ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
[木場 side]
僕はその瞬間を見ていた。
大天使ラファエルと名乗る異形の天使が倒れ伏す美羽さんを貫こうとした――――――その時だった。
横合いから現れた銀髪の青年がラファエルを吹き飛ばしたのは。
黒いマントを羽織った銀髪の青年。
歳は僕達の同じくらいだろうか。
見たことがない顔だけど、その力量の凄まじさは伝わってくる。
不意を突いたとはいえ、僕達が苦戦していたラファエルを殴り飛ばしたのだから。
銀髪の青年はマントを翻しながら、こちらを向くと笑みを浮かべる。
「……間一髪、と、言ったところだな」
味方かどうかは分からない。
だけど、敵………ではなのだろう。
僕達に対する敵意が全く感じられない。
何より、美羽さんを助けてくれた。
青年は美羽さんの頭を撫でると微笑む。
「ケガはないか?」
一瞬、間の抜けた顔をする美羽さんだったけど、ハッと我に返り、慌ててお礼を言った。
「あ、は、はい。ありがとうございます。助かりました」
「よし。それなら良かった」
青年は美羽さんの安否を確認すると、僕達を見渡し―――――その視線をイッセーくんに向ける。
そして、どこか安心したような表情で呟いた。
「………こっちでもおまえは赤龍帝か、イッセー」
………イッセーくんを知っている?
それに『こっち』というのはどういうことだろう?
アーシアさんの回復で傷を癒した僕達は立ち上がり、少し警戒心を抱きながら、彼に問う。
「君はいったい………?」
「俺か? 俺は―――――」
青年が口を開こうとした時、イッセーくんがゆっくりと前に出た。
赤いオーラをたぎらせ、迫力のある表情で。
一歩、また一歩と青年の方へと歩み寄っていく。
「おまえ………おまえは………っ!」
「ん? 俺を知っているのか? おかしいな………こっちのイッセーが俺を知っているはずは――――」
青年がそこまで言いかけた時だった。
イッセーくんは鎧の各所にあるブースターからオーラを噴出させる!
「お、おい!? ちょっと待て! 俺は敵じゃない!」
鬼気迫るその表情に青年は慌ててそう答えるが―――――。
イッセーくんは彼の横を通り過ぎていった。
「えっ?」
間の抜けた声を出す銀髪の青年。
まさか素通りされるとは思わなかったのだろう。
イッセーくんが向かった先――――それは瓦礫に埋もれるラファエルのところだった!
「おまえは俺の妹になにさらしとんじゃぁぁぁぁぁっ! ボケぇぇぇぇぇぇえっ!」
「「「いや、そっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」
この場にいる者全てのツッコミが合わさった!
銀髪の彼もツッコミを入れてるよ!
このタイミングでそっちなのかい、イッセーくん!?
確かに君は美羽さんのことを大切にしているけど!
君は美羽さんのこと大好きだけど!
この状況ですることって、普通は彼にお礼を言うか、彼の素性を尋ねることじゃないかな!?
もしくは共闘の提案だろう!?
それをスルーしてラファエルに飛び蹴りを入れるなんて!
ああっ!
瓦礫に埋もれるラファエルに馬乗りになって、往復ビンタを繰り出していく!
「うちの美羽に手ぇ出そうなんざ、四十六億年早ぇ! 舐めてんのか!? ああっ!? 答えろよ、このクソ偽天使! あんまり舐めた真似してるとこのデカイ目玉にワサビ練り込むぞ、この野郎! 超痛いんだぞ!? 受けてみるか、ああっ!?」
目にワサビって………なんて地味できつい攻撃なんだ!
なぜそれを言い出したんだい!?
ツッコミが止まらない僕達だが、イッセーくんの怒りも止まらない!
「大体なぁ、町中でこちとらド派手な攻撃が出来ないからって調子乗りやがってよ! つーか、姿見せてから好き勝手言ってくれたな! 俺の幼馴染みが穢れてるだと!? どうみても可愛いだろうが! スタイルもいいし! おっぱいも柔らかいんだぞ、ゴルァ!」
「い、いいいいイッセーくん! こんな時にそんな………! 堕とす気なのね! 私を堕とす気なのね!? ダメよ、こんな………堕ちちゃうぅぅぅぅ!」
イリナはこんな時に翼を白黒点滅させて何を言っているのかな!?
あと、イッセーくんの言葉遣いが変わりすぎている気がするんですけど!?
《グゥゥッ! ゴフッ! ゴアァッ!》
イッセーくんの拳が振り下ろされる度に鮮血が舞い、ラファエルが深刻なダメージを受けていく
さっきまでの僕達の攻撃よりも兄として爆発したイッセーくんの拳のほうが強力だと言うのか!
ダメだ!
これもラファエルが美羽さんを傷つけようとしたのが運の尽き!
シリアスが壊されていく!
「お、おいおい………こりゃあ、どういうことだ?」
「あ、あれって………この世界の………イッセーくんよね?」
声がしたのでそちらを見ると複数の若い男女がこちらに駆けて来ていた。
彼らは銀髪の青年の近くにまでくるが………逆鱗を振り撒いているイッセーくんの姿に目元をひきつらせている。
銀髪の青年は美羽さんの方に視線を移しながら言う。
「あ、ああ。どうやらこの世界のイッセーには妹がいるらしい。ラファエルが彼女に刃を向けた瞬間にあれだ。ギリギリのところで俺が殴り飛ばしたんだが………あの様子から察するにイッセーでも間に合っていたな、あれ」
「シスコンか!」
赤い帽子を被った青年の叫びが響く。
うん、そうだよ!
イッセーくんはシスコンなんだ!
………しかし、気になる。
今までの話し振りから察するに彼らはイッセーくんのことを知っているようだ。
先程から使われている『こっち』、『この世界』という表現。
それに彼はラファエルの名を知っていた。
つまり、目の前の異形の天使達について知っていることになる。
ここは彼らに事情を聞いて、相手について知りたいところなんだけど………。
《ヌゥゥウッ! 悪魔龍ごときがぁっ!》
呆気に取られていたウリエルが巨大な槍を振りかざし、イッセーくんに攻撃を仕掛けるが、イッセーくんは大きく後ろに跳ぶことでそれを回避。
僕達のところにまで戻ってくる。
イッセーくんに殴られていたラファエルはよろよろと立ち上がり、こちらに鋭い視線を向けた。
視線の先にいるのはイッセーくん………ではなく、銀髪の彼。
《ぬぅ……貴様は……》
まるで仇に出会った時のような憎しみが籠った瞳だ。
銀髪の青年はそんな視線を受け流すように一度瞑目した後、口を開く。
「ウリエル、ラファエル。サリエルの命により――――お前たちの羽を刈る」
ここでようやく、イッセーくんが彼に話しかける。
「あっ、美羽を助けてくれてサンキューな。………ところで、あんたら、一体何者なんだ?」
「今ごろか………。まあ、いい。俺達は通りすがりの………」
イッセーくんの問いに彼はフッと笑う。
そして、彼のそばに立つ仲間であろうメンバーがそれぞれの得物を構えた。
彼は一拍置き、力強く答える。
「―――――ハンターだ」
ハンター………?
つまり、彼らはあの異形の天使を倒しに来たということなのだろうか?
ウリエルとラファエルが憎々しげに言う。
《魔界の犬どもめ……》
《ウリエル、ここは退くぞ。ガブリエルとミカエルに報告せねばならない》
彼らの体が強く光を発っし―――――その姿を消した。
どうやら退いたようだ。
それを確認した銀髪の青年一行は構えを解き、息を吐く。
リアス部長が彼らに問う。
「危ないところを助けてくれて感謝するわ。………しかし、あなた達は何者なのかしら? あの天使達のことも知っているようだし、事情を聞きたいのだけれど?」
銀髪の青年は頷く。
「わかっている。最初からそのつもりだからな。………っと、自己紹介が遅れたな。俺は
[木場 side out]
▽
ウリエルとラファエルが退いた後、俺達は一度、オカルト研究部の部室に戻ってきていた。
部室にはグレモリー眷属と赤龍帝眷属、連絡を聞いて駆けつけてきたアザゼル先生とソーナ。
そして、涼刀鋼弥と名乗る男とその仲間。
ここに集まったのはもちろん、彼らの話を聞くためだ。
色々と疑問はあるが、まずは――――――。
朱乃が彼らに紅茶を配り終えたところでリアスが問う。
「さっそくで申し訳ないのだけれど、まずはあなた達の名前を聞かせてもらえるかしら?」
「そうだね、改めて自己紹介といこうか。俺の名前は涼刀鋼弥。気軽に鋼弥と呼んでくれ」
鋼弥と名乗った銀髪の青年に続き、他のメンバーも次々と名乗っていく。
鋼弥の次に口を開いたのは『13』と書かれた赤い帽子が特徴のヤンキーっぽい男。
「ドルキー・サーティンだ。よろしく」
「リオ・サウロンです」
白い長髪、赤い眼で眼鏡をかけた女性が丁寧に頭を下げる。
うーむ、おっぱいが大きいな。
「アタシは
珠樹と名乗った女性は赤桃色の髪をポニーテールにまとめており、白いリボンを付けている。
中々のおっぱいをお持ちだ。
「
黒髪の少女。
とても清楚な感じで大人しそうだ。
「タオ・ライシェンと申します」
タオと名乗った青年は青髪で中華服を身に纏っている。
「リザベル・フォン・シュタイン。リーザと呼んでもいいわよ。こちらの鎧を着ているのはシェリル・ヴァイオレット」
「アルス・ヴァレンタインだ。よろしく」
リーザと名乗る女性は真紅のゴスロリ服を着ていて、珠樹さんや彗花さんと比べるとおっぱいは控えめ。
シェリルさんは漆黒の鎧を身に包んだ騎士だ。
この気の感じからして女性かな?
アルスという青年は金色の瞳が特徴的。
黒を基調とした赤のラインが入っている軍服を着ていた。
「フィーナ・クレセントと申します」
プラチナのような綺麗な長髪の女性はフィーナと名乗った。
凛とした表情はどこかリアスやアリスに通じるところがある。
………まぁ、アリスはこっちの世界に来てからだらけているけどね。
「あんた、失礼なこと考えたでしょ?」
「イテテテ………頬を引っ張らないでくれ」
うちのアリスさんは相変わらず鋭い!
ちなみにフィーナさんのおっぱい的には珠樹さんと互角。
「
白髪のロングヘアーに深紅の瞳、髪に白地に赤ラインが入った大きなリボンの女性。
口調が男っぽい。
おっぱいは………アリスより少し大きいくらいかな?
「………
紫色のドレス、赤いスカーフを身につけた、群青色の髪を束ねた女性。
静かな口調で大人しそう………というよりはあまり表情が少ないといった感じか。
「カナン・ケシェット。よろしくね」
最後にカナンという灰色の髪で雪のように白い肌をした女性が自己紹介をした。
うーむ、中々の大所帯で来たな。
まぁ、俺がアスト・アーデにリアス達を連れていった時も似たようなもんだったけど。
鋼弥達の自己紹介が終えたところで、俺達も自己紹介に入る。
………美羽とアリス、イグニス以外は知ってるといった感じなのが気になるが。
「つーか、イグニスさんよ。なんで態々、実体化してきたの?」
「可愛い女の子ばかりだから、お近づきになろうかなーって♪」
「うぉい! 初対面の女子に何するつもりだ!? えっと、鋼弥だっけ!? とりあえず、逃げてぇ! 女の子連れて超逃げてぇぇぇぇ!」
イグニスの発言に珠樹さん達女性陣は目元をひきつらせ、ドルキーは変わった者を見るような目をしている。
「こっちのイッセーはツッコミが冴えてるな」
「ああ、俺達が知るイッセーとは色々と違いがあるようだ」
鋼弥も頷きながらそう言った。
アザゼル先生が鋼弥に問う。
「このイッセーとは違うイッセーを知っているような口振りだな。同姓同名で姿が似ているというわけでもないんだろう?」
「そうだ。簡単に言えば、俺達はこことは違う世界――――平行世界からこの世界に来ている」
「「「っ!?」」」
鋼弥の言葉に俺達は驚愕の声をあげる。
平行世界!?
それって先生が言ってた『if』の世界か!?
実在していたのかよ!?
………って、そこから来た!?
予想外の発言に戸惑う俺達。
先生だけは目を細めて興味深そうにしていた。
俺達の反応を見て、鋼弥は「まぁ、そうなるだろうな」と呟いて苦笑する。
「俺達は魔界と呼ばれる世界の住人だ」
「魔界?」
「魔界というのは時の流れから外れた場所。俗に言う異界だ。冥界とはまた違った場所になる」
「………聞いたことがない世界ね」
「それは俺達の世界とこちらの世界での差………『違い』というものだろう。俺達の世界にも赤龍帝兵藤一誠はいる。リアス・グレモリー、あなたもだ。兵藤一誠はリアス・グレモリーの眷属となって、日々、力を磨いている。………しかし、俺達の世界の兵藤一誠には妹はいない。これも二つの世界の違いというものだろう」
平行世界………鋼弥達の世界でも俺は赤龍帝で、リアスの眷属なのか。
それは色々と安心だ。
つーか、俺に妹いないの!?
そこが一番ショックだよ!
ああっ!?
美羽が涙目になってる!?
そんなに悲しまないで!
俺はここにいるから!
俺は美羽をギュッと抱き締める!
「泣くな、美羽! この世界の俺達がこうしてここにいるだけで十分だ!」
「うん!」
美羽も俺にしがみつく。
俺、この世界の住人で良かった!
心からそう思ってます!
鋼弥が目を丸くしながら言う。
「こっちのイッセーはその………シスコンなのか?」
「まぁ、そうだな。だが、恋人関係でもあったりする」
アザゼル先生がそう答えると鋼弥は怪訝な表情で首を傾げる。
「妹なのに恋人?」
「そいつらは実の兄妹じゃなくてな。義理の兄妹だ。こちらの世界にはアスト・アーデという異世界が存在してな。そこの魔族の姫をうちの勇者イッセー殿は連れて帰ってきたのさ」
「………すまない。今、勇者と言ったか?」
「言った。こっちの世界の兵藤一誠という男は異世界に渡って、そこで魔王を倒して勇者と呼ばれる存在になったんだよ」
「………」
アザゼル先生の言葉に鋼弥一行は暫しの間、言葉を失っていた。
というわけで鋼弥達との邂逅でした!