私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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第五十四話 聖グロリアーナ女学院対黒森峰女学園 中編

『クルセイダー隊はジャングルに突入しました。ルクリリさん、マチルダ隊の準備は整っていますか?』

「ばっちりだ。いつでもお客さんを歓迎できるぞ」

『わかりました。クルセイダー隊は三手に分かれて、黒森峰を分断します。バラバラ作戦開始です!』

 

 敵も味方もまとまらないで分散する。だから、バラバラ作戦。

 わかりやすい名前を好むラベンダーらしい作戦名だ。

 

「ラベンダー、試合が終わったら一緒に黒森峰の連中に謝りに行こう。事情を話せば、きっとみんなわかってくれる」

『うん……。ありがとう、ルクリリさん』

 

 作戦開始を宣言したときとは違い、ラベンダーの声には覇気がない。

 ラベンダーは人の悪口を今まで言ったことがなかったのだろう。精神が疲弊しているのはルクリリには丸わかりだった。

 

 ラベンダーとの通信を終えたルクリリは、次にマチルダ隊へと無線連絡を入れる。

 自分の評判をかなぐり捨ててまで、ラベンダーはこの試合に勝とうとしている。なら、ルクリリがやるべきことはただ一つだ。

 

「この試合に関して、みんないろいろと言いたいことがあると思う。だけど、今は自分の気持ちに蓋をしてくれ。今日の試合は、黒森峰に勝つことだけに集中してほしい」

 

 ルクリリはお嬢様言葉を使わなかった。

 今日だけは見栄を張らず、ありのままの自分をさらけ出す。そうでなければ、ルクリリの思いはみんなに伝わらない。

 

「ラベンダーは家族のために自分を汚せるくらい優しい子なんだ。私はそんなあの子の力になりたい。だから……」

『ルクリリさん、ラベンダーさんの力になりたいのはあなただけじゃありません。私は去年の練習試合で黒森峰に完敗したあと、ラベンダーさんに鍛えてもらいました。この試合に勝つことで恩返しができるのなら、喜んで従いますわ』

 

 ルクリリの言葉にストップをかけたのはシッキムであった。

 シッキムはマチルダ隊きっての優等生であり、品行方正を絵に描いたような少女。聖グロリアーナの伝統を捨てた作戦に諸手を挙げて賛成しているわけではないだろう。

 それなのに、シッキムはラベンダーの力になると言ってくれた。伝統よりもラベンダーを優先してくれたのだ。

 

『ルクリリ様、一年生はシッキム様と同意見ですの。黒森峰を倒してラベンダー様をお救いしましょう』

『三年生から言うことはとくにありません。どんな命令であろうと遂行してみせますわ』

 

 シッキムの言葉が部隊に与える影響は大きかったようで、次々に前向きな言葉が出てくる。

 どうやら、マチルダ隊の士気は問題なさそうだ。

 

「作戦名はバラバラだけど、私たちのチームはこんなにまとまってる。これなら黒森峰が相手だって勝てる! みんな、声出していくぞー!」  

 

 余程うれしかったのか、大洗のバレー部のノリで味方を鼓舞するルクリリ。先日行われた大洗とプラウダの試合観戦後に、みんなでバレーをしたのが尾を引いているようだ。

 もちろん、バレー部の暑苦しいノリをお嬢様学校の生徒が再現できるわけもなく、マチルダ隊の間にしばらく無言の時間が流れた。

 

『あの、ルクリリさん。こういう場合はなんとお答えすればよろしいのかしら?』

「今のは忘れてくれ。私がどうかしてたんだ」

 

 シッキムが困惑した様子で質問してくるが、ルクリリはそれをさらっと受け流した。

 

「ルクリリさん、大洗のバレー部の人たちに思考を染められていますよ。気をつけたほうがいいんじゃないですか?」

「そう言うペコだって、バレー部と一緒にバレーボールをしたじゃないか。雪の中をチアリーダー姿で」

「あれは、ハイビスカスさんがやりたいっていうから付きあっただけです! 私はやりたくありませんでした!」

 

 オレンジペコはルクリリに食ってかかった。

 装填手席を立ち上がり、ルクリリに詰め寄る姿はヒステリー一歩手前だ。

 

「ペコ、私が言えた義理じゃないけど、自分を取り繕うのはもうやめにしたらどうだ。現実を現実として、あるがままに受け入れなさいってダージリン様も言ってただろ。えーと、諸葛孔明の言葉だっけ?」

「中国の哲学者、老子の言葉です。ともかく、私はまだ諦めていません。いつの日か必ず問題児を卒業してみせます」

 

 試合とは無関係なことで闘志を燃やすオレンジペコ。優秀な彼女ならこの闘志を試合にも活かしてしまうに違いない。

 

「なら、まずはこの試合に勝たないといけないな。いつもと勝手は違うけど、よろしく頼むぞ」

「はい。チャーチルの扱いは私のほうが慣れていますので、今日は精一杯サポートしますね」

 

 ルクリリが今日の試合で搭乗している戦車は、マチルダではなくチャーチル。これもラベンダーの作戦の一環である。

 チャーチルはルクリリにとって馴染みの薄い戦車だが、さしたる問題はない。

 自分の持っている力でラベンダーを助ける。戦車が違ってもルクリリのやるべきことは変わらないのだ。

 

 

 

 

「エリカ、あっちはえらいことになってるみたいだよ。無線からひっきりなしに援護要請が来てる」

 

 煙幕、待ち伏せ、挑発。エミが無線から得た情報は卑怯な作戦のオンパレードだ。

 なかには、泥沼に落とされたとか、湖の中から戦車が出てきたなんて報告もあった。

 

「何も考えずにジャングルへ突っこめばそうなるに決まってるわ。これで少しは頭も冷えたでしょ」

「それで、あたしたちはどうする? そろそろジャングル探検に出発するか?」

 

 茜はそう言うと操縦桿をポンポンと叩いた。

 現在、エリカたちのヤークトパンターはジャングルの入り口で待機中。理由はもちろん進軍ルートを見極めるためだ。

 何も考えずにジャングルに進入すれば、先に進んだ部隊の二の舞になるだけ。ルート選びは慎重を期す必要がある。

 

「こういうときは副隊長に意見を求めるべきだろ。エミ、小梅はなんて言ってるんだ?」

 

 ヒカリだけは副隊長の赤星小梅を名前呼びする。義理人情に厚いヒカリにとっては、部隊の規律よりも友情のほうが大事らしい。

   

「赤星、なんか悩んじゃってるみたいだよ。さっきから全然応答がないし……」

 

 小梅のティーガーⅡも履帯を破壊されたことで出遅れ、この場に待機している。

 もしかしたら、小梅はこの事態を止められなかった責任を感じているのかもしれない。

 

「エミ、無線を貸しなさい」

 

 エリカはエミから無線機を受けとり小梅に話しかけた。

 

「副隊長、あなたが気に病むことじゃないわ。聖グロが私たちよりも一枚上手だっただけよ」

『私に副隊長の資格はありません。エリカさんに忠告してもらったのに、私はラベンダーさんへの憎悪を捨てきれなかった。私が部隊を正常に戻さなくちゃいけなかったのに……』

「副隊長がそこまで人を憎むなんて珍しいわね。ラベンダーに馬鹿にされたのがそんなに頭に来たの?」

『私がどうしても許せなかったのは、ラベンダーさんがエリカさんを侮辱したことです。エリカさんは権力者に媚びを売るような人じゃないのに、あの人はそれを承知で戯言をっ!!』

 

 戦車乗りは血の気が多いとよくいわれるが、普段おとなしい小梅も例外ではなかったらしい。

 もっとも、エリカも人のことは言えない。ラベンダーと友達になっていなければ、一番取り乱していたのはエリカだった可能性が高いからだ。

 

「それだけ元気があるなら大丈夫みたいね。小梅、その悔しさはラベンダーに直接ぶつけなさい」

『えっ……。エリカさん、今私のこと名前で……』 

「ラベンダーはフラッグ車を餌にして罠に誘いこんでる。おそらく、あの子は戦わずにどこまでも逃げ続けるつもりだわ。小梅、私とあなたでラベンダーを挟み撃ちにするわよ!」

『はいっ!』

 

 エリカの言葉にうれしそうな声で返事をする小梅。

 この様子ならもう小梅は大丈夫だろう。ラベンダーを前にしてもきっと冷静でいられるはずだ。

 

「みんな、話は聞いてたわね。ラベンダーの通りそうなルートを予測して先回りするわ。頼んだわよ、茜」

「了解。そうだ、今のうちにこれだけは言っとく。エリカ、来年は絶対に隊長になれよ。お前はこんなところで終わっていい人間じゃない」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。茜の操縦は荒すぎてお尻が痛いのよ」

「それなら、あたしの操縦手生活は今大会限りだな。よーし、今日は飛ばすぞー!」

 

 茜は大声で気合を入れると、ヤークトパンターを再始動させた。走攻守三拍子そろった駆逐戦車、ヤークトパンターの復活である。

 戦車喫茶での揉め事から始まった一連のトラブルはこれにて一件落着。エリカたちにとってはこれからが試合本番だ。

 

「これで私も安心してマウスに戻れるな。あとで散り散りになったマウスメンバーに招集かけないと」

「ちょっと待って! 私はどうなるの?」

「エミは新しい乗員を探すところからスタートだな。がんばれよ」

「私が一人で見つけるの!? そんなの無理! ヒカリ、私を見捨てないでー!」

 

 訂正。一人だけ落着していない人物がいた。

 エミの場合は人員探しより、小心者なところを改善するのが先かもしれない。

 

 

 

 

 怒りに燃えるトモエは無我夢中でクロムウェルを追っていた。

 カチューシャをけなしたラベンダーを叩き潰す。その強い思いが無気力だったトモエを突き動かす原動力だった。

 

 クルセイダー隊の陽動作戦に引っかかり戦車隊は分散。トモエの部隊はティーガーⅠ一輌とパンターG型三輌に減少した。

 しかし、それは相手も一緒だ。随伴のクルセイダーは残り一輌。しかも、攻撃力が低いMK.Ⅱ。

 あの貧弱な戦車が消えれば、いよいよラベンダーに鉄槌を食らわすことができる。

 

『クロムウェルとクルセイダーが距離をとりました。どうやら二手に分かれるみたいです』

「クルセイダーは無視して、クロムウェルだけを追ってください」

Поняла(パニラー)!』 

 

 パンター小隊に搭乗しているのはトモエがプラウダ送りにした隊員たちだ。

 プラウダで訓練という名のしごき受けた彼女たちはトモエの命令には逆らわないし、カチューシャへの忠誠心も高い。

 ゆえに彼女たちは挑発には乗らない。このパンター小隊はトモエがもっとも信頼している部下なのだ。

 そのとき、先頭を走っていたパンターの車長から通信が入った。

 

『隊長! クロムウェルが逃げた道をチャーチルにふさがれました!』

「あの女はダージリンさんすら捨て駒にするんですね。本当に身勝手な子です」

 

 自分の隊長を盾にして逃げる。ラベンダーにとって、他人はただの駒にすぎないのだ。

 とはいえ、この作戦は実に効果的である。

 チャーチルをどかさなければ、クロムウェルを追撃することは不可能。無視して迂回する手もあるが、チャーチルを放置するのは得策とはいえないだろう。

 相手はカチューシャが注意するようにとトモエに忠告したダージリンだ。ここで放置して大事な場面で邪魔立てされたら目も当てられない。

 そう考えたトモエはチャーチルを撃破することにした。 

 

「チャーチルを叩きます。砲撃開始」

 

 車輌数は四対一。いくらダージリンが優秀な戦車乗りとはいえ、この戦力差は覆せない。早期に撃破できればすぐにクロムウェルに追いつける。

 ところが、そんなトモエの思惑は見事に外れた。

 チャーチルは周辺の木々を利用するなどして防御に徹し、まったく隙を見せない。さらに、チャーチルの射撃間隔が短いせいで、うかつにチャーチルに近づくこともできなかった。

 このままではクロムウェルを見失う。カチューシャを馬鹿にしたラベンダーに逃げられる。

 チャーチルの粘りに焦ったトモエは早々に部隊を分ける決断を下した。

 

「ミーシャ、カーシャ、あなた達はここでチャーチルの相手をしなさい。私はアーシャとクロムウェルを追います」

Да(ダー)! プラウダ仕込みの戦いかたを教えてやります。カーシャ、しっかり迎撃するんだぞ』

『わかってるわよ!』 

 

 二輌のパンターをこの場に残し、トモエはティーガーⅠを迂回させる。

 目指す先はクロムウェルと別れたクルセイダーMK.Ⅱが進んだ道だ。あの道はクロムウェルが逃げた道につながっているのである。

 クルセイダーとマチルダが待ち伏せしているかもしれないが、どちらも火力の低い雑魚戦車。ティーガーⅠの障害にはならない。

 

  

 

 トモエのティーガーⅠと随伴車輌のパンターが先を急いでいると、ジャングルの中の開けた空き地に出た。

 そこにはトモエが予想したとおり、クルセイダーMK.ⅡとマチルダⅡの姿がある。

 ところが、その二輌の戦車の車長はトモエが想像だにしない人物だった。

 聖グロリアーナの隊長とクルセイダー隊の元隊長。その二人がわざわざ弱い戦車に搭乗するなんて誰が予想できるだろう。

 

「ごきげんよう、トモエさん。今日はずいぶん怖い顔をなさっていますわね。かわいいお顔が台無しですわよ」

「ダージリンさん、無駄話はそこまでです。美咲(みさき)、リミッターを解除しなさい。ここでクルセイダーMK.Ⅱのすべてを出し切ります」

 

 トモエは去年の練習試合でこの二人と会っている。

 ダージリンは去年とさほど変わっていないが、ダンデライオンの雰囲気はまるで別人だ。

 

「そのギラついた感じ、二年前にあなたと初めて会ったときのことを思い出しますわ。ラベンダーの演技に何か思うところがあったのかしら?」

「ラベンダーちゃんは関係ありません。この試合には聖グロリアーナの未来がかかってる。だから、今日は絶対に負けられない。アールグレイ様の野望はあたしが実現させます!」

 

 大声で吠えたダンデライオンがクルセイダーMK.Ⅱの車内に引っこんだ。

 

「ダージリン、あなたも早く戦闘態勢に入りなさい! この試合にはラベンダーの未来がかかってるのよ!」

「あらあら、みんな血気盛んね。それではトモエさん、私たちのワルツのお相手をしてもらいますわよ」

 

 マチルダⅡの車内から発せられた怒声に促され、ダージリンも戦車の中に入る。

 これで双方の戦う準備は整った。

 

「邪魔者を片づけます。アーシャ、頼りにしていますよ」

Хорошо(ハラショー)。隊長の背中は私が守ります』   

「いい返事です。では、行きます」

 

 ダンデライオンは負けられないと言っていたが、それはトモエも同じである。

 ラベンダーにカチューシャを侮辱した報いを受けさせる。その使命を果たすまで、トモエは力尽きるわけにはいかないのだ。

   

 

◇◇

 

 

「ダージリン様とダンデライオン様がティーガーⅠと戦闘を開始しました」

 

 ニルギリからの報告を聞いたみほは、ほっと安堵のため息をついた。

 試合はみほの作戦どおりに進んでいる。念願の勝利まであともう一息だ。

 

「ローズヒップさん、逃げるのはここまでです。私たちもティーガーⅠとの戦いに参加します」

「ダージリン様とダンデライオン様の最強コンビにラベンダーが加われば、勝ったも同然ですわ。全速力で馳せ参じますわよ」

 

 来た道を引き返すために、ローズヒップはクロムウェル旋回させる。

 そのとき、キューポラから身を出していたみほはゾクッとした悪寒を感じた。

 雨に打たれて寒いからではない。戦車乗り特有の危機察知能力ともいうべき第六感が非常警報を鳴らしていたからだ。

 

「後退しちゃダメ! 前に進んで!」

 

 みほの声に反応したローズヒップは、超信地旋回でクロムウェルを一回転。進行方向を元に戻すとアクセルをべた踏みし、クロムウェルを急発進させた。

 その瞬間、クロムウェルの背後の木が粉々になって吹き飛んだ。もし、あのまま進んでいたらクロムウェルの側面に命中し、白旗が上がっていただろう。

 

「エリカさん!」

 

 ジャングルの中から現れたのは履帯を破壊したはずのヤークトパンター。

 おそらく、履帯を直してここまで追いかけてきたのだろう。あの程度の妨害でエリカを止められないのはわかっていたが、再び出会ったタイミングは最悪だった。 

 

 ヤークトパンターに背後を取られた以上、クロムウェルは前進するしかない。

 クロムウェルはフラッグ車だ。勝てる確率が低い相手と一対一で戦うようなリスクは犯せない。

 それに、この先に広がっているのは丘陵地帯だ。不整地での追いかけっこはクロムウェルに分がある。

 みほは即座にそう判断し、クロムウェルを丘陵地帯へと走らせた。

 

 

 

 クロムウェルは崖の一本道を走行していた。

 この道は逃げ場が少ないが、重量があるヤークトパンターには走りづらい道だ。しかも、崖下には増水した川が流れている。

 不用意な砲撃で崖が崩れれば、クロムウェルは真っ逆さまに川へと転落し、試合どころではない大事故に発展しまう。

 みほの友達のエリカは心の優しい人物だ。事故が起こる可能性を無視して砲撃してくるような人間ではない。

 なので、この道を走っていれば安全に逃げきれる。みほがあえてこの危険な道を選んだのは、様々な要素を計算に入れた結果だった。

 

 人の優しさに付けこむような策をとるみほは、世界一卑怯な人間なのかもしれない。

 今のみほは勝つためなら手段を選ばない怪物だ。聖グロリアーナどころか西住流をも冒涜している。

 それでも、この苦悩の先に大好きな姉を救う道がある。みほはそれを信じて戦うだけだ。

 

「ラベンダー! 前からごっつい戦車がこっちに来ますわよ!」

「ティーガーⅡ……赤星さん」

 

 ローズヒップの声に反応したみほが前を向くと、猛スピードで走るティーガーⅡの姿が目に飛びこんできた。

 みほの進軍ルートは赤星小梅に読まれていたのだ。

  

「ニルギリさん、ダージリン様の状況を確認してください」

「は、はい!」

 

 一本道で挟み撃ちにされてしまったクロムウェルはもはや万事休す。

 あとはダージリンたちがフラッグ車を先に撃破してくれるのを祈るしかない。

   

「戦況はほぼ互角みたいです。黒森峰の追撃を撒いたハイビスカスさんが援軍に向かっています」

 

 ハイビスカスが加われば、ダージリンたちは勝利できるだろう。

 だが、それでは時間がかかりすぎる。今すぐ敵のフラッグ車を撃破できなければ、聖グロリアーナの負けは確定だ。

 砲撃でティーガーⅡの足を止めるという考えが一瞬頭をよぎったが、みほはすぐさまその思考を破棄した。

 事故につながるようなことができないのはみほも同じ。人の命よりも大事なものなどこの世にありはしない。

 みほは最後の最後で怪物になりきれなかった。

 

 そのとき、事態は思いもよらない展開を迎えた。ティーガーⅡの履帯が突然破損したのである。

 重戦車は足回りが壊れやすいのが弱点。スピードを出してみほを追いつめたのが仇となった格好だ。

 しかし、事態はそれだけでは収まらなかった。

 履帯が壊れたことで進行方向が狂ったティーガーⅡは崖下へと落下。そのまま勢いよく川に着水し、濁流に飲みこまれてしまったのだ。 


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