ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 特別編 作:ヴァルナル
異世界帰り側の時系列はファニーエンジェル編の間となります。
状況のおさらいをしよう。
アザゼル先生が作ったタイムマシンに(無理矢理)乗せられた俺。
タイムマシンにより過去に戻ったかと思われたが、なんと俺は全裸になっていた。
しかも、何故かタイムマシンが発進する直前に持たされたアーシアちゃんのパンツだけは手に握られていてだな。
更に悪いことに、タイムトラベルによって生じた波動を感知したこの時代のリアス達が乗り込んできて………。
ヤバい、どうしよう。
本当にどうしよう。
かつてない程のピンチだ。
こうしていると、あの映画のあの曲が聞こえそうで―――――。
ダダンダンダダン………ダダンダンダダン…………チャララ~チャラ~
「あ、もしもし」
着メロ!?
今の着メロだったの、小猫ちゃん!
なぜにその曲!?
俺の状況とピッタリなんですけど、もしかして狙ってた!?
リアスが小猫ちゃんを注意する。
「小猫、今は任務中なのだから、切っておきなさい」
「すいません。先程まで依頼を受けている途中だったので。抜けてきたんです」
な、なるほど。
緊急の召集だったために依頼を途中で抜けてきたと。
ゴメンね、小猫ちゃん。
リアスは息を吐くと暗がり―――――こちらに向けて言ってくる。
「隠れても無駄よ。ここにいることは分かっているの。早く出てきた方が身のためよ」
俺はドラム缶の裏に身を潜めているので、向こうから俺の姿は見えていないが………。
無理だろ。
俺、全裸だよ?
フルティーンだよ?
出ていった瞬間に変態認定受けて、総攻撃くらうの目に見えてるじゃん。
過去の自分達から変態認定とか絶対に受けたくない。
ならば――――――。
「逃げようとしても無駄よ。この倉庫の周囲には結界を去り巡らせているもの」
ちくしょう!
なんて手際の良さ!
駒王町に潜入してきた英雄派の連中の気持ちが分かっちゃったよ!
なに結界なんて張り巡らしちゃってるのさ!
余計なことしやがって!
『言ってることが完全にテロリスト側だな』
うるせーよ、ドライグ!
おまえには分かるまい、フルティーンの自分が、過去の自分達に追い詰められてるこの辛さが!
もう泣きそうなんだよ!
身も心も震えてるんだよ!
というか、寒くないここ!?
『十二月だからな。あのタイムマシンで遡れる限界は一週間から二週間と言っていただろう?』
そういえば、そうでしたね………。
ってことは、あれですか。
十二月の冬真っ只中、極寒の中に俺は全裸で放り出された………と。
『………そうなるな』
フフフフフ、ハハハハハハ………あんの未婚オタク元総督ぅぅぅぅぅぅぅ!
手羽先にしてやるぅぅぅぅぅぅぅ!
マジでぶん殴ってやる!
ついでにレイナちゃんにあることないこと吹き込んでやるからな!
覚えてろよ!?
リアスが告げてくる。
「返事がないわね。なら、こちらから行くわ。祐斗」
「はい」
なんか、木場がこっちに来ようとしてる!
俺はドラム缶の裏に隠れながら叫んだ。
「やめてぇぇぇぇぇぇ! マジで勘弁して! ちょっと待ってくれても良いだろう!? それくらいの余裕は持ってくれてもいいじゃん! こっちもな、色々とヤバいんだよ! お願いします、三百円あげるから!」
「さ、三百円………?」
「というかな、今、こっちに来たらおまえ達も後悔するんだぞ! これは俺のためであり、おまえ達のためでもあるんだからな!」
確かにお互いの裸は見慣れているのかもしれない。
でもだ、こんな状況で全裸で飛び出すのは精神的にきつい。
もう消えてしまいたくなるだろう。
向こうには俺の可愛い妹やお嫁さんがいる。
そんな彼女達に俺のこんな姿は見せられない。
そう、とても大切な彼女達には―――――。
「………ん? なんか、数がおかしくないか?」
俺は並んでいるドラム缶の隙間から向こうの様子を伺ってみる。
するとだ、リアス、朱乃、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、木場、ギャスパー、ロセ、そして俺はいる。
しかし、美羽やアリス、レイヴェルの姿が見当たらない。
この時代が俺のいた時間軸から最大二週間遡っていたとしても、その時には俺は上級悪魔に昇格しているはずだ。
そのため、俺の傍らには眷属である美羽とアリス、レイヴェルもいるはずで………。
あともう一つ、不自然な点に気づいた。
それはそこにいる過去の俺について。
………俺の身長、少し低くないか?
リアスと並んだ時の身長差が明らかに小さい。
どういうことだ?
そんな疑問を持っていると、向こうにいる俺が言ってくる。
「おい、早く出てこいよ! 出てこないのなら―――――」
そう言って、向こうの俺は禁手となって鎧を纏いやがった!
しかも、手元にオーラを溜めて、こっちに向けてきやがる!
リアスが静かに言う。
「十秒だけ待ってあげるわ。それまでに出てこないのなら撃つわよ」
せっかちだな、おい!
ま、まぁ、俺が同じ立場なら、似たようなことはするかもしれないけど。
状況的にはテロリストと見られても仕方ないしなぁ………。
『そうねぇ。イッセーはテロリストじゃなくて、エロリストだもの』
え………イグニス?
おまえ、いたの?
『だって、私もイッセーの中にいるじゃない。そこはドライグと同じよ』
そういや、そうだな。
ドライグがいるなら、イグニスもいて当然か。
「八………七………六………」
おぃぃぃぃぃぃぃ!
カウントダウン始まってるよ!
カウント刻まれちゃってるよ!
リアスさん容赦ねぇ!
ど、どうする!?
ここは素直に出ていくか!?
流石に攻撃して無理矢理脱出するのはできん!
『だが、正体を明かすのはまずいのではないか? ここで相棒が出ていけば、この時代で二人の兵藤一誠が顔を合わせることになる。そうなれば、過去にどんな影響を与えるか分からんぞ』
ドライグの言う通りだ。
ここで飛び出しても、二人の兵藤一誠がいるということで向こうもパニックになりかねない。
下手すりゃ、俺の偽物とか思われて、余計に敵意を刺激しかねない。
『四………三………二………』
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
時間が………!
焦る俺にイグニスが言う。
『ねぇ、イッセー。良い方法かあるのだけど』
マジか!
早く言ってくれ!
向こうももう完全に攻撃態勢入ってるから!
『うふふ♪ 大丈夫、簡単なことよ。あなたの持っているものを―――――』
………あ、死んだな。
▽
「時間ね。撃ちなさいイッセー。この倉庫が壊れない程度にね」
「分かりました! ドラゴンショッ―――――」
向こうの俺が攻撃をしようとした直前。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
俺は隠れていたドラム缶の後ろから飛び出して、姿を見せた。
俺の姿を見たリアス達は、
『なっ!?』
と、目を見開き、驚愕の声を漏らしていた。
その内、アーシアだけは、
「キャッ!」
と、可愛い悲鳴をあげて、目を両手で隠していた。
リアスが目元をひくつかせながら言う。
「ど、どんな敵が潜んでいるかと思ったら………まさか変態だったなんてね。女性の下着を頭に被った全裸の変質者が出るなんて思わなかったわ」
………泣きたい、というか死にたい。
イグニスが提案した内容は―――――アーシアのパンツを被って皆の前に出ることだった。
幸い、ちょうど良いサイズの鉄板があったので、股間はそれで隠せているが………どっからどう見てもただの変質者だった。
木場が困った表情で言う。
「え、えっと………どうしましょうか、リアス部長」
どうもしないでほしい。
出来れば、ただの変質者として放っておいてほしい。
もう、俺のことなんて放っておいてくれ。
「でも、ここで高密度の力の波動を感知したのは間違いないことよ。ただの変質者だったとしても、彼は何らかの理由で関与しているはず。油断しないで。何かを隠し持っているかもしれないわ」
隠し持つスペースなんてないです。
というより、何も持ってないです。
全裸だもの。
フルティーンだもの。
あれですか、この股間に生えてる銃器を見せろと?
寒さのせいで縮こまってるんですけど。
消滅しそうな勢いなんですけど。
ゼノヴィアが頷いて言う。
「リアス部長の言う通りだ。あんな変質者だが、佇まいに隙がない」
隙だらけなんですけど。
今の俺、防御力ゼロなんですけど。
急所丸見えなんですけど。
おまえは何を見ているんだ、ゼノヴィア。
互いが様々な感情を抱きつつ、睨み合う中、小猫ちゃんがボソリと呟いた。
「あのパンツ………アーシア先輩の匂いがします」
『えっ!?』
「………え?」
俺が被っているパンツを凝視するリアス達。
そして、体を強ばらせる俺。
確かに、このパンツはアーシアのものだから、アーシアの匂いが残っていてもおかしくはない。
アーシアが涙目で否定する。
「そ、そんな! 私、ちゃんと履いてますよ!? あ、あと、そんなに匂うんですか!?」
はい、良い匂いがします。
ピンチに焦り過ぎて認識できていなかったけど、今嗅いでみると、アーシアちゃんのパンツからはお花の香りがします。
ファーブニル………俺はおまえの気持ちが理解できたような気がするよ。
これなら、くんかくんかもするよな………。
『相棒の精神が死にかけてるな』
ああ、ドライグ。
もうどうでも良くなってきたよ。
どうせ、俺は変質者さ………フッ。
ロセが言う。
「アーシアさんの香りが残る下着を持っている………ということはアーシアさんの下着を盗んだということでしょうか?」
「そういうことになりますわね」
「なんてこと! 女性の敵ね! 絶対に許さないんだから!」
朱乃、イリナがそう続いていく。
変質者の次は下着泥棒の烙印まで押されたらしい。
消えてしまいたい………。
この世に一片の痕跡を残さずに消えてしまいたい。
リアスが全身から滅びの魔力を滲ませる。
「これはもう滅するのは確定ね。私の可愛いアーシアの下着を盗むなんて、万死に値するわ」
向こうの俺がオーラをたぎらせた。
その声音には明らかに怒気が含まれていて、
「おまえは絶対に許さねぇ………! アーシアのパンツを返せ!」
「すまん、無理だ!」
「そこだけ即答かよ!」
だって、これ渡したら俺の正体バレるじゃん。
というか、このパンツ、正確には俺がいた時代のアーシアのパンツだからね?
グレモリー眷属全員の怒りと殺意が俺へと向けられる。
全てはそう、アーシアのパンツを取り返すため。
彼女達はそれぞれの武器を構えた。
『そして、イッセーは股間のハイパーメガランチャーを構えた』
構えてないよ!?
やめてよね、この駄女神!
もう寒さにやられて丸くなってるよ!
ハイパーもくそもないわ!
こうして、俺は目の前にいるグレモリー眷属達と一戦交えることになった。