ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編   作:ヴァルナル

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3話 二人の兵藤一誠

俺は今、心身共に極限まで追い詰められている。

全裸の上、『兵藤一誠』であるということを隠すためにアーシアのパンツを被ることを強要され、愛する者達―――――リアス達から『変態』『変質者』『下着泥棒』と不名誉な称号と共に蔑んだ目で見られている。

しかも、向こうは俺が被っているアーシアのパンツを取り返すべく、切っ先をこちらに向けてきている。

 

これ程までに悲しいことはあるだろうか?

こんな下らないことで、過去の存在とはいえ、自分や仲間と戦わなければいけないのか?

 

寒い………寒いよ、ドライグ。

心も体も。

 

『十二月だからな』

 

うん、本当に寒い!

もう全身がガクガクしてるんですけど!

 

リアスが訊ねてくる。

 

「大人しく、アーシアのパンツを返すつもりはないのね?」

 

「俺は………このパンツを渡すわけにはいかないんだ!」

 

正体がバレるから!

本当は鎧を纏いたいところだけど、そんなことしたら場が余計に混乱する!

なんとしてでも、この場は乗り切るぞ!

 

俺が鉄板で股間を隠しながら構えると―――――それを合図に戦闘が始まった!

まず飛び込んでくるのは木場とゼノヴィアのダブル騎士!

得物は聖魔剣とエクス・デュランダル!

 

同時に振り下ろされた二人の剣を後ろに後退しながら避ける。

だが、二人は速度を上げて追撃、連続の剣撃で攻めてくる!

 

「のわっ! おまえら、俺を殺す気か!?」

 

避けながら俺が言うと木場が攻撃の手を止めずに返してくる。

 

「主の命令だからね。それに君は僕達の仲間から大切な下着を盗んでいる。それを見過ごすわけにはいかないね」

 

クソッ、相変わらずイケメンフェイスで最もなことを言いやがる!

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを横凪ぎに振るいながら叫んだ。

 

「アーシアのパンツを返せ、変質者! 生きて帰れると思うなよ。私の親友のパンツを盗んだんだ。このエクス・デュランダルの錆にしてやる!」

 

ぐっ………ゼノヴィアに変質者とこうもハッキリ言われるとは!

ちくしょう、また鬼畜モードを発動してやろうか!?

またエムを開花させてやろうか!?

 

俺は錬環勁気功を発動。

腕に硬気功を使用して、腕の表面を硬化させ―――――その腕でエクス・デュランダルの刀身を殴り付けた!

 

ゼノヴィアが目を見開く。

 

「なっ! デュランダルの刃を弾いた!?」

 

驚くゼノヴィアを横目に、俺は聖魔剣の連撃の合間を縫い木場の懐に入る。

そして、掌底を木場の鳩尾に叩き込んだ!

 

「カハッ………!」

 

後方に吹き飛ぶ木場は空中で回転して、着地する。

手加減したからダメージは少ないはずだが、俺の攻撃を受けて、木場は警戒の色を強めていた。

 

「今の動き………変質者とはいえ、ただ者じゃないということか」

 

「変質者変質者うるせぇよ!」

 

そんなに『変質者』って言葉を連呼しなくても良いだろ!?

俺を泣かせてそんなに嬉しいか!?

精神攻撃のつもりか!?

だったら、効果抜群だよ!

その言葉を投げ付けられる度に心が抉られていくんだよ!

 

「雷光よ!」

 

「氷の槍よ!」

 

朱乃の雷光とロセの氷の魔法!

どっちもくらえば大ダメージだ!

特にあの氷の魔法は今の俺には辛いものがある!

全裸だから!

 

「ちぃ!」

 

俺は右手を突き出して同等の威力を持つ気弾を数発撃ち込んだ。

俺の気弾と二人の攻撃が衝突し、薄暗い倉庫の中で爆発を起こした。

 

なんとか、倉庫を破壊せずに相殺できた………と思った瞬間。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

雄叫びを上げた俺が突っ込んできた!

背中のブースターからオーラを噴出させ、加速の勢いをプラスした拳を放ってくる!

俺は錬環勁気功で身体能力を強化して向こうの俺の拳を受け止めた。

 

「おいおいおい! こんな場所で滅多に鎧を纏うなよ! そんなの俺………おまえが使ったら、辺りが吹っ飛ぶだろうが!」

 

「パワー馬鹿って言われててもな、それくらいのセーブは出来るっての!」

 

………パワー馬鹿?

俺、そんなこと言われたっけ?

魔力量が少なすぎる以外はパワー、テクニック、サポート全てをこなせるオールラウンダーとか言われてたけど………。

 

それに拳を受け止めて分かったんだけど………この俺、錬環勁気功を使っていない。

こいつは純粋に赤龍帝の力で高めた一撃だ。

おかしい、俺が町中で戦うなら禁手は使わずに錬環勁気功による格闘戦に持ち込むはずだが………。

向こうの俺が拳と蹴りを組み合わせて攻撃を仕掛けてくる。

どれも真っ直ぐな攻撃だ。

パワーもスピードもあるが………少々、動きが単純だな。

 

なんだ、この違和感は………?

 

「クソッ! なんで、当たらねぇんだ!?」

 

「そりゃ、攻撃が読みやすいからだろ。おまえ、本気出してるのか? あ、いや、挑発とかそんなんじゃなくて………」

 

俺は向こうの俺の拳を流して、腹に蹴りを入れて吹き飛ばす!

まともに受けた奴は勢いよく吹っ飛び、倉庫の壁に衝突してしまった!

 

リアスが厳しい顔で言う。

 

「祐斗とゼノヴィア、そしてイッセーをこうも軽々と制するなんて………。仕方ないわね、ロスヴァイセ、朱乃。ここを覆っている結界の強化を。イッセー! トリアイナを使いなさい!」

 

「ッ! 分かりました!」

 

リアスの命令を受けた向こうの俺は立ち上がると、オーラを高めていった。

こちらを睨み、ぐぐっと腰を沈めると―――――。

 

「いくぜ、ドライグ! モードチェンジ! 『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』!」

 

その瞬間、向こうの俺の鎧が変化する。

鎧の各所がパージされ、胴体から、腕から、足から、頭部から鎧が外れていく!

 

見たこともない変化に俺は目を見開いた。

 

「な、なんだそりゃ………!?」

 

驚く俺を無視して鎧を変化させた俺が突っ込んでくる!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!BoostBoostBoost!!』

 

倍加の音声が鳴り響き、奴のスピードが急激にアップした!

 

「速いッ!」

 

避けきれないと判断した俺は真正面から受け止めるが―――――。

 

 

ドンッ!

 

 

凄まじい衝撃が全身に走る!

内蔵にまで伝わった一撃により、俺は軽く吐血した。

 

向こうの俺は強い声で言ってくる。

 

「やっと捕まえたぜ。おまえはこいつで―――――」

 

奴のオーラが再び盛り上がる。

赤いオーラが激しく動き、

 

「モードチェンジ! 『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』ッ!」

 

その瞬間、奴の鎧がまたまた変化。

パージされた分の鎧が元に戻り、両腕に大質量のドラゴンのオーラが集結していく。

そして、通常の籠手の倍―――――いや、五、六倍はあろうかという極太の腕になった!

 

さっきの鎧はスピード重視の変化だった。

つまり、今回の鎧は―――――。

 

分厚く、大きくなった左腕が構えられる。

 

「アーシアのパンツを返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!BoostBoostBoost!!』

 

極大な左の拳が俺目掛けてぶっ放される!

その場から脱出できなかった俺はその拳を受けて――――――。

 

 

 

 

凄まじい轟音が鳴り響く。

倉庫の中は向こうの俺が放った一撃により生じた衝撃波で全てが吹き飛び、土煙が一帯を埋め尽くしていた。

 

「ゲホッゲホッ………痛ぇ………!」

 

瓦礫に埋もれた俺は咳き込みながら、全身に走る痛みに体を震わせていた。

 

俺の中のドライグが言ってくる。

 

『らしくない油断だったな、相棒』

 

そう言うなよ、ドライグ。

あんなもん見せられたら戸惑いもするだろ。

過去の自分が俺の知らない力を使ったんだぞ?

そりゃ、反応も遅れるだろ。

 

というかね、俺、全裸で戦ってるんですよ。

十二月の真夜中に全裸なんですよ。

片手で股間を隠しながらの戦いなんですよ。

この悪条件のな中、ここまでよく戦ったと思うんですけど。

 

『過去、か。俺はどうにもその考えがおかしいと思い始めている』

 

同感だ。

ここまでに感じた違和感といい、俺の知らない形態といい、過去というにはおかしな点ばかりだ。

俺はタイムマシンに乗ってここに来たことで、ここを過去だと思い込んでいた。

だけど、これって―――――。

 

『ああ。信じがたいが、そう考えると繋がるな。ここは過去ではない―――――平行世界だ』

 

平行世界。

聞いたことがあるな。

簡単に言えば、『IF』の世界。

例えば、俺が白龍皇だったり、悪魔に転生していなかったりする世界だ。

恐らく、ここは俺が俺とは違う進化を果たした世界なのだろう。

あの力………リアスはトリアイナと言っていたか。

 

となると、俺の正体を明かしても問題ないよな?

別に過去に干渉したりしないよな?

 

『多分な。こちらの世界には何らかの影響を残すことになるだろうが、少なくとも俺達がいた世界に影響を出すことはあるまい』

 

………なら話は決まりだ。

 

俺がヨロヨロと立ち上がると、リアスが言ってきた。

 

「イッセーの一撃を受けて、まだ立ち上がれるのね。だけど、もう勝敗はついたわ。大人しく投降しなさい。そうすれば命までは取らないわ」

 

「投降? 悪いが、それは断るよ」

 

「それは、死を選ぶと?」

 

「いいや。だけど、話し合いがしたい。君達が俺の話を信じてくれるなら、俺の無実が証明できるかもしれない」

 

「無実? でも、アーシアのパンツを被っている時点で現行犯だと思うのだけど?」

 

「それを言われるとな………だけど―――――」

 

俺は被っているアーシアのパンツに手をかけ―――――それを取った。

 

 

『なっ………!?』

 

 

俺の素顔を見たリアス達は驚愕の声を漏らした。

そして、そこにいる鎧を纏った俺と、全裸の俺を交互に見始める。

全員がパクパクと口を動かしており、なんと言葉を発すれば良いのか分からないでいるようだった。

 

この場で一番驚いているのはそこの俺だろう。

兜を収納したそこの俺はこちらを指差して、

 

「う、嘘だろ………? お、俺が………?」

 

常に冷静な木場でさえ、

 

「イ、イッセー君が二人………? これはどういうことなんだ?」

 

小猫ちゃんが言う。

 

「イッセー先輩………いつの間にここまで変態度合いが増したんですか?」

 

「小猫ちゃん!? いくら俺でも女の子のパンツを被ったりはしないよ!?」

 

「でも、女性の下着に欲情しますよね?」

 

「そ、それはそれ! これはこれだよ!」

 

なるほど、どうやらこちらの俺もスケベらしい。

そこは何となく安心できるな。

 

リアスが戸惑いを含んだ声で訊ねてくる。

 

「あ、あなた………イッセー? でも、イッセーはそこに………。まさか、イッセーの偽物?」

 

その言葉に俺は苦笑する。

 

「まぁ、そう考えるだろうとは思っていたよ。でも、俺は兵藤一誠だ。紛れもなくね」

 

「嘘よ! 現にイッセーはそこに―――――!?」

 

リアスは俺の左手に現れたものを見て言葉を詰まらせた。

俺の左手を覆う赤龍帝の籠手。

籠手の宝玉が点滅し、ドライグが全員に聞こえる声で言った。

 

『驚くのは無理もないだろう。だが、相棒の言うことは真実だ』

 

俺の籠手から聞こえる相棒の声にこちらの俺が声を発した。

 

「んな!? ドライグ!? なんで、そこに!?」

 

『馬鹿な………! だが、感じるこの力は正しく俺の………!』

 

向こうのドライグも相当驚いているようだな。

まぁ、目の前にもう一人の自分がいるとなれば驚くよね。

 

俺は小さく息を吐くと、言い聞かせるように言った。

 

「俺も色々混乱しているけど、言えることがある。俺はこの世界とは異なる世界―――――平行世界から来た兵藤一誠だ。だから、この場に赤龍帝の兵藤一誠が二人いる」

 

「平行世界の、イッセー………!?」

 

驚きながらも顎に手を当てて考え始めるリアス。

 

いきなり平行世界と言われて信じるかと言われると怪しいところだ。

しかし、こうして赤龍帝の籠手や、宿っているドライグの声を聞いている。

加えて、俺は敵対するつもりはなく、話し合いを申し出ている。

これらを踏まえてリアスはどう判断するか………。

 

暫しの間、思慮した後、リアスは顔を上げる。

 

「分かったわ。あなたの話を聞きましょう。でも、こちらもあなたを信用したわけじゃないわ。だから、最低限の拘束はさせてもらうけど、良いかしら?」

 

「構わないよ」

 

拘束付きではあるが、良い妥協点だろう。

リアスの言葉に他のメンバーも警戒はしつつも、武装を解除していく。

すると―――――。

 

「あ、あの………」

 

アーシアが恐る恐る手を挙げた。

その顔は真っ赤になっていて、どこに目をやれば良いのか分からないようで―――――。

 

そこで俺はハッとなった。

俺の手に握られていたはずの鉄板がなくなっている。

そう、俺の急所を隠していたあの鉄板が―――――。

 

「あ………」

 

『あ………』

 

皆の視線が俺の下半身へ集まっていった。

 

 

 

 

 

『そして、イッセーの股間のサテライトキャノンが起動。白濁のファイナルフラッシュを発射した』

 

起動してないし、発射もしてねぇよ!

駄女神、おまえ、ここのところそればっかだな!

 

 


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