言峰士郎の聖杯戦争   作:麻婆アーメン

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いってらっしゃい

「ふぅん、それで結局言峰くんが前で戦うことにしたのね」

 

「あぁ。女の子…それもこんなに小さい子を危険な目に合わせるわけにはいかない」

 

「ほんと、サーヴァントをなんだと思ってるんだか…」

 

「仕方ないじゃないか。いくら元が強いにしても、ランクの下がった体にまだ全然慣れてないんだから」

 

先日の散歩の時に戦闘能力を見ようとした際、軽く手合わせをした。

牽制のつもりで軽く放った拳を、ジャンヌは出現させた、先端に槍の形状の旗で難なく受け止めた。

 

…筈だった。

どうやら体が縮んだ影響か、筋力もランクが落ちているらしく、受け止めた旗ごと額にぶつけ、そのまま伸びるというなんとも情けない結果で手合わせ…いや戯れは終了したのだった。

その後の騒ぎは知っての通りである。

 

「うぅ…面目ないです…私が不甲斐ないばっかりに…」

 

「気にする事はありませんよ、駄犬。召喚の仕方が悪かったのですからあっちの雄犬に非があります。最も、私は彼の欲望がその現況だと睨んでいますが」

 

落ち込むジャンヌを膝にのせ、あやすカレン

 

「せ、先輩がロリコンだったなんて…」

 

何故か自分の胸をさする桜。

 

「さいてー」

 

何故か煎餅を頬張りながら便乗して棒読みで罵倒する凛。

 

「…んふっ……ふふ…」

 

何故か笑いを堪えるお父上。おいこら。

 

「なんでさ…はぁまあいいか。いつものことだしな。とりあえず今後の動きについて考えよう」

 

「む、そうね。じゃあ現状を確認するわ。アーチャー」

 

いつから居たのか、凛の隣に金色の光の粒とともに現れるギルガメッシュ。

その黒ジャージ姿はサーヴァントだと言われたとしても信じられない程に俗世に馴染んでいる。

 

「ふん、我をこき使うとは偉くなったものよなぁ、雑種ゥ!この戦…「セーブデータ」はーっはっは!コレを見るがいい雑種共!」

 

凛の謎の呟きによってやけに従順になり、素早く王の財宝から取り出した謎宝具で空中に地図と数人の顔写真を描き出す。

 

「さて。これがギルガメッシュをパシ…お願いして探してもらった結果今判明している参加者よ」

 

「遠坂…」

 

真名をうっかりばらしたことについては何も触れない方がいいか…

 

「そこ!うるさいわよ!今判明してるのは私と言峰君、そして慎二を除けばキャスター、セイバーのマスターとそのサーヴァントだけね。」

 

「……」

 

「父さん?なんか気になることでもあるのか?」

 

「いやなに、そのセイバーの顔には見覚えがある。だがまあ他人の空似かもしれないがね」

 

「ダニ神父、話すつもりがあるのなら出し惜しみせずにしっかり話しなさい」

 

いつもの三割増でイライラした声を出すカレン。

彼女の持つ赤い聖骸布も、脅迫するかのようにうねうねと重力に逆らっている。毎日のように締め付けられてきたトラウマ持ちとしては背筋のゾクゾクが止まらない。

 

が、綺礼が口を開くまでもない、とでも言う風に遠坂が二の句を続けた。

 

「いえ、恐らく同一のサーヴァントよ。既にアサシンとの交戦で宝具を確認済みだしね。」

 

「その宝具って言うのは…?」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。今回のセイバーも第4次のセイバーと同一の存在ね。その真名は…」

 

「あぁそうか。父さんは前回の聖杯戦争に参加してたんだったな」

 

「アーサー王…ブリテンの騎士王…ですか」

 

「ふむ。して、アサシンとの戦闘だと言っていたが…そちらのマスターは掴めていないのか?」

 

「あぁ。雑種とはいえ流石は暗殺者と言ったところか。宝具も見せずにセイバーの宝具の情報だけを引き出して退散しよった。ククク…つくづく聖杯戦争とやらはよく出来た喜劇よ」

 

「だがセイバーは前回の聖杯戦争で勝ち残ったサーヴァントだ。どちらにせよ真名が判明するのも時間の問題だったであろう」

 

「えぇ。むしろ自信の表れのようにも取れるわね。そこでこれからの方針だけど…念のためにあなたの意見を聞いておこうかしら。士郎」

 

「そうだな…俺はセイバー陣営を攻めるべきだと思う。こっちには2騎サーヴァントがいる。それに資料によるとセイバーの宝具の消費は小さくない。なら消耗している今が狙い目だ」

 

「まあ、そこのちっこいのを一騎と捉えるかはともかく…「凛さん!?」ウチのアーチャーだけでも負ける気はしないし、私も同意見ね。それに宝具も使わずにセイバーを牽制し得たアサシンなんて危険すぎるわ。もっと体制を整えてからじゃないと」

 

「…ふむ。では移動手段はこちらで用意しよう。カレン、例の物を」

 

「えぇ、これが鍵です」

 

「これは…」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「はは、懐かしいな。カレンを後ろに乗せて弾丸を避けながら疾走してからもう1年になるのか。」

 

いつの間にか裏口にとめられていたバイクに跨り、メーターをなぞりながら感慨に耽る。

 

「そうね。特にアラビアでの魔力供給はスリリングで素晴らしいものでした。これがほんとの騎乗「やめなさい!」…ちっ」

 

「それよりアンタ未成年よね?免許とか大丈夫なわけ?」

 

「聖堂教会を舐めてもらっては困る。この通り偽装済みだ」

 

ふんと胸を張る父さん。

…俺が言うのもなんだが聖職者ってそれでいいのか。

 

「まあさすがに日本で乗る分にはこの聖杯戦争が終わったら取るつもりだけどな。それより遠坂達はどうするんだ?」

 

「あぁ…そうねぇ…」

 

「ハーッハッハッハ!雑誌ゥ!この我がいるというのになぁにを迷う必要がある!それ!王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

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ただ指パッチンするだけでほら!金ピカバイクのご登場だ!

どんなサイズのものでもしまえちゃう!こんなものがお値段なんt』

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……桜?大丈夫か?おーい?」

 

「はっ!?」

 

だがまあ桜のナレーションの通り。

出てきたのは金ピカのレースバイク。

最古の英雄王をして、我がギルギルマシンはいつ見ても優雅よな!はーっはっは!…とのこと。

 

(しかし……くそ、悔しいがカッコイイな)

 

(認めたくはありませんが…カッコイイですね…)

 

口に出しこそしないが、こっちのコンビも相変わらずの始末である。

 

「フ、さすがは英雄王ギルガメッシュといったところか。一応確認しておくが、免許はあるのかね?」

 

ちょ、なんでウチのアーチャーの真名知ってるのよ!とかいう凛の悲鳴はこの際捨ておこう。

 

「当然だ!これを見よ!」

 

これまた大気のゆらめきから現れるは満面の笑みのギルガメッシュ顔写真……付き免許証。

 

「そこはゴールド免許じゃないのかよ…」

 

「脳みそまで金ピカそうなこの駄犬のことです。峠で毎日同じコースを走っていたら死角で待ち伏せでもされたのでしょう」

 

「き、貴様何故それを!そして誰が犬かこの淫乱娘が!不敬であるぞ!ぐふっ!?」

 

「フィーッシュ……全く。いや別に、全く、これっぽっちも気にしてなんていないんですが、それを言われたら形式だけでもやっておかないといけないんです。出来れば控えて頂けますか?駄犬さん」

 

もはやお約束と化した聖骸布は、相手が例え最古の英雄王様だとしても容赦はしない。

 

「ぁが…くぅ…」

 

悶える英雄王を見て、思わず普段の自分と重ねてしまい、すかさず救いの船を出す。

 

「か、カレン、その変にしてやれ。さすがにここで切り札を失いたくない」

 

「ふん…まあいいでしょう。……士郎、分かっていますか?」

 

「あぁ、ジャンヌには絶対怪我をさせない」

 

キリッとして、真面目に答えたつもりだったのだが、何故か周りからはため息数発……なんでさ。

 

「……言峰君ってやっぱりそうよね」

 

「えぇ…なんというか…」

 

「……据え膳に気付きすらせぬとはな…日本の諺も泣くというものよ」

 

もう何度目になるか分からない呆れを隠そうともせず、先に支度をする凛と英雄王。

それを手伝う桜も、既に目に光がない。

 

「……はぁ。ではいつものを」

 

「あぁ、行ってきます」

 

そう言うと、目を閉じるカレンの頬に手を添え、唇を重ねた。

そのあまりの自然さに、周りは口をあけたまま何も言うことすら叶わない

 

「あ!ずるいですお姉様!私にも言ってらっしゃいのちゅーを!」

 

「はいはい、次に怪我をしたら全身の皮をはぎますよ。」

 

そう言ってかがみ、ジャンヌの額にも唇を落とした。

 

「えへへぇ…♪」

 

「気は済んだか?ほらいくぞ、しっかり捕まってろよ!」

 

「はい!ますたー!」

 

ジャンヌにヘルメットを被せ、背中にしっかりと捕まらせると左手でキーを回し、前ブレーキとクラッチを握る。

 

あぁ…なんかこれあれだな。

 

……血が騒いできた

 

「フハハハハ雑種ゥ!目的地までレースと行こうではないか!」

 

「望むところだ!英雄王!エンジンの量は…!」

 

「ちょ、言峰くんまで!?」

 

「「充分かァァ!!!」」

 

「きゃぁぁぁぁあ♪」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

直後、(バカ)2人が悪魔を見ることになるのは言うまでもない。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「……さて、じゃあイリヤ。召喚を始めようか。」

 

「えぇ……キリツグ。」

 

時は少し前。ギルガメッシュのゲーム機の一つが凛の手によって木っ端微塵に爆破された頃。

ドイツのアインツベルン城では、1組の父子が魔法陣の前で佇んでいた。

 

「……心配ない。イリヤは僕が必ず守る。」

 

「うん。ありがとうキリツグ…でもその、それより…」

 

「あぁ、もしかしてまだ気にしてるのかい?僕を式神に襲わせたこと」

 

「あぅ……だってキリツグがこんなにボロボロだなんて知らなくて…それにお爺様はキリツグが裏切ったって…」

 

「……いいんだ、イリヤ。どちらにしろ僕にはもう何も残っちゃいない。…いや、違うな。せめて最後にアイリが残した君だけは必ず守ってみせる」

 

そう言うと、一部変色した、酷くくたびれた手で、イリヤの頭を撫でた。

一瞬複雑な表情になったが、すぐに笑顔になり、魔法陣に向かって立ち直る。

 

「イリヤ。召喚にはそれほどの魔力は必要ない。肩の力を抜くんだ。君が今から召喚するのは最優の英霊……全く気に食わないが、駒としてなら能力だけは評価できる。必ず、僕達の力になってくれるだろう。」

 

「うん…キリツグ。いくよ……!」

 

魔法陣に手をかざし、詠唱する。

目を瞑り、亡き母と、最後に過ごした幸せな時間を噛み締める。

もうあの日々は戻ってこない。

けれど、それをもう思い出せなくなることは決して許せない。

ならば戦う。

 

戦って、今度こそ…

 

「聖杯戦争は…ここで終わらせるよ!来て……セイバー!」

 

魔法陣が眩く光る。

白い煙の中から現れる人影が、こちらに声をかける。

 

「………サーヴァントセイバー。召喚に応じ参上した。問おう」

 

その先、知ってるよ。キリツグにね、あなたの事もたくさん聞いたの。

もう、パスが繋がってるんだからそのくらいわかるくせに。

目を開き、聞き覚えのある声に涙を堪える。

 

 

聖剣を携えた孤高の王。

 

 

 

「貴方が私のマスター…かっ?!」

 

同じ姿と声なだけで、覚えてなんて居ないはずなのに。

 

その胸の中に、何故か母の匂いがある気がして

誰にも見せないように飛びついて、レディの秘密をを拭った。




〜〜ツーリング中〜〜


士郎「そう言えば英雄王、セーブデータってなんのことだ?」


ギル「……聞いて驚け、そこな雑種は触れただけで近代機会をチリも残さず爆破させる魔法を使うのだ…我が全ての財を持ってしても復元は……クッ…!」



凛「なっ、ち、違うわよ!?きっとたまたま自爆スイッチに触っちゃっただけで!」



ジャンヌ「……?ゲーム機、なるものに自爆スイッチはないと聖杯からは情報が与えられていますが」



士郎「言いたいことは山ほどあるが……とりあえずバイクの後ろに乗せるのはやめた方がよくないか?」



「「あっ」」



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