ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編   作:ヴァルナル

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異形なる天使 Ⅶ

朝食を終えた俺達は一度、兵藤家上階のVIPルームに集っていた。

ここにいるのは俺達オカ研メンバーと鋼弥達一行、それからアザゼル先生。

 

アザゼル先生が部屋を見渡した後、俺に言う。

 

「ティアマットはいないのか? あいつがいれば、かなりの戦力になるだろうに」

 

「俺もそう思って声をかけたんですけどね。今日は朝からアジュカさんのところに行ってるらしくて」

 

「そういや、あいつはアジュカの手伝いをしてたか………」

 

具体的な内容は言えないらしいけど、ティアはアジュカさんと古い付き合いらしく、アジュカさんの仕事を手伝っているらしい。

 

魔王の仕事の手伝いだ。

きっと重要なことなんだろう。

無理を言うわけにはいかない。

 

先生が魔法陣を展開すると、空中に地図が表示された。

これはこの町の地図だ。

 

「さっそく、奴らの捜索を始めるわけだが………こちらでは奴らの足取りは追えていない。報告を受けてからこの町に展開している冥界、天界スタッフに奴らの捜索をさせてはいるが、一向に行方が掴めん。もしかしたら、この町から出ているかもしれん」

 

先生は深く息を吐く。

 

俺も奴らの気を追ってはみたが………結果は同じ。

居場所を特定することができなかった。

 

先生の言うように、この町から出ている可能性もある………というより、そう考えるのが普通だろう。

 

しかし、鋼弥は首を横に振った。

 

「いや、奴らはこの町のどこかに必ずいるはずだ」

 

「ほう、その根拠は?」

 

先生が聞き返すと、鋼弥は説明し出す。

 

「昨日も言ったこと………奴らのあの姿が天使という存在がどういうものか関連している、ということは覚えているか?」

 

あの化け物としか思えない姿。

鋼弥が言うには、あれは天使という存在がどういうものかを表しているという。

 

天使は悪魔や異教徒に対しては冷たく、時には粛正する。

その冷たい一面を集めたことにより、奴らはあんな姿をしている。

 

「奴らはこの町におまえ達、悪魔がいることを知った。つまり粛清対象がいると認知したわけだ。奴らがおまえ達を放って他に移動するなんてことはあり得ないだろう。奴らはそういう存在なのだから」

 

「奴さんらにとっては俺達は滅すべき存在。世界の悪とでも考えているのかねぇ。あーヤダヤダ」

 

頭をボリボリかきながら、先生は心底嫌そうに言う。

 

完全に一方的だもんな。

あいつらにとっては自分達の神を信仰する者以外は基本的に敵。

悪魔という種族そのものが滅ぼすべき存在として動いている。

 

鋼弥の言葉に皆も息を吐いていた。

 

リアスが口を開く。

 

「それでは向こうから再び、こちらを襲ってくる可能性もある、ということなのね?」

 

その問いにはリオさんが答えた。

 

「はい。ですが、昨日みたいに市街地で襲ってくることも考えられます。彼らは周囲への被害………一般の人間を巻き込むなんてことは考えていませんから」

 

「つまり、あの天使達が襲ってくる前にこちらで見つけて片付けないと被害が大きくなるってことよ。先手を打つ必要があるわ」

 

珠樹さんもそう続く。

 

あいつら、目的のためなら手段を選ばずかよ!

天使もくそもないだろ!

 

鋼弥が続ける。

 

「それで、奴らがどこに隠れているかだけど………奴らは全員が魔界の上位種族。そのた、霊的遮断能力が優れている」

 

「霊的遮断能力? 聞いたことないな」

 

「霊的遮断というのは魔力を漏らさないための一種の気配遮断みたいなものだ。魔界の悪魔と冥界の悪魔では魔力の質が違うため、冥界の悪魔では感知することは難しい」

 

なるほど………それで、この町のスタッフでは見つけることが出来なかったわけか。

 

鋼弥はそこから付け加える。

 

「ただし、全く無理というわけではない。リアスや朱乃のように魔力に特化した悪魔………魔力操作に優れた悪魔であれば感知可能だ」

 

となると、これからのチーム編成は鋼弥達魔界メンバーとこちらの魔力操作が優れているメンバーを分けるのがベストか。

 

あいつらを感知できる編成かつ、遭遇したときに対処できる編成にしないとな。

 

この後、俺達は捜索チームの編成し、町に出た。

 

 

 

 

「こちらに来た時も思ったけど、俺達の世界の駒王町と同じだな」

 

駒王町の北端。

市街地から離れた、静かな山道。

 

鋼弥は山道から見える街並みを見ながらそう呟いた。

 

捜索チームは俺達オカ研メンバーと鋼弥一行、そしてアザゼル先生を混同して、五つに分けた。

 

北側に俺、美羽、アリス、鋼弥、リオさん。

南側にリアス、木場、小猫ちゃん、リーザさん、ドルキー。

西側に朱乃、ゼノヴィア、イリナ、フィーナさん、タオくん。

東側にアザゼル先生、ロスヴァイセさん、レイナ、彗花さん、珠樹さん。

そして、アーシアやレイヴェル、他のメンバーは兵藤家で待機だ。

 

アーシア達待機組は何かあった時のためにすぐ動けるようにしてもらっている。

 

捜索組として動いている各チームには魔力が高く、四人の天使たちの霊的遮断を看破できる魔界メンバーを組み込んでいて、北側を担当している俺達のチームではリオさんが奴らを見つけ出す役割を担ってくれている。

 

俺は町を眺め鋼弥に尋ねる。

 

「やっぱり平行世界の駒王町もこんな感じなのか?」

 

「ああ。恋人がいて、苦楽を共にする仲間がいて、駒王学園の皆がいる。良い町だよ」

 

「そっか。俺も見てみたいよ。そっちの駒王町を」

 

「いつか機会があれば来てみると良い。その時は魔界も案内するよ」

 

鋼弥はそう言って笑む。

 

魔界………。

鋼弥達がいる世界では俺達の知らない世界があるんだよな。

そこが平行世界でのズレというか、違いというか………。

この町とは違う駒王町にも興味はあるけど、魔界って場所も行ってみたくはある。

 

美羽が会話に交じってくる。

 

「でも、お兄ちゃんが鋼弥くんの世界に行ったら、お兄ちゃんが二人になるよね。そうなったら混乱しそう………」

 

あー………確かに。

 

向こうの俺も『イッセー』って呼ばれているみたいだし、その呼び方で呼ばれたら同時に反応してしまいそうだ。

 

アリスも続く。

 

「赤龍帝でスケベ。しかも『おっぱいドラゴン』ってところも同じ。そんなイッセーが二人………ある意味世界終わるわね」

 

「酷い! 俺を何だと思ってるんだ!?」

 

「だって………胸をつついてパワーアップするような奴が二人揃うことになるのよ? わけの分からない力で世界崩壊とかあり得るじゃない」

 

うっ………それを言われると………。

 

確かに俺はアリスのおっぱいをつつき禁手に至り、バアル戦ではアリスとリアスのおっぱいをつつくことで新たな可能性を得た。

平行世界の俺もリアスのおっぱいをつついて禁手に至った上に、更なる進化を遂げているという………。

 

アリスの言うことも………否定できない、かも。

 

周囲を探っていたリオさんも苦笑する。

 

「まぁ、お二人とも色々とんでもないってところは似てますね。ですが、こちらのイッセーさんも私達の世界のイッセーさんも優しい人です。お二人が並ぶところも見てみたいですね」

 

「それは面白そうだ。………ただ、あいつがこっちのイッセーのことを知れば………」

 

鋼弥はうーむと腕を組んで考え始める。

 

おいおい、向こうの俺が俺を知ったらどうなるってんだよ………?

 

怪訝に思う俺に気づいたのか、鋼弥は苦い笑みを浮かべる。

 

「いや、その………なんだ。俺達の世界のイッセーは………まだ童貞なんだ」

 

「………なるほど」

 

うん、最後の一言でよーくわかった。

 

俺は美羽、アリス、レイナ、そしてレイヴェルと関係を持った。

そのことを童貞の俺が知れば………血の涙を流してくるな。

 

鋼弥は言う。

 

「あいつはなんというか………スケベなくせに奥手なんだよ。機会はあっただろうに………」

 

「「あー………」」

 

美羽とアリスが納得してる!

 

でも、その気持ちは分かっちゃう!

俺も美羽とするまで女の子の勢いに押されてたもん!

いや、今でも押されてるけど!

 

それでも、美羽とのことがあったから、ようやくその辺りの度胸がついたわけでして………。

 

美羽が俺の腕に抱きついてくる。

 

「お兄ちゃんも同じだったよね? 最近はそうでもないけど」

 

まぁ、確かに。

 

修学旅行で美羽とそういう関係になってからは保健室でもしたし、他にも色々と………。

 

すると、リオさんが顔を真っ赤にする。

 

「ええっ!? し、し修学旅行中にそんな関係に!? それに保健室って………なんて大胆な! イッセーさんと美羽さんは兄妹ですよね!?」

 

「義理だから問題ないです! つーか、人の心読まないでくださいよ!?」

 

「保健室で何したんですか!?」

 

「人の話聞いてくださいよ! って、興味津々じゃないですか!」

 

「え、えっと………お兄ちゃんとキスして………それから………」

 

「美羽も答えなくていいから! こんな道のど真ん中でする話じゃないからね!? リオさんもなんで、うんうん頷いているんですか!?」

 

「い、いえ………その………参考になるかと思って………」

 

参考にしないでください!

 

また修学旅行の時みたいになりますよ!?

頭から湯気出して倒れますよ!?

 

『恥ずか死』なんて死に方しますよ、俺!

 

「………こっちのイッセーも大変だな」

 

鋼弥が同情するような目で呟いた。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「―――――っ!」

 

先程まで、顔を赤くして美羽に質問していたリオさんが表情を真剣なものにした。

 

赤い眼鏡をきらめかせて、何もない空中を睨む。

 

アリスが怪訝な表情で問う。

 

「どうしたの? もしかしてあいつらの魔力を探知したの?」

 

「はい。………あそこに彼らのものと思われる魔力を感じました」

 

そう答えるリオさんが指差すのは先程睨んでいた場所。

あるのは白い雲だけ。

それ以外は何もない青い空だ。

 

よく目を凝らして見てみるけど、俺の視界には何も見えない。

気を探ってみるが、やはり何も感じることが出来ない。

 

これが鋼弥達が言う霊的遮断ってやつなのか………?

 

そんな疑問を抱いていると横にいた鋼弥がふむと頷く。

 

「なるほど、そうやって隠したか。リオ、待機中の(ゆかり)に連絡して、こっちに来るように伝えてくれ。イッセーは他の捜索チームに連絡を入れてくれるか?」

 

「それは良いけど………何をするつもりなんだ?」

 

「今に解るさ」

 

「………?」

 

鋼弥の言葉に首を傾げる俺と美羽、アリスの三名。

 

とりあえず、ここは鋼弥の指示通りに動くとするか………。

鋼弥には何か策があるようだしな。

 

俺は指示通り、捜索に当たっていたチームに連絡。

すぐにこちらに来るそうだ。

 

俺が連絡を入れた直後、俺達の側に魔法陣が展開される。

 

転移の光と共に現れたのはアーシア達待機組だった。

その中には紫色のドレスが特徴的な紫さんの姿もあって………。

 

転移してきた紫さんに鋼弥が言う。

 

「紫、さっそくで悪いけど『現世(うつしよ)幽世(かくりよ)』を使ってくれ。そうすれば見えるはずだ」

 

「………わかった」

 

紫さんは一つ頷くと何かを唱え始めた。

 

………なんだ、この感覚?

感じたことのない感覚が紫さんから放たれていて………。

 

その時、突然、周囲の気配が変わった―――――。

 

先程まで感じ取れていた人の気配が………ない。

 

「紫の『現世と幽世』を使った。―――空を見ろ」

 

鋼弥に促されるまま、空を見る。

 

そして、俺達は目を見開いた。

 

「なんだ、あれは………!? あんなもの………一体どこに………?」

 

俺達の視線の先。

そこには―――――『白い繭』が浮かんでいた。

 

巨大な白い塊。

まるで繭のような形状をしたものが先程まで何もなかった空に浮かんでいた。

 

鋼弥は宙に浮かぶ白い繭を見てふむと頷く。

 

「やはり『幽世(かくりよ)』を使って、欺いていたのか」

 

「幽世?」

 

聞き覚えのない単語に俺は首を傾げる。

 

鋼弥が説明をくれた。

 

現世(うつしよ)というのは文字通り、人がいる世界。対して、幽世(かくりよ)は妖怪や魔の者が往来する世界で人間が一人もいない世界を指す。この幽世はこの世界の悪魔………いや、この世界の異形の連中達では感知はできない場所という認識でいい」

 

「それじゃあ………」

 

「ああ。奴らが身を潜めるには、うってつけの隠し場所だ」

 

アリスが言う。

 

「ったく、面倒な場所に隠れるものね。あんな繭まで作って………。火つけたらよく燃えるんじゃない?」

 

おおう、物騒なこと言ってくれるな!

確かに燃えそうだけど!

 

あの繭を見て、リオさんが静かに口を開く。

 

「彼らは……四大天使は幽世で『方舟の繭』を造り、現世で神を信じる者に対して催眠をかけて幽世へと拉致するつもりなのでしょう。そうすることで、彼らの願う『千年王国』を建設しようとした、ということなのでしょう」

 

「うわっ、なにそれ………。そんな方法で自分達の願いを叶えるなんて最低ね。というか、そんなので国を作れると思ってるのが腹立つ!」

 

アリスさんも白雷をバチバチ言わせてお怒りだ!

 

俺も怒ってるけど!

そんな身勝手すぎる奴らは放っておけん!

この場で徹底的に潰す!

 

「鋼弥! 盛大に暴れてやろうぜ! あいつらは何が何でも止めてやる!」

 

「ああ! 元々、俺達はそのためにこの世界に来たんだ! 奴らの好きにはさせない!」

 

この後、アザゼル先生達と合流した俺達は空に浮かぶ繭を目指して空を飛んだ。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

《………来たか》

 

《魔界の者共、そしてこの世界の悪魔共の気配。先日の者達か》

 

《この場所を嗅ぎ付けるとは………》

 

《それは問題ではない。問題なのは奴らが我らの障害になるということ。何人来ようが、我々にはやらねばならぬ――――この世界に千年王国を建設する為に。まずは、障害となる者たちを確実に葬ろう。信仰が無き人間どもを滅ぼすのは、その後だ》

 

異形の天使達はそれぞれの刃を煌めかせた―――――。

 

 

[三人称 side out]

 




次回よりバトルです!

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