オレンジペコは問題児トリオと一緒に陸のとある街を歩いていた。
四人が陸にいる理由は戦車道の行事に参加していたからだ。今日は陸にある多目的ホールで戦車道の全国大会の抽選会が行われる日であった。
聖グロリアーナ女学院の戦車道チームは全員抽選会に参加していたが、終了後は自由解散。学園艦の出航時間にさえ遅れなければ、このまま陸で遊んでいても問題ない。オレンジペコの友人たちもすでに街へと繰りだしている。
本当ならオレンジペコもそこに混ざりたかった。しかし、不運なオレンジペコは問題児トリオに捕まってしまったのだ。今のオレンジペコの状態を例えるならドナドナされる子牛。逃げることはもうできない。
「ダージリン様はくじ運まで持っているおかたでしたわね。相手が知波単学園なら一回戦は楽勝ですわ」
「知波単は突撃戦法だけで小細工してこないからな。チハが相手ならマチルダでも十分戦えるし」
「あんまり甘く見るのは危険だけど、一回戦は心配いらないかな。問題は二回戦だね」
「二回戦の相手は青師団高校と継続高校の勝者ですね。まあ、たぶん継続高校が勝ち上がってくると思いますけど」
全国大会の抽選結果について語る問題児トリオの会話にオレンジペコも加わった。ルクリリの言葉づかいはもう諦めているのでスルーである。
「継続高校は隊長が優秀な人らしいからね。アッサム様のデータでも要注意の学校に入ってたし、厳しい戦いは避けられないと思うよ」
継続高校が厄介な相手というラベンダーの言葉にはオレンジペコも同意見だった。
寒冷地や湖沼地帯での戦いを得意とする継続高校は、操縦手の運転技術が優れていることで知られている。それを活かした迂回作戦などで相手をかく乱するのを好むので、正々堂々をつねとする聖グロリアーナにとっては相性が悪い相手だ。
「相手がどこだろうと今年は負けられないですわ。三年生に優勝という最高の名誉を手にしてもらうために、わたくしは今回の大会に命をかけてますの」
「少し大げさじゃないですか? なにも命までかけなくても……」
「ペコ、私たちは本気だぞ。三年生には今まで迷惑ばかりかけてきたからな」
「アッサム様にはとくにね。でも、アッサム様は私たちのことを見捨てないで、ずっとそばで守ってくれたの。私たちはその恩返しがしたいんだよ」
問題児トリオの熱意を前にしたオレンジペコは、それ以上なにも言えなくなってしまう。普段はあまり表に出さないが、勝利に並々ならぬ意欲を燃やす三人の姿は西住流そのものだ。
その迫力に息苦しさを覚えたオレンジペコは話題をそらすことにした。
「ところで、今日はどこへ連れて行ってもらえるんですか?」
「戦車喫茶という珍しい喫茶店ですわ。今、インターネットで話題になっているお店なんですの」
「ウェイトレスさんが軍服姿だったり、ケーキが戦車の形をしてるんだって。たまにはオレンジペコさんとこういうお店に行くのもいいかなって思ったの」
「今日は私たちのおごりだからな。遠慮しないでお腹いっぱい食べていいぞ」
話題が切り替わったことで、三人から漂っていた緊迫感が薄らいでいく。どうやら西住流門下生からいつもの問題児トリオに戻ったようである。
「あ、ありがとうございます」
場の空気を変えるのには成功したが、オレンジペコの笑顔はひきつっていた。問題児トリオに誘われて今まで無事に終わった試しはないのだから、彼女がこんな表情になるのも仕方がないだろう。しかも、今回の行き先は戦車喫茶という珍妙な喫茶店。もうそれだけで危険なにおいがプンプンしている。
神様どうかお助けください。オレンジペコはそう心で祈りながら戦車喫茶へと連行されていった。
◇
今日の戦車喫茶ルクレールは女子高生でほぼ満席。色とりどりの制服姿の少女であふれている店内はとても華やかで、道行く男性が思わず歩を止めるほどだ。
なぜいろんな学校の女子高生がこの店に集まっているかというと、この日は近くの多目的ホールで戦車道の全国大会の抽選会が開かれていたからである。ここにいる女子高生のほとんどが戦車道をたしなむ戦車女子であった。
その戦車女子の中には大洗女子学園のDチーム改め、ウサギチームの姿もある。それだけでなく、一緒のテーブルには聖グロリアーナ女学院の生徒も混じっており、合計十一人の大所帯になっていた。
テーブルをともにしている聖グロリアーナの生徒は、以前行った練習試合で仲良くなったハイビスカスと彼女が連れてきた友達三人。ハイビスカスから抽選会の帰りに合同女子会をやろうと提案され、ウサギチームのメンバーはこの喫茶店へとやってきたのだ。
「みんなー、今日はカモっちの失恋をなぐさめに来てくれてありがとう。カモっち、今日はパーッと騒いで嫌なことは忘れようね」
「ちょっと待ってください! 失恋てなんのことですか!?」
「えー、違うの? 最近カモっちしょんぼりしてるから、あたしはてっきり恋愛の悩みだと思ったんだけどなー」
「れ、恋愛なんて私にはまだ早いです。それに、私は妹たちの世話ばかりで男の子と遊んだこともないんですよ」
カモミールは赤い顔でそうまくし立てた。
「なら、今度あたしの男友達を紹介してあげる。ボーイフレンドはたくさんいるからね。カモっちと気があいそうな男の子もきっと見つかるよ」
「男友達はボーイフレンドって呼ばないと思うよ……」
ハイビスカスのボーイフレンド呼びにあゆみがツッコミを入れる。
普通、ボーイフレンドと呼べるのは恋愛関係にある男子のみ。男友達はフレンド呼びだ。
「でもでも、ハイちゃんって明るくて美人だから、いっぱい恋人がいても不思議じゃないよね」
「実はあちこちの学校に彼氏がいる魔性の女だったりして。梓ちゃん、ライバルが多いと大変だねぇ」
「ゆ、優季! 変なこと言わないでよ!」
あや、優季、梓も会話に加わり、女子会はだんだんにぎやかになっていく。
「ほかにも男の子を紹介してほしい人がいたら言ってねー。バンバン紹介しちゃうから」
「私には将来を誓いあった殿方がいますので必要ありませんわ」
「芽依子も好きな人がいるので遠慮しておきます」
ベルガモットと芽依子の発言で一瞬ときが止まる。話を振ったハイビスカスもピシッと音を立てたように固まっていた。
「ええーっ!? めいちゃんに好きな人がいたなんて初耳だよ!」
「ベルっちにそんな設定があったなんて知らなかったんだけどっ!?」
桂利奈とハイビスカスの驚きの声を皮切りに、場が色めき立つ。
女の子は恋愛話が大好きである。戦車道をたしなむ戦車女子も例外ではない。
「将来を誓いあったってことはその人は許婚なのぉ?」
「許婚ではありませんわ。私から告白して了承をもらったんですの」
「どんな人なの? 同級生? 年上? それともまさかの年下?」
「年上ですわ。優しくて豪胆で男気がある、とってもステキなかたなんですの」
優季とあやの質問に丁寧な答えを返すベルガモット。好きな人のことを語る彼女の姿は恋する乙女そのものであった。
最初にベルガモットへ質問が集中するのは当然だろう。将来を誓ったという言葉は乙女の心を揺さぶるパワーワードなのだ。
「ベルっち、ベルっち。写真とか持ってないの? ベルっちの旦那様がどんな男の人か気になるじゃん」
「もちろん持ってますの。今見せますから、少し待っていてくださいませ」
ベルガモットはスマートフォンを操作して画像を探し始める。すると、突然カモミールが待ったをかけた。
「待ってくださいベルガモットさん。本当にいいんですか? あまり公にしないほうが……」
「なぜ隠す必要があるんですの? 私はなにも後ろめたいことはしていませんわ」
「でも……」
「大丈夫、誰になんと言われようと私は気にしませんわ。愛は無敵なんですの」
カモミールとベルガモットのやり取りから漂う不穏な空気。その影響もあってテーブルは徐々に静かな緊張感に包まれていく。みんなが固唾を飲んで見守るなか、ベルガモットは恋人が写っている画像をついにお披露目した。
スマートフォンの画面に映っているのは三人の男女の写真。中央にいるのがベルガモットで、右隣には真っ白い自衛官の制服を着用した男性が、左隣にはストロベリーブロンドの髪を腰まで伸ばした美しい女性が立っている。
自衛官の制服を着ていることもあり、男性はまじめで武骨な男といった印象だ。女性のほうはとても穏やかな笑顔で男性に寄りそっており、ベルガモットの肩に優しく手を置いていた。ベルガモットの見た目が小学生にしか見えないので、恋人の写真というよりは幸せそうな家族写真に見える。
「このかたが私の恋人ですの」
ベルガモットの発言でテーブルはシーンと静まりかえった。
このテーブルだけ世間の喧騒から隔絶されたような状態に陥ったことで、隣のテーブルの少女たちが何事かと視線を向けてくる。
「ちょっち聞いていい? ベルっち、この人本物? 実はコスプレだったりしない」
「そんなわけありませんわ。このかたはれっきとした海上自衛隊の自衛官ですの」
「この女の人は誰なの? お母さんにしては若すぎるような気が……」
「私の姉様ですわ。姉様は本当にすごいお人なんですのよ。聖グロリアーナ女学院の戦車道チームが全国大会で準優勝したとき、隊長を務めていたんですの」
梓の質問に答えるベルガモットの声は、好きな人のことを語っていたときと同じくらい活き活きしていた。その様子からはベルガモットが姉をとても尊敬していることがうかがえる。
「なんでお姉さんが一緒に写ってるの? この写真だとお姉さんがこの人の恋人に見えるよ」
「姉様もこのかたの恋人ですわよ。私が聖グロリアーナ女学院を卒業したら三人で一緒に暮らすんですの。姉様と私がいれば、彼も安心して港に帰ってこられますわ」
あゆみの問いかけに答えたベルガモットの爆弾発言によって、再びテーブルの空気が凍りつく。
妙齢の美女と小学生にしか見えない美少女の二人と二股する海上自衛官。カモミールが止めようとするのもうなずける衝撃の事実であった。
「あなたはそれでいいのですか? 二股をかけられているんですよ」
「このかたは二股なんて器用なことができる人じゃありませんわ。私と姉様を平等に愛してくれる度量の大きい殿方なんですの」
「なんかハーレムアニメの主人公みたいな人だね。でも、現実は世間の目があるから厳しいんじゃないかな?」
「世間からどう思われようと関係ありませんの。これが私たちの愛の形なんですわ。愛を見くびらないでくださいませ!」
芽依子と桂利奈の否定的な言葉をベルガモットは一蹴する。その力強い言葉は彼女の本気度の表れともいえた。
体は小さくても愛の大きさは人一倍。ベルガモットのニックネームを与えられた少女は愛に生きる女だったのだ。くしくもベルガモットの花言葉には、『身を焦がす恋』と『燃え続ける想い』というフレーズがある。偶然の産物だが、ベルガモットは彼女にぴったりのニックネームだったようだ。
「まさかベルっちが愛の戦士だったなんて、人は見かけによらないねー。ニルっちもそう思う……なにしてるの?」
ハイビスカスが話しかけたニルギリは、おだやかな表情で紗希のことを見ていた。ニルギリの対面に座っている紗希はもくもくとケーキを食べており、二人が先ほどの騒動とは無縁の世界にいたことがわかる。
そのとき、ケーキを食べていた紗希の手がピタッと止まった。そのまま紗希がボーっとしていると、ニルギリがすかさず戦車の形をした注文ボタンを押す。砲撃の音とともに店員がやってくると、ニルギリは紅茶のおかわりを注文。すぐに紅茶が運ばれてくるとそれを紗希に向かって差しだした。
紅茶を受けとった紗希はそれを一口飲むと、ニルギリに向かって軽く会釈。それを受けてニルギリは軽く笑顔で返す。二人は言葉をまったく発していないが、流れるような自然な動作は心が通じあっている親友のように見えた。
「紗希が初対面の相手と打ちとけてる!?」
「紗希ちゃんとこんなに早く仲良くなった人は初めてじゃない?」
「うん。芽依子もかなり早かったけど、それ以上だよ」
「聖グロリアーナのお嬢様はすごいねぇ」
「よかったね紗希ちゃん!」
「ニルギリさん、紗希をこれからもよろしくお願いします」
ニルギリと紗希の交流を喜ぶ大洗の少女たち。
見かけによらないのはベルガモットだけではなかったようである。
ベルガモットの次は芽依子への質問タイム。しかし、芽依子の答えは実に拍子抜けするものであった。
「芽依子の好きな人はお父様です。お父様を愛する気持ちはお母様にも負けません」
自信満々の表情でそう告げる芽依子。そして、三度目の静寂に包まれるテーブル。
大洗の少女たちも芽依子が重度のファザコンだったことは知らなかったらしい。
「親父が好きとか変わってるね。あたしだったら絶対ごめんだけどなー」
「ハイビスカス! 愛を否定することは私が許しませんわ!」
「いやいや、否定してないし! あくまで個人的な感想を言っただけじゃん。あたし、親父と仲悪いし……」
ベルガモットにすごまれハイビスカスはタジタジである。愛の戦士は恋愛の話になると頭に血が上るようだ。
「お父さんと喧嘩でもしたのぉ?」
「したした、進路のことで大喧嘩したよ。あたしはサンダースに行きたかったのに、親父は聖グロに入れの一点張り。最後は聖グロに入らなかったらお前を勘当するとまで言われたじゃん。あたしが男の子とばっかり遊んでたのがそんなに気に入らないのかねっ!」
ハイビスカスはプリプリ怒ったあと、フォークをケーキにぶすっと突きたてる。お嬢様とは思えない乱暴な行為だが、それだけ怒り心頭なのだろう。
「サンダースって私たちの一回戦の対戦相手だよね?」
あゆみの言葉に大洗の少女たちはいっせいにうなずく。
「ありゃ、それはついてないねー。初戦から強敵じゃん」
「けど、サンダースは早めに対戦したほうが絶対に楽ですよ。一回戦は十輌しか出場できませんから、車輌数が多いあの学校の強みは活かせません」
「とはいっても、うちは五輌しか戦車がないからね。十輌の相手に勝てるとは思えないよ」
カモミールのフォローに対し、悲観的な物言いをするあや。
すると、あやの言葉を聞いた芽依子が突然立ちあがった。鋭利な刃物を連想させる表情は少し怒っているようにすら見える。
「芽依子ちゃん、ごめんっ! さっきのは冗談だから、もう絶対に逃げたりしないから!」
「芽依子は怒っていませんよ? ちょっとお花を摘みに行ってきます」
「私も一緒に行くー!」
芽依子と桂利奈は連れたって席を立つ。芽依子が本当に怒っていないことがわかったあやは、ほっとした表情を浮かべていた。
「あや、芽依子は逃げたことを怒らなかったでしょ。あの子は優しい子だよ」
芽依子の行動に過剰反応を示したあやを梓がたしなめる。
「それはわかってるんだけど……。芽依子ちゃん、このごろすごく顔怖いじゃん。最初に会ったときはあそこまで怖くなかったよね?」
「あやちゃん、びびりだぁ~」
「その言いかたひどくない!?」
「でも、私もあやがそう思う気持ちは少しわかるかな。生徒会の人を見てるときの芽依子って近づきがたいオーラが出てるし」
あやの主張にあゆみが相槌を打つ。
芽依子の生徒会嫌いはエスカレートする一方で改善する兆しが見えない。団体戦である戦車道においてチームの不和は大きなマイナス要素。一回戦の相手が強豪校なこともあり、あやとあゆみはそれを快く思っていないらしい。
「そのことについては私から芽依子に話してみるよ。すぐには無理かもしれないけど、芽依子ならきっとわかってくれる。だから、みんなは今までどおり普通に芽依子と接してあげて。芽依子は私たちの大切な仲間だよ。ウサギチームの結束はこんなことで崩れるようなものじゃないでしょ」
真剣な表情で訴えかける梓の言葉をうさぎチームのメンバーは黙って聞いていた。今まで会話に参加せず、ずっとケーキを食べていた紗希もいつの間にかそこに加わっている。
「ごめん梓。私、余計なこと言ったね」
「あゆみちゃんが悪いんじゃないよ。元はといえば私のせいだし」
「誰も悪くなんてないよぉ。だって私たちはみんな仲良しだもん。ねー、紗希ちゃん」
優季の言葉にコクコクと力強くうなずく紗希。あゆみとあやの表情も次第に和らいでいき、テーブルを支配していたどんよりした空気は跡形もなく消えさった。どうやら梓の思いはみんなにしっかりと伝わったようである。
「あずっち、超カッコよかったよー! あたしが男の子だったら間違いなく告白してた。ねえねえ、ハグしていい? いいよね?」
「え? ちょ、ちょっと待っ……」
「いーや、待てない!」
勢いよく席を立ったハイビスカスは梓にぎゅっと抱きついた。
ハイビスカスに抱きしめられた梓は口をパクパクさせながら硬直してしまう。顔は真っ赤に染まっており、今にも湯気が出そうであった。
「他校の生徒にセクハラはまずいですよハイビスカスさん。やるなら私にしてください。胸を揉まれても我慢しますから」
「ニルっち、これはセクハラじゃないよ。あたしの熱い気持ちをあずっちに伝えたかったの」
「だからって抱きつくのはやりすぎですの。オレンジペコさんに知られたらまた怒られますわよ」
ベルガモットの口から出たオレンジペコというニックネーム。この場にいない第三者の名前が登場したことで、大洗の少女たちは頭に疑問符を浮かべている。
「オレンジペコさんってどんな人なのぉ?」
「あたしたちのリーダー的存在な子だよー。頭脳明晰、品行方正を絵に描いたみたいな優等生。それだけじゃなくて、問題児カルテットっていう異名まで持ってるじゃん」
「優等生なのに問題児?」
「ペコさん自身に問題はないんです。ただ、高校生になってから妙にトラブルが舞いこむようになってしまって……」
あやの疑問に意味深な答えを返すカモミール。
優等生と問題児。相反する二つの顔を持つオレンジペコという人物の謎は深まるばかりだ。
そのとき、遠くから騒ぎ声が聞こえてきた。店内でなにやら揉め事が起こっているらしい。
騒ぎの中心にいるのは、目つきの鋭い銀髪の少女とオレンジがかった金髪の小柄な少女である。その小柄な少女を見た瞬間、聖グロリアーナの少女たちはいっせいに驚きの声を上げた。
「大変です! ペコさんが黒森峰の生徒と喧嘩してます!」
「またトラブルに巻きこまれてしまったみたいですわね……」
「みんな、ペコっちを助けに行くよ! あたしに続けーっ!」
「は、はいっ! 喧嘩とかしたことないですけどがんばります!」
聖グロリアーナの少女たちは大慌てで席を離れ、騒ぎが起こっている場所へと向かう。
大洗の少女たちはそれを茫然と眺めていたが、紗希だけは反応が違った。紗希は聖グロリアーナの少女たちのあとに続こうとしたのだ。
「ちょっと待って紗希ちゃん! まさか一緒に行くつもりなの?」
「心配」
「ニルギリさんは紗希ちゃんのお友達だもんねぇ」
「私たちも行こう。紗希を一人で行かせられないよ。梓! いつまでも固まってる場合じゃないから!」
あゆみは梓の肩をつかんでがくがくと揺らす。それによって、心ここにあらずといった状態だった梓がようやく復活した。
「あゆみ? どうしたの?」
「説明はあと。いいから梓もついてきて!」
「なになに? みんなどこ行くの?」
困惑する梓を仲間に加え、大洗の少女たちも現場へ走る。
そこで大洗の少女たちが目撃した光景は、聖グロリアーナのお嬢様のイメージを一変させるものであった。