櫻田家の八幡   作:璃羅

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いや本当に申し訳ない(挨拶)!

卒論とかのゴタゴタは終わったのですがモチベが上がらんかったとです。
久しぶりなので文がおかしいところがあると思います。
クリスマス回で割とシリアスです。



『誠実』『清楚』そして—

 

世の中では、イルミネーションが光ることで街をきらびやかに照らしている。外も寒くなり、嫌なものも大量にみることになるため、家から出るのも億劫になるこの季節。そう、クリスマスである。嫌なものは、言わなくても分かるだろ?

 

テレビではパジャマを着替えて出かけたり、とある店のキッズであったりとこの時期によく流れるCMが流れている。果てには、年末に関するものもあったりするのだ。年末とかドタバタとかいうレベルではないだろう。日本人はちょっと生き急ぎでは?と思う今日この頃なのだった。

 

「ちょっと!八兄!テレビ見てないで手伝ってよ!」

 

この櫻田家でも、ドタバタが繰り広げられている。師走とはよく言ったものだな、と日本古来の月の名前を考えた人には脱帽する。

世の学生は冬休みであるにもかかわらず、何故うちはこんなに忙しくしているのだろう。コタツで丸くなりたいよ…。

 

「ほら、早く準備しないとまにあわなくなっちゃうよ⁉︎」

 

「わかったよ…」

 

この櫻田家では12月24日のイベントはクリスマスイブだけではない。長女である葵姉さんの誕生日でもあるのだ。そのために、兄妹総出でクリスマスパーティー&葵姉さんの誕生パーリー(巻き舌)の準備が急ピッチで行われている。誕生パーリーの方がメインではあるが。それにしても…

 

「なんで、当日に準備してるんだろうな…。冬休みとか始まってるんだからその頃からクリスマスツリーとから準備しとけばよかったんじゃ…」

 

「兄さん、それ以上はいけない。まあ、サプライズ感を出したいんじゃないかな?」

 

独り言を呟くと、それを耳聡く遥が拾ってきた。遥はチラッと茜と岬が折り紙で輪っかを作っている方を見る。

 

「あの2人はまだ葵姉さんを騙せてると思ってんの?」

 

「そうじゃないと、わざわざ当日に大急ぎで準備する必要はないしね…」

 

まじか…。栞と輝と光ならまだしも、君らもか…。純真すぎやしませんか?あ、俺が純真とはほど遠い存在なだけですかそうですか…。

 

そう、茜たちはこの葵姉さん誕生日パーティーがサプライズで毎年成功していると思っている。葵姉さんはとっくの昔に気付いているにもかかわらず、だ。姉さんは大人の対応をしており、演技がド下手な茜や岬などにも優しく対応している。そろそろ、優しい目で見られてるってわかろうよ…。人手不足なんですよ?

 

葵姉さんの指摘しないという優しさのおかげ(せいともいう)でイベント当日という会社員も真っ青な仕事をさせられているのだ。今だけは姉さんの優しさが辛い…。

 

ん、なんか茜と岬がコソコソと話してるな。

 

「いい?岬?最低でも16時まで葵お姉ちゃんを連れ回してね?あとついでに八幡も連れてっちゃって」

 

聞こえてるんですけど。

 

「任せて!」

 

「お姉ちゃんのプレゼントも忘れちゃダメだよ?」

 

「それと…」

 

「ん?なに?」

 

「分身ちゃん三人ほど置いてって」

 

「人手が足りないんだね!」

 

人手が足りないなら俺とか行く必要なくね?こんな寒い日に外は出たくないんだがな。

 

「あ!そういえばプレゼント交換用のクリスマスプレゼント買うの忘れてた!」

 

茜との作戦会議を終えた岬が突然そんなことを言い始めた。どことなく棒読み感があるその言葉はわざわざ考えたんだろうなぁ、と努力の方向性に涙が出ちゃうわ…。

 

「どうしたの?」

 

それに乗ってあげる葵姉さんはマジ女神。砂糖とスパイスそれと、素敵な何かで出来てるだけあるよな。う、亜麻色の髪したあざとい何かを思い出しそうだ…!

 

「えーと、デパートで買うものがあったの忘れてたの!」

 

チラチラ姉さんの方見るのはやめたほうがいいだろ…。

 

「なら、一緒に私も行こうか?」

 

「いいの⁉︎ありがとう葵姉!」

 

なんて絶望的な演技力だろう!遥もそう思ってるのかげんなりした顔になってる。

 

「それと、八兄も一緒に来て?」

 

「え、やだ」

 

「即答⁉︎いいんじゃん!じゃあ、このあいだのなんでも聞くって権利使うからね!」

 

あー、そんなこと言ったような気もするな。いつだったかは覚えてないけど。

 

「そんなわけで八兄もいくよ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「やっぱり人多いね〜」

 

「日が日だからね」

 

寒空の下なぜか俺も歩いている。今日は一段と冷えてるな。マフラーとかないだけでかなり辛い。現に岬とか寒さで震えてるしな。やはり、ファッションにいきると機能性がよろしくないな、うん。

 

「岬?私のマフラー貸そうか?」

 

「大丈夫だよ、葵姉!慣れてるし!」

 

「でも…」

 

「私の方が若いからね!寒さにも強いんだよ!」

 

「私とほとんど変わらないからね⁉︎」

 

と、言った会話をはさみながらもやって来ましたデパートです。やはりクリスマスイブなだけあってここに来るまでに大量にリア充という名の名状しがたき何かがいた。SAN値チェックどうぞ。名前言ってんじゃん…。

 

店内にも恋人がサンタクロースだったりとか、最後のクリスマスとかよく聞くような曲が延々と流れている。サンタクロースとか小学生の時にサンタの格好して部屋に入って来た父さんを見てしまった時点で幻想の彼方に飛んでったわ。中学に上がるまでは、悲しませちゃ悪いと思って喜んだフリしてたけどさ…。

 

…知らなくていいことは知るよな、俺。

 

「んー?どれがいいんだろう?葵姉、ちょっとこっちにきてくれる?」

 

岬は先ほどからコートを吟味している。店員さんも近づけさせないほどだ。

岬さんや、それは兄妹で贈る葵姉さんへのプレゼントだろ?サプライズにするんだったら本人の前で選んじゃダメだとお兄ちゃんは思うんだ…。

 

「プレゼント交換用のものを探してるんだよね?これだと栞とかが当たったら使えないんじゃ…」

 

「あ…。そうだったー!」

 

忘れてたんかーい!その後も岬はプレゼント交換用のものも見ながら姉さん用のプレゼントも探していたが、めぼしいものは見つからないようだ。

 

「あ、これとか寝る時に良さそうー」

 

ほら…気を利かせた葵姉さんがボルシチに似た抱き枕を手に持ってこれ見よがしに教えてくれたよ…。岬は岬でいいこと聞いた!と言わんばかりに笑みを浮かべてるし…。

 

「んじゃ、俺は他のところ見てくるわ」

 

「えー、何のために一緒に来たかわからないじゃん!」

 

少なくとも、本人が直接教えるプレゼントとかいかんだろ。

 

「俺は俺で買うものがあるんだよ。あとで合流するから」

 

「本当に?」

 

「おいおい、俺がそんなことで嘘ついたこととかあるか?」

 

「結構ある。ついでに、手のひらはよく返すよね。茜姉とかには」

 

よく分かってるじゃん。八幡検定三級ものだな。精進してくれ。

 

「わざわざ別に帰るなんてことは流石にしねぇよ。…虫がつかないようにしないといけないからな」

 

「…虫?冬に虫なんてあんまりいないけど…」

 

「こっちの話だ」

 

そう、虫はいつでも湧くからな。まとわりつく虫が…。それはさておき、俺も交換用のプレゼントを買わないまま帰るわけにもいかないので別行動することにする。

 

「買ったら一階で合流てことでいいか?葵姉さん」

 

「わかったわ。戻ってくる時にメールしてね」

 

「了解」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

さて、プレゼントだが何を買おう?いつも本ばっか買ってるしな…。奏、茜、光と岬からは『本はもういい』て言われたからな。他のもの買おうとは思いつつも、何を買ったらいいのか。

 

めぼしいものがないか店内を徘徊する。徘徊って言っちゃったよ。通報されないように祈るばかりである。

 

「はあ…。ぜんっぜんわからん…」

 

その後も見て回ってみたもののピンと来る物はなく、2人と別れてからそろそろ10分くらい経とうとしていた。そろそろ、決めないとな。

 

どうしようかと店舗案内図を見るとどうやら今俺がいるところの上の階で、クリスマス特設展とやらがやっているらしい。これ幸いと見に行ってみることにした。

 

特設展が行われてる階では、ここでクリスマスプレゼントを買うのであろうカップルやらが多く存在しているようである。この中を1人で歩くのってなかなか辛いものがあるよな…。

 

「へい、そこのお兄さん!彼女のプレゼントにお悩みかい?」

 

チッ。誰だよ呼ばれてんぞ、そこのお兄さん。彼女がいるんなら幸せを分けてやれよ。気分悪くなったな。いや、どこ行っても結局不愉快になるんだけどね。虚しい…。

 

「そこのアホ毛生えたお兄さんだよ!」

 

ほーん。アホ毛生えた人とかいるんだ。ちょっとシンパシー感じちゃう。お友達になり…たくはないです。はい。

 

「君だよ!」

 

「ふぇあ!」

 

突如として肩に手を置かれたせいで変な声出ちゃったじゃん。振り向くとおっさんが笑いを堪えていた。

 

「…じゃ」

 

「ああ!ちょっと待って、笑ったのは悪かったよ。申し訳ない。彼女さんにプレゼントをお探しだろう?ちょっとうちの店見ていかないか?」

 

「…はあ。じゃあ、少しだけ」

 

「後悔はさせないよ!」

 

と、連れてこられたのはブースの一角。

どうやら、このおっさんは小物を売ってるようだ。顔にあわねぇ…。

 

「いま、顔と店があってないとか思ったろ?」

 

「いにゃ、そんなことないりぇすよ?」

 

「噛みすぎだろう…。ま、俺は手伝いみたいなもんだからな。安心しろ。俺の店ってわけじゃねぇよ」

 

へー。促されるがままに品物を見てみると、なんか花の形のプローチとかネックレスやらが置いてあり、お値段もリーズナブルな感じだった。

 

「で、なにをお探しだ?彼女にプレゼントならネックレスとかオススメだぞ」

 

「いや、そもそも彼女じゃないんで」

 

「じゃあ、嫁か!そんな歳でやることやってんだな!」

 

うわっ、このおっさんいい人っぽいけどウゼェ…。思考回路ぶっ飛びすぎだろ。ダレカタスケテェ!

 

「ちょっと、お客様に絡みすぎよ?迷惑がってるじゃない」

 

「おお、すまんすまん」

 

女性か助け舟を出してくれたおかげで俺はおっさんから解放された。礼はいっておこうとその人を見ると大体20代くらいだろうか。ロングの綺麗系な女性が微笑んでいた。

 

「ありがとうございます」

 

「いいえ、ごめんなさいね。彼、めんどくさかったでしょう?」

 

「おいおい、俺は買うものを困っている少年を連れて来ただけだぜ?」

 

「ちょっと黙っててくれる?」

 

「はい」

 

女性が凄みを出したことでおっさんは黙った。なんなの?女性は全員覇気がつかえるのかしら?

 

「この人が迷惑をかけたでしょう?お詫びということで、うちで買ってくれたら少しサービスするよ」

 

「いや、でも悪いですし」

 

「そんなこと気にしなくていいの。店主がしたいって言ってるんだから、受け取っておきなさい、ね?」

 

「…はい」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あなたは誰にプレゼントするのかしら」

 

悩んでいると先ほどの店主さんが声をかけてくる。なんか品物を物色中に話しかけられると嫌だよね。

 

「えっと、家族でのプレゼント交換みたいなものです」

 

「あら。楽しそうね。迷った時はとことん迷うといいわ。プレゼントって真剣に悩んで選んでもらった方が嬉しいしね」

 

そういうもんなのか。ぐるっと見回してみると1つの花の意匠がついたプローチが目につく。手にとると、なんか気に入った。

 

「あら、それは桔梗ね。花言葉は『誠実』『清楚』とかがあるわ。それにします?」

 

「じゃあ、これで」

 

「ありがとうございます。あの人が迷惑かけたサービスとして、ペンダントも付けておくわね」

 

「いやいや、それはサービスにしても過剰じゃないですか?」

 

リーズナブルではあるが少なくとも4桁の数字が見えるんですけど…。お店的に大丈夫なのか?

 

「いいのよ。いいもの見せてもらったオマケだから。お姉さんにプレゼントしてあげてね」

 

といいながら、押し付けられてしまった。いいものとか見せた記憶がないんだけど…?まあ、いいか。もらっておこう。

 

「ありがとうございます」

 

「またのお越しを〜♩」

 

買い物も済んだし、2人にメールして下に戻ろうかね。とりあえず、

《買い物終わったから一階に行く》、と。

なんか、さっきまでいたところが賑やかになってきたような気がするけど関係ないだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

side Aoi

 

まさか、こんなことになるなんて…。

岬と八くんと交換用のクリスマスプレゼント(ということになってる)を買いに来たことを少しだけ後悔しそうになる。これはため息をついても許されるだろう。

 

八くんと別れた私と岬だったが、そのすぐあとに岬も「ちょっと買い忘れがあったから行ってくるね!葵姉は見て回ってていいよ!」と止める間もなく走って行ってしまった。自意識過剰なわけではないけど、きっとあの子は私へのプレゼントを買いに行ってくれたのだろうな。兄妹たちの優しさにクスリと笑いが漏れる。あの2人が戻ってくるまでいろいろ見て回ろうと歩き始めた。

 

そして、一階についたときに事は起きたのだ——。

 

「おらぁぁぁぁ!全員動くんじゃねぇぞ!」

 

ため息ついても許されるよね…?

入ってきたのは8人ほどの覆面を被ったグループだった。体格からみて男性か。手にはどこで手に入れたのか銃器を持っている。皆がパニックになっているなか私は彼らから死角になる場所に隠れて、必死に冷静になるように努める。

 

まさか、こんな人通りが多い道に面したデパートに強盗に来るなんて、ハチくんの台詞ではないがアホなのだろうか?警察に通報されて、逃げ道がなくなるに決まっている。ということは、計画的なものではないのかもしれない。これでは、あまりにも杜撰な計画だ。

 

さて、私はどうしようか。

そう考える私の耳に聞き逃せない声が聞こえる。

 

「おい、上の階の奴らも見てこい。邪魔するようなら仕方ないがやれ」

 

ーーーそれは。その一言で私の覚悟は決まった。彼らを上の階に行かせてはならない。私の脳裏には、こういう時に正義感で行動する妹や自分を犠牲にしてまで他者を守ろうとする弟の姿がよぎる。優しいあの子達が無抵抗で済ますわけがない。

 

最悪な場面が頭をよぎる。それを振り払うように私は深呼吸をする。

 

私がこれからやることは、父と母以外の家族にも秘密なこと。この秘密は私が一生抱えて生きていく覚悟であり、罪だ。監視カメラの向きやタイプも確認した。ならば、あとは私が頑張るだけだ。

 

「待ってください!」

 

強盗のグループがこちらを向く。多数の男性から見られるというのは少し怖い。

 

「貴女は…。いや、運が悪かったですね。こんなところに出くわすなんて。葵様、何もしなければ人に危害は加えませんよ」

 

「我々は本気だ。怪我をしたくないなら『少し黙ってください』」

 

『全員武器を下ろしなさい』

 

銃を構えていた男性たちは、一人また一人とその凶器を床に投げ捨てていく。

 

『ここにいるあなた達以外に仲間は?』

 

「…いません」

 

その言葉に一安心する。これなら、あの子達も大丈夫ね。

 

『ならば、今日あったことやこの計画を忘れて帰りなさい。二度と犯罪を起こさないように』

 

「…はい」

 

覆面をつけた男達は、ぞろぞろと帰っていった。周りの客がざわついている。少し目立ち過ぎたかな?もう少し頑張ろう。

 

『皆さん聞いてください』

 

私の声によってざわついていた人たちは統率されたかのように一瞬で沈黙する。これが、私の本当の能力の『絶対命令』《アブソリュートオーダー》だ。私がいった言葉通りに人に影響を及ぼしてしまうという恐ろしい能力。お医者様は王としの素晴らしい能力っていってたっけ。

 

『今日は折角のクリスマスです。先ほどあったことは忘れて、皆さん買い物に戻りましょう』

 

私の言葉をきっかけとしてこの場にいた人全員が強盗グループがやって来る前に行っていた行動でへと戻っていく。ごめんなさい。

 

さて、これで大丈夫かな?あとは2人を待つとしましょう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

あのあと、何事もなかったかのように2人を出迎え、家に帰ってきた私は家族のみんなに誕生日を祝ってもらった。プレゼントはやっぱりというかなんというか、岬の前でいいな〜と言った(誘導した)ボルシチ似の抱き枕風のクッションが渡された。素直に育って欲しいものである。その後、クリスマスも祝うという強行軍を行い、皆も寝静まったであろう時間に私は部屋でまだ起きていた。

 

「ふふっ、みんな楽しそうだったな…」

 

かくいう私も楽しかったけれど。みんなは騒ぎ疲れて眠ったというほうがしっくりくる。そのくらい騒いだのだった。近所迷惑にならないように。プレゼントといえば…

 

「交換したクリスマスプレゼントまだ開けてなかったかな」

 

忙しくてすっかり忘れてしまっていた小さめの袋を取り出す。これは…なんだろうか?形的にブローチだろうか。少し楽しみだ。

 

「確か、八くんが持ってたっけ?」

 

うちのプレゼント交換はみんなで輪になり曲が鳴り止むまで回し続けるといったものだ。この小さめの袋は八くんが持ってたと思う。彼のものが当たるのは単純に嬉しい。本は茜達からは不評だったから今年は変えたのだろう。

さて、開けてみるとしよう。

 

「…綺麗」

 

ブローチで当たりだった。周りは蒼く、その中心には1つの花の意匠がされている。この花は、桔梗だっけ?調べてみよう。

 

「えーと、花言葉は『誠実』『清楚』『従順』そして…」

 

ー『永遠の愛』。その言葉を認識した途端顔が熱くなるのを感じる。いや、別に八くんはそんな花言葉を気にして買ったわけじゃないだろうけどそんな気障なことするような子ではないけれど!高鳴った鼓動がうるさい。えーい!落ち着け、私!

 

少し落ち着いた私の脳裏に、夏休み中にたまたま聞いてしまった話を思い出す。彼は、八くんは父さんの妹の子であるということ。それは私に衝撃を与えた。

 

ただ、私はその時、八くんの心配ではなく自分自身の心配をした。彼がうちに来たのは、わたしが2歳の時である。私の能力は完全学習ということになっている。でも、本当の能力は違う。そう。私は茜と八くんが双子であることを疑わなかった。当時、母さんのお腹には茜がいるということは聞いていたはずなのに。

 

私はこの話を聞いて安心してしまった。ああ、私の嘘はバレないんだ、と。あの時の話を聞かなければ、私は確実に嘘を暴かれていただろう。だけど。このことを知ったのならば、どうとでも知ったフリができる、と。私は彼の孤独をどうとも思わず、ただただ自分の保身を考えた。考えてしまった。私はなんて汚いのだろう。

 

 

こんな気持ちになるなら、こんなに身が張り裂けそうになるなら。

 

 

 

——私は知りたくなかった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

side H

 

「はあ…」

 

ベッドに横になり、夕方の出来事を思い出す。なんとなくの気分でエスカレーターではなく、階段で一階まで降り立った俺の耳には怒声が聞こえていた。

 

「おらぁぁぁぁ!全員動くんじゃねぇぞ!」

 

その言葉が聞こえた俺はとっさに一階と二階の間にある踊り場へと戻り、顔をそっとだす。気分はダンボールに入る兵士だ。

 

どうやら、彼らは強盗グループのようだ。側から見ると、逃走者の用意も出来ていないようだし、お粗末な感じはしたが。ただ、彼らが手に持つ黒光りするものは本物であることが察せた。見たことあるしな。王宮の人たちとか。

 

面倒くさいが、一階には葵姉さんもいることだし、能力使ってさっさと片付けるか。と、腰を上げようとした時に、

 

「待ってください!」

 

——頭が一瞬真っ白になった。今の声は、紛れもなく葵姉さんである。なぜ、なぜ、なぜ、そんなふうに頭の中がループする。彼女では、どうにもできない筈だ。

 

そんな思考の渦に囚われた俺の頭に澄んだ声が届く。

 

『少し黙ってください』

 

途端に先ほどまで何か話していたであろう。男が喋らなくなる。今のは一体…?俺は男に対して能力を使う。

 

(なんで急に話せねぇ!どうなってやがる!)

 

本当にどうなっている?ただ、これだけは言えるだろう。葵姉さんが何らかの能力を使用していると。考えられるのは言霊などによる肉体支配などだろうか。

 

思考をフル回転させている間にもどんどんと場面は進んでいく。どうやら締めに入るようだ。

 

『今日は折角のクリスマスです。先ほどあったことは忘れて、皆さん買い物に戻りましょう』

 

その言葉を聞いた瞬間不味い!と思ったものの俺は今目の前で起きたことを覚えていた。なにか能力の対象者に条件があるのだろうか?謎は深まるばかりである。ただ、人を言霊で操れるというのが能力であると仮定していいだろう。

 

…確かに、この能力は黙っていたくなるな。人を意思に関係なく操れる可能性があるのだから。

 

「はあ…」

 

再びため息をつく。あのあと、合流してから顔に出さないようにするのも大変だった。もう疲れたわ…。葵姉さんの本当の能力については、追求はなしの方向性でいいだろう。黙っておきたいならば本人の意思を尊重させるべきだ。

 

 

ただ、俺の生まれのことしかり、今回の件についてもだが。

 

 

 

——どうして、知りたくないことばかり知るのだろう。

 





すまない…。せめて1ヶ月に1回は投稿するとか言って2ヶ月以上ってて本当にすまない…

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