ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
俺はイサオさんの言葉を聞いて、即答した。
「帰るか」
踵を返して、来た道を戻ろうとする俺をアザゼル先生が引き止める。
「おいおいおいおい! なに勝手に帰ろうとしてんだよ!」
「えっ、ダメなんですか?」
「ダメに決まってるだろ!? まだ何も終わってないだろうが!」
「いや、もう終わってると思うんですけど。なんですか、『魔教皇ビチグソ丸』って。なんで、あのゴリラは魔王みたいな格好してるんですか。別の意味で終わってるでしょ、これ」
確かに、俺達はこの島に来てからなにもしていない。
ジャングルの中を歩き、珍しいゴリラを発見しただけだ。
でもね、もうこれだけで良いじゃないか。
珍しいゴリラを見られただけで良いじゃないか。
これ以上、何をしろと?
ツッコミか?
ツッコミが足りないのか?
そんなもん、この場において、なーんにも意味を成さないんだよ。
だって、ゴリラだもの。
敵も味方もゴリラだもの。
ひたすらウホウホ言ってるだけだもの。
と、いうわけでだ。
「よーし、それじゃあ今日はこれで解散な。帰ってゲームしようぜ」
こうして、短かった俺達の戦いは終わった。
「勝手に終わらせるなよ! 俺達の戦いは始まってすらいねーよ!? おい、イッセー! ツッコミはおまえの仕事だろ!? 働けよ!」
「あんたにだけは言われたくないね。あんたこそ、働けよ」
「ちくしょう、言い返せねぇ! つーか、なにその投げやりな目!? おまえ、キャラ変わってるぞ!?」
「はいはい、ウホウホ」
「俺はゴリラ語喋らねーぞ!?」
そんなやり取りをしている横で美羽とアリスが、
「どうしよう、お兄ちゃんの心が荒んでる………」
「だって、ゴリラだもの。どこまでいってもゴリラだもの」
▽
今すぐ帰りたい気持ちで一杯なのだが、流石にリアス達を置いて帰るのは気が引けたので、現実(ゴリラ)と向き合うことにした俺。
ピラミッド型の神殿らしき建物の頂上に立つゴリラ―――――魔教皇ビチグソ丸とやらに視線を戻す。
まぁ、確かにオーラだけなら並外れたものを感じるな………ゴリラなのに。
ビチグソ丸が俺達を見下ろして口を開いた。
「―――――ウホ」
「ねぇ、レイナちゃん。翻訳されないと分からないんだけど。翻訳機、機能してないんだけど」
「あ、ゴメン。多分、今のは南ゴリラ語なんだわ。イサオさんは北ゴリラ語だったから、翻訳機の設定が………」
なにそれ、ゴリラ語に北とか南とかあるの!?
どっちも『ウホ』じゃん!
同じじゃん!
つーか、君も良く聞き分けることができたな!
レイナが翻訳機の設定を操作したところで、ビチグソ丸の言葉が翻訳されていく。
「ウホホ(訳:そろそろ来ると思っていたぞ、三大勢力の狗共。堕天使の総督自ら出張ってきたのは予想外だったがな)」
アザゼル先生が言う。
「『前』総督だ。今はこいつらの監督だよ。それにしても、よりにもよって、おまえが今の
「先生、あのゴリラを知ってるんですか?」
俺の問いに先生は苦い顔で頷く。
「ああ。奴は各勢力から最も過激で危険なゴリラとして、ブラックゴリラリストに載っていてな」
「今、謎のワードが出てきたけどあえてスルーします。過激で危険ってのは?」
「かつて、各勢力の争いが頻繁に行われていた頃、奴は傭兵としてあちこちの勢力に手を貸していてな。多くの兵が奴にスパーキングされたのさ。全員がゴリラ恐怖症になって、今も引きこもってる」
それは………お気の毒に。
「無数の敵にスパーキングで沈めたことから、奴は畏怖を込めて多くの者からこう呼ばれることになった―――――ビチグソ丸、と」
その理由でいくとほとんどのゴリラがビチグソ丸って呼ばれそうなんですけど。
あのゴリラは俺の想像もつかないほどスパーキングの嵐を巻き起こしたということなのだろうか。
アザゼル先生がビチグソ丸に問う。
「ビチグソ丸、おまえの目的はなんだ? かつて戦場で大暴れしていたとはいえ、大きな争いが無くなった後は姿を見せなくなったおまえが、なぜ今になって出てきた? 三大勢力の関係者を襲撃する理由はなんだ?」
「ウホッ(訳:なに、簡単なことだ。我々にとって時が満ちただけのこと。我々の理想郷―――――ゴリラ王国を作り上げる。そして、この世界を我が手にする)」
すいません、ゴリラ王国ってなんですか!?
つーか、このゴリラ、世界征服企んでたの!?
なんてベタなこと考えてるんだ!
ビチグソ丸は笑みを浮かべて続ける。
「ウホホ(訳:そのためには各勢力で行われている和平協定を崩す必要がある。いかに我々の力が大きくとも、各勢力が連携を取っている中で動くとこはできないからな。だから、和平の中心となっている貴殿ら三大勢力を狙うことにしたのだよ。貴殿らを崩せば、各勢力の足並みもそれなりに乱れるだろう?)」
現在、各勢力で執り行われている様々な協定はアザゼル先生達―――――三大勢力のトップ達が大きく関わっている。
先生達がそれぞれの勢力の間を取り持っているからこそ、話が進んでいるんだ。
もし、ビチグソ丸の言うように三大勢力が崩れてしまった場合、影響は大きいだろう。
このゴリラは関係者を襲い始め、遂には堕天使の幹部の襲撃も成功させた。
じわりじわりとこちらの首を絞めてきていたということだ。
「ウホウホホホ(訳:我々が襲撃を繰り返し、堕天使の幹部の襲撃をも成功させたとなれば、貴殿らは討伐隊を送り込んでくる。そして、それは今話題のチーム『D×D』だろう。これを返り討ちにすれば、冥界、天界に大打撃を与えられるのは間違いない。今回、一つ計算外だったのは堕天使の前総督が直接赴いたことだな。まぁ、我々にとっては嬉しい誤算となったがね)」
なるほど、チーム『D×D』に加えて堕天使の前総督を討ったとなれば、その影響はかなりのものになる。
こいつ、そこまで考えていたのか………。
アリスが半目で言う。
「ゴリラなのに割りと計画立てて動いてるのが腹立つ」
「それな!」
ゴリラなのに!
ウホウホ言って、人の顔面にスパーキングしてるだけなのにね!
ビチグソ丸の言葉にアザゼル先生が口を開く。
「俺達を狙う理由はそういうことか。そうなると、俺やサーゼクスも狙われていたわけか」
「アザゼルはともかく、お兄様までスパーキングされるのは………」
「俺は良いのかよ!? ………ま、まぁ、それは置いておく。ビチグソ丸、おまえの考えは分かったが、時が満ちたというのはどういうことだ? その考えでいけば、もっと早い段階で動くべきだったはずだ」
アザゼル先生の問いにビチグソ丸が答える。
「ウホッ(訳:単純な話、世界を取るためには戦力が足りなかっただけのことだ。神々の力は強大。たとえ、勝利したとしても、我々も大きな損害を被ることになる。それでは、我々の先が続かない)」
「では、おまえ達は世界を取るための力を得たと言うことか?」
「ウホ(訳:そうだ。まぁ、正確にはこれから得ることになるのだがね)」
「なんだと?」
眉をひそめるアザゼル先生。
力をこれから得るだと………?
どういうことだ?
ビチグソ丸の言葉に疑問を抱いたその時だった。
ガゴンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!
弾けるような音と共に突如、一帯が大きく揺れ始めた!
「な、なに!?」
「あれ………! 見て、神殿が崩れていくわ!」
イリナが指差した方を見ると、ビチグソ丸が立っている神殿が、揺れと共に崩れ始めていた。
綺麗に積まれていた石がバランスを崩し、上から降ってくる!
なんだ………なにが起きようとしているんだ!?
揺れが更に大きくなっていくと神殿の崩壊が更に進んでいく。
そして、石造りのピラミッドの中から何か巨大なものが姿を見せ始める。
揺れが止まった後、舞った砂埃の奥に影が映る。
「あれは―――――」
砂埃がおさまり、それを視認した時、俺は目を見開き絶句した。
神殿の中から現れたのは―――――
「デカいゴリラの石像じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
天を仰ぎ、叫ぶ俺!
そう、崩れた神殿の中から現れたのは、巨大なゴリラの石像だった!
「もうゴリラは良いだろ!? この騒動に巻き込まれてから、どれだけ『ゴリラ』って叫んだと思ってるの!? しつこいんだよ! いい加減にしてくれませんかね!?」
この短期間の間に『ゴリラ』って単語を連発することって、長い人生でもそうないと思うんだ!
つーか、なんでゴリラの石像!?
二十メートルくらいあるけど、誰が作ったの、これ!?
なんで、こんな無駄にデカいゴリラ作ってるの!?
意味わかんない!
ふとリアス達を見てみると、驚きこそしているが、あのゴリラの石像が何なのかは理解できていないようだ。
アザゼル先生さえ、あれの正体が分からないといった表情だ。
だが、そんな中で一人驚いている様子のイサオさん。
「ウホッ(訳:馬鹿な………!)」
手を震わせるイサオさんにアザゼル先生が問う。
「あれを知っているのか、イサオ。あれは一体………」
「ウホホ(訳:アザゼルさん、あんたも知っているはずだ。あの石像は―――――)」
イサオさんがそこまで言いかけた時、ビチグソ丸が高らかに笑った。
「ウホホホホホ!(訳:フハハハハハハ!)」
その訳は必要ですか!?
笑い声まで訳さなくて良いよ!
ビチグソ丸が言う。
「ウホッ、ウホホホホホ!(訳:堕天使の前総督よ、貴殿は忘れたのか? 我らの神を、偉大なる我らが王のことを!)」
「おまえ達の神だと………まさか!」
「ウホッウ!(訳:そうだ! この石像には今は亡き、我らの偉大なる神の力が、意思が宿っているのだ!)」
あいつらの神って………ゴリラの神だよね?
そのゴリラ神の力と意思があの石像に封じられているってことなのか?
そんな疑問を浮かべていると、一歩前に出たヴァーリが俺に言ってくる。
「兵藤一誠。君に教えておこう。ゴリラはドラゴンに次ぐ強力な種族だ。穏やかな性格の者がほとんどだが、中にはあのビチグソ丸のように過激な者もいた。これらを纏めあげるのは難しい。だが、かつて、そんな彼らを統べる最強のゴリラがいた。全てのゴリラを従えたゴリラの王、ゴリラの神とまで呼ばれた存在。神々も恐れた最強のゴリラ。その名は―――――」
ヴァーリはその名を口にした。
「―――――コンドー」
さぁ、ツッコミの時間だ。