ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
というわけで、久し振りの投稿です。
しばらく書いていないと自分の文章スタイルを忘れそうになります(苦笑)
時系列は吸血鬼編の直後です。
1話 襲撃事件とエージェント
[三人称 side]
冥界、堕天使領にあるグリゴリの施設。
グリゴリ幹部であるバラキエルは神妙な表情で廊下を歩いていた。
神の雷光、聖書にも記された伝説の堕天使。
そんな彼は今、ある事件の対応に追われていた。
その事件とは―――――。
「ここ数週間の間に三大勢力の関係者が襲撃を受けている、か」
実はチーム『D×D』が結束される少し前から、三大勢力の関係者が襲撃を受けるという事件が続いていた。
幸い死者は出ていない。
しかし、つい先日には堕天使幹部の一人が襲撃を受け、現在は医療機関にて治療を受けている状況だ。
被害者に事情聴取を行ったところ、犯人の姿は覚えていないらしい。
ただ………
『気配を感じて振り返った瞬間、何かが顔に叩きつけられた。そこから先はよく覚えていない』
という共通の証言が取れた。
最初の被害者が出た時には、死者もなく、軽い怪我で済んでいたため、軽く見ていた。
しかし、事件が続き、幹部まで襲撃を受けたとなるとそうはいかない。
早急に事態の収拾に当たる必要がある。
バラキエルは顎に手を当てて呟く。
「しかし、分からないものだな」
被害は既に十数件に及ぶ。
しかし、死者は一人としておらず、犯人からの要求もない。
そうなると犯人の目的が分からない。
ただの愉快犯?
それも考えられる。
だが、なぜ三大勢力を狙う?
三大勢力に恨みがある者の犯行?
十分にあり得る。
それなら、なぜ死者が出ていない?
どちらにせよ、相手はグリゴリ幹部をも倒した実力者だ。
油断はできないだろう。
「吸血鬼との一件も落ち着きつつある。アザゼルに相談してみようか」
表舞台に姿を現したリゼヴィム・リヴァン・ルシファーと、彼が吸血鬼の領地で引き起こした大惨事。
現地でその対応に追われていたアザゼルも今は駒王町に戻ってきている。
アザゼルならば、何かしらの対応策を思い付くかもしれない。
その時―――――。
「何者だ」
バラキエルは立ち止まり、背後にいる者に声をかけた。
数は一人。
二人の距離は十メートルといったところだろう。
それだけ接近されるまで、バラキエルに気配を感じ取らせなかった存在。
間違いなく相当の手練れ。
バラキエルは背を向けたまま、手に雷光を纏わせて言う。
「投降しろ。そうすれば、悪いようにはしない」
「………」
バラキエルの警告にそれは答えない。
それどころか、先程よりも確実に距離を詰めてきている。
「それが答えか。ならば―――――」
バラキエルが振り向き、大出力の雷光を放とうとした。
しかし、撃てなかった。
それはバラキエルが攻撃するよりも速く、動いていたのだ。
バラキエルは犯人の顔を見ることなく―――――。
[三人称 side out]
▽
「バラキエルがやられた」
アザゼル先生から緊急召集を受け、オカ研の部室に集まった俺達が告げられたのは衝撃の情報だった。
予想外過ぎることに状況を呑み込めなかった俺達だったが、深刻な表情を浮かべる先生の表情に理解せざるを得なかった。
朱乃が顔を真っ青にして言う。
「父様が………そんな………!」
「落ち着け、朱乃。なにも死んだわけじゃないし、命に関わるような重傷を負ったわけでもない。あいつは無事だ。今はうちの医療施設で治療を受けている」
「………!」
アザゼル先生の言葉に安堵する朱乃。
緊張から一気に力が抜けたのか、よろめいたので俺は朱乃の体を支えた。
バラキエルさんは無事に安心はしたけど、色々と疑問のある情報だな………。
俺は朱乃をソファーに座らせると、先生に言った。
「先生、いきなり『やられた』なんて言わないでくださいよ。あんな報告されちゃ、誰でも勘違いしますって」
「すまん。だが、バラキエルが襲撃を受けて、負傷したのは事実なんでな。今回は助かったが、もしかしたら………ということもあり得た話だ。それだけ今回の件は大きい事態なんだよ。レイナーレ、事件の概要を説明してやってくれ」
「はい」
アザゼル先生から指示を受けたレイナは魔法陣を展開すると、そこに映像を映し出した。
映像にはバラキエルさんが襲撃を受けたという場所と現場の状況について書かれていた。
「バラキエル様が襲われたのはグリゴリの施設内。施設と施設を繋ぐ渡り廊下よ。第一発見者はうちの研究員で、早朝に廊下を歩いていたら汚物まみれで気絶するバラキエル様を見つけたらしいわ」
ん………?
ちょっと待って。
「なんで汚物まみれ?」
「さぁ? でも、調査したところ、それは動物の糞じゃないかって」
「ごめん、意味分からない。つまり、どういうこと?」
なんで、堕天使幹部のバラキエルさんが動物の糞まみれで倒れてるの?
意味分からないのは俺だけ?
木場の方に視線を移すと、こいつも首を傾げて頭に疑問符を浮かべていた。
他のメンバーも同様で、ちょっと安心した。
すると、アザゼル先生が真剣な声で言った。
「つまりだ。簡潔に言うと、バラキエルは振り返り様―――――ウ○コを顔面にスパーキング! されてやられたわけだ。分かったか?」
「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
なんでだ!
なんで、ウ○コを顔面にスパーキングされてやられてるの!?
そんなのでやられたの、バラキエルさん!?
「全治二週間のケガだそうだ」
「そんなにかかるの!?」
「ああ。なんか、物凄いスピードでスパーキング! されたらしくてな」
「あんた、スパーキング言いたいだけだろ!?」
そんなツッコミをしていると、リアスが言った。
「もしかして、三大勢力の関係者が襲撃を受けている事件と関係があるのかしら?」
「そういやそういう情報も入ってたな。襲撃を受けてるのに誰一人、死者も重傷者も出ていないっていうやつ?」
俺の問いに頷くリアス。
少し前から三大勢力の関係者が襲われているという事件が続いているらしい。
だけど、誰一人として大きな傷を負ったものがいないという。
襲撃を受けた人全員が気を失っている状態で発見されるという妙な事件だ。
「ええ。新しい情報では襲撃を受けた者全員―――――汚物まみれだったらしいわ」
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
なんで全員が汚物まみれ!?
もしかして、全員がスパーキングされてるの!?
どんな襲撃事件!?
アザゼル先生が言う。
「その通りだ、リアス。全ては繋がっている。そう、この事件は同一犯の可能性が高い」
「そりゃそうでしょうね!」
「糞から検出されたDNAが全て一致した」
「襲撃の手口で分かるだろ!」
「模倣犯という可能性もあるからな」
「こんなの模倣する奴がいてたまるか!」
木場が先生に問う。
「狙われているのは三大勢力の関係者だけ………動機は何なのでしょうか?」
その質問に先生は苦い表情で答える。
「俺達は色々なところで恨みを買ってるからな。今回の件、三大勢力に恨みがある者の犯行かもしれん」
先生の言葉にリアス達は重い表情になるが………。
うん、待とう。
ちょっと落ち着こう。
ウ○コを顔面にスパーキングされるような恨みって、どんな恨み?
アザゼル先生は壁にもたれかかり、窓から見える夕日を見つめながら静かに言った。
「俺達には受け止める義務があるのさ。たとえ、どんなウ○コだろうと受け止めなきゃな………」
「先生、意味分からないです。そもそも受け止めきれてないです。思いっきりスパーキングされてますもん。とりあえず一人だけスパーキングされてきてください。多分、それで解決すると思います」
「イッセー………おまえ、俺がどうなっても良いのか?」
「「「「うん」」」」
「イッセーだけに聞いたのに、なんで、全員頷いてるんだよ!」
「「「「日頃の行いかなって………」」」」
「うるせーよ! あと、ハモるなよ!」
▽
「というわけで、流石に幹部までやられたとなっちゃ、大人しくしているわけにもいかん。そこでだ、チーム『D×D』のメンバーにも動いてもらうことにした」
まぁ、すんごく馬鹿みたいな事件だけど被害者出てるしな。
これ以上、被害が広がる前に止める必要はあるだろう。
もしかしたら、俺達だって襲われるかもしれないしな。
ギャスパーが言う。
「でも、僕達だけで犯人を見つけることなんて出来るでしょうか?」
ゼノヴィアとイリナも続く。
「犯人の素性が分からないとなるとね」
「あと、襲撃の場所もバラバラだし」
どこの誰とも分からない。
襲撃の場所もバラバラで、被害者も三大勢力の関係者という大雑把な共通点しか分かっていない。
美羽がレイナに訊ねる。
「バラキエルさんが襲われた時の映像はないの? グリゴリの施設なら防犯カメラとかもあるでしょ?」
「あることにはあるけど、ダメね。防犯カメラのレンズ全てに糞が付いていて、犯人は確認できなかったわ」
「そこも!?」
防犯カメラもやられてたのか!
犯人って、凄腕の殺し屋か何かですか!?
あ、でも、誰も死んでないのか………。
アザゼル先生が言う。
「そのあたりは心配するな。この件に関して前々から調査していたうちのエージェントと組んでもらう。そいつと共に動いていれば、犯人の確保も出来るだろうよ」
エージェント?
幾瀬さんみたいな?
レイナもうんうんと頷く。
「変わった人だけど腕は確かよ」
変わった人かぁ。
まぁ、俺の周りって変わった人が多いし、今更ではあるよね。
不意に部室のドアがノックされた。
先生が時計を見ながら言う。
「お、時間通り。いつものことながら、ちょうどの時間に来やがる。おう、入ってくれ」
先生に促され、ドアが開く。
その人物は部屋に入ってくるなり、深く頭を下げた。
そして、俺達はその人物の顔を見るなり、思考が停止した。
アザゼル先生はその人物の横に立つと、紹介を始めた。
「紹介する。こいつがうちのエージェントの一人。名前は―――――」
「ウホ」
先生に続き、グリゴリから派遣されてきたエージェントは一言だけ言葉を発した。
んー………あれ、目と耳がおかしくなったかな?
何かグリゴリのエージェントがなんだか………ゴリラに見えて………。
俺は何度か目を擦って、何度も確認してみた。
なんなら、頬をつねって、この状況が夢ではないことも確認してみた。
夢じゃ………ない。
え、ちょっ………え?
エージェント………え?
確かにビシッとスーツは着ているし、体もごつくてそれっぽいけど。
体の表面を黒い毛で覆われ、スーツの胸ポケットにバナナを入れたその人物は間違いなく―――――。
「ただのゴリラだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
次回に続く!