ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
「やっほー、迎えに来てあげたわよ」
校門前で手を振ってくるのはアリスだ。
こっちの世界に来てからは基本、家にいるんだが………、たまにこうして学園に来る時がある。
今は夕方。
部活終わりに帰る生徒もいる時間だ。
そのため、その生徒達もアリスを見ることになるんだけど………。
「綺麗な人………誰だろう」
「あ、兵藤先輩の知り合いみたいだけど………もしかして彼女!?」
などという声が耳に入ってくる。
アリスはこういう時、すごく目立つからな。
どこに行っても注目の的だ。
美人ってのもあるんだけど、やっぱり身に纏うオーラも関係するのかな?
なんていうか………王女オーラってやつ?
俺は手を振りながら言う。
「迎えに来たって言うか、暇なんだろ?」
「あら、バレた?」
「まぁ、おまえは家に引きこもるタイプじゃないしな。何と言っても城脱走娘だし」
「なんのことかしら~?」
あっ、こいつ、目反らしやがった。
昔は王室の勉強が嫌で城から脱走していたらしいんだよね。
多分、ヴァルキュリアあたりにお説教されたとは思うけど。
そんなこいつが家にずっといるってのは退屈でしょうがないだろう。
俺はアリスのおでこを指で突いて微笑む。
「そんじゃ、迎えに来てもらったお礼にたい焼きでも食べに行くか? 夕飯には少し時間があるだろ?」
「やった♪ イッセーの奢りー♪」
奢りって………最初から選択肢はそれしかないじゃん。
アリスはこの世界の、日本のお金持ってないし。
いや、父さんからお小遣いは貰ってるのか?
それでも、持ち歩いたりはしていないだろう。
元王女だけあって普段、お金を持ち歩くことないし。
流石に旅の時は持ってたけど。
アリスはご機嫌な様子で、鼻歌を歌いながら俺と腕を組んでくる。
………こうなると、怖い視線が飛んでくるわけでして。
「イッセー………」
「イッセーくん………」
リアスと朱乃が切なそうな目で見て来るよ!
そんな目で見ないで!
すっごく申し訳ない気持ちになるから!
「イッセーさんはやっぱりアリスさんが良いんですね………うぅ………」
「気にするな、アーシア。美羽とアリスに関しては別格なんだ。悔しいが、時には諦め………いや、戦略的撤退というのも重要だ。なに、こういう時は夜襲を仕掛けるのさ」
「流石はゼノヴィア! 策士だわ!」
うおおおおおおい!
泣かないでくれアーシアちゃん!
ゼノヴィアは夜襲とか恐ろしいキーワードを言わないでくれよ!
またお仕置きしちゃうぞ!?
イリナも盛り上げるない!
「たい焼き………」
「うん、たい焼きね………」
「私、食べたことがないので興味がありますわ」
小猫ちゃん、レイナ、レイヴェルはたい焼きという言葉に反応しているな。
小猫ちゃんとレイナに関してはもうたい焼きの口になっているに違いない。
ゴクリってしてるしな!
木場とギャスパーは後ろの方で苦笑してる。
「それじゃあ、今から皆でたい焼き食べに行こうよ。それなら、ね?」
そう言ってウインクを送ってくる美羽。
まぁ、俺もそのつもりだったんだけど………。
俺は振り返って、指を天に向けた。
「たい焼き食べに行きたい奴、この指とーまれ!」
「「「はーい!」」」
▽
「うふふ、やっぱりたい焼きは粒あんよね」
リアスがたい焼きにかぶりつきながら言った。
「あのお店はカスタードも美味しいです」
「あと抹茶もいけるわ」
食通の小猫ちゃんとレイナによれば、俺達が訪れた屋台はカスタードと抹茶がおススメらしい。
俺はカスタードにしたんだが、確かに美味い。
外の皮はカリカリしてて内側はもふもふのスポンジ。
そこに口当たり滑らかなカスタードの風味が合わさっている!
流石は小猫ちゃん!
この手のものは小猫ちゃんに頼るのが一番!
ハズレがないもんな!
すると、朱乃が寄り添ってきて、
「イッセーくん、チョコレートも食べてみます? 美味しいですわよ」
「そうなの? それじゃあ、少しだけ」
「うふふ、あーん」
「あーん」
俺は朱乃のたい焼きをひとかじり。
うん、チョコレートも美味しいな。
美味そうに食べる俺を見て、朱乃が微笑む。
「カスタードも食べてみたいですわ。あーんってしてくれる?」
うおっ、朱乃の上目使いでのおねだり!
大和撫子お姉さまとのギャップが凄まじい!
俺も朱乃の口元に自身のたい焼きを運び、
「あ、あーん」
「あーん」
パクッ
もぐもぐして、そのまま飲みこむ。
「やっぱり、イッセーくんに食べさせてもらうのが一番美味しいですわ♪」
朱乃は幸せそうな笑顔を浮かべた。
ここにリアスが迫ってくる!
「朱乃だけずるいわ! 私もあーんする!」
「はうっ! わ、私も負けません! イッセーさん! 私のも食べてください!」
アーシアも参加しちゃったぜ!
いやー、いいよね、こういうのって。
癒されるし、幸せな気持ちになれる。
こういうほのぼのした時間がいつまでも続いてほしいよ。
目の前の微笑ましい光景に俺が一人うんうんと頷いている時だった―――――。
妙な空気が俺達の中に流れこんできた。
この感覚………なんだ………?
感じたことのない不気味な感覚だ。
ぬるりとした生暖かい風が体にまとわりついてくる。
近いものがあるとすれば、英雄派のゲオルクが俺達を疑似空間に転移させた時のあの感じ。
だけど、今感じたのはもっと不気味で………。
皆も今のを感じ取ったようで、一様に表情を厳しくさせている。
「今のはまさか………」
「ええ。アザゼルが言っていた侵入者のもの、と考えるのが妥当でしょうね。でも、なんなのこの感じは………」
俺の呟きにリアスがそう答えてくる。
感じたことのない力の波動。
十中八九、敵だろう。
そして、その気配は俺達の元へと近づいてくる!
速い!
かなりのスピードで接近してきやがる!
こいつはいったい―――――。
そして、
上空………俺達の真上に現れた二つの存在。
雷光と疾風を身に纏った二つの黒い影。
次第に姿が見えてきて―――――。
「なに………あれ………?」
美羽が目を見開きながら、そう漏らす。
俺達の前に現れたのは――――――化け物だった。
腕があり、足があり、胴があり、シルエットとしては人に近いのかもしれない。
しかし、それは魔獣のような存在と比べた時の話だ。
俺達の前にいるのは明らかに人ではなかった。
一体は全身がくすんだ青色で、両手は銃のような形状をしている。
胴の部位に厳つい顔があり、口には巨大な槍のようなものを咥えている。
こめかみからは白い翼を生やしていた。
もう一体は全身が赤色。
さっきのと同じく胸部に白い翼を生やした顔があって、手には鎌槍。
両足はギロチンのような形状をしていた。
人型に近いクリーチャー。
目の前にいる存在を一言でいうならそれだ。
二体の化け物は胴にある顔――――その大きな目で俺達を見渡すと重たい口を開いた。
《我が名は―――大天使ウリエル》
《我が名は―――大天使ラファエル》
低く重い声。
見た目と相まって声もかなり不気味だ。
しかし、俺達の意識は別のところに向けられていた。
こいつら、今、なんて言った?
ウリエル………?
ラファエル………?
そんなはずがない。
だってその名は―――――
硬直する俺達の中で一番最初に声を出したのはイリナだった。
「そんなはずないわ! あなた達が大天使ウリエルさまと大天使ラファエルさまだなんて! お二人は今も天界にいるはずよ! ………それに、姿が全然違うじゃない!」
天界の四大熾天使はミカエルさんを筆頭にガブリエルさん、ウリエルさん、ラファエルさん。
この四人が中心となって、聖書の神が亡くなってからの天界を纏めている。
俺もミカエルさん以外の四大熾天使の方達とは面識がある。
吸血鬼の一件の後、各勢力のトップ陣に異世界について話をしたが、その時に四大熾天使の方達とお話しした。
………目の前の化け物は自らをウリエル、ラファエルと名乗った。
だけど、それは誰が見ても違うと分かること。
力の波動がまったく違うし、イリナの言う通り姿形すら別物だ。
全く似せる気ないだろ、あれ。
しかし―――――イリナの発言にウリエル、ラファエルと名乗ったクリーチャー共は大きくて不気味な目を赤く輝かせ、こちらを睨んでくる。
《純正の悪魔だけではなく、混ざりモノもいるのか。なによりも……天使の混ざりモノがいる》
《穢れているな。元は人の子が天使になることなぞ。傲慢である》
「………っ!」
化け物二人の言葉にイリナは表情を険しくさせる。
イリナは転生天使だ。
人間から天使に転生した存在。
つまり、純粋な天使ではない。
だけど、イリナは転生天使として、ミカエルさんのエースとして誇りを持っている。
いつも元気に「信仰が~」とか「ミカエルさまが~」とか言って皆が苦笑いするくらいに信仰に熱心だ。
いつも元気で天真爛漫、誰とでも打ち解けられるイリナならこれからの天界を支えてくれる。
ミカエルさんはそう考えてイリナを自身のエースに選んだんじゃないかな?
―――――今のあいつらの言葉はイリナの誇りもミカエルさんの想いも踏みにじるものだ。
俺は一歩前に出る。
「おい………いきなり現れたと思えば随分、好き勝手言ってくれるな化け物共」
赤いオーラをたぎらせて、奴らに殺気の籠った鋭い視線をぶつける。
奴らの視線が俺に集まった。
《我らが化け物? 違うな、我らは神に仕えし天使なり》
《我らを侮辱するか、悪魔よ。許せぬな》
奴らのオーラが膨れ上がり、殺意が俺に向けられる。
………案外、挑発には乗りやすいタイプか。
いや、それでもこのオーラ………並みの相手じゃないな。
俺は隣に立つイリナの方に視線を向けると頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
「俺の幼馴染みは間違いなく天使だよ。たまに『自称』がつくけどな」
「自称じゃないもん! 天使だもん! イッセーくん酷いもん!」
涙目で抗議するイリナ。
まぁ、これは恒例だよね。
イリナって『自称』って言葉にすぐ反応するし。
俺はそんなイリナの肩を抱いて、上にいる超失礼なクリーチャー共に言ってやる。
「穢れてる? 傲慢? それはおまえらだろ、偽天使共。少なくとも、おまえらなんぞよりはイリナは遥かに天使してるさ」
リアスも前に出る。
「そうね。私達からすれば、あなた達は天使とは別物。悪魔よりも傲慢。ただの怪物よ」
俺達全員の強い視線が奴らに向けられる。
俺とリアスの言葉に奴らは怒りのオーラを纏い、すーっと地面に降りてくる。
明らかな殺意………ここでやる気かよ。
俺は美羽に視線を送り、人払いの結界を張ってもらう。
ついでに周囲へ被害がいかないように、強固な結界を展開してもらった。
ここが夕方の公園で、人がいなかったのが幸いだった。
それなりのスペースがあるし、結界を張っているから少しくらいドンパチしても問題ない。
ウリエルと名乗った偽天使が言う。
《我らが怪物だと? 先程から無礼な者達だ。言葉を間違えたようだな悪魔どもよ》
バチっと体から黄金の稲妻が迸り始める。
次第に黄金のオーラがウリエルを包み、その力に応じるように雷雲が上空に集まり始めた。
ウリエルに続き、ラファエルと名乗った偽天使は風を纏う。
そして、手に持った鎌槍を天に向けた。
《汝ら、我らが何と呼ばれているのか教えてやろうか?》
ラファエルは手に持つ鎌槍を振り回し、周囲に突風を巻き起こす!
まるで竜巻のようで………体が引き寄せられる!
少しでも力を抜けばあの竜巻に呑み込まれる!
俺達は足に踏ん張りを効かせて、何とか呑み込まれないように耐えながら戦闘体勢に突入。
俺は鎧を纏い、アリスは槍を取り出し、木場は聖魔剣を創造。
小猫ちゃんも猫又モードとなり、ゼノヴィアはデュランダルを構えた。
ギャスパーは体から闇のオーラを発生させて、強大な闇の獣と化す。
他のメンバーも陣形を取り、前衛と中衛、そして後衛の三段構えとなる。
俺達が陣形を取った瞬間、ラファエルが振り回していた鎌槍を地に突き刺して言った。
それはどこまでも深く、底冷えするような声音だった。
《殺戮の天使、大地のデーモンなり……!!》
奴らのオーラと殺気が膨れ上がった!
来ると判断した俺は鎧を禁手
あいつらの力が未知である以上、下手に仕掛けられないからな!
ここは臨機応変に対応できる天翼でいかせてもらう!
ドライグ、やるぞ!
『ああ。だが、気になるな。なぜ奴らが熾天使の名を語ったか。仮に本人だとしてもこの力の波動は天使のものではない。何がどうなっている………?』
知らん!
だけど、このまま放っておけるかよ!
こんな町中で仕掛けてくるような奴らだ!
下手すりゃ、一般の人間にも手を出すかもしれない!
リアスが紅いオーラを纏いながら叫ぶ。
「あれが何なのか分からないけれど、ここで止めるわよ!」
「「「はいっ!」」」
俺達は四大
▽
[三人称 side]
駒王町の一角。
そこに複数の男女がいた。
青年の一人が辺りを見渡しながら言う。
「さて、着いたのはいいんだが……また駒王町だな」
「いや、ここはあの二つとは違う新しい世界だ。とりあえず、この地点を座標コードαと名付ける」
銀色の髪が特徴的な青年がそう返し、周囲を確認する。
(違う世界とはいえ、俺達が知っている駒王町なら、こっちの世界にもイッセー達がいるはずだが………)
青年は女性の胸が大好きな友人の姿を浮かべながら、この世界について考える。
自分達の知っている友人とは別人。
それでも………いや、だからこそ気になってしまう。
スケベだが、誰よりも熱いあの友人はこちらの世界ではどんな人物なのか。
(いや、それよりもまずは任務だな。今はこの世界に逃亡したあいつらを探すのが先決か)
頭を横に振って、改めて引き受けた任務へと思考を戻す。
――――次の瞬間。
眩い雷が奔り、荒れ狂う風が巻き起こった。
決して遠くはない。
つまり、それは逃亡した者達が町中で力を使っていることを意味していて―――――。
「現れたか……!!」
「こんな町中で戦闘を仕掛けるだなんて………! とんでもない連中ね………」
青年達は互いに頷きあった後、現場へと急行した。
[三人称 side out ]
というわけで、今回の敵が登場しました!
次回、バトルです!