私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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第五十二話 大洗女子学園対プラウダ高校 後編

 Ⅳ号戦車の突撃はプラウダに大打撃を与えた。

 戦車を五輌失ったのも大きいが、なんといってもカチューシャを失ったのが一番の痛手。

 プラウダ高校の作戦はカチューシャの指揮があってこそ。彼女がいなければ、もう効果的な作戦は行えない。

 しかも、プラウダは大洗の残存車輌を見失ってしまった。Ⅳ号戦車が大暴れしている間に、残りの三輌は教会を脱出していたのである。

 Ⅳ号戦車による強襲と戦車の色を白に塗り替えるカモフラージュ。この二つの策にプラウダはまんまとハマってしまったのだ。

 

 プラウダの指揮は今はノンナがとっている。

 しかし、ノンナは砲手としての腕前は一流だが、部隊の指揮に関しては人並み程度。カチューシャのように部隊を運用する力はない。

 

『ノンナ副隊長、大洗の戦車を一輌見つけただ!』

 

 そのとき、大洗の戦車を捜索しているBT-5部隊から連絡が入った。

 混乱している部隊の中で、雫隊の生き残りだけが積極的に動けている。

 雫隊のメンバーは全員一年生。雫の存在が彼女たちのやる気に火をつけているのは間違いないだろう。

 

「発見したのはフラッグ車ですか?」

『フラッグではね。M3じゃ』

「私たちもそこへ向かいます。場所を教えてください」

 

 ノンナはM3中戦車を先に片づけるつもりのようだ。

 M3中戦車は一、二回戦で相手のフラッグ車を撃破した戦車。いわば大洗の快進撃を支えている存在だ。

 ウサギのエンブレムが入ったM3中戦車は、世間から首狩りウサギと呼ばれている。

 相手チームの生命線であるフラッグ車の首を次々とあげてきたのだ。そんな異名がついても不思議はない。

 この試合展開でノンナがM3中戦車を危険視するのは、ごく自然な成り行きであった。

 

「フラッグ車とKV-2は待機。残りの車輌は私についてきてください」

 

 KV-2をフラッグ車の護衛に残し、IS-2とT-34はウサギ狩りに出発。

 戦いはいよいよクライマックスに突入した。

 

 

 

 

 二輌のBT-5に追いかけられるM3リー。

 だが、ウサギチームの面々に慌てた様子はない。

 M3リーが囮になるのは作戦の内。時間を稼ぐのが彼女たちに課せられた使命なのだ。

   

 とはいえ、快速戦車のBT-5から逃げ続けるのは神経を使う。

 カモフラージュのおかげで相手の命中率は下がっているが、スピードは向こうが上。近づかれてしまうと被弾の確率はぐっと上がる。

 それに、いつまでもこの状況が維持できるとは限らない。事実、桂利奈は額に汗をかきながら必死に運転している。桂利奈の集中力がいつまでもつかはまったくの不透明だ。

 

「梓、BT-5をなんとかしないと桂利奈がダウンしちゃうよ!」

「芽依子もあゆみと同意見です。桂利奈にこれ以上の無理はさせられません」

 

 あゆみと芽依子の進言を受けた梓は、少し思案したあとである決断を下した。 

 

「あや、37㎜で牽制をかけて。確認したいことがあるの」

「わかった!」

 

 車体上部の小型砲塔が回転し、M3リーの攻撃態勢が整う。

 梓からの指示は撃破ではなく牽制。なので、あやはとくに狙いを定めず37㎜砲を発射した。

 もちろん、そんな攻撃が当たるはずもなく、あやの砲撃はBT-5に回避されてしまう。

 しかし、今の砲撃であやは何やら手ごたえをつかんだ様子だ。

 

「狙いをつければ当たるかもしれない。あの二輌、ニルちゃんよりも運転下手だよ」

「当然」

 

 あやの発言を聞いた紗希はなぜか誇らしげだ。表情は変わらないが、仲の良いニルギリがほめられたのがうれしいのだろう。

 

「BT-5はここで撃破しよう。優季、ウサギチームは今から交戦に入るって会長に連絡して」

「本当にいいのぉ? 私たちのお仕事は時間稼ぎなんでしょ?」

「私はハイビスカスさんに勝つって決めたの。彼女より弱い相手には負けられない」

 

 操縦手だけが優れていても戦車はうまく機能しない。戦車の運用は、すべてを統括する車長の能力に左右されるからだ。

 ニルギリの操縦が上手ということは、ハイビスカスがそれだけ優秀だということである。

 

「次のBT-5の砲撃を回避したら、反転して攻勢に転じよう。もう少しだけがんばって、桂利奈」

「あいっ!」

 

 桂利奈の元気な声を聞いた梓はそのときを待った。

 ここからはタイミングが勝負を分ける。梓が指示をミスすれば、その時点でゲームオーバーだ。

 

「今だ! 反転して!」

 

 器用に反転したM3リーは二輌のBT-5と向かい合う形になった。

 

「接近して二輌同時に攻撃するよ。あゆみは右、あやは左をお願い。桂利奈、右のBT-5に向かって全速前進!」

 

 梓は75㎜砲と37㎜砲を使用した同時撃破を狙っているようだ。

 リスクの高い博打のような作戦だが、成功すれば一気に局面を打開できる。

 ハイビスカスに勝利する。その一心で梓は努力を重ねてきた。ここは梓の車長としての真価が問われる場面であった。

 

 ジグザグに走行しながらM3リーはBT-5に突撃をかける。

 距離が近くなったことで、今まで当たらなかったBT-5の砲撃がM3リーに初めて命中した。しかし、この程度のダメージではM3リーの足は止まらない。

 M3リーの正面装甲は約51㎜。BT-5の45㎜砲では、至近距離まで近づかないと装甲は抜けない。

 

 それに対し、M3リーの75㎜砲は遠距離でもBT-5の正面装甲を抜ける。

 だが、梓はすぐに砲撃命令は下さなかった。一輌しか撃破できなかった場合、残りのBT-5が逃走する可能性があるからだ。

 撃破すると決めた以上、BT-5は二輌とも仕留めなければならない。カメチームとカモチームの作戦の障害は、少ないほうがいいに決まっている。

 

 そして、ついにそのときが来た。

 

「撃て!」

 

 梓の命令でM3リーの砲塔が火を吹いた。

 あゆみの75㎜砲が右のBT-5の正面、あやの37㎜砲が左のBT-5の側面にそれぞれ命中し、BT-5は二輌同時に白旗を上げる。

 梓は賭けに勝ったのだ。    

  

「あや、お見事です」

「三式のときに散々しごかれたからね。これぐらいはできないと、ラベンダーさんに怒られちゃうよ」

 

 全試合で同じ戦車に乗っている芽依子とあや。

 ぎこちない関係になったこともある二人だが、今はそれをまったく感じさせない。

 

「やったね、桂利奈」

「桂利奈ちゃん、お疲れ様~。はい、お水だよ」

「ありがとう、優季ちゃん。……ふぅー」

 

 あゆみと優季に労われた桂利奈は、受け取ったペットボトルをラッパ飲みしたあと、深く息を吐いた。

 桂利奈の疲労の色は濃く、表情も疲れきっている。どうやら、BT-5を撃破する梓の決定は正解だったようだ。

 

 喜ぶ仲間たちの様子を見ながら梓も勝利の余韻に浸る。

 BT-5はハイビスカスのクルセイダーよりも技量が劣る相手だ。それでも、快速戦車を二輌撃破できたことは、梓の自信を深める大きな戦果だった。

 

 そんな梓の肩を紗希が軽く叩く。みんなが勝利に沸くなか、彼女だけはいつもどおりのポーカーフェイスだ。

 

「来た」

「紗希? 来たって何が?」

「鼻の長いの」

「桂利奈! 後退して!」

 

 梓は即座に桂利奈へ指示を飛ばす。

 それを受けた桂利奈は、ペットボトルを手放し全速力でM3リーを後退。次の瞬間、M3リーが先ほどまで留まっていた場所に砲弾が着弾した。

 

「IS-2だ。みんな、もうひと踏ん張りだよ!」

 

 IS-2はプラウダ高校の副隊長が搭乗している重戦車。撃破するのはまず無理だろう。

 あとはできるだけ時間を稼ぐしかない。ウサギチームの任務はここからが正念場だ。

 

 

◇◇

 

 

 プラウダ高校のフラッグ車であるT-34は廃集落で待機中。

 激しい戦いが行われている雪原と違って、この場は静寂そのもの。だからなのか、フラッグ車の乗員は戦車の上でのんびりお茶を飲んでいた。

 隠れているだけというのは精神的な疲労が溜まる。少しは息抜きも必要なのだ。

 そのとき、見張りに立っていた隊員が慌てた様子で戻ってきた。

 

「敵、来襲!」

 

 敵戦車が現れたことで、フラッグ車の乗員は戦車に乗りこむ。

 全員が配置についたあと、車長はIS-2に無線連絡を入れた。敵が来たのだから、それに対応しなければならない。 

 

「こちらフラッグ。敵に発見されました。どうしましょう?」

『悪いけど、そっちで判断して。何やってんの! 馬力はこっちが上なんだから、M3なんて弾き飛ばして!』

 

 無線に出たのはノンナではなく、IS-2の代理車長だった。どうやら、ノンナは砲手に専念しているらしい。

 

「どうする?」

「私に聞かれても困るじゃ……」

 

 フラッグ車の乗員が戸惑っていると、大洗の戦車が姿を現した。現れた戦車は大洗のフラッグ車、38(t)である。

 すると、後方に控えていたKV-2がいきなり発砲し、38(t)の近くにあった建物が吹き飛んだ。

 勇み足ではあるものの、それは仕方がない。KV-2の乗員は全員一年生で経験が浅いのだ。目の前にフラッグ車が現れれば撃ちたくもなる。

 

 38(t)は反撃をしてくるが、砲弾はあさっての方向に飛んでいった。

 ここまで大外れができる砲手はなかなかいない。あの砲手がど下手くそなのは疑いようがないだろう。

 

 攻撃がまったく当たらないことで不利を悟ったのか、38(t)は逃走。

 それを好機と判断したのか、KV-2はフラッグ車を追い抜いて38(t)を追いかけ始めた。

 

「KV-2と離れるのはまずいべ」

「私たちもあとを追うじゃ」

「あれを倒せばうちの勝ちだし。たまには前に出るのも悪くないか」

 

 KV-2に続いてT-34も前進を開始。廃集落を舞台にしたフラッグ車同士の戦いが始まった。

 

 

 

 

 KV-2の砲撃で廃集落の建物が次々と破壊されていく。

 その崩壊していく集落の中を38(t)は死に物狂いで逃げ続けていた。

 

「小山、そこの角を右に曲がって直進。目的地まであと少しの辛抱だよ」

「はい!」

 

 地図を見ながら杏は柚子に進む道を指示する。

 

「河嶋、園ちゃんにもうすぐ着くって連絡しておいて。これがラストチャンスだって言葉も忘れずにね」

「わかりました!」

 

 ウサギチームはついさっき撃破された。

 これで大洗は残り二輌。ここで試合を決められなければ、敗戦は必至だろう。

 

 38(t)が角を右に曲がると、左右に家が立ち並ぶ広い道に出た。

 KV-2とT-34は砲撃を続けながら38(t)を追いかけてくる。

 

『カモチーム、突貫します。行くわよ、規則破りの風紀委員アターック!!』

 

 家の影に隠れていたカモチームのルノーB1bisがKV-2の側面に体当たりを敢行。

 KV-2は重量があるのではね飛ばすことはできないが、少しでも進路を脇にそらせればそれで十分。この道の脇には落とし穴が用意してあるのだ。

 その策は見事に的中する。カモチームの体当たりを受けたKV-2は、落とし穴に足を取られて横転し、車体から白旗が上がった。

 

 KV-2は倒した。しかし、後続のT-34の砲撃でカモチームは撃破されてしまう。

 この場に残ったのはお互いのフラッグ車のみ。ここからはフラッグ車同士の一騎打ちだ。

 

「よし! 河嶋、代わって!」

「はっ!」

 

 杏は地図を投げ捨て砲手の座につく。これで38(t)の命中率は格段に上がった。

 

「37㎜でも至近距離なら装甲を抜ける。小山、突っこめ!」

「はい!」

 

 38(t)は反転し、T-34に近づいていく。

 装甲が薄い38(t)は近距離で一発もらえば即白旗だ。当たれば終わりという恐怖感は、程度は違えどカメチーム全員が抱いている。

 それでも、怯むわけにはいかなかった。

 このチャンスはみんなが作ってくれたもの。この戦いを始めた生徒会がそれを逃すわけにはいかない。

 

 カメチームの思いが詰まった37㎜砲がT-34の装甲を貫いたのは、それから間もなくのことであった。

 

 

 

 

 大型ビジョンには大洗女子学園WINという文字が大きく映し出されている。

 それを見た瞬間、あんこうチームは喜びを爆発させた。

 

「やった! 勝ったよ! 私たち、去年の優勝校に勝てたんだよ!」

「やりましたね、武部殿!」

 

 沙織と優花里は抱きあって喜びを分かちあっている。

 

「華、ありがとう。華が貸してくれたハサミは私に勇気をくれたよ」

「まほさんのお役に立てて何よりです」

「来たな。西住さん、お客様だぞ」

 

 まほが華と話していると、麻子が来客の到来を告げた。

 やってきたのは、プラウダ高校戦車隊隊長、カチューシャだ。

 

「カチューシャの負けよ。約束どおり、あなたを侮辱したことを謝罪するわ。Простите(プラスチーチェ)

 

 ロシア語で謝罪し、深々と頭を下げるカチューシャ。

 

「あのときの私は侮辱されて当然の人間だった。カチューシャが謝る必要はない」

「……そう。なら、もう謝罪はなしね」

 

 カチューシャはぱっと顔を上げると、まほに向かって手を差しだす。

 カチューシャの意図を察したまほはその手を握り、二人は熱い握手を交わした。

 

「あなたはこの私を倒したんだからね。決勝戦で無様な試合をしたら許さないわよ」

「迷いは断ちきった。もう情けない姿は見せない」

「その言葉、信じてあげる。決勝戦もがんばりなさい」

 

 カチューシャはまほと握手を終えると、次に沙織の前へ立った。

 

「武部沙織、あなたに聞きたいことがあるわ」

「私に?」

「あなたは車長の座を西住まほに渡した。悔しいとは思わなかったの? あなたじゃカチューシャに勝てないと言われたようなものよ」

「まほがカチューシャさんを倒すって言ってくれたんです。だから、私はそれを信じました。友達を信じられないような隊長にはなりたくないですから」

 

 沙織はカチューシャの目をしっかり見据えてそう答えた。

 消極的な答えかもしれないが、カチューシャに不機嫌そうな様子は見られない。

 

「ずいぶん腰が低い隊長ね。でも、隊員の意見にしっかり耳を傾けられる点は合格よ。私に勝ったお祝いに愛称をつけてあげるわ。沙織だから……サオリーニャがいいわね」

 

 上機嫌で沙織の愛称を口にするカチューシャ。だが、当の沙織はいささか困惑気味な様子。

 いくらなんでもサオリーニャはないだろう、そう言いたげな顔である。

 

「決勝戦も勝つぞ、サオリーニャ」

「サオリーニャ殿、絶対優勝しましょう」

「私たちはサオリーニャさんについていきます」

「サオリーニャってみんなで呼ぶのはやめてよ! 恥ずかしいじゃん!」

 

 どうやら、カチューシャがつけた愛称はあんこうチームの心の琴線に触れたらしい。 

 愛称連呼を沙織が抗議していると、まほが沙織の肩をポンポンと叩いた。

 

「大洗女子学園の隊長はサオリーニャしかいない。次の試合もよろしく頼む」

「まぽりんまでっ!? やだもー!」

 

 大洗女子学園はプラウダ高校に見事勝利し、決勝戦に駒を進めた。

 廃校を回避するまであと一勝。次の試合が大洗女子学園の未来を決める試合になる。 

 

 決勝戦の相手は黒森峰女学園と聖グロリアーナ女学院の試合の勝者。どちらが決勝に出てくるかで大洗女子学園の運命も変わる。

 その試合に影響を与える出来事が今まさに観客席で起こっていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 周囲に誰もいない観客席でみほはしほと対峙していた。

 

「お母さん、本気で言ってるの?」

「私は本気です。まほが黒森峰女学園に弓引くことになれば、西住流との関係悪化は避けられない。西住流を守るためには、まほを勘当するしかないのです」

「お姉ちゃんのことは私がなんとかするって、お母さんはそう言ったよね? あの言葉は嘘だったの?」

「母は無力でした……。言い訳はしません、どんな罵倒も甘んじて受け入れます」

 

 突然現れたしほにここへ連れてこられ、まほを勘当するという衝撃の発言を突きつけられたみほ。

 母に裏切られた。その事実は、鋭利なナイフとなってみほの心を滅多刺しにしてくる。

 本当ならしほにあらん限りの罵声を浴びせたい。涙を流して文句を言いたい。しかし、それは決してやってはいけないことだ。

 今のみほは聖グロリアーナ女学院の制服姿。聖グロリアーナの生徒が人前で親と喧嘩をするわけにはいかない。

 

「お願い、お母さん。お姉ちゃんを助けて。私にできることがあるなら、なんでもするから……」

 

 感情を押さえつけながらみほは声を絞り出す。

 みほの感情コントロールもだいぶ上達した。これも愛里寿のおかげだろう。

 

「……まほの勘当を回避する方法が一つだけあります」

「本当!? どうすればいいの!」

「聖グロリアーナ女学院が次の試合で勝てばいいのです。そうすれば、まほを勘当する理由がなくなります」

「それは……」

 

 難しいと言いそうになったみほはとっさに口をふさいだ。

 聖グロリアーナの戦車道を守って黒森峰に勝利するのは、奇跡でも起こらない限り不可能。しかし、その奇跡を起こさなければ、みほはまほと姉妹でいられなくなる。

 奇跡が起こる確率が減るような発言は口に出したくなかった。

 

「みほ、あなたなら黒森峰女学園に勝てる作戦を見いだせるのではないですか? 母はみほの幼少期のやんちゃぶりをよく覚えていますよ」

「あれは私が何も知らない子供だからできたんだよ。後継者が西住流を汚すような真似は……」

「あなたの今の名前はなんですか?」   

「私の名前?」

 

 しほの質問にみほは首をかしげるが、その答えはすぐに出た。

 エリカと初めて喧嘩をした一年生のときに、みほはこの問いの答えをすでに口にしていたからだ。

 

「私の名前はラベンダー」

「西住流の後継者は西住みほであって、ラベンダーではありません。ラベンダーが西住流とかけ離れた戦いをしたとしても、誰も咎められないはずです」

「それは屁理屈って言うんじゃ……」

「ラベンダーは西住流ではなく、聖グロリアーナの戦車道で戦ってきました。西住流一門は今までそれを黙認してきたんです。文句は言わせません」

 

 しほがここまで言うのだから、西住流一門に関しては本当に問題がないのだろう。  

 それでも、みほはすぐにハイとは言えなかった。

 みほが幼少期に試した作戦は卑怯としかいいようがないものばかり。そんな邪道な戦いを聖グロリアーナに持ちこむことはできない。

 

「お母さん、やっぱりダメだよ。私は聖グロリアーナの教えを破れな……」

「話は聞かせてもらいました。ラベンダー、次の試合の作戦はあなたに一任します。どんな作戦を練ろうとあなたの自由。責任はすべて私が取りますわ」

「ダージリン様!?」

 

 みほの言葉をさえぎったのはダージリンであった。

 なぜここにダージリンがいるのか、あまりの急展開にみほの頭はまったくついていけなかった。

 

「『思い立ったが吉日』。今すぐ学園艦へ戻って作戦を考えましょう。私も協力しますわ」

「ふえっ!? ダージリン様、待ってください!」

 

 みほがぼーっとしていると、ダージリンは先にすたすたと歩いて行ってしまう。

 何が何だかわからないが、今はとにかくダージリンのあとを追うしかない。そう結論付けたみほが一歩足を踏みだすと、しほが声をかけてきた。

 

「みほ、頼みましたよ」

「うん。お姉ちゃんは私が守るよ」

 

 みほは無意識にそう返答していた。

 状況にはついていけないし、頭も混乱している。それでも、まほを守りたいという気持ちには一点の曇りもなかった。


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