私の名前はラベンダー   作:エレナマズ

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第十五話 決着と始動

 十連覇を目指す黒森峰女学園の準決勝ということもあって、観客席には大勢の人が詰めかけていた。観客が見つめる先には試合映像を流している大型ディスプレイがあり、そこには本丸への進撃を開始した黒森峰の戦車隊が映っている。

 その観客の中に、聖グロリアーナ女学院の応援にやってきた沙織達の姿があった。

 

「麻子、どうしよう。このままだとラベンダーさん達が負けちゃうよ!」

「落ちつけ、沙織。観客席の私達が騒いだところで、どうすることもできん」

 

 沙織は、右隣に座っている黒髪ロングヘアーの少女を両手でゆさゆさと揺らす。

 麻子と呼ばれた黒髪の少女は、激しく揺さぶられているのに表情は眠そうだ。さっきまでうつらうつらと船をこいでいたので、眠気がまだ完全に消えていないのだろう。

 

「沙織さん、今はラベンダーさん達を見守りましょう」 

 

 沙織の左隣で食い入るように大型ディスプレイを見つめる華。その大型ディスプレイでは、黒森峰の戦車隊が固く閉ざされた城門を砲撃中だった。

 この城門を抜けて二の丸に侵入し、そこにある本丸の正門さえ突破してしまえば、聖グロリアーナの戦車隊はもう目前だ。

 

「沙織、五十鈴さんの言う通りだぞ。それに、聖グロはまだ勝負を諦めてはいないようだ」

「えっ!? 麻子、なんでわかるの?」

「聖グロの戦車が一輌裏門に向かってる。本丸を抜け出して黒森峰の背後に回るつもりなんだろう」

 

 大型ディスプレイは画面を四分割して試合の様子を流している。

 麻子が指差しているのは、両チームの戦車が色分けされた駒になっている戦略ゲーム風の画面。その画面では、聖グロリアーナの戦車を示す青い駒の一つが本丸の裏門に向かっていた。

 カメラのほうもその動きに気づいたようで、裏門に向かっている戦車の映像が大型ディスプレイに映し出される。

 

「あっ! ラベンダーさんだ!」

「あの子が沙織に入れ知恵した子か」

「入れ知恵ではありませんよ。ラベンダーさんは、私達が進もうとした道の手助けをしてくれたんです」

「その結果、私まで戦車探しに巻きこまれることになったわけだが……」

 

 沙織が戦車探しの手伝いを頼んだ頭の良い友達。その友達がこの黒髪の少女だ。

 名を冷泉麻子といい、沙織とは幼馴染の関係に当たる。

 

「かわりに朝起こしに行ってあげてるんだからいいじゃん。私のおかげで遅刻もだいぶ減ったでしょ?」

「それについては感謝してる。最近はそど子のやつも静かになったしな」

 

 そど子とは大洗女子学園で風紀委員をしている二年生のことだ。本名は園みどり子というのだが、麻子は名前を略してそど子と呼んでいる。

 一年生でありながら、麻子はすでに遅刻の常習犯。風紀委員にも目をつけられており、なかでもそど子は口うるさく説教をするので麻子が一番煙たがっている人物であった。

 

「ところで、どうしてラベンダーさんはティーカップを持っているんだ?」

「あれは聖グロリアーナの伝統なんだって。一滴の紅茶もこぼしちゃいけないらしいよ」

「いや、それは無理だろ。そもそも戦車に乗りながら紅茶を飲むことに、いったいなんの意味があるんだ?」

「聖グロリアーナの戦車道は優雅でなければいけないと言っていましたから、たぶんそれと関係があるんですよ」

「戦車と優雅……正直まったく結びつかない言葉だな。それに、ラベンダーさんには優雅より勇敢という言葉のほうが似合ってる。両手がふさがってる状態で戦車から身を乗り出すのは、相当な勇気がいるだろうからな」

 

 戦車のハッチから上半身を出しているラベンダーの左手にはティーカップが握られ、右手は無線機のマイクをつかんでいた。

 ラベンダーは平然とした顔で戦車を指揮しているが、あのような無謀な行動は簡単にできるものではない。もしあの状態で戦車が衝突でもすれば、体が外に投げ出されてしまうのは間違いないだろう。

 

「ラベンダーさんって戦車に乗ると雰囲気変わるんだね。ほんわかしてる感じの人だと思ったけど、今はすごくカッコいいもん」

「はい。あの体勢で微動だにしないのは本当にすごいです。それだけ試合に集中しているんですね」

「私も戦車に乗ればラベンダーさんみたいになれるかな? あんな風にカッコよく振舞えたらきっとモテるよね?」

「そんなことより、ラベンダーさんはどうするつもりなんだろうな? 向かう先には黒森峰の戦車が待ちかまえてるぞ」

 

 本丸の裏門を抜けても二の丸に出ただけにすぎない。黒森峰のフラッグ車がいる三の丸に向かうには、黒森峰の戦車が群がっている門とは別の城門を抜ける必要がある。

 その城門の前に立ちふさがる一輌の戦車。大きな車体に長い砲身を持つその戦車は、ラベンダーの戦車よりも強そうに見える。それに加えて、もう一輌の黒森峰の戦車がその場に向かっており、このまま進めば二対一の不利な状況になるのは明らかだ。

 

「あんな大きな戦車に勝てるわけないじゃん! ずるいよ黒森峰!」

「ルールは守ってるんだから、別にずるくはないだろ」

「大丈夫ですよ、沙織さん。ラベンダーさんは全然ひるんでいません」

 

 本丸の裏門を突破したラベンダーは、城門に陣取る黒森峰の戦車を前にしても慌てた様子は見せない。それとは逆に、黒森峰の戦車に乗っている黒髪の少女は目に見えてうろたえている。

 車長が動揺しているせいなのか、黒森峰の戦車の砲撃はラベンダーの戦車にまったく当たる気配がなかった。

 

「それにしても妙だな。なぜラベンダーさんは撃ち返さないんだ?」

「きっと何かいい作戦があるんですよ。私達はそれを信じて応援しましょう」

「ラベンダーさん、がんばれー! 黒森峰なんてやっつけちゃえー!」

 

 黒森峰の戦車の砲撃を避けながら堀のほうへと向かうラベンダー。増援に現れた黒森峰の戦車はその動きに気づいたようで、対面側の堀へと向かっていた。

 

 

◇  

 

 

「深水さんのティーガーⅡと戦う必要はありません。ローズヒップさん、作戦通りお堀に向かってください」

「了解ですわ」

 

 城門を守っている深水トモエのティーガーⅡは、正面から戦って勝てる相手ではない。クルセイダーとは比較にならない装甲と火力を持っており、性能だけ見れば天と地ほどの差がある。このような厄介な相手は、フラッグ車でないのなら無視するのが一番いい。

 

「ルクリリさん、ここからは動きが激しくなります。私の足をしっかりつかんでいてください」

「わかった。絶対に放さないから安心してくれていいぞ」

 

 ルクリリは砲手席から離れてみほの足を抱きかかえている。これが両手のふさがっているみほが不動の体勢でいられる理由だ。

 

 三人乗りのクルセイダーMK.Ⅲは車長が砲弾を装填する。しかし、単身で黒森峰のフラッグ車に挑む際、みほがいちいち砲弾を装填していたのでは勝ち目は薄い。

 そこで、みほは一撃で勝負を決めるという賭けに出た。フラッグ車のティーガーⅠを撃つまで砲撃はせず、敵の砲撃の回避に専念することにしたのだ。

 車長が操縦手の目になれば回避率は大幅に上がる。みほがハッチから身を乗り出し、車内無線のマイクを握っているのはそのためであった。

 

 両手がふさがることで体勢が不安定になるデメリットをルクリリにカバーしてもらい、みほは戦車の指揮にすべての集中力を傾けていた。

 ちなみに、ティーカップを手放すという選択肢は初めから存在しない。伝統を守るのは試合の勝敗よりも優先されるからだ。

 

「この先にある船着き場からお堀を飛び越えます。ローズヒップさん、私が合図したらリミッターを解除してください」

「いよいよクルセイダーの本領を発揮するときが来ましたわね」

 

 この城は二の丸と三の丸の間に城壁がなく、距離もそれほど離れていない。堀を小船で一周するために作られた船着き場付近はスペースが広く、最高速度のクルセイダーが助走をつければ堀を飛び越えられる。

 かなり危険な行為だが、ローズヒップとルクリリの二人と一緒なら必ず成功するとみほは確信していた。

 

「ローズヒップさん! 速度を落として!」

 

 ローズヒップがブレーキを踏んだことでクルセイダーは減速した。それと同時に、クルセイダーの進行方向の地面に砲弾が着弾し、土煙が舞い上がる。あの速度のまま進んでいたら、クルセイダーに砲弾が命中していただろう。

 

「逸見さん……」

 

 クルセイダーに向かって砲撃をしてきたのは、逸見エリカのⅢ号戦車であった。Ⅲ号戦車は堀を挟んだ反対側を並走しており、エリカはキューポラから上半身を出してみほを見据えている。

 それに対し、みほは顔を背けずしっかりとエリカの目を見つめ返した。逸見エリカから逃げ回っていた西住みほはもういないのである。

 

「リミッターを解除してお堀を越えたら、逸見さんを振り切ってフラッグ車を目指します。ローズヒップさん、お願い!」

「頼むぞ、ローズヒップ。ワニ女に目にもの見せてやれ!」 

「任せてくださいまし!」

 

 ローズヒップがリミッターを解除し、クルセイダーは急加速。並走していたⅢ号戦車を一気に引き離すと、堀に向かって大ジャンプを決行した。

 華麗なジャンプで堀を越え、クルセイダーは地面に勢いよく着地。その衝撃でみほのティーカップからは紅茶がこぼれてしまうが、みほの体はルクリリがつかんでくれていたおかげで無事だ。

 

 みほがすぐさま周囲を確認すると、エリカのⅢ号戦車がこちらに向かってくるのがわかった。

 遠目から見たエリカの表情は焦っているように見える。クルセイダーの大ジャンプは、エリカにとって予想外の事態だったのだろう。

 

「ここからはスピードが命です。エンジンが故障する前にフラッグ車を叩きましょう」

「スピードなら誰にも負けませんわ!」

 

 最高速度が出ているクルセイダーを嬉々として操縦するローズヒップ。久しぶりのリミッター解除にかなり興奮しているようである。

 

「ルクリリさんは砲手席に戻ってください。砲撃のタイミングは私が指示します」

「気をつけるんだぞ。試合に勝つのは大事だけど、怪我をしたら元も子もないからな」

「うん、わかってる。……いつも心配してくれてありがとう」

 

 みほが感謝の意を伝えると、ルクリリは少し顔を赤くして砲手席に戻っていった。素直な好意に弱いのは相変わらずのようだ。

 

 Ⅲ号戦車とクルセイダーの距離は徐々に離れていく。整地で時速40kmほどのスピードしか出せないⅢ号戦車が、最高速度のクルセイダーに追いつけるわけがない。

 エリカをうまくやり過ごせたことにみほが胸を撫でおろしていると、ダージリンから通信が入った。

 

『ラベンダー、そちらの状況はどうかしら?』

「こちらは今のところ順調です。本隊のほうは大丈夫ですか?」

『こちらも順調と言えればよかったのだけど、残念ながらそううまくはいかないわ。アールグレイ様のクロムウェルが撃破されて、こちらはあと二輌。今はダンデライオンが黒森峰の目を引きつけてくれているところよ』

 

 聖グロリアーナはみほ達を入れて残り三輌。数字だけみれば絶望的だが、この試合はフラッグ戦。チャーチルから白旗が上がる前にティーガーⅠを倒せば、聖グロリアーナの勝ちだ。

 

「わかりました。本隊が全滅する前にフラッグ車を叩きます」

『私達もできる限り時間を稼ぎますわ。ラベンダー、あとは任せましたわよ』 

「はい!」

 

 はっきりとした返事でダージリンとの通信を終えるみほ。その目にはかつてないほどの力強さが宿っていた。

 

 

 

 三の丸を爆走するクルセイダーは、ついに黒森峰の戦車隊と相対した。

 その数わずかに三輌。どうやら、残りのほとんどの戦車は本丸のほうに向かっているようだ。その三輌の中に黒森峰のフラッグ車であるティーガーⅠの姿があった。

 

「フラッグ車を発見しました。これより突撃します」 

 

 クルセイダーが砲撃できるチャンスは一回のみ。そのチャンスをものにするには、ティーガーⅠにできるだけ接近しなければならない。

 それを邪魔するかのように、ティーガーⅠの近くにいた二輌の戦車がクルセイダーに向かってきた。走攻守すべてにおいてバランスがとれている優良戦車、パンターG型である。 

 

「パンターをどうにかしないとフラッグ車にはたどり着けない。撃破するのが確実だけど、それだと時間がかかりすぎる」

 

 ルクリリが砲手席に戻ったので砲撃はできる。装填をルクリリにしてもらえば、多少不利だがパンターとは戦える。

 とはいえ、本隊が残り二輌しか残っていないのを考えると、パンターと戦うのは得策ではない。

 

「パンターの隙をついて突破したあと、一気にフラッグ車に肉薄して決着をつけます」

 

 二輌のパンターと後方のティーガーⅠからクルセイダーに向けて砲撃が放たれる。クルセイダーの進路を予想した砲撃はまさに正確無比。クルセイダーがリミッターを解除していなければ、回避し続けるのは困難だっただろう。

 

 クルセイダーのスピード。みほの的確な指示。そして、ローズヒップの運転技術。

 この三つの要素が合わさったおかげで、クルセイダーはなんとか黒森峰の攻撃を耐えしのげている。みほの額には大粒の汗が浮き出ており、激しい動きを続けたせいでティーカップの中身はすでに空だ。

 

 少しでも気を抜けば撃破されてしまう状況のなか、じっと反撃の機会をうかがうみほ。最初で最後のチャンスを活かすために、集中力は極限まで研ぎすまされていた。

 その待ちに待ったチャンスがついにやってきた。二輌のパンターの砲撃がほぼ同時に行われたのである。

 必勝を期する渾身のダブルアタックをクルセイダーは紙一重で回避。パンターの砲撃の脅威が一時的に途切れたことで、みほは即座に決断を下す。

 

「戦車前進! 二輌のパンターの間を抜けてください!」

 

 クルセイダーは一直線に突っ走り二輌のパンターを突破。すぐさまティーガーⅠから砲弾が飛んでくるが、クルセイダーはそれも回避してみせた。パンターを抜けた瞬間に攻撃してくるのをみほは読んでいたのだ。

 障害がなくなったことでクルセイダーはティーガーⅠに突撃をかける。狙うは堅牢なティーガーⅠの弱点である背面のエンジン部分。

 

「背面に回りこみます!」

「わたくしにお任せでございますわ!」

 

 ローズヒップはクルセイダーをドリフト走行させて、見事にティーガーⅠの背面をとった。ティーガーⅠはクルセイダーに向けて砲塔を回転させているが、タイミングは一歩遅い。

 勝った。みほは勝利を確信し、ルクリリに砲撃の指示を出そうとする。そのとき、みほは驚くべき光景を目撃してしまった。

 

「えっ?」

 

 信じられない光景を前にして思わず絶句してしまうみほ。

 みほの眼前では、ティーガーⅠのキューポラから上半身を出したまほがぼろぼろ涙を流していた。絶望したような顔でみほを見るまほの姿は、痛々しいの一言につきる。

 初めて見た姉の泣き顔にみほは激しく動揺した。空のティーカップは手を離れて落下し、ルクリリへの指示も頭から抜け落ちてしまう。

 

 この一瞬の出来事が試合の勝敗を分けた。

 

 動きが止まり無防備になったクルセイダーの側面に砲弾が命中し、クルセイダーからは白旗が上がる。

 みほは宙に投げ出されそうになるが、片手で車体を瞬時につかみ事なきを得た。直前にティーカップを落としていたのが幸いしたのだ。

 みほが砲撃を受けた側に目を向けると、エリカのⅢ号戦車の砲身から煙が出ているのが見えた。みほはまたエリカに敗北を喫してしまったのである。

 

 それとほぼ同時刻に、チャーチルが撃破されたことが場内にアナウンスされる。

 これにより、聖グロリアーナ女学院の第六十二回戦車道全国大会は終わりを告げた。

 

 

 

 

「負けてしまいましたね。あと少しのところだったんですが……」

「ラベンダーさんは結局一発も撃たなかったな。もしかしたら、何かトラブルがあって砲撃ができなかったのかもしれない」

「戦車道という武芸は一筋縄ではいかないんですね。私達の目指す道は想像以上に険しいみたいです」

「まあ、私達はまだ舞台にすら立っていないけどな。ん? どうした、沙織?」

 

 試合が終わってから沙織は一言も言葉を発していない。真剣な眼差しで大型ディスプレイを見つめる沙織の姿は、普段と様子が違っていた。

 

「麻子。私は確信したよ」

「何をだ?」

「戦車道はモテる」

「またその話か。沙織、ラベンダーさんの姿が華やかで魅力があったのは認めるけど、あれは常人にできるようなことじゃないぞ」

「それは私もわかってるよ。でも、だからって諦めたくない。私がモテるために足りなかった要素が、戦車道には詰まってるんだもん!」

 

 麻子に力説する沙織は鼻息が荒くなっており、かなり興奮している状態である。ラベンダーの華麗な戦いに沙織はすっかり魅せられてしまったようだ。

 

「五十鈴さんからも沙織に言ってやってくれ。あれは天才のなせるわざだって」

「すぐにラベンダーさんのようになるのは無理かもしれません。けれど、挑戦するのは別に悪いことじゃないと思います。それに、冷泉さんだってマニュアルを読んだだけで戦車が操縦できたじゃないですか」

「あれは動かせただけだ。私にはあの操縦手のような才能はない」

「私達の中では麻子が一番運転上手じゃん。練習すればもっとうまく動かせるようになるよ。お願い、私達の練習に付き合って」

 

 沙織の懇願を受けた麻子はしばらく考えこんだあと、答えを告げた

 

「……しょうがないやつだ。朝起こしに来るのを忘れるなよ」

「やったー! 麻子、ありがとう!」

 

 沙織は麻子の手を取ると大きく上下に動かした。表情にはあふれんばかりの笑みが浮かんでいる。

 元気いっぱいの沙織に麻子はされるがままだが、嫌そうな顔はしていない。どうやら、二人は強い信頼関係で結ばれているようだ。

 

「あ、もちろん華も手伝ってくれるよね?」

「はい。三人であの戦車を乗りこなしましょう」

「華が森の中で戦車を見つけてくれたおかげで、私の希望の道が開けてきたよ。よーし、みんなでがんばろー!」

 

 華が森の中で見つけたのは、ビスだらけでポツポツしている小さな戦車であった。はっきりいって、しっかり手入れされている聖グロリアーナの戦車と比べると、みすぼらしい感じは否めない。

 それでも、学校中を探し回ってようやく見つけた貴重な戦車だ。沙織のあの戦車にかける情熱は並大抵ではなかった。

 

「がんばるのも大事だが、まずは人材の確保を優先するぞ。最低でもあと一人はいないと、生徒会に部活動の申請ができん」

「部として認められれば、色々と活動もやりやすくなりますからね。戦車を置く場所も自動車部のみなさんから借りてる状態ですし……」

「本格的にやるなら地に足をつけたほうがいい。わかったか、沙織。……聞いてないみたいだな」

 

 キラキラ輝く瞳で虚空を見つめる沙織。先ほどの麻子と華の会話は、まったく耳に入っていないようだ。

 

「私もラベンダーさんみたいなカッコいい戦車乗りになってみせる。そしたらモテモテ間違いなしだもん!」


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