ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編   作:ヴァルナル

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本編の後に投稿しようと思って、書くタイミングを逃していた話。
最終章の番外編にして、本編の本当の最終話!


After ちっぽけな、一人の―――――

虹の光に包まれ、体も意識も消えていく。

自分という一つの存在が世界から完全に消滅するのが理解できた。

だが、これで良い。

これこそが自分の望んでいた結末なのだから。

 

ふと思うときがある。

もし、あの日、あの時、自分が憎しみに囚われなかったのなら、彼のようになれたのだろうか?

自分はあり得たのかもしれない彼だ。

ならば、その逆もあり得たのかもしれないと。

 

しかし、過ぎてしまった時は巻き戻せない。

何を考えても、何を願ってもあの日を変えることなんてできない。

あの日、自分は愚かだったのだ。 

 

なにが神だ。

たった一人、心の底から愛した彼女を守れないじゃないか。

なにが神だ。

たった一人、傷ついた少年を救うことができないじゃないか。

なにが神だ。

怒りに呑まれて、生み出した憎しみの塊が一体、どれだけのものを壊し続けてきたんだ。

世界が壊れていくのをただ見ているだけで、止めることすら出来なかったじゃないか。

なにが神だ。

こんなもの―――――何一つ守れない愚者ではないか。

 

ああ、そうだ。

あの日、自分は―――――僕は折れてしまったんだ。

この手はただ傷つけるだけで何も救えないのだと。

ちっぽけな僕は無力なのだと。

 

でも、諦めきれなかった。

守れなかった彼女との約束があったから。

救えなかった少年に立てた誓いがあったから。

 

確かに自分は愚かで、無力で、何も救えないのかもしれない。

それでも、こうして生きている。

生きてしまった以上、そこには何か意味があるはずだ。

こんな僕にも出来ることがあるはずだ。

 

その答えを探して生き続け、間違え続けた。

中途半端に悪を演じ、多くの者達を傷つけてしまった。

この身勝手で、確証のない可能性にかけた自分のせいでどれだけの涙を流させたのだろう。

 

それでも―――――彼を選んだことは正しかったと断言できる。

目の前に広がる光景がその証明だろう?

 

ずっと見てきた。

彼が自分達の世界に来たときからずっと。

最初は貴重な存在として観察するつもりだった。

だが、あの日。

彼が友を失った、あの運命の日から全てが変わった。

 

あの時の彼はまるでいつかの自分だった。

己の無知を呪い、無力さに嘆き、涙を流し、膝をついていた自分と同じだった。

だが、その彼は憎しみを乗り越え、成長し、こうして大勢の想いを受け止める程になった。

愛する者を守り抜き、世界の理不尽になろうとした自分を倒すまでになったのだ。

 

世界中に広がるこの温かな光。

これこそが未来を救う希望なんだ。

いつの時代、どんな世界にも闇は存在する。

恐らく、その闇が消え去ることはない。

でも、繋がる想いはやがて大きな光となって、その闇を払いのける。

その光こそがこれだ。

 

 

―――――やっぱり、君を選んで良かった。

 

 

彼は気づいていないだろう。

消え行く中、涙を流してしまったことを。

無力だった少年が、こんなにも大きく成長したんだ。

最後くらい泣いたっていいだろう?

 

あと僅かで自分はこの世界から消える。

でも、これだけは言っておきたい。

最後に、これだけは言っておかなきゃいけない。

 

 

―――――あとは任せていいかい?

 

 

消えかけの声。

自分でも聞き取れないほど、小さな声だ。

普通ならこの願いは届いていないだろう。

でも、彼は答えてくれた。

この愚か者を想い流した涙を振り払い、たった一言。

 

 

「ああ………任せろ!」

 

 

十分だった。

その強い目を最後に見ることができた。

その一言を最後に聞くことができた。

もう満足だ。

 

やっと、見つけたような気がする。

探し続けてきた答えを。

 

僕には生きていた意味があった。

 

 

 

 

ここは一体どこなのだろう。

目が覚めた時、立っていたのは見慣れぬ土地だった。

草の一本すら生えない荒れ果てた大地、空は暗雲が広がり陽の光は遮られてしまっている。

 

寂しい光景だ。

ここが自分の終着点となれば、納得だ。

もう自分が晴れやかな空の下に出ることはない。

温かな光を浴びることなどもう出来ない。

いや、そんな資格などないのだから。

 

「愚者にはお似合いの場所だ」

 

そう漏らして歩き出す。

どこを目指すわけでもない。

ただ、目的もなく永遠にこの寂しい場所を歩き続けるだけだ。

それが世界がこの愚者に降した罰なのだろう。

ならば、それを甘んじて受け入れるのみ。

それしか選べないのだから。

 

 

「どこに行こうというの?」

 

 

声をかけられた。

女性の声だ。

それは、とても懐かしい―――――。

 

「目的地はないよ。けど、少なくともそっちには行けそうにないね」

 

振り向くとそこに彼女は立っていた。

しかし、彼女がいるのはこちらのような寂しい場所ではない。

草花が咲き、空は青く、温かな陽の光が照らす、そんな優しい場所だ。

 

「見なよ、この二つの景色を。世界が僕達の住む場所は違うとでも言いたげだろう? だけど、事実その通りさ。僕にはそっちに行くことなんて出来ない。その資格はないよ」

 

多くを傷つけてきた愚者に、安らぎなんて許されないのだから。

 

彼女は寂しげな表情で言う。

 

「もう、良いでしょう?」

 

「なにがだい?」

 

「そうやって、自分を攻め続けるの。あなたはもう十分すぎる程に悩み、苦しんできたじゃない。ここに来てもまだ、あなたは自分を痛め続けるつもりなの?」

 

「………僕は、あまりにも多くの間違いを犯してきた」

 

「それは守るためでしょう?」

 

「守るためなら、何をしても許されるってわけじゃない。何かを傷つけるなら、それ相応の代償か必要だ。僕には払うべき代償が多すぎる」

 

「でも、どうやって、その代償を払うつもり? あなたはもう」

 

「わかっているさ。既に消滅してしまった僕には何も出来ない。何をしても何を考えても無駄だって理解はしているよ」

 

「死しても尚、永遠に苦しみ続けるというの?」

 

「そう、なるのかな?」

 

そう言って、彼女に背を向けた。

後ろから聞こえる彼女の静止の声も聞かずに。

 

これから無駄な旅に出る。

何も得られない、ただただ虚無しかないであろう旅へ。

愚者は愚者らしくこれからも歩み続けるだけだ。

そして、償おうにも償えない、止むことのないこの苦しみを永遠に味わい続けよう。

 

その時―――――

 

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

「へぅ!?」

 

 

 

後ろから思いっきり殴られた。

あまりに強烈な一撃により、顔面から地面に倒れただけでなく、顔面で地面を何メートルも削りながら吹っ飛ばされてしまった。

 

「あつつつつつ!? えっ、今の流れでこれ!? 流石のアセム君もシリアスパート貫いてたよ!?」

 

「うっさいわね! あなたが、私の止める声も聞かずにスタコラ行くからでしょ!」

 

「あ、ちょ、馬乗りになって、僕に何をするつもり!?」

 

「久しぶりに私の恐ろしさを思い出させてあげようかな~って。言葉で止まってくれないのなら実力行使よ。ここ、魔法は使えないけど、拳はいけるみたいなのよ、ア・セ・ム♥」

 

「うわぁぁぁぁん! 助けて、ママ!」

 

「私、あなたの母親じゃないし!」

 

なんかとんでもない理不尽に襲われた。

 

数分後―――――

 

 

「グスッ、僕の貴重なシリアスパートだったのに」

 

結論から言おう。

馬乗りになられた後、成す術もなくボッコボコにされた。

お説教に拳をおまけして。

 

「あなたがいつまでもウジウジしてるのが悪いんでしょ? 私、そういう男、嫌いなの。知ってるでしょう?」

 

「君は相変わらずだねぇ」

 

「そういうあなたは男が下がったんじゃない?」

 

「ハハハ………死んでも君には敵いそうにないね、アリシア」

 

「あなたが惚れた女は凄いんだから、当然でしょ」

 

知ってるさ、そんなこと。

君はずっと一人だった。

誰も信用できないような目をしていた。

でも、僅かな時間で君は変わったんだ。

これがどれだけ凄いことなのか。

長い時を生きていても中々変わることが出来ない僕からすれば、奇跡にも等しいことだった。

 

「そう、私は変わったわ。あなたのおかげで」

 

彼女―――――アリシアは微笑む。

 

「何も救えなかった? いいえ、あなたは私を救ってくれたわ。終わり方は悪かったのかもしれないけど、それが全てってわけじゃない。始まりから終わりまで全部含めて一つの人生だもの。あなたと過ごした道程は私にとってかけがえのないものであることに代わりはないわ。あなたと出会えて良かった。私は―――――幸せだった」

 

その言葉の後、爽やかな風が吹いた。

いつの間にか、あの寂しい光景はなくなっていて、一面が陽の当たる優しい光景へと変わっていた。

 

アリシアは僕の頬に触れて言う。

 

「それに、あなたは私との約束を守ってくれた」

 

「守れた………のかな。結局、僕は何も………守るどころか僕は」

 

「ほらほら、そう言う下向きのことを言わないの! あなたは未来を守るために頑張ったじゃない。結果だって出してる。彼がそうなのでしょう?」

 

「まぁ………ね」

 

「彼を見込んで、あなたは未来へのバトンを託した。あなたがあなたの役目を果たしてくれたのなら、それはもう約束を守ったと言っても良いんじゃない?」

 

「本当に?」

 

「ええ。それとも、私、変なこと言ってるかしら?」

 

不思議そうに首を傾げるアリシア。

 

彼女の言うことが正しいのなら、僕は約束を守れたと言っても良いのかな?

でも、本当にそうなら、僕は―――――。

 

「泣いているの?」

 

「おかしいな………嬉しいはずなのにね。どうして止まらないんだろう」

 

頬を伝う熱いものが止まってくれない。

どんなに止めようとしても、体が言うことを聞いてくれない。

こんなのは初めてだ。

きっと、僕の体はどうかしてしまったのだろう。

 

アリシアは伸ばした手を引き、僕を抱き寄せた。

そして、泣きじゃくる子供をあやすように僕の頭を撫でながら、優しく語りかけてきた。

 

「泣いて良いの。あなたは許されて良いの。ずっと悩んで苦しんで………こんなにボロボロになるまで頑張り続けてきたでしょう? もしも、あなたをこれ以上、責めるという人がいるのなら、今度は私があなたを守ってあげる」

 

「そっか………。ねぇ、アリシア」

 

「なに?」

 

「もう少し………このままでいさせてくれないかな?」

 

「もちろん」

 

それからはただ泣いた。

もう流れることはないだろうと思っていたものを、彼女の胸の中で流し続けた。

 

でも、良いよね?

もう僕は神でもなんでもない。

世界の理不尽だなんて、そんな大層なものでもない。

今の僕はただのちっぽけな………一人のアセムという存在なのだから。

 

ありがとう、兵藤一誠。

拳を交える中で君は僕を救うと言ったね。

彼女との再会はきっと、君のおかげなのだろう。

 

僕は―――――救われた。

 


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