オレンジペコの憧れたダージリンだからだ。
「ダンデライオンを制圧したら、あなたが隊長になって部隊を指揮しなさい。来年はあなたが隊長になるのだから、ちょうどいい予行演習になりますわ」
「はいぃ?」
思わぬダージリンの発言にオレンジペコは困惑の声をあげてしまう。
オレンジペコが来年の聖グロリアーナの隊長。そんな話は今日初めて聞いた。
「何を驚いた顔をしているのかしら? 現部隊長のラベンダーとルクリリは西住流の門下生。OG会との関係がややこしくなっている今、あの二人を隊長にはできませんわ。ペコが隊長になるのは最初から既定路線だったのよ」
「まさか、問題児トリオを私の教育係にしたのは……」
「あの三人の人となりはもう理解できたはずよね。あの子たちを使いこなすペコの雄姿が今から楽しみですわ」
どうやら、オレンジペコの苦難の道は隊長になるための試練だったようだ。
あの災難続きの日々が無駄でなかったのは喜ばしいが、できればもう少し手心がほしかったというのが本音であった。
「さて、私は別件があるので少しの間、学園艦を離れます。ペコ、あとのことは任せましたわ」
「別件? ダージリン様、どこへ行くつもりですか?」
「裏でこそこそしていたネズミに退場してもらうのよ。あなたたちの晴れの舞台、決して邪魔はさせませんわ」