ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編   作:ヴァルナル

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アセムファミリーほんわか劇場

[ヴァルス side]

 

私、ヴァルスと申します。

はい、皆様もご存じの通り、勇者殿―――――兵藤一誠殿とは敵対関係にいる者です。

 

「なんで、敵側の奴がナレーションしてるんだよ!」と思われるかもしれませんが、その辺りはご容赦を。

自分で言うのもなんですが、私達は悪役としてはかなりのほほんとしてるような気がするのですよ。

今回は勇者殿サイドのお話しではなく、そんな私達アセムファミリーの日常について語らせていただこうかなと思います。

 

「ふぁ………ヴァルス、おはよ?」

 

おっと、少し早いですが導入はここまでにしておきましょう。

我が愛しの妹ベルたんが瞼を擦りながら、起きてきました。

 

我が父、アセムが生み出した四人の中でも最強の力を持つ少女。

描いたものを創造する能力に、触れた相手を複製する能力。

ロリな見た目とは想像できない程にチート能力の持ち主。

そんなベルたんも普段は可愛い女の子なのです。

 

あ、ちなみに私はベルのことを心の中では『ベルたん』と呼んでいます。

何故かって?

可愛いからですよ。

それ以外の理由など必要ありません。

 

現在、朝の六時半。

私、ヴァルスはアセムファミリーの料理番を勤めているので基本的に朝は早いのです。

まだ朝食は出来ていないので、ベルたんはまだ寝ていても良いのですが………、

 

「んー………ベル、何したら良い?」

 

なんと、ベルたんは私を手伝うために早起きをしてくれるのですよ!

なんという優しい子なのでしょう!

………と言っても、ベルたんは料理が出来ないので、自動的に配膳係になってしまうのですが。

 

「ベル、今日の朝食は何が良いですか?」

 

「………サンドウィッチ食べたい」

 

「では、そうしましょう」

 

私は微笑むと、エプロンを装着した。

 

 

 

 

「むむむむ………ヴァルス、あなた、また料理の腕を上げたわね。パンの絶妙な焼き加減にスパイス、それにこのオニオンスープ。やるわね」

 

スープカップに口をつけながら何やら唸るヴィーカ。

 

『武器庫』の名を持つ、創造し、貯蔵した武器をたくみに扱う能力を持ちます。

純粋な剣技だけなら、私に軍配があがるでしょうが、能力をフルで使われると厳しいでしょう。

彼女が強いのは様々な武器を自在に操るその技量も含まれていますから。

 

まぁ、私も他者の心の内を読むという能力と、一瞬先の未来を見るという能力があるので、それらを使用すれば話は変わってきますが。

 

それはさておき、ヴィーカも時々ですが、アセムファミリーの料理番をしていたりします。

………私の腕が上達したことで、彼女の対抗心に火をつけましたね。

ヴィーカ、あなたは掃除番なのですから、そっちで頑張ってください。

 

「ヴィーカ、あそこに置いてある掃除機………また創ったのですか?」

 

私の視線の先にあったのは掃除機。

私の疑問にヴィーカは胸を張って、自慢気に返してきた。

 

「よくぞ聞いてくれたわ! 世界中の掃除機メーカーの技術を学び、改良に改良を重ねて、ようやく完成したわ! 名付けて『ヴィーカ・サイクロンMk-12』! 吸引力、動作時の静寂さは他の追随を許さない! これで私は世界を掴むわ!」

 

「………」

 

熱く語るヴィーカ。

実は彼女、家電大好き人間なのです。

家電量販店に行っては最新の家電に目を奪われ、数時間はその場所から動いてくれません。

で、その家電好きが高じた結果、自分の能力でオリジナルの家電を作るようになってしまいまして………。

 

我が家にある掃除機、冷蔵庫、洗濯機………その他諸々の家電はヴィーカお手製。

あらゆるメーカーの製品を学び、独自の改良によって作っているので、既存の製品より性能が良いのです。

 

しかも、タダ!

保証期間は無期限!

「能力使って何をしてるんですか!」とツッコミたいところですが、ここは我慢しましょう!

だって、タダなんだもの!

 

「おまえも好きだねぇ。チーズ、うま」

 

机に頬杖をつきながらそう言うのは我らが誇る巨漢、『破軍』ラズル。

その豪腕から放たれる拳は神をも砕き、分厚い筋肉の鎧はいかなる攻撃をも防ぐ盾となる。

更に引力と斥力を操る力も備えており、直接的な攻撃力・防御力という点では私達四人の中でも最強と言えるでしょう。

 

「ラズル、それは特売で買った安物ですよ? 百五十円」

 

「マジか。あ、そこのイチゴ牛乳取ってくれ」

 

「あなたも好きですね、見ためと合っていませんよ」

 

「見た目とか関係ねーし。ベルも飲む?」

 

「………うん。ありがと、ラズル」

 

頷くベルにニコニコ顔でイチゴ牛乳を手渡すラズル。

いやぁ、やはりと言いますか、なんと言いますか………結局のところ、我々はベルには甘いシスコンなんですよねぇ。

 

「………おいし」

 

ベルがニッコリ微笑んだ時なんてもう―――――

 

「「「今日もベルちゃん、きゃわ!」」」

 

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャ………

 

 

朝の食卓でシャッター音が止まらなくなる。

自前の一眼レフを構え、あらゆる角度からシャッターを切る。

これが朝の恒例行事。

 

「………っと、そろそろ仕度しねーとな」

 

壁にかけられた時計を見ながらラズルがそう言った。

 

時刻は八時半………なるほど、そろそろ出勤ですね。

世界を騒がせているクリフォトに協力している私達ですが、特に動かない時には普通に働いているのです。

仕事はいくつか掛け持ちしているのですが、

 

「ラズルは今日はどこへ?」

 

「ラーメン屋。おまえは?」

 

「私は―――――」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

ファーストフード店『マグロナルド』。

本当ならば休みだったのですが、店長の頼みでいつもと違う店のヘルプに入ることに。

というのも、今日は近くの広場でイベントがあるそうなのです。

そういう日は尋常ではない数の客がやってくるらしく、特にお昼時は戦場のようで―――――、

 

「ポテトS!  コーラ入りましたぁぁぁぁ!」

 

「はぃぃぃぃぃ!」

 

「先輩ぃぃぃぃ! レジが大破しましたぁぁぁぁ!」

 

「マジでか!? こんな時に!?」

 

「うおっ!? ヘルプの人、倒れてんぞ!?」

 

「立てぇぇぇぇ! 立つんだ、ヘルプの人ぉぉぉぉぉ!」

 

うん………なんか凄いことになってますね。

季節はもう冬だというのに異常なほど暑い店内。

 

私、ここに勤務してから間もないので良く分からないのですが、ファーストフード店というのはここまで忙しいものなのでしょうか?

立地が良すぎるのでしょうか?

それとも、私が舐めていただけなのでしょうか?

正直、剣を振るっている時よりも………キツい。

 

同じヘルプの一人が言った。

 

「ちくしょう………どうすんだよ! このままじゃ、全員倒れるぞ! どうすればいいんだよ!?」

 

そうなった場合、閉店したら良いと思うのですが………。

 

「くっそう………! こうなったら、近隣からヘルプを呼びまくって………! ダメだ、もう呼び尽くしてる………!」

 

呼び尽くして、この現状なら本当に地獄ですね………。

 

「だったら、ヘルプのヘルプを呼んで、それでもダメならヘルプのヘルプのヘルプを―――――」

 

ヘルプのヘルプのヘルプってなんですか。

それはもう一括りにヘルプじゃダメなのですか?

 

私は額に流れる汗を拭い、店内を見渡した。

 

レジは一大大破。

ヘルプも一人倒れた。

消えない行列という絶望に倒れていく仲間達。

 

そんな彼らに私は言った。

 

「あなた達は調理と配膳に回ってください。恐らくこのままだと、後ろがもちません」

 

すると、彼らは驚いた表情で、

 

「それって、ヴァルスさんが一人でレジをするってことですか? 無茶だ! 一人でこの数を捌けるわけがない! それにそんなことをすれば死にますよ!?」

 

死にませんよ。

 

「そこは心配なさらずに。こういう時のための必殺技といえるものが私にはあるのですよ。止まっている暇はありません。さぁ、行ってください。―――――ここは私が引き受けます」

 

「………ッ! わ、分かりました! 必ず帰ってきます! だ、だから、任せます………!」

 

涙を拭ってバックヤードへと駆けていく。

それを見送った私は目の前の客に笑顔を向けて――――

 

「そちらのお客様はチーズバーガーのセットを二つ、そちらのお客様はテリヤキバーガーとコーラLですね?」

 

そう言うと、二組の客は目を丸くして、

 

「「えっ………? 合ってるけど、注文言ったっけ?」」

 

言ってませんよ。

ただ私はあなた方の心の内を読んだだけで。

 

そう、こう言う時に私の能力は役に立つ。

客の注文を先読みし、声に出す前に確認を取る。

これだけで数秒は稼げる。

更に後ろで待っている客の心の声を読むことでより早く注文を取れるようになる。

 

更に―――――。

 

「す、すげぇ………! ヴァルスさん、二つのレジを同時に操作してる! しかもミスがない!」

 

左右に設置されたレジの両手同時操作。

普通にやれば、どこかでミスが生まれてしまうでしょう。

 

しかし、ネトゲで鍛え上げられたこのキーボード操作力の前には問題ない。

両手両足四キャラ操作すらこなしたこのヴァルスにかかれば、この程度―――――レベル1のスライムをレベル100のキャラクターで倒すようなもの!

 

流れるような指さばき!

無駄の無い釣り銭渡し!

これにより、行列の進行スピードが先程よりも格段に早くなっていく!

 

「おお………おおおおお! ス、スゲェ! 一人でこんな………マジかよ!?」

 

「ヴァルスさん、マジパネェスッ!」

 

バックヤードで歓喜の声をあげるスタッフ達。

そんな彼らに私はクイッと帽子を上げて、不敵に告げた。

 

「本気を出した私は強いですよ? レジ打ち数百人分はこなせますからね。それより、後ろは任せましたよ?」

 

「「はいっ! ヴァルスさん!」」

 

うんうん、元気のある返事です。

この分なら、捌ける量もかなり変わってくるでしょう。

 

そう頷いていると、ふいに店長の声が聞こえてきて、

 

「ヴァルスか………次の店長はあいつで決まりだな」

 

どういう基準で店長を決めてるんですか!?

 

気を取り直して、レジ打ちに意識を戻す。

すると、そこには見覚えのある顔触れがいて、

 

「………なにしてるんですか、父上。それにヴィーカとベルも」

 

白髪と白いパーカーが特徴的な少年。

我らを作りし偉大な父―――――アセム。

そして、その後ろに手を繋いでいるヴィーカとベルたん。

 

父上は無邪気な笑顔を浮かべて言う。

 

「いやぁ、ここのところ働きっぱなしじゃん? 心配して見に来たんだよ」

 

「本音は?」

 

「暇だったから!」

 

「やめてくれません? ただでさえ死ぬほど忙しいんですから、やめてくれません?」

 

「アッハッハッハッ♪」

 

まったく、この人は………。

まぁ、いつものことですが。

凄まじい力の持ち主であることは確かなのですが、どこまでもマイペースなので、たまに疑うことがあります。

 

………あと、たまに超腹立つ。

本当に忙しい時にイタズラ心を出すのは勘弁してほしいものです。

 

「ご注文はご当地バーガーAセット二つとキッズが一つですね?」

 

「お、流石だねぇ。言わなくても注文を取るとは」

 

「そういう風に作ったのはあなたでしょうに」

 

父上達の注文を確認した後、レジを操作する。

とりあえずは忘れよう。

少しイラッとしましたが、ここは忘れましょう。

今は仕事に集中せねば…………!

 

そうして、次の客へと意識を移そうとした――――その時。

 

「あ、ヴァルスのゲームさ。間違ってセーブしちゃってデータ全部消えちゃった」

 

「キエェェェエェェェェェェッ!」

 

父上に必殺脳天チョップを撃ち込んだ。

 

 

 

 

激戦を終え、帰宅後。

 

「父~上~!」

 

私は父上の頬を全力で引っ張っていた。

………泣きながら。

 

あっはっはっ(アッハッハッ)………ほへんほへん(ゴメンゴメン)いひゃ~まふぁか(いや~まさか)れーたらきえるなんへ(データが消えるなんて)おもっへなくふへは(思ってなくてさ)

 

「全く謝罪の意を感じられませんな!」

 

「ひゃぁぁぁ~」

 

ううっ………せっかく頑張ってたのに。

仕事から帰ってコツコツ、キャラを育てて進めていたのに。

あと少しでラスボスだったのに。

 

床に突っ伏しているとポンッと肩を叩かれた。

顔だけそちらに向けるとヴィーカが苦笑していて、

 

「まぁ、もう一度育てる楽しみが出来たってことで良いじゃない。ゼロからのスタート。大丈夫、きっと帰ってくるわよ、あなたのお気に入りキャラ―――――えっと、なんだっけ?」

 

「そこまで言って、思い出せないんですか!?」

 

そんな中途半端な慰めは必要ない!

返せ!

私の―――――

 

「私のビアンカを返せぇぇぇぇぇぇ!」

 

「あっ、おまえ、ビアンカ押しなんだ。俺もだわ」

 

「………気が合いますね、ラズル。ビアンカ………良いですよね」

 

「じゃあ、僕がビアンカを育ててあげるよ。僕色に染め上げて見せるよ」

 

「やめて! あなたはビアンカに何をするつもりですか!? 許しません、許しませんよ! いくら父上だろうとビアンカを汚すことは………って、何ですか、この拘束は!?」

 

「アハハ♪ さてさてさーて、どうしよっかなー♪」

 

「あぁぁぁぁぁぁっ! ビアンカがぁぁぁぁぁぁっ! ラズルゥゥゥゥゥ! ヘェェェェェルプゥゥゥゥゥゥッ!」

 

「悪ぃ、テレビ見るから頑張ってくれ」

 

「そ、そんな………ヴィーカ! あなたは助けてくれますよね!?」

 

ヴィーカに助けを求めるが―――――。

 

「あ、ゴメンなさいね? 今からベルを寝かしつけるから」

 

「ふぁ………ん………眠い」

 

瞼を擦るベルたんを抱き上げるヴィーカ。

ベルたんは一人では寝付けないので、毎夜、ヴィーカが添い寝をしているのです。

なんと羨ましい………。

私だって、可愛い妹の寝顔を見ながら眠りたい!

 

そんなわけで―――――。

 

「天は我を見放したか………ガクッ」

 

私は身動きの取れないまま、ガクリと頭を下ろしたのだった。

 

 

[ヴァルス side out]

 


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