言峰士郎の聖杯戦争   作:麻婆アーメン

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「……バレてるみたいだな

 

「いやまあそうでしょうよ…あんな馬鹿みたいな目立つ金ピカバイクで来てるんだから…」

 

セイバー陣営が拠点としている、森の奥の城を目の前にして、ヒソヒソ話す。

何故か少しゲッソリしている凛は、いつもの如く呆れを隠そうともせず愚痴をこぼした。

 

「なっ、雑種貴様我がマシンを愚弄するか!この不敬者め!」

 

「あぁハイハイ悪かったわよ。じゃあプランBね。ギルガメッシュ、お願い」

 

凛が事前に決めておいた作戦の変更を指示し、ウィンクして見せる。

 

「チッ、なぜこの我がそのような面倒事を…」

 

「お願いギルガメッシュ。……その、召喚したことを失敗だと思いたくないの…アンタのカッコイイとこ、ここで見せて」

 

(おいおい遠坂…さすがにそれはわざとらしすぎ…)

 

「はーっはっは!よかろう!我が勇姿、その目に焼き付けよ雑種!いでよ!乖離剣エa「ちょ、バカ!声デカイわよ!」」

 

(うん…何だかんだでいいコンビなのかもしれないな、こいつら。……!)

 

士郎の鋭敏な感覚に、膨大な魔力量と殺気が引っかかる。

 

「……遠坂、その心配はないみたいだ」

 

士郎は立ち上がると、隠れていた茂みから城へと続く大通りの真ん中に躍り出た。

 

「へぇ。ただの臆病者じゃないのね」

 

すると、その数メートル先から、声が聞こえた。

よく見れば、その場所だけ陽炎のように景色が揺れている。

 

「いいわセイバー、風王結界を解いて。」

 

「はい、マスター」

 

「ごきげんよう、遠坂凛、そして言峰士郎」

 

現れたのはセイバーと、紫色の衣装に身を包んだ銀髪の可憐な少女。

 

「なっ…!貴方そんな歳で聖杯戦争に参加なんて…!無茶ですよ!」

 

と、申しますは俺の袖を掴んで離さない金髪の少女。

 

「貴方には言われたくないわ…それに私はこう見えてそこの言峰士郎よりも年上だし」

 

「なんですって!?……私もまだまだ捨てたもんじゃないわね…」ボソッ

 

いや、確かにビックリだけども。少なくとも自分の胸を触りながら言うことじゃないと思うぞ遠坂。

 

「うぅ〜…なんだかとてつもなく失礼なことを言われているような気がする……ともあれ自己紹介するわ。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。こっちは私のサーヴァントのセイバーよ」

 

そう言ってスカートを両手で浮かせ、ちょこんと腰を折る。

こんな状況でなければ、それはこの世のものとは思えない程可愛らしいと感じるはずのものであったはずだ。

だがその可憐さが、今だけは歪に映る。

 

「なあ、マスターと会ったら必ず聞くことにしてるんだけどさ」

 

「何かしら?言峰士郎。」

 

「君は聖杯に何を願うんだ?」

 

「……そうね。私達に願いはないわ」

 

「願いがない…?ではどうしてこのような戦いに身を投げたのですか?」

 

続けて問うジャンヌを片手で制し、彼女はこう切り返した。

 

「次はこっちの番。言峰士郎、あなたは聖杯に何を願うの?」

 

心理戦は始まっている。

答えを誤るな。最善の一言を紡ぎだせ。

 

「……俺に願いはない。強いて言うのなら、ヤツを…衛宮切嗣を殺すこと(・・・・・・・・・)が目的だ」

 

嘘は通用しない、そう感じた故に放った一言目。

が、どうやら地雷を踏んだらしい。

 

「そう…なら私達は敵同士ね!やっちゃえセイバー!」

 

手を振り、最優のサーヴァントに命を下す。

 

「…ッ!?」

 

「マスター!無事ですか!?」

 

見えないながらも、空気の振動と魔力の流れで感じ取った。

それは剣というより、もはや鞭だ。

あまりに速く、美しいその不可視の初撃を、言峰士郎はかわせなかった。

 

「あ、あぁ…宝具で助けてくれたんだな、ありがとう」

 

それでもなお生存しているのはジャンヌの宝具、我が神はここにありて(リュミノジテ・エテル)が斬撃を防いでくれたから。

もし間に合っていなければ、頭が真っ二つになっていた事だろう。

 

「いえ…まだ戦いは終わっていません。かなり手強いですよ、この相手!」

 

いつになく真剣な目つきのジャンヌを見て、さっきまでの恐れと竦みを振り払う。

 

「……なるほど、そっちの子供がサーヴァントなのですね。さあ剣を取りなさい!主に身を張らせるなど言語道断。騎士としては落第です。」

 

「…っ…!」

 

「ランサー。気にするな。これは俺達で決めたことだろ」

 

そう言って歯ぎしりするジャンヌの頭を撫でる。

しかし参った。これは今の俺じゃかないそうもない。

 

「……面白い。興が乗ったぞ雑種!この戦、我に預けよ!」

 

そう言ってセイバーの目の前に降り立つ英雄王。

その身はいつの間にか黄金の鎧を身にまとい、髪は逆立っている。

 

「す、スーパーギルガメッシュ…!」

 

「や、辞めとこうなランサー。色々怖いから」

 

「我が下僕よ!魔力を回せ。この戦、少しばかり本気を出す」

 

「うっさいわね!私がマスターだって言ってんでしょ!」

 

「ギルガメッシュ、遠坂…あぁ、すまん頼む」

 

「あら、今度は凛がやるのね。いいわ、来なさい?」

 

「ギルガメッシュ…まさかまた貴方と戦うことになるとは。驚きました。」

 

見ることさえ叶わないその剣を一振して構え直し、ギルガメッシュと相対するセイバー。

 

「フン、大方前回の聖杯戦争とやらのことを言っているのであろうが、生憎我には記憶が無くてな。だがその口ぶりを見るに我とやり合ったことがあるらしい」

 

「えぇ。とても手強かった。だがこちらが一方的に手の内を知っているこの状況、いくら貴方と言えど不利なのでは?」

 

「フン、たわけが。その程度ハンデにもならん。行くぞ雑種。我が直々に貴様という剣を折ってくれるわ!」

 

いつもは遠坂やカレンに形無しの情けないやつだが、こういう時だけはその背中が偉く大きく見える。

 

(いざと言う時はジャンヌに宝具の指示を出せるようにしとかなきゃな…)

 

そんなことを考えながら立ち上がろうとしたその時

士郎だけに聞こえた。

聞いてしまった。

 

 

 

悲哀と絶望に満ちたその声を。

 

 

 

「しまっ…!」

 

 

 

『so as I pray . unlimited blade works .』

 

目前に迫る炎の幻影。

かつてのトラウマに思わず目を瞑るその一瞬で。

 

世界が、塗り変わる。

 

「お初にお目にかかる、ランサーのマスター。……いや、言峰士郎。」

 

「お前は…」

 

(映像で見たアサシン…!分断された…!クソッ!セイバーとの戦闘は罠か…!)

 

無限の剣を内包した荒野と共に現れるは、紅き外套を纏いし正義の味方、その成れの果て。

 

「そして問おう。」

 

「……」

 

「1度も会ったことのないはずの男を狙う理由とはなんだ」

 

「決まってる。皆を守るためだ!」

 

「……そうか、失望した。お前とならあるいはと…そう思っていたのだがな。」

 

「1人でゴチャゴチャと…そのムカつくポーカーフェイスを捨てて、さっさとかかって来いよ!三文役者!」

 

「言われなくともそうさせてもらおう。我がマスター(・・・・・・)を狙った罪、その命を持って償え!」

 

紅き正義の味方は、怒号と共にその両手に白と黒の双剣を出現させる。

 

「投影…魔術…か」

 

「フン、貴様にとっては珍しいものでもないだろう、言峰士郎。」

 

「何のことだか…全く今日はつくづくついてないよ」

 

そう言って内ポケットから黒鍵の柄を二本取り出し、両手に持って刃を精製する。

 

「…なんだそれは。まさか貴様投影魔術さえ使えないのか?」

 

「お前当然みたいに言うけどさ。それ封印指定モノらしいぞ」

 

「フン。全くもって期待外れだ。その刃、折れる前に死んでおけ!」

 

「ッ!」

 

速い…やはりライダーと違って明らかに戦闘慣れしたサーヴァント。

とんでもない速さの斬撃を、なんとか黒鍵の刃で受け止める。

戦闘経験の差で負けているのであれば、もはや勝てる見込みなどゼロに等しい。

それでも、ここで死ぬわけにはいかない。

そんなものは、あの地獄を、もう1度繰り返させていい理由にはならない。

 

(しかし…つくづく反則だな、それ。1回打ち合っただけで黒鍵が使い物にならなくなった。…残りの魔力量を考えて2回…最悪アレも使わないといけない…か)

 

「どうした、防戦一方ではジリ貧だぞ」

 

「ッ、簡単に言ってくれる…なァ!」

 

打ち込みにきた刃を潜り抜けてボロボロになった方の黒鍵を投げつけ、後ろに飛んで距離を取る。

 

「でも悔しいがお前の言う通りだ。出し惜しみはしない。本気で行くぞ、投影、開始(トレース・オン)

 

「笑わせるな。その掛け声に何の意味がある。投影魔術も使えないお前に。」

 

慌てるなよ、早漏野郎。

そう胸の中で罵って魔術回路を走らせる。

口の悪さが少しずつうつってきてるな。

その不機嫌そうな顔がチラつき、笑みがこぼれる。

 

「チッ…血迷ったか」

 

射影完了(オーバーライト)、持ってけ、突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

おびただしい死の呪いを纏った1本の、何の変哲もない黒鍵が、紅き英霊に迫る。

 

「なっ…にッ!」

 

言峰士郎…俺に許された魔術は、思い描き、その性質を現実にある物質に上書きすること。

思い描いたものを現実に持ってくる、なんて離れ技は俺の魔力量ではとても叶わない。

故に、使い慣れた武器に重ねる他なかったのだ。

 

「…ほう。驚いたな。全て遠き理想郷(アヴァロン)を埋め込まれなかった結果がこれか」

 

「想像はしてたけど…参ったな。織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)まで持ってるのか…お前どこの英霊だよ」

 

「……まだ気付かないか、言峰士郎。いや、気づけるはずもないか。あの極悪神父に育てられたのでは仕方あるまい」

 

なぜ親父のことを…と言いかけてハッとする。

 

「気付いたか、そうだ。俺の真名はエミヤ。衛宮切嗣という正義の味方に拾われ育てられたお前の成れの果てだよ」

 

「……お前もその、正義の味方ってやつなのか?」

 

「あぁ。親は子に夢を託す。そういうものだろう、父親というのは。」

 

「あぁ…そうか。なら尚更負けられないな」

 

「ほう、投函武器は一切通用せず、接近戦では分が悪い。そう分かってなお諦めないというのか」

 

「あぁ。他の誰かに負けるのはいい。だけど、その意思だけには負けられない!」

 

「笑わせるな。……結局貴様も俺と同じか。誰かのためになると繰り返し続けたお前の思いは、決して自ら生み出したものではない!」

 

嘲笑うかのように、言峰士郎という男の全てを全否定する。

 

(そんなことは無い…誰かを…アイツを守りたいって思いだけは、間違いなく俺の物だ!)

 

「…御返しだ。俺の(ヤツ)も見ていけ!」

 

I am the canker of the vise. (この魂は偽善で出来ている )

 

「…!させん!」

 

どこか聞き覚えのあるフレーズに機敏に反応し、即座に黒と白の夫婦剣を再度投影。

 

その性質を利用し、左右から士郎を挟み込ませるようにして両側へ投函する。

 

『

My body is bread, and wine is my blood. (血潮は酒で、体は小麦 )

 

士郎は体を仰け反らせ、それを紙一重でかわす。

その軌道、速度には既に目が慣れ始めていた。

2本程度、最早脅威ではない。

 

I have prayed for over thousand soul. (幾多の罪を犯し、不問)

 

「あまり見くびってくれるなよ!フンッ!」

 

更に3対。

今度は2対を投函し、その両手に持つ1対に魔力が集まるのを察知する。

 

『

Unaware of begining. (唯一つの問いもなく)

 

横目で見切り、丁寧にかわしていく。

この2対は隙を作るための囮。

ならば多少かする程度は構わない。

ただし決して本体を見失うな。

 

『

Nor aware of the end. (唯一つの答えもなし )

 

なかなか隙を見せない士郎に痺れを切らし、エミヤはその最後の1対も投函。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)赤原猟犬(フルンディング)!」

 

更に弓を投影し、近くに刺さっていた剣をまとめて3本、その弦に番える。


 

『
Stood pain with inconsitent weapons. (遺子はまた独り )

 

(ホーミング付きの剣が更に3本、軌道が読みづらい夫婦剣が4対…数が増えた。それでも、やることは変わらない)

 

目を閉じ、魔力をより機敏に感じ取る。

エミヤの投影した剣は言わば全て魔力の塊。

士郎に言わせれば、慣れてしまえばかわしやすいことこの上ない。

 

『

My hands will never hold anything. (穢れた拳で救いを謳う)

 

しゃがみ、転がり、仰け反り、弾き。

 

まるで何かが士郎を守り、刃の方から遠ざかるかのように回避していく。

 

是射躱す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)!」

 

(全ての回避は不可能…か。いいぜ、来い!)

 

感覚を研ぎ澄まし、空気の揺れと魔力の流れを鋭敏に感じ取る。

 

(致命傷以外は…かまうな!)

 

これが言峰士郎に許された唯一の魔術の、その基本。

 

「なっ…!」

 

迫り来る九つの斬撃に、自ら飛び込む。

 

「終わりだ!その回避では必ず一太刀は致命傷を回避できない!」

 

九つの刃が、土煙と、血しぶきをを上げた

後ろへ飛び、その死を確認しようとしたその時。

 

『―――yet, (けれど、 )

 

それでもなお、止まらぬ詠唱。

 

(何故だ、なぜあの呪いの無いはずのこの男が止まらない…!)

 

「偽・燕返し!」

 

次に士郎を襲うは、魔法の域へと昇華しかけた三つの剣。

今の傷、その位置では全てをかわしきることなど不可能。

 

『

my flame never ends. (この生涯はいまだ果てず )

 

「な…に…?」

 

(やっと捕まえたぞエミヤ。)

生存していた。

(我が神はここにありて(リュミノジテ・エテル)…!)

一太刀をくらいながら、魔法の域に達したもう一太刀を、聖女の祈りを宿したその両手で掴み取った。

 

「
『My whole pride was (偽りの正義は )

still (それでも )

 

「くっ…!塗り替えられる…!」

 

『

“unlimited God works” (神の剣で出来ていた―――― )

 

懺悔の唄が織り成す、果てない草原。

その地には、無限の武具が突き刺さる。

それは、無限にある平行世界でも、誰1人として″エミヤ″が決して辿り着く事の無い心象風景

 

「悪いが時間が無い。とっとと終わらせるぞ。贋作者(フェイカー)

 

「ふ、言うじゃないか、ではさしづめお前は失敗作(フェイラー)と言ったところか」

 

お前の世界は見た。

見た上で、もう一度言わせてもらう

 

「お前には、負けられない…!」

 

10年前から持ち続けた令呪と共に、理想郷を抱かなくともその心に焼き付いた炎が

今再び言峰士郎の目に灯る。

 

投影、開始(トレースオン)!」

 

今正に、世界そのものとの問答が切って落とされた。

 




「鬼ごっこしよ〜!キリツグ!セイバー!」
「ええ、私は構いませんよ」
「たまにはいいか。じゃあ僕が鬼をやるから、イリヤ、逃げなさい」
「やったー!きゃ〜♪」
「ふふ…「タッチ」えっ」
「イリヤ〜僕も一緒に逃げるから待ってくれ〜」
「……」

(いや、こんなことでムキになるなんて有り得ない
分かっていますよ。いくら死の直前とはいえ私はブリテンの王。王なのです。この程度でイザコザを起こすような器ではない……

しかし……

なんかコイツにだけは負けたくないッッ!!)

「風王結界!!」
「おぉぉ!?セイバーがなんか風に乗ってすごい速さで飛んできたぁぁ!?」
「全く、こんなことでムキになるなんてとんだお子様だな、騎士王は」
(もう少し…!捕まえましたよキリツ…「固有時制御。四倍速!」…!?!)

ウォォォォ

シュッシュッ

「……二人共嫌い…」


〜〜〜〜〜〜

どうも、初後書きです。
自分が愉悦るためだけに書いたのにいつも間にか150人もの方に見ていただいて、感謝しています。
今回出てきた詠唱はプリヤリメイク…言峰士郎の過去をキリスト教風のテイストに…かっこよく出来ていたら…いいなぁ…
感想、評価もありがとうございます。ニヤニヤしながら見てます。
これからもお付き合い頂けたら幸いです。

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